転生者、異世界で弔い屋やってます。 作:よくメガネを無くす海月のーれん
教書に記された文、その抜粋
死んでも死人に会える世界で何が禁忌かは…追々。頑張ってサクサク行くよ
翌日早朝、目を覚ます。あの後、俺達は野営地に無事にたどり着いた。そこから野営の準備もそこそこに、魔法の習得に入った。深夜まで続いて…まぁようやく1つ覚えられたという…何とも情けない結果となったが…。自分の才能のなさに嫌気が差すね。ホント。俺がどんな魔法を覚えたかは…後の楽しみにしてくれ。
寝ぼけ眼をこすりながら、簡単な朝食…つってももらった熊肉を焼いて塩を振ったパンで挟んだだけなんだが…を済ませて出立の準備をする。
「おはよう…その様子を見る限り、詰め込み過ぎたか?」
「いや…別のことでな。昨夜は助かった。一つしか覚えられなかったが…手札が一つ増えただけ上出来と考えよう。それで何とかするしかねぇ」
「前衛で扱う魔法として相性はいいはずだ。それに、基礎的な要素は盛り込まれているから使い続ければ他の魔法を覚える時の一助となる」
「了解…。ちなみに…俺の魔力を考えると何回使えたりする?」
「ふむ、4…5回使って身体強化の魔法や『防壁』の魔法が2回ぐらい使える…か?自然回復分も考えると推定になってしまうがその程度と考えていい」
「わぁーった。手っ取り早く魔力を上げる手段ないかねぇ…」
やいのやいの愚痴りながら、野営に使った道具を畳んでいく。はぁ…と不意に吐いた溜息、しょうがないんだけどな。
笑うに笑えない状況だ。沈んだ状態のままに動き始める。
…切り替えるべきなんだろう。部外者が未練がましいなんて思うなって言われちまう。それを思うのは遺族であって俺じゃない。それでも、遺族のご遺体の話を聞いて、気が滅入らない人間なんて早々いないだろう。居たら言ってくれ。天職だぜ?
心と同じように暗澹とした空を見上げる。生憎の曇り模様。一雨降りそうな気配がする。鼻につくんだよ。雨特有の、湿気った臭いがな。暗澹とした心持ちの中、野営地を出発した。
前日とは異なり、特に問題もなく進むことが出来たのは幸運だろう。昼に入る前くらいだろうか。俺達はようやくラルハルトに着いた。着いちまった。…まったく人の気配が感じられないラルハルトに。
滑ったような汗が背中を流れる感触がする。降り始めた雨のせいだと信じたい。
ぽつぽつと降り始める雨に、固く固く閉ざされた門、窓口から覗かせる衛兵の顔は厳しくまるで犯罪者を見るような目…話に聞いていた通り、疑心暗鬼というか街の雰囲気は最悪だな。身分証明に必要な物を持ちつつ、害意がないことを示すように俺が代表して近づいていく。周りに人は一切いない。結構大きな街だから行商人はそこそこ通るはずなんだが人一人いねぇ。
「よう。忙しいところ済まないが依頼でなァ。これ、ギルドのタグと便宜書。依頼主はフェルスバー・リエンジェンスの奥様だ。印もちゃんとある。これでどうだ?」
冒険者証を見せ、依頼同封物の一つとして入っていた便宜書を渡す。これは俺達が来たら、そのまま自分の所に呼び出すようにということが書かれたものだ。そのために色々と手続きを省けという意味合いもある。まさしく便宜を図ってもらえる書類。貴族様様だな。ここら辺で揉める仕事は結構ある。
「……少し待て」
渋面と端的に返された言葉と共に衛兵が引っ込む。なんとまぁ疑念マシマシなこって。街に入ってからの事を二人と話し合いながら待つこと十数分。先ほどの衛兵が窓口から顔を出し、無感情に声をかける。
「報告はまだ話が付いていないが、印が本物であることは確認できた。関所の中で待機してくれ」
