黒い太陽に憧れて!   作:ポンノ

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修羅場めいたものを書くこと、これも、技術のうち
レアステーキ食いたい


22話 人間にわかかよ

 

 『ブシン祭』

 

 二年に一度、王都で開催されるらしい剣のでっかい大会。

 剣に自信がある者たちが国内に限らず、国外からも集まる程度にはでっかい大会。

 

 その祭りの学園枠を決める選抜大会が、このミドガル魔剣士学園で行われている。

 勇敢なる若い剣士達を祝すように、今日も青空に太陽が照り光る。

 普段は心地よい程度の陽射しが、やけに熱を帯びて降り注ぐ。嫌な暑さだ。

 

「いやー、暑いね今日は」

「お前のせいだぞシド」

「かけるならもっとまともな冤罪かけてよ」

 

 『シャドウガーデン』経営店の中でもトップの売り上げを出しているであろう店、『まぐろなるど』の紙袋を片手に抱える俺の隣をワクワクしながら歩くシド。

 

 何故こんなにハイテンションになってるのか?

 答えは簡単。

 この予選大会、シドが参戦してやがるのだ。

 恐らくこの暑さは、コイツがこの大会で何かおかしいことをする前兆なのだ。

 なんて、そこそこな暴論をぶつけながら会場に向かう。

 

「にしても対戦相手がローズ会長とはねー」

「負けるならすぐ負けろよ」

 

 ローズ会長との勝負、シドに勝つ気持ちというのは毛頭ない。

 本人曰く、『絶対王者に一回戦で無様に負ける役ってかなりモブっぽくない?』とのこと。もう何も言うまい。

 なる早で終わらせてもらえれば、それだけでいい。

 

「まぁまぁ、見てなよ僕の〝勇姿〟ってやつをさ」

「おう。醜態だけは晒すなよ」

 

 どうせ叶わない願いだけ伝え、俺は観客席へ、シドは控室へと向かった。

 勇姿、一体どんなとんでもないものを見せられる羽目になるのか……長くなるようなら途中で帰ろう。

 

「ブラック、こっちこっち」

 

 極力目立たない座れる場所を探していた俺の耳に、馴染みのある声。

 声が聞こえた方向に進めば、これまた馴染みの顔がここの制服を着て、その尾に似た白金色のポニーテールを揺らし、もふもふの尻尾が太陽の位置を示すようにピンと立っている。

 

「ゼータ。どうしてここに」

「主が試合に出るって耳にしたからさ、キリがいいとこで切り上げて来ちゃった」

「あんま良いものは見れないと思うがな」

 

 立った尻尾がゼータの右隣をぽんぽんと示すものだから、それに誘われるようにオレは席に腰を落とす。

 予想はしていたが、尻尾は俺の腕をぎゅっと巻きつける。慣れたものだ。

 

「……ま、それは建前」

「ん」

「ほんとはブラックに会いに来ただけ。いいでしょ?」

「自由なやつめ」

 

 俺の肩に頭を預けるようにして、ゼータはこちらに撓垂れ掛かる。外向きになった耳が顔にあたって少々くすぐったい。

 座った際から肩と肩が触れ合うほどに近かったというのに、寄りかかられると更に距離は縮まる。

 俺がゼータの匂いを強く感じるように、ゼータもある匂いに感づく。

 

「……『まぐろなるど』の匂い」

「流石にバレたか。喰うか?」 

「折角だしもらっちゃおうかな」

 

 観念、ってほどの未練はないが、紙袋からまぐろバーガーを取って投げ渡そうとする俺。

 だが、その行動はゼータに間接的に防がれる。

 

「あーん」

「?」

 

 雛鳥のように俺の方を向いて口を開けたまま静止するゼータに、俺も静止する。

 

「……くれるんでしょ?」

「やるけど……」

「なら、あーん」

 

 紙包みに覆われたバーガー片手にまだ戸惑う俺。

 そんなのお構いなしと言った様子で、再度口を開く。

 意図はわかってる。

 食べさせてほしいんだろう。

 理解していれど人間は困惑するものだ。怪人だって例外じゃない。

 

 ……まぁいっか。

 ゴチャゴチャ考えて何かが変わるわけじゃない。

 

 包み紙から出したバーガーを、ゼータの口元に差し出せば、恥じらいなんぞ微塵も見せない様子でパクっと食らう。

 好物だからなんだろうが、一口がそこそこでかい。そこが可愛い。

 

