レイブンクロー探偵と魔法事件簿   作:黒雲涼夜

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Checkmate

 天照が歩き出そうとした先に居るのは、村の村長。天照に変えられる前の存在が、憎む元凶。だが、一歩踏み出したところで、天照を魔力の鎖が捕らえ、続いて幾多もの魔法陣が天照を捕える。

「ハーッハッハッハ!!捕まえたぞ、我がメシアよ!!この力で、私は家を再興することができる!!」

魔法陣を仕込んだのは、ヴラドであった。ヴラドの家は古くから続く錬金術師の名家で、かつてはイギリス政府の援助の元でホムンクルス研究を行っていた。しかし、マグルの第二次世界大戦や魔法界のグリンデルバルドの反乱の影響で家は取り潰されて一家は離散、多くの家族はその時に口封じとして殺された。だからこそ、ヴラドは神に縋った。ホムンクルスという道具を犠牲にするだけで神の力を手に入れられたなら。もしも、神の力で家族とまた会えたなら。その為に積み上げてきた努力は、しかし神の前では無価値に過ぎない。右腕を一振りしたことで、魔法陣も、トラップも、ヴラドを庇った騎士達も、そしてヴラドの片腕も。それらが一瞬で焼き尽くされ、灰も残さず焼き尽くされた。

「ガァァァァァァ!!!!」

手首を消されてのたうち回るヴラド。村長は、その光景を呆然と見ていた。

「……もはや、これまでか。成程。ともりと奴が言っていた『必ず失敗する』というのはこういうことであったか」

村長は、ただ項垂れた。知っていたつもりで、忘れていたのだ。呼び寄せようとしたのは、人間によって与えられた役割であっても日本が誇る太陽神であるということを。

「犬死に、させてしまったか」

戦意は、もう無い。私情を配してホムンクルスを殺し続けたのは、紛れもなく村の為で村に暮らす人々の為。けれども、己の蛮行が村を危険に晒す現状と、それを誰も止められない現状を見れば、犠牲が全て無駄であったことを悟らざるを得なかった。

「コロシタケレバワタシカラコロセ!!!!『アバダケタブラ』!!」

鬼彦が、杖を向けて叫ぶ。放たれた必殺の閃光を、天照は素手で叩き落とした。返す炎を鬼彦は必死に避けるが、右足首を消し飛ばされる。

「グゥ……!!」

天照は痛みに固まる鬼彦に手を翳すが、村人達が集まり放った大規模な暴風が天照を洞窟に吹き飛ばす。

 

「……?」

天照は吹き飛ばされはしたもののダメージは無く、普通に着地した。その瞬間、象形文字が浮かび上がる。放たれたのは、水流だ。湧き上がる大量の水が、天照を飲み込まんと押し寄せる。しかし天照が全身を炎の球体に包み込めば、水はあっという間に蒸発した。続いて、ラテン語の魔法陣が動き出す。今度放たれたのは雷。それが天照を痺れさせようとするも、天照は平然とした様子だ。

「ダレノマホウカシランガ、アレデモダメカ……!」

洞窟の中を見ていた鬼彦が絶望の声をあげる。そして天照が腕に火を灯して鬱陶しい雷を吹き飛ばそうとした瞬間に、洞窟が大爆発を起こす。

爆風が村人達を襲い、鬼彦も身を屈める。

「やったか!?」

村人の誰かがその声を上げるが、それは再び姿を現した。

「………………」

天照は、少しだけ全身を火傷した様子であったが、それでも健在であった。天照の目に映るのは、裁くべき悪逆の姿。それに向かって手を伸ばし、その瞬間に右腕が焦げ、崩れ落ちた。

 

「…………?」

不思議そうに首を傾げる天照。そして、予想外の光景に絶句する村人達。しかし、その静寂を切り裂く声が響いた。

「おや、不思議かい?君の腕が崩れたことが」

 

