レイブンクロー探偵と魔法事件簿   作:黒雲涼夜

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お久しぶりです


ダイアゴン横丁へ

 シャーロックがホグワーツ入学を渋々認めたことで、トモリは入学資格を手にした。

「というわけで、君には入学準備をしてもらう必要がある。よって、ダイアゴン横丁に向かおうと思う。教科書なども買わないといけないからね」

そう宣言したシャーロックに、トモリは不思議そうな表情を浮かべると首を傾げる。

「あれ?手紙見ましたけど、リストの物品は大体この家にあるもので大丈夫ですよね?……確かに制服や杖は必要ですけど」

心底疑問、といった様子のトモリにシャーロックは全く分かってない、といった様子でため息を吐く。

「分かってないな。そういう時は、新品を集めるものだ。各国の魔法省や金持ちからたんまりと頂いた依頼料に研究によって得た利益もある。よって家は金に欠片ほども困っておらず、なんなら君の口座を作って大金を詰め込む余裕さえあったんだ。遠慮せず、新品を購入するといい。新品の道具を集めれば、気分が上がるしね」

「……口座?聞いてないんですけど。そういえば貴方、前に相当な金額動いてませんでした?あの時は " 魔動式パンジャンドラム " の制作費だって言ってましたよね?でもあの後パンジャンドラム制作に特別お金が掛かった訳でもありませんし、もしや……」

トモリは、シャーロックの言葉に疑念の視線を送る。自分に口座が作られているなど、全く聞いていないのだ。

「正解、その時に制作費と一緒に引き落として移したんだ。……安心したまえ。君が貢献した研究や事件の報酬、更にはしてもらった仕事のお礼を、適切に分配しただけだ。今後もその方針を変えるつもりはない。後でグリンゴッツで鍵を渡すから、学習や生活に必要な道具以外の嗜好品はそこから購入するように」

「……なるほど、それは道理ですね。了解しました」

シャーロックの説明に、トモリは頷く。その返事にシャーロックは満足げに頷いた。

「よし、では体調次第では早くとも明日の朝から向かおう。第一段階を使ってもらうから、今日は出来る限り眠っておきなさい。今日、あまり体調がよくないんだろう?仕事はまた、体調がいい時にでも頼むからさ」

「へぇ……気付いてたんですね」

「ベッドから降りない時点で分かるさ」

シャーロックの返答にトモリは微笑み頷いた。

「分かりました。……休んでおきます」

その返答を待っていたかのように、ヴィルが手を差し出す。

「さあ、お嬢様。このヴィルめの手をお取りください」

「ん、ありがと」

「礼には及びませんよ」

トモリは返事を返すと、自然に差し出されたヴィルの手を取り立ち上がった。ベッドで休むにしてもこの場はリビングルーム、シャーロックの仕事の邪魔になる。全身を襲う気だるさに内心うんざりとした感情を抱きつつ、トモリはシャーロックへと笑いかけた。

「では、また明日」

「ああ。しっかり休めよ。……ヴィルも、頼むな」

「お任せください」

トモリをヴィルに任せると、去ってゆくトモリとヴィルの背をぼんやりと眺め物思いに耽る。ハリー・ポッターの入学というのは、ダンブルドアにとってのひとつの大きなキッカケだ。ヴォルデモートを呑み込む大波を起こすためには、英雄を英雄とすべく育てなければならない。だがトモリは、はっきり言ってその計画の妨げになる。制約付きとはいえども、人間離れした身体能力と学習能力を保持したホムンクルスなど規格外にも程があるのだ。

(あの子はあくまでもハリー・ポッターにヒントを出す立場、くらいに収まらないと不味いな。事件の解決は出来ても成長の妨げをすれば、ダンブルドアはどう動くかが分からん。……真実を解き明かすのが探偵だというのに、真実を探る邪魔をせねばならんか。全く、儘ならないものだね)

シャーロックは額に手を当て大きなため息を吐く。トモリは戦力としては一級品だが使い所に困る部分がある。戦闘力は時間制限こそあるものの凶暴な魔法生物くらいはあるし、頭脳も推理より知識に偏ってはいるものの凄まじいものがある。少なくとも、シャーロックの目には彼女はヴォルデモートを穿つ銀の弾丸のひとつと言える。だが、その有能さがハリー・ポッターという英雄の神話を邪魔するようなことがあれば、自身がすぐ駆けつけられない所でダンブルドアに敵視されかねない。真実を解き明かすこと、それはし過ぎると却って彼女を危険に晒すことになるのだ。つまり、シャーロックは動けば解ける事件に、態と梃子摺らねばならないし、それを求めねばならない。そう考えるとシャーロックは、憂鬱で仕方がなかった。

 

 

 日を跨ぎ翌朝、身支度を済ませて出てきたトモリの顔色は、前日に見たものよりもずっと健康的なものであった。表情もいつもの如きすまし顔だが、心なしか機嫌が良いようにも見える。どうやら、ほとんど丸一日休んだことで体調は改善されたらしいと、シャーロックはトモリに向ける微笑みの裏でホッとため息を吐く。

「や、体調は良さそうで何よりだ」

「こんな寒い時期なので不安だったんですが……。今日は使えそうです」

今はまだ11月、肌寒さがトモリの体調不良を誘うものだが、行ける時に行っておかなければ事件の調査で国外に出ることも多いため困るのである。

「大丈夫そうだし、早速行こうか」

「了解です」

シャーロックが笑って手を差し出すと、その中に収まって消えてしまうようにも錯覚するほど小さな掌でそれを握り締める。

 

そして、部屋から2人の姿が瞬時に消える。《姿くらまし》だ。向かう先は、『漏れ鍋』と呼ばれるパブ。マグル界と魔法界の境目とも言えるその場所に転移すれば、珍しい顔に周囲から注目が集まる。