「……うん、やっぱり美味しい。ブラックのお陰かな」

「単に味が美味いだけだろ」

 

 口周りについたソースを舐め取る舌が、妙に艶麗に映る。 

 

「ほらブラックも、あーん」

 

 美味いものの共有か、将又間接キス狙いか、食べかけのバーガーをこちらに差し出してくる。

 こんなんだからデルタにメス猫とか言われんだぞ。

 そういう所だぞ。

 

「誰が。残りは自分で食え」

「ちぇ、ケチバッタ」

「うっせ、ワガママネコ。待て、俺で爪研ぐな」

 

 本能 vs 理性は僅差で後者が勝ち、紙袋から別のバーガーを手に取り、それを食う。

 そんな俺が気に食わなかったか、スライムで小さな爪をわざわざ形成し、それで俺の制服を引っ掻きまくる。貴重な制服が。

 

「ったく……アレ?」

 

 違和感。

 先程まで右手に持っていたバーガーの感覚が無くなっている。

 全く意識していなかったとはいえこの俺から物を盗ったというのだ。

 相当な実力者、最低でも『七影』に匹敵する程の隠密スキルを持っていやがる。

 『七影』に匹敵……いや、この魔力の流れは『七影』そのものでは?

 

 ……まさか。

 

「随分、楽しそうね」

 

 アルファが居た。

 すっごい怒ってるらしいアルファが、俺の食いかけバーガーを片手に、立っていた。

 

「お、お前も来てたんだな、アルファ」

 

 プシからの手紙が脳裏によぎって、現状ゼータと戯れてる場面である事を改めて理解。震えた声で応対する事に。

 やはりと言うべきか、ムスッとしているアルファ。

 隣に座るだろうと予想し、置いていた紙袋を持とうとする。

 そんな俺よりも早く、アルファは俺の膝の上に腰を下ろした。

 俺の膝の上に。

 

「……アルファさん?」

「何かしら」

「何故そこに?」

「あら、昔はよく座らせてくれたじゃない」

「そうだが……」

 

 膝上で安定したまま俺の方を振り向き、にこやかな顔で理由を端的に話す。

 優しく刺してくるような青い瞳がやけに目から離れない。

 互いに向き合う視線、先に外したのはアルファからだった。

 

「……そんなに見られると恥ずかしいわ」

「ここに座ってる以上、恥じるのも今更だと思うがな」

「もう……」

 

 ズラされた視線、顔。

 それでも風に靡く金髪から、チラリと姿を出す赤くなったエルフ耳。

 その耳を揉みしだいてやろうか、なんて葛藤を抑え込む間に、アルファは座る場所を俺の上から右隣へと移る。

 顔の赤みはまだ引いていない。

 

「ほら、アルファも食え。あの日貰った分」

 

 アルファが移動するのに合わせて俺のもとに寄せた紙袋からバーガーを新しく一個取り出す。多めに買ってきたのは正解だった。

 

「覚えてたのね」

「当然。約束を忘れるほど男として腐っちゃいない」

「ふふっ、そうね。それなら……」

 

 言わんとすることは即座に理解できた。

 恐らくゼータと同じ事をしようとしているのだろう。

 なら、即座に行動に移すのが男ってやつだ。

 

「ほらよ」

「……まだ言ってないのに」

 

 差し出したバーガーを小さな口ではむっとかぶり付く。

 もきゅもきゅと音が鳴りそうな程咀嚼している。そういうのも可愛い。

 

「ほら、クロノも」

「んじゃ、ありがたく」

「恥じらわないのね」

 

 お返しとして差し出された、先程まで俺が食っていたバーガー。

 自分のなので躊躇うこともなく食らう。やはりうまい。

 

「ふっ……俺を照れさせようなどと百年はや」

「ガブッ!!」

「いってぇ!!!」

 

 気持ちよく驕っていた俺の言葉を遮るように、黙々バーガーを食っていたはずのゼータに首を噛まれる。

 猫だ猫だと今まで散々言ってきたが、急に首噛んでくるのは猫でもしないだろ。多分。

 

「何しやがるバカ猫!!デルタだって急に噛んできたりしないぞ!!」

「ふんっ、私というものが有りながらアルファ様と食べさせあいっこしてるブラックが悪い。べー、だ」

「こんの……」

 

 堂々とした私嫉妬してます宣言と共に、舌を出される。

 そんな煽り顔まで可愛いのが尚の事腹立たしい。

 

「……かぷっ!!」

「それは何故?」

 

