レイブンクロー探偵と魔法事件簿   作:黒雲涼夜

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オリバンダーの杖

 フクロウ、という鳥は魔法界において重要な役割を持つ。マグルの世界ではかつて伝書バト、と呼ばれた鳩を使って手紙のやり取りなどを行っていたのだが、魔法界におけるフクロウの役目は、それ以上に多くの役割を持っていた。というのも魔法界ではフクロウに、大荷物すらも運ばせるのである。非効率だ、とかフクロウの負担が大きすぎる、と思わなくもないのだが、実際に役に立つしそんなに郵便制度が整っている訳でもないのでシャーロックもトモリも普通に利用していた。そしてホグワーツに入学する際、フクロウ・猫・ヒキガエルのどれかならばペットの連れ込みが可能だというのである。利便性を考えれば、正直な話フクロウ一択、というのがトモリの結論だった。向かった先は、『イーロップのふくろう百貨店』、文字通りフクロウ専門店である。フクロウは魔法界における通信の要であるため当然専門店も多いのだが、初めてのフクロウ購入であれば『イーロップ』が無難だ、とはシャーロックの弁だった。

「それで、好みのフクロウは居るかい?」

シャーロックに尋ねられ、トモリは頷く。店内には沢山の鳥籠が置かれ、中には大小様々なフクロウが入れられている。

「うーん……、可愛いの一杯で選ぶのが大変です」

トモリは彼方此方に視線を泳がせながら言う。

(ふむ、ならば……)

共に選んでも仕方がないと思いつつもフクロウを見るのは嫌いでないため一緒になって眺めていたのだが、店の外である人物がこちらに目配せしたのを、シャーロックもトモリも見逃さなかった。シャーロックはトモリに財布から抜き出した幾らかのガリオン金貨を握らせる。

「そういうことですか?」

「ああ、行ってくる。……好きに悩みな」

「すみません、ありがとうございます。お気をつけて」

「良いんだ、気にしないで……何かあれば、合図を送る」

そう言ってシャーロックは、頷くトモリに笑顔を返すと店から出て路地裏へと入って行った。

 

 

「よう、名探偵」

そう言ったのは、漏れ鍋でも出会ったロシア魔法大臣だ。路地裏に突っ立っていて良い立場でもないが、何処にでも現れる自由人のため突っ込みは入れない。この男、かなりの武闘派魔法使いとして有名で、闇祓い出身で対ヴォルデモート陣営ではロシア国内に潜伏する死喰い人を多く捕らえた実績もある男だ。そんな男の話、というのは

「……相棒は、フクロウ見てます。それで、何か?」

「チッ、相棒ちゃんがいれば話は楽だったのによ。今年はハリー・ポッターの入学があるんだ。ヴォルデモートの野郎なら、何かしら仕掛けるはずだと思ってよ。こっそりイギリスに潜り込んだのさ。……とはいえダンブルドアにははぐらかされるし、お宅の魔法大臣はとんだ臆病者だ。奴の名前を臆せず呼べるような猛者でなければヴォルデモートの相手は務まらん。よって思い出したのが、お前だ名探偵」

「ダンブルドアにはぐらかされたからこっちに来たか、随分と舐められたものだね。それが依頼人のする態度かい?」

「こちらにはロシア国民の命と安全が掛かっている。お前のプライドなんぞに付き合って居られるか。だから嬢ちゃんを間に挟まずにお前個人と話すのは嫌なんだ、有能な癖にプライドは高いし口も悪い。おまけに礼儀知らずときた。あの嬢ちゃんがいれば、結果は変わらずともやり取りはしやすいってのによぉ。ちっとはあの嬢ちゃんの正義感と礼儀正しさを見習えや」

そう文句を言う魔法大臣に、シャーロックは不機嫌に鼻を鳴らす。

「ふんっ、相棒はよくキミらとの人間関係で胃を痛めてるのでね。気遣ったまでだ」

「トラブルメーカーなテメェの後始末だろうよ、社会不適合者め。あの嬢ちゃんがなんでお前を慕ってるのか分からんな」

「話せば長くなるがね。聞く気があるなら教えてあげるよ」

「断る、別に知らんで良い。……んで、ヴォルデモートについては?」

「さあね。トモリ君がホグワーツに入学する以上は、中から監視してもらう他ない」

「ロシアからスパイを送る訳にもいかねぇからな……。国際問題にして態々手を取り合わなきゃなんねぇ者同士で争うのは非合理だ。情報、流しちゃくれねぇか?」

「断る」

「ロシアが、嬢ちゃんの身分を保証してやるって言っても?……あの人間離れした戦闘力は、既に各国から目を付けられてるぞ」

「……イギリス魔法省に頼むよりはマシだがね。それでも信用ならん。マグル界の秩序を持ち出してイギリスやアメリカを嫌ってる連中も居るだろう。君のところの副大臣だってそうじゃないか」

