かすみ「デザイアグランプリ?」 作:紅蓮一角超獣
「それでは本日は解散としましょう。お疲れさまでした!」
「お疲れ様ー!」
「お疲れさまでした……」
東京湾から差す夕陽が紅く染める部室にせつ菜の号令が溶けてゆく。見慣れ、親しんだ、いつもの光景だ。
でも今この瞬間胸に抱くものはこれまでには存在しなかったもの。ぐるぐると巡る違和感に少なくない容量を咲きながら、かすみはせつ菜に返す声へと続いた。
「夢……じゃあ無いんだよね」
周囲が帰路へと至る準備を進める中、かすみは誰にも悟られぬように開いた鞄に佇む、宝箱と呼ばれた代物に視線を落とす。これこそが先程の出来事が現実ものであるという動かぬ証拠だった。
「どったんかすかすー!? 今日なんか暗いよ?」
「あっ、ちょちょ……愛先輩!? もう脅かさないでくださいよ……あとかすみんです!」
この箱は一体何なのか。箱を手渡してきた女性が何者であるのか。そもそも彼女はどうやって部室に侵入してきたのか。
そんな雑多な情報を処理する思考を妨害してきたのは愛。日頃から用いるなと再三伝えている誇称で接してくることに対する抵抗の意も込め、かすみは陽気な先輩の顔を恨めしく見上げた。
「あっはっは! やっぱりいつものかすみんだ。それよかちょっと寄り道してかない? 新作のコッペパンタワーに挑戦したいんだけど、りなりーと二人だけじゃちょっと心細くてさー」
「えー……昨日行ったばっかりじゃないですか。かすみんぷにぷににはなりたくないですよぅ」
「……そうなの? 愛さん」
「いやいや行ってないって! 昨日は愛さんお店の手伝いしてたし、かすみんも用事があるって言ってたじゃん」
「え……」
愛の言葉に一瞬眉を寄せ、直後におかしいのは自分であることに気が付く。殆ど反射的に言い返してしまったが、そんな記憶はかすみの中にも存在しなかった。
ただ一つ、何かがあった。そんな違和感だけを胸に残して。
「かすみさん、本当に大丈夫? 今日なんか変だよ?」
向けられる声音もあまりよく聞こえない。まるでもう一人の自分が存在するかのような感覚だけがかすみを支配している。
「……今日は寄り道も無し。まっすぐ帰りなさい、かすみちゃん」
そんな中でもハッキリと意識を射貫いたのは果林の一言だった。別段普段と変わりのないものである筈なのに、奥底を刺激するような痺れを伴ってかすみに届く。
「最近は1stライブの準備もあって忙しかったから、疲れてるのかもしれないわね。疲れは可愛さにも天敵よ。今日はゆっくり休みなさい」
「……って、押し切られちゃったけど……」
場所は変わり中須家の自室。ソファやベッドなど、自らの思う可愛いによって取り囲まれた空間で腰を下ろしたかすみは深く息を付く。結局果林に流されるまま帰宅してしまった。
「疲れてる、って訳じゃないと思うんだけどなぁ……」
確かに同好会の1stライブに向け忙しさが増しているのは事実だが、そこはせつ菜や彼方が上手くスケジュールを組んでくれている。体調に影響が出るほどのオーバーワークになどなってはいないはずだ。
けれどもかすみの調子がおかしいのもまた事実。一先ずは言われた通りに今日は休み、明日になってまた様子を見てから判断しよう。
「……もしかして、これが関係あるのかな」
とはならず。
鞄から取り出した例の箱を机に置いたかすみは訝しむようにそれを睨む。帰りがけにそれらしいものがないかと検索を掛けてみたがヒットする項目はなかった。少なからず非売品であることは確からしい。
選ばれた、とかなんとか言っていたし懸賞企画の景品か何かなのだろうか。最もそんなものに応募した記憶はないし、あんな渡し方常識外れにも程があるのだが。
「ベルト……?」
蓋を開けてみて真っ先に口から零れた単語がそれだった。かすみ自身何故それがベルトだと認識出来たかはわからない。
箱に眠っていたのは恐らくバックルだと思われる代物だった。ただ一般的なそれに比べるとかなり大きく、かつ帯などはなくバックル部分のみが独立して存在している。
何かを装填する目的があるのか、中央部分のソケットや左右にはそれぞれ溝が存在するなど不思議な形状だ。
「これは……たぬき?」
そして同封品が一つ。
