転生者、異世界で弔い屋やってます。 作:よくメガネを無くす海月のーれん
死者にお疲れ様ゆっくり休んでください、という祈りがあったっていい。
その時くらいは、神に祈るのではなく、死者に祈ってほしい。
死者の為の祈りであってほしい。
前回がシリアスだったので、今回はちょっとコメディ。
店から出る。
からんからんと扉に付けられた音が鳴るヤツに耳を擽られながら、張っていた肩から力を抜いた。
「ふぅ…ゼーレン婆さんの対応は、っぱ疲れるわ…」
「イチイ…あぁ言うのやめてくれ…。心臓に悪い」
そういって、胸に手を当てて一息をついているセルフィから苦言。いやだってゼーレン婆さんはなぁ…。
「別に、口が悪くて態度が悪くて、内面見透かしてくる婆さんなだけで、あとは普通だろ…緊張はするけどよ」
「それを言えるのはイチイだけだ…。私は君達の会話に目線を向けることが出来なかったぞ。ずっと儀式触媒を見ていたが、それもあまりよく見ることが出来なかった…」
呆れと緊張を隠そうともしないセルフィに苦笑いしながら、最期の言葉で若干にゃ焦る。
「えっ、じゃあ儀式触媒選べてないのか?」
そんなことを言われるともう一度入り直さないといけなくなるんだが…さすがにみっともないというか、情けないレベルだぞ?次なに言われるか分かったもんじゃねぇ。別に気にはしないが、かといって精神削らないわけじゃない。ダメージ床と一緒だ。行動することはできるが、ダメージはダメージで受けるのだ。
俺が半目になって見つめると、セルフィは肩をすくめては、手に取ったものをこちらに揺らして問題ないことを見せてくる。
「いや、目星をつけていたものは手に入れた。あと咄嗟に掴んできた触媒が一つ」
手に持ったモンは、まぁおかしいものだ。錆びて折れたアイスピックの柄みたいなヤツ。ジャム瓶の中に揺蕩う青い宝石の鱗を持った稚魚、そして、赤いインクが入ったインク瓶。問題ないっぽいな。ほっと胸を撫でおろした俺は、ふと店内で感じた疑問を口にした。
「お、ならよかった…っつーか、レリエルなんともなかったのかよ?」
だれだって緊張するだろうというゼーレン婆さんに忽然としていたレリエルはまぁおかしく映った。まぁ、あのゼーレン婆さんがあんまり関わらなかったってのも不思議っちゃ不思議だが、それ以上に俺たちの会話を聞いて、何とも思ってない風に平然としていたのがわりかしビビっている。
「…なんだ?」
「あぁ、あの状況で平然としているのは驚いたぞ」
セルフィも同意見らしい。コイツはマジで無口というか反応:無なことが多いからな…。まさかゼーレン婆さんの前でも…とはな。
「…別に気にすることでもなかろう。あの
とりあえず、小広場に歩を進めつつ、先程の事を思い出して、ため息を吐く。
「いやぁ…俺は緊張するけど…緊張もせず平然としているのはレリエルすげぇよ」
そんなこと言われても…という気持ちだ。それで済ませられる人間はごく少数だ。
「神に仕えるものとしてはな。神との交信より緊張するものはない。神に捧げものをするときは特にな」
「あぁ~…なるほどな」
神、神ねぇ。忘れていたというか、レリエルは神に関するあれやこれやを仕事以外で一切見せないもんだから、仕事の期間が空くと、普通に抜け落ちる。そう言えば神官だったなと思い出すのだ。そんなんでいいのかと言われれば、よくはないんだろうが、上手くいってるし問題ないだろうと楽観視している。
「ふむ…神との交信や捧げものは普通の神官はあまり行わんだろう。確か、位の高い者が行える儀式のはずだが…」
「ちょいちょいセルフィ、詮索はなしだぞ。俺が婆さんから聞いたお前の話をここで暴露するぞ」
知識欲が爆発しそうになっているセルフィを止める。セルフィは知識人というかなんというか…まぁ学者気質なんだろうな。自分が興味あるモンをよく分析だったり考察だったりする。そんでもって、踏まなくてもいい虎の尾を踏む。どうも危機感が欠如しているんだよな。ほぼ死ぬことがないヴァンパイアとはそういう生き物らしい。あんまりな目に遭って説教かましたとき、我が物顔でそう言われたからな。ひっ叩いてやったが。
「待てイチイ!あの御仁からなにを聞いた!?あの御仁は私をどう言っていたんだ!?…おい!こっちを見ろ!イチイ!」
