オペレーターとドクターがイチャイチャしたり、傷ついたりする話   作:古魚

6 / 22
スズラン △

 とある廃墟、崩れかけのビルの一角に担ぎ込まれるドクター。いや、担ぎ込まれると言うより、引き摺られていると言う方が的確だろう。

 

「ドクターさん……しっかり、してください」

 

 息を荒くしながら、ドクターを担ぐ少女。ふわふわとした九本の尻尾は赤く染まり、透き通るような白い肌は煤と土で汚れている。

華奢な手足はプルプルと震える。それはドクターの体重のせいか、それとも恐怖か。

 少女は当たりを見渡し、ドクターを寝かせられる場所を探す。

 

「あ、あそこなら」

 

 少女は少し離れた位置に、背もたれのない複数人掛けのソファーを見つけた。

 力を振り絞り、ドクターをその上に寝かせる。

 

「うっ……すず、らん?」

「気づいたんですね!」

 

 ドクターの声に、スズランは顔を綻ばせる。

 

「今手当しますから! 大丈夫ですよ!」

 

 携帯していたメディカルバッグを肩から下ろし、消毒、包帯、ガーゼ、ピンセット、蒸留水、ハサミ、タオルを取り出す。

 

「服、失礼しますね」

 

 スズランは蒸留水と消毒で手を洗い、血液で赤く染まるドクターの服をハサミで切る。ドクターの露わになる腹部からは、ドクドクと赤黒い血液が流れ続ける。

 

「ぁ、っ!」

 

 水で血液を洗い流し消毒液をかけると、ドクターは苦悶の表情を浮かべる。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……私の、せいで……」

 

 スズランはそう涙を浮かべながら消毒を済ませると、傷口にタオルを押し当てる。

 

「君が、気にする必要はないよ」

 

 額に汗を浮かべながら、ドクターはそうスズランに笑いかける。

 

「私が、あの時前に出なければ、ドクターさんは……」

 

 この廃墟では、数日前に戦闘が行われていた。民間人を巻き込んだ戦闘であったため、ロドスは急遽小隊を編制、負傷者の救助に向かった。

 ドクターもその小隊に参加し、直掩にはスズランが付いていた。戦闘はすでに終了しており、危険性は低いと見積もっての行動だったが、その見立ては甘かった。戦闘に巻き込まれ、荒んでしまった民間人は、ロドスを攻撃してきた組織の仲間と判断し、危害を加えて来た。

 スズランが、一人の民間人を保護しようと近づくと、その民間人はナイフを抜いたのだ。ドクターはスズランの前に立ち、結果、庇う形で腹部を刺突され負傷、今に至る。

 

「君は何も間違っていない。ロドスとして、正しい働きをしている」

「でも、ドクターが!」

 

 圧迫止血を続けながら、スズランはぽたぽたと涙を流す。

 

「泣いているのか?」

 

 ドクターが手を伸ばし、スズランの目に浮かぶ雫を拭う。

 

「ドクターさんは、いつも優しいです。まだ幼い私を助けてくれます。私に仕事を与えてくれます。上手く行ったら褒めてくれますし、失敗したら慰めてくれます」

 

 新しいタオルで傷を押さえ直し、包帯を巻く準備を進める。

 

「でも私は、ドクターさんに何も出来ていません……戦闘だって、私はアーツ適正こそ高いですが、皆さんほど上手くできませんし、書類仕事や事務仕事では、整理するだけで精いっぱいです」

 

 スズランは、手際よく包帯を巻きつけ、この場でできる応急処置を終了すると、その場に座り込む。

 

「今日だって、ただドクターさんに、『私はこんなこともできるようになりました』って見せたかっただけで、直掩に立候補したんです。私の我が儘が、ドクターさんを危険な目に合わせたんです……」

「逆だ、私の不注意で、君を怖い目に合わせてしまった……。私が思っていた以上に、ここの民間人たちは心にダメージを負っていた。攻撃してくるまで荒んでしまっていたとは、私の予測が甘かったんだ」

