転生者、異世界で弔い屋やってます。   作:よくメガネを無くす海月のーれん

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死が身近な世界って書いてて苦しいけど美しい。


第二話の前書きとか、前話の前書きとか、前書きに書いてあるのは大体お話のピースというかキーだったりします。


『職務を全うして、自身の責任を果たした。我が息子として誇らしい。だが、だがな。だからといって、親より先に死ぬ子がどこにおるのだ』

老ゴブリンの心情


弔い屋と追加の依頼と苦悩

「…詳しく、聞かせてくれ」

 

少しだけ口の肉を噛み淀む意識を切り替える。シシュト爺さんの後ろ、セランとセレトもただ静かにこちらを見つめている。子供の前でする話か。でもここじゃあ、そう思う俺のほうがおかしいのだから、やはり異世界というものなのだろう。クソッタレ世界だ。

 

シシュト爺さんは、ゆっくり、一つずつ話し始める。ためらいがちに口を振るわせる姿に、さきほどまでの軍人のような面影はなく、そこにあったのはただ息子を失って力が抜けてしまった父親しかいなかった。

 

「ラルハルトの先の戦いには自警団も関わっておったのダ。ただ…先の戦は荒れに荒れた。話には、指揮官の戦死、裏切り、星4つの冒険者による環境魔法と…ここ最近で起きたものの中で一番大きなものとなった」

 

「儂の息子、ソド・アシュア・シントは自警団のまとめ役をしておってな。先の戦いでも自警団を指揮しておったが…指揮官の戦死を機に撤退命令が下ったらしい。儂の息子は自警団のみなを逃がすために、殿を務めた」

 

「手紙には、敵に囲まれながらも獅子奮迅の活躍をしとったそうな。ダが…」

 

ペンダントを指差す。視線を落とすと、昏く暗く光を吸い込む石が煤けて見えた。

 

「息子にも、そのペンダントと同じものがある。それが白く染まったのダ」

 

「儂に似て頭は固いが思いやりはあった。いい嫁さんをもらって、孫も出来ていた。幸せな生活を送れていると文にも常々言っておった」

 

喉から絞るように声を出す。

 

「その息子は……あっけなく死んダのダ」

 

その言葉を皮切りに堰を切ったように言葉が並ぶ。それは抑えきれない感情が噴き出たからだ。言葉だけじゃない、身体にも表れている。小さく震える姿に俺は直視できなかった。

 

「小さくとも牽制の為ダろうと、戦場は戦場ダ」

 

「どれダけ強かろうと弱かろうと、死ぬときは死ぬ。当たり前ダ。ダがな…わけもなく…わけもなく…」

 

「儂の息子は死なんと……妄信しておった。死ぬわけがないと思いこんどった」

 

「改めて、訃報を聞かされたとき、耄碌したかと自分自身を疑った」

 

「百も承知しとった。覚悟もしていた。そのはずなのにな…」

 

「死んでもこの世に残るヤツはおる。未練や後悔でな。…ダが儂の息子は違う」

 

語る言葉には強い自信があった。それは間違いようのないものなのだというように。ただそれが俺にはまるで呪いのように見えた。呪ってしまったことを心底後悔するように。

 

「使命を、責任を果たして死んだと訃報には綴られておった。殿の仕事を十二分に果たし、息子のおかげで自警団のみなは無事ダと聞いた」

 

「儂の息子らしい…最期ダ。胸を張って死んダのダろう。そのような最期なら未練もあるはずがない。そう教育したのはほかならぬ儂ダ。頭の固い儂に似た息子なら、意地でも責任を果たす。仲間を守る為に命を賭した息子を褒めてやらずに何が親か。何が………父ダ」

 

「たダな…」

 

「会えないと、そう理解した途端、儂は途端に力が入らなくなった。いままで、剣一筋で片時も気を抜いたことがなかったのにな。情けない話、その後から剣を振れなくなってしまったのダ」

 

手を確認するように、握っては放しを繰り返す。剣を撫でるその手つきには深い絶望とどこに行けばいいのかわからないと途方に暮れた人間の、ためらいが、諦めがあった。

 

「腑抜けてしまったのダ。息子を失って」

 

影が、シシュト爺さんを覆った。

 

「実は儂もラルハルトに向かう予定ダった。ダが、子等が火熊に襲われていると聞かされてな…。居ても立っても居られず、無我夢中に振れぬ剣を握りしめて飛び出したのダ。あるいは…息子の影を追ったのかもしれん」

