オペレーターとドクターがイチャイチャしたり、傷ついたりする話   作:古魚

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ロスモンティス △

 病室から、アーミヤのすすり泣く声が聞こえる。ドクターはその声を聴いて部屋へ入ることを躊躇った。しかし、どうやら足音が聞こえていたのか、中からアーミヤの声が聞こえた。

 

「ドクター、ですよね。私は一旦退出するので、ロスモンティスさんのこと、お願いします」

「……分かった」

 

 少し経つと、深くフードを被ったアーミヤが病室から足早に出て行った。アーミヤの指にはめられたアーツ抑制機に、赤黒い光がちらついているのを、ドクターは見逃さなかった。

 ケルシーへ緊急として一報入れてから、病室へと入った。

 そこには、日記を布団の上に置き、こちらに笑顔を向ける一人のフェリーンがいた。そのフェリーンの左腕は肘から先が存在せず、左目を覆うように包帯がまかれている。

 

「ドクター、どうしたの?」

「いや、何でもない。体は……大丈夫か?」

 

 ドクターの、絞り出したような声にロスモンティスは首を捻りながら答える。

 

「うん、どこも痛くないないよ」

「そうか……任務も、ご苦労だった」

 

 ロスモンティスは、ドクターの声が暗い理由を理解できていなかった。

 

「どうして、ドクターは笑ってくれないの? 私、何か失敗しちゃった? もしかして、まだ逃しちゃった敵がいた? だったら、今すぐにでも片付けて来るよ、まだ私は戦えるから、あの悪い人たちは、一人残らず壊さなきゃ……」

 

 その言葉を聞いて、ドクターは肩を震わせる。

 

「もういいんだ、もう、終わったんだ……」

 

 ドクターが泣いていることに気づいたロスモンティスは、残っている右腕で仮面を外した。酷く辛そうで、悲しそうな表情を浮かべたドクターにロスモンティスの不安は募っていく。

 

「なら、どうしてドクターは泣いているの? 私は、アーミヤみたいに人の心は読めないから、言ってくれないと分からないよ……」

 

 ペタペタとドクターの頬に触れる冷たいロスモンティスの手は、酷く冷たい。

 

「君が、ロドスの皆を好いているのはよく知っている。家族だと思い、守ろうとしているのはよく分かっている……でも、だからって、自身の身を挺するのは……」

 

 ロスモンティスは、長期の遠征任務に出ていた。その遠征にはブレイズも同行し、戦闘が想定されたため、それぞれ自身の小隊も出撃した。

 その目標は、人為的に感染者を作り、アーツ術師の軍団を揃えようとした化学組織。ロスモンティスを生み出した、ローキャン水槽によく似た組織。それの壊滅を目的とした武力制圧が長期遠征の任務だった。

 情報では、戦力がさほど揃っていないとのことだったが、組織の形態があれなため、過剰ともいえるかもしれないエリートオペレーター率いる二個小隊を出した。しかし実態は、そんな生易しい環境では無かった。感染生物、人の形を成さない実験の慣れ果て、サルカズ傭兵、各国の軍から買ったであろう戦闘ドローン。明らかにその戦力は、二個小隊で捌くには多すぎる相手だった。

 

「どうして、撤退してくれなかったんだ。無理せず帰還してほしいと言ったはずだ」

 

 ドクターは万が一敵の戦力が想定以上だった場合、即座に撤退し、援軍を待つよう指示を出していた。しかし、それをロスモンティスは無視したのだ。

 

「それは、ごめんなさい……でも、あの敵はあそこで潰さなきゃだめだった……あの組織は、ロドスを標的にしていた。私は、家族が傷つけられるのはいや。家族を傷つけそうなものは全部壊すよ」

 

 ロスモンティスはブレイズに自身の小隊の指揮も任せ、撤退するように指示。自身も殿を務めながら撤退するとブレイズに伝えた。しかしロスモンティスは撤退せず、単身でその組織を潰滅に至らしめた。ブレイズによれば、「あの時のロスモンティスちゃんは、アーミヤちゃんが本気を出した時と同じぐらい怖かった。私が恐怖で震えるぐらいの気迫だったよ」とのこと。

 

 しかし、その代償は大きく、ロスモンティスが撤退する気などさらさらなかったことに気づいたブレイズが駆けつけた時には、今のような状態で倒れこんでいた。アーツの使い過ぎ、極度の緊張、度重なる戦闘におけるストレスで精神は摩耗し、肉体は限界を迎えていた。

 

 ロスモンティスの報告では、そのようにドクターは聞いていた。

 

「私には、もうロドスの皆しかいない。だから、私はここを守るって決めたの。皆、花瓶の中の花と同じで、儚いの。私が守って上げなくちゃ、いけないの」

 

 ドクターはその言葉を聞いて、ロスモンティスを抱きしめる。ロスモンティスは、己の正義に則って行動し、その正義は果たされた。

 

「それにね、ドクター。私、成長したんだよ。敵を許すってことが、どうゆうことか分かるようになったの」

 

