レイブンクロー探偵と魔法事件簿   作:黒雲涼夜

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組み分けの儀式

 ホグワーツ城内に入ると、そこには1人の魔女が立っていた。かなり年を重ねているだろうに、その背中は糸でも張っているかのように伸びている。

「マクゴナガル先生、イッチ年生をお連れしました!!」

「ご苦労、ハグリッド。ここからは私が受け持ちます」

魔女は、威厳のある声でそう言った。

「……あの人は?」

「いや、多分これから言われる」

アリスに耳元で尋ねられ、トモリはそう言って魔女を顎で示す。魔女はトモリにチラリと視線を向けると、口を開いた。

「みなさん、ようこそホグワーツ魔法魔術学校へ。私は副校長のミネルヴァ・マクゴナガル。貴方達の入学を心より歓迎します。これから貴方達には入学式に望んでもらいますが、その際に組み分けの儀式を行って頂きます。ホグワーツに存在する寮は4寮あり、それぞれグリフィンドール、スリザリン、レイブンクロー、ハッフルパフ。そのどれもが、輝かしい歴史を持つ寮であり、偉大な魔法使いや魔女が多く卒業していきました。……みなさんはこれからそれらの寮のいずれかに属して生活をして貰います。みなさんが良い行いをすれば寮に点数が入れられ、規則を破ればをすれば点は引かれます。そして学年末には、その年最も獲得点数の高い寮には、大変名誉ある寮杯が与えられます。なので、どの寮に入ることになっても、皆さん一人一人が寮にとって、またホグワーツにとって誇りとなるように望みます。……準備を整えて来ますから、身なりを整えて待っていなさい」

そう言って、マクゴナガルは一足先に入ってゆく。すると、儀式についての話題で新入生はざわめき出した。

 

「儀式って何?」

「分からない。でも、トロールと戦わされるってフレッドやジョージが言ってた」

癖っ毛に丸眼鏡の少年……恐らくあれがハリー・ポッターの疑問に、赤毛の少年が答える。

(あれは多分ウィーズリー。面倒だな。チャーリーやビルなら兎も角、アーサーとシャーロックさんは仲が悪い)

魔法界で赤毛といえばウィーズリー家であるが、だとしたら面倒だ。生粋のダンブルドア派であるウィーズリー夫妻はスリザリンへの偏見が凄いのだ。その影響をハリー・ポッターが受けすぎると、反スリザリンの旗印にされることをトモリは危惧していた。因みにトモリは内容を聞かされていないが、組み分けの内容については知っていた。アリスや合流したレオナルドや聞かされていなかったらしいアルバーンの前では知らない振りをしたのだが。

 戻ってきたマクゴナガルの案内で奥の扉を抜けると、そこはかなりの大きさをした大広間だった。四つの巨大な長テーブルが並び、一番奥の壇上には同じく長テーブルが横に一つ置かれている。四つのテーブルには多くの生徒が座り、壇上のテーブルには教師陣が座っている。

 新入生たちは大広間の真ん中を通り、壇上前へと進んでいく。途中上を見上げると、本来なら天井があるそこには、満天の星空に無数の蝋燭が浮かぶ、幻想的な風景であった。魔法で本物の空が見えるようにしているのだと言うので、魔法というのは実に万能なものらしい。

 壇上前に全員が並び、四つのテーブルに座る上級生たちに向かって立たされる。マクゴナガル先生が足長椅子に古ぼけた帽子を手に持ち、全員に見えるようにして置いた。

しばらくは静かな時間が流れたが、突然、長椅子に置かれた帽子の皺が深くなり、そこから歌が聞こえてきた。

 

歌の内容をまとめるなら、それぞれの寮の特色を現したものだった。

グリフィンドールは、勇気と騎士道精神を持った者が集まる寮。

レイブンクローは、知識を追求する者が集まる寮。

ハッフルパフは、忍耐強く誠実な者が集まる寮。

スリザリンは、目的の為なら手段を選ばない者が集まる寮。

 

