IS ~宇宙に憧れた男~   作:narakumogara

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誘拐

我々が決意を固めている合間に、織斑一夏は予定通り誘拐されそうになっていた。

 

「いよいよ千冬姉の試合の日だ。」

 

「楽しみだなぁ……!」

 

まだ見ぬ光景に心を膨らませながら歩いていると、突然路地に引き込まれる。

 

「うわ……っ!な、なんだ!?!?!?」

 

「おとなしくしてもらおうか。さもなくば……」

 

藻掻く一夏の首筋に、鋭利なものが突きつけられる。

 

ぷつり。一筋の赤い液体が垂れる。

 

 

ナイフだ。

 

普通の人生で決して知ることのない<悪意・殺意>に、固まる一夏。

 

「おとなしくしてくれたら、殺しはしない……」

 

冷酷な声に全身の震えが止まらない。

 

焦りや不安など、様々な感情が混じりあった結果、硬直している。

 

「おい、さっさとやるぞ。」

 

その声が聞こえると同時に、後頭部を殴打され、一夏は意識が途切れる。

 

 

 

「作戦成功。目標を指定地点に移送する。」

 

「にしても……此奴、日本代表が身内だってのに、護衛一人ついてないぜ。」

 

「日本政府も間抜けなのか、平和ボケしているのか。」

 

「どちらにせよ、こっちとしては仕事が楽で助かる。」

 

 

 

お気楽一夏くんは、自分が代表の身内ということをしっかり理解しておらず、出国前に自宅に届いた政府からの護衛の手配の書類を、ただの胡散臭いDMと勘違いして捨ててしまっていたのだ。

 

そして日本政府は、彼がしっかりと把握してくれていると思っていたため、気が付いた時には既に彼はドイツにいた。

 

完全に一夏が悪い。

 

 

 

そして、彼は滞りなく廃工場に連れ込まれてしまった。

 

……シリウスの操る介入EBと共に……

 

 

 

 

目が覚めると、薄暗く埃臭い場所に転がっていた。

 

少しずつ目が慣れてくると、ようやく自分がどこにいるのかを朧気ながら理解してきた。

 

声を上げようにも、猿轡を付けられているせいで呻き声しか出すことができない。

 

「(な、なんなんだよ…!?一体どうしてこんなことに……)」

 

 

この期に及んで尚、一夏はどうして自分がこうなったかを理解できていない。

 

これから自分はどうなるのか、そんな不安で思わず体を動かした。

 

動かしてしまった。

 

 

「ん?おい!ターゲットが起きたぞ!」

 

一夏が動いたことにより、静かな廃工場内にわずかな音が反響した。

 

それに気づいた誘拐犯は、一夏が目覚めたことを知らせる。

 

 

「さーてボクぅ?面倒だから手間取らせてくれるなよぉ?おとなしくしてな…?」

 

耳障りな猫撫で声で語りかけてくる。

 

少し癖のある日本語で話すその女性は、一夏が余計なことをすることを面倒に思っているようだ。

 

「もうすぐ決勝戦が始まるぞ。手筈は整っているな?」

 

「あぁ。大会関係者経由で織斑一夏が誘拐されたことを伝えるようになっている。」

 

「もうじき本人に連絡が届くころだろう。」

 

今回の一夏の旅行には、日本政府が護衛につくはずであったが、一夏のせいでつけなかった。

 

苦肉の策で政府は、会場にいる大会関係者に織斑一夏が現地にきているということを周知させた。

 

 

旅行を手配したのは組織。更には政府から現地に連絡するように進言したのも、組織の手のものであった。

 

そして組織の人間により、現地の関係者に「織斑一夏が誘拐された。」と伝えられることとなった。

 

全ては、織斑千冬を優勝から遠ざける為に……

 

 

 

 

「何?一夏が誘拐された?」

 

会場控室で準備をしていた千冬に届いた、誘拐の知らせ。

 

「政府から護衛が付いているのではなかったのか?」

 

千冬には、一夏の旅行には日本政府から護衛が付いていると連絡を受けていたため、第一に護衛の不手際を考えた。

 

「じ、実は……」

 

「織斑一夏さんが護衛と同行することを知らなかったようで……」

 

「一人でドイツまで来ていたようです……」

 

申し訳なさそうに答えるスタッフ。

 

「なっ!?」

 

一夏の愚行に絶句する千冬。

 

「ただいま関係者総出で捜索中ですが…未だ発見できておりません……」

 

 

試合の時間が迫っている。

 

 

「……くっ!私は一夏を探しに行く! 伝えておいてくれ!!」

 

焦りの表情を浮かべた千冬が控室を飛び出す。

 

スタッフの引き止める声に耳も貸さず、ただひたすらに走る。

 

彼女は超人的な身体能力を駆使し、関係者の引き止めを強引に突破。

 

そのまま会場を飛び出し、自らのISを展開する。

 

「待っていろ……一夏……!」

 

歯を食いしばりながら、ドイツの空を駆ける。

 

 

試合開始まで、もうまもなく……

 

 

 

~廃工場~

 

「こちら会場内スタッフ。織斑千冬は捜索に飛び出していったぞ。」

 

「了解。」

 

組織関係者からの連絡を受ける女。

 

その連絡を聞いた一夏は悔しさで顔を歪ませる。

 

