オペレーターとドクターがイチャイチャしたり、傷ついたりする話   作:古魚

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アーミヤ 〇

「ドクター! 好きです!」

 

 ある日、ドクターの執務室の扉が開け放たれ、顔を真っ赤にしたアーミヤが耳をピコピコさせながらそう叫んだ。

 

「ど、どうしたアーミヤ。何か悪いものでも食べたのか? ケルシーを呼ぼう、ちゃんと検査してもらって、その後休暇を――」

「ちょ、ちょっとまってください! 大丈夫です! 私は健康です!」

 

 あまりの勢いで慌てるので、必死にドクターを落ち着かせるアーミヤ。

 

「そ、そうか?」

 

 一先ず席に戻り、散らかった書類を整理するドクター。ドクターは改めて、アーミヤに尋ねる。

 

「それで、急にどうしたんだい?」

「は、はい、ええっと。ドクターが好きです!」

 

 ドクターは頭を抱えるが、持前の明晰な頭脳を利用して、理論を組み立てる。

 きっとアーミヤなりの冗談だったのかもしれない。最近仕事が立て込んでいるから、リラックスさせようとしての気遣いなのだろう。ならば、その気持ちに答えるべきだろう。

 この間僅か0,03秒のこと。組み立てた理論の下、ドクターは最適だと考えた返答を口にする。

 

「ありがとうアーミヤ。私も、アーミヤのことは好きだぞ。いつも感謝している」

 

 沈黙。アーミヤの硬直する顔を見て、返答を間違えただろうかと焦るドクター。

 数秒後、ようやく理解が追い付いたのか、アーミヤは顔を赤らめて、高速で耳をピコピコさせる。誰がどう見ても、照れている。

 

「そんな、好きだなんて……えへへへ」

 

 頬に両手を当ててドクターの方を見つめる。

 

「それじゃあ……はい、ドクター」

 

 両手を前に出し、満面の笑みでアーミヤはドクターを待つ。

 

「えっと……」

 

 その動きの意図を図れず、しどろもどろするドクターに、頬を膨らませ不満げな顔をするアーミヤ。

 

「ハグ、して欲しいんです! 私のことが好き、なんですよね?」

 

 その言葉に、再びドクターは頭を抱える。何故急にそんなスキンシップを求めて来るのか、これも冗談の延長なのだろうか? しかし冗談とは言え18に満たない少女の身体を抱きしめると言うのはいささか……。

 そう思考がフル回転するドクターの傍らアーミヤはしゅんとした顔で呟く。

 

「私じゃあ、やっぱりだめですか……」

 

 『やっぱり』という言葉に引っ掛かり、アーミヤの寂しそうな顔を見たくなくて、ドクターは思考を止め、アーミヤの望む通りにして見せた。

 小さなアーミヤは、ドクターの身体の中にすっぽりと埋まってしまう。一瞬何が起きたのか理解できていなかったアーミヤだが、温もりと匂いを感じ、「えへへへ」と頬を緩める。

 

「これで、いいのかい?」

「はい、ありがとうございます、ドクター」

 

 ドクターの腕の中から手を出し、アーミヤもドクターの身体を抱きしめる。

 

「ど、どう、ですか? 癒されていますか?」

 

 ぎこちなくアーミヤがドクターに尋ねる。

 

「そうだな……」

 

 ドクターは自身のマスクを取り、もう一度強くアーミヤの身体を抱きしめる。

 

「ああ、癒されているよ。とても心地が良い」

 

 アーミヤの頭を軽く撫でながら、ドクターはそう囁く。

 ドクターは気づいた。アーミヤはハグセラピーの効果を期待して、私にハグを求めたのではないだろうかと。

 数十秒抱き合った後、ドクターの方から手を放した。その時、アーミヤは少々名残惜し気な顔をしていた。

 

「アーミヤ、もしかしてハグセラピーを私に施してくれたのかい?」

「流石ドクター、バレちゃいましたか」

 

 ドクターの考えは当たっていた。

 

「最近仕事が立て込んでいましたから、何か疲れを取ってあげられないかと考えてケルシー先生に聞いたんです。そしたら、『ハグはβエンドルフィンが~』と話してくれたので、こうして癒しに来ました」

 

 アーミヤの言う通り、確かにハグには幸福を感じさせる成分を脳に分泌させる効果を持っている。ドクターもその事には納得していた。唯一気になるのは、最初の告白についてだった。

 

「なるほど。そういう訳だったのか。それなら、どうして急に『好き』だなんて冗談を言ったんだい?」

「それはもちろん、ハグは好きな人同士で―――え、冗談と受け取っていたんですか?」

 

 アーミヤの表情がやや曇る。

 

