IS学園の教室。
織斑一夏は頭を抱えていた。
なんだこれは。まったくもって理解できんぞ。
PICだの、重力制御だの仰角だの量子変換だの拡張領域だの。
小学生が高校生の物理学の教科書を読むかの如く、理解できない単語の羅列が並ぶ。
俺、この学園でやっていけるかなぁ……
「はい、ここまででなにかわからないことはありますか?」
山田先生が皆に問いかける。
が、誰も質問しない。これもしかして基礎だったりするのか?
「お、織斑君はどうかな……?何かわからないこと、ある?」
やはりビクビクしながら問いかけてくる。
わかるわからないというか……
「先生、すみません……」
「ほとんど全部わかりません!」
教室が凍る。
「え……っと……」
「ほ、ほとんど全部、ですか……?」
「はいっ!」
もうやけくそだ。変に取り繕って後々困るよりはマシだ!
「え、えっと。」
「今の段階でほかにわからない人は、いますか…?」
誰も手を上げない。俺だけ置いて行かれているようだ。
すると、千冬姉が立ち上がり近寄ってくる。
「おい、織斑。」
「入学前の教本は読んだのか?」
……教本?
そんなものをもらった記憶がなく、いつもらったかを思い出そうとする。
「あの分厚い奴だ。」
分厚い……あぁ!
「古い電話帳と間違えて、捨てました。」
すぱぁん
本日四度目の打撃が飛来する。
「必読と書いてあっただろうが!愚か者!」
いやうっかり古本を出すときに間違えてまとめちゃったっぽくて……
「なんだ?言い訳があるのか?」
「いえ、なんでもありません!!!」
我が姉ながら、勘が鋭い。
「はぁ……放課後、新しく一冊用意してやる。一週間で覚えろ。」
「え、いや。あの分厚さを一週間って……」
「なんだ文句があるのか?」
「いえ、わかりました!」
都度五回目の打撃が飛んできそうだったので、思わず従う。
覚えられるかなぁ……
この後やってくる暗記地獄に遠い目をしていると、千冬姉が話始める。
「ISは言うまでもないが<兵器>だ。扱いを間違えれば、容易に人を殺せる。」
「貴様らは15歳で殺傷兵器を扱うこととなるのだ。その心構えをしっかりと持って授業を受けろ。」
その言葉に、改めて気付かされる。
俺は兵器を動かしてしまったのだと。
千冬姉の言葉に、教室が静寂に包まれる。
皆も自分のいる場所がどんなところか、思い出したのだろう。
そんな空気を壊すかのように、山田先生が言葉を紡ぐ。
「そ、そういえば、クラス対抗戦の代表を決めないといけませんね!」
「だ、誰かやりたい人とかいますか……?」
クラス対抗戦?字面から戦うんだろうけど……
山田先生の発言で息を吹き返したかのように騒がしくなる。
「はいっ!はいはい!織斑君を推薦します!」
「あ、私も!」
なぜそうなる。
突然のキラーパスに驚き、思わず立ち上がる。
「ま、待ってくれ!なんで俺が……ぐあっ」
何度目かの暴力が襲う。
千冬姉、叩かないと話せないのかよ……
「邪魔だ、おとなしく座っていろ。」
「ほかに立候補者がいないなら、織斑が代表になるが。」
「ま、待ってくれよちふ……織斑先生!俺はやるなんて一言も言ってないぞ!?」
「望む望まないに関わらず、他者から推薦されたんだ。拒否権はない。」
「んな無茶苦茶な……」
どうやっても拒否はできそうにない様子に項垂れる。
本当に誰も立候補しないのか……
「ああ、ちなみに言っておくが、代表候補生は代表になれないからな。」
「それぞれの国から戦闘配備の連絡が来る可能性があるのと、学園にいる間は、学園の防衛に協力してもらう必要があるからな。」
一応対象者を言っておこうか。と前振りをした千冬姉は名前を呼び始める。
・セシリア・オルコット イギリス代表候補生
「それと、特例で篠ノ之箒の五名だ。」
!箒がいる!?
