オペレーターとドクターがイチャイチャしたり、傷ついたりする話 作:古魚
その後に《ホシグマ》〇を書こうと思います。
強い日差しが注ぐボリバル・ドッソレス。富裕層をはじめとした多くの観光客が訪れ、各町や会社が出店する出店が並ぶ。今日は、ここで祭りが開かれている。
「流石に……暑いな」
いつもの恰好で出店が並ぶ通りを歩くドクター。その視線の先には、二人の龍門近衛局として警備をする女性が二人。
「チェンにホシグマ、警備お疲れ様」
ドクターの声に気づき、二人は振り返るなり、眉を顰める。
「あ、ああ、ドクター。暑くない、のか?」
「良ければ、日傘替わりにいたしますか?」
チェンが気遣い、ホシグマが自身の盾を、ドクターを日差しから庇うように掲げる。
「いや確かに暑いが、気にするほどじゃない。この服の空調機能はかなりハイテクだからね。それに、体がそこまで強くないから、日差しを浴びすぎるとすぐに熱射病になってしまう。だから、ここでもこの服を着ている」
ドクターの言葉に二人は納得の表情を浮かべる。
「そう言えば、二人はちゃんとお祭り楽しめてる? せっかくの機会なんだから、仕事もほどほどにね」
その言葉に、好機と言わんばかりにホシグマが口角を釣り上げる。
「ドクター聞いてください。私は先ほどまで休憩時間だったので、屋台を周ることが出来たのですが、チェン隊長が休憩を取ってくれないんです。『私に休憩はいらない。それよりもホシグマはこのまま祭りを楽しむといい』とか言い出すんですよ」
「おい! ドクターに余計なことを言うな!」
チェンが精いっぱい手を伸ばし、ホシグマの耳を抓りながらくどくど話始めるが、それをドクターが制止する。
「まあまあ、それで、チェンは本当に休憩を取っていないのか?」
「いや、昼休憩はとった」
「たった10分、ホットドック一つ食べただけじゃないですか……」
チェンの言葉に、ため息気味にホシグマが呟く。チェンはそれに睨みで答えるが、ホシグマは視線をそらして受け流す。
「祭りは、嫌いか?」
「いや、そうゆう訳ではない。だがこうして職務がある以上、持ち場を離れる訳には……」
アーミヤやケルシーほどではないにしろ、チェンもかなりの仕事人であるため、無理をしがちだったり、自身の娯楽をないがしろにする傾向にあることは、ドクターも理解していた。せっかく龍門からの出店も多いこの祭りを、仕事だけで終わらせてしまうのは、チェンにとってもったいないと考えたドクターは、どうすればチェンが休憩を取ってくれるか思考する。その間0.5秒。
「そうか、なら他を当たるか……」
「む? 何か頼みがあったのか?」
ドクターの呟きに、チェンが食いついた。
「いや、これからぐるっと会場を回りながら他の会社や国が出している商品の視察、そこの住人との関係づくりに行こうとしていたんだが、万が一に備えての護衛を探していてな。特に炎国はよく見ておきたいと思っていたから、そこに精通しているオペレーターが良かったんだがな……」
話しながら、ホシグマにアイコンタクトを送るドクター。それに気づくと、ホシグマはチェンの背中を押した。
「行ってあげてください。チェン隊長は、今はロドスのオペレーターなんですから、ここの警備は私に任せて、ドクターの護衛をお願いします」
背中を押すと言うよりチェンをドクターの方へ突き飛ばしたに近い。
「承知した、なら私はドクターの警護に当たろう。ここはホシグマに任せるぞ」
「了解、拝命しました。行ってらっしゃいませ、チェン隊長」
ホシグマに手を振られ、少々気恥ずかしそうにチェンは歩き出す。
「それじゃあ、頼むよ。チェン」
「あくまで仕事、会場警備の一環だからな!」
念押しをドクターは「はいはい」と流し、会場の散策を始めた。
様々な国や企業から出店があり、伝統的な料理、企業独特の商品、新人勧誘などが行われていた。実際ロドスも出店しており、広報部とアーミヤが薬品の販売、求人、企業理念の説明を行っている。
チェンとドクターは、それらを一つ一つ見て回った。
「上手いな……」
「うん、確かに。さすがシラクーザ出身なだけある」
シラクーザ出身のヴィジェルとペナンスが開くピザ屋。
「これ、買うやついるのか?」
「ラテラーノを支えるのは宗教だからね……」
ラテラーノからきた修道士の聖書や十字架を売る出張教会。
「なんであいつまでここにいるんだ……」
「本当にスワイヤーはどこでも商売をするんだね。行く先々で傘下の店を見つけるよ」
スワイヤーが管轄しているドリンクショップ。