 

「子等を助けて死ねるなら、儂も息子と同じように死ぬことが出来たなら、それでよかったのかもしれん」

 

自嘲して、吐き捨てる。

 

「結果は見ての通りダ。ろくに剣も振れぬ老人が若いとはいえ火熊に勝てるはずもない。幾ばくかの足止めをした後、こうして猪を走らせ命からがら逃げだした。その末に…其方等に助けられた」

 

言葉が止まる。声もなく動かされる口はまるで嗚咽を我慢するように、だがその我慢はとうにできなくなっていて、続く言葉をせき止めることは出来なかった。

 

「過ぎたる願いだと理解しておる。其方等も仕事があるのダろう?無理強いはしない。ダが…ダが…」

 

震える姿、歪む顔、あぁ…クソ

 

「頼む。…息子に、息子にもう一度…会わせて……くれないか」

 

ぽたりぽたり、流れた涙を皮切りに滂沱のごとく嗚咽する。まるで急に言うことを聞かなくなったのだというように、両手を使って顔を覆うが涙が止まることはなく、ただ、ただ、苦しいのだ、哀しいのだと、胸に抱えた想いを吐露する。

 

「あぁ、あぁぁ…今更に後悔が押し寄せる。教えてやれることなど他にもあったダだろう。剣しか、命を捨てる術しか教えてやれんかった。…身を護る術を、生きてやれる術を、もっと、…もっと」

 

俺は上を向いた。雲が少し浮かぶ青い空を見ていないと、この感情を整理しきれないからだ。ため息を吐き出したところで、胸にあふれるこのやりきれなさによって思考はすぐに霧散する。落ち着けるわけがなかった。

 

当たり前、日常茶飯事、そのはずだ。そのはずなんだよ。なんで、なんでこんなに…

 

「死した者が現世に戻るは大罪ダ。大罪なのダ。息子には何の罪もない、寧ろ褒められるべき善行を成した。ダから、これは儂の我儘ダ。我儘…なのダ」

 

「頼む…頼む…、……其方等、儂に…最後に…息子をもう一度…もう一度だけ……撫でさせてくれんか」

 