ペットボトルのキャップを連想させる緑色の円柱。上面には何か動物のようなシルエットが描かれている。
「どこかで見たような……」
引き寄せられるように伸ばした指先が影絵に触れた―――その瞬間だった。
「っっ……!?」
電撃のような衝撃が脳髄から全身を駆け巡る。
痛みとすら形容出来る衝撃に伴って頭に流れるのは記憶だった。走馬灯を見る時があるのならきっとこんな感じなのだろうと、そんな悠長に感想を紡いでいる余裕は微塵もなかった。
「あ〝ッ……ぎぅ……!」
溢れ出る記憶の巡航から舞い戻った意識が再度肉体へ宿り、打ち上げられた魚のようにびくりと跳ねる。
「ッ……、ッ……!」
酸素を求める肺が肩を大きく上下させる。突如として流れ込んできた記憶が体内を暴れ回る反面、元より存在していた違和感と混ざり合い、やがて一つの結論となる。
「うぶっ……お、えぇぇ……!」
ハッキリと思い出した。忘却の彼方にあった、決して忘れてはいけない出来事を。胸を抉るような痛み、こびり付いて離れない鉄臭い朱色、手の中で失われてゆく温もり。
身体と心に追いつかない記憶が吐き気を齎した。覚えのないような嫌な感覚が口の中に蟠った。
「夢じゃ……ない……!」
遂には床へと投げ出した身体がようやく脱力の域を出た頃。
ふらりと起き上がったかすみは駆り立てられるままに携帯電話を耳に押し当て、記憶の中にあった先輩へと通話を繋げた。
「果林先輩……」
『……かすみちゃん? 急にどうしたの? 酷い声だけど、あれからなにか―――、』
「思い出したんです」
心配してくれている。そんな優しい声音を撥ね退け、かすみは問う。
「全部、全部思い出しました。突然怪物に襲われたこと、果林先輩達がその怪物と戦ってたこと、沢山の人が……しず子が死んじゃったこと。……それなのに私、忘れてたんです。今の今まで」
何もかもわからない。この記憶が現実のものであるのは確かなのに、世界には微塵も破壊の痕は残っておらず、しずくも変わらず生きている。
これでいい。これでいい筈なのに。それでもかすみの心が何かが違うと叫んでいた。
「先輩は覚えてたんですよね……? 果林先輩は、一体何を知ってるんですか!」
未だ優れない顔色のまま、記憶の中に在るあの時と同じように捲し立てた。この状況の理由を知るであろう、ただ一人の手掛かりに。
『……やっぱり、選ばれちゃったのね』
暫くの静寂を置いて返された果林の声は電話越しでもわかるくらいに震えていて、例えようのないくらい、深い哀愁が滲んでいる気がした。
『……そうね。こうなっちゃった以上、ちゃんと話すわ。かすみちゃん。あのことを思い出したのなら、ナビゲーターに貰った箱の中にあった、˝IDコア˝に触れたのよね?』
「……はい」
『同じ箱の中にドライバーもあったでしょう? それをお腹の辺りにあてがいなさい』
「ドライバー……?」
意味が分からないが、一先ずは果林に従いドライバー……と思しきそれを取り出しては腹部へと押し当てる。
《DESIRE DRIVER》
「わっ……!?」
瞬間、ドライバーから伸びた帯がかすみの腰回りへと巻き付き合着。記憶の中で果林がしていたようなベルトの形となる。
「えぇ……? これどういう仕組みで……」
『いいから、次はさっきのIDコアをセットして』
言われるがままに確認すれば、ソケット部分が目に付く。どうやらここがIDコアとやらを装填する部分であるらしい。
《ENTRY》
そうしてコアを嵌め込んだ刹那。
直前まで自室だった景色が目まぐるしい速度で流れてゆき、気付けば、雲の上を思わせるような青と白の空間にかすみは立っていた。
「な、なんですかこれぇ!?」
いや違う。かすみは今本当に雲の上にいるのだ。見下ろしたガラス張りの足元から伺える真下には見知った街並みがミニチュアのようにして並んでいた。
「はぁいかすみちゃん……さっきぶりね」
「果林先輩……!」
電話越しだった筈の声が二重で聞こえる違和感に振り返ってみれば、そこには小一時間前に別れたばかりの果林が立っていた。
それだけじゃない。彼女以外にも、主婦や学生、その他様々な人々がかすみと同様にドライバーを巻き付けた状態で周囲を見回していた。
