肉じゃが食べたい
眠気が無くなるのとは違う感覚に襲われ、俺は異様に重いまぶたを開けて起き上がる。
起き上がる際に体を柱にぶつけたせいか、掘っ立て小屋の屋根から零れ落ちた水滴が頬を伝って地に落ちる。
「嗚呼、また同じ夢を見たのか」と、何処かセンチな気分で、さされど心が踊るような気分でその場から立ち上がり、窓の外を眺める。
「んだよ……今日雨降ってんのか」
ちょっとセンチな気分が勝りながらも、小屋内に入れておいたバトルホッパーのもとに行き、撫でる。
やはり感情があるらしく、ライト部分が赤く点滅する。
「……んじゃ、そろそろ出発しますかね」
本日の癒やし成分を接種したところで、小屋の戸を開け、外に向かい歩む。
雨燦々と降り続ける中、雨音に合わせてスキップしつつも、前へと進む。
何故この様になっているのか。
何故別の世界に転生し、掘っ立て小屋で生活しているのか。
何故絶望的な状況下なのに、心が踊って、雨に踊っているのか。
まぁ簡単な結論だけ言うならこうだろう。
俺、黒井 太陽改めクロノ・フォルムーンは改造人間である。
……まぁそんだけじゃ説明不足でわかんないし、ちょっと9年前まで遡って思い出してみようか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
おおよそ9年くらい前の皆既日食の日。
俺はサウス家の一人息子、クロノ・サウスとして産まれた。
同日同時刻、フォルムーン家からソーン・フォルムーンも産まれていた。
同じ皆既日食の日、これから同じ使命を背負うことになる二人……今思えば、随分と出来上がったストーリーだわな。
そんなある日の事。
俺が3歳くらいになった頃の事。
俺の父さんと母さんが死んだ。
後々聞いた話だと事故だったらしいのだが、如何せんそうだとは思えなかった。
仮に事故だと想定したとしても、何かと辻褄が合わない。
だから俺は、父さんと母さんは誰かに殺されたんじゃないかと今考えている。
とまぁ、そんな経緯を経て、俺は親父の親友であったフォルムーン家に養子として引き取られ、名前を改めてクロノ・フォルムーンとして過ごすことになった。
迎え入れられてすぐの頃は他人行儀になってしまってはいたが、徐々に生活を共にしていく内に家族同様の存在だと思えるようになった。
名字が変わったと言え、なにか本質的なものが変わるのかと言われればそうではない。
それどころか、新たな友人が出来たのだ。
その友の名はソーン・フォルムーン。
ソーンとは、まるで本当の兄弟かのように仲良く遊び、好敵手のように鍛え合っていた。
転生前は友人と呼べるような奴はおらず、そんな俺にとってソーンは大切な奴だった。
少し重い発言にはなるが、かけがえのない存在だった。
さて、ちょいとだけ話は変わって、この世界での鍛え方について話そう。
この「鍛える」って内容で、異世界的な要素が役に立ってくる。
実はこの世界、魔力なるものがあるのだ。
魔力というのは思ったよりも素晴らしい。
これさえあれば、子供でも並の大人をボコボコに出来るほどに強くなれる。
それに加え、魔力を酷使していった事である程度の感覚を掴んで、とある確信を得た。
魔力は、量ではなく質であると。
この確信を得た俺は、魔力を放出するのではなく、魔力を練り、それを活用することに専念した。
無論、このことはソーンには伝えていない。
多分アイツなら自力で辿り着けるだろうと、そう考えたからだ。
んじゃ話を戻しまして。
養子になっての6年間、なんの不満もなく過ごせていた。
願わくば、この平穏な日々が続けばいいなと、本気でそう思っていた。
されど悲劇ってのは一度では終わらないらしい。
今度の事件は俺とソーンが9歳になった誕生日の日のことだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その日、何故かフォルムーン家の屋敷には大量の人が集まっていた。
「誕生日ってこんなに人集まるもんなのか……?」
疑問に思い、頭にはてなマークが浮かぶ俺。
「……ふむ、こんなのは初めてだな。私達の誕生日パーティー以外に何かあるのかもしれない」