「あちゃあ、そりゃそうだ。そいつらに関しては反論が出来ねぇな」

「そうだろう?……取り敢えず、現状は『ニコラス・フラメルが瀕死の子供を錬金術で救ったらその副作用で一時的に超人的な力を出せるようになった』というカバーストーリーを流してる最中なんだ。その邪魔をしないでくれたまえよ?」

「しゃあねぇな。……取り敢えずだが、ロシアの方で死喰い人の残党狩りは続けてるが、信者はまだ隠れ潜んでいるだろうな。それとヴォルデモートの奴は強い上に、妙なカリスマがある。それまでこちら側だった奴が裏切ることもありえるから、気をつけろよ?」

「分かっているとも。ボクは相棒と連絡を取りつつヴォルデモートの行動を探る。君は君で勝手にしたまえよ」

「言われなくても勝手にする。だから何かあっても良いように、テメェに嬢ちゃんへの誕生日プレゼントを送ったんだからな」

「……一応、感謝しておく」

「相棒絡むと素直だなテメェ。……まぁ良い、用も済んだし俺は国に戻るぜ。ああ、最後にウチの諜報部からの報告だ。…………アルバス・ダンブルドアとニコラス・フラメルがかなりの頻度で会ってる。何かしらの動きがあるかもしれねぇな」

そう言って去ってゆくロシア魔法大臣に、シャーロックはため息を吐いた。トモリの身分証明、という提案はありがたいものだが、ロシアという国の情勢を考えると素直に歓迎できない状況だった。とはいえ、最後の情報はかなり重要だ。ニコラス・フラメルとアルバス・ダンブルドアは友人であるためただ会うだけならばなにもおかしなことはない。だがしかし、彼らが頻繁に会うようなことはこれまで無かったのである。今年のホグワーツはやはり何かある、シャーロックはそう確信を強めた。

 

 籠を持って戻ったトモリは、シャーロックに心配そうな視線を向けた。明るい話ではないということは、シャーロックの表情から察しているらしい。

「大丈夫だったんですか?」

「ああ、問題ない。……それよりそのフクロウは」

トモリの持つ鳥籠に入ったフクロウは、フクロウとしては比較的大型種になるフクロウだ。その名も、ワシミミズク。羽角と呼ばれる耳のような羽を持ち、鷲を思わせるその鋭き眼光は、猛禽類としての力強さや威厳がある。

「ワシミミズクのオスです。名前はドイル、と。名前の由来はアーサー・コナン・ドイルからになります」

「へえ、流石に趣味が良いね。ワシミミズクとは、中々カッコいいじゃないか」

そう言いつつシャーロックは路地裏でトランクを開けると、トモリはその中に入ってゆく。トランクの中にはヴィルが待機しており、購入した荷物を預かってくれるのだ。

 

「……戻りました」

そして預けるとすぐにトモリは梯子を登って戻ってくる。そうすれば、次であり最後の買い物へと迎えるのだ。

「さ、行こう。……今日のメインイベント、『オリバンダーの店』へ」

シャーロックは、ニヤリと笑った。

 

 『オリバンダーの店』、というのはダイアゴン横丁でも特に有名な店のひとつだ。その店で売られているのは、魔法使いにとっての相棒である杖。オリバンダーの名前を継いできた職人一族が造る杖は品質が良く、シャーロックもまたこの店で杖を買った過去がある。

「……ここが『オリバンダーの店』。なかなかほこりっぽいですね」

トモリが外装を見て眉を顰め、シャーロックは苦笑する。

「あの店主は杖にしか興味がないのか、というレベルの杖マニアだからね」

「はぁ……、私は体調崩しやすいんですから。こういうところはできるだけ避けたいんですがね」

「いいじゃないか、偶には。君の将来を考えれば必要なことだからな」

「はぁ……。まぁ良いです。杖は私も欲しいですからね」

そう言って、トモリはドアを開ける。古臭い店内の奥にある棚には杖が入った箱が、信じられない数積み重なって置かれていた。そしてカウンターには、1人の老人が座っている。