その言葉と共に門が少し開けられる。人が一人か二人は入れそうな隙間から、衛兵が一人顔を覗かせる。さっきの人と打って変わって偉そうな…鎧の装飾が違う…人がこちらに言葉を投げてくる。
「来い…依頼を出していることは知っている。だが正直なところ、それどころではないくらいに問題が膨れ上がっている。シェリエステ様…フェルスバー夫人に話が通るまで、この街の現状を話そう」
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ツンツンの薄金髪で黒目という珍しい風体、高身長で大層ご立派な鎧を着ている。その上からでもわかるくらいに体つきががっしりとしている…そんじゃそこらの衛兵とは別格だな。個室へと案内され座らされた俺達に対して、右手を親指が開いた状態で首筋に当て、左手を胸の前で握り、慇懃な振る舞いでこちらに頭を下げる。
「挨拶が遅れたな。衛士隊、衛兵長のラングルだ。此度は子爵の依頼を受けてくれたこと真に感謝する」
大して、こちらも…つっても代表の俺だけだが、同じような動作でお辞儀をする。貴族の葬儀のマナーというヤツだ。どういう動作かというと、胸に当てた左手は人の心臓を示し、右手は翼を表しているとされる。親指側だけしょぼい翼だが、これをすることで、亡くなった貴族が街や血族を守護する祖霊となれるようにという祈り…となる。翼生やして空から見守っていてくださいという祈りだな。何で翼生やしたかはわからん。今度レリエルにでも聞くか。
おっと、思考を戻そう。一応ながら依頼で来た身、出来る限りの礼節を尽くさないといけない。俺は背筋を正して先の礼を行う。この時添える言葉は死者を念頭にしたものでないといけない。ここに神様がどうのとか言うと、アウトだ。お相手がどの神様を信仰しているか把握してないからな。前世の大きな宗教が平然とひしめき合っていがみ合ったりしている世界ならではの配慮だ。死人を優先したからあなたの神を貶したり他の神を贔屓するようなことはしてないですよというポーズ…面倒くせぇったらありゃしない。
「先ずお悔やみ申し上げます。我々弔い屋は故人に寄り添うのが務めですのでお気になさらず。依頼を承った以上フェルスバー子爵のことはお任せください」
「…ご配慮痛み入ります。死人の前でむやみやたらに争えばどんな怒りを買ってもおかしくありません。我々も重々承知しています。淀みのない祈りとなるよう願っております」
はい、おっけー。これはあなたの言い分はわかってますから大丈夫ですよという意だ。あと依頼ちゃんと成功させろよという意でもある。形式とはいえ言葉の裏に真意を隠さないでほしいよ。最初の頃、言葉通りに受け取ってたからな…。
「……ふぅ、済まないな。儀礼的なものとはいえ付き合わせてしまって。気を抜いてもらって構わない。そういった堅苦しいのは苦手でね。私のことはラングルでいい」
一通りのマナーを終えた衛兵長はふっと肩の力を抜いて楽にするように言ってくる。わかる、わかるぜ…普通に貴族関係は気が抜けないというか…誰も見てなくてもマナーしっかりしないとっていう重圧あるよな…。実際、どこに目があるか分かったもんじゃないので、ここに自分たち以外の人が居なくてもこういうのは厳しくやらないといけない。だから貴族面倒臭いんだよ…。
「いや…こちらも堅っ苦しいのは苦手なもんでね…助かる」
「何…こちらとしても生まれは平民だ。立場としては実力で成り上がった粗暴者として扱われるものだから形式的なものでも括っていかないと、知らぬ間にやっかみで首が飛ぶことになるからこだわるが…君達にも畏まられると心が持たない」
疲れに疲れた中間管理職の雰囲気を纏いながら苦笑する。苦労してんね…。本当に。
