レイブンクロー探偵と魔法事件簿   作:黒雲涼夜

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『ポケットモンスターanother story』も書いてるので、そちらもご覧ください。投稿時点で100話書いてます。


case.0 : 太陽が降りる村
その男、シャーロック・レイブンクロー


 晴れた空、美しい自然、遠い異国。それらが揃っていながらも、シャーロック・レイブンクローは深い溜息を吐いた。美しい金髪に使い古されたヨレヨレのコートを着込んだ、イギリス人の中年男性だ。目の前には、生い茂った木々とその間から覗く古めかしいトンネル、そしてそのトンネルに古い文字で、『日降村』と書かれているのが目に付く。

 シャーロックが居るのは、イギリスから離れた遠い国、日本である。ここに来たのには深い理由があってのことだが、それでも憂鬱さを隠せなかった。

《やれやれ……。こんな村では、アフタヌーンティーは期待できないな》

そうぼやくが、返事は来ない。彼にはしもべが居るのだが、それはイギリスの屋敷に置いてきた。正真正銘、ここにはシャーロックただ1人であった。

 

コツン、コツン、コツン、コツン、コツン、コツン

 

 トンネルの中は、暗くジメジメとしていて、シャーロックは端正なその顔を不機嫌に歪める。地面は綺麗に舗装されている訳でもなく、ボロボロのコンクリートによって形成されていたのだが、それもまた憂鬱さを際立たせていた。これが晴れた草原ならばバスケットでも持ち込んでピクニックと洒落込んだものだが、こうも陰湿な空気ではそんな気にもなりはしない。

(どうせならキョウトやトウキョウが良かったものだが、よりにもよってミヤザキなんて片田舎の、しかも山奥の村だなんて……。事件の香りを嗅ぎつけて来たものの、ダンブルドアのジジイめ、騙しやがったのか?)

シャーロックは、事件好きであった。推理小説は知りうる限りを読み耽り、自身でも作品を考え、時には実際の事件の謎を解いて来た。そんな彼にダンブルドア、と呼ばれた人物が話を持ち込み、そのせいでこうなったのである。

 

コツン、コツン、コツン、コツン、コツン、コツン

 

 トンネルを抜けると、そこは農村であった。田畑が青く茂り、古めかしい家々が立ち並ぶ。

(ふむ……典型的な田舎か。儀式とやらの話を聞いたが、いわゆる因習、という奴か?)

シャーロックは顎に手を当て、考え込みながらも周囲を物色する。視界の端に見える山には、立派な鳥居がある。ここへ来る前にある程度学んだシャーロックならば分かる。それは、まさしく神を祀っている証であった。その鳥居がある方へ、足を運ぼうとしたその時である。

「だれ? 」

涼しげで、それでいて清らかな声が聞こえた。慌てて、腰に巻いたベルトから、綺麗な意匠が施された木の棒を引き抜くと、それを声の主に向けて構える。

《少女か……? 》

シャーロックは、思わず呟く。トンネルの上に、1人の少女が立っていた。赤を基調とした着物を着込んだ、まるで人形のように容姿の整った、黒髪黒目を持った日本人の少女。年齢は、大体6歳から7歳くらいであろうか。無表情で、シャーロックを見ている。

「……わたしが、少女以外に見えますか? 」

英語で呟かれたその言葉に、少女は正確に反応した。

「君は誰だ……? そして何故そんな所に立っている。トンネルの上など、危なっかしくて見ていられないよ 」

シャーロックは冷や汗を掻きながらも話しかける。少女が持つ雰囲気は、人間と相対したようなものではない。どこか、無機物を相手にしているような感覚を覚えた。まるで、操られた人形と話しているような、そんな感覚を。

「私は『ともり』、と名付けられました。あなたが、余所者の魔法使いですね? 」

「魔法使い? 冗談は良してくれたまえよ。ボクにそんな力はないさ 」

見透かされている、と感じたシャーロックは、咄嗟に嘘を吐く。シャーロックは、手に持った杖を使い魔法という超常を引き起こす、魔法使いの1人であったのだ。嘘の回答を聞いたともりは、無表情のまま首を傾げた。

「そう……ですか? 」

「ああ……そうだとも 」

シャーロックは、ともりの確認に対し、再び嘘を吐く。

「そうですか 」

無機質にそう呟いたともりは、トンネルの上から身を踊らせた。

《馬鹿ッ! 『ウィンガーディアム・レヴィオーサ 』》

シャーロックは、慌てて魔法を使う。使った呪文は、『浮遊』の呪文。ともりの体が素早さを失い、浮遊し、そしてゆっくりと地上に降りてゆく。その小さな体を、シャーロックは両腕でしっかりと抱き止めた。

 

「…………魔法使い、ですね? 」

横抱きにされた腕の中で、ともりは尋ねた。もはや、この期に及んで誤魔化すことは、出来無かった。

「ああ…… 」

シャーロックは、苦々しい表情で呟く。慌てたとはいえども、『魔法界のシャーロック・ホームズ』と讃えられた魔法使い、シャーロックのプライドは、たった1人の少女によって既にズタズタであった。

 

「……ようこそ、『日降村(ひおろしむら)』へ 」

ともりの言葉に、シャーロックの直感による警鐘が、けたたましく鳴り響いた。

 

 「それで、キミは一体何者だ? ボクを魔法使いと知っている日本人なんて、どこにもいない筈だ。ボクは日本に来たのも、日本絡みの案件に関わったのは今回が初めてだからね 」