顎に手を当て、悩ましい声でソーンは言う。
やはりと言っては失礼な気はするが、ソーンも知らなかったようだ。
「何かって……何だよ」
「知らん。それくらいは自分で考えろ」
「んな無責任な……」
ソーンのぶっきらぼうな回答に呆れを覚えつつも、集まっている人達を見てみる。
上流の貴族や、有名な音楽家、その他多数の著名人。
『違和感』としか言い様がないだろう。
こんな下級貴族の息子と養子の誕生日パーティーにこんな人達が集まるものか。
「……な〜んかやな感じ」
そんな違和感を感じながらも、俺とソーンはパーティー会場へと足を進め、正装に着替えてから参加した。
父さんに、夜までは特に目立ったイベントはないから自由にしていても良いと言われたんで、俺もソーンも一度会場から抜け出し、動きやすい服に着替えてトレーニングを開始した。
また正装に着替えなくちゃならないとかいう明らかに面倒な事をしているのだが、まぁいい。
誕生日パーティーよりもマッスルパレードだ。
「ソーン!そっち今何回!?」
「298だ!そっちは!」
「俺341!雑魚め!」
「ふん、精々仮初の玉座で踊っていると良い。すぐに追い越してやるぞ、クロノ!」
煽りつつ、互いを高めつつ。
これが俺達の、俺達なりのマッスルパレード、つまり筋トレなのだ。
今回の対戦内容は腕立て伏せ。
魔力もクソもない、シンプルなフィジカル勝負だ。
そんな鍛え合う俺達を、遠くから見て、話す者が2名。
片方は父さんで、もう片方は……わかんね。
多分上流貴族のお方だろ。
普段の耳トレの成果を確認すべく、聞き耳を立てようとはしたが、思ったより深刻な話をしてそうだったんで思い留まった。
日も沈み、辺りを月光が包み込むようになった夜。
月の光は良い。
アレは拡大解釈すれば太陽の光とほぼ同じ、なんなら月光は太陽光だって言えるのだから。
だから俺は月の光も好きなのだ。
さて、話を戻そう。
俺もソーンももう一度正装に着替え、父さんと一緒に会場に出場し、色んな人達の前で紹介して貰った。
「皆さん、今夜はようこそ。紹介させていただきます。本日9歳になりました私の息子のソーンです」
「どうも」
「クロノです」
「おっす」
父さんはソーン、俺の順で会場に居る参加者に俺等を紹介する。
それにしてもソーンの礼儀が良かった。
相対的に見て俺が悪く見えてしまう程だったよ、うん。
「どうぞ宜しく」
「よろしくお願いします」
「お願いしやす」
父さんが参加者に礼をするのに合わせて、俺もソーンも礼をする。
ソーンの野郎、間違いなく猫被ってやがる。
こりゃ人生経験が足りてませんわ。
その後、俺とソーンは父さんに引き連れられ、色んな方々に挨拶していった。
そこでわかったのが、このお偉方はソーンが2歳くらいのガキンチョだったときから交流があったらしく、お相手さんは「立派に成長したねぇ」とか、自分の腰元位に手をやりながら「これくらいの頃から知ってるんだよ、君達をねぇ」とか、「もう9歳になったのかあ…うーん」とか。
まるで親戚のおじさんかのように接してきた。
それにしては見覚えが無いんだが……単に俺が忘れているだけなのだろうか。
こりゃ脳トレも必要だな。
とまぁ、一通り挨拶し終えたところで、父さんはお偉方と話し、俺とソーンは料理を頂いていた。
日本の食には劣るものの、そこそこ美味い。
そんな感じでのんびりしてると、今度はオリアナで有名らしい音楽家のハンナさんがやってきて、俺達に話しかける。
「二人とも、お誕生日おめでとう!あなた達は選ばれし栄光の若者よ。しっかりね!」
祝いの言葉を貰った際は俺もソーンも、互いに目を合わせ合ってニヤけていたのだが、『選ばれし栄光の若者』という言葉に疑問を持ち、戸惑う。
そんな俺達の顔を見て、これまた不思議そうな顔をして発言するハンナさん。
「あら、何も知らないの?あなた達は明日の日食の時にね……」
「困りますなぁハンナさん。息子達をからかわれては」
意味深な発言をするハンナさんの言葉を、お偉方と話してた父さんが割って入ってきて止める。
何故止められたのかわかっていないような顔をしていたハンナさんも、父さんの顔を見て察したのか、何故か焦る。