「ほうほう、これはまた随分と珍しいお客さんじゃ」

「やぁ、オリバンダー。今日は相棒の杖を見に来たんだがね」

「そうかいそうかい。……この店に来ると思い出される。お前さんが買って行った杖も、きちんと覚えておるよ。あれは確か、ユニコーンの鬣に胡桃、頑固だったね?あれは特に華美な装飾の杖で、印象深かった」

「……合っているとも。流石だよ」

「そうじゃった。知恵を表す胡桃の杖を持った魔法使いが、名探偵と呼ばれるようになった時には運命を感じたものだった」

「ああ、いつも助かっている。……だが、今の主役はボクじゃない。やってくれ」

シャーロックに促されて頷いたオリバンダーは、トモリに顔を向ける。

「お嬢さん、杖腕はどちらかな?」

「右です」

「……よぉし、少しお待ちくだされ」

そう言って奥へと行ったオリバンダーは、すぐに山からひとつの箱を持って戻ってくる。

「それは?」

「これはドラゴンの心臓の琴線に鬼胡桃、20cm。攻撃魔法に優れる。……さあ、振ってみなされ。杖選びは魔法使いが杖を選ぶのではなく、杖が魔法使いを選ぶのじゃ。そうやって振り続けて、お客さんを選んだ杖を買っていただくのじゃよ」

そう言われてトモリは杖を手に持ち振ると、山の一角が崩れ落ちた。それを見たオリバンダーは有無を言わさずその杖をひったくると、他の杖を探しに戻る。

「杖が決まるまでこれが続く、覚悟しておきたまえよ」

「分かりました……」

何が何だか、といった様子のトモリにシャーロックは笑った。

「次はこれじゃ。ユニコーンの鬣にオリーブ、23cm。よくしなる。……これはどうかな?」

「…………」

トモリが無言で振ると、今度はカウンターに置いてあったランプが爆発する。

「《レパロ》」

それを見たシャーロックが、ランプそっち除けで杖を探すオリバンダーに代わり破壊されたランプを修復した。

「次はこれ。不死鳥の尾羽に黒檀、18cm。とても頑固」

「えいっ」

トモリが振ると、今度は飛び出した球体が棚に着弾、爆発を起こす。

「おおっ、レイブンクローみたいな魔術だね」

「爆発イコールレイブンクローって何ですか?とはいえ心外です」

シャーロックの褒め言葉(?)にトモリは心の底から嫌そうに表情を歪める。それから幾つか試したが、それはどれも合わずにどこかしらを爆発させる。それに驚いている様子のトモリだが、オリバンダーはピン、ときた様子で何処かへ向かうとひとつの箱を持ち出した。

「……もしや、これかもしれません。先代が作った最高傑作なのですが、これまでに選ばれる人が現れなかったものです。……不死鳥の尾羽に杉、30cm」

それは、美しかった。杉の木は花粉から忌み嫌われる部分もあるがその杖は、見るだけで目を奪われてしまうような美しい杖であった。

「装飾もあまり付けられていない。……だが、かなり良い樹木を使っている」

「ええ、そうですとも。これは先代が日本は屋久島にて採取してきた、樹齢2千年にもなる屋久杉の木から日本魔法省の特別な許可を得て採取したもの。そして芯材となった不死鳥は、日本は出雲の山奥にて出会った不死鳥に授けられた、たった1枚の尾羽と聞いています」

「成程、最高傑作の名に恥じぬ素材と完成度って訳か。さあトモリ、持ってみてくれ」

「…………はい」

トモリは恐る恐る、箱の中にある杖を手に取った。

(違う)

その瞬間感じ取ったのは、それまでとは全く違う感覚だ。まるで初めからそこにあったかのように、面白いくらいに手に馴染む。

「そっか、貴方が……」

トモリは理解した。杖が魔法使いを選ぶとはどういうことかを。軽く振ればそれだけで、荒らされた店中が整理整頓され、埃が一掃され明らかに空気が変わった。

 

「なんとッッ……!よもや儂の生きている間に、この杖が選ばれるとは!!」

オリバンダーは興奮して叫び、トモリはあまりの効果に頰を紅潮させる。それを見ていたシャーロックは、訳知り顔で頷く。

(杉……。その意味は、『君のために生きる』。そうか、君は……)

失った故郷に別れを告げて、イギリスで生きることになった少女の決意と人形として生まれながらも、人間として生きようと足掻くトモリの生き方に、杖は確かに応えたのである。

 

「やりましたッ……!シャーロックさん、やっと杖が見つかりました!」

興奮気味にそう言って笑うトモリに、シャーロックは穏やかに笑った。




桜にするか杉にするかで迷いに迷った。
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