藤山八重子が殺された。その事実を、シャーロックは淡々と受け止める。シャーロックはヴォルデモートとの戦いも経験しており、戦友の死は何度も見ていた。それに、探偵として殺人事件には何度も関わり、死体はよく見ているからである。
「現場を保存します、野次馬を遠ざけて!! 」
遺体に唾が飛ばないように顔を野次馬の方に向けると叫んだ。役場の人間と思わしき男達が動き、村人達を下がらせる。それを確認し、振り向いて遺体に杖を向けると、無言で大きなビニールシートを生成し遺体を隠すように覆う。検分したい所だが、野次馬の前で調べるのは死者に対してあまりに酷な話であるからだ。
「村長に報告、今すぐ警察か魔法省の役人を呼べ!! 」
「……外の人は来ません 」
シャーロックが怒鳴ると、静かな声が耳を突く。振り向くと、そこにはともりが立っている。
「警察が来ない……? この村は外界と繋がっている筈だろう 」
「はい。ですがそれは最小限、この儀式は魔法省の黙認の元で行われています 」
「日本の闇祓いは……ダメか 」
「無理です 」
ともりの残酷な返答に、シャーロックは不機嫌そうに舌打ちをした。
「全く、治安維持はどうなっているんだこの村は……。まあ良い、この際ボクが捜査するだけだ 」
「手伝いますよ 」
ともりの提案に、シャーロックは苦々しい表情で考え込むと、絞り出すように呟いた。
「…………分かった、なら頼みたいことがある 」
◇
到着した村長は共に来た鬼彦と共にシャーロックの被せたシートを剥ぎ取り死体を少しの間検分する。それをシャーロックは、こっそりと覗き見る。
最初に持った違和感は、死体の綺麗さだった。全裸、という特異な格好で殺されて居た八重子だが、そういうことをされたのならば体液などの証拠が残る筈であるし、ただ殺されたにしても包丁が刺さっている部分以外に外傷は見えない。それこそ、抵抗した様子すらも見えないのだ。そして、包丁に布が付着した様子もないため、服を脱がせたのは少なくとも殺した後で、脱がせた後で腹に包丁を刺し、放置したと考えられる。そして、八重子を殺した方法だが、十中八九が魔法だ。それも、全くの外傷も抵抗もなく相手を殺した魔法となれば、それは《アバダ・ケタブラ》。つまり死の呪文以外に考えられない。続いて血溜まり。腹部には飛び散っており、脇の地面に流れ出ているのも確認できる。これは、倒れて居た場所に寝た状態で刺された、ということ。これは先述した説を補強できると言えるだろう。
そして、問題はこの村が比較的外界と離れていることだ。村自体が宮崎の山奥、警察も来ない秘境の村だ。そして儀式。つまり、この村で起きた殺人は、確実に村人の誰かが関わっている。
「村長、この事件は私に任せてください。私にはその権限があります」
「断る 」
シャーロックからの捜査の申し出に対し、冷たく言い放った。
「何故です? この村に警察は来ない、と、ともりは言いました。つまり事件が起きた際の対抗手段が無いということだ。この国の魔法省令は全て暗記したが、司法は正常に機能している筈なのです。つまり、貴方がたの行っていることは法律に基づいた行動ではなく、それを見過ごす私でもありません。私は本国を中心に実績を挙げ、魔法省を持つすべての国と地域に於ける捜査権があります。その権限を持って、捜査協力を要請します 」
「捜査はならんと言っている。なぜならば貴様は余所者で、若造だ。任せる訳にはいかん。同じ捜査権ならば、せめてマッド=アイを連れて来い 」
「どうせ嘘なのでしょう? ご所望のマッド=アイはヴォルデモート配下の残党狩りの真っ最中ですよ。……来たところで、貴方は許可を出すと思えない。どの道貴方は私に捜査して欲しくらしい 」
シャーロックが鋭い視線を村長に向けると、村長と負けじと睨み返す。
「当然だろう? 誰が村の儀式を妨害しようとする部外者を何故助けねばならん。あの子を付けてやったのが、最大の譲歩だ 」
村長の態度は頑なで、どうにも捜査へ移れそうもない。
「ですが…… 」
「クドイゾ 」
村長の後ろに立っていた、鬼彦がシャーロックの言葉を遮った。その手に握られた杖が、脅すようにシャーロックに向けられる。
「コレイジョウクチヲダスナ、ヨソモノ 」
「鬼彦、大丈夫だ 」
村長が手で制すると、鬼彦は小さく頭を下げて引き下がる。
「脅しのつもりですか? 」
「脅しはしない、今の所はな 」
シャーロックと村長の視線がぶつかり、火花が散ったようにも見える。
「……ならば、記録だけでもさせて下さい 」
