黒い太陽に憧れて!   作:ポンノ

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週一投稿を理想としつつ、基本は不定期に動く……予定
チョコレート食べたい


19話 違うアレクシアじゃない

 

 もうすぐ夏が来る。

 夏は太陽の南中高度が異様に高く、ほぼ真上から強い太陽光が降り注ぐようになる。

 それに加え、昼の時間がとても長い。つまり四季のなかで一番太陽が出てるわけだ。

 この季節が一番『キングストーン』を活発に動かせるわけだ。

 

 まぁ、だからと言って夏が好きかと言われればそんなわけないし、暑いから嫌いだ。

 『キングストーン』が活発になったとて、強すぎるとそれを感じ取った怪人達がわんさか出てきて厄介事が増えるだけだ。

 強いて好きな点を挙げるとしたら、ヘソ天して熱を逃してるゼータが見れることだろうか。

 完全に猫で可愛い。

 久しぶりに見たい。

 

「……ちょっとクロノくん!聞いてるんですか!?」

 

 会話、さらには食事の途中だったにも関わらず考え事に耽っていた俺を、ジャガの言葉が意識を飯……ではなく会話に戻す。

 

「あぁすまん。そうだな、犬も猫も捨てがたいよな」

「そんな話してませんよ!」

「放課後、『ミツゴシ商会』に行ってチョコ買うぞって話だ!折角奥手なお前に女の落とし方を実践してやろうと思ったのによ」

 

 こんな話ならまだ犬猫の話をしてたほうが意味があるだろなんて思いつつ、アレクシアから何故か施された超金持ち貴族コースの日替わり定食に箸を伸ばす。

 童貞が一丁前に女の落とし方を説こうってのか。

 これだから童貞は。

 

「それで、その落とし方ってのはどんなんだよ」

「プレゼントすんだよプレゼント。ミツゴシで買った甘いチョコってのを渡してやりゃ、女なんてイチコロだろ」

「さすがヒョロ君です、勉強になりますねぇ!」

 

 流石シドが選び抜いたモブ、女を舐めすぎている。

 これだから童貞は。

 

「いいな!クロノ、シド!」

「あいよー」

 

 モブ友の会話の中ですらモブになっていたシドの返答に軽く頷き、再度食事を開始した。

 

 それにしてもチョコか……よくアレで完成したものだな。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「うわぁ、すごいですねぇ」

 

 放課後、夕暮れ時。

 王都メインストリートにそびえ立った豪華なモダンチック建造物。

 周囲の店と比べても群を抜いて人が多い。なんなら、行列の大半が貴族かその関係者で構成されている。

 繁盛しているようでなによりだ。

 

「80分待ちだってさ」

 

 列の最後尾、店員さんが持ったプラカードを見つつシドが言う。

 前世で行ったことはないが、たぶん千葉の東京ネズミーランドもこんな感じなのだろう。その列が百貨店で出来上がるとは……繁盛しているようでなによりだ、ほんと。

 

「ど、どうします?寮の門限には何とか間に合いそうですけど……最近、夜になると人斬りが出るって噂ですよ?」

「バーカ、ジャガバーカ。こっちには魔剣士が4人もいるんだぞ?返り討ちにしてやるよ」

 

 ザ・モブが人斬りに斬られる前のセリフに聞こえるが、実際この二人はそこら辺の人間よりも強い。

 人斬りがどれほどの力を持ってるかは知らんが、腐っても魔剣士なのだから、襲われても一矢報いるくらいなら出来るだろう。

 

「しかし人斬りか……」

「怖いねー」

 

 心にもないことを。

 どうせ内心「人斬りイベントなんて楽しそう!僕もやりたい!」とか考えてんだろ。

 

「最近騎士団にも犠牲者が出たらしいですからね……」

「ま、さっさと並んでさっさと買ってさっさと帰りゃ大丈夫だろ。早く並ぼうぜ」

 

 ヒョロに促されるまま、行列の最後尾に並ぶ。

 あの騎士団様が被害に遭っている以上、二人ではどうにもならないだろう。南無阿弥陀仏。

 

「お客様」

 

 突然、プラカードを持っていたダークブラウンの髪にダークブラウンの瞳をした、上品な大人の女性を体現したかのような店員さんが俺達に話しかける。

 大人びた見た目からは想像できない、可愛らしい声だ。

 

「失礼ですが、少しお時間をいただけますか?よろしければ、アンケートにご協力を」

「僕が?」

「はい。ぜひご協力くださいませ」

 

 ま、九分九厘シャドウ様関連の話だろうな。

 

