レイブンクロー探偵と魔法事件簿   作:黒雲涼夜

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ダイアゴン横丁の買い物

 グリンゴッツ銀行へと入れば、そこは長い広間であった。銀行に務める小鬼達が忙しなく動き回り、銀行を利用する魔法使い達で中はごった返している。シャーロックが向かうのは、ひとつのカウンター。

「やあ、居るかい?グリップフック」

そう声を掛ければ、中年くらいだろうか。男の小鬼が顔を出す。

「レイブンクロー様、今日はどのようなご用件で?」

「ボクの口座から金を下ろしたい」

「あ、私のからもお願いします」

シャーロックに続き、トモリが言う。

「……良いのに」

「学用品とかじゃないですよ、貴方は強情な人ですから。私用のお金は持っておきたいので」

「ああ、成程。では……」

シャーロックがそう呟きポケットに手を入れると、金色の鍵を2つ取り出した。そしてそれをグリップフックに差し出すと、グリップフックは恭しい態度でそれを受け取る。

「それが、私の鍵ですか?シャーロックさんのは570番金庫ですから、私のは111番の方ですね。語呂合わせかなにかですか?」

「ああ。君の今の誕生日でもある11月1日と、トモリという名前から蝋燭を連想してね」

「成程」

「さて、それでは参りましょう」

2人はグリップフックに続いて歩き出した。

 

 「しぬかと、思った…………」

ぐったりとした表情でシャーロックが呟き、トモリはそれに憐れみの視線を送る。金庫に行くにはトロッコに乗って移動しなければならないのだが、これがまた大層不便なのである。というのも、このトロッコはジェットコースター顔負けの速度で走るため、酔ってしまう人は多数いる。

(強化しといて良かった)

トモリは、全力戦闘の際に使用するエネルギーを僅かに解放、軽い身体強化を施すことで地獄のコースターを酔わずに乗り切ることに成功したのだが、生身の人間であるシャーロックはそうもいかない。結果として、真っ青な顔で口元を押さえる名探偵という何とも様にならない絵面が完成したのである。

「大丈夫ですか?」

「…………大丈夫だ、問題ない」

顔を真っ青にしながらも、シャーロックは明らかな虚勢を張った。流石のプライドである。トモリとしては苦笑いを浮かべるしかない。金庫は111番、トモリの金庫である。

「では、こちらに」

「はい。行ってきますね」

懐から小瓶を取り出し魔法薬を飲むシャーロックを他所に、トモリはグリップフックに付いてゆく。グリップフックが鍵を開け、重々しい扉が開けばそこには、金貨、銀貨、銅貨の山。トモリは思わず、その光景を二度見する。確かに、レイブンクロー家の金庫やシャーロックの金庫と比べれば小さいが、それなりの金持ちレベルの資産だ。

「当然だろう。……実験への貢献とか、犯罪者の武力制圧だとか、手紙のやり取りとか色々やっている」

若干顔色の優れない程度まで回復したシャーロックが顔を出す。

「実験っていうと、あのロケットパンチ機構とかビックリ箱砲とか騒音花火とかですか?」

「ああ」

シャーロック達レイブンクロー家には、『世界はロマンに満ちている』という家訓がある。魔法の力を高尚なものでも暴力でもなく、ロマンを現実にする楽しいものであると捉え、それが満ちる魔法界でロマンを探求することこそがレイブンクロー家の誉れであるとした。それは、モテるあまりレイブンクロー家の血と家名を現代に繋いだ変態にしてロウェナの孫、エリック・レイブンクローが遺した意思だ。シャーロックもパンジャンドラムを街中で走らせ爆発させ、ヴォルデモートの潜伏先にて夜中に爆音で花火大会を行うなどの馬鹿を散々やらかした。そんな変人が社会に馴染める筈もなく、トモリはシャーロックと仕事相手の間に入り潤滑油のような役割をしている。シャーロックの字が読むに耐えないほど汚い、というのもあるのだが一番はトラブル防止である。あの男、無能と判断した相手には死ぬほど辛辣だし有能でも嫌いな人間は兎に角嫌い、しかもすぐ喧嘩を売るのだ。トモリの気苦労は絶えず、だがシャーロックもそれには若干罪悪感を抱いているのだろう。金は有り余るほどに積まれていた。因みに魔法界の通貨は銅貨がクヌート、銀貨がシックル、金貨がガリオンだ。シャーロック曰く、それぞれ金、銀、銅の含有率は割と良いらしい。よくそれだけの量を用意できたものだ、とトモリは初めてそれを聞いたときは思ったものである。

 さて、トモリがお金を少しばかり回収すれば、次はシャーロックの金庫だ。こちらもトロッコに乗り爆走、シャーロックは魂が抜けた様子でしがみ付き、トモリは涼しい表情で自分の体を強化する。

「続いて、570番金庫でございます」

「ええ、ありがとうございます」

魔法薬の効果か、今度はそれほど酔っている訳でも無さそうなシャーロックは不機嫌な様子で辺りを見回しながら歩く。グリンゴッツに行った日のシャーロックは比較的機嫌が悪くなる。

「はぁ……。相棒の為でなければ爆破してたよ」

「なんでレイブンクロー家はすぐ爆破に走るんですか?」

シャーロックの愚痴に、トモリは溜め息を吐く。トモリが引き取られてすぐの頃、トモリの扱いに関して一度レイブンクロー家で家族会議があった。トモリ自体は2つ返事くらいで簡単に認められたのだが、レイブンクロー家の変人達が集まった結果、謎のテンションで馬鹿騒ぎが始まり、遂には屋敷が吹っ飛んだ。爆発オチなんてサイテー、とはその際にトモリが言った言葉である。

