オペレーターとドクターがイチャイチャしたり、傷ついたりする話   作:古魚

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グラベル ×

「……痛い」

 

 全身を襲う痛みで目が覚める。側には、刃が半ばから折れたサクスが転がっている。

 

「あらあら……剣を折ってしまうなんて、騎士失格ね」

 

 視界を左に向ければ、意識を失ったままのドクターがいる。

 

「ドクター……」

 

 騎士は手を伸ばそうと力を籠めるが、体が動かない。

 

「……? あら、通りで……」

 

 視線を下げると、腹より下にあるべき足が存在していなかった。

 

「ドクター、大丈夫?」

 

 赤く染まった手をドクターの方へと伸ばす。

 

「うっ……グラベル? グラベル!」

 

 触れた手の冷たさで意識を取り戻したドクターは、隣に寝転ぶグラベルの姿を見て、飛び起きる。

 

「ッ! いッ……」

 

 体の痛みに動きを阻まれながらも、グラベルを抱き起す。

 

「グラ……ベル……足が」

「どうやら爆発に耐えられなかったみたい……ドクターは大丈夫? 庇いきれなくてごめんなさい」

 

 ドクターは今の状況をようやく理解した。

 グラベルに護衛されながら、レム・ビリトンの町を歩いていたドクター。商談目的で、直接会いたいと言われ、こうして出向いていた。その際、護衛を複数付けるのは相手に威圧感を与えるとして、ドクターが却下。そのため、隠密が得意なグラベルが護衛として商談へ出向いた。

 

 グラベルは、商談の場に近づくまではドクターにぴったりついて歩き、まるでデートとでも言わんばかりの立ち振る舞いだった。しかしいざ商談が始まると隠密を駆使し商談を監視、相手に威圧感を与えない護衛としての任をしっかりと果たした。

 その帰り道のこと、商談をよく思わない組織の刺客がドクターへと迫った。町の外で待機していたロドスオペレーターに応援を要請し、グラベルは一人で複数人の刺客を相手取った。

 グラベルが稼いだ時間のおかげで、他のオペレーターたちの援軍は間に合った。間に合ったのだが……。

 

「すまない、私のせいだ。私が、もっと早く退かせる指示を出せて居たら……」

「何を言っているの? それじゃあ、ドクターが敵の攻撃を受けてしまっていたでしょ?」

 

 グラベルを退かせようとした直後、敵の後方にいた者の迫撃砲がグラベルとドクターの側に着弾した。

 一発目は回避が間に合ったが、二発目はよりドクターに近い位置へと飛翔。その爆発から守るようにして、グラベルは爆発に巻き込まれた。

 

「だが、君が……」

「んふふふ。ドクター、私は貴方の騎士よ? 身を挺して護衛対象を守るのは当然だわ。それが、ドクターともなれば尚更ね」

 

 余裕のあるいつもの微笑みも、今では力ない笑いと化している。

 下半身の完全欠損は、常人が耐えられる傷ではない。

 

「皆は……?」

「大丈夫だ、グラベルが稼いでくれた時間のおかげで、万全の姿勢で敵を撃退できている。戦闘が終わるのも時間の問題だろう」

 

 顔だけを横へ向け、戦うオペレーターたちの方を見て微笑む。

 

「そう、なら、私はしっかり役目を果たせたのね……よかったわ」

 

 どんどん虚ろになっていく瞳。ドクターはグラベルの手を握り、涙を零す。

 

「あらあら、そんなに泣かないで、ドクター。それとも、やっぱりどこか痛む?」

 

 ドクターは首を振る。

 

「痛いのは、君の方だろ、グラベル」

「そう、ね。確かに、ちょっと傷は痛むわね……でも、ドクターが無事ならそれでいいわ。それだけで、私は満足」

 

 ドクターは、そんなグラベルの言葉に強く唇を噛みしめる。

 

「いつもそうだ。私に意味も分からず愛を注ぎ、自身の身を顧みず私に尽くそうとしてくれる。それは初めて会った時からだ、挨拶代わりのキスと言って口づけされた時は、心底驚いたんだぞ」

「あら、そんなことも合ったわね……懐かしいわぁ。大旦那様に見送られて、任務として初めて貴方に会った時、私は貴方に一目惚れしたのよ」

 

 ほんのわずかに顔を赤らめてグラベルは話す。

 

「私の右肩のバーコード、私が奴隷だったことを示す証。たとえどんな聖人でも、初対面の人は、一度はそこへ視線を向けるわ。悪意も善意もなく、ただ反射的にね」

 

 自身の右肩を左手で摩る。そこには確かに、黒い線が刻まれている。

 

「でも貴方は、一度も目を向けなかった。私の過去や立場や称号、何も関係ない、ただのグラベルとして、貴方は私を見続けた。惚れるのに、これ以上の理由は必要ないわ」

 

 グラベルは自身の出自を気にしてはいない。大旦那に拾われ、騎士として成長することが出来たグラベルにとって、「元奴隷」という烙印は誇ることもないが、恥じることもないただの過去に過ぎなかった。

 しかし、他人は違う。目につく場所に奴隷の烙印があれば、どんな意図があっても、「この人物は奴隷だった」と認識してしまう。

 

「だからって、ベッドへ潜り込んだり、天井裏に潜むのはどうかと思うがな」

「んふふふ、ごめんなさい。でも、好きな人のそばに居たいのは乙女心よ」

 

 いよいよ、グラベルの両腕に力が入らなくなっていく。

 

「グラベル、しっかり……しろ」

 

 発破をかけてやりたいが、どう考えてもこの状況から助かる術はない。そのため、ドクターの言葉に力はない。

 

「……ドクター」

「どうした?」

 

 目を瞑り、脱力するグラベルが、細い声を上げる。

 

「最期に私のお願い、聞いてくれるかしら?」

「ああ、なんでも聞くぞ」

 

 グラベルは薄く微笑み、震える右手をドクターの頬に伸ばす。

 

「私を、貴方の愛人として扱ってほしいわ。最期のこの時ぐらい、貴方からも愛が欲しいの」

 

 ドクターは奥歯を食いしばる。こうなるなら、もっときちんと向き合ってやるべきだったのだろうか? もっと何か接し方を変えるべきだったのだろうか?

 しかし、いくら考えても今この現状を変えることは出来ない。これまでの言動、行動を思い出し、今グラベルにできる最大の愛情表現をドクターは模索した。その間0.01秒。もはや反射でその表現を行えるほど、ドクターはグラベルからの愛情を受け取っていた。ドクターは思いつくと同時にそのことを自覚し、より深く、後悔した。

 

「……セノミー。いつも私を守ってくれて、側にいてくれて、ありがとう。愛しているよ」

「んふふ、んふふふふ。やーっと名前を呼んでくれたわねDr.―――。私も、愛してるわ」

 

 開いた口が塞がる前に、ドクターは自身の唇を、セノミーの唇へと重ねた。冷たくなる頬に手を当て、やわらかいセノミーの舌へと自身の舌を触れ合わせる。セノミーの舌もそれに応え、短い間だったが、二人の舌はしっかりと絡み合った。

 

 やがてセノミーの舌が離れたのを見て、ドクターは口を離した。

 

「最期のキスが、貴方からなんて……なんて私は、幸せ……なの、かしら……」

 

 安らかな笑みを浮かべ、セノミーの瞳からは光が消えさった。

 

 ドクターの口の中には、鉄っぽく生ぬい人の味、死の味だけが残っていた。

 

                           【グラベルEND:死の味】

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