オペレーターとドクターがイチャイチャしたり、傷ついたりする話   作:古魚

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バレンタイン (ケルシー、エイヤフィヤトラ、W)

 朝一番、今日も仕事を始めようと執務室へドクターが向かうと、すでにそこには人影があった。

 

「あれ? ケルシー?」

「来たか、ドクター。おはよう」

「ああ、おはよう」

 

 机に寄りかかり、マグカップを傾けるケルシー。傍らには、保温バッグが置いてある。

 

「それで、こんな朝早くからどうしたんだ?」

「君、朝食は取ったのか?」

 

 ドクターの問には答えず、ケルシーは質問を重ねる。

 

「いや、まだだ。少しやってから食堂に行こうかと……」

 

 ギロッと鋭い目がドクターを襲う。

 

「君は現状、朝食を食べずにここへきて仕事を行おうとした。この事例は、過去にも何回か記録されている。そしてそのどれもが、結局朝食を取らずに、ひどい場合は昼食すらとらず倒れるまで仕事をしていた。つまり、今回も私が見過ごせば君は朝食を取らず、エネルギー不足で倒れる可能性がある。倒れなくとも、インスタント麺や栄養剤を摂取し、君の身体へ悪影響を及ぼす。それを踏まえれば、君は朝食を、しかもしっかりと栄養の取れる朝食を可及的速やかに摂取する必要があるだろう。そうすれば、君が倒れる心配もない。だが、それを私は強要出来ない。君の行動は君が決める権利がある」

 

 相変わらずの長文が、ドクターへ殴り掛かる。

 

「わかったわかった、食堂へ行くよ」

 

 言葉に押される形で執務室を後にしようとしたドクターだったが、それをケルシーは引き留めた。

 

「まて」

「まだ何かあるのか?」

 

 振り返ると、ケルシーは目を泳がせながら、先ほどより小さな声で言う。

 

「君が朝食を取っていないことは想定していた。そして、その理由が仕事へいち早く取り掛かりたいためだというのもおおむね理解している。私は、そんな君の気持を尊重したいとも思った。かつ、君と話す時間が最近足りず、意見交流や方針の確認などが疎かにされていると感じていた。だから、な……その、そうゆうことだ」

 

 ドクターは仮面の下で、ニヤリと笑う。今回のケルシー構文の最後は、意図的に濁している訳ではないことを察知したからだ。明らかにケルシーは、何らかの心理的動揺で、最後の言葉を言えなかったと睨んだ。

 ドクターは、あえて沈黙を保ち、ケルシーの表情を観察する。

 

「……なんだ」

 

 その視線に気づいたのか、ケルシーは若干頬を赤らめ、そっぽを向いてしまう。

 

「そうか、じゃあ後でな。とりあえず朝食を食べて来るよ」

 

 ドクターが踵を返して部屋を去ろうとすると、ケルシーは明らかにしょぼんと耳を垂らす。

 

「私が倒れた時もそうだが……君は、私をいじめて楽しいのか?」

 

 後ろから聞こえた言葉に、流石に可哀想に思ったのかドクターは大きく息を吐き、振り返る。

 

「朝食、付き合ってくれるか?」

「最初からそう言って欲しい物だな」

 

 ピンと耳を立て、ケルシーは保温バックから何枚か皿を取り出し、机に並べる。

 

「君が、そう言ってくれると信じて、朝食を用意しておいた。わざわざ食堂に行かなくとも、ここで食べられるようにな。さあ、ソファーに座ってくれ」

 

 言われるがままソファーへ腰掛けるドクター。

 

「今日はバレンタインという日らしいからな、チョコレートサンドを作って来た。脳のエネルギーになる」

 

 ポッドでコーヒーを入れながらそう話すケルシー。チョコサンドを一つ掴み、一口。ドクターの口の中には、程よい甘さとが広がった。

 

「うん、おいしい」

「そうか……それは、よかった」

 

 ケルシーの耳がピコピコと小刻みに揺れる。誰がどう見ても、ケルシーは心のそこから喜んでいた。あの滅多に笑わないケルシーの口角が、この朝食の時間だけは、僅かに持ち上がっていたのだから。

 

 ♦

 

 時計の針が15時を指す頃、執務室を訪れる人物がいた。

 

「先輩! お疲れ様です!」

「ああエイヤか、お疲れ様。何か用かな?」

 

 ドクターが手を止めて、エイヤの方へ視線を向けると、「えへへ~」と笑いながら、丁寧にラッピングされたピンク色の箱を差し出してきた。

 

