オペレーターとドクターがイチャイチャしたり、傷ついたりする話   作:古魚

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テンニンカ △

 激しくアーツや矢、投げナイフなど、様々な遠距離武器が飛び交う戦場のど真ん中に、まっさらなテーブルクロスの旗がはためく。

 

「みんな安心して戦って、あたしが付いてるから!」

 

 テーブルクロスの旗を掲げる小柄な少女は、自身の周り着弾するそれらを気にせず前へ前へと進む。

 

「テンニンカ! もう大丈夫だ、一度君は退いてくれ!」

 

 通信機からは、ドクターが撤退の催促をするが、テンニンカはそれを聞こうとしない。

 

「ダメだよドクター、私は大将軍なんだから、苦しい時に私だけ退いたら皆も困っちゃう」

 

 それだけドクターへと伝えると、テンニンカは再び前へ向かう。

 

「みんな、助けに来たよ!」

 

 前方で敵の遠距離武器に怯んでいるオペレーターの近くへ駆け寄り、テンニンカは旗とともに金色のリンゴを掲げる。

 

「テンニンカ! よし、お前ら、行くぞ!」

「「「おう!」」」

 

 金色リンゴから発せられるオーラーと、自身より幾分も小さいテンニンカが怯んでいないことに感化され、近接オペレーターたちは立ちあがる。

 

「がんばってー!」

 

 精一杯旗を掲げ、テンニンカは前へ前へと前進する。

 爆発が起ころうとも、自身の身体を矢が掠めようとも、笑顔を崩さず、けして旗を降ろさず、前へ前へと進んでいく。

 

「テンニンカ! 敵の砲撃だ!」

 

 やがて、迫撃砲弾すら飛翔し、テンニンカの近くへと着弾する。

 

「テンニンカ!」

 

 慌てて近くに居た近接オペレーターが駆け寄ろうとするが、爆炎の中から、青い蝶がヒラヒラと周囲に躍り出た。かと思えば、爆炎をかき分けるようにテーブルクロスの旗は立ちあがる。

 

「あたしは大丈夫、ぜんっぜん平気! だから皆、心配しないで!」

 

 元気な声が聞こえる。それにオペレーターたちも安堵し、再び前進を開始した。

 

 しかし、爆炎の中にいるテンニンカの手足は、震えていた。

 

「ダメ……ここであたしが、倒れたら……」

 

 顔面から血を流し、左腕は力が入らない。両足も傷だらけで、右足首はさっきの爆発に吹き飛ばされた時、あらぬ方向へ向いてしまっている。

 

「あたしは……大将軍なんだから!」

 

 それでも、テーブルクロスの旗ははためく。爆炎が風に攫われても、テンニンカは旗を掲げ、にこやかに皆へと声援を送り続けた。

 

「敵拠点制圧! 作戦終了だ!」

 

 すべてが終わった。そのドクターの声と同時に、テーブルクロスの旗は、小さな大将軍と共に地面へと伏した。

 

 ♦

 

「入るぞ」

 

 ノックの後、テンニンカがいる病室へと、ドクターが入って行く。

 

「ドクター、何か面白いことない? 病室はやることなくて退屈でさ~」

「テンニンカ!」

「うお、どうしたのドクター? そんなに大きな声出して」

 

 病室へ入るなり、呑気な声で話しかけるテンニンカへと、ドクターは思わず大きな声が出る。それは、自分の命令を無視したことではなく、自身の身を守ろうとしなかったテンニンカの行動への怒りだった。

 

 あの作戦の後、テンニンカはロドス本艦に至急搬送され、治療を受けた。幸い、命に別状はなく、しばらく安静にしていれば、元の状態には戻ると診断を受けた。

 テンニンカは、多量の切り傷による出血で貧血状態。頭蓋骨へヒビが入り、左腕の骨折。さらには、右足首の関節があらぬ方向へと曲がっていると言う重傷っぷりだった。流石のケルシーもいつもの長文を忘れ、ただ一言、「この傷で戦場に立つのは正気ではない」と言うほどのものだった。

 

「どうして、あの時退いてくれなかった……あの時退いてさえいれば、君は!」

「んーそれ本気で言ってるの?」

 

 悪びれる様子もなく、テンニンカは包帯だらけの手を顎に当て、首を傾げる。

 

「あそこでもし私が退いちゃったら、旗が後退しちゃうんだよ? そしたら、前線の士気が崩壊しちゃう。ドクターなら、それぐらい分かってると思ったんだけど……」

「……それも考えたが、君と入れ違いでテキサスを前へ出すつもりだった。それで、戦線の崩壊は食い止められる」

 

 ドクターの反論に、テンニンカは「う~ん」と考えた後、言葉を選びながら言った。

 

「確かに、テキサスが出れば、剣雨で敵を瞬間的に制圧できるし、派手で目を引くからね、皆の士気は高まるかもしれない。けど、やっぱり旗を先に仕舞うのはダメだよ。テキサスを出してから私を下げるならまだしもね」

 

 テンニンカは戦闘力こそ他オペレーターと比べると、けして高いとは言えない。しかし、その戦術立案技術はかなり優秀なものだ。

 

「元々、今回の任務は厳しいことが分かっていた。ロドスのオペレーターたちはほとんどが出払ってしまっていて、動ける人員が少なかったから、予備隊員を動員して作戦へと当たったんだ」

「うん、知ってるよ」

「だから、もとより君一人が無理をするべきでは―――」

「だから私が無理をするんだよ、ドクター」

 

 ドクターの言葉を遮って、テンニンカは笑う。

 

「旗手って言うのはね、そうゆう役割なの。本当は戦いたくない、戦えないような民間人、弱い人を導き、鼓舞し、戦ってもらうための装置。旗が進んでいる間は、そうゆう人たちもついてきてくれる。旗は目立つからね、進んでいると言うことは優勢、だから怖くないって、戦っている人たちが思えるの」

 

 131cmの身長からは考えられないほど大人びた声色で、テンニンカは語る。

 

「逆を言えば、少しでも旗が倒れたり後退すれば、皆も一緒になって下がっちゃう。機首を使って戦闘をするって言うのは、そうゆうことなの」

 

 そっと枕元に置いてある金色のリンゴを掲げるテンニンカ。

 

「そんな心配そうな顔しないで、ドクター。わたしにはリンゴちゃんが付いてるから、大丈夫」

 

 その言葉を裏付けるように、金色リンゴが煌めき、テンニンカの周囲から蒼い蝶たちが羽ばたく。その蝶たちはドクターの周りを飛んだあと、テンニンカの指先へと止まる。

 

「君が大丈夫でも、その姿を見る私は、大丈夫じゃない」

「あははは、ごめんってば~」

 

 指先の蝶がぱっと消えると、テンニンカは金色リンゴを脇へ置き、ドクターの手を取った。

 

「私はテンニンカ、皆を率いる大将軍。だから、これからも旗を持って先頭に立つ。たとえそれで、私の身体が朽ち果てても、命尽きるその瞬間まで、私は旗を掲げるよ。ロドスの旗手としてね」

 

 ドクターの思いは、テンニンカへと届いてはいる。だがその上で、テンニンカは戦場に立つと決めているのだ。

 旗を振り、最前線で立ち続けることが、戦闘ではからっきしの自分が、ロドスという居場所を守るためにできる最大の手段であることを自覚しているから。

 

                           【テンニンカEND:旗手】

 




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