「良いだろう、爆破はロマンだ」

「限度がありますよっと。グリップフックさん、ありがとうございます」

グリップフックが扉を開くと、そこには金、銀、銅の山。更には様々な財宝も置かれている。トモリの資産が富士山とするなら、こちらはアルプス山脈。山ではなく山脈だ。因みにレイブンクロー本家の資産は、ヒマラヤ山脈くらいある。爆発をしょっちゅう起こしているのに、どうしてそんなに有り余っているのかは甚だ疑問である。

 

 金を下ろせば、本格的な買い物の始まりである。必需品というものは色々あるものだが、まずトモリが向かうのは制服である。ホグワーツ魔法学校には、当然のように制服がある。組み分け後に魔法の力でデザインが変更されるが、その基準となる制服は買わなければならない。その為に行くのは、『マダム・マルキンの洋装店』。ここで採寸を行い、制服を購入する。今回、購入するのは

 

・普段着のローブ3着(黒)

・普段着の三角帽昼用1個(黒)

・冬用マント1着(黒、銀ボタン)

である。本来は安全用手袋も制服のカテゴリに入るし無いことも無いのだが、それは別に良い専門店があるのでここでは購入しない。

「流石にボクが着いていくわけにもいかないし、教科書類はボクが買っておこう」

シャーロックはそう言って制服代をトモリに握らせると、さっさと人混みの中へと消えてゆく。その姿をトモリは、パチクリと目を瞬かせて見送った。

(ふぅん。……誕生日プレゼントでもくれるのかな?)

トモリは、シャーロックの様子からそれを感じる。このコンビ、どうしても知能が高すぎるせいでサプライズがサプライズとして機能しないのだ。とはいえ、トモリとしては突っ込むのは野暮なことである。どこぞの名探偵のように、サプライズを実行しようという瞬間に全ての謎を解き明かしてドヤ顔をするような趣味はない。あれはトモリ的にも悪趣味だとは思ったが、レイブンクロー家のサプライズは屋敷にマグルの戦車で突っ込んだりロケット花火を雨霰のように発射するので、それに比べればまだ趣味はいいだろう。というか比較対象はなんなのか。戦争でもしてるのか。トモリは、たった一度だけの会合の記憶(トラウマ)をそっと脳に仕舞い込んだ。あれは思い出すだけ損である。

 さて、目的地の『マダム・マルキンの洋装店』へと入ると、そこには辺りを埋め尽くすほどの衣服が置かれていた。

「すみませーん」

トモリが声を掛けると、奥から1人の女性が顔を出した。その人こそがマダム・マルキンだ。

「ああ、なんだい。トモリ・フラメル……確か今年ホグワーツ入学だったね」

「あはは……。よくご存知で」

「アンタの相棒は有名だからね。新聞でよく読んでるさ」

マダム・マルキンに言われトモリは苦笑いを浮かべる。名探偵の相棒という立場は、それなりに目立つ。今年はハリー・ポッターという魔法界の英雄が入学するのでそちらに話題を押し付けられるとトモリは考えていたが、それはそれとして一方的に知られている、という状況はそれなりにありそうだと内心ウンザリとした気分だ。

「ええっと、採寸をお願いに来たんですけど」

「だろうね、こっちへ来な」

話を逸らしたトモリにマダム・マルキンは色々と察したのか2つ返事で手招きをする。その対応に内心ホッとため息を吐きながら、トモリはマダム・マルキンに従い歩き始めた。

 

 シャーロックが店から出てきたトモリを迎えると、トモリはめざとくそれを見つけた。

「教科書ですね、ありがとうございます」

「いいんだよ、このくらい。あと、大鍋1つ、ガラス製またはクリスタル製の薬瓶1組、望遠鏡1台、真鍮製の秤1組はこちらで購入しておいた」

「し、仕事早……。私、まだ採寸しかしてないですよ?」

あまりに早すぎる仕事に、トモリは表情を引き攣らせる。それをシャーロックは、愉快そうに笑った。

「何、初歩的なことだよ相棒。学用品は粗方事前に選定、予約して在庫を取って貰っておいたのさ。無論、適当に選んだ訳ではなくその道の専門家にお勧めを尋ねて決めたものだ。そして何より、ボクはこの横丁にある全ての店とその品揃えを逐次記憶している。このくらい、造作もないことだよ」

ふふん、と胸を張るシャーロックに、トモリはへー、と返す。謙虚さに欠ける部分はあるが、やっていることは超人としか言いようがないことだった。

「流石ですね。……それで、後は杖ですか?」

「ああ、それとフクロウも買おう。ウチはアイリーン2世がいるものの、それだけだからね」

アイリーン2世、というのはシャーロックが飼っているシロフクロウのメスだ。アイリーン2世、というのはシャーロックのホグワーツ生時代を支えたシロフクロウ、アイリーンの後継であるためだ。そのためシャーロックは、1世と区別してそう名付けている。違う名前を付けたらどうだ、とは言わない約束である。それはそれとして、フクロウまで買ってくれるというのは中々に気前がいい。

(……ううん、どういう系が良いんだろ)

トモリは核に収納されたフクロウの情報を内心で検索しながら、シャーロックに付き従って歩き始めた。

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