焦りに焦って、持ってる儀式触媒放り出して俺の肩を掴み、グワングワンと揺らすセルフィから目を反らす。ご丁寧に魔法で儀式触媒を浮かばしている。器用なことするねぇ。
「ふむ…別に構わん」
「別に詮索しなきゃ周りにも言わねぇよ。…いいのか?聞いても?」
だれだって隠したいことがあるのに、それを暴こうとするからそうなる。自分の黒歴史を探られて嫌な顔をしないヤツなんていないのだ。自業自得だろ…と適当にいなしていると、以外にもレリエルから同意の言葉が飛んできた。珍しいな、あんまり自分から喋ることはないのはそうだし、基本長く喋ることもない。大体1行で済ますからな。
「あぁ、言う機会がなかっただけでな。隠すつもりはなかった。それに、お前たちなら言っても問題はないだろう」
グワングワンを続けるセルフィの肩を掴んでやめさせつつ、思いつく限りの神官の役職を上げていく。
「なるほどね。んで…じゃあどういう役職に就いてるんだ?俺が知ってるのだと…司祭とか神父とか…あと司教?…あ、大司教とか」
「いや、俺は『祈り手』という階位だ。祈り屋の由来でもあるものだ」
「様々な人の弔いをする祈り屋は、信じている教えから離れ、様々な宗教や種族の祈りを知っておかなければならない」
「あぁ~、確かに、同じ種族でも宗教が違えば弔いも祈りも違くなるか…」
これに関しちゃあ前世でも理解できる話だ。宗教が違えば弔い方も変わる。ただ、この世界じゃあ都合よく自分と同じ宗派の人間が『祈り手』なんていう職業に就いてるわけじゃあない。だから、ひとまとめにされてるというか、どの宗教にも、どの神にも対応できるようにしなくちゃいけないんだろう。
「あぁ、だから『祈り手』は特定宗派を信じることはできない。他の宗教の祈りも担当するからな。事実上の破門だ」
「破門って…」
「だが、それでも信じている神に自らの信仰を捧げるために、『祈り手』は捧げものや信じる神の交信が認められている…殉教者に近い立場だ。信仰の為の追放、そういう形式で扱われる」
戒律が緩いと聞いていたが、それでも破門されるのか…と改めて驚かされる。まぁでも致し方ない面もあるんだろう。弔いとはいえ、他の神に祈りを捧げる行為だ、その宗教からしたら、体裁が悪いなんてモンじゃない。ましてや、信条的に相容れないところだってあるだろう。それで許されるかと言われれば、たとえ神は許しても、信徒は許さないヤツもいるだろうさ。
「また大多数の神々も、弔うための祈祷は、死者の為の祈祷であり、死者を優先することをお認めになられている」
「大多数…例外はアリ…ってのはそうか。依頼の時もあったしな」
「あぁ、例えば戦神の一柱は、命を賭した戦いでの名誉ある死を弔いとする。その場合、戦いで亡くなった時点で死と同時に弔いが終わったことになる」
その言葉でとある依頼を思い出す。確か…あれは戦闘民族と揶揄されるイカレポンチを思い出した。死してなお、闘争を求めるタイプの害悪アンデッドだ。ヤツ曰く満足できなかったらしい。おかげで祈祷(暴力)で成仏させようとしたが、クソほど強かったので、とある約束をして共有墓地に封印したという経緯がある。
実は、小広場から街を出て目的地のラルハルトに向かう前に共有墓地に寄ろうと思っているのだ。ソイツじゃなくて、別のヤツに用があるんでね。
「他では…自然神の一柱もそうだな。自然に還ることを信条としている。その場合は祈らず土に埋めたり、ある宗派では身体をバラバラにし自然に撒いたりする」
「あぁー…なるほど。てか身体バラバラにするのか…知らなかった。俺達はまだ自然神の弔いを受けたことはないからな。てかどっかの戒律に抵触しそうだな…ソレ。冒涜的とも捉えられるだろ」
ぽわんぽわんぽわんと、俺がチェーンソーか丸ノコを持って、ギュイーンっ!とふかしながら、ご遺体を分解して打ち水のように地にばら撒いている想像をして気分が悪くなったので、頭を振って意識を散らす。ろくでもねぇ想像したわ。
「あぁ、だから『祈り手』は名目上、その宗教からは破門される。それを受け入れて、『祈り手』となる」
「へぇ…なんか、忌避されそうだよな。死者を弔うためにその人が信じる戒律を破ったりするわけだろ?」
「そうだ。『祈り手』は畏怖と尊敬の念をもって接される……が大多数は畏怖が多い。『祈り手』は弔いのためとはいえ、信じる神を冒涜したり、人の死に触れる仕事だ。就いた者のほとんどは精神を病み、心を壊していく。その『祈り手』を続けている者等、壊れた酔狂者として扱われることが茶飯事だ」
