レイブンクロー探偵と魔法事件簿   作:黒雲涼夜

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お久しぶりです。賢者の石編になります。再開は迷ったんですが、気まぐれかつ亀更新でやっていきます。
気が向けば、日降村と賢者の石の間に2人が解決した事件の話(最大で0.1〜0.9まで)をやりたいと思います


case.1 :フラメルの赤い石
入学許可証


 

 空を舞う、一羽のメンフクロウ。その眼下に広がるのはイギリスはロンドンの街並みだ。マグル、と呼ばれる非魔法族の中にチラホラと紛れる魔法使い達の姿はもはや日常、そのフクロウは気にすることなく目的地を目指す。嘴には、フクロウが持つには少々サイズが大きいのではないかという羊皮紙の封筒が咥えられており、その薄さから中身は手紙であることが分かる。フクロウが空を飛び、手紙を送る相手が住む場所はロンドン市内にあるベイカーストリートという通りだ。物語の中では名探偵と名高いシャーロック・ホームズが住んでいたとされるその通りだが、フクロウが手紙を送る相手である人物と近しい男もまた、魔法使いの間では名探偵と評判の男である。

 シャーロック・レイブンクロー。通称、『魔法界のシャーロック・ホームズ』。謎をこよなく愛する変人ではあるものの、呼び名にふさわしく頭脳は一級品。凄まじい思考力と本職が研究者であることから魔法の知識も豊富、更には闇の魔法使いとして著名なヴォルデモートを真正面から煽れる胆力で、数々の事件を解決してきた。そんな男と暮らす1人の少女に向けて、フクロウはとある手紙を運んできていた。

 

 「ふぅむ……嫌な話が来たな」

ベイカーストリートに位置する古めかしくも大きな洋館、その一室でシャーロック・レイブンクローはため息を吐いた。

「面倒な案件ですか?」

そう尋ねるのは、太陽がすっかりと登っているにも関わらずパジャマ姿で、リビングに用意された専用のベッドに腰掛ける黒髪の少女。トモリ・フラメル。日本の村で起きた事件で出会い、シャーロックの相棒となったニコラス・フラメルの手で造られたホムンクルスである。虚弱体質なトモリは、よく体調を崩すためベッドの中で過ごすことが多かった。そんなトモリに届いた1通の手紙に、シャーロックはあからさまに嫌な顔をした。

「あのクソジジイ、トモリを、ホグワーツに入学させろと言ってきた。マクゴナガルのバアさんもご苦労なことだよ」

そう不機嫌に呟いたシャーロックに投げ渡された手紙をトモリが見ると、そこには緑色のインクで書かれた手紙があった。ライオン、蛇、アナグマ、鷲に囲まれた『H』のマークと、差出人である『ミネルバ・マクゴナガル』の名前は、その手紙がホグワーツ魔法魔術学校からの手紙であることを示している。内容は、ホグワーツへの入学許可を示すもので教科書など必要な教材が書かれている。

「ふぅん。私としては、通っても良いんですが。やっぱり、シャーロックさん的には反対ですか?」

「当たり前だ。ホグワーツなぞ碌な所ではない。例え君が大人の下らん思想に踊らされた青春が送りたいと言ったとしても、体をよく壊す君を送るなんて正気じゃあ反対以外に道はない。おまけに今年といえば、あのハリー・ポッターが入学する年だ。ダンブルドアは関わらせるのはまだ先にするつもりらしいが、絶対に何かが起こるだろうね」

苛立った様子で吐き捨てるシャーロックを見てため息を吐くと、トモリはベッドの縁に座ったまま足をバタバタと動かす。

「何かが起こる、なら尚更私を送り込んだ方が良いんじゃないですか?3分間とはいえ、戦闘ならそれなりにやれますよ?この体質ならむしろ虚弱だからと舐めて貰えるかと思いますし」

「分かっている。君の全力なら、マンティコアくらいの魔法生物なら簡単に殴り倒せるだろう。舐めてくれる、というのはあるかもしれないが解放時の戦闘力を見て警戒されない筈がない。だから動くならボクと一緒に行動してくれた方が有難いんだが……」