「かすみさん!? それに果林さんも……」
「え……?」
「せつ菜……あなたまで……」
その中に見知った顔を確認し、対象と共に驚嘆を重ねる。
せつ菜もまた件の騒動に巻き込まれた者。ここにいるということは、恐らく記憶を取り戻したと見ていいだろう。期せずしてあの場にいた三人の再会となった。
「……帰り際、校内で不思議な女性に声を掛けられて……渡された箱の中にあったこの端末に触れたら、色々と思い出しました。果林さん、これは一体……」
「そうね……多分、本人から説明してくれるんじゃないかしら」
何かを察知したように身体の向きを変えた果林に順ずるようにしてかすみ達も視線を流す。
今自分達のいる、空に浮かぶ神殿のような足場。その中央に立っていたのは紛れもない、宝箱を手渡してきた女性の姿だった。
「ようこそ、デザイアグランプリへ!」
集められた人々の視線を一身に集めるその女性は快活な第一声を上げた。
同時に更なる疑念と混乱も沸き起こる。当たり前だ。突然謎の空間に飛ばされたと思えば説明もなく謎の単語が告げられる。もう訳が分からない。
「訳が分からない……皆さん、そんな顔をされてますね」
だがそんなことは向こうも想定済みらしく、皆さんお待ちかね、と言わんばかりに手を掲げたナビゲーターの頭上にスクリーンが投影される。
明らかに現存する科学技術の域を出た光景に目を丸くしつつ、かすみは表示された英単語を心の中で読み上げた。
「改めてようこそ! デザイアグランプリへ!」
ぱあん、と。クラッカーを鳴らしたような音と共にそれらしきエフェクトがスクリーンに流れる。大半の者を置き去りにしたテンションが独り歩きをしていた。
「今世界は、˝ジャマト˝の脅威に晒されています」
並べられるのはまたも聞き覚えの無い単語。まともに説明する気はないのか。そんな不満を示すように他の人々が首を傾げた折、果林がひっそりと耳打ちをしてくる。
「あなた達を襲った怪物のことよ」
囁きにより泥濘の中にあった記憶が浮上する。出来れば再生したくはなかった映像の中で蠢く異形の存在。それがジャマトらしい。
「そんなジャマトから世界を守るために誕生したのが、このデザイアグランプリなのです!」
ナビゲーターは溌剌と握った手を掲げて見せるが、周囲の反応は薄い。皆無と言ってもよかった。
「……まあ、ピンとこないのも無理はありません。何故ならジャマトの悲劇を忘れて平和に生きて行けるよう、デザイアグランプリが終わる度に、皆さんの記憶は世界と共にリセットされるよう設計されているのですから」
その台詞に纏めるには少々大きすぎる情報が頭の中へと押し寄せてくるが、いちいちリアクションを取るのも疲れるため今はそう言うものなのだと納得することにした。
とにかく、かすみがあの悲劇を忘れていたのはこのデザイアグランプリとやらによって記憶をリセットされていたかららしい。
世界すらも塗り替えてしまうというのには少々疑問も覚えるが、しずくが今何事もなく生きているのはきっとそのおかげだ。だから今は言及しない。
「その記憶を取り戻せるのは、IDコアに触れた者だけ」
かすみ達が記憶を取り戻せた理由も追って説明がなされる。
それでもなおピンとこないと言った顔をしている者がいるのは、恐らくリセットされる前の世界でジャマトに襲われなかったから、ということなのだろう。
「そしてそのIDコアと˝デザイアドライバー˝は皆さんが選ばれた証……皆さんは˝仮面ライダー˝として戦い、ジャマトから世界を守るのです」
またも再生される前の世界での記憶。
果林の変身していた戦士や、ギーツとか呼ばれていた白い狐。仮面ライダーがそれらを指す言葉であるのは容易に想像がついた。
そして彼女はこう言った。かすみ達がその仮面ライダーに選ばれた、と。
「勿論タダで、とは言いません。最後まで生き残り、勝ち抜いた方は˝デザ神˝という称号を手にし、自分の好きな世界へと書き変える権利を得ます」
ふと、手の内に何かに触れた感覚が芽生える。視線を落としてみれば、いつの間にやら一枚の厚紙が握られていた。
「その˝デザイアカード˝に願いをご記入ください……その願いこそが、皆さんがデザ神となった時に叶えられる願いです」
