オペレーターとドクターがイチャイチャしたり、傷ついたりする話 作:古魚
「失礼します。ドクター、ただ今戻りました」
執務室の扉が開くと、報告書を抱えたホシグマが部屋へと入ってきた。
「……あら?」
ドクターの姿を探して辺りを見渡すと、机に突っ伏すドクターの姿があった。
報告書を机の上に置いて、ホシグマはドクターの様子を窺う。
「ふむ、よく眠られていますね……お疲れなのでしょうか?」
ドクターの横には、この前のボリバルでの出店に関する収支報告、そこでの求人結果など、様々な資料が積まれている。
「あらあら、チェン隊長もそうですけど、ドクターも大概ですね」
机の資料を整えると、ソファーの上に畳まれていた毛布を広げ、ドクターの背中にかける。
「風邪をひかれては、困りますからね」
机周り、ドクターの居眠り環境が整ったことを確認し、満足げにソファーへ座る。
「……勤務時間中は、ここにいるか」
現在のドクターの秘書はホシグマであり、秘書の仕事は朝八時から夜六時までと一応定められている。
オペレーターによっては24時間一緒に居ようとする者や、常に同じ接し方をし続ける者もいるが、ホシグマはそうではない。始業の5分前に執務室へ入り、ドクターへ挨拶した後、仕事モードへと切り替わる。仕事モードのホシグマは、ドクターに対して敬語を使い、淡々と執務をこなす。
「ドクター、入りますね」
しばらくすると、アーミヤが部屋を訪れた。
「あ、ホシグマさん。お疲れ様です」
「アーミヤ殿、お疲れ様です」
二人が軽く挨拶を交わす中、ドクターはまだ眠り続ける。
「あれ? ドクター、眠ってしまったんですか?」
腰に手を当ててご立腹のアーミヤ。ホシグマは、それを宥める。
「まあまあ、どうやら仕事はひと段落付いていたようですし、休ませてあげましょう」
「今週の秘書であるホシグマさんがそう言うなら……」
アーミヤは引き下がり、後で出直すと言って部屋を出て行った。
「それで、いつまで寝たふりを続けるんです?」
部屋を出ていくアーミヤを見送った後、ホシグマは振り返りながらそう言う。
「バレてたか」
「ええ、アーミヤさんの声で目が覚めていましたね?」
頭をかきながら、ドクターはマスクをつけ直し、毛布を畳む。
「そこまで分かってたのか。ああ、毛布ありがとう」
「いえいえ。それにしても、寝たふりをするほど仕事が嫌になっていたのですか?」
答えにくそうに、ドクターは言う。
「嫌になった、って程じゃないが……まあ、ここの所仕事が立て込んでいてな。ボリバルでのイベント直前ぐらいから忙しくてしょうがない」
「それなら、今夜ぐらいは休まれては? 明日一日は、資材の運搬が遅れて、やろうと思っていた改装が出来なくなっているのでしょう? 夜に一杯飲んだとしても、問題はないですよ」
ホシグマの言葉に、ドクターは少し悩む。
「そうだな……考えておくよ」
「……そうですね、考えておいてください」
片目でドクターの目の動きを観察するホシグマ。ドクターは、その動きに気づかなかった。
そのまま時間は過ぎ、終業の時間となった。
「今日のホシグマの仕事はここまでだな、お疲れ様」
「はい、小官はこれにて失礼いたします。お疲れ様でした、ドクター」
ホシグマは一礼して部屋から去っていたのも束の間、数分後には、再び執務室の扉を開けていた。
「……やっぱり休んでなかったな」
「ホシグマ? どうした、何か用か?」
ボールペンを握ったままドクターが聞く。
「私は言っただろう? 休めと」
ずかずかとホシグマは執務室へ入って行き、ドクターの首根っこを掴む。
「ちょ、ホシグマ!?」
「今日はもう終わりにしろ」
そのままドクターを担ぎ上げ、部屋から出ていく。
「どこへ行く気だ、ホシグマ」
「私の部屋だ、ドクターを一人にしたらどうせ仕事を始めるからな」
身長180センチ越えのホシグマに力で勝てる訳もなく、ドクターはそのままホシグマの部屋へと持ち運ばれ、ベッドに放り投げられた。
ホシグマは机の下に仕舞われている木箱を開け、かなり大きい瓶を取り出した。その中身は、半分ほど既に入っていない。
「さあ、これをもって」
ドクターに盃を渡すと、ホシグマは瓶の中身を注いだ。
「ぐいっと行け、これはいい酒だ、悪い酔い方はしない」
自身の盃にも注ぎながら、飲むよう催促するホシグマ。ここまで来たからには、飲まないと返してくれないだろうと諦め、盃に口を付けた。