「よお、レイブンクロー。また可愛い相棒ちゃんに迷惑掛けたな?で、今度は何をやらかした??」

ガハハハハ、と豪快に笑いながら酒を口に運ぶ赤ら顔に髭を豊富に蓄えた常連客の男を鼻で笑う。

「違う違う、今日は相棒の入学準備だ」

「へぇ、そういやもう11か。おめでとさん」

常連客の言葉にトモリは曖昧な表情を浮かべて小さく頭を下げる。それに笑みを浮かべた常連客は懐を弄ると小さな小瓶を投げ、シャーロックはそれを受け取った。

「へえ、良いのかい?」

「ああ。誕生日プレゼントって奴だ。どうせホグワーツで使うだろうからな」

「そりゃあどうも。……んで、仕事は大丈夫なのかい?ロシアの魔法大臣ともあろう人間がこんな所で」

「ガハハハハ!ロシアはマグル界が面倒臭ぇんでな、厄介ごとは減らねぇしちょっくら逃げて来たのよ!」

豪快に笑う男に、トモリは死んだ目を向ける。ロシアは土地が広大で犯罪が分散しやすく苦労も多いそうだが、その魔法界のトップがこんな所で酒を飲んでいていいのだろうか、いや、良くない筈だ。そしてシャーロック。魔法大臣ともあろう者に対して砕けすぎである。

「…………シャーロックさん」

トモリの視線にシャーロックは肩をすくめた。

「そういう訳だから、そろそろ行くよ。酒は程々にね」

「おうよ、ヴォルデモートの野郎が出てきたら教えてくれや」

ギラギラとした視線を背後に浴びながら、シャーロックは彼に背を向ける。

「心配せずとも出てくるよ、そのうちね」

そう言って、意味深に笑った。

 

 漏れ鍋からダイアゴン横丁へ行くには、裏庭にあるレンガの壁を順番通りに叩かなければならない。シャーロックにとってそれは簡単なことらしく、スムーズに叩けばレンガが動き、横丁の入り口が姿を表した。

「流石に手早いですね」

「そりゃあ、態々漏れ鍋を経由したんだ。出来なければ行っていないよ」

「なんで寄ったんです?」

「気分だ」

「ですよねー……」

2人はそんな会話を交わしつつ、一歩街へと踏み込んだ。

 

 

 ダイアゴン横丁。イギリス魔法界において最大の横丁であり、イギリスの魔法使いならば誰もが一度は訪れる場所だ。だからこそ、耳を打つ楽しげな喧騒が鳴り止むことなど、そうありはしない。

「さて、まずは金だね。今回の分は全てボクが出すが、ボクの金を取り出さねばならない」

「ありがとうございます」

「当然さ、さぁ着いてきなさい」

意気揚々と歩くシャーロックに続き、トモリは石畳の通りを歩く。人でごった返すその街並みには、日降村には無かったような小洒落た店が並んでおり、何度か来たことのあるトモリだがその目は彼方此方へと吸い寄せられる。

(……やっぱり、注目されてる)

シャーロックとトモリに気付いた者からの視線に、トモリは眉を顰める。シャーロックは魔法界において名探偵として名を馳せる男であるし、事件に関わるせいでトモリが相棒であることも世間には知られている。

「そういえばトモリは、クィディッチには興味無かったね」

シャーロックが左側の店に視線をやりながら言い、トモリはシャーロックの見ているものを視界に収める。

「ああ、ニンバス2000。……まぁ確かに興味は薄いです」

空を飛ぶ魔法の箒を売る専門店のショーウィンドウには、最新型であるニンバス2000が飾られ、子供達が周囲に群がっている。クィディッチという魔法界で大人気のスポーツがあるのだが、トモリはそれに興味を示さない。

(……ボク自身もあまり興味は無い上に、人付き合いで試合見に行ったことはあるが、招待してくれる人はみんな偉い人だからなぁ)

シャーロックはそう考える。クィディッチにはシャーロックも興味無いし、試合を見に行くにも自分が何処かしらの立場ある人から招待され人付き合いで行くしか機会が無かった。きっと、ハマるキッカケが無かったのだとシャーロックは内心結論づけた。

(シャーロックさんがクィディッチ興味ないの、運動下手くそだからなぁ。おまけにプライド高いから運動関係はあんまり触れたがらないし。しかも行く機会は周りみんな偉い人、そんなの楽しめないに決まってるでしょ)

トモリはそんなシャーロックに、呆れた視線を向ける。クィディッチに触れる機会が少ないのは事実だが、その原因は運動下手である点とそれを認めたがらない、プライドの高さに定評があるそこの名探偵だ。

「…………トモリ、箒は乗ったこと無かったよね?」

「はい。シャーロックさん、箒まともに使えないからコレクション用の箒しかないし。そもそも運動音痴を気にしすぎて、割と避けてますし」

グサリ、とシャーロックに刺さる音がした。

「いやぁ?ボク、決闘とか割といけるだろう??」

「予測や煽りで誤魔化してるだけで、割と弱いですよね。それで何とかなってるのが凄いんですが」

冷や汗を流して言い訳を並べるシャーロックに冷ややかな目を向けつつ、トモリは箒屋を素通りする。どの道、ホグワーツ1年生がクィディッチのチームに入れはしないし、関わることはないだろう。

「……んんっ、そんなこんなで着いたか」

長いコートを慌てた様子で翻し、シャーロックはその巨大な建物を見据える。

 

グリンゴッツ銀行、それこそがイギリス魔法界最大の銀行だ。

 




魔動式パンジャンドラム: 魔法による動力で動くパンジャンドラム。何故作ろうと思ったのか
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