言い切られた後には沈黙が鎮座した。果林を始めとした数名の人々がカードに添えられていたペンを走らせるのを見て、ようやく今が願いを書き込む時間なのだと理解する。
「願い……」
白と黒で枠取られたカードを見つめる。まだ何も描かれていないキャンパスは状況を飲み込み切れていないかすみ自身のようだ。
ただし、願いまでもがそうであるかと問われれば違う。
かすみには何よりも大事な、貫くべき野望がある。だから記した。
かすみんが宇宙で一番可愛い世界―――と。
「デザ神となれるのは一人だけ。それではデザイアグランプリ……スタートです!」
やがて全員が願いの記入を終え、ナビゲーターが宣言した、その瞬間。
それまでかすみ達を乗せていた足場は消え失せ、当然遥か上空のど真ん中へと放り出される。
「えっ……ええぇぇぇぇぇぇッッ!?」
当然、重力に従い落下。とんでもない速度で地上へと突き進んでゆく。
風圧でスカートが捲れパンツをおっぴろげている。その事実を気に留める余裕もないまま、全く可愛げのない絶叫を響かせながら墜落する、とばかり思っていた。
「あ、あれぇ……?」
気付けば地面へとへたり込んでいた。直に触れる膝や脛には土の感覚があり、見回した周囲には緑生い茂る木々が不規則に立ち並んでいた。どうやらここは森であるらしい。
「かすみさん! 大丈夫ですか!?」
「相変わらず荒っぽい転送するわね……立てる? かすみちゃん」
駆け寄ってきた先輩達の手を取り、生まれたての小鹿のように足を震わせながらもなんとか立ち上がる。そして気付く。
「お二人共その格好……」
「かすみちゃんもね。ふふ、案外似合ってるじゃない」
直前まで学校の制服だった筈の衣類は、いつの間にやら紺と黒を基調としたジャケットへと変わっていた。自分達のみならず全員の服装がこちらへと上書きされており、果林はこれこそがデザイアグランプリの衣装であると語った。
『それではデザイアグランプリ第一回戦! 宝探しゲームを始めます!』
姿こそ伺えないがナビゲーターの声が響き渡った。さながらイベント会場のアナウンスのようだ。
『ジャマトに奪われた宝箱を取り返してください! 制限時間内に宝物を奪取出来た方が勝ち抜けとなります!』
開幕が告げられた瞬間、有刺鉄線のような赤を走らせる光の壁が森を覆うように展開されるのがわかった。
これは前の世界でショッピングモールを包んだのと同じもの。それ即ち―――、
『ジャッ———!』
人型をした異形の怪物―――ジャマトが何処からともなく溢れ出してくる。当然、植え付けられた恐怖の記憶は身体を硬直させた。
「ハッ!」
至る所で悲鳴が上がる中、かすみに迫ったジャマトを蹴り飛ばしたのは果林だった。この状況においても彼女は落ち着き払い、襲い掛かってくるジャマトを冷静に、かつ豪快に対処している。
「果林先輩……!」
「……いつまでも助けて貰えると思っちゃダメよ。願いを叶えられるのは一人だけ……この場において私達はただのライバル。仲間なんかじゃないの。それはよく、理解しておきなさい」
撤退してゆくジャマトが落としていった箱を拾い上げると、果林は蓋を開けて三本の銀色を走らせる蛍光の何かを手に取る。
「当たり……じゃなさそうね。まあいいわ」
《SET》
そうして流れるように腰へ撒きつけられたドライバーへとセット。右腕を前へ突き出すようなポーズを取ると宣言した。
「変身」
《ARMDE CLAW》
《READY FIGHT》
瞬時に展開された機工が果林をあの時の戦士―――ロポへと変貌させると共に、胸当てや鉤爪を装着させる。
仮面ライダーロポ。ジャマトから世界を守る勇者へとその姿を変えた瞬間だった。
「もたもたしてるとどんどんバックルは確保されちゃうわよ。勝ち残りたいなら頑張りなさい」
得物を得た果林は両腕を振るい、目の前のジャマトを軒並み薙ぎ払ってゆく。わかってはいたが、仮面ライダーになると身体能力は飛躍的に向上するらしい。あれだけ多くの人を死に至らしめた怪物を彼女は容易く圧倒している。
「う……うおぉぉぉッ! 変身! 変身ですよかすみさん!!!」
「わあぁっ!? いきなり大きい声出さないでくださいよ!」