「ぉ、お、俺も協力します!」

「じ、自分もです!」

「じゃあ俺も」

 

 必死にアピールする2人に準じて俺も、とりあえず協力の意思を見せる。

 シャドウ様関連の話なら、一応No.2の俺も呼ばれるはずだし。

 

「でしたら……」

「ん」

「んなっ!?」

「はぁっ!?」

「おお」

 

 店員さんは迷う事なく俺の方に歩いてくると、腕を組んでくる。

 ジャガとヒョロの顔がとんでもないことになっているのは置いておくとして、随分大胆なことをするものだ。

 

「こちらの方にもご協力していただきます。お二人は……お気持ちだけ、受け取っておきます」

 

 腕組の状態はそのままで、長い列の脇を通り抜けて店内へと歩みを進める店員さんと、それについてくる形のシド。

 このままで行くんだ。

 命とか危なくない?

 君構成員でしょ?

 上の……それこそここの代表さんとかに見られたらさらにその上に連絡行くんじゃない?

 

「クロノくん……」

「許さねぇぞクロノ……」

 

 間違いなく怨みが募っている声に振り返ると、二人の頬を伝う血涙が見えた気がした。

 許せモブ友。

 こんな美しい人が組んできた腕を解けるほど俺は強くないのだ。

 

「やっぱり人を引き寄せるフェロモンとか出てんじゃない?クロノって」

「うっせ死ね」

 

 細部までこだわりを感じる豪華な店内をグングンと進みつつ、シドの言葉に殺意で返しながら奥へ、奥へと進んでいく。

 従業員用の扉に辿り着くまで、いろんな商品をざっと見てみたが、端的に言えばヤバい。

 話題のチョコレートは勿論、コーヒーや石鹸、化粧品などなど、この世界では初めて見るものばっかりが、『陰の叡智』として教えたものたちが大量に並んでいる。

 チョコレート……『苦い豆に砂糖ぶち込んで固めたらうまいもんできるぜ』とだけしか教えてないのに再現できるとは……さすがの頭脳だ。

 更には衣類やアクセサリーなども、デザインが洗礼されていて美しい。

 全体的に黒い服が多いような気がするが……まぁ気の所為だろう。

 

「そりゃ繁盛するわな……」

「クロノー、僕たち何処に向かってるのかな」

「上でアンケートやってんだろ。いいからついてこい」

「はーい」

 

 明らかに客が通る用のものではない階段に、ようやく違和感が芽生えた鈍感野郎。

 説明するのも面倒なので、アンケートがある体でそのままついてくるように言い、最上階に到着する。

 

 屋上につき、屋上内の別の建物へと移動する。

 にしてもこの店員さんはどれだけくっついたままなのか。

 柔らかい純度百の双丘が触れているからありがたいにはありがたいが後が怖い。

 

 目的の建物に到着した俺たちの目の前にそびえ立つは、巨大な扉。荘厳な雰囲気が漂っている。

 ようやく組んでいた腕を解き、俺達の後ろに陣取ると同時に扉が開く。

 中に広がるは、神殿と見紛うホールと、左右それぞれに例の姿勢で待ち構えていた店員……否、『シャドウガーデン』構成員達。

 何より目にはいるのは、いかにもシドが好きそうな玉座と、その隣で佇むモデル体型をした藍色の髪、麗しいエルフ。妖艶な黒いドレスに身を通しているため、麗しさに磨きがかかっている。

 

「ご来店を、永らくお待ちしておりました。主様、ブラック様」

「ガンマか」

「久しぶりだな」

 

 深く頭を下げたあのエルフっ娘こそアルファ、ベータに続く3人目の『七影』、ガンマ。

 『シャドウガーデン』の頭脳と称しても差し支えないほどに賢く、このミツゴシ商会、『シャドウガーデン』のフロント企業の代表として暗躍している。

 

 本当に賢いし、アルファを超えるほど頭がいいのは2年前から変わっていないのだが、変わっていないのはそれだけでなく……

 

「ぴぎゃっ!ぶじゃっ!あぁっ!ぺじゅっ……」

 

 ……この運動神経のなさだ。

 なにせあのシャドウ様が剣術指南に匙を投げるレベルである。

 『いくら頭がよかろうと、センスが無い奴に何を言っても無駄』なんてシドは言っていたが、まさか全く変わっていないとは思わなんだ。

 モデル歩きよろしく、カツ、カツ、カツ、と格好つけながらハイヒールを鳴らし歩んできていたが、高いヒールが彼女にとって問題ないなんてことはなく、4歩目を至ることなく階段から落下。痛々しく顔面から着地してしまった。

 