「貴様……シャーロック・レイブンクロー!!」

村長が、その男の名を呼んだ。コートを風に靡かせ、不適な笑顔で立つシャーロック。魔法界の名探偵が、遂に舞台上へと上がったのだ。

「君が受けたのは、水の魔法はエジプトの、雷の魔法はギリシアのものさ。何をしたかったか、といえばマグルに言う化学という奴でね。水を分解すれば、2つの物質に分かれるものだがその内ひとつは火をつけると爆ぜるのさ。雷の魔法は、分解のために使わせて貰ったよ。最も、どちらの魔法もそれぞれの地域で神の力を手にしようと試行錯誤した結果の魔法であるから、それで傷つけられるというのは大変皮肉な話じゃあないかね?……そして、もうひとつ。洞窟内と、その肉体に元の所有者の許可を得て使った魔法があってね。……さて、問題だよ村長。その魔法は一体なんだと思う?」

突然振られた村長は、真っ青な表情で顔を横に振る。

「わ、分からん……」

その答えをシャーロックは、鼻で笑った。

「馬鹿だね、君は。しかしただ正解を話すのも分かりづらいから、正解の前にちょっとした小話だ」

小話を始めようとするシャーロックに天照は残った腕を振るい、そこもまた消滅する。そして、全身にはひび割れが起こりポロポロと体の一部が溢れ落ち始めた。

「…………!」

驚いた様子の天照に、シャーロックは意地の悪い笑みを浮かべる。

「下手に動かそうが動かすまいが、君はそのまま崩壊して消滅する。そういう運命なんだ。……知っているかはどうでも良いが、イギリスにはアフタヌーンティーという文化があってね。このボクもよく嗜むのだが、その際に飲む紅茶にはとある魔法を掛けるのさ。それが君と洞窟に掛けた、『保温呪文』。その辺りの主婦でも使えるような簡単な魔法だが、君には効果を発揮する。……それは何故か?だって、君の体は人間が作ったもので、壊すことができる。そして君自身は、太陽神の役割を与えられた怨霊の巨大な塊だ。君が炎を使い続けている間、その身が『保温』され続ければ、君の体は熱を放出することも出来ずに温度が上がり続けて、熱に耐えかね自壊するのみ。しかも、爆発で外から肉体を傷つけることで強度を下げたんだ。ま、こんな策は村人相手に炎を使ってくれなきゃ無駄だったんだけどね」

シャーロックの崩れぬ笑みにムキになったのか、天照は蹴りを入れようと足に力を入れる。すると足も崩れ落ち、バランスを崩した。その瞬間

 

「これで終わりだ」

シャーロックの言葉と共に、槍が突き刺さった。

 

「劣化版だが、ロンギヌスの槍をイメージして術式を組んでみた。槍自体は、古代ギリシア時代のものだから神秘も十分、偽物の神を殺すには十分だろう?」

シャーロックは、そう言うと笑みを消した。

「さらばだ」

 

「アァ……マダ、ヤツヲ、コロシテ…………」

天照であり、ともりであった何者かはそう呟いた。そして、そのまま全身が砕けて崩れ落ちる。それはつまり、天照の完全な消滅を意味していた。だが、シャーロックは手を緩めない。この場で、全てに決着を付けるつもりであった。

 

「さて、謎解きの前にひとつ種明かしをしておこう。これに、見覚えはあるかね?」

そう言って取り出したのは、小さな瓶だ。瓶の淵にはマグルが使うマイクのようなもの、その中には黄緑色の液体が入り、その中央には丸い球が浮かぶ。

 