「ハッピーバレンタイン、先輩! これは私からの、日ごろの感謝です!」

「とすると、チョコレートか。ありがとうエイヤ」

 

 しっかりと両手で受け取るドクター。エイヤはこの場で開ける様に催促してくる。

 

「ぜひ、開けて中身を確認してみてください! 自信作なんですよ!」

 

 そう言われたからには開けるしかない。ドクターは頷いて、包装をほどいていく。

 蓋を開けると、まるで羊のようなふわふわの綿の中央に、山形の立体的なチョコが5つ並んでいる。

 

「これは、火山をモチーフにしたのかな?」

「はい! おひとつ食べてみてください!」

 

 先ほどからずっと目がキラキラしているエイヤ。女性はお菓子に対してものすごい情熱を捧げる人もいる。エイヤもそのうちの一人なのだろうと、勝手に納得しながらドクターはぱくりと一つ下の上に乗せる。

 パリッと表面の山を歯で砕くと、フルーティーな香りと酸味が口の中に広がる。歯ざわりの良い外のチョコの甘さ、中から溢れて来たフルーティーな液体が混ざり合い、上品な味わいとなっていた。

 

「おいしいな、これは、中にイチゴのシロップが入っていたのかな?」

「流石先輩! 分かっちゃいましたか」

 

 どうやらドクターの読みは当たっていたらしくエイヤが胸を張って解説をする。

 

「何日も砂糖とイチゴを一緒の瓶で漬け込み、抽出したシロップを火山の形に模ったチョコの中に入れてみました! これで、流れ出る溶岩も再現できた、火山チョコレートの完成です!」

「うん、本当においしいよ。エイヤはお菓子作りも上手なんだな」

 

 ドクターの言葉に、エイヤは頬をかきながら、照れ臭そうに笑う。

 

「実は、お菓子作りは初めてなんです。先輩に、喜んで欲しくて、今年は頑張っちゃいました」

 

 チラッとエイヤの視線が執務室の脇に移る。

 

「あの脇に積まれているチョコは……」

「ああ、あれはアーミヤにブレイズにスカジにケオベにアズリエル……とにかく色んなオペレーターたちからチョコを貰ってね、流石に一気には食べられないから、保管場所を考えていた所なんだ」

「……私のチョコは、埋もれない……よね」

 

 ボソッと小さな声で呟くエイヤ。

 

「ん? 何か言ったか?」

「あ、いえ、何でもないんです。ただ、皆さんからチョコを貰っているので、先輩は本当に、皆さんから愛されているんだなと思っただけです」

 

 尊敬のような、嫉妬のような感情が渦巻くエイヤ。表情に出ないよう、必死に笑顔を作る。しかしドクターには、全てお見通しであった。

 

「確かに、皆がチョコをくれるが、そのどれもが大切なものさ。勿論、エイヤがくれたこのチョコもね」

「先輩は、ずるい人ですね」

 

 小さくため息をついて、エイヤは一歩下がる。

 

「お返し待ってますからね! せんぱい!」

 それだけ笑顔で言い放つと、パタパタと可愛い足音を立てて部屋を去って行ったエイヤ。そんな後ろ姿に手を振りながら、再びチョコを一つ口に運ぶドクター。

 

「……純粋な味だけなら、エイヤのチョコが一番好みなんだがな」

 

 ドクターの本音であった。

 

 ♦

 

「今日の仕事はこんな所か……あとの残りは明日以降でも大丈夫……チョコのおかげで、随分作業がテンポよく進んだな」

 

 軽く伸びをしながら、時計を見る。時刻は11時を指していた。すでに寝る体制を整えて、自室での作業だったため、このままベッドに入れば就寝できる。

 

「邪魔するわよ」

 

 机の上を片付けている最中、ドクターの部屋の扉が開いた。

 

「ん? Wか、お帰り。いつ帰って来てたんだ?」

 

 今週の秘書であるWだった。彼女は自ら出張系の仕事をしたいと言い出し、昨日からロドスを離れていた。

 

「ついさっきよ。どうせ今日も深夜まで執務室にいると思っていたのに、今日は随分お早いお休みね?」

「まあな、皆から沢山チョコを貰ったおかげで、作業が捗ったんだ」

「そうなの? ああ、そう言えば今日はバレンタインだったわね。さすがドクター、モテモテね」

「皆から信頼されていると思うと、嬉しい限りだよ」

 

 ベッドを整えながら、Wの問いかけに答える。

 