シャーロックの譲歩に、村長は少し悩む素振りを見せると頷いた。
「考えておこう。……詳細は、ともりに伝える。遺体は一度こちらで回収させてもらうぞ 」
村長は、自身の配下が担架にシートに包まれた八重子の死体を乗せて運んでいく様を見送ると、自身もそれに付き従うように歩き始める。
「村長……! ひとつだけ確認したい!! 貴方は、この事件の真相を知っているのか!!!! 」
シャーロックの問いに、村長はただシャーロックを睨みつけた。
「だから、何だ? 」
誰もいなくなった森には、ただザワザワとした森の音が聞こえていた。
◇
2日目、朝からシャーロックは部屋で本をめくっていた。村長との交渉も失敗して捜査もできず、時間も遅かったため仕方がないと大人しく帰ったシャーロックだが、本の解読に取り掛かっていた。そこへ、来客が訪れる。扉を開ければ、待ち人がそこに立っていた。
「悪いね、ともり君。朝から 」
「いえ、昨日の行動開始とあまり変わらない時間ですので 」
普段の高級な布から作られた和服とは違う、洋服に身を包んだともりが箱を持って立っていた。
「……それで、遺体は? 」
シャーロックに尋ねられ、ともりは気まずげな表情を浮かべる。
「それが、村長曰く村の人間が検視した後に捜査を許可する、と。現場も同様です 」
シャーロックはその答えを予想していたのか、ため息こそ吐いたが文句は言わない。しかし、続くともりの言葉に顔色を変えた。
「本来なら証言も駄目でしたが、説得したら何とか理解頂けました。これがその証拠の手紙です。村長に掛け合って、紙に起こさせましたので後から言い逃れはできません 」
「全く君というやつは……! 最高だ!! 」
「どうも 」
証拠を用意してくれたともりの行動に喜び手紙を見れば、そこには村長の印付きで捜査許可に関する内容が書かれていた。どうやら、現場に行くことは許されて居ないが、聞き込みなどは可能なようである。紙という媒体がある以上、村の人間にとやかく言われないのは、大変助かるのである。
「それで、頼んでいたものは? 」
「あります 」
ともりが出したのは、包丁だ。それも、八重子を殺害したものと同じ。それから、こっそりと剥ぎ取らせた八重子の皮膚片。それが、小さなガラス瓶に収められていた。
「悪いね、結局遺体に触らせてしまった。……しかし上出来だ。まず、ここに入ろう 」
そう言ったシャーロックが掲げたのはトランク。
「いえ、問題ありません。シートから出た指先から少し頂いただけですし。しかしトランク……? 何を 」
「検知不可能拡大呪文、というのは知らないかい? 」
「噂話程度には。詳しくは何も 」
首を横に振ったともりに、シャーロックは意外そうな表情をする。
「要は、トランクの中に無限の空間を作り出す魔法だ。ボクの場合、自室と研究室が入っていてね。その中で色々とやりたいことがあるんだ。来てくれるかい? 」
◇
「……凄い 」
辺りを見渡しながら呟くともりに、シャーロックは小さく笑みを浮かべた。トランクを開き、中に入るとそこには巨大な書架があり、ぎっしりと書物や論文が敷き詰められている書斎が見える。
「ここは書斎、基本的な事務作業をする場所だ。出入りをよくする場所だから、ここに出入り口がある。書斎から続く、右と左と正面の4つの道の先には、それぞれ空間があってね。左右はリビングや寝室などの生活空間があって、ボクらに用があるのは正面の道だ。その先に、もっと凄いものがある 」
シャーロックが説明をしながら先導し、トランク内へと降りた階段からまっすぐ正面へと歩くと、ともりはそれに付き従った。
「ここが、第一研究室。……まあ、研究室というか博物館だね 」
そう言ったシャーロックの背後に広がるのは、だだっ広い空間だった。巨大な恐竜の骨格や動物の剥製といった、大型の標本達。沢山のガラスケースが立ち並び、この部屋は先程の書斎と異なり薄暗く、空調も良く効いている。村で生まれ育ったともりにとっては、まさに新体験。未知の世界が、ともりの視界一杯に広がったのだ。前後左右にはドアが置かれ、後ろのドアは2人が入って来た所だが、また違う空間に繋がっているようだが、その側にもまた多くの展示ケースが並べられている。
「うわぁ……! 」
ともりは、忙しない様子で周囲を見回す。その姿はまるで年相応の子供のようで、シャーロックはとても気を良くし、笑みを浮かべて頷いた。誰だって、自分の集めた自慢のコレクションに興奮されるのは嬉しいものだ。ましてや、奇妙な程に落ち着いている子供が、素直にその態度を崩して驚いてくれた、となるとシャーロックはウキウキであった。
