灰塗れの少年 作:アッシュアッシャーアッシェストォ!!
都内某所───人通りの多い街中で、突如として聴こえた悲鳴
「きゃあああ!!」「うわぁあ!」
人の形をしているが、人間とはかけ離れた姿を持つもの。獣と合体したような姿、顔が触手で出来た姿、植物と合体したような姿。容姿は千差万別。それぞれが突如現れ、人間に牙を剥く。それらは正体不明、目的不明、しかし組織だった生き物。いや、化け物。
誰が呼んだか、それらは───
怪人と、呼ばれていた。
●
「ふははは!怯えろォ!恐怖しろ!お前らが、このワタシの養分となれ!!」
人とは違う声帯をしているのだろう。掠れた声が反響し合っていくような耳障りな声を上げた怪人の周りにはアスファルトを地面の下からぶち破って出てきた木の根のようなものが串刺しにした人間で溢れていた。
そんな人間で行われるモズの早贄の中に私がいた。斎藤絢香、ただのOLだ。日常に疲れていて、人混みに辟易として、漠然と今、隕石でも降って来ないかなどと空想する、疲れたOLだったはずだ。
「お前らに突き刺さっている植物は血吸樹の根だ!突き刺した根から血肉を吸い取り貴様らを枯らす!じわじわと、ゆっくりと、だが確実に殺すのだ!!」
呵呵大笑する木をねじり合わせて無理やり人の形に整えたような怪人は、耳に障る声で叫んでいる。
周りを見渡せる範囲で見てみる。
腹から根が出てる者、片足を貫かれ宙ぶらりんになっている者、首に刺さっている者───っ、何がじわじわとだ。あんなの即死だ!!
「おっとぉ???一人、無事なのがいるなぁ?安心しなさい。他の奴らと同じように直ぐ串刺しにしてやるから!」
ハァハァ、口が乾く。動悸が止まらない。どうして神様、私悪いことをしたんですか。今まで一生懸命生きてきました。人を虐めることはなく、虐められることもなく生きてきました。遊びたいと思った時に我慢して勉強をして、大学を出て、社会人として日々を生きてきました。隕石が降らないかと願ったからですか。あんなの冗談ですよ。冗談に決まってるだろ、なぁ。
あと数秒で私も周りと同じ姿になる。モズの早贄の中で偶然無事だった斎藤絢香じゃなく、モズの早贄の一部になってしまう。怪人が私に近寄ってくる。
どう刺されるんだろう、腹を突き破られるだろうか、首に刺されるのだろうか、それとも、今私の立っている丁度ここから根が飛び出て、脳天までキレイに───
もう堪らなかった。限界だった。
近付いてくる怪人も、耳障りな笑い声も、周りの悲鳴、血の匂いも。
どうか、誰でもいいから、お願いだから───
「たすけて…」
●
カツカツと地面踏み締め歩く音が聞こえてきた。向かって来ているその足音に木の怪人は止まる。
「自分から向かってくる、だとぉ?怯えていない、恐怖していないな、許せない!!」
木の怪人が振り向く。
斎藤彩花の目に映ったのは、黒い髪の高校生ほどの少年だった。
少年は、何を見ているのか分からない、覇気のない瞳で木の怪人の方を見やる。しかし、怯えて凝視している訳では無い視線など木の怪人には不愉快なだけだった。
「こ、こっちに来ちゃダメ!アスファルト下の木の根があなたを突き刺すわ!早く逃げて!!」
斎藤絢香が叫ぶ。自身は腰砕きになってみっともなく地面に座り込んでいるが、少年はまだ助かるかもしれない。その思いが、斎藤絢香を、木の怪人といういつでも自分を殺せる存在が目の前にいるのに大声を出すというほぼ自殺行為へと走らせた。
「無駄だ!もう既に、お前は血吸樹の根の範囲内にいる!死という恐怖を抱いて死ね!」
木の怪人に目を向けながら、しかし怪人のことなど気にもとめないように、少年は斎藤絢香に声をかける
「お姉さん、優しいんだね。たすけてって言ってる人は、たすけるよ」
「貴様に何が───」
少年は着ている服を翻し、腰に付いているベルトのようなものに白と呼ぶには濁った、灰色のカードをはめ込んだ。
「変……身…」
───灰は、二度と燃え上がらない。
「な、なんだその姿は!?」
少年の姿が変わるとそこには、素顔がわからない灰色のフルフェイスマスクと全身を覆う灰色の外骨格のようなスーツを纏った者がいた。
『EMBER』
くぐもった声がマスクの下から聞こえると、木の怪人と数mはあった少年が、怪人の横に並んでいた。
『ASSIMILATION』
少年が怪人の肩に手を置くと、その部分から怪人の肌がどんどん白く、否、灰色へと変わっていく。
「なんだ、何が起こっているんだ!!?ええい、離せ!!……ッ!?」
あれほど好き勝手に暴れていた怪人が、手を置かれたまま動かない。いや、動けない。怪人の足元のアスファルトに亀裂が入るほど、少年が肩に置いた手が怪人を押し潰している。
あと数秒もしない内に、怪人の全身が灰色に染められるだろう。
しかし、怪人は笑った。カサカサと体表の木の幹のような部分同士が擦れる音を鳴らしながら。
ズドッという音とともに地面から勢いよく血吸樹の根が飛び出してきた。
「はははは!やはりただの人間か!膂力だけはあるゴミ!!怯えもせず、恐れもしないつまらない人間など、生きてる価値はなぁっ──ぁっ?……ぇ」
全身を灰色に染めた木の怪人は、次の瞬間一気に激しく燃え上がり、数瞬後、残り火がチラチラと光るだけの灰となり崩れた。
『灰を吹き飛ばそうとしても、灰はただ舞い上がり、地へと墜ちるのみだ』
●
斎藤絢香が目の前で行われた一連の出来事を処理することが出来ず、四回五回瞬きを繰り返したところで、少年はいつの間にか変身する前の姿へと戻っていた。
「僕はもう行く。お姉さん、すぐ救急車が来るから、後のことはお願いね。」
「えっ…あ…」
斎藤絢香が何か口に出そうとする前に、少年は用は済んだと歩き去って行った。
○血吸樹の根は木の怪人が灰になった時に一緒に灰になってます。
○EMBERとASSIMILATIONはそれぞれ「残り火」と「同化」です。
多機能フォームをここまで大量に使ったのは初めてですがたのしいですね