厳しい世界だ。前世で言う屠殺やらを扱う人と同じ扱いらしい。血に触れる、死に触れる、そういう仕事は忌避されることが多いのはどこも一緒なんかねぇ。
「あぁー…理解した。世の為人の為の仕事なんだけどなぁ」
重たい空気になってしまったがしょうがない。この仕事は怖がられもするが、感謝も同じくらいされる。なんせ、辺境で誰にも看取られずに朽ちていくのを待つご遺体も居るからな。そういう場合にゃご遺体が泣きながら感謝される。幽霊が泣いている様は、なんというか…すごく哀れだぜ。それに、そういうご遺体に限って、クソ強かったり、偉業を成し遂げていたりするので、
「…誰かがやらねばいけないことだ。俺はこの仕事を誇りに思っている」
「へぇ…それに関しちゃ同意だ」
レリエルの言葉に力強く頷く。好きで…と言っちゃあ変な勘繰りされそうだが、この仕事は別に嫌いじゃないんだ。前世の俺的には、そういう考えが前世に近くてありがたいというのもある。世界も、ルールも、生き方さえ変わっちまってる世界で、少しでも前世とつながる部分があったらそれに縋りつきたくなる。生き死にが身近なこの世界で前世の考え方を持つ俺は、はっきり言って異常だ。争いごとからして無縁な人生だったからな。
「最期くらいはな。信じている神への祈りではなく、死者への祈りであるべきだ。そう思っている」
「祈りとは本来そういうものだろう?」
なんだか、どっかの硬派でダークなゲームのアイテムテキストか、NPCテキストみたいなことを言い出したレリエルだが、概ね同意だ。最期くらい、自分の為に祈ってほしいだろ。
「そうだな。それに、誰かに祈ってもらえるのは…」
空を見上げて、雲が揺蕩う青色の世界に伸びをしながら
「ありがたいことだからな」
ぽつり、独り言に近い様子でつぶやいた。柄にもなく感傷に浸る俺を見かねたセルフィが口を開く。
「……私には縁がない話だな」
「ん?ヴァンパイアだって死ぬだろ?不老であっても不死じゃないはずだ」
ヴァンパイアってのは、一般的に不死扱いだ。なんせ、血を摂取さえすれば絶世の美貌と不老が維持され、身体をバラバラにされても、一番大きい部位から再生していくというどっかで聞いたような生態をしている。ちなみに、大体のヴァンパイアは、自身の生存用に肺だったり腎臓だったり、肋骨だったりを抜き出して保管しておくことで、疑似的なリスポーン地点を作り出しているらしい。体内で再生してしまうと、リスポーン地点として機能しなくなるから、抜き出したまま再生を止めておくのがポイント・・・とのこと。イカレた生態してんな。
「あぁ、それに再生能力もある。相当のことがない限り死ぬことはない」
「だが、死ぬときは大抵その相当なことが起こったときや、生きるのに疲れた時だ」
「前者の場合、灰すら残さず消えていることが多い。後者の場合は、自らを神により聖別されたヴァンパイア用の聖水で満たされた浴槽に身を浸す」
「痛みなく、安らかに消えていく。そういうものだ」
安楽死みたいなモンだろうか。専用の聖水があるのは知らなかったし、そんな浴槽で自殺を図る人みたいな死に方するんだ…と若干にゃ驚きというか、…引いてる。
「どんな聖水であってもいいが、必ず神から聖別された聖水でなくてはいけない。殺傷力が足りないからだ」
「ほぇ~…。なんか、割とグロイ話だな」
俺のイメージが、なんか酸で満たされた浴槽に身体を浸しているような絵になった。ドロドロ溶けていく感じな。グロッ。
「そうでもないぞ、必要なことだからな。あの御仁と比べてしまうとあれだが…普通1000年生きれば、大抵のヴァンパイアは死を選ぶ。そのためのものだ」
「ほーん…1000年ねぇ…。今いくつか聞いてもイイか?」
ふとした疑問だ。女性に年齢を聞くんはぶちのめされても文句は言えないが…まぁセルフィだしな。
「……私は四捨五入すれば、700歳になるが?」
俺の問いかけに不服そうな、それ以上になんだかやましいことがあるような顔して答える。
「あ、すまん。言わせちまって……ちなみにどれくらいを四捨五入してるんだ?」
「………一桁だ」
一桁…つまり、700~704歳ということになるが…ふぅーん?