一口口を付けた瞬間から、鼻を通り抜けるアルコールの香り、舌が感じる若干の辛みとそれを緩和するまろやかさ。
「美味い!」
「だろう? それは私の秘蔵の一本でな、滅多に開けないようしてるものだ」
自身もその酒の美味さを味わいながら、ホシグマは言う。
「よかったのか? そんないいものを私に飲ませて」
「そうでもしないと、ドクターは私の晩酌に付き合ってはくれまい? いい酒とつまみ、それにいい女でもいれば完璧なんだがな、今晩は酒だけで勘弁してくれ」
二杯目をドクターの盃に注ぐ。それから自分のものにも注ごうとするので、ドクターはそれを止め、瓶をホシグマから借りた。
「私が注ごう」
「そうか、では、お言葉に甘えて」
盃を差し出すホシグマ、零さないようドクターは慎重に酒を注ぐ。
「そうだな、今晩は君の晩酌に付き合おう。いい酒に、いい女を用意してくれたみたいだからな」
小首を傾げるホシグマ。だがすぐに理解したのか、やや表情を赤らめ、笑う。
「ふふ、私がいい女か、まったく、ドクターは見る目がないな。こんなデカ女のどこが良いんだ、まったく?」
口ではそう言うが、表情は弾んでおり上機嫌なのは一目で分かる。
「仕方ない、それなら今日は、ドクターの言うとおり、いい女に努めようじゃないか」
グイッと二人は酒を流す。
時は立ち、ドクターはかなり酔いが回って来る。
「ふう……さあもう一杯だ。私が注ごう」
ホシグマはまだまだドクターに酒を勧めるも、首を振ってそれを拒否するドクター。
「なにっ、もうダメだって?」
しかし、少し顔を赤くしているホシグマはがっちりドクターの腕を掴んで盃に酒を注ぐ。
「酔いつぶれても、私が部屋まで送るから心配無用だ……余計に不安だと? ふっ、空気を読んでもらいたいものだな」
ホシグマは盃を飲み干すドクターを見つめながら、薄く微笑む。
「私はボリバルのあの時、チェン隊長を休ませるためにドクターを利用したが、実は少し妬いていたんだぞ?」
「どうゆう、ことだ?」
虚ろな目をしたまま壁に寄りかかるドクターは、朦朧とする意識の中聞く。
「私も、ドクターと回れたら楽しいんだろうなと思っただけだ。チェン隊長やスーお嬢様と回っても楽しいでしょうが、ドクターといる時間は、また違った特別な感覚になれる」
大きな体をずいっとドクターに寄せて、至近距離で顔を覗き込む。
「この晩酌に連れて来たのは、ドクターを休ませる目的もあるが、何より私が、ドクターと二人の時間が欲しかった」
「近いぞ、ホシグマ……少し、はなれ―――」
「いい女が目の前に居て、照れたのか? それとも……」
顔が耳元へ移動し、普段の漢らしい声とは打って変わって、色っぽい、大人の女性の声で囁いた。
「我慢できそうにないのか?」
ドクターは慌てて、ホシグマを突き飛ばすように腕を伸ばすが、その体格差から分かるように、勝てるわけがない。
「だから、余計に不安だと……言ったんだ。酔いに任せては、良く……ない」
ふらふらと立ちあがろうとするドクター、しかし完全に酒が回っているのか、まっすぐ歩けない。
「私が、酔っている様に見えるか?」
その声は、真っすぐだった。普段の仕事中と変わらぬ声の張、ホシグマはこれまで数リットルの酒を飲み干しているが、一切酔ってはいなかった。
「まあドクター、そう硬くなるな。私とて性欲はあるんだ、ここは大人の付き合いとして、相手をしてはもらえないか?」
「……断っても、どうせ襲うんだろう?」
「ご名答~」
そのまま夜は更け、朝になる。ホシグマの言う通り、一日ドクターの仕事はなく、執務室にドクターがいなくとも、問題なく昼頃まで過ごすことが出来た。
しかしホシグマは、そうではなかった。
「おい、ホシグマ。まだ寝ているのか、11時に私の部屋に来いと言っただろう……入るぞ?」
二人が眠る部屋に、チェンがノックをする。その音で目覚める二人。
「いつまで寝て……寝て……」
チェンの視線は、ぐちゃぐちゃに散らかった酒瓶とつまみ、二人の服と流れ、ベッドに寝転ぶ、二人の姿へと移る。
「あ、どうもおはようございます、チェン隊長。すぐ支度を整えますね」
つやつやした表情で元気よく目覚めるホシグマ。そこに悪意も反省の色もない。
「お、ま、え、ら~! なぁにをしていたぁ!」
チェンの怒声が、お昼のロドスに響き渡った。
【ホシグマEND:鬼が勧める酒】