「衛兵長としては…街を守る者の顔として、品格を損なうような口ぶりや振る舞いは避けないといけないのだが…生憎体裁を繕う余裕がない程に追い詰められているのが現状だ」
その言葉と共に、きゅっと顔が締まる。苦悩、まさしくその言葉で表せるように苦虫を20匹か30匹噛み潰したような顔をされると、こちらとしても兎角言ってられない。ちゃっちゃか進めていくしかないな。
「…わかった。早速本題に入ろう。依頼のことについてもそうだが、街の状態についても…あぁいやこちらが知っていることを話す。補足してってくれ」
「…すまない。すぐにでも仕事に当たってほしくてな。説明する時間すら惜しい。そうしてくれ」
矢継ぎ早に言葉を返す。相手としてはこうして話している一分一秒が惜しいと感じているのだろう。ならこちらから話せばいい。抜けている部分を補足していく方がこちらとしても、一から十まで聞かなくて済む。必要な事だけでいい。あとは軽い問答で済ませりゃ完璧だ。
「あぁっと…まずこの戦いの原因について。銀山の取り合いから発展した…後ろ盾の争い…でいいのか?」
「概ね間違いない。加えて言うなら、銀山に併設されるように地下遺跡も発見されている。それの取り合いも含まれているな」
ひゅー、嫌な話がどんどん追加される。バーゲンセールか…?地下遺跡ってことは遺物やらなんやら出土すんだろ?暴走するかもしれない不良品が。クソ過ぎないか?どうして秘匿していたんだよ…。だが今はいい。俺達の目的は子爵様の回収と近くに居る故人の出来る限りの回収だ。いざとなったらトンズラこけばいい。
「おぉーぅ…爆弾どころじゃねぇな…。次に戦場、相手さんが環境魔法使いを引っ張り出して環境をめちゃくちゃにしたってのは合ってるか?」
「合っている。現状は睨みあいの状態で一時休戦…というより様子見の状態だ。その間、遺体の回収に乗り出したが…ほとんどが相手の泥によって埋もれてしまった。もちろん…子爵様もだ。一部の故人は見つけられたが、子爵様は未だ…」
「なるほど…次に子爵様の死因について…踏み込んだ話になるが…裏切り、そう話に聞いている。間違いない…のか?」
「……あぁ。恥を晒すようで情けない話だがな。子爵様の私兵…護衛騎士の一人が裏切り、魔法をもって子爵様の胸部を貫通。その直後に攻め込んできたヴェルサの兵に紛れ逃走された」
概ねシシュト爺さんから聞いていた通りだ。ただ…そうなると一つヤバイ事項がある。
「ふぅ…はっきり言わせてもらおう。言葉を選んでる時間もないだろうしな。…悪霊化していてもおかしくない」
子爵…貴族の悪霊化。どっかで言った通り、死んだ人間は強い自我や力を持つと死後も現世に留まることが出来る。だが、それは魂だけの状態になることで、言ってしまえばコップがない水だ。粘度が足りなければ四散する。どれだけ強い人間、高い粘度を持っていても、魂の四散は発生する。それがどんどん積もっていくと魂がどんどん消えていくということになり、それに耐えきれなくなった人間が発狂する。悪霊化のおさらいだ。ちなみに、悪霊化のトリガーは、未練や後悔、深い恨みなんかが該当する。塵積のストレスが一つの出来事によって爆発するって考え方でいい。裏切りとかは特にな。
「っ、そうか…」
「あぁ、その場での弔い…言葉を選ばずにうなら討伐しなければいけない状態かもしれない。戦いからどれくらい経っているんだ?」
「1週間半だと記憶している。放置するほどにマズい状況であるのはこちらとしても理解している…!だが、相手も相手だ!回収を邪魔するようなことばかり…!」