「二桁じゃなくてか?」
「………一桁だ」
俺が問うと、サッと顔をずらしてか細く答える。
「二桁なんだな…」
反応からして予想できるわ。二桁…つまりは、700~749の間ということだろう。反応的に、740はいってそうだな…。
「たかだか10年と1年の違いだ。そう大差ないだろう…!」
口をとがらせて文句を言うが、生憎寿命が短い人間様からしたら、10年と1年を一緒なんて切り捨てることはできない。前世のガラケーからスマホに進化するくらいの年数経過だぞ…。
「俺にとっては大差あるんだよなぁ…」
口答えする人目線での老ヴァンパイアを遠い目で見つめる。セルフィは諦めてうんざりしたように
「はぁ…、年齢を言ったんだ。私のことは黙っていてくれよ」
「へぇへぇ、理解してますよ。自業自得のセルフィが悪いけどな」
それに対して俺は適当に返した。なんせ、本当に自業自得だからな。
「この…!ヒューマンめ!たかだか百年も生きていけない短命種だろうッ!」
へなちょこヴァンパイアが、言ってはいけないことを言いやがった…!コイツ…俺やレリエルに散々迷惑かけていることを忘れたのか…!700過ぎた女が三桁も年が違う人間に世話されてんじゃねぇ!
「はァー!言いやがったなこの女郎!散々迷惑かけといて見下しやがって!セルフィって実は昔ィ~!」
このクソ雑魚ヴァンパイアに制裁を加えてやらねばならんと大声で叫ぶが直後にやりかえされた。
「あー!!あーー!!!『沈黙』!」
「過去nモガッ…ン”~”!!!」
『沈黙』それは、詠唱を必要とする魔法使いを殺す対人向けの魔法だ。効果はシンプルで喋れなくする。口を塞がれるのだ。対処法?ねぇよそんなモン。俺が隔絶した魔法使いだったり、この呪いの籠手を使えば、対処できなくもないが、こんなくだらないことで使いたくねぇ。それに、こういう時のセルフィの対処法は決まっている。
俺はセルフィに近寄って、耳元で最大限唸り声を上げながら、首元に手を突っ込む。
残念ながらというかなんというか、俺の手は死人すらビックリするほど冷え切っているので、こうして人の首筋に手を当てたりすると、冷たすぎてビビらせることが出来るのだ。
「ひゅっ…このっ…!喋れないからってやめっ…!」
可愛い声を上げながらもこちらにつかみかかってくる700超えのヴァンパイアと取っ組み合いしていると、ゴツイ手によって引き剥がされる。
「人目を引いているぞ二人共」
レリエルの言葉に正気に戻って周りを見渡すと…まぁなんというか
「…あぁ」
「……ン」
俺達は冷静になるくらい観衆に注目されていた。朝で人通りが少ないとはいえ人はいる。それに、今向かっている小広場は、外から来る奴らでにぎわってるから、それ目当ての往来だってある。ちゃんと人がいるのだ。
「ン”、ンンンンンンンンンン?(で、これ解除してくれない?)」
冷静になった俺は、唸り声でセルフィに解除を頼んだ。まぁ喋れなくても伝わるだろうと思ってのことだった。
「なに言っているかわからないが…十中八九解除しろと言っているんだろう。セルフィ、解除してやれ」
「はぁ…。まったく、世話がかかるヒューマンめ。自力解除くらいできたらどうだ?」
エリート種族が、無理難題を言ってくる。たかだか人間様が魔法を自力で解除できるわけないだろ!という目線を送っておくとため息を吐かれた。クソが。
「っぷはぁ、普通の人間だから無理に決まってんだろ。あぁいや…できなくもないが…」
「…ん?できるならしたらよかっただろう」
「使いたくないんだよ。消耗が激しいんだ。具体的に言うと、使うとぶっ倒れる」
呪いの籠手はホントピーキーな性能をしている。もっと使いやすい呪いの道具ってないのかよと思うが、たぶん使いやすかったら呪いの道具扱いされてないんだろうな。
「なるほど…戦闘中に使うなよ?」
「使わん使わん。コイツ使うときは死ぬ寸前って決めてんだ」
「二人共、着いたぞ。小広場だ」