苦しくて苦しくて仕方がないという懇願に、俺はもう耐えられなかった。

 

~~~~~~~~~~

 

感情を昂らせて冷静でいられなくなったシシュト爺さんを子供達に任せ、セルフィとレリエルで話し合う。どうやら、セレトとセランにとって最近になってだがよくあることらしく、慣れた手つきで背中を撫でる。そんな、不安定になってしまったシシュト爺さんを元気づける為に山に入って、とあるものを探していたらしい。そんな折に火熊に出会ってしまって逃げ回っていたという。よく助けを呼べたなと思ったが、どうやら声を届ける道具を使ったとのこと。まぁ今はそれよりも…

 

「受ける…んだろう。二人からしたら」

 

「あぁ、依頼中に別の依頼を受けるのはあまりよろしくないが…目的地も一緒だしな」

 

「…報酬としても申し分ないはずだ。アイテムボックス付きの外套など買うにしても幾ら積むか…そういう代物だ」

 

そういうが…まぁこればっかりは俺も本音で話すしかない。それだけじゃないはずだろ二人共。

 

「腹を割って話そうぜ。二人はどう思う?先の小競り合い。報酬がどうとか、目的地が一緒とか置いといてだ」

 

「受けるのは確定事項として…だ」

 

頭を掻きながらそう前置く。いつだって、二人は仕事を断らない。断ったり難色示すのはいつも俺だ。二人は信条というか信念というか…まぁ救えるヤツは救いたいんだろう。俺自身救いたいのは山々だ。でもそれ以上に話がややこしくなっているのが直感でわかる。環境魔法?聞いていない…というより態々戦場での出来事をこと細やかに伝えられるわけじゃない。俺達が必要とされるのは弔い出会って戦闘じゃないからだ。情報不足、真綿のように首を絞められていく。

 

「正直な話…どうにも一筋縄じゃない気がするのは私も同感だ。だからといって仕事を投げ出すわけじゃないが」

 

「……裏切りがあったと聞いた。もう少し詳しく聞かないといけないが…少なくとも、星4の冒険者を相手するかもしれないのは確かだ」

 

レリエルの言う通りだ。環境に干渉するタイプは戦う上でこれ以上ないほど厄介だ。足元を急に崩されれば人間立ってられなくなる。当たり前のことだが、戦闘中は酷く致命的な隙を相手に与えてしまう。ちゃんと強い。

 

「あぁ…それに環境に干渉するタイプならご遺体探しも難航するぞ。埋められでもされれば、俺達は土木業者にジョブチェンジだ」

 

特に期限指定されていないからこそ厄介だ。1か月ぐらいを土堀に当てなきゃいけなくなるかもしれない。どこに埋まっているかわからないご遺体を傷つけるかもしれないのにな。

 

「ふむ、私の意見としてはだ。依頼主に言って人員確保をしてもらわないと厳しいだろう。掘り返すにしても…敵襲があるにしてもだ」

 

「…同感だな。弔うことが仕事であって、戦闘分野は専門に敵わない。安く見積もっても、戦闘型の星3が3人…4人程度が限度だろう。それ以上は対処ができないな」

 

そう口々に言う二人に頭を掻く。

 

「本当に…本当に難しい依頼になってきた。依頼主からの協力も()()()の力も借りないといけなくなる。もちろん、費用も時間も…危険も高くなる」

 

「それでも…受けるんだよな?」

 

再三の確認。というより、こんなもの決定事項の確認だ。

 

「あぁ…受けなければ弔い屋に成った意味がない」

 

「…同じくだな。イチイには迷惑をかけるが…それでも心は変わらない」

 

固い意志でそう言われる。なんだってこうもこの仕事する奴らはメサイアコンプレックスみたいなモン拗らせてるんかねぇ…。救いか願いか…はたまた誰かに重ねているのか。でもきっと、それは部外者には口も挟めないもので、当人だけが心に秘めておかなければいけないものに基づいている。それは俺も同じことで…とどのつまり、俺だってコイツ等と変わらない。

 

「…おーけーおーけー。わぁーってるよ。理解してる。お前たちがそういうスタンスなのは」

 

そんなことを言うが俺だって同じだ。こんなのただのポーズで、これがもし依頼を受けないと言われていたら難色を示していた。シシュト爺さんのあんな姿を見て、受けない理由はない。

 

言葉なく頷きあい、俺はシシュト爺さんに振り返る。目線を合わせ、顔を近づけ、声をかける。優しく、だが力強く…

 

「受けるよ。その依頼。受けさせてもらう。俺達がちゃんとご遺体をアンタの元に届けて弔う」

 

「本当か…本当に…良いのか?」

 

涙をぬぐいながら少し枯れた声色で問いかけられる。あぁ、大丈夫。アンタのその想いを蔑ろにしない。

 

「アンタが息子に抱える想いは十二分に伝わった。報酬も問題ない。その依頼受けさせてもらうよ。ただ…少し話を詰めたいところがある。息子さんを届けるために必要なことだ。協力してもらいたい」

 

「あぁ…あぁ…すまない。儂の息子を頼む。そのためなら話せることは話そう」

 

「助かる。まず…」

 

そうして、得られた情報はなんともまぁ閉口するしかない情報だった。

 