「はっはっは……! 博物館は後でじっくり見ていくといい! だがまずは捜査、さっさと進めようじゃないか!! 」
あからさまに軽やかな足取りで奥の部屋に進むシャーロックを、ともりはチラチラと脇を見ながら追いかける。
扉を開けて奥の部屋に入ると、沢山の設備が置かれていた。マグル製品にも見える機械群。実験道具と思われる様々な機械が机の上に置かれ、壁の戸棚には様々な瓶が入れられている。その光景に、ともりは目を見開き、ついで首を傾げた。
「……これは? 」
「ここは実験室。ここで、八重子さんの皮膚を分析するんだ 」
「そういえば、皮膚から何を調べるんですか? 」
「ああ。これはね、八重子さんの皮膚の成分を調べようとね。これは……少し、気になることがある 」
「…………そうですか 」
ともりの反応が、あからさまに鈍った。何か、隠し事の片鱗に触れたようだ。
「ま、機械自体は性能がまだまだでね。マグルの技術と魔法、レイブンクロー家の叡智を組み合わせて作った最新型であっても、それなりの時間がかかる。なんせ、分解して元素ごとに分類するからね。だから、今から機械に掛けて放置し、その後は事件現場の再現、検証に行こうか」
シャーロックはそう言って杖を一振りすると、機械が唸り声を上げて動き出す。それを確認したシャーロックは、研究室の奥にある扉を開けた。すると広がったのは、真っ白な空間。奥には机や椅子が置いてあるが、殺風景な部屋である。奥に繋がるドアもないことから、どうやらここが終着らしい。
「……これは? 」
「ここは普段、映画館として利用している部屋だ。大スクリーンに映画を映して見るのだがね。今回のように事件が起きても周りが敵だらけで現場検証がやりにくい時は、現場を記憶するか記録してから、専用の映写機で映像として映すんだ。そして、そこに小道具を置いて現場を再現するのさ 」
「へぇ…… 」
ともりが感心したように頷くと、シャーロックに包丁の入った箱を渡す。シャーロックはそれを受け取ると、机に置いた。
続いて取り出すのは、コートの第2ボタンだ。
「このボタン、実はカメラでね。緊急用だからあまり詳細ではないが役人が来る前に急いで撮影した写真がある。これと記憶を元に、現場の再現をしていきたい。というわけで、頼みがある 」
シャーロックは、ボタンの説明を簡潔に済ませると、ともりに向き合う。
「死体役でもやれと? 」
「ああ。包丁を刺した位置が大体の位置でしか分からず、細かい位置は分からない。だから、君の体を借りて刺した場所や意味を特定したいんだ。人間と人形では動きがどうしても違うから、イメージがしやすい、というのもある。頼めないかい? 」
ともりは、一瞬の間の後に頷いた。しかしその目には、疑念が浮かぶ。
「脱ぎませんよ? 」
「当然だ 」
シャーロックはともりからの変態疑惑をさらりと躱し、笑みを浮かべる。その目に映るのは、難解な謎を解けることへの喜びと期待だ。未知の国で、未知の事件と遭遇する。犠牲者には悪いと思う心はあれど、難事件マニアたるシャーロックの心は踊り、もはや不謹慎レベルの心情ではなかった。
「現場の再現をしたら、2人で八重子さんのお婆さんにまた話を聞こう。今度は、より多くの情報を流してくれる可能性は比較的高い 」
「……このタイミングですか? 時間置いた方が 」
「その間に儀式が終わるし、むしろ儀式までに犠牲者が増える。だから、その意見は正論だが、それは現状においては優先事項の下から数えた方がいい」
「分かりました。……なら、早くやりましょう 」
「ああ。……材料は圧倒的に少ない。けれど、今できることはやってみようじゃないか。その先に、真実があることを信じて 」
シャーロックは、ニヤリと笑った。
シャーロック→難事件に心を躍らせるので、ある意味変態。男女関係の拗れから殺人に発展することは魔法界でも良くあるため、愛はあんまり好きじゃない。犠牲者に心は痛めるが、謎は楽しむ。どっちかといえば謎解き優先なので、『頭レイブンクロー』
儀式は止めるか否かではなく事実が知りたい。儀式の是非は村が決めることだと思っている
トランク内の博物館は作者の趣味。色んな時代の魔法道具とか入って居て欲しい。ロマンの塊
ともり→なんだかんだ普通に協力した挙句裏切り兼有能ムーブしてる人。一応村人側……な筈
レイブンクローの名探偵であるシャーロックが気に入る程の人材なので、このくらい出来ると作者は思っている。儀式を止められたら困る