「アボット・ハンナ!!」

組み分けが、始まった。まず呼ばれたのは、金髪の少女。

「……ハッフルパフ!」

帽子が叫び、少女は興奮しているのか頬を紅潮させながらハッフルパフのテーブルへと進む。それから、数人の子供達が帽子を被っては組み分けが為されてゆく中、遂にその名前が呼ばれた。

 

「フラメル・トモリ!!」

空気が変わった。トモリ・フラメルといえば11歳にも関わらず名探偵シャーロック・レイブンクローの相棒として活躍している少女。生き残った男の子の次くらいには、注目度が高かった。

「あ、行ってらっしゃい」

「何処に行っても友達だからな」

「リラックスだよ」

「……はい」

アリス、レオナルド、アルバーンの声を背に歩き出し、長椅子に座ると、その頭に帽子が被せられた。

 

「ふぅむ……。正義を助け悪を挫く、そんな正義感がある。しかし一方であの男のように、学問への果てなき探究心がある訳ではないし野心はない。しかし義理や人情を重んじ、忠誠心に溢れておる。……グリフィンドールか、ハッフルパフが良いかもしれんの……」

「好きにしてください。私は、私の仕事をするだけです」

帽子の言葉にトモリは静かに返す。

「ほう、どちらでも良いのかね……?グリフィンドールに入れば君はもっと偉大になれる、しかしハッフルパフに入れば君は自分に無かった物を見つけられるだろう」

「ハッフルパフで」

帽子の分析を聞くや否や、トモリは即答した。

「ほう、偉大にならずとも良いと?」

「……結構です。私が偉大になるのは、あの人の隣でと決めていますから。私が私として成長するため、よりあの人の隣で戦う為に、私は私に欠けた何かを探したい。……この命は、作り物の魂は、もう既にあの人に捧げた後なのだから」

トモリの言葉は、帽子から見ても紛れもない本心だった。盲信でもなく、ただ本気で人に忠誠を誓っているのだ。

「よろしい……ならば、ハッフルパフ!!!!」

帽子が叫んだ。それと同時にトモリを取ったハッフルパフの席が爆発したように騒ぎ出した。トモリは静かに立ち上がると、帽子を脱いで歩き出し、ハッフルパフの座席の端、他の1年生が居ない場所に1人で座る。因みにきちんと人を寄せ付けない雰囲気作りもバッチリだ。揉みくちゃにされる趣味はない。あまり騒がれるのも、鬱陶しいだけなのである。

「や、ようこそハッフルパフ寮へ」

しかしそんなトモリの目の前に、上級生らしき青年が座る。

「……お気遣いありがとうございます、セドリック・ディゴリーさん」

「僕のこと知っているのかい?」

「貴方のお父様と知り合いなので。……というか、他の女子生徒からの視線が鬱陶しいので少し離れてくれませんか?無駄な火種を生まないでくださいね、とても迷惑です」

目を丸くするセドリックに、トモリは素っ気なく返す。セドリックがトモリを気に掛けたことで一部女子生徒の雰囲気が悪くなっている。気にしないのは好きにすれば良いが、結果的にそれで他人を巻き込めば知らなかったで済む話ではないのである。

「あ、ああ……。済まない」

セドリックは周囲を見渡して慌てて取り繕っている女子生徒達に苦い表情を浮かべると、男子生徒の集団に混ざりに行った。どうやら、彼本人としてもあまり良い思いはしていないらしい。

(不憫な……。ま、少し裏では気を遣ってあげるか)

男同士ではしゃいでいるセドリックは打って変わって明るい。心を許せる友達が居るようで安心である。

 

それから、トモリは再び組み分けに意識を戻す。何人かの生徒がハッフルパフにやってくるのを見送るが、あの3人はまだだ。ラトマイアはL、シードはS、ジョースターはJ。

「ジョースター・レオナルド!!」

まずは、レオナルドが呼ばれた。レオナルドは早足で長椅子に向かうと、落ち着きのない様子で座り頭に帽子を乗せた。

「グリフィンドール!!!!」

帽子は即決だった。すぐにグリフィンドールに組み分けられ、レオナルドは嬉しそうにグリフィンドールの席へと向かってゆく。

 