ラルハルト近辺で起きた小競り合い。これはまぁ大層面倒臭い利権やら政争やらが関わっているそうで…。元々、ラルハルトの近くに銀山が発見されたことに由来する小競り合いだったそうだ。ラルハルトとその隣街、ヴェルサのどちらが採掘権を手に入れるかで揉めていたらしい。一応、ラルハルト側にあるのだがそれもラルハルトに寄っているというだけでほぼ中間の場所にあるとのこと。それに、銀山はとても金になるので、たとえそっちに寄っていようと、欲しいというのがあちらの言い分だろうと。

 

これだけなら、ラルハルトの兵隊さんとヴェルサの兵隊さんが揉めるだけで済んだ。問題はヴェルサ側がケツ持ち…後ろ盾に助けを求めたことだ。ここらへんで派閥争いやらなにやらが混ざるから詳しいことはわからないそうだが、結果として、ヴェルサ側が大量の兵を派遣して占領し始めた。それを知ったラルハルト側も後ろ盾に助けを求め、大量の兵が派遣。小競り合いはもはや小さな戦争、いや内紛と呼べるものになってしまった。

 

おかげで、軍隊様だけでは足りず、民兵…自警団やギルドの冒険者も取り込んで戦争するようになった。なってしまった。おかげで起こったのが、先の泥沼戦らしい。

 

戦場は泥となってぬかるみ、足を取られながら、相手を殺す。環境魔法で戦場は泥まみれになって、四方から飛んでくる魔法を死体をもって防ぎながら遅々と突貫する。なんせ、両者はもう引くに引けなくなった。ここで引けば面子丸つぶれだからだ。指揮官に貴族を据えての殺しあい。

 

そこに、裏切りも加わってくる。訃報の手紙に書いてあったそうだ。確かに、友軍であったはずの、仲間の騎士が魔法を指揮官に向けて放ったのだと。そのおかげで、軍隊は疑心暗鬼に陥り、戦いどころではないと。自警団も疑われ、しばらくは外に出ることも許されていないと。そう記されていた。

 

本当に…キナ臭いどころじゃない。御上のことに下々を巻き込むなと言いたいが、街に住む者にとって治める人間は絶対だ。ましてやここは異世界で、貴族というのは別の生き物といっても過言ではない。面子のために命を捨てるというヤのつく人みたいな思考だ。後ろ盾が出しゃばってきた今、引いてしまったら面子丸潰れだろう。

 

ただ、今回の小競り合いでラルハルトは負けてしまった。指揮官である子爵の戦死。銀山は盗られるか…はたまた攻勢に出るのか…。どちらにしても、このまま敗戦で終わらないだろう。

 

つまり…俺達がラルハルトに着いた時、小競り合いどころじゃない戦争に駆り出されるかもしれない。

 

あぁ…クソ。本当に…。

 

今すぐに頭を掻きむしりたいが、そんなこともしてられない。必死に頭を回して打開策と今後の身の振り方を思案する。

 

シシュト爺さんに断りを入れ、再度話し合いに入った。腰のホルダーから紙を取り出し、いつものようにファイアースティックを取り出す。インク瓶に軽く浸して紙に状況を羅列していく。

 

「とりあえず…とりあえずだ。仕事の完遂をメインに据えるとして、懸念事項が幾つかある」

 

スティックの先をがりっと噛む。いけないな…力が入った。

 

「兵隊として取り込まれる可能性と、仕事中に攻撃される可能性だ」

 

「前者に関しては依頼主と相談するしかないだろうな。彼方としてもご遺体の帰還が目的であり、戦争に参加させるために呼んだわけじゃないだろう」

 

「…いや、わからんぞ。イチイの能力を求めているならば仇討も要求されるかもしれない。死者の完全な憑依…そういうことが出来るのだろう?」

 

レリエルの話にあぁと頭を抱える。そうかよ…!そういう事か…!俺だからかよ…!

 

「……出来る出来ないで言えば、出来る。身体を貸すということになるけどな。いや…主導権を渡さなければいい話だがそれにしたって厄介が過ぎる…!前線に行くことになるのは確定してるじゃんかよ…!」

 

そうだ。俺の力は死者を現世に繫ぎ止めるものだが、別にそれだけじゃない。俺は一度死んでいるので、肉体と魂との繋がりが人より薄いらしい。それはいってしまえば魂を入れ替えやすいということであり、憑依というより成り代わりのような状態になることが出来る。主導権を俺が握っていれば早々なることはない。ないが…可能性はある。

 

空気を入れ替えるようにセルフィが声を上げる。

 

「前線に行かなかったとしてもだ。後者に関しては攻撃されると断言してもいいぞ。今だって睨み合いの状態に落ち着いているだけでこれからも諍いは続く。監視の目もあるだろう。例えこちらが弔い屋だとしても…どさくさに紛れてやられる可能性は高い。相手は裏切りという一線を越えたのだからな」

 

「はぁ…だよなぁ…。戦場に行くってなると、そこらの不文律は機能しないといっていいだろうさ。戦場に立って殺すなー…なんて流れ弾で味方が死ぬかもしれない戦場において甘ちゃんもいいところだ」

 