「私は貴方の相棒です。使える場面で使わなければ、私という存在に意味はありません」

シャーロックの心配を、トモリは冷静に切り捨てる。

「……だがなぁ」

「細かく連絡を取れば良いじゃないですか。私が内通者として中から情報を伝え、貴方は外から策を練って指示を出す。そして危険と判断すれば、理事会でも脅すなりなんなりして介入すれば良いでしょ?」

コテン、と首を傾げるトモリを横目に見ながら、シャーロックは紅茶を口に入れる。

「おぼっちゃま、ヴィルめも同意見で御座います。拡張呪文付きトランクをお嬢様にお与えになり、ヴィルめがその中でお嬢様のお世話をすれば良いのでは無いでしょうか?服用なさるお薬も、事前に用意すれば良いでしょう」

そう横から言ったのは、シャーロックに仕える屋敷しもべ妖精のヴィルだった。ヴィルは、トモリのサポートを申し出ることでトモリの入学への不安を払拭しようとしていた。

「…………むう」

シャーロックは、悩む。正直、ホグワーツに行かせることには意味がある。魔法使いによる30人規模の強盗団を単独、しかも拳で壊滅させられる少女にこれ以上力を持たせてどうするという話ではあるのだが、それでも魔法を使えるようになることは3分間の全力戦闘に頼らなくても良くなる。だが、ホグワーツに英雄が入学し、ダンブルドアの計画の開始も近い以上はシャーロックの手が届かぬ距離で危険がトモリの身に降りかかる可能性はほぼ確実と言えるため、寮暮らしとなるホグワーツへの入学へ踏み切るには不安要素が大きすぎた。

「スリザリンに入らなければある程度大丈夫では?」

「いいや、ハッフルパフ以外は辞めておけ。何処の寮も碌でなしだが、ハッフルパフが一番マシだ」

「?」

首を傾げるトモリに対し、シャーロックは人差し指を立てた。

「まずスリザリン、ここは論外だ。選民思想が激しいし、ボクはかつてヴォルデモートを面と向かって馬鹿にして煽って逃げおおせている。死喰い人の家族からすれば、君は憎い敵だ。仲良くなれば良い奴、というのも居るにはいるが基本は陰湿で生き汚く、野望に囚われた馬鹿者だ。まぁ、まず君にスリザリン適正はないから安心して良い」

「なんで煽ったんです?」

「なんとなくだ。馬鹿を馬鹿と言って何が悪い?」

トモリからの当然の疑問を、シャーロックは流す。

「はぁ……。じゃあ、グリフィンドールは?」

「グリフィンドール。ここも論外だね。正義と名乗れば何をやっても良いと思っている愚か者の寮だ。ヴォルデモートという奴らの正義を肯定するような敵が存在するのがタチが悪い。勇気と行動力を本当に持った人間も偶には居るが、大体は自分を特別だと思い込んでプライドだけが肥大した馬鹿だ。君の場合、この寮に入れられる可能性は結構高い。勇気や行動力があるからね」

シャーロックの言い方からは、グリフィンドールへの恨みが感じられる。どうやら、グリフィンドールとは因縁があるらしい。

「グリフィンドールに恨みでも?」

「学生時代にね。スリザリンにデキる奴が居たから古代魔法の論文について議論したんだが、スリザリン差別主義者共の襲撃食らって大惨事だ。馬鹿に論文の価値は分からなかったらしい」

「成程、そういう所なんですね」

トモリがそう呟くと、シャーロックは頷いた。

「そう。だから気をつけて。スリザリンと仲良くしているだけで嫌ってくる奴が多いからね」

「了解です。……では、次はレイブンクローで」

トモリが次の寮をリクエストすると、シャーロックは先の2寮と違い少し考える素振りを見せた。

「レイブンクロー、ボクの出身寮だ。ここは、扱いを間違えなければ割とマシだ。知恵を重んじるが、重んじ過ぎて成績が悪かったり、自分で考えることを放棄する者には容赦のない虐めが待っている。個人主義が強く、協調性という言葉を知らないくらい他人と協調しない我が道を行く連中だが他人を虐めたり見下したりする時は団結する、そんな陰湿な寮だ。それでも一芸特化の職人や多くの知識を持った賢者も居るから、そういう者と交流し意見を交わすのはレイブンクロー寮の醍醐味と言えるだろう」

