オペレーターとドクターがイチャイチャしたり、傷ついたりする話   作:古魚

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ラップランド ×

 暗い路地裏に、足を引きずり、壁によりかかりながら歩くループスが一人。彼女が一歩一歩前に出るたびに、ぽたりぽたりと血液の足跡が生まれる。

 

「痛いなぁ」

 

 そう悪態をつきながら、ラップランドは身を引きずる。

 シラクーザの一角で、ラップランドは一人マフィアの拠点へと殴り込みをかけていた。もとはロドスに届いた調査依頼で、数名のオペレーターの手によって、達せられるはずだったが、ラップランドはドクターに一言だけ「ボクが全て片付けて来るよ」と言って、ロドスを飛び出して行った。

 

 元々調査内容と言うのが、感染者を奴隷化しているという話だったのだが、ラップランドは既に調査をせずとも知っていた。それが事実であることを。

 

 そして、マフィアの一組織を潰すことなどいつものことだった。だからラップランドは、一人でその組織の壊滅へと乗り出した。

ただの気まぐれだった。ドクターの命令でもないのに、こうして仕事へと乗り出したりは、普段は決してしない。しかし、その気まぐれが、ここまでラップランドを追い詰めた。

 

「まさか……ボクをここまで追い詰めるとはね……」

 

 遂に立っていることにも限界を迎えたラップランドは、剣を地面に落とし、その場に倒れ込む。

 

「あぁ、もう殺したはずなのに、あいつらをぶっ殺してやりたい欲望が高ぶって来たよ!」

 

 空を見上げて倒れ込むラップランド、彼女の甲高い笑い声が、雨が降り続けるシラクーザの路地裏に木霊す。

 

「アハハハ! ハハ! ハハハッ!」

 

 やがてその笑い声も静かになっていき、雨が地面を叩く音だけが大きくなっていく。

 ラップランドは大きく手を投げ出して、雨粒を全身で感じる。もうほとんど感覚の無くなってしまった足、焼けつくような痛みが続く脇腹、ヒリヒリと痛む腕。もうすぐ自分は死ぬのだろうと、ラップランドは理解していた。

 

「……死にたくないなぁ」

 

 無意識のうちにそんな言葉が零れる。あれほどまでに猟奇的な殺し方を好み、戦闘を好んできたラップランド。自分自身も、そんな言葉が出るなど思ってもいなかった。

 どうして、自分は死ぬことを恐怖している? 何が自分を変えた? 

 そんな問いが、ラップランドの胸の内をかけ巡る。

 

「ああ、君たちか」

 

 やがて、一つの答えにラップランドはたどり着く。

 

「テキサス、ドクター……」

 

 永遠の敵であり理解者であり友であるテキサスと、自分を理解し、歩み寄ろうとしてくれたドクター。その二人の存在が、ラップランドが死を恐れる要因だった。

 

「ごめんね、テキサス。ボクは、殺されるなら君にと思っていたのに、どこの馬の骨とも知らない奴に、ここまでやられちゃったよ……」

 

 愛剣を自分の側に抱き寄せながら呟く。

 

「ドクターも……勝手にいなくなってごめんね。まあボクはロドスにとっても危険人物だっただろうし、いなくなった方が、君にとっては楽かな……?」

 

 服の下に仕舞っておいた、ロドスのオペレーターであることを示す記章を取り出しながら呟く。

 

 降り注ぐ雨粒が、ラップランドの顔を濡らし、白い肌を撫でる様に零れていく。

 

「寒い、な……暖かいロドスの食堂で、ピザが食べたいな」

 

 目を閉じれば浮かび上がって来る、ロドスでの記憶。自分の過去に深く触れることなく、ラップランドとして接してくれたオペレーターの皆。その全てが、ラップランドにとって暖かな記憶だった。

 

 幼少期、マフィアの跡取りとなるべく教育を受け続け、一番求め続けた父親からの愛を感じることのなかったラップランドにとって、ロドスは非常に居心地が良かった。テキサスと言う人物だけで無理やり埋めていた自分の心の中を埋めてくれる存在が、ロドスには大勢いたのだ。

 

「あれ……おかしいな………」

 

 冷たいはずの雨粒が、何故か目のあたりだけは熱く感じる。その違和感に、ラップランドは何度も目元を拭う。

 

「ボク……泣いてるの?」

 

 何度拭っても、顔を滴る水滴は熱を帯びている。

 そこでラップランドは、ようやく認めた。

 

「ああ、僕は……死ぬのが怖い……怖いよ……」

 

 自分が泣いていることを、自分が死という事象を恐怖していることを、認めた。

 

「いやだ……嫌だよ。ボクはまだ、死にたくない」

 

 なんとかロドスに帰ろうと、地面を這い蹲って前に進む。

 

「死にたくないよ……助けて、ドクター。助けて……テキサス」

 

 ぐちゃぐちゃに崩れた泣き顔で二人の名前を呼び、助けを求める姿は、普段のラップランドからは想像もできない。しかし、いざ死を目の前にすると、猟奇的な性格で覆い隠していた普通の女性としてのラップランドが暴れ出す。

 

 死にたくない。怖い。助けてほしい。そんな感情で、ラップランドの心は満ちていく。

 

「怖いよ……一人は嫌、嫌なんだ……!」

 

 やがて身を引きずる力もなくなり、「死にたくない」と呟きながら、静かに目から光が消えていった。

 

 ♦

 

「……ここだったか」

 

 それから数分経った後、路地裏には新たなループスがやってきた。

 

「ラップランド……」

 

 その後ろには、フードを被った人物が立つ。

 

「……酷い顔だ。そんなに死ぬのが怖かったか?」

 

 うつ伏せになっているラップランドの身体を壁によりかからせ、テキサスは顔を覗き込んだ。

 

「どうして……どうしてこんなことに」

 

 ドクターはぎゅっと自身の拳を握りしめ、悔しそうに震える。しかし、テキサスは一切動じる様子を見せない。

 

「ドクター、彼女を運ぼう。墓石には、ラップランドとだけ明記してやってくれ。こいつは、死ぬ間際、ラップランド・サルッツォから、ただのラップランドに変わった。もうこいつは、私たちがいつも見ていたラップランドじゃない」

 

 側に落ちていたラップランドの愛剣を拾い上げ、テキサスは立ちあがる。

 

「行こうドクター。ここは、一般の女性がいるべき場所じゃない」

 

 ♦

 

 ラップランドはその後、ロドス艦内で遺体を処理した後、ロドスの戦没者一覧に名前が加えられ、丁重に葬られた。

 

 それと同時に、シラク―ザ内にある名もなき荒野に、粗末な岩と、一本の剣が置かれた。その岩に刻まれる名は、ラップランド。

 

 時折その岩と剣の前には、花とミルフィーユ、アップルパイが添えられるのだった。

 

                       【ラップランドEND:彼女の名前】

 

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