「焦るな…。まだわからない。なんたってアンタの主人は貴族様だ。高潔さで言えばグリフォンと張り合えるくらいの尊い血統。悪霊化するくらいなら…と召されていてもおかしくない。あるいは…正気を保って未だ敵陣で戦っているか…そういうことが出来る人間が貴族だと認識している。それに…アンタが思う子爵様はそう簡単に邪悪な者になったりしないはずだろ?」
1週間半…10日も?ははっ…最悪に最悪を更新するかもしれない情報に血の気が引く。先の言葉はどちらかといえばそうであってほしいという俺の願いの言葉だ。裏切られて…自分の死体も放置されて…10日も経っている。悪霊化してない方がおかしい。それこそ、貴族の高潔さを願うくらいには…な。
「…はぁ、済まない。取り乱した。…見知ったような口を言う。会ったことがあったか?」
「いいや…ただ、夫人からも…あんた等からも依頼が来て…それ以外にも商人や色々…色々な人間から依頼が来てんだ。どれだけ人望があったかなんて察せられる」
珍しい貴族だ。帝国でもやっていける程度にクソ真面目だぜ。
「そりゃあ貴族にも腐ってるヤツはいるさ。でもそれ以上に…ノブレスオブリージュで腕が捥げようとも立ち上がる人間なんて貴族しかいねぇ。慕われる人間なんざそれこそだ」
「…あぁ、子爵様は尊い御方だ。民のための貴族、それに最後まで順守しておられた。だからこそ…このような事態に陥らせた自分が酷く…情けない。頼む、弔い屋。子爵様を、子爵様を安らかに、尊き御方にふさわしい眠りを、祈りを捧げてくれないか…頼む…!」
膝に両手を置き頭を下げられる。必死の嘆願だ。懇願される故人が羨ましく感じるくらいの…な。
「頭を上げてくれ。先も言っただろ。必ずあんたの上司を届けるさ。それが俺達の仕事で、使命なんだからな」
「すまない、ありがとう。……そのためには仕事を全うできるようにするべきなんだがな……」
「先に話してくれたことだが、いくつか補足と…新しい情報がある。悪報だな」
「…というと?」
「子爵様ではないが…戦場にて死霊の姿を幾つか確認している。デュラハンが多く、次いでレギオン。悪魔…山羊頭と鳥頭が数人だ」
「まぁ戦場だからな。居るだろうとは思っていたが…悪魔もか。山羊は魔術師、鳥頭は…種類はなんだ?」
「遠目だけだが、すべてが黒い頭と。烏…というのが魔術師たちの見解だ。暗示は嘘、悪知恵と」
うへぇ…となると魔術師と工兵の複合だ。帝国で多く発生する手合いだがたまに生まれる。面倒くさくてありゃしない。ただフィジカルは雑魚だから、突貫して真正面から潰せば終わりの雑魚だ。…時間さえ与えなければの話だがな。
死霊はその見た目で大体どんなやつか把握できるようになっている。デュラハンは戦死した兵士や傭兵に多い。レギオンはデュラハンに成り切れなかった奴等…。まぁ残酷な話雑兵だ。あと町人や村人なんかもコレだ。山羊頭の悪魔は、魔術師から生まれたヤツ。鳥頭…の中でも烏頭の悪魔は狡賢く罠を仕掛ける。生前工兵だったり奴等がなる。
他にも色々だ。泣き女…バンシーだったり、ジャックランタンだったり…貴族はガーゴイルだったりと多種多様。
「続いて、戦場だが…未だに泥沼が続いている。どこかに術師となる魔法使いが潜んでいると考えていいだろう」
「1週間以上の環境変化なんざ儀式をしても難しいだろうよ。魔法の更新のためだろうな…これだけか?悪報っていうにはそこまでだが」
死霊が出ることなんざ鼻から計算に入れている。環境魔法もある前提だ。掘り出すのが面倒なのには変わりない。戦闘するかもしれない懸念もあるが…そこまでじゃあない。
「何…これは敵に要因があるわけではない。寧ろ逆、こちら側の問題で…君達、弔い屋にとって芳しくないものだ」
ははん?これだから貴族ってのは怠いな?なんだ?はよ持ってこいっつー催促か?それとも…追加で誰かも運ばないといけないか?