 感情整理で忙しくなってる俺。

 そんな俺に今度はアルファに甘噛み程度の力で首を噛まれる。俺が何をしたと。

 

「アルファ様もマーキング?随分卑しいんだね」

 

 そう言い、左腕を掴むゼータ。

 

「それを言うならゼータもでしょ」

 

 そう言い、右腕を掴むアルファ。

 

 双方から双丘が押し寄せるこの場面。

 男としては理想的なのかもしれないシチュエーションだが、その要素に争いが混ざるとそこは一種の地獄になる。

 

「あなたブラックから頼まれた仕事があるんでしょ?早く取りかかる為にもその腕を離しなさい」

「アルファこそ、業務まみれで大変なんじゃないの?溜まると大変だろうし早くその腕離しなよ」

「いいのよ私は。ガンマ達が喜んで引き受けてくれたわよ」

「こっちだって。求められてる事に関しては調査済みだから」

「……」

「……」

 

 なんなの。

 

 握る腕の強さが段々と強くなってくもんだから普通に痛い。

 どうせ俺目的で争ってんだから目的の対象を傷付けるんじゃない。

 

「……あ、あのー」

「クロノは黙ってて」

「ブラックは黙ってて」

「うす」

 

 ほんとなんなの。

 

 おおよそ五年程前、『シャドウガーデン』が結成して『七影』が揃って日常を過ごしてた位の時からこういう事態は何度か起こっていた。

 

『ブラック、散歩しに行こう』

『ダメよ。今日は私と魔力制御の特訓をするの』

『例えアルファ様でもそれは駄目。私と散歩する』

『特訓よ』

『俺の意見……』

 

 思えば、俺の立場が反比例のグラフみたいに弱くなっていったのはこの日からだったのかもしれない。 

 

「お、始まったみたいだな」

 

 何も言えず、争いの狭間に置かれるだけの俺。

 もはやそこにあったのは、諦めだけだった。

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 この学園で最強の魔剣士は誰か。

 一昨年までであれば、全生徒が口を揃えてアイリス・ミドガルの名を挙げただろう。

 では、彼女が卒業したらこの学園における最強の玉座は空席になるのか。

 

 否、王者は突然現れる。

 

 生徒会長、ローズ・オリアナ。

 芸術の国、オリアナ王国から留学生で、そこの王女様。立ってるだけで絵になる美貌だ。

 芸術の国出身だと言うのに、その剣技は学園随一と言ったところ。アイリス王女に次ぐ腕前に成り得るとも言われている。

 

 まぁぶっちゃけ、そんな事はどうでも良くて。

 重要なのは、ネームド足り得るキャラがここで対峙していることなのだ。

 

 この勝負での目的は完璧な敗北。

 それこそが僕を超モブっぽく仕上がれる方法のはずなんだ。

 剣がカタカタと、己の身もブルブルと震える。

 負けた過ぎて武者震いが止まらないや……!!

 早く実践したいんだ、『モブ式奥義四十九ノ技』を!!

 

「ローズ・オリアナ対シド・カゲノー!」

 

 審判が僕たちの名を呼び上げる。

 見せてあげよう、ローズ・オリアナ。そして観客席のクロノ・フォルムーン。

 本当のモブの闘争というものを。

 

「試合開始!!」

 

 開始と同時に、ローズ生徒会長の細剣が僕の胸を横一閃に切り裂くように薙ぎ払われる。美しい剣筋で。

 

 その瞬間、チャンスが到来する。

 剣が胸に当たる、そのギリギリで足の指の力オンリーで後ろに跳躍。

 腰の角度はくの字を保てる110度。時速はキープしやすい110キロ。

 ここから剣の勢いを利用して身体に捻りを加え、回転を開始する。

 それと同時に前日までに採血していた血液袋を取り出し、破る。

 大胆で繊細に、弧を描くように血をまき散らす。それはまるで赤い竜巻のように。

 

 刮目せよ。

 これこそが『モブ式奥義・きりもみ回転受身(ブラッディ・トルネード )』だッ!!

 

「ぺぎょええええぇぇぇぇぇぇぇぇええええ!!」

 

 情けない声を出しながら壁に激突して、この技は完成する。

 

 そしてもう一押し。

 流れるように血液袋を破き、吐血を再現。

 連携してこそより映える、それこそが『モブ式奥義・鮮血のマーライオン』!!

 その流れ、クロノのライダーパンチからのライダーキックのコンボのように美しい!!

