オペレーターとドクターがイチャイチャしたり、傷ついたりする話 作:古魚
「寒いな……」
2月14日、いつも通り業務をこなしていたドクター。今日の執務室には、ドクター以外誰もいない。秘書の子は現在急用でロドスを離れている。
静かな執務室に、ドクターがキーボードを叩く音だけが響く。
コーヒーに手を伸ばし口を付けると、中身が空になっていることに気づく。適当にインスタントコーヒーを入れ直そうと席を立つドクター。ふと目に入った外には、はらりはらりと雪が降り始めていた。
「雪、か……この時期に振るのは珍しいな」
空になったカップ片手に、窓の外の景色に見とれるドクター。
ドクターの記憶の中に、彼女が蘇って来る。真っ白なうさぎ、雪原の中ではかなくも美しく命を散らした彼女。
「ドクター、元気か」
そう、こんな透き通った声を持った彼女。
「……フロスト……ノヴァ?」
背後から聞こえたその声に、ドクターはゆっくりと振り返った。
「ああ、私だ。久しいな」
手に持っていたマグカップを机の上に置き、ドクターはゆっくりとフロストノヴァへと近づいていく。
「どうして、ここに……」
自身の頬をかきながら、フロストノヴァは答える。
「雪が、私を呼んだのかもしれない。ドクターが寂しそうにしているのが見えて、こうしてわざわざ会いにきてやったんだ」
ドクターは理解した。これは夢なのだと。
「今自分が夢を見ていることを、どうやら理解したようだな」
フロストノヴァの微笑に、ドクターは頷く。
「ああ、君は龍門で眠りについたからな。蘇って来られても困る」
「……そうだな。ロドスは、今でもあの時と変わってはいないか?」
フロストノヴァは、ソファーに腰掛け、ドクターに語り掛ける。
「ああ、何も変わっていない。ロドスは、常に一つの信念のもとで戦っている」
嬉しそうに微笑むフロストノヴァ。上機嫌に「そうか、そうか」と頷く。
「あの子うさぎも、元気にやっているか?」
「アーミヤは元気だ。一人でも多くの鉱石病患者を救うために、日々奔走しているよ」
「ドクターは、どうなんだ?」
「私も、元気だよ」
静かな執務室で、二人はそんな何気ない会話を続ける。特別何かをするわけでは無い。ただ、この優しく温かい時間を、二人は共有している。
「……もうこんな時間か」
フロストノヴァが、静かにそう零す。
「もう、夢の時間は終わりかい?」
ドクターの声に、少し物悲しそうな表情を浮かべながら、フロストノヴァは頷く。
「ドクター、今日は2月14日、恋人や大切な人に、チョコレートを贈る日だそうだ」
唐突にそう言いだすと、フロストノヴァは自身のポケットに手を入れる。
「だが生憎、私はチョコレートなど持ち合わせてはいないのでな……世話になった君に、これを贈ろう」
紙に包まれた一粒の飴玉。
「夢でまで、君は私にイタズラをしたかったのか?」
「ははは、覚えていたか」
やや赤みがかった飴は、ドクターの舌には痛みを感じるほど辛い。
「ああ、忘れたことなどないよ。君とのあの時のやり取りを……」
机に置かれた飴を見つめながら、ドクターはそう呟く。
「なあ、これは夢、何だよな」
「ああ、これは夢だ」
確認を取ると、ドクターは席を立ち、もう触れることが出来ないはずの彼女の頬に手を伸ばした。
「温かいな」
「ふふ、そうだな。私は君の腕の中で果てた時、久しぶりに人の温かさに触れることが出来た。その時の私のままここに居るのだから、きっと、温かいままだろう」
頬に触れるドクターの手に、自身の手を重ねながらフロストノヴァは言う。
「さあ、もう夢から覚める時間だ。ドクター、ゆっくり来るんだぞ、全てが終わった後、アーミヤも連れてまた会いに来てくれ。ウルサスの自然豊かな雪原に、小さな小屋でも立てて、君たちを待って居よう」
フロストノヴァはドクターの身体を抱きしめ、消えるその一瞬、年相応の笑顔を浮かべていた。
「―――ドクター、ドクター」
体を揺さぶられ、聞き慣れた声で目を覚ますドクター。
「うん……アーミヤ?」
「居眠りされていたんですか?」
ドクターが顔を上げると、心配そうにのぞき込むアーミヤの顔があった。
「うん……寝てしまっていたか。すまない、何かようがあったのか?」
ドクターは自身の目を擦りながら、欠伸をする。
「いえ、そんなに大切なことではないんです。ただ今日は2月14日、バレンタインですのでチョコレートをと思いまして」
そう言って差し出される包み。
「そうか、ありがとう」
「……あれ、そのキャンディーは?」
アーミヤが、ドクターが握りしめる一粒の飴玉を指さす。
「これは……」
ドクターは小さく笑い、窓の外で振り続ける雪へと視線を向ける。
「これは、あの雪の贈り物さ。体を冷やさないように、とね」
そう呟いて飴玉を口に放り込む。鋭い痛みが、ドクターの口を襲った。
「辛っ……」
この痛みと熱は、自分が今生きていることを、ドクターへと実感させるのだった。
【フロストノヴァEND:雪の贈り物】
少し遅れて、後1話、ケルシー、エイヤ、Wをまとめたのを出すのでしばしお待ちを