少しばかり身構えながら、先を促す。この瞬間はどうも嫌いだ。まるで罰ゲームを言い渡される時の間みたいに落ち着かなくなる。
「…もったいぶらず教えてくれ。ここまで聞いて依頼を断るなんてことしない……よほどのことじゃない限りな」
「そのよほどのことに当たらぬことを祈ろう……依頼に追加の要件だ」
「子爵様の娘…リエンジェンス家のご令嬢が仇討を申し出た。同行を頼みたい」
仇討、それは他殺によって家族や恋人を失った遺族が求める復讐の依頼。多くは誰かに代行してもらうかあるいは行政に任せるかだが…こうして時折自らの手で仇討したいという者がいる。好きにしてくれと言いたいが、こと弔い屋に依頼を出すとそれは全くの別物と化す。
仇討したい対象を完膚なきまでに貶しめ、霊体として戻ってくることすら許さないほどに消滅させる。
冒涜の依頼となる。
「ふざけるなよ…!」
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「はぁ………」
応接室、残された俺達。ラングルは呼び出されたか何かで出て行ってしまった。貴族が着いたかなんかかな。
吐き出す息は重い。天井を仰ぐ。豪華な照明だ。眩しくて、目を閉じる。最低最悪だ。
やって良い事と悪い事があるだろ?俺の中で魂を消滅させるというのは後者に当たる。どれだけ罪を犯したヤツでも、存在ごと消すなんて所業は重すぎる。魂を消すなんてどんな事か想像できるか?ソイツをシュレッダーで粉々にして、その後にまたシュレッダーにかけるんだよ。何度も何度も繰り返して、全く原型が残らないほどにして捨てるんだ。粉微塵だよ。
恨みつらみってのは容易に人を変えてしまう。どんなに優しい人でも、復讐鬼に変えてしまう。俺はそれを悪い事だとは思わない。俺だって、大切にしている人を殺されたら、そうなるだろうって思ってる。
問題は、その復讐の片棒を担がされることだ。
俺は転生者で、一回死んでる人間だ。だからこそ、生きることの大切さとか、死ぬことへの恐怖とか、そんな陳腐だなんて思われることを身に染みて理解してる。弔い屋なんて仕事やってるのもだ。死んだ後くらいは安らぎがあったっていいだろうっつー想いでやってるんだよ。
本音を言うなら、誰にも死んでほしくない。でもそんなの我儘だから、せめて死んだ後くらいは安心してほしい。それだけなんだよ…。
そりゃあ、大量殺人した犯罪者も、テロを起こした犯罪者も、偉い人の暗殺を企てた犯罪者もいる。そんな奴らに情けをかけるわけじゃない。勝手に死んで、勝手に発狂して、勝手に苦しんでろ、そう言いたい。
そして、それは大切な人を失って狂った人にもだ。
復讐が悪いなんて言うつもりも、復讐を正当化するつもりもさらさらない。ただ俺を巻き込まないでほしい。誰かを殺したいなら、勝手に殺しあってくれ。それに俺を巻き込むな。
復讐なんて当人からしたら意味があるものかもしれないが、周りからしたらなにもない。復讐は何も生まないって言葉はきっと当人に対する言葉じゃないんだよ。周りの人間が思う言葉なんだ。周りに居る人間からすればはた迷惑な話で、こっちを巻き込まないでほしいってのが本音だ。
自分の手ですべてを終わらせるのなら大歓迎だ。寧ろ応援すらするだろう。ただそれに巻き込むというのならノーセンキューだ。復讐なんて虚しいだけだ。巻き込まれる人間からしたらよ。
断りたい、切実にそう思う。レリエルもセルフィも何も言わない。いや、俺がリーダーで基本的にこういう時は俺が担当するって決めてるから不用意に喋らないだけだ。今は誰もいないから喋ってほしいが。
「どうする…?」
「どうするもなにも…な」
「少なからず…予想はしていた。夫人が言って来るものだと思っていたからその点は外れたが」
「…断れる依頼でもないだろう。貴族からの依頼なのだからな。本音を言えというなら……至極面倒だとしか」
