オペレーターとドクターがイチャイチャしたり、傷ついたりする話 作:古魚
「ドクター!」
どたどたと騒がしい足音が廊下から聞こえて来る。
「ハイビス! 病棟で騒いじゃダメでしょ!」
「そうだよ~体調崩してる人が寝てるんだからぁ~」
このやかましさ、ドクターは誰が来たのかすぐに分かった。
「ハイビス、騒ぐなっての!」
「ハイビスちゃん、迷惑になっちゃうよ~!」
「ダメ! この料理を! 体調がすぐれないこの料理をドクターに届けないと!」
「私が、私が代表して行ってあげるから! クルース、ラヴァ、ピーグル、ハイビスをお願い!」
「はいはーい」
「しょうがない、まかされた」
「わ、分かった」
「ドークーター!」
そんなやかましい一幕の後、改めてノックが聞こえる。
「行動予備隊A1、フェン。入ります」
礼儀正しい動作に言葉、いつものフェンだ。
フェンが率いる行動予備隊A1はもともと見習い部隊として行動していたが、最近になって独自に任務を任されることも増えて来た。フェンは既に一般オペレーターとして認められ、ラヴァは順調にアーツの実力を伸ばし、クルースの射撃の腕は一線級へと成長を遂げた。ピーグルも着々と成長を続け、他重装オペレーターたちもその実力を認めている。
「フェン、お帰り。龍門での任務はどうだった?」
「はい、何も問題なく完了しました。報告書は、アーミヤさんに提出してあります」
「うん、お疲れ。まあ座りなよ」
立ったまま報告を続けるフェンに、ドクターはそう進める。
「ありがとうございます。失礼します」
さっと座り姿勢を正すフェン。
「ドクター、体の方は大丈夫でしょうか? 三日程前から寝込んでいると聞きました」
「ああ、少し体調を崩してしまってな。今はもう問題ない、明日には仕事に復帰するよ」
フェンはその言葉を聞いて、一安心と言わんばかりに大きく息を吐く。
「そうなんですね、でしたら一安心です。帰還途中にドクターが倒れたと聞いて、皆心配していたんですよ」
「心配かけて済まないな」
「いえいえ。ハイビスがまた健康料理と言う名の大量破壊兵器を作ってしまったことを除けば、何も問題はありません」
そっと金属の箱を取り出す。そこからは開けずとも、どす黒いオーラが漂っている。
「は、ハイビス……またやったのかぁ」
頭を抱えるドクター。
ハイビスは「癒しの料理」と称して、多くの食品や薬品をまぜこぜにした料理と言う名の生物兵器を作ることがある。最近では患者の声を聞くことを覚え始め、少しずつ改善されてはいるが、感情が高ぶるとこの有様だ。
「……食べます?」
恐る恐るフェンが聞いて来るが、流石のドクターも、得体のしれないどす黒いオーラを放つ紫色の固形物など食べたくはない。
「いや……遠慮しとくよ」
「それが、懸命だと思います」
二人で納得し、ハイビス癒しの料理の話は終えた。
「まあ、こんな料理を作るぐらいには、ハイビスもドクターのことを心配していたんです。それは、分かってあげてください」
「気持ちは十分受け取っているよ」
「私たちもですよ。あのクルースが、移動中の車の中で寝なかったぐらいなんですから」
軽く笑うドクター。その姿を見てフェンは、本当に大丈夫なのだと確信できたのか、席を立つ。
「それでは、私は戻ります。皆に、ドクターが大丈夫だったということを伝えておきますね」
「ああ、よろしくな」
「それから、ドクター」
部屋を出る前に、改まってフェンはドクターへ向き直る。
「私たちA1は、皆ドクターのおかげでここまで来れました。貴方を失ってしまっては、成長してきた半分の意味を失ってしまいます」
ぎゅっと自身の胸を握りしめながら、フェンは真っすぐにドクターの目を見つめる。
「ですのでドクター、どうか無理しないでください。私たちでもお力になれるようなことがあれば、なんでも聞かせてください。必ず、期待に応えて見せます」
そのままフェンは一礼して、病室を去って行った。
「大きくなったな、あの子も……」
背も伸び落ち着きも出て来たフェンを見てドクターは、そんな言葉を零すのだった。
またしばらくたって、病室の扉が開けられる。
「やあ、W。今度はどんな面倒ごとを持ち込んでくれたんだい?」
「あら失礼ね、面倒ごとを呼び込む以外の目的でも、私はここに現れることぐらいあるわよ」
元レユニオン、サルカズ傭兵団のトップ、Wがつかつかとドクターの側へと歩み寄る。
じろじろとドクターの顔や体を見た後、残念そうな表情で言った。
「何よ、あんたが寝込んだって聞いたから、弱った顔を拝めると思って飛んできたのに、随分元気そうじゃない」
「まあ倒れたのは3日前だしな、今はだいぶ復活したさ」
足を組んで座るWに、ドクターは目も向けず、手元の報告書を読み続ける。その動作に、Wは少々不満げな表情を浮かべる。
「何読んでるの?」
「行動予備隊A1の子たちの報告書だ。ついさっき帰って来たからな、アーミヤに頼んで持ってきてもらったんだ」
「こんな時まで、仕事するのね。しかも見習い部隊だなんて―――」
「戦力に成らない部隊に時間を割くのは可笑しい、そう言いたいのか?」
ドクターの低い声に、Wは眉間に皺を寄せる。
「そうよ、自分の体調もままならない奴が時間を割くほど重要な戦力ではないでしょ? それとも何、その子供たちがロドスの一戦力だって言いたいの?」
「W、君にこの子たちの何が分かる? それに、この子たちだから時間を割いているわけではない。確かに業務をこなすのはケルシーに禁止させられているが、報告書を読むだけならできるんだ。帰還したオペレーターたちの報告書は全て目を通している」
「あんたは、これだから……!」
Wが自身の拳を握り締めながら、明らかに不機嫌な表情を浮かべる。
「自分の身を大事にしろって言ってんの! わかんない!?」
Wは強引に報告書を取り上げようとするが、ドクターもそれに抵抗する。
「やめろW」
「止めないわよ、これはあんたのためだもの」
もみ合っているうちにWが体制を崩し、ドクターの上へ覆いかぶさるように倒れ込む。
「……ねえ、聡明なあんたなら分かるでしょ? 私今、柄にもなく人のこと心配してるの。少しはその心配に答えようとしてくれないかしら?」
Wの手がドクターの首にかかる。
「あんたは覚えてないでしょうけど、過去のあんたに、私は色々貸しがあるのよ。今ここで貴方の首を絞め落とすことで晴らせるような貸しが」
Wの表情は色んな感情が混ざり合い、ぐちゃぐちゃだった。そんな表情に、ドクターは困惑する。
「でも、今のあんたは昔と違う。その頭脳以外何一つ同じじゃない。私は今のあんたは嫌いじゃないの。その偽善者ぶりも、お人よしも、嫌いじゃないの。だからこそ、失いたくないと思ってる」
「……W?」
今にも泣きそうなWの顔へと、ドクターは手を伸ばすが、Wはそれを振り払う。首にかけていた手もほどき、Wはさっさと部屋から出て行ってしまった。
ドクターのベッドには、プレゼントボックスが一つ。それを開けると、舌を出した頭が飛び出し、ビヨンビヨンとバネで頭を揺らす。よく見ると、蓋には紙に包まれた飴が一粒。
「……はぁ。後で謝りに行くか」
Wの残した飴を口に放り込み、ドクターはそう呟いていた。
【ドクターEND:病室を訪れる目的は】