「はっ……すみません! つい興奮してしまって……ですが、これは紛れもないヒーローへの変身……! くぅ~……、燃えます! これは燃えますよ!!!」
微塵も留まる気もない熱量と声量がかすみの鼓膜を炙る。ああそうだ。この先輩は特撮ヒーローだとかそう言うのが大好きな人種だ。あんなのを見せられて興奮しない筈がなかった。
「こうしてはいられません! 我々も早く宝箱を手に入れ変身を遂げましょう!!」
「え……でも果林先輩はライバル同士だって……」
「確かにそうかもしれませんが、果林さんと違い私達は初参加。いわば右も左もわからない初心者です。だったらある程度までは協力するのがお互い勝ち抜けやすいと思いますが……どうでしょう」
とか思っていれば一転して理性的な根拠を並べられる。せつ菜は見た目通りの幼さを内包しているが、その裏には生徒会長を務めるほどの人格と理性も備わっている。この切り替えの早さと言い、つくづく侮れない人だ。
「しょうがないですねぇ~。そこまで言うならかすみん、せつ菜先輩の為にも一肌脱いじゃいます!」
「ありがとうございます! それでは参りましょう!」
せつ菜と共に地面を蹴る。願いを叶える為の一歩だ。
駆け出した先にジャマトを見据え、勢いのままに突撃する―――つもりだった。
『ジャァッ———!』
「ぎやぁぁぁぁッ!?」
意気込みはしたものの、全く争いを知らない一介の高校生であるかすみに武器を持った怪物への攻撃など出来る筈もなく。
直前で足を止めてしまったかすみにジャマトは容赦なく切り掛かる。鈍色の刃物が自慢の髪の毛を掠った。
「ちょっ……、かすみさん!?」
「無理です無理です! あんなのに勝てる訳ないですってばっ———!」
直前までの自信はどこかへと掻き消え、一瞬にして逃げ惑うだけとなったかすみの絶叫が森の木々に反響する。
甲高い声で喚いているが故か、気付けば背後には数体のジャマトが群がっており、その全てが明確な殺意をかすみへ向けて来ていた。
「こっちですかすみさん! 伏せてください!」
「ひぃぃぃぃいッ! 先輩! せつ菜先輩ぃぃッ!」
呼ばれるがままに駆け、言われるがままに地面へ倒れ込んだかすみの頭上を何処からか調達した木の枝が通り抜ける。持ち主は勿論せつ菜だった。
「う……おぉぉぉぉッ!」
それなりに太い枝だったということもあってか。振り抜かれたそれは先頭のジャマトを薙ぎ払い、そのままドミノのように後方の個体までもを転倒させる。
追撃に数度の殴打が加えられると恐れをなしたのかジャマト達は退散していった。去った後には宝箱が二つ。
「やりましたねかすみさん! 宝箱ゲットです!」
「え……でもこれはせつ菜先輩が……」
「かすみさんが引き寄せてくれたからこそですよ。受け取ってください」
うちの一つを差し出してきたせつ菜の申し出を一度は跳ね退けようとするも、強引に押し付けられる形で受け取る。蓋を開ければ、そこには深紅の光を放つバックルが眠っていた。
そしてバイクのハンドルレバーのような形状をしているこれをかすみは知っている。
「これは……何か凄いものなのでしょうか!」
せつ菜が手にした代物もまた同様。銃のリボルバーを思わせるバックルもあの時、かすみ達を救った戦士が用いていたものであり―――、
「へぇ……まさか貴方達が手に入れちゃうなんてね」
ざっ、と。落ち葉を踏み鳴らす音を伴ってかすみ達へ向けられた声。
出所は後方。振り返ってみると、そこには既に五つのバックルを手に入れている戦士がいた。
纏う装甲は記憶とは異なる。けれども頭部を覆う白狐の仮面は、紛れもない。
「一先ずおめでとう。これであなた達も第一ゲームクリアね」
「あなたは……!」
装填されたバックルを引く抜くことで解除された仮面ライダーとしての装甲。
その内に隠されていた長いピンクゴールドの髪を翻し、素顔を明かした少女は笑った。
「今度の世界では初めましてね。私は
邂逅編までは書き切ると言った以上書きまっせ。
この世界におけるギーツは嵐珠です。何故彼女なのか。何故この世界でデザグラが行われているのか。一応考えてますが辿り着けるかはわかりません。
それでは次回でお会いしましょう。