 

「ゲゲエエエェェェ!!ゲボオオォォ!!」

 

 尋常ではない程血を吐き捨て、息を荒くしながら必死で立ち上がる演技を行う。

 観客席から響くざわめき、ローズ生徒会長からの驚愕に似た目。

 完璧に決まった……このコンボ!!

 

 さあ来いローズ・オリアナ。

 残りの奥義は四十七もあるのだぞ?

 

 見てるかいクロノ。見ているねクロノ。

 これが僕の、モブとしての〝勇姿〟だッ!!

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 クソが。

 どうせ守られないとは思ったがここまで酷くなるか普通。

 醜態の域を軽く凌駕しやがって。

 ダイナミックな動きで飛ばされつつこっち見んな。

 何を伝えたいんだよ。

 それになんだあの出血量。

 あんなに血を吐く人間がいてたまるか。

 人間にわかかよ。

 

 見ろよアルファの顔。

 処理しきれなくてエラー起こしてんぞ。

 

「シャドウはこの学園では実力を隠してる……それでもあんな負け方を……?何の意味が……?」

 

 ぶつぶつと、意味のない無駄な負け方に意味を見出そうと頑張っている。

 アレにまで意味付けをするのは無理だと思う。可哀想。

 

 見ろよゼータの顔。

 宇宙猫そのものだぞ。

 

「……?」

 

 もはや言葉を発さない。発せない。

 視線の先がシドではなく虚空になっている可能性が高い。可哀想。

 

 その後、争いを忘れ戸惑う二人を両サイドに、シドが吹っ飛ばさらる様を大量に見た。

 何回も飛んではこっち見て立ち上がって、飛んでは見て立ち上がってを繰り返すもんだから気が狂うかと思った。

 結局累計15回だろうか。

 それだけの数血を吐きながら吹き飛んで、そこでようやく審判ストップが入った。遅すぎる。審判やめろ。

 

「待ってください!!まだ僕には奥義が三十三も残っているんです!!嫌だ……嫌だああぁぁ!!」

「諦めろ!君はもう負けたんだ……負けたんだよ……!!」

 

 最後までシドは抵抗していた。

 あんだけ血塗れの人間が暴れ出すのはホラーの類だぞ。

 

 いつの間にか拘束から逃れていたので、袋のバーガーを1個ずつ置いてその場から退散。

 どっかで古都には顔出すから勘弁しておくれ。

 一旦あのバカの元へ、連れてかれてった医務室へと足を運んでやる。

 つもりだったのだが、その道中で出会ってしまった。

 

「うっわ。ホラゲキャラかよ」

「あ、クロノ!見てくれたかな、僕の〝勇姿〟!!」

「醜態だけは晒すなよって言ったよな、なあ?」

「いたたたた待ってホントの血出る」

「そりゃ良かった」

 

 あまりにもキラキラした目で言ってくるもんだから、腹の虫を抑えるためにアイアンクローをシドの空っぽ頭に決めてやった。

 すると、その奥からドタドタと走ってくる音が複数。

 血塗れの人間を片手で持ち上げる、なんて光景見られたら何かと面倒事になりそうなので、手を離してから来た人間達と応対する。

 

「君、シド・カゲノー君を見ていないかい?」

「あ、コレです。煮るなり焼くなりしてください」

「クロノ!?」

「捕獲協力、感謝します」

 

 シドはそのまま医務室へと連行されていった。より強固な人達に。

 そこから背を向け歩く俺の背後から何か泣き言めいた言葉が聞こえた様な気はしたが、いつも通り聞いていない事にした。

 まぁ無傷なんだし、どうせすぐ出てくるだろう。

 

 そのまま外へ向けて歩む最中、ローズ会長と鉢合わせてしまった。

 

「貴方は……シド君のお友達、ですよね?」

「いいえ全く」

「でも先程楽しそうに」

「腐りきった腐れ縁です」

「そ、そうでしたか……それでは一つ、伝言をお願いしたいのですが」

 

 瞳合わせて、ローズ会長は言う。

 

「あの勝負は彼の勝ちであったと、そうお伝えください」

「はぁ」

 

 巻きに巻かれた蜂蜜色の髪をなびかせて、ローズ会長は去っていった。

 その眼は、何処か熱を帯びていたように見えた。

 

 ラブコメチックな熱を。

 




この話だけで1話とか使うから話が長くなるのよ
何なら日に日に文字数平均値が増加してる
反省はしない
けど気をつけなければならない
そんな事を思う今日この頃、次回はオリジナル展開が入るかも
反省はしない
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