そんな軽口を交わして、そそくさと逃げるように歩を進めていた俺とセルフィは、いつのまにかかけられたレリエルの言葉にハッとするのだった。
「おっ」
「着いたか」
東門の小広場、この街に4つある出入り口の1つであり、俺達が向かうハルベルトへつながる場所。連合国とうちの街を商人が繋ぐ交易地でもある。
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「うい、遅れた。手続きついでに話しこんじまってな」
さくっと、門番に依頼書と弔い屋であることを見せて、通行許可証をもらってきた俺は、離れた場所で待機していた二人に声をかける。
「かまわない。許可証はあるか?」
門の壁に寄りかかったレリエルに、ひらひらと鉄片を揺らす。紙や木だと燃えたりするかもしれんからな。許可証は大体金属で発行される。若干重いのが玉に瑕だ。具体的に言うと、片手でずっと持ってたら、手が少しずつ辛くなってくくらいの重さ。
「やっとか。こちらはもう準備ができている。出発でいいのか?」
アイテムボックスから椅子を取り出して、使い魔たる猫と戯れていたセルフィが猫をじゃれつかせながら言葉を投げる。
「あぁ。郊外で少し寄り道するがな」
「郊外…共同墓地か?」
「おうよ。そっから向かう感じだな。ラルハルトまで大体5日ってところだな。街道を使うと少し回り道することになるからショートカットで山の中腹を突き抜ける。山で出没する敵はリストアップしているが、今回のルートじゃ、まぁそう大したヤツは出て来ない。不必要に上登るんじゃねぇぞ。山主の縄張り入るからな」
ふと顔を上げたセルフィと相変わらず無反応なレリエルに寄り道先と目的地までの経路を言った。
「了解した」
「山主か…熊か…竜だったか?」
レリエルはいつも通りの反応。これはいい。問題は……
「やめろよセルフィ。本当にやめろよ」
セルフィ…お前だ。
「あぁわかっている。なに、心配は不要だ。行くなら一人で行く……確かあの山には山主と精霊がいたはずだ…」
「やめろよ?ホントにお前やめろよ…?」
ヴァンパイアにはほぼ不老不死だ。しかし、そのほぼ、行ってしまえば99%不老不死の1%をなくすことが出来ない種の欠陥がある。
「あぁ…光…いや闇の精霊…相性はいいはずだ。あとは許可が取れれば…」
「レリエルゥ…どうにかなんねぇのこの知識馬鹿」
種全体で、好奇心の塊なのだ。
「無理だな。ヴァンパイアとはそういう生き物だ。死から遠い存在だからこそ、生に執着することがない。生よりも興味を優先する」
「欠陥生物じゃねぇか」
そう、欠陥生物なのだ。生よりも興味を優先するから、とりあえずの感覚で罠に引っ掛かり、生きながら死に続けるなんてことに陥るのもザラだ。ダンジョンでなんか変な声がすると思ったら、罠に引っ掛かって、閉じ込められていたヴァンパイアがひたすら酸の沼に溶かされ続けていたなんて有名な話があるくらいにはな。
「だから滅びかけている。今現在、ヴァンパイアの数は減少傾向なことは知らないのか?」
「え、知らない。ナニソレ?」
いやまぁ、欠陥生物だし、大体の長命種は子供をあんまり作らないから、レア種族なのは想像していたが…。
「ヴァンパイアは生きることに無頓着だ。それは子孫繁栄にも適応される。行ってしまえば子供に全く興味を示さない。だが、大体1000年で自ら死を選ぶ」
「今から、大体1000年前がヴァンパイアが繫栄していた時期だから、多くのヴァンパイアが自死を選んで減少傾向にあるのだ」
「え、なにその高齢者多数つぼ型人口ピラミッドみたいなこと…」
げ、現代の少子高齢化社会と同じ一途をたどってるの…?俺は恐れ慄いた。そこまで欠陥生物だとは予想していなかったからだ。
「だが、ヴァンパイアはこういう事を繰り返しているらしい。他所の種族から滅びかけていることを言われてようやく腰を上げての繰り返しだ。歴史書にも載っている」
「えぇ…?」
な、なんだその…言われたから繁殖するって…えぇ…?