 可哀想だが『最弱』の二つ名はまだまだ健在だな。

 

「……ひ、ヒールが高かったわね」

「鼻血出てるよ」

「仕方ねぇなほんと……」

 

 プシやゼータのように俺達よりも年上だというのに、こういう部分はとことん情けない。

 湧いてしまうだろ、「庇護欲」が。

 周りの構成員達が動くよりも先にガンマの鼻血をハンカチで拭う。

 

「ヒールは慣れないならやめとけ。整った顔が台無しになるぞ」

「は、ひゃい……申し訳ありません」

 

 すぐ鼻血は出すのだが、顔には傷一つ付いていない。妙に赤くなっているが……鼻血のせいだろう。

 どれだけ『最弱』であろうと、腐っても『七影』か……だとしても気を付けてもらいたいが。

 

「んっんっ!ど、どうぞこちらへ」

 

 未だ顔が赤いガンマに心配しつつも、そんな事お構いなしに玉座にずんずん進むシドに続いてそちらに向かう。

 シャドウ様してる時のクールな顔のように見えて目の奥がキラキラしていたシドは、玉座にたどり着くと左手で頬杖を付き、足を組んで堂々と座る。

 俺の席は無い為、取り敢えず近くでそれっぽく立ってやる。

 

「褒美だ、受け取れ」

 

 満足した礼とでも言うのか、掲げた右手に魔力を集めて上に放つ。

 放たれた魔力は上空で分散、光は雨のようにして振り注ぐ。

 どうやらこの光の雨、疲労回復や魔力巡りの良好化、軽症を完治させるなど、微妙にありがたい効能があるようだった。

 あがる小さな歓声、感嘆。

 

「俺からも、ささやかな褒美だ」

 

 ここで何もしないと後々シドに文句言われそうで嫌だから、魔力と『キングストーン』のエネルギー比率8:2程度の光を振りまく。  

 雨上がりには心地のよい陽の光が必要だ。

 まぁシド以上の効能があるとアレだから、魔力量がちょっと上昇するくらいでそれ以上はないはずだ。

 再びあがる、感嘆。

 

「……思い出します。私達を絶望と苦痛から救い上げてくれた、美しい命の光。身に余る光栄です!今日という日を、生涯忘れません!」

 

 涙を浮かべ、感動で震えるガンマの声。

 たったこれだけでこんなに喜んで貰えるのだから、上に立つってのも案外楽なもんだ。

 

「それでこの店……結構稼いでる感じ?」

 

 その声で言うなよ。

 

「はい、現在国内外の主要都市に店舗を展開し、僻地には通販で影響力を拡大しております。活動資金も……10億ゼニー程なら即座に運用可能です」

「じゅっ!?……ちょ、ちょっと待てガンマ。来いブラック」

「んだよ」

 

 俺達の目の前に、台車に積まれた黄金の山が到来する。

 流石のシドもビビったのか、冷や汗をダラダラ流しながら俺に近くに寄れてとハンドサインを送る。

 

「あの金貨の山は何?」

「『陰の叡智』で稼いだ金。お前の為に貯めてたんだろ」

「まさか……こういう舞台を作るため?」

「多分そうだろうな。ちゃんと感謝しろよ」

「う〜ん……僕の知識でボロ儲けしてるのはすごく不服だけど、それも僕のためなんだよね……う〜〜〜ん……」

 

 ガンマ達にこの情けない会話が聞こえぬように互いに超小声で話し合う。

 シドは未だに『シャドウガーデン』が何をしているのか知らないし、教えたらその方が面倒な方向に動きそうってので何も教えていない。

 故にこんな葛藤をしているわけだが……まぁ、諦めろとしか。

 案の全容を出したのはお前だが、それらを形にしたのは彼女達の功績なのだから。

 

「主様、ブラック様?何か問題がございましたか?……まだ少なかったでしょうか」

「まさか。『陰の叡智』の断片だけしか俺達は教えてないのに、ここまで成長させたお前の力量を喜んでるんだ。勿論、俺もな」

 

 決してそんな話はしてないし、今も尚シドは葛藤中といったところ。

 それでも、大体こういう場面は褒めてたよって伝えておけばなんとかなる。

 

「そんな……!ガンマ、精進いたします!」

 

 ほらな?

