レイブンクロー探偵と魔法事件簿   作:黒雲涼夜

7 / 25
分析

 シャーロックはともりを置いて書斎に戻ると、一冊の本を持ち出して戻ってきた。分厚い書物を杖で動かし、机の上に乗せる。

「なんですか? それ」

「ん?……ああ、これは解剖学の本だ。写真を元に君の服の上からそれらしき位置に紙を貼り付け、魔法の機械によってその場所の血管を観察したりその場所にある臓器を確認する。その時に確実な特定の為に、この資料は使うんだ。聖マンゴに勤めているレイブンクローの奴が開発した機械だから、当然無害だし実験も済んでいる。ま、それ以上のことは出来ないがね」

「分かりました」

ともりの了承を確認すると、ボタンに付けたカメラから死体の画像を調べる。画質が悪く、距離も遠い最低限の記録であるが、記憶と併せて考えるのがここからの作業だ。

「……さて。下腹部、それも随分と股に近い部分だ。やはり、何らかの意図を持たないと刺さない位置だろうね、あまりに下すぎる。確実に仕留めるなら、首筋を切ればいいだけだしね」

シャーロックはぶつぶつと呟きながら、薄い紙に縦の赤い線を書くと杖をひと振り。その紙はまるで縫い付けられたかのように、シャーロックが設定した、ともりの服の上に貼り付けられた。

「こんな感じで貼り付けるんですね、これ」

ともりが少し不満げに呟くと、シャーロックはその理由を察する。

「ああ、ちゃんと外せるから」

「なら良いです。……では、さっさとやりましょう」

ともりが言うと、シャーロックは頷き杖を動かす。そうすれば、部屋の映写機が動き出して現場となった森林を創り出す。それは、仮想のものではあるが確かに地面の質感までも再現して居た。そして二度杖を振ると、テープのようなものが人型を取る。三度杖を振れば、今度は映像上の自然の中で、血が流れて居た部分に黒く加工が施される。

「頼んだ。テープの中で、仰向けに寝転がってくれ」

「分かりました」

ともりはシャーロックからの指示に頷くと、シャーロックの指示通りにテープの人型の中に寝転がる。すると、写真では血が付いていた部分に真っ黒いシミのようなものが生み出される。

「これで仕上げだ」

そう言ってシャーロックが杖を振れば、寝転がるともりに見えるように、実態のないモニターが生み出された。これにより、現場を再現したこの場所をともりも観察できる。

(方便と仕込みは完了、そして……これで)

そしてメインとなる魔法を発動すべく、杖を振る。すると、小さな機械、後の時代にドローンと呼ばれる物が飛んだ。これは、既存の機械にシャーロックが改造を加えた特別性だ。その本質は、ともりに言ったことではない。

「悪いね、少し情報開示を怠っていた」

「…………え?」

ともりが驚いたような声をあげるが、今はそれに耳を傾けている暇はない。

「やれ」

その言葉に合わせるように、カシャリという音が鳴った。

 

 あれから、通常のカメラで現場再現写真を撮影すると2人は研究室で向き合って座っていた。

「……さて、君にはいくつか隠していたことがある。予定外の成果があったことの報告も含めて、謝らないといけない」

真剣な表情のシャーロックに対し、ともりはため息を吐いた。

「私の体、分析したんですね?」

ともりが静かに呟くと、シャーロックは真剣な表情で頷いた。

「そうだ。それともうひとつ、皮膚の検査はもう終わって結果も出ている。君の意に沿う真似はしたく無かったが、犠牲者が出た以上はそれに拘ってやっていられない。分かってくれないか?」

シャーロックの言葉に、ともりはそっぽを向く。

「理解と納得は違います。納得はできません。……で、分かってどうでしたか?」

ともりは、やり返しと言わんばかりに尋ねる。シャーロックは、ともりの質問に頭を押さえた。

「納得できない、という点には謝るしかないね。しかし君の体、全くもって頭が痛いよ本当に。君らの遺伝子、通常の人間のそれではないと分かった。国際条約では人間の改造は違法なのだが、それをしっかり犯している。要するに、最低でも君と八重子さんの2人は確実に、まるで養殖された動物のような存在だ。もしかしたら、望麿の反乱が終わった後の急激な人口増加は、遺伝子操作による人間の大量発生なのかもしれない。そしてそれを為したのは、あのヴラドという魔法使いだ。一体何をしているのかは分からないから、具体的な記録を確認したいところだがね」

