レイブンクロー探偵と魔法事件簿   作:黒雲涼夜

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グリンゴッツ強盗未遂事件

 トモリは、殺風景な部屋で1人考え込んでいた。結局、シャーロックから渡された誕生日プレゼントは検知不可能拡大呪文が掛けられたトランク、中には生活できる設備はあっても家具類は何もないし、空間の広さだって博物館を作れるシャーロックのトランクに比べれば小さいけれど、嬉しいプレゼントであった。

「ううむ、何を置こう……」

トモリが頭を悩ませるのは、部屋の内装とその外である。トランクの中身には横にだだっ広い2階建の屋敷と庭になるであろう何もない空間があり、空間自体は金があれば拡張できる。しかし、内装に関してシャーロックがお金を出してくれるのは生活必需品や学習に必要なものくらいだ。つまり、趣味に走るには自分で金を出さなければならない。無論、そのことにトモリとしても異論はないのであるが、一室を畳に変えたり庭を和風庭園に整備したり、故郷の情緒を再現するには輸入の手間がいる為相当に金がかかる。よって、トモリはイギリスで購入できる家具(シャーロックの趣味で割と良い値段した)で生活に必要な最低限を揃え、今は改造の為に構想を練っていた。時は8月、もうすぐホグワーツの入学式だ。

「……ん?」

と、構想を練っている時に通信用の鏡に連絡が飛んできた。それは、鏡と鏡を魔法で繋いだ、顔が見える電話のようなものである。相手は、シャーロックだ。

「はい」

『すまないトモリ、すぐ上に来てくれ。緊急事態だ』

妙に焦った様子のシャーロックに、トモリは慌てて駆け出した。緊急事態、となればシャーロックの予測していた何かが動き出した可能性も高い。トモリは、家の中にある階段を登りトランクを出る。

「すみません!遅くなりました!!」

そう小走りでシャーロックの部屋に入ると、部屋のソファには、一方的に知っているが依頼は初めてである男性、しかも小鬼の姿がある。彼は、グリンゴッツ全体の社長であった。

「……問題ない、事件は既に起こった後だからね」

「どういう、ことですか?」

深刻な表情のシャーロックに、トモリは言葉を詰まらせる。

「それが……お恥ずかしい話、グリンゴッツに賊が入ったのです」

「…………はい?」

額の汗をハンカチで拭いながら話す社長にトモリは、呆気に取られた表情で聞き返した。グリンゴッツのセキュリティは、鉄壁という言葉が似合う程に厳重だ。変装を洗い流す滝やドラゴン、大量のゴーレムなどの様々な侵入者対策が為されているからだ。

「幸いにも侵入された金庫には何も無かったのですが、侵入された挙句隙を産むためかゴーレムの幾つかが操られたのです。闇祓いを中心に、ダンブルドアにまでお越し頂いて対処を進めているのですが、中々戦力が足りずこちらへお伺いした次第なのです」

「……成程、手こずってるんですね」

ゴーレムは土や泥といった素材を主として作られる人形兵器だが、グリンゴッツにはイギリス中の錬金術師に依頼して金と素材を惜しまずに作られた強力かつ多数のゴーレムが配備されている。中には、レイブンクロー家特製の『爆ぜるゴーレム』(何故爆発?とトモリは首を傾げた)や『合体戦士ゴーレムオー』(合体は浪漫だと力説された)といったゴーレムも居るため、敵に回せば強力な魔法使いが束になっても苦労するのである。

「ああ、しかも被害は相当でかい。討伐にマッドアイやダンブルドアまで出張っていながらボクらに話が来た。即ち、それだけ戦力が足りないということだ」

「……操られたゴーレムで、最強の個体を教えてください。私の3分で、それを確実に仕留めますから」

トモリは、役割を理解した。全力で戦えるたったの3分を、使うべき相手がいることを。

「はい。ニコラス・フラメル氏作成のアトラスシリーズ、そのプラチナ個体です」

ニコラス・フラメルが製造したゴーレムはアトラスという名前で、個体の強さ順でプラチナ、金、銀、銅、ブロンズとなっているのだが、数百いるアトラスの中でもたった1体のみ存在する、『アトラスゴーレム:モデルプラチナ』が操られたというのである。その事実にトモリとシャーロックは、嫌そうに眉を顰めた。

「へぇ、確かヴォルデモートがかつて使っていた金庫を封鎖する為に配置されていたんじゃないのか?」

「それが……例のあの人の魔力に反応して動くそれが、何故か動きまして。しかもそれが、原因不明で操られてしまいまして」

「何故か?とんだ無能か君は?そのアトラスとやらが動いたのも、操られたのも、ヴォルデモートが居るからだろう。自分の金庫を封鎖する番人なら、部下でも使って調べれば良いんだ。奴の配下に、錬金術師の類が居ても可笑しくないからな」