「凄いな。チェンは剣だけじゃなく、クロスボウも上手かったのか」
「一通りの武具は扱える。私は元近衛局局長だぞ?」
ペンギン急便が開いている射的屋。
多くの出店を、二人きりで回る。いずれ時が立ち日も暮れ始める頃、二人はビーチの脇にある石段に腰を下ろしていた。
「ここまで歩き回ってもばてないだなんて、随分体力がついたんじゃないか、ドクター? 初めて会った時とは大違いだ」
「ははは、私も目覚めてからそこそこ立つからね、人並みには動けるようになってきたさ」
日が沈み、暗くなったビーチにはぽつぽつと灯りが灯りだす。
「今日は本当にありがとう、おかげでこの祭りを楽しめたし、目的も果たすことが出来た」
ドクターの感謝に、一度ため息をついて呆れながらチェンは答える。
「礼を言うのはこちらの方だ。ホシグマもドクターも、私に気を使ってくれたのだろう?」
チェンは最初から気づいていた。しかし、自分を連れ出そうとしてくれたことが嬉しくて、騙されたふりをしながら、ドクターとの時間を楽しんでいたのだ。
「ああでも言わないと、君は休んでくれなそうだったからね。でも実際一緒に歩いてみれば、私が楽しくて舞い上がってしまった。君を楽しませようとしていたのに、自分ばかり……」
「私も、君と歩けて楽しかった。君が楽しんでいる姿を見るのも、嬉しかった……だから、その、そう自分を卑下するな」
「そうか……君も楽しめたのなら、本当に良かった」
そう言いながら空を見上げるドクター。
「何か心残りや、回っていないところはあるか? まだもう少しこの祭りは続く、最後まで付き合ってやるぞ」
チェンは持っていたドリンクを飲み干すと、空を見上げるドクターにそう話しかける。その声はどこか弾んでいる。まるで「まだ二人の時間を楽しみたい」と言わんばかりだった。
「そうだな……心残りと言えば、君の水着が見れなかったことかな~」
「私の水着か、それなら―――私の水着!?」
がっと自身の身体を守るような姿勢をして距離を取るチェン。
「いや、他意はないんだ。ただ、いつだったか君がここでひと暴れした時、君が水着姿で戦う写真をスワイヤーが見せてくれてな、綺麗だったものだから生で拝めたらな~っと思っただけだ」
「スワイヤー! あいつは本当に……」
プルプルと拳を震わせるチェン。自身の水着を知らぬところで見られていた恥ずかしさと、綺麗と言ってくれた事実への照れでよく分からない感情になっていたチェンだが、やがて落ち着いたのか、大きく息を吐いた。
「あの水着は、まだ私の部屋のクローゼットに仕舞われている。君が見たいと言うなら、ロドスに帰った後でも、着ることはやぶさかではない……」
まだ紅潮している頬で、消え入りそうな声でそう告げるチェン。
「い、いや、そんな無理する必要はないんだ。すまない、流石にデリカシーがなかったな、忘れてくれ」
「別に、ドクターになら……」
さらに顔を赤くしながらチェンは呟く。あまりに小さな声だったため、ドクターは聞き取れなかった。
「ん? なんて?」
言うかどうか迷い、悩み、葛藤した挙句、顔を真っ赤にしてチェンは言った。
「ドクターなら、別にみられるのも不快ではない。むしろ、綺麗と言ってくれたのは―――」
チェンの言葉を遮るように、爆発音が辺りに響く。それと同時に、空にはまばゆい火花が散った。
赤青黄色、花型に流星型、大小さまざまな花火が祭りの空を彩る。
「綺麗な花火だ……」
ドクターは思わずチェンから目を離し、そちらに視線を向ける。その動作に一瞬苛立ちを見せるチェンだったが、すぐに自身も花火に目を奪われた。
「ああ、本当に綺麗だな……」
ぱっと光って咲いた花火は、一瞬だけ地上を照らす。淡い光で照らされ、穏やかな顔で空を見上げるチェンに、ドクターは思わず呟いた。
「こんな日が、続くと良いんだけどな」
こんな何気ない平和が、いつまでも続くことを、ドクターは願う。
「ロドスは、こんな日を、日常を守るために戦うのだろう。それは近衛局とて同じだ」
こんな何気ない平和を、いつまでも守り続けると、チェンは誓う。
「そうだな……いつか、こんな何気ない日が毎日当たり前にやってくるような世界を目指して、これからもよろしく頼む」
ドクターの突き出した拳に、チェンは微笑みながら、自らの拳を合わせて答える。
「ああ、勿論だ」
一際大きな花火が空に瞬くとともに、チェンはドクターの手の甲へと口づけを行う。
「私はドクターの優秀な部下であろう。さあ、理想のための指示を、ドクター」
【チェンEND:隊長の宣誓】