「それじゃあ、私のことを『好き』と言ったのも……?」

 

 ドクターが反応に戸惑っていると、アーミヤは一歩後ずさり、目を伏せる。

 

「ごめんなさい。勝手に一人で舞い上がって、好きでもない人にハグされて、いや、でしたよね……」

 

 これはまずい。そう察したドクターは必死に擁護を始める。

 

「そんなことはない! 嫌だなんて思わない、むしろハグしてくれて本当に助かった、随分と気持ちが楽になったよ」

 

 まだアーミヤの表情は暗く、愛想笑いを浮かべるだけだ。

 

「確かに、君の言葉を冗談として受け取ったが、私が返答した言葉は、決して嘘なんかじゃない」

 

 その言葉に、ピンと左耳を立てて反応するアーミヤ。

 

「このロドスで、私を最初に必要としてくれた。何も思い出せない私を手伝ってくれた。皆優秀なオペレーターたちだが、それでもやっぱり私は、君が一番信頼できる」

 

 右耳もピンと立つ。

 

「これほどまでの信頼を君へ向けているんだ、好きじゃないわけないだろう」

「ドクター!」

 

 ピコピコと耳が上下するアーミヤ。ドクターは先ほどのアーミヤと同じように、両手を前に出す。

 

「ドクター! 大好きです!」

 

 そんなドクターへと飛びつくアーミヤ、反動で転びそうになるがなんとか耐え、ドクターもアーミヤを抱きしめ返す。

 

「ありがとう、私も好きだ。君のような立派なCEOの下で働けて幸せだよ」

 

 ぐりぐりドクターの胸に頭をこすりつけるアーミヤ、その顔はどんな仕事を終えた時よりも幸せそうな表情だった。

 

「ドクターの匂い……」

「臭くないか? 清潔にするよう心掛けてはいるが」

 

 軽く笑い、アーミヤは言う。

 

「臭くなんてないですよ、とっても落ち着く匂いです。私の方こそ、変な臭いしませんか?」

「もちろん、いい香りだ。この匂いだけで、幸せな気持ちになれる」

 

 互いにマーキングするように匂いをこすりつけながら、しばらく抱き合った後、ドクターから離れ、アーミヤは自身の髪を整える。

 

「えっと、ドクターを癒すはずが、私の方が癒されてしまいましたね」

「君だって激務が続いているんだ、癒される権利はある」

 

 アーミヤはもじもじしながら、少し躊躇い気味に口を開く。

 

「あ、あの……ドクターが嫌じゃなければ、なんですけど……」

 

 ドクターは、続く言葉を待っている。

 

「膝枕、させては頂けないでしょうか」

「膝枕をするの? アーミヤが?」

 

 小さく頷く。

 

「えっと『膝枕で眠るのは、男の夢だ』ってノイルホーンさんが……」

「でも、アーミヤが疲れてしまわないか?」

 

 ドクターの問に、ブンブンと首を振る。

 

「全く! むしろ、私もしてみたいと思っていたり……」

 

 そんなアーミヤの様子を見て、ドクターは微笑む。

 

「そうか、分かった。ならお願いしようかな」

 

 アーミヤはそう聞くなり、ソファーへと腰を下ろし、スカートを整えると、ぽんぽんと自身の膝を叩く。

 

「どうぞ!」

「それじゃあ、失礼」

 

 ドクターの頭が、アーミヤの膝の上に乗せられる。少し細身ながらも、しっかり柔らかい太ももの感触に、思わずドクター感嘆する。

 

「どうですか、辛くないですか?」

「ああ、これは……いいものだな」

「ふふ、気に入って頂けたようで何よりです」

 

 アーミヤは柔らかい笑みを浮かべながら、ドクターの頭を優しく撫でる。アーミヤの柔らかな視線と手のひら、太ももの感触に包まれていると、ドクターを睡魔が襲った。

 

「眠くなってきましたか? 大丈夫ですよ、少し経ったら起こしますから、ゆっくり休んでくださいね」

 

 ドクターはアーミヤからの許可を貰うと、返答をする間もなく、瞳を閉じた。

 

「疲れて、いますよね……」

 

 寝息を立てるドクターを見つめながら、アーミヤは言葉を零す。

 

「いつもありがとうございます、ドクター。皆のために一生懸命で、少しユーモアがあって、私を導いてくれるドクター……大好きです」

 

 誰も見ていないことを確認したアーミヤはそっと、眠るドクターの唇へと、自身の唇を重ねた。ほんの一瞬の、子供のキス。

 

「いつか、本当のキスを、大人のキスを、ドクターにしたいです。私がもう少し大きくなるまで、待っていてくださいね」

 

                       【アーミヤEND1:子供のキス】

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