「……出生記録、ですね?」

シャーロックは、無言で頷く。

 

「……君は、どう思っているんだ? 自身の正体を」

ひとつ、確証のない推理を腹に抱えてシャーロックは言葉を絞り出す。それはどこか、嫌な推理が事実だと認識しているようで。どこか、このままでは確実に喪うこととなるそれを回避したいと思っているようで。ともりは、少しだけ目を逸らした。

「確信、してるんですね。なら答えておきますと、どうとでも。私は、役目を全うすべき者です。貴方は、黙って謎を解いて帰って下さい」

静かに告げるともりの目には、大部分を占める覚悟と、ほんの少しの迷いがあった。その目にシャーロックは、何も言い返すことは出来ない。何が彼女に覚悟を決めさせたのか、何が彼女の心を迷わせるのか、分からないから。

 

「……分かった。余計な詮索をして済まなかった」

「はあ……。知られたく無かったですけど、もう良いです。警戒を怠ったのは、私なので。でも…… 」

ともりは、呆れたようにそう言った。

「でも?」

シャーロックが首を傾げると、ともりは首を横に振る。

「なんでもないです。……さて、私が知っていた方の調べ物は何か結果が出ましたか?」

「そうだな。……ひとつ、重要な器官があったよ。女性特有のものが」

「……それは?」

 

 

「子宮。恐らく犯人が刺したのはその部分だ 」

 

ともりは、ひとつ言葉を放たなかった。それは、シャーロックへの素朴な疑問。

「貴方はどうして、私の正体を知っても人間として扱ってくれるんですか? 」

その言葉は、その時口に出されることは無かった。

 八百屋に向かえば、その老婆は黙って店の中に立っていた。孫娘を失ったばかり

「いらっしゃい 」

老婆はシャーロックに声を掛けるが、そこに覇気はない。

「こんにちは……お婆さん。儀式について、改めて話を聞きたい 」

シャーロックが真剣に尋ねる。老婆は、口を閉じて首を横に振った。ともりが、シャーロックを手で制して前に出る。

「お婆ちゃん。……ごめんなさい、私のせいで 」

「気にしなさんな、ともり。むしろ謝るのは、お前に全てを押し付ける儂らの方じゃ。あの子はどんな形であれど、きっとお前の力となって生きてゆける。儂の孫は、立派な子なのじゃ 」

「……力、ですか? 」

「知らぬだろうな。女の服を剥ぎ取り、子宮を刺して殺す、その意味を。今この場で話すことは出来んが、お前にだけならこっそりと教えられる。先の短いこの命、惜しくはない 」

ともりと老婆の会話を、シャーロックは静かに聴いていた。何故、わざわざ自身の目の前でやったのかは分からないけれど、確かに目の前でその会話は為されていた。まるで、情報を渡すかのように。何かを、悟らせるように。

(……君は、何を思っているんだろうな)

シャーロックは、相棒と思っていた少女との間に未だ超えられぬ壁を自覚した。シャーロックは彼女を認め、知ろうとしていた。しかしである。

(分かりあおうとは、していなかったね)

彼女の存在は大体分かった。彼女の正体は、ヨーロッパの錬金術師によって生み出された " アレ " だ。だが、どうしてもシャーロックには人としてしか見えなかった。

 

「太陽が降り、力が注がれれば、お前はお前でなくなるんだ、ともり。そこから逃げたとして、お前は生きられない。……例えこの村を出て、そこの色男と共に生きる道を選んだとしても 」

老婆の言葉が、嫌に響いた。そしてそれ以上に。

「……分かっています。ちゃんと、使命は果たしますよ 」

ともりの言葉が、どこか悲しげに聞こえた。

 