「……成程、職人気質って感じなんですね?」

トモリは、やや反応に困ったのか苦笑しつつ確認する。どうやら、シャーロックの出身寮であることからそこそこ気を遣っているらしい。

「そう考えていい」

シャーロックはそんなトモリの考えを見抜きニヤリと笑みを浮かべる。

「最後にハッフルパフ、ここが一番マシだ。全体的に影が薄く、特徴はない。忍耐力自慢で、根気よく努力できる者が多い。忠実な為、使いやすい奴も多い。だが、寮の特性上は天才が少ないから劣等生とも揶揄されやすく、実際凄い人間は少数派だ。ニュート・スキャマンダーのような逸材はそう居らず、目立った欠点も目立った強みも面白みも見つけ出すのが面倒臭い、そんな寮だ」

「…………なるほど?それでハッフルパフが一番マシと」

トモリは、頭痛であるかのように額を押さえため息を吐く。

「ああ、どうしたのかね?」

「そんなだから友達少ないんですよ。探偵の性だかなんだか知りませんけど、粗探して陰口叩くのって貴方の言ったレイブンクロー生そのものじゃないですか。褒めてる部分なんてもはや注釈程度ですよ?さすがはレイブンクロー家、といった所ですか?」

「うぐっ……!」

シャーロックは、思わぬ切り返しに頬を引き攣らせる。

「はははっ、流石はお嬢様、ぼっちゃまでは勝てませんな」

ヴィルがシャーロックが紅茶を飲み終えたティーカップを下げながら笑う。主人の痴態を笑って許されるしもべ妖精もかなり珍しいが、シャーロックはジト目を向けるトモリに冷や汗を流す。

「いやいや……そんな訳がないじゃないか、彼らにも良いところはいっぱいあるよ?」

「あるにしたって、私は知りませんよ。だってまだ入学してないんですから。貴方のやってることは印象操作ですよ。……私の虚弱体質など建前でしょう、何を予測してるんです?」

トモリは、そう言って真剣な目をした。シャーロックは、目を見開き表情を引き締める。

「やはり、君ならそれも読んでくれると思ったよ……」

「名探偵の相棒ですからね、当然です」

当然のように言い切るトモリに感心しながらも、シャーロックは浮かない表情で口を開いた。

「すぐにではないがね。…………ま、確実にあるのはヴォルデモートの復活だね。可能性の話も含めると、ダンブルドア側と死喰い人による全面戦争だ」

「!?」

トモリは、シャーロックが確実と言い切った一大事の未来に動揺を露わにする。トモリは、ヴォルデモートが未だ生き延びていることを知っている。

「ダンブルドアは、奴を確実に倒したい。ヴォルデモートは復活したい。……恐らくヴォルデモートは復活のため暗躍するし、ダンブルドアはある程度は泳がせる。大人達の思惑はもう動き始めている、その被害に君が遭うかもしれないんだ。日降村の時のように、ボクの居ないところで」

「だとしても!……ごほっ」

トモリは叫び、しかし胸に迫り上がる不快感を吐き出すように咳き込む。

「トモリ!!」

「ごほっ、……だとしても、私は飛び込みます。私は名探偵、シャーロック・レイブンクローの相棒。神とすらも対峙した貴方のように、私は真実から逃げたくないから。その先がライヘンバッハだったとしても、私はちゃんと相手も落としてホームズのように生きて帰りますから」

咳き込みながらも言ったトモリの言葉にシャーロックは、目を閉じて大きく深呼吸をした。そして目を開けば、そこには娘を心配する父親のような目ではなく、謎を追い求める少年のような目があった。

「……君の言い分は理解した。ホグワーツ入学を認め、祝福しよう。だがしかし、策も授けるし連絡を頻繁に取って情報の共有も行う。そして何かがあればすぐにボクはホグワーツへと乗り込む、いいね?」

「勿論、足を引っ張ったりしないで下さいよ?」

トモリは態とらしく、悪戯っ子のような笑みを浮かべる。シャーロックもまたそれに返すように、

「無論だとも。ボクは魔法界のシャーロック・ホームズ。そして君はそんな男が相棒と認めた才女、2人ならばきっと解けない謎はない」

 

「ふふっ……」

トモリは慈愛の込もった瞳で笑うと、拳を握って突き出す。

「やるぞ、相棒」

その言葉に返事はない。だがしかし、合わせた拳の温もりが、2人の決意を表していた。

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