104年後からの今   作:requesting anonymity

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1.闖入者

「では、アラベラ・フィッグ。お前が見たものを証言しなさい」

 

1995年8月12日。イギリス魔法省本部地下最下層、ウィゼンガモットの大法廷では、ハリー・ポッターが未成年であるにも関わらずマグルの面前で魔法を行使した件の公聴会が行われていた。

これは誰しもが認める明確な違法行為であるが、法律の条文にはひとつの例外があった。

つまり、「今すぐ魔法を使わなければ死ぬ」という場合は未成年だろうがマグルの目の前だろうが魔法を使っていいのだ。そして当のハリー・ポッターは「吸魂鬼が居た」と主張しており、これが本当ならば未成年がマグルの面前で魔法を使っても違法行為扱いにならない条件に該当するため、公聴会の議題は「吸魂鬼はそこに本当に居たのか?」という点に集中していた。

そこで証人として召喚されたのがこの、被告ハリー・ポッターとマグルの従兄弟ダドリー・ダーズリー以外で唯一当時その場に居たスクイブの老婆アラベラ・フィッグである。

しかし、魔法力を持たない者には吸魂鬼が見えない。マグルだけでなく、魔法族を親に持ちながら生まれつき魔法力を持たない者、通称「スクイブ」も当然これに当てはまるため、たとえ目の前に居たとしてもアラベラ・フィッグに吸魂鬼は見えないのだ。

 

(『見たもの』を証言しろとは。大臣殿はどうしてもポッターを有罪にしたいらしい)

 

その場に集ったウィゼンガモットの陪審員の1人が内心で毒づく。

あまり堂々と証言できそうには見えないアラベラ・フィッグは、自分の正面のコーネリウス・ファッジ魔法大臣、の斜め後ろの陪審員が自分に微笑みかけている事に気づいた。

そしてハリー・ポッターの隣に立っている「弁護人」アルバス・ダンブルドアだけが気づいていた。本来総勢50人の筈のウィゼンガモットの陪審員たちが、魔法大臣のコーネリウス及びその取り巻き、そして熱心に羽根ペンを走らせ記録を取っているリータ・スキーターを計算から外しても、まだ51人居るという事に。明らかに、1人。紛れ込んでいる。どれがそうなのかの判別こそできなかったが、それが一体誰なのかは、アルバス・ダンブルドアにだけは直感的に理解できた。

 

そして、アラベラ・フィッグが口を開く。

「寒く。なりましたんです。そんで薄暗くなったように感じた。この世に良いことなんか1つもねえって気分になりましたんです。それがなんでなのか、すぐにはわからんかった。なにせマグルばっか住んでるとこですから。けども、あっという間に窓が凍りついていったんで『そうだ』と思いましたんです」

 

「結構」魔法大臣ファッジはアラベラ・フィッグの発言を遮るかのように言う。

「『寒くなった』『暗くなった』………随分重要な証言でしたな?『寒くなった』!そんな事は魔法以外では起こりようもないと言う訳だ!」

明らかに侮蔑的な含みのあるその言葉に、しかしダンブルドアが反論する。

「マダム・フィッグの証言内容は、吸魂鬼が現れた際に生じる現象と、それに居合わせた人間が体験する内容を正確に言い表しておる」

 

そして自分は何も間違った事はしていないと確信しているハリーは陪審員たちがどう思っているのかを少しでも推察したくて、ウィゼンガモット大法廷をぐるりと見渡そうとする。

その瞬間、コーネリウス・ファッジ魔法大臣の斜め後ろに座っていた陪審員が突如立ち上がった。

 

「ひょのとーりら!!ほのとーり!!アラベラ・ひぃっく!のしょーげんは、信頼できる!」

 

いきなり勝手に喋り始めたそのまるまると太った立派な髭の老人は、明らかに泥酔していた。

なぜそんな物を持ち込めたのかわからないボトルから直接ワインを飲みながら、その場違いな酔っぱらいは喋り続ける。

「でぃめんぱーがきたやろーいうこほぃなゅかっへ、ぼふぁおひぇたんらよねあやえや!やくねんくやいまえらのぃ、おーえてててえらい!!」

ファッジ大臣はその老人がウィゼンガモットの陪審員の誰でもないと気づいて即警備の闇祓い達に指示を出し、その全く呂律が回っていない老人は速やかに大法廷からつまみ出されていく。

「あや!ないすーんらい!ぼふきぃらのゆーこおきかーくへぃーんあろ!!」

そして老人が連行されていき、大法廷の扉の向こうから盛大に嘔吐する声がうっすらとハリーの耳にまで届く。それは陪審員たちにも聞こえたらしく、皆一様に顔を顰めている。

 

そして大法廷のすぐ外、今閉まった扉の前では、闇祓い2名に両脇を抱えられて連れ出されたその老人の姿がみるみる内に変化していた。

「ふぅー!『魔法吐き戻し薬』はホントに便利だねえギャレス!!」

かつての友人の発明品に今日もまた感謝をしながら、その青年はするりと闇祓い2人の拘束から逃れ、右側から自分に杖を突きつけている闇祓いの男性の目をじっと見つめる。

 

「………このあとお茶とかどう?」

 

程なく、ハリー・ポッターに「無罪放免」が言い渡された。

 