「ハンナさん」
父さんが放ったその言葉は、今までに聞いたことのないようなトーンだった。
まるで何かの忠告をするかのような、そんな声だった。
それに加え、後ろのお偉方も父さんと同じような目をしている。
死んだ魚の目というか、虚ろな目というか……まぁ正常な目ではなかった。
その後、ハンナさんは父さんやお偉方にお酒を勧められ、お偉方の一人の「いや〜ともかくめでたい!」の言葉でその場に居た全員が笑いあう。
果てしなく気味が悪い光景だと、言葉は交わさずとも通じ会えれる俺とソーンは顔を見合わせる。
すると、ソーンの肩に一匹のバッタが飛来して止まる。
どうやら俺の方にも来ていたようで、俺の肩に止まったバッタをソーンが払い除ける。
その時だった。
月夜を背景にして、あり得ないほどの量のバッタがこの会場目掛けて飛来してくる。
かつての言葉で言うなら、『蝗害』ってやつだろう。
「んだよコレ……!」
「何だ……!」
俺もソーンも、普段ではありえない状況下に動揺する。
だが、周りの反応は違う。
平然とバッタの沈んだワインを飲んだり、何食わぬ顔でタバコを吸っていたりと……全てにおいて異常だった。
それを見た俺の心には、ほんの僅かに恐怖が浮かんでいた。
しばらくして、突如として現れたバッタは、まるで最初から居なかったかのように居なくなった。
勿論会場に居る人間も、何もなかったかのようにパーティーを楽しんでいる。
ある種のホラーとしか思えない。
そんな光景を見て、俺とソーンは互いに顔を見合わせ、呆気にとられていた。
その後パーティーは終わり、俺とソーンはハンナさんの言っていた「明日の日食の時」に起こる何かを知るため、父さんの書斎へと足を進めた。
刹那、俺達を眩い光が包み込む。
あまりにも光が強い為か、俺もソーンもその場に蹲る。
意識が飛ぶ寸前に俺が見たのは、宙に浮いている白いローブを身に纏った3人と……
「さあ、ご一緒に……我が御子よ!」
この意味のわからない言葉だけだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
目が覚めると、先程とは全く違う景色が広がっていた。
何故か肌寒いと思い、自分の体を見てみるとタオル1枚の姿になっていた。
それに加え、大量のチューブのようなものが纏わりついていた。
右側を見てみると、ソーンも俺と同じような格好になっていた。
「クロノ!」
「ソーン!」
互いに手を伸ばすも、届かない。
その隙に、俺達を攫ったであろう白ローブ達の一人が、俺に向けて謎の光線を放つ。
「ぐっ……」
身体全身に響く痛み。
だが、痛みには慣れている。
精一杯歯を食いしばり、身体全身に力を加える。
その時、俺の頭に“何か”が浮かび上がる。
黒く光るボディ。
真っ赤な目。
左胸に刻まれた、白いゴルゴムのシンボルマーク。
俺の憧れである『BLACKSUN』と似ていて、されど何処か違う姿。
ただ、その姿は間違いなくかっこよかった。
「創世王様。世紀王の石『キングストーン』をお授け下さい!」
俺の頭に浮かんでいた姿は、俺に光線を当てた奴の言葉によって消え、そちらに意識が行く。
俺の耳がおかしくなっていなければ、『創世王』や『世紀王』、さらには『キングストーン』のような言葉が聞こえた。
それぞれ俺が転生前に会おうとしたモノ、なろうとしたモノ、手に入れようとしたモノだった。
赤と緑、太陽と月の『キングストーン』を持った白ローブは、俺達の体内に埋め込む。
俺に太陽の『キングストーン』を、ソーンには月の『キングストーン』を埋め込んだ。
……正直想定外の事態ではあったが、まさかこんな経緯でお目当ての物を手に入れて、それを埋め込んでもらえるなんて……俺は本当に運が良い。
後はここから逃げ出しゃ……
「あとは人間としての記憶を消し去ることだ。それで改造手術は完了する」
……そう上手くはいかないみたいだ。
俺達にストーンを埋め込んだ白ローブは、まず手始めに俺を狙う。
すると、この部屋の奥から聞き慣れた声が聞こえてくる。