「ラトマイア・アルバーン!!」

そしてアルバーンが呼ばれ、アルバーンは堂々と長椅子に向かって歩き帽子を被る。

「スリザリン!!!!」

瞬殺だ。流石は純血名家、一切溜めのないスリザリンだ。アルバーンも、当然であるかのように平然としている。

 

そこから更に組み分けが進み、その名が呼ばれた。

「ポッター・ハリー!!」

瞬間、ざわめきが一気に静まる。魔法界の英雄の組み分けに、トモリすらも注目していた。ハリー・ポッターは緊張した様子で帽子を被り……そこから暫く、動かなかった。複数の寮への適正で帽子が決めかねる、組み分け困難者というやつだった。

(英雄サマが組み分け困難者……出来すぎた展開だね。主人公だって言ってるようなものでしょ)

ハリーは帽子に向かって何かを話しているが、それは気にするほどのことではないだろうとトモリは考える。

 

「グリフィンドール!!!!」

グリフィンドールの机を中心に、スリザリン以外の生徒の興奮が爆発した。

「成程……グリフィンドール」

トモリは、静かに呟く。

「どうしたの?成程……って」

そう尋ねられて視線を向けると、いつの間にか1年生達が自分の近くに寄ってきていた。

「ん?ああ、そうですね。グリンゴッツの強盗未遂もありましたし、ウチの名探偵は今年のホグワーツでは何か起きるんじゃないかって推測してます」

「へぇ、何があるっていうんだ?」

「言えませんよ、捜査の話は迂闊に情報漏洩したらダメですから。(……ヴォルデモートがイギリスに戻ってきた可能性がある、なんて言えるわけないし)」

組み分けでスーザン・ボーンズと呼ばれていた少年に尋ねられてトモリは首を横に振る。

 

「シード・アリス!!」

そんな中アリスが帽子に呼ばれて緊張の面持ちで長椅子に座ると帽子を乗せられた。

「……レイブンクロー!!!!」

(成程、まぁ好奇心はありそうだったね)

帽子は、少し考える素振りを見せた後に叫んだ。

 

「あのアリスって子と仲良いの?」

ハンナ・アボットに尋ねられてトモリは脳内で少し考える素振りを見せた後に頷く。

「ええ。汽車で同じコンパートメントに乗り合わせまして」

「へぇ、汽車では何してたの?」

「アリス含む3人の新入生と話してましたよ。今の所、私がハッフルパフでアリスがレイブンクロー、別の男の子がスリザリン、なので後1人がどうなるかですね(予想は付くけど)」

そう言えば、マグル生まれらしき1年生達は気の毒そうな表情を浮かべ、魔法族の生まれはスリザリンという言葉に表情を歪める。

(だろうね)

スリザリン以外の寮からは、基本的にスリザリンは嫌われている。それは素行が悪いのもあるし、とある教員による横暴が原因でもあるし、単純に偏見でもある。トモリは、小さくため息を吐いて組み分けに戻った。緊張した様子の子供達が次々と組み分けをされてゆく。因みに、汽車で出会ったハーマイオニーとネビルは、どちらもグリフィンドールに入っている。ハーマイオニーは兎も角、ネビルがグリフィンドールに選ばれた時はトモリも驚きを隠せず二度見してしまった。

 組み分けが終わると、ダンブルドアによるどうでも良い言葉があり、直ぐに宴が始まる。しもべ妖精が作っているらしいホグワーツの料理は、トモリのホムンクルス舌的には実に美味しかったと評価できるものである。トモリの味覚は、食にうるさい日本人のものであるため、そこからホグワーツの食事のレベルの高さは推して図ることができるだろう。

 そして会の終わりにダンブルドアが新学期の注意事項を述べて、会は終了。トモリは有名人である自分に群がってくる人達の対応をしながらも、とあることを考えていた。それは、ダンブルドアの注意事項の中にあったとある言葉だ。

「4階右側の廊下……ですか」

そこは、入ってはいけないと言う場所。事件の謎を解く手掛かりが何かある、例えトモリの勘が働いていなくとも、あまりにあからさまであった。そして、話した瞬間にダンブルドアは、確かにトモリに視線を送っていた。絶対に厄ネタである。そのことを思い、トモリは苦々しい表情で胃薬を飲み込むのであった。

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