「もう遅いから、報告は明日聞くよ。君も、今日はもう休むといい」

 

 一切自分の方を見ようともしないドクターに、Wはイライラを募らせる。

 

「そう言えば、出張先でとっても美味しそうなお菓子屋さんを見つけたのよ。チョコレートを売りにしているお店で、あんたが聞いたら食べたがると思って、しょうがないから一箱だけ買って来て上げたのよ。お高いチョコだから、ほんとは自分で食べようかとも思ったんだけどね、しょうがないから、あんたに上げるわ」

 

「報告は明日聞くと言っただろう? それに、そんなに高いチョコなら、自分で食べるといい。私は、もう十分チョコを食べたし、まだまだ残っているからね」

 

 ドクターのそっけない言葉に、Wはさらに捲し立てる。

 

「あらそう? じゃあ遠慮なく食べちゃおうかしら、限定品でこの季節しか買えないお高いこのチョコレート。せっかく譲ってあげようと思ったのに、そう言うなら仕方ないわよね?」

「ああ、ゆっくり自室で楽しむといい」

 

 仮面を外し、本当に寝ようとするドクター。Wは手を握りしめ、奥歯を噛みしめる。

 

「何よ! 私からのチョコがそんなに欲しくない訳!?」

「どうしたんだ急に? 君が自分で食べたいと言ったんじゃないか」

 

 その言葉に、遂には目元に涙を浮かべるW。しかし、その反応を理解できないドクターはただ困惑する。

 

「なんで! なんであの女の言葉の真意は簡単に見抜く癖に、私の言葉は分かってくれないのよ!?」

「あ、あの女?」

「ケルシーよ!」

「そりゃ、ケルシーとは長い付き合いだし……」

「本当は私ともあいつと同じくらい長い付き合いをしているのよ、あんたは!」

 

 ボロボロと涙を零しながら、勢いよくチョコの入った箱を机の上に置くW。

 

「毎日あんたが頑張っているのを見ているから! わざわざ出張任務でロドスを開けて、このチョコを買って、こうやってバレンタインに間に合うように帰って来たのよ!」

 

 照れか涙か、もはや分からないが、Wは顔を真っ赤にしながら言い放つ。

 

「じゃあこのチョコは……」

「もともとあんたに渡すためのチョコよ!」

 

 ドクターはようやく理解し、あわあわとWへ謝る。

 

「す、すまない! 君がいつもみたいにからかっているのだと思って……本当にすまない! ありがたく、このチョコは頂くよ」

 

 机の上の箱に手を伸ばすと、バシッとWにその手を叩き落とされる。

 

「もう許さない! あの女に負けてるって事実が気に食わない!」

 

 Wはそう吐き捨てると、乱暴に包装を破り、蓋を開け、ハート型のチョコを一つ取り出すと、自らの口の中へ放り込むと、数回かみ砕き、ドクターをベッドへ押し倒す。

 

「くひ、はへなはい」

 

 ドクターは訳も分からず首を振ると、盛大なWの舌打ちが聞こえたかと思うと、ドクターはWに鼻をつままれる。

 いきなり呼吸器系を潰されたドクターは、反射的に口を開く。すると、Wは口にチョコを含んだまま、ドクターの開いた口へと自らの口を重ねる。

 驚いてWを突き放そうとするが、ドクターの腕力では、仮にも戦場で駆けずりまわる傭兵であるWの筋力には敵わない。

 Wの口を通して、濃厚で甘ったるい、ドロドロになったチョコレートがドクターの舌の上を踊る。その甘さと同時に、微妙な辛みを含むアルコールと、脳を梳かすような刺激を持つWの唾液がドクターの口の中を支配する。それは、ドクターにとっても刺激的で快感を脳へ与えた

 

「甘い、流石においしいわね」

「W、止めるんだ。一時の感情にながさ―――」

「黙りなさいよ」

 

 再びチョコを口の中でかみ砕き、ドクターの口へ重ねるW。ドクターは先ほどと同じ快感に支配される。舌の上につくチョコを互いに嬲り、堪能すると、またWは口を離す。

 

「あの女と同等以上に、私のことが理解できるようになるまで、止めないから」

「ま、W。まって……」

「あんたが悪いのよ、ドクター。女の嫉妬はね、怖いの」

 

 ドクターの制止も空しく、Wの攻撃は止まなかった。

 

                   【バレンタインEND:それぞれが思うこと】




どうしてWはちょっといじめられる、可哀そうな目に合うのがこんなに似合うんだろうねぇ
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