「(……くそっ!俺のせいで千冬姉が……)」

 

彼の心に後悔の感情が広がっていく。

 

俺がもっと注意していれば、俺がもっと慎重になれば。

 

 

「さて、これで作戦の大部分は終わったな。」

 

「総員、撤収準備!」

 

もうじき試合開始時間となる。

 

後は、決勝が不戦勝で終わったという連絡を待つだけ。

 

彼女らは、試合開始までに織斑千冬がこの場所を発見するということを考えていなかった。

 

それもそのはず。大会関係者で捜索をしているということは、組織の手が入っているということ。

 

この場所付近を捜索したスタッフは、意図的に発見できなかったという連絡をしていた。

 

 

試合が決定したタイミングで、ドイツ軍から発見の連絡が送られる手筈となっている。

 

 

 

組織による今回の作戦、実はドイツとも取引を行っていた。

 

開催国であるドイツで誘拐事件が起きるということは、国際社会での信用が落ちてしまうという問題があった。

 

そのため、取引としてドイツに対して多額の献金、並びに国軍による対象の発見という手柄を与えることを対価としたのだ。

 

 

 

 

そして時が過ぎ、試合が不戦勝で終わったとの連絡が届く。

 

 

 

「作戦成功を確認。そろそろだぞ。」

 

その言葉と共に、工場内にまばゆい光が広がる。

 

一夏は思わず目を閉じ、次の瞬間には複数のISが展開されていた。

 

 

「さて、ぼくちゃんには悪いけど、人質になってもらうよ。」

 

まったくもって悪く思っていない口調で、一夏を強引に引き寄せる。

 

千冬のもとには、ドイツ軍からこの場所の情報が届いているころだ。

 

「お前を使って、織斑千冬を抹殺させてもらうよ。」

 

 

そう告げると同時に、廃工場の入り口が乱暴に開かれる。

 

身にまとう鈍色のIS。

 

<暮桜>を纏った織斑千冬だ。

 

「ハァ……ハァ……一夏っ!!」

 

息を切らしながらも、目線は一夏から離さない。

 

 

「ようやくお出ましかい、ブリュンヒルデ。」

 

「ゆっくりとお話したいところだけど、本題にいこうか。」

 

そういい、にやりと笑みを浮かべる。

拘束された一夏を掴み上げ、首筋にブレードを突きつける。

 

「動くな。動けばこの男の命はない……」

 

流石の千冬であっても、一息では届かない距離ではどうしようもない。

 

「く……っ」

 

「とりあえず、そのISを解除してこっちに投げてもらおうか。」

 

詰みだ。

 

これ以上行動をおこせない。

 

 

誰もがそう考えた時、突然、一夏を人質にしていた女性の頭上へ鉄骨が降ってくる。

 

不意の出来事に、組織の人間が硬直する中、千冬はその隙を逃さなかった。

 

一瞬で一夏を掴んでいた腕を切り落とし、救出。

 

片腕に一夏を抱きかかえたまま、更に二人切り捨てる。

 

 

「な……っ!」

 

「ば、ばかな……」

 

形勢逆転だ。

 

 

「チッ…総員撤退!」

 

 

「逃がさん!」

 

不利であると見るや否や、即座に撤退を始める誘拐犯。

 

生身の一夏を抱えたまま加速をしてしまうと、彼の肉体が耐えられないと感じた千冬は、それ以上の追跡を諦める。

 

位置情報を知らせたドイツの援軍が到着したのは、千冬が救出して間もなくであった。

 

 

 

 

 

 

 

今回の事件により、千冬は不戦敗となった。

 

更に、情報提供を行ってくれたドイツ軍に恩を返すため、一年間ドイツ軍での教導を行う契約がなされた。

 

誘拐された本人である一夏は、途中から気を失っていたため、千冬による惨殺を見ることはなかった。

 

そして、気を失ったまま軍用飛行機により日本に送還。

 

一夏が次に目覚めたのは、日本の病室であった。

 

彼の頭にあるのは、自分のせいで千冬が優勝を逃したという後悔の念のみ。

 

一夏は、今回の旅行について、友人に語ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

さて、この事件。

 

一つだけ不可解な出来事があった。

 

窮地での鉄骨の落下だ。

 

現地での現場検証では、施設老朽化により起こったものだとされていたが、実態は異なる。

 

 

そう。シリウスによる介入だ。

 

あの状況での救出は不可能だと判断したシリウスは、主に許可を取り、介入を決定した。

 

廃工場の中の天井付近に潜んでいたEBに装備していた、<簡易物質変換器>により、建物の一部を粒子化。

 

そして同一構成のまま、犯人の頭上に落ちるように再構築したのだ。

 

 

万が一篠ノ之束に検知されないよう、ステルスを全開で起動させ、一部のみを変換した。

 

原作でどのような行動をとって解決したかは不明であるが、シリウスたちは織斑家の人間が傷害を負うことによる原作崩壊のリスクを懸念して行動をした。

 

 

 

 

 

少しずつ、原作に手が加えられていく。

 




なんと、本作が日間ランキングに乗っていました。
まさか自分がランキングに乗るなんて思ってもいませんでした……!

みなさまの評価・感想のおかげです。
ありがとうございます!

今後も細々とですが、完結まで持っていきたいと思います。

応援よろしくお願いいたします…!
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