「ハハハ、ハーッハッハッハ!!!!」

それを見て、笑い声を上げたのはヴラドであった。

「ああそうか!そういうことなのか!!……1番の馬鹿は私であった!!まさか、この私がここまで掌の上で踊らされていたとは!!!!」

その笑い声には、もはや悔しさを超えて清々しさすらもあった。

「一体……、一体どういうことだ!?」

村長が怒鳴ると、その球が輝きを放つ。

『こういうことですよ、村長』

「…………は?」

その声はまさしく、死んだはずのともりの物で。村長は、困惑の声を漏らす。

「全く、君の村長は理解力が浅くて困るな」

『すみませんね、ただ謎解きやれるから内心喜びでいっぱいでしょうに』

ともりの呆れた声を聞いて、鬼彦は首を傾げる。

「……ナルホド。ツマリ、ソレハトモリノカクナノカ。デハ、ギシキヲヤッテイタノハダレナノダ?」

鬼彦の疑問に、シャーロックは口を開こうとする。しかし、先に答えたのはヴラドであった。

「お前は私の兵団を知っておろう。あれは、私自身の意思によって動くものだ。つまり……」

「トモリノイシデトオクカラアヤツラレ、ハナシテイタノダナ?」

「そういうことだ」

 

『シャーロックさん、いじけないの』

「いじけてない…………」

解説を先回りされいじけるシャーロックを、ともりの声が宥める。

『補足すれば良いじゃないですか……』

「まあそうだけどさぁ……、仕方ない。ボクはヴラドと初めて会話した時に髪の毛を数本拝借していてね。それで研究所を探して忍び込み、君の使っていた兵士から核を盗み出してともりの体にあった核とすり替えたんだ。ともりの核は、研究所にあった保存液を使って保存し、遠方から操作しつつ魔法を掛けたマイクを使って遠方から演技をして貰ったのさ。ボクの見立てでは、初対面で英語を使っていたし学習能力は人間離れして高いものと踏んでいた。まぁ神の力を馴染ませるためなんだろうが、その予想は的中し、ボクが持っていた資料を読ませたり映像を見せて演技を学習させ、声のみの演技と遠隔操作だけで君達を騙し切ったのさ」

シャーロックは得意げに言った。それに対して、ヴラドは何の言い訳もせずに座り込む。

「……ホムンクルスの核が入れ替わった程度で気付けぬならば、計画が上手くいく筈がなかったか」

『その通りです。……因みに、核を入れ替えたのは昨日のことです。私がシャーロックさんに別れを告げたあの時、シャーロックさんは私にとある魔道具を仕掛けました。それは、私の位置情報をシャーロックさんに伝えるというもの。そしてシャーロックさんは私の居場所を把握すると貴方に変身して会いに来て、核の交換を行いました。つまり、入れ替わっていたのは6日目の昼からずっとになりますね』

ともりは何とも無しに言った。そう、ともりは6日目の昼から7日目のこの瞬間まで、ずっとシャーロックの側に意識を保ち、自由に話せる状態のまま居たのだ。それをシャーロックは、自室に1人の時であっても悟らせるような態度を取らずに真実を隠し通し、ともりは学習によって身につけた演技力で何百人もの村人を騙す大芝居をやってのけた。そしてそれは、シャーロックに監視の存在がバレていたことを表す。

「いつ、監視に気がついた?」

「初日。ともりと出会った時から警戒していたんだが、偶然神社からの帰りで見かけてね。……それから、ずっとボクは君達に見られていることを前提に動いていた訳なんだが、君達はどういう訳かボクが監視されている状況に甘んじている理由を考えることもせず、既に気がついていることや映像をある程度改組しているということを初めから想定すらもしていなかった。実に嘆かわしいことだね、馬鹿というものは」

ここぞと煽るシャーロックは、どうやら鬱憤が溜まっているらしかった。ニヤニヤと笑みを浮かべ、罵詈雑言を並べ立てようと頭をフル回転させる。

『……シャーロックさん、推理進めなくていいんですか?』

しかし、ヒートアップしていた脳に、ともりの静かな声が冷水のように浴びせられた。

「あ、んんっ……!失礼?ただ、まぁボクは君らから見られていることを前提に行動していたから、命は助けるという約束が出来るくらいには、少しばかり君らに都合の良い映像であったと思うよ。だが、実際には水面下で牙を研ぎ続けていた。そして、今こそ、全ての答えを携えて挑むこの場だからこそ宣言しようか!」

 

 

 

そしてシャーロックは、その言葉を高らかに宣言した。

「Checkmate……謎はここに解き明かされた!」

 

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