 2日目の捜査後から3日目の昼に掛けて、シャーロックは『日降神社記録』の翻訳を進めていた。内容について分からないところは多々あるが、そこは自分で読み解けというのがともりの方針らしく、質問しても『ご自身で解いてみて下さい 』の一点張りであった。

「日輪を祀る神社、ねぇ 」

書物に書かれた物の中でもまず気になったのは、神社が祀る物だった。『日輪』を祀る、とは書いてあるが、日本神話についてあまり知識を持たないシャーロックには、特定への神は結びつかない。しかし、ある程度の当たりは付けられる。

「日輪、分解すると日の輪、となるのか。日は日本だと太陽、それを祀るとなれば祀っているのは日本の太陽神に当たる存在か? いや、あのお婆さん『太陽が降りる』と言っていた。つまり、この太陽に関わる何かが在るということか。……しかし、正気か? そこで儀式をするのは危ないだろうに。不定形な思念が集まる宗教施設での儀式型魔法なんて、予期せぬ怨念を呼び寄せて暴発のリスクが高すぎる。いや、むしろそれを狙って? だとしたら何故…… 」

 

 

「シャーロックさん 」

独り言を呟きながら考察に耽るシャーロックに、ともりが呼び掛けた。

「やあ。……ただごとじゃ、なさそうだが」

ともりの深刻な表情に、シャーロックが表情を引き締める。

 

「2人目の犠牲者が出ました」

 

 

 シャーロックとともりが向かった先は、村のとある民家だ。村長たちの到着には時間がかかる、との事なのでシャーロックは急いで現場に急行、村人達を掻き分けての強制捜査に踏み切った。そして、2人はそれを見た。

 被害者は、見知らぬ女性だった。

「……ともり君、この女性の名前は?」

「新島琴葉さん20歳です。村医者の下で、看護師をやってる人です」

「なるほど、人柄は?」

「明るくて元気で、優しさも持ち合わせてた、良い人でした。よく笑う人で、村の人からの人気も高かったです」

暗い表情で話すともりの頭を、シャーロックは軽く撫でる。

「悪いね、話させて」

「いえ」

(……明るく元気、人気の高い女性か)

そんな女性が八重子と同じように服を脱がされ、下腹部には前回と違い医療用メスを突き刺され、首を吊って死んでいた。

(あまりに可哀想な最期だ)

「……村人達の後ろに下がるんだ」

「大丈夫です。私が、目を逸らしてはいけませんから」

ともりは、あからさまに含みのあることを言うようになった。そして時折、シャーロックを見て何かを考えるようになった。それは気になるし、死体を見せたくはないがそれは一度ぐっと我慢する。村長が来るまでの時間との勝負だからだ。

「ともり君、物の隙間などの捜索を頼む。ボクは現場を撮影するから」

「分かりました」

ともりが部屋中の隙間を覗き込んでいる隙に、シャーロックは死体や現場の写真を様々なアングルで撮影する。捜査が出来る、今のうちに。

 

「ないです! 」

「了解、撤退するから先にボクの部屋まで行っていてくれ!!」

シャーロックはともりの報告を聞くと、撤退を選択する。せっかく撮影した写真を、奪わせる訳には行かなかったのだ。そして最後に、シャーロックは杖を振るい彼女のDNAを採取すると、姿眩ましを使う。任意の座標への瞬間移動を行う魔法で、シャーロックは部屋に近い庭に移動した。その場所は、生垣によって影となる場所。シャーロックにとっては、ちょうど良い場所であった。そして部屋に戻るために駆け出そうとして、そのまま横に地面を転がる。その頭上を、赤い閃光が空を貫くように飛んでいく。

 

「キサマ……メザワリ 」

「君は確か、山城鬼彦だったね。……日本の夏には夏祭りなるものがあるらしいが、君という奴はいつまで夏祭り気分が抜けていないのかね? カレンダーくらい見て、季節は知っておくべきだとおもうがね。ああ失礼、その可愛いお面では前が見えないか」

 

「ダマレ……。キサマ、ココデコロス……! 」

「やって見なよ、日本語イギリス人未満 」

シャーロックは煽りながらも杖を構えた。そして両者の放った閃光が、空中でぶつかった。




ヒント出し過ぎ……?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。