「それは同感も同感だよ。なんつーか…ホント貴族に関わりたくねぇって感じだ。仕事柄しょうがないのはそうなんだが」
「…どうするイチイ?護衛も含むとなると負担が大きくなるぞ。かと言って放置すれば此方の責を問われるだろう」
怠い…怠いが…ひとまずは
「会って…抑えるしかない。そもそも仇討ちは依頼に入ってないからな。そこを突いていくしかないだろう。追加要件は余計な諍いや問題を生む。その点、シシュト爺さんはまだ良かった。酷い話だが…もう死んでる。死体はそもそも動かないから、余計な動きを気にしなくて済む。回収して、ハイ終わり。そんだけだ」
「せっつかれるだろうが…貴族の命なんざ背負ってられねぇ。下手すりゃ首が飛ぶ。責任は問わないなんて言われたとしても…信用出来ない。仇討ちしようなんて途中から言い出すヤツはな」
「俺達は死者専門で、生きてる人間は専門外だ。仇討ちを専門にした弔い屋に頼めばいい。任された仕事はやる。それ以上は無理だ」
「兎にも角にも…だ。待つしかねぇ。会って、どういう人物か見極めて判断する」
「それでいいよな?」
確認する。俺がリーダーで方針を決めるが、かといって誰も付いてこなかったら意味がない。
「あぁ、個人的には相手が誰だろうと断ってしまえと思うが、イチイの判断を尊重しよう」
セルフィは問題なしと。まぁ断れるならそうしたいさ。
「…押し切られるだろうな。衛士長の口ぶりからして断られることを想定していない口ぶりだった。権力で通すつもりだ」
まぁ…それは薄々感じてることだな。
「…そんなことをしない人間であることを祈るしかない」
祈るだけならタダだ。何もしないより、何かしてた方が事態は好転するかもしれねぇ。それが祈りだろうとだ。
「ふふっ、誰に祈るんだ?イチイは誰も信仰していなかっただろう」
「あぁ〜…なんかこう〜お腹が痛くなった時にだけ祈る神」
そういえば、この世界は神が密接で祈る相手は、自分が信じてる神だったんだ。誰にも捧げられない祈りなんてお笑いものだろう。多神教なんだが…一神教並みに信仰が根付いてる。つくづく歪な社会構造だと思う。普通は、大きな一神教があればそこに信仰やらが集中するはずなのに、均等といえるほど広く信仰が分散している。そのくせ、規模は個々の差異はあるものの、前世一神教と同じレベルだ。
前世で、唯一ちゃんと信仰していた神を上げる。たぶん、日本人なら誰もが祈ったことはある偉大な神だぜ?
「酷く限定的な神だな…聞いたこともないが…レリエルは?」
「…知らん。治療の女神か?あるいは……病の神か?」
「そんな大層なモンじゃないさ。もっとこう〜…人が無意識に祈る神?」
「……無意識下に在る神は、最上位の存在ではないか?」
「そうか…?」
改めて、考えるとそりゃそうだ。腹痛の時や胃が痛くなった時の故知らずの神は大体の人間が祈ったことはあるというはずだ。それは無意識の内に広がったもので、形や祈り方は様々でも、全てが救い(腹痛等からの)を求めている。
強くないか…?意識的に祈る神は信仰が生活に根付いていると言っていい。だが無意識に祈る神は信仰が心に根付いている。
「……まぁきっとたぶん…原初の神様かなんかだろ。ウン……」
この世界では多分生まれもしない、無意識に潜む神の存在とそのヤバさに若干の冷や汗と、ヤバいこと口走ったと焦りつつ、俺はなんとか衛士長が戻って来るまで場を繋いだのだった。
不用意な前世知識は首が締まる…!賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶと言うので、後者の人間たる俺は今後不用意な発言は控えるよう、肝に銘じるのだった…。
その記憶があと十数分も経てば抜け落ちるというのに……!
遅くなりました。ちょっと更新期間が長くなります。
2024/05/20
2024/05/20の活動報告にて、ちょっとした投稿に関する報告がございます。よろしくお願いします。