 

 単純すぎる『七影』に危機感を覚えつつ、「嘘も方便」という言葉の神威に驚く中、ガンマが真剣な話をする時の顔になって口を開く。

 

「主様達がここへ来訪した理由は察しております。例の事件についてですね?」

「ああ」

 

 いつの間にか悩みまくっていたシドからキリっとしたシャドウに移り変わっていたバカが即頷く。例の事件って何だよ。

 

「王都に現れた人斬り。奴等は漆黒の衣を纏い、『シャドウガーデン』の名を騙る愚者共……現在、捜査を続けていますが未だ犯人は捕らえられていません。ですが、必ず我等の手で仕留めてみせます」

 

 まさかジャガが言っていた事件が『シャドウガーデン』に関する……というより、巻き込まれている事件だったとは。

 『シャドウガーデン』の名を騙るとは……命知らずなんてものではない。いい死に方はできないだろう。

 

「人斬りか……」

 

 俺の知ってる中で人斬りになりうる人間……違うアレクシアじゃない。

 騎士団よりも強くて人を斬ることに躊躇いがない人間……違うアレクシアじゃない

 とにかく強い剣を使う人間……違うアレクシアじゃない。

 

 駄目だ。そんなわけないのにアレクシアの顔がぼんやりどころか明確に浮かぶ。

 十中八九教団なのに。

 

「一度探ってみよう。いいな、ブラック?」

「了解。違うと思いたいが候補は浮かんでる」

「フッ……流石だな。では今回もお前に任せよう」

 

 どうせ犯人の検討ついてないだけのくせに、よくもまぁ全てを知ってる風に演じれるものだ。

 

「それでは彼女を……ニュー、来なさい」

 

 感服したとでも言いたげな顔を浮かべ、ガンマは扉前に控えていた構成員を呼ぶ。

 その顔では隠しきれない、諦めてたまるかと語るような瞳……心はちゃんと強くなっているようだ。感服するのは俺の方だな。

 

「その子はニュー、十三人目のナンバーズです。まだ入って日は浅いですが、その実力はアルファ様も認めています。どうぞご自由にお使いください」

「ニューです。よろしくお願いいたします」

 

 緊張からか、声に僅かな震えを感じるが、姿勢正しく、深々と礼をするニュー。

 まさかここまで連れてきた娘がナンバーズだったとは……改めて見れば、その耳は決して長くなく、決してモフモフでなく、人間のそれだ……

 

 

 

 人間の……それ???

 

「まさか……人間か!」

 

 まさかナンバーズに人間が至るとは……感涙を禁じ得ない。

 

 昂る感情は意志を超えて『キングストーン』を腹部に出現させ、脚のみを怪人化させる。

 その脚で損傷が出ぬ程度に、されどニューの前に跳べる程度の、丁度いい塩梅の力で跳び、目的通りニューのそばに降りる。

 

「ただでさえ珍しい人間がナンバーズに……!人間は可能性の生命体だ。期待してるぞ、ニュー!」

「ご期待にお応えできるよう、尽力いたします」

 

 静かに、されどにっこりと俺の言葉に返答するニュー。

 ん〜このクールな感じ!理想的だ!まるでスピーチしてた時のかっこいい和泉葵!

 シドに感謝はしたくないから、アルファ達に感謝だ。

 

「フッ……あ、そうだチョコを買いたいんだけど。一番安いのを4人分」

「チョコレート……?最高級のチョコをご用意します。十割引きで!」

「十割!つまりタダじゃん、ラッキー!あはははっ!」

「まぁ!ふふふっ……!」

 

 俺が興奮してる横で、なんともまぁ微笑ましいやり取りを交わすシドとガンマ。

 

 しかし俺の目はしっかりと見ていた。

 姑息シドが金貨を1枚くすねようとする様を。

 それが『陰の実力者』のやることかよ。

 

 結局チョコを無料で4つ購入し、構成員達に見送られながら俺達は玉座の間を後にする。

 構成員が多くいる中であんな興奮状態を見せてしまった事実に今になって羞恥がやってくる。

 久しぶりにBLACKSUNを彷彿とさせる要素を持った娘、その上ちゃんとした人間と出会ってしまったんだ。仕方ないだろう。

 

 ……そういや、ニューは俺がここのNo.2だということはわかってるはずだが、それだというのにあんな大胆な行動に出ていたのか?ガンマが近くにいたというのに。

 豪胆というべきなのだろうか……案外恐れ知らずなのか。

 まぁ何はともあれ、頑張ってほしい。

 

『……ニュー。ここに来るまでブラック様と腕を組んでたわね?』

『えっ、いえその……』

『少しお話、しましょうか』

 

 ……ほんと頑張ってほしい。

 




人間大好き!ブラックサン
怪人になってから日に日に人間愛が強くなってる
大体こんな感じ
人間≫≫獣人≧エルフ≫≫≫シド≫[越えられない壁]≫≫≫≫≫怪人
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