「シャーロックさん、別に喧嘩売らなくていいんですよ。……とはいえ、現実逃避なんて聞いていても時間の無駄です。早速向かいましょうか」

「君も十分喧嘩売ってるよ」

「貴方には負けますがね」

目線を合わせてニヤリと笑うと、2人は同時に立ち上がった。

 

「《エクスパルソ》、《エクスペリアームズ》!」

シャーロックが両手に持った2本の杖から魔法を放ち、1本は岩石を人型になるまで積み重ねたような形をしているゴーレムの関節を爆破によって破壊し、もう1本で放った武装解除で吹き飛ばす。日降村以降のシャーロックの戦闘スタイルは、杖による二刀流だ。因みに杖は、かつて捕らえた死喰い人から失敬したものである。側では杖を軽々と振り回し、業火を撒き散らしてゴーレム達を薙ぎ払うアルバス・ダンブルドアや派手さこそないものの、1体1体を確実に粉砕しているマッドアイ=ムーディなどがいる。周囲には魔法省の役人が展開し、ゴーレム相手に一進一退の戦いを繰り広げている。

「《プロテゴ・マキシマ》」

シャーロックがバリアを貼ると、ゴーレムから放たれたレーザービームがそれへとぶつかり爆発を起こす。爆風に煽られたコートがはためくが、シャーロックには数ひとつない。

「むぅん!」

ダンブルドアが杖を振えば、シャーロックを襲ったゴーレムは吹き飛ばされて壁に叩きつけられ機能を停止する。

「……おい、君はやっぱりプラチナ倒せたんじゃないのか?」

「うむ、一応は可能じゃ。……じゃが、魔法省が人を出し渋っておってな。儂とアラスターが加勢に出ねば持たなかったのじゃ」

「つまりは、君たちが抜けると戦線が崩壊するってことか。……業腹だが、納得するしかないな」

心の底から嫌そうな表情を浮かべながらも納得したシャーロックは、手に紙で覆われた筒のような物を持つ。

「おいテメェ!こんな所で派手にやるつもりか!?」

マッドアイが獰猛に笑った。それに対してシャーロックは笑顔で頷くとその筒を投げ飛ばす。それはただの投げ物で、ゴーレムの頭に軽くぶつかり軽い音を立てる。

「さあ、行け!《インセンディオ》!!」

《インセンディオ》は、火を放つ魔法だ。杖から放出された炎が空を駆け抜けて筒に当たる。その瞬間にダンブルドアとマッドアイは《プロテゴ・マキシマ》によるバリアを貼って身を守り、凄まじい火力の大爆発が、ゴーレム達へと襲いかかった。

 

 凄まじい爆発音を聞きながら爆風を体全体で感じるということは、トモリにとってあまり風情があるとは言い難い状況だ。それも、目の前には巨大なゴーレムが居て、更に場所は巨大な銀行の穴倉の中だ。立ちはだかるゴーレムは、ゴーレムと呼ぶには変わった形をしている。通常ならば岩を幾つもくっつけて人型にしたようなものだったり、中身のない騎士鎧だったりするのが通常だ。だが、目の前に立つゴーレムは違う。それは、3メートルくらいはあるものの完全なる人型だった。髭の生えた、それこそラオコーン像のような中年男性の姿で、外見は石膏像のようになっている。因みに、色はプラチナ。無駄にギラギラしていて目に悪い。研究者という生き物はどいつもこいつも馬鹿では無かろうかとトモリは思った。

「……なるほど、『アトラス・プラチナ』。私の同類か」

トモリは呟くが、無理もない。トモリのようなホムンクルスは、人格や能力、生命維持機能を保持した核があって、肉体はその命令によって動いている。このゴーレムもまた同じように核を中心に形成された人型兵器という訳だ。

「哀れだね。人間擬きにすらなれず、ジメジメした世界に置いて行かれて、仕舞いにはこうして操られてしまうなんて。……いや、貴方に意思がない以上は無意味だけど」

トモリの言葉に、アトラスは何も返せない。ホムンクルスであるトモリと違い、アトラスはゴーレム。人格など初めから備わっていないのだから。

「せめて、私の手で終わらせる。……第二段階、限定解除」

トモリは呟き魔力を全開、全力での戦闘に備えて身体を強化する。タイムリミットは3分、それまでに目の前のゴーレムを破壊しなければ、こちらの負けだ。そしてアトラスが、魔力に反応すると目を輝かせ、凄まじい速度で腕を振り下ろす。

「ふっ……!だぁ!!」

それを宙返りをしながら後方に退がって躱すと地面を蹴って飛び上がり、顔面を勢いよく蹴り飛ばす。壁に突っ込んだアトラスは拳を引き絞り振るうが、それをトモリは真正面から迎え撃つ。ゴーレムの拳とホムンクルスの拳が激突して衝撃波を放ち、互いの攻撃は相殺される。

(っっ……!凄い怪力っ、腕が痺れる…………!!)