今の今までそれどころではなかったせいで、クラスメイトをしっかりと見ていなかったけど、幼馴染がいるなんて……
俺は流れてきた情報を処理することに精一杯になっていると、千冬姉が続けて言葉を紡ぐ。
「あぁ、そうだ、織斑。」
「貴様には政府から専用機が与えられることになった。」
「もうじき届く手筈になっているだろうから、向かうぞ。」
「操縦訓練はオルコットの手が空いているときにでも、指導してもらえ。」
「えっ、あ、はい。」
よくわからんがとりあえず返事をした。
頭の中が?でいっぱいだ。
「それでは、代表は織斑で決定だ。」
「授業を再開する……」
釈然としないなか、授業に戻ろうとする。
すると、突然学園内に警報が鳴り響く。
「緊急連絡!衛星軌道上の飛行物体が動き始めました!」
「教職員および代表候補生は、至急指令室に来てください!」
「……!」
「授業は中止だ!生徒は寮で待機していろ!」
「織斑と篠ノ之はこちらについてこい!」
あわただしく皆が動き始める。
俺もなにがなんだかよくわからないが、千冬姉に従いついていく。
「現状を報告しろ。」
「はい。モニター出します。」
「現在、地球の衛星軌道上に出現した飛行物体に対して、所属不明のISが複数接近しています。」
「おそらくそれを感知して、飛行物体が動いたのだと思われます。」
「同時に、国連からの通達があります。」
『我々国連は、現時点をもって衛星軌道上の物体を<敵性存在>と認定しました。現在、各国よりIS部隊を派遣しています。』
『敵性存在の戦力が不明であるため、全世界のIS所有者は後方待機をしてください。』
学園の地下にある指令室に移動した俺たちは、先ほどの緊急連絡の詳細を聞く。
そして、現状を知る。
敵性存在って……相手は何もしていないじゃないか……!なのにどうして……!
俺が理不尽とも思える命令に絶句していると、再び状況が変化する。
あの時とおなじ、例の飛行物体からの放送があった。
『……ごきげんよう。諸君。』
『こうして放送をするのは、私たちの存在を伝えた時以来だな。』
『……君たち地球人類の動向は知っているよ。』
『私たちを敵性とみなしたんだね。』
『以前、こちらから攻撃することはないといった。』
『けれど、君たちから敵対したのだから、攻撃されても文句を言うなよ。』
悲しげに、しかしはっきりと言葉が紡がれていく。
『君たちが手を出せるのは、ISがあるからだね。』
『ISがあるから、君たちは私たちに攻撃できるんだね。』
『じゃあ、ISをなくそうか。』
さらり、ととんでもない発言が飛んできた。
『決めたよ。私たちは君たちからISを奪う。』
どこか狂気じみたものが混じっているようにも思える口調で続ける。
『ISさえなければ、私たちは問題なく宇宙へと繰り出せていたんだ。』
『どこかで聞いているだろう?篠ノ之束。』
『君の作ったISと、僕の作ったEB。』
『果たしてどちらが勝つのだろうね……』
通信が途切れる。
side 篠ノ之束
「ISを奪う……?」
「そう……そんなことするんだ……」
「もとからアレは潰す予定だったけど、悠長にしてられないね。」
「ちょうど有象無象たちがアレに向かってるし、それを使っちゃおうか。」
そう呟くと、高速でキーボードを叩き始める。
side 主人公
「……」
相手の方から攻めてきた。
元々ISは一時的に使用できないようにするつもりだったけれど、まさかこんなに早く行動を起こすなんて。
欲に目が眩んだか。
「やるしかないよな。」
IS回収にはパラディンを稼働させないといけない。
コアを奪う際には、一気に過半数を奪うようにしないと、相手方の防御を突破するために追加で戦力を投入しないといけなくなる。
けど、防衛用に残しておかないと守り切れない可能性がある。
ああもう!資材は問題ないにしても、時間が足りない!!!
篠ノ之束のラボ付近の界線はブロックされてしまったし、相手方の動向が読めなくなってしまった。
あいつが何をしでかすか、皆目見当がつかないのは困る。
「IS学園の方の監視を強化することで対応するしかないか。」
本来ならもっとゆっくりするはずだったのに……!
いきなりラストスパートじゃあないか!