「だから、これから数年、十数年後にヴァンパイア繁栄の時代が来る。そうなると、あのような危機感皆無のヴァンパイアが増える。それで無駄に虎の尾を踏み、数を減らしていく」
「あぁ~…一種の生存戦略とかそういうモン?」
生存戦略として扱っていいのかわからないが…。
「…ヴァンパイアは人の血を主食とする。増えすぎれば我々が犠牲になるだろう。そうなれば人族もヴァンパイアも共倒れだ。生存を人に依存しているからな」
それはそうだ。ヴァンパイアが増えすぎれば、それを賄うための血、すなわち人も必要で、血を吸えば人は死ぬ。人の全体数が減れば、それによって生き永らえるヴァンパイアも減るだろう。だが…
「危機感欠如してるのは…」
「…もしかしたら、人間に見捨てられないようにするための種の生存形態かもしれん…。危機感がない者を適度に減らしつつ、見かねた人間に保護してもらう…寄生生物といったところか」
「えぇ……そんなので生きていけんの?」
「……実際、今も種は残っている。間違ってはいないんだろうな」
なんか……カカポ?異世界の強いカカポなの?前世で人間に媚びを売る種単体で生きていけないくらいひ弱な飛べない鳥を思い出した。ただ、カカポより圧倒的に強いが、人間に依存する生態や、危機感が欠如しているのが、まんまカカポに見えたからだ。
「そうかぁ…間違ってそうだけどなぁ」
「生命の…神秘だろう…」
「生命の神秘すげぇなぁ…」
レリエルと一緒に生命の神秘に遠い目をする。確かに、カカポも何であれで生きてるのかよくわからんしなぁ…。そうか…異世界版カカポはヴァンパイアだったのか…。そうかぁ。
俺達が二人揃って現実逃避していると、思考の海から上がってきたセルフィが怪訝な顔で声をかけてきた。
「……ん?どうした二人共?」
「あぁいや何でもない。とりあえずセルフィ、お前山は入ったら紐付けるから」
「はっ?」
「そうした方がいい。迷子になるぞ」
俺達は一も二もなくそう言った。アレだ。考え方が、赤子や好奇心旺盛な犬にハーネスを付けるイメージだ。
「いや、迷子にならない魔法も魔道具もあるが…」
そう言うが、背景…というか後ろにカカポを幻視している俺は、優しい目で諭すように言った。
「迷子になるからな。必要だ」
「あぁ、付けておけ」
どうやら俺達は心と心で通じ合っているらしい。レリエルと一緒に異口同音で諭す。
「私ヴァンパイアなんだが…」
凄い不満そうな顔で言う異世界版カカポを聞き分けのない子供を見るような目で
「ヴァンパイアだからな」
「ヴァンパイアだからだろう」
「はっ?」
「700歳なんだが?」
よせよ、異世界版カカポ。虚勢を張った所でお前はどっちみち、放置するとまずいタイプの人種だ。好奇心は猫をも殺す。猫を使い魔にしているコイツに当てはまりすぎる。知っているか?使い魔は術者の心を映すんだぞ。ヴァンパイアに猫の使い魔が多い理由を探った研究者が発見したらしいぜ。
そっと、黙ってフェードアウトするレリエルを尻目に俺は煽り続ける。
「ほら喜べよ。若者扱いしてやるって言ってるんだ」
「ほぅ、死にたいのか?」
「じゃあ黒歴史言うから…」
「おいそれはナシだろう!本当に御仁からなにを聞いたんだ…!」
「いやぁ…ははは」
「おい!イチイ!話せ!話さないと血を吸うぞ!イチイ!おい!」
「はははははっ…」
そうして、異世界版カカポをいなしつつ、俺達は共同墓地へ向かうのだった。
ヴァンパイアは異世界版カカポ。人間に依存しなくちゃ生きていけないから、とことん人間の庇護欲を擽るように進化したら、危機感を失ってしまった欠陥種族。生まれ持ったフィジカルと魔法の力で人間を守るが、平時はポンコツを晒す。そのギャップで人間の庇護を得るようになった。
異世界カカポがどんな儀式をするのかは、戦闘描写を待っててください