重い拳を真っ向から迎え撃ったことで、トモリは自身の拳に痺れを感じて顔を顰める。そしてアトラスによる追撃の回し蹴りを腕を交差し受け止めるが、大きく吹き飛ばされる。

「っっでも!!」

しかしトモリは壁を蹴って飛び上がると、足裏での飛び蹴りがアトラスの腹に減り込み、その巨体を再び壁に叩きつける。

「だだだだだっ!!!!」

そして着地した瞬間にはアトラスへと突進、壁に半ば埋まったアトラスの胸目掛け、拳の乱打を叩き込む。しかしアトラスもただやられている訳ではない。両の拳を頭上で握ると、ダブルスレッジハンマー。

「がぁっ!」

近接で乱打を浴びせていたトモリは逃げられず、頭上からの攻撃に呻き声をあげる。そして追撃、重い蹴りを胴体に受けたトモリは頭から壁に叩きつけられ、壁が轟音と共に崩れ落ちた。トモリは当然、瓦礫に呑まれて姿が消える。

「……っあ"ああああああッッ!!!!」

しかしトモリはすぐに瓦礫を跳ね除けて立ち上がる。砂埃が舞い、トモリの全身を汚す。

「強いね……はぁ、はぁ……。でも、倒し方は知ってる」

トモリは息も絶え絶えに呟くと、一瞬で加速した。アトラスが薙ぎ払うように両腕を唸らせるが、その下を転がることで突破する。そしてそのまま体を半回転させる。

(アトラス・プラチナの核は人間でいうと心臓部……。これまでの攻撃で削ったから、あと1発大きいのを入れれば私の勝ち)

そう考えるトモリの脳裏に、シャーロックの言葉が思い浮かんだ。

『良いかい?武器であれ徒手空拳であれ、形のある戦術で戦うならば必要になってくるのは、決まった型……つまり必殺技の存在だ。どのようにエネルギーを運用し、どのように体を動かし、どのように勝つのか。それを込めて、ひとつの必殺技に昇華する。それはきっと君にとって重要なことだ』

トモリには分かる。7割以上はシャーロックの趣味だ。『必殺技は男のロマン』などと宣っていたが、理に適っているのも事実。だからトモリは、シャーロックに本を借りて調べ、型を決めて練習し、まだ開発は進んでいないが幾つかを必殺技とした。

 トモリの体が勢いよく半回転し、まるで万物を貫く槍のような鋭い後ろ回し蹴りが、拳の乱打で削られた胸に触れると、成分を破壊しながら減り込んだ。その一撃に全てを掛けて、魔力を足に集めて強化し、大きなゴーレムのその一等硬いその胸を、蹴り砕いた。

「天沼矛!!!!!!」

その叫びと同時に、アトラスはその胸に風穴を開けた。衝撃波が風穴の背後まで流れて壁面を叩き、核を蹴り砕かれて失ったアトラスは前のめりに倒れた。

 

「…………ゴーレムは人格が搭載されてないから、私と違って核は唯一無二じゃない。倒しておいてなんだけど、直してもらいなよ。もう一度」

トモリの放った呟きを聞く者は、誰も居なかった。

 

 シャーロックは、自宅で頭を悩ませていた。薄暗い部屋にはシャーロックの他に誰も居らず、ランプの明かりが不自然にシャーロックの顔を照らしていた。あれからの調査(多少強引な聞き込み)の結果、盗みに入ったその金庫には、先日とある2人組が訪れ中身を回収していたという話を聞いた。だからこそ、シャーロックの頭の中はそのことで一杯ひなっている。

(グリンゴッツへの銀行強盗、アトラス・プラチナを操れるだけの魔法の腕。……そして、その前日に金庫を訪れたのはルビウス・ハグリッドにハリー・ポッター)

間違いなく、ヴォルデモートが動き出したと言える。ルーマニアに居たのは知っていたが、その詳しい行動までは把握しきれていなかったのである。

(奴は必ず、何らかの手段でホグワーツに現れる。そうなれば相棒はきっと戦う。……例え死ぬことになろうとも)

今は遠い寝室で眠っているトモリの居る方向に視線を向けた。

(ヴォルデモートが態々狙うものは一体何か、そしてハグリッドが持ち出したソレはなんなのか)

考える内にシャーロックの心は高揚し続ける。

「……そちらがその気ならいいだろう。此度の事件も髪飾りは必要ない。……これは、ボクが解き明かす事件だ 」

誰も居ない部屋の一室でシャーロックは、静かに笑みを浮かべた。

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