「でも、私じゃなくてもっと他のオペレーターだったら……。他にも、直掩につくと言っていたオペレーターは多かったのに」

 

 ドクターは、そんな風に言い続けるスズランの頭に手を乗せる。

 

「私が、君と行きたかったんだ」

「……え?」

 

 驚いたように顔を上げるスズラン。

 

「立候補者の名前は全員見た、その中で、私はスズランと行きたいと思ったから、君を直掩に選んだんだ」

「あれ、ドクターさんが決めていたんですか? くじ引きやアーミヤさんが決めていたのではなく? でも、どうして……」

 

 理解が追い付かないとでもいうように、スズランは混乱している様に「え? え?」と繰り返す。

 

「今回の任務は、色々闇深いものを見ることになると思っていた。レユニオンのような感染者組織とウルサス兵の衝突、それに巻き込まれるこの町の住人。誰も幸せにならないし、誰も救われない。私だって、そんな光景からは目を背けたくなる」

 

 スズランの頭を撫でながら、ドクターは続ける。

 

「でも君は、そんな闇深い世界でも、真っすぐ見つめる強さを持っている。リターニアでの一件もロドス艦内での話も、君が向かった数々の地域で、君は目を背けなかった。見たうえで信じつづけた。きっとよくなる、と」

「ドクターさん……」

 

 スズランは、自身の頭に乗せられていた手を握りしめる。

 

「君は、私の光だ……この暗く閉ざされた世界で私の足元を、行くべき先を照らしてくれる光なんだ……この負傷は、そんな光を守るための傷だ。何も悔やむことは無い」

「ドクターさんだって、私の、私の光です! ドクターさんがいてくれるから、私も頑張れるんです! だから、死なないで……」

 

 強く手を握りしめ、スズランはドクターに告げる。

 

「大丈夫、君という光が消えない限り、私は死なない。少し……眠るだけだ」

 

 ふっと腕から力が抜ける。慌ててスズランはドクターの胸へと耳を付けるが、確かに鼓動は聞こえ、息もしていた。

 

「……ドクターさんは私を少し、誤解しているみたいです」

 

 杖を両手に握り、立ち上がるスズラン。

 

「私は……ドクターさんが言うほどいい子じゃありません」

 

 瞳に、一滴の灰色。

 

「最近思うようになったんです、本当にこの世界は救われるのか? ロドスが助けようとしている人達は、本当に救うべき人なのか? って」

 

 幼く純粋だったスズランは、この救いのない大地で黒く染まりかけていた。

 

「アーミヤさんは凄いです。きっと、こうゆう状況になったとしても、アーミヤさんは人を助けるのを止めないでしょう。でも、私はアーミヤさんみたくはなれない」

 

 ドクターの手をもう一度握りしめ、スズランは行く。

 

「私は、ドクターさんを傷つけるような人は助けられない」

 

 腰より生えるは九つの尾。極東の国では、それは神聖なる力を持つ者の証。

 

「ドクターさん。貴方の育てたスズランは、こんなに大きくなりましたよ」

 

 纏う焔は青白く光る。スズランの背後で、焔の狐は、一声泣いた。

 

 

 

 ドクターが目を覚ますと、寝息を立てるスズランの姿があった。思わず手を伸ばし、頭を撫でると。心地よさそうにスズランは微笑む。

 

「……暖かい? いや……熱い」

 

 幼さゆえの熱か、それとも別の何かか、スズランの体温は、異常に高く感じた。しばらく待つと、スズランが呼んだ医療オペレーターが到着し、ドクターはロドス本艦へ送られた。スズランは任務を続け、民間人を救助して回った。

 その後、スズランもドクターもいつもの日常へと戻って行く。しかし、ドクターは気づいていた。

 スズランの瞳が僅かに濁っていたことを。その濁りは、永遠に戻ることは無いことを。

                          

                          【スズランEND:灰色一滴】

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。