「待ってくれ!約束が違う。記憶をなくすのだけはやめてくれ!二人とも私の息子だ!」
父さんだ。
父さんがこの部屋に飛び込んで来たのだ。
「……プロフェッサー・フォルムーン。クロノとソーンはもはやあなたの息子ではない。我等『ゴルゴム』の希望、世紀王ブラックサン、そして世紀王シャドームーンなのだ」
そう言い、白ローブは先程のように光線を俺目掛けて射出する。
「やめてくれぇ!」
ほんの僅かだが、放たれた光線が額を掠めたところで、父さんが光線を打った白ローブ目掛けて飛び込み、記憶処理を妨害する。
取っ組み合って争ってくれたおかげで、俺達を繋いでいたコードが切れ、俺は床に落ちる。
だが、ソーンの方はそうではない。
切断されたコードがソーンに当たり、電撃が流れる。
「ソーン!」
俺も父さんも、苦しむソーンに手を伸ばす。
しかしその時、3人の白ローブの中で一番背の高ぇ奴が指先から光線を放つ。
その光線は、父さんに命中し、爆破する。
「父さん!」
「ぐっ……私に構わず逃げろ!逃げろぉ!!」
「父さぁん!」
光線をモロに喰らい、おそらく満身創痍になっていそうである父さんは、俺に逃げるように指示する。
父さん、そしてソーンを置いて逃げるというのは、何とも最悪な気分ではあるが、今の俺が抗って倒せるような奴らではない。
ここで皆お陀仏になるより、一人でも生き延びて、残った奴等を助ける。
それが最適解な選択なんだと、そう脳に思い込ませて、俺は逃げ出した。
いつか必ず、残されてしまった親友を助けると誓って。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そっからはまぁ、ありきたりな逃走劇だった。
見ず知らずの場所……あの白ローブが言うには『神殿』らしいが、そこがどんな構造だったかとか全く知らなかったもんで、すぐには出口には辿り着かなかった。
逃げ回ってる際、こっちの文字で『ディアボロス教団』……?みたいなのが書かれた紙とかあったけど、一体何だったのか。
もしかして『ゴルゴム』が支援してる教団とかなのか……?
……まぁそれを考えるのはまた後でだ。
とにかく俺は必死で走り、逃げ回っていた。
が、構造を完全に理解しきってる白ローブから完全に逃げ切れるわけもなく、3人の中でも一番背の高ぇ奴が俺を見つけ、先程父さんにも撃った光線を俺に撃ち、奥へと吹っ飛ぶ。
そっから体制を立て直して前に進むと、ここにはないはずのバイクが置かれていた。
何処かで見たことあるような、だけど何処か違う。
そんなバイクに見惚れていると、俺の背後に3人の白ローブが現れる。
例の如く光線を撃ってくる白ローブ。
それを横に回避すると、光線は奥にあったバイクに直撃し、バイクを覆っていたカバーのようなものが無くなる。
それがトリガーになったのか、バッタの様な造形をしたバイクの、赤いヘッドライトが点滅する。
それに合わせ、俺の腹に埋められたであろう赤い『キングストーン』が疼く。
多分「乗れ」ってことなんだろう。
俺は前世の僅かな知識をもとに、バイク……『バトルホッパー』に乗り込み、道なりに全力で走る。
やがて前に光が見え、俺とバトルホッパーは『ゴルゴム』の神殿から逃げ出したのだった。
……ま、つまりそういう事で俺は改造人間に成ったのだ。
んでもって、住む場所と一緒に居る家族が無くなったからあの掘っ立て小屋で一人で過ごすようになったって事だ。
そんなファミリーレス改造人間生活からおおよそ半年が過ぎた。
案外この生活も楽……ってわけでは無いが、そこまで苦痛でもない。
ほぼ毎日怪人が来ては倒してを繰り返してはいるものの、それも一種のトレーニングだと考えれば苦ではない。
ただ1つ、俺のそこそこ平穏でトレーニングに向いた素晴らしい生活をぶち壊そうとしてくるとんでもない存在が、とてつもなく面倒くさい事があるとしたら……
「ねぇクロノ!僕と一緒に『陰の実力者』に成ろうよ!」
……この超絶怒涛の中二病の対処をすることだろう。
彼、憧れてるのはBLACKSUNなんです
けど埋め込まれたキングストーン、別名『太陽の石』なんですよ
ヘッヘッヘ……勘が良い人ならわかるだろう