シャーロックは、村長の屋敷に向かって歩きながら、先導するともりに尋ねた。口調は穏やかながらも、その瞳からは確かな警戒が読み取れる。

「……それは、話せません 」

ともりは、シャーロックに背を向けて歩きながら、そう呟いた。

「へぇ……。ボクはね、この村で儀式をやっていると聞いて来たんだ。何か心当たりは? 」

「…………ないです 」

間を開けて、ともりは言った。あまりに怪しい態度に、シャーロックは眉を顰める。

「そんな筈はない。ボクは信頼こそできない奴が、かなりの大物から情報を貰ってここに来ている。そもそも、キミの態度はかなりおかしかった。君たちが隠していることを教えて欲しいんだ 」

「大物? 」

「ああ、アルバス・ダンブルドア。イギリスの魔法使いなら知らない人間の方が少ないレベルの有名人だ。極東の人間が知っているかは知らないけどね。あのジジイがどこから儀式の情報を掴んだのか、そして儀式の正体は何なのか、どうして態々このボクに伝えたのか。ボクはそれを知りたいんだ 」

シャーロックの言葉に、ともりは僅かに目を見開いた。

(……知ってるな、これは。外から切り離された" インシュウムラ " の類かと思ったが、そこそこ外界と接しているらしい)

シャーロックは、ともりの素直さに付け込むように歩きながらも質問を飛ばす。

「この村はどんな村なんだい? 」

「……さあ 」

ともりは無表情で首を傾げるが、シャーロックは満足したように頷いた。

(この子供、かなり情報を持ってるな。……そして、この子自身も何か秘密を隠してる。だが、その割に素直な子だ。初見は随分と驚かされたが、もう慣れた。覚えたての腹芸如きで、ボクには勝てない)

「じゃあ、この村の村長に会うにあたって、気をつけることは? 」

ともりはその質問に少し考え込む素振りを見せる。シャーロックが横目で見れば、端正な横顔が目に飛び込んでくる。

(それにしても、本当に日本人か? ……日本人にしては、かなり彫りの深い顔立ちだ。外国の血が混じっているのか? ボクも面食いな自信はあるが、もっと大人ならばティータイムにでも誘っていただろう。日本人は平たい顔が並んでいるものだと思ったが、それにしたってどうもこんな村には不自然な顔の娘だ)

「そうですね……村長は気難しい方ですので、ご機嫌を損ねないようにお願いします。特に、わたしにしたような追及はダメです 」

「……成程 」

ともりに釘を刺され、シャーロックは涼しい表情で了承する。内心の好奇心は燃えたぎっているが、相手の機嫌を損ねて仕舞えば調査どころの話ではないのだ。

「まもなく、村長の家へ到着します。……くれぐれも、余計な真似はなさらないように 」

 

 

 ともりの先導に従って入ったのは、村でも一際大きな屋敷だ。畳が敷き詰められただだっ広い空間が広がり、その脇の木で作られた妙に音を立てる廊下を渡り、村長がいる部屋へと向かう。

「……ふむ、これは態と音が鳴るようになっているのかな?」

「はい。侵入者が居ても、気づくことができるようにと作られたものです 」

「成程、歩くのは少し不安になるが、考えられた良い造りだ 」

「ありがとうございます 」

ともりは、シャーロックに視線を向けずに応え、シャーロックは少しでも警戒心を緩めさせようと話しかける。

「キミ、随分と大人びているね。幾つかい? 」

「7つです 」

「7歳か。そういえば、イギリスにキミと同い年の有名人が居てね。なんと、赤ん坊の身で凶悪な闇の魔法使いを撃退したと聞く。名前は、ハリー・ポッター。生き残った男の子、知っているかい? 」

「そうですか 」

ともりは少し、眉を動かした。

「ボクも最初は驚いたさ。あの闇の魔法使いに喧嘩を売ったことがあるが、中々に厄介な魔法使いだった。でも、子供に攻撃する前、母親が身を挺してその子を守り殺されたと聞く。つまり、命を対価とした強力な古代魔法の発動条件としては十分だ。世間ではその子供を英雄と扱うが、ボクの推測が正しければ、親の愛に守られただけの子供だよ 」

「古代魔法? 」

ともりが、明確に反応した。シャーロックは、獲物が餌に掛かったと目を細める。

「ああ、そうだ。強力な魔法には代償が必要であり、リリー・ポッターは息子のために命を対価に差し出した。そして、彼女の魔法は息子を救った。ヴォルデモートはその魔法によって致命的な被害を受け、世間から姿を消した。恐らくは、それだけの話だ。……ああ、そう言えば日本にも、系統は違っても似たようなものはあるのだろう? ウチは研究者ばかりを輩出する変人一族なんだが、日本の " オンミョウジュツ " なる古代魔法を研究した者を知っているんだが、この村もそういう魔法があったりするのかい? 」

「……いいえ 」

(淀んだ。つまり、そういうことだ)

古代魔法、それが何らかの形でこの村に関わっている。目の前の子供は、態度こそ子供らしくはないが非常に素直であった。ヴォルデモートの名前を出した時に、僅かながらに反応したのも素直さの表れだ。

 

「話す気がないなら、それでいい。……謎を解く楽しみができた 」

秘密を抱えた少女と村、未だ察せぬダンブルドアの思惑。そして、村に伝わるという謎の儀式。それら全てが、シャーロックの欲を刺激する。

(……面白い、乗ってやろうじゃないか)

シャーロックは、舌舐めずりをして宣言する。

「髪飾りは必要ない。……これは、ボクが解き明かす事件だ 」

 




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