ダンブルドア校長が自分の呼びかけに応えるどころかこちらを見もせずにさっさと行ってしまった事を訝しみつつも、ハリーはまず一安心し、次に証言してくれたフィッグばあさんにお礼を言わなければと思い立ったが、フィッグばあさんもまたいつの間にやら大法廷どころか魔法省からもさっさと出ていってしまったらしく、もうその場にハリーが話しかけたい人物は残っていなかった。

 

そんなハリーに、いつの間にやらそこに居たドラゴン皮のマントを羽織った青年が声をかける。

「やあ、君がヘンリーくんのひ孫のハリー・ポッターだね?」

今まで初対面の人に「あれ嬉しや」とか「君があの有名な」とか言われた事なら何度もあっても「ヘンリー・ポッターのひ孫」などという呼ばれ方をするのはハリーにとって初体験だったので、その青年がいつからどうやってそこに居るのかという疑問は脳から吹き飛んでしまった。

 

「あの、ごめんね。僕、僕のひいおじいちゃんの名前なんて聞いたことないんだ」

ああそうだっけ、そういえばそうだろうねとその青年は笑う。

「じゃあこれも知らないかな―君が2年生の時にお世話になった『骨生え薬』覚えてるかい?」

去年魔法薬学の授業で作り方を習ったという事を別にしても、あの例えようもないほど不愉快な「骨が生える」という感覚は忘れようとして忘れられるものではなかった。

「あれを発明したのは『スティンチコームのリンフレッド』って人でね。この人は愛想が良くて親切な人で、いつもマグル魔法族関係なく近所の皆のための薬の材料を採るのに庭をぶらぶらしてたんだって。だから『ポッタラー』って呼ばれてた。これが君のファミリーネームの由来。そしてこの人が『骨生え薬』を発明して商業的に大成功したのがグリンゴッツの君の金庫にたくさんお金が入ってるそもそもの理由。君のひいおじいちゃんのヘンリーくんが昔僕に教えてくれた事だよ」

 

名前すら初耳の先祖に3年前助けられたと聞かされてもハリーはあまりピンと来なかったが、それでも自分の家の由来を知れたのは嬉しくも興味深く、ハリーはいつの間にやらその青年に対する警戒感が心から消え去っている事に気づきもしなかった。

「で、あと去年ミス・グレンジャーが舞踏会でさ、髪をバッチリ整えて来たろ?」

ハリーはそう言われて、ハーマイオニーのドレス姿を思い浮かべようとして、このままではすぐセドリックも思い浮かんで来ると察してやめた。

「あの時ミス・グレンジャーが使ってた『スリークイージーの直毛薬』を発明したのは君のお爺さんだよハリー。嘘だと思うなら今度、容器を見てみて。『フリーモント・ポッター』って書いてあるから。考えた事はなかったかい?君が相続した『ポッター家の財産』がどこから来たのか」

 

ハリーはそれまでそんな事を疑問に思いすらしなかったという事実にこの時やっと気づいた。今の今までハリーの脳内の「ポッター家の家系図」には自分と父と母しかおらず、自分に祖父や曽祖父が居たという当たり前の事にすら自分は驚いていると気づいて、ハリーは愕然とした。

そしてやっと、ハリーは最初に抱いた疑問に立ち戻る。

 

「きみは、一体、誰なの?」

「ふふふーん。誰になろっかなー……」

 

その青年がどこからともなく取り出したワインボトルを見て、ハリーは目を丸くするのだった。

 

そして数秒ほど絶句した後、またひとつおかしな点に気づいたハリーは疑問をぶつける。

「なんで去年のユールボールでハーマイオニーがどんな髪型してたかを知ってるの?」

「あの時、ダームストラングとボーバトンから生徒が何人来てたか。それぞれなんて名前か。完璧に答えられるかい?………僕ダンスパーティー好きだからそこだけ混ざりに行ってたんだよ」

あのあとアルバスに怒られちゃったんだよね!と言ってケラケラ笑った、そのルーナを彷彿とさせる派手なメガネに高そうなドラゴン皮のマントを羽織った青年が言った「アルバス」が誰なのか、ハリーには皆が待つグリモールドプレイス12番地に帰り着いてロンとハーマイオニーにその話をするまで、全く見当もつかなかった。

 

「そろそろいいだろバカチン。ほら、いい加減に出てきな」

 

いつの間にやら2人きりになっていた大法廷の扉が開き、50人の陪審員のひとりである矍鑠とした老婆がそこから顔を覗かせて呼びかける。

「あ、そうだね!ありがとねグリちゃん!」

そう言ってスタスタと大法廷から出ていった青年が結局一体誰だったのかをハリーが知ったのは、そこから約1ヶ月後。ホグワーツの新年度が始まる9月1日の夜の事だった。

 

例年通りの大広間での組分け式が終わり、例年通りにダンブルドア校長が年度始めの挨拶をしていたところに「エヘン、エヘン」と咳払いを響かせ割って入ったその魔法省から来たらしい全身ピンク色の服を着ている魔女は、長い長いホグワーツの歴史でも空前絶後の早さで、ホグワーツの大半を敵に回した。こんな無礼な真似が許されるのかと思ったハリーの視界の端で、天井近くに浮かぶ血みどろ男爵とポドモア卿がその中年の魔女を