 かつてのロスモンティスは、幼い思考の故か、物事を両極端でしか考えることが出来ず、一度悪となった者は死ぬまで悪であり続けた。しかし、今回の組織の中には、本意ではないが研究に参加する者もおり、それらの事情にロスモンティスは理解を示した。ロスモンティスは、その人物たちを捕らえ、反省の機会を用意したのだ。

 今ロドスの収容部屋には、その捕虜たちが数名軟禁されている。

 

「……ドクター、だからね、笑って? 私は任務も完了したし、成長もできたの、何も悲しいことなんてないんだよ? だから、笑って?」

 

 その言葉に、ドクターは涙を拭い、笑顔を浮かべて見せる。

 

「ああ、よく頑張った。ありがとう、ロスモンティス」

「ふふ、ドクターやっと笑ってくれた」

 

 ドクターは、無理した笑顔が崩れるのを見せないよう、ロスモンティスの身体を、強く抱きしめた。一瞬驚いたロスモンティスだったが、すぐにとろけたような表情で猫なで声を上げる。

 

「にゃ~。ドクターどうしたの? 私に触ると、怪我しちゃうかもよ?」

「ロスモンティス、これだけは、覚えておいてくれ」

 

 抱きしめながら、ドクターは囁くように言う。

 

「うん、なぁに?」

「君が私たちロドスを大切に思うように、ロドスも君を大切に思っている。家族のようにね。だから君が、私たちが傷つくのが許せないように、私たちも、君が傷つくのを許せないんだ」

 

 優しくロスモンティスの頭を撫でながら、ドクターは続ける。

 

「だから、君自身の身も、もっと大切にして欲しい。約束、してくれるか?」

「……うん、分かった。ドクターとの約束、守るよ。忘れないように、一番大切なことを書いておく場所に、メモもしておく」

 

 その言葉を効いて、ドクターはそっとロスモンティスの身体を離した。

 

「約束、するからさ、私のお願いも一つ、聞いてくれる?」

 

 ロスモンティスは、表情に影を落としながら言う。

 

「なんだい?」

 

 ドクターは仮面をつけ直しながら、耳を傾ける。

 

「さっきアーミヤ、凄い怖い顔しながら出て行ったの。昔の私みたいで、全部破壊しちゃいうそうな勢いだった……ドクター、アーミヤにそんなことさせないで。破壊は、私がやる。アーミヤは、優しいアーミヤのままでいて欲しい」

 

 ロスモンティスには全て見えていた、アーミヤの乱心が。そして、その乱心は自身が理由であることも気づいていた。

 だから、ドクターへ託したのだ。アーミヤを止められるのはドクターかケルシーしかいないことを知っていたから。

 

「ロスモンティスは、本当にアーミヤが好きなんだな」

「うん、アーミヤといると、とっても心が安らぐの。それに、アーミヤも私のことを気にしてくれるの、これって相思相愛って言うやつだよね?」

 

 純粋無垢、いや、純粋すぎるその言葉に、ドクターは頷いた。

 

「そうだな、互いに思いあっているなら、それは相思相愛だ」

「えへへへ、じゃあアーミヤと私は相思相愛。あ、もちろんドクターも好きだよ。ドクターといると、アーミヤとはちょっと違うけど、とっても心が温かくなるの」

 

 その言葉に、ドクターは再びロスモンティスの頭に手を置いた。

 

「なら、私とロスモンティスも相思相愛だな」

「うん、相思相愛。やっぱり、ドクターもアーミヤも、大好き」

「ありがとう、ロスモンティス。それじゃあ私は、君のお願いを叶えて来るよ」

「うん、お願い。ドクター」

 

 病室を出るドクター。詰まっていた息が大きく吐き出される。それと同時に、ケルシーからの通信が端末に入る。

 

≪アーミヤは、今私の部屋にいる。どうやら捕虜のもとへ向かおうとしていたらしい≫

 

「ああ、今そちらに向かう。小隊の皆の状態はどうだ?」

 

≪……良好とは言えない。皆意識はあるが、重傷者も多い。新たにオリパシーに感染した者、感染が進行した者もいる≫

 

「部屋についたら、詳しく聞く」

 

≪分かった≫

 

 そこで通信は途切れる。ドクターは足早に、ケルシーの部屋へと向かった。

 

 

 

 作戦記録

 

 ロスモンティス小隊、及びブレイズ小隊は撤退途中、敵の罠に嵌り、甚大な損害を受けた。その後、ブレイズ隊長とロスモンティスさんが敵の排除を行っている間に通常オペレーターは撤退。戦闘中、隊員が傷つく姿を見続けたロスモンティスさんには大きな精神的負荷がかかっていたように見えた。ブレイズ隊長が致命傷を受けるとともにその精神負荷は限界を迎えたようで、ロスモンティスさんのアーツが暴走、敵を殲滅するとともに撤退した通常オペレーターにも傷をつけてしまった。

 我々にそれで死んだ者はおらず、逆にその暴走のおかげで命拾いした節もあるので、だれもロスモンティスさんを責めたり怖がったりする者はいなかった。しかし、責任を感じたロスモンティスさんは自傷を行い、気絶してしまった。

                      

                     記録者:ブレイズ隊前衛オペレーター

                     

                       【ロスモンティスEND:記憶違い】

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