ン~…本当にどうするか。とりあえず目下の懸念点は依頼主からの仇討依頼が来るかもしれないことか。戦場での攻撃に関しては一応不文律を願いつつ、攻撃されたら迎撃するように動くか…?それとも…夜……だと怪しまれるな。いっそのこと兵隊巻き込んで…うーん…

 

「…ふむ。ラルハルトに着く日、少し別行動をしてもいいか」

 

「ん?レリエルはラルハルトに何か縁があったりするのか?確かにそこそこに行く街ではあるが…」

 

「…少し、な。一人、もしかしたらだが……手伝いをよこせるかもしれん」

 

光明…といってもいいのかわからないが、どうにかできる算段があるらしい。この際、3人から4人に増えるだけでもありがたい。3人だけだとどうしても対応できる幅に限りがある。

 

「…というと?」

 

「神官…祈り屋になる前の伝手を当たる。此度の依頼、死者も相当なものだ。…問題なく戦場でも動ける人物に心当たりがある」

 

「となると…今私達がやらなきゃいけないのは…戦いの準備か。…イチイ、野営地で簡易的な属性診断の後、お前にできる限りの魔法を仕込むことになる。戦場までに…2つ…いや1つ習得できれば十分だ。いけるな?」

 

「あぁ、分かった。レリエルのほうも聖法ってのはすぐに扱えるものか?」

 

「…無理だな。祈りや聖別といったことが必要だ。手早く…というわけにはいかない」

 

「となると…魔法がメインになるか。分かった。出来る限りの用意をしてからラルハルトに向かう。二の足を踏んでいると戦時に突っ込むことになるから、日程は変わらずに野営地で一夜を過ごした後、ラルハルトに向かう…いいな?」

 

「わかった」

 

「…了解した」

 

一度話が進めば早いもんで、手早く今後をまとめると、シシュト爺さんに再度向き直る。

 

「シシュト爺さん、俺達は少し急がないといけない。村まで護衛…と考えていたが、そうも言ってられなくなった。置いて行ってしまうことになるが…どうする?無理をさせてしまうが同行することは出来る」

 

シシュト爺さんの言葉を待つ。置いて行くのは心苦しいが…

 

「かまわん。頼んダ手前ダ。猪を走らせれば今日中に村に着くダろう。火熊が異常なダけあって、この時間帯に猪を襲う獣はおらんからな」

 

子供達に支えられながら言葉を紡ぐシシュトの爺さんは、確かに強い口調で言った。

 

「儂等のことはいい。最悪…儂を犠牲に子等を逃がすことは出来よう。…息子を頼んダ」

 

綺麗に頭を下げられたら、こっちとしても頷くしかない。まぁ無理させようとした側がいうのもなんだがな。

 

「…わかった。危険を感じたら真っ先に逃げてくれよ…頼むから」

 

「あぁ…わかっておる…それと」

 

話は終わりかと思った手前、後ろ髪を引っ張られるようにたたらを踏む。

 

「儂が報酬にといった外套。あれを使え。戦場での用意が必要なのだろう?…自警団には村に帰った後伝えておく」

 

「いいのか?貴重な代物だろう?」

 

「あぁ…ダから、約束は違えてくれるな…本当に、頼むぞ」

 

「…わかってる。任せてくれ」

 

鋭く覇気のこもった眼で念押しされる。本当は自分もラルハルトに行きたいだろうに。それを俺達に託した…そういうことなんだろう。剣が振れないなんて嘘みたいだ。目線だけで人が殺せるくらいに圧を持っている。色々な感情が綯交ぜになった瞳をしっかりと見つめてそう返す。目は逸らしちゃいけない。向き合ってあげないといけない。

 

 

遺された人の想いを、背負っていかなくてはいけない。

 

 

数秒の沈黙と共に、ふっと力が抜ける。空気が緩み、シシュトの爺さんは目線を落とす。静かに後ろを振り返り、子供達の背中を押していく。どうやらお眼鏡にかなったらしい。俺達は火熊の必要なもの…毛皮や魔石、一部肉や内臓をセルフィのアイテムボックスへと入れ、出立の準備をする。

 

「じゃあ…俺達は行くよ」

 

「あぁ…気を付けな」

 

準備を終えた俺達はシシュト爺さんの背中に声をかけて、返す言葉を合図に進み始める。一歩、二歩三歩と歩む速度を上げていき、火熊と遭遇する前より早く足を進める。セルフィは自身を魔法で浮かし、俺の背中に掴まる形での移動だ。レリエルと二人で街道を疾走していく。野営地に着くのが早ければ早い程、準備を細かく進められる。時間との勝負だ。

 

小さくなっていくゴブリン達の姿になんとか手を振りつつ、眼前に見える山を目指す。目の前の山は、山頂が青く青く染まっており、八合付近から下はくっきりと分かれるように緑に染まっている。随分おかしなことになっているが、住んでいる生き物のせいだというのだから恐ろしい。

 

俺達は眼前にそびえたつ山、セルフィが言うには山主というそれはそれは大きな精霊が住んでいるらしい山に向かうのだった。




2000字くらい短いけど、きり良くここまで。

話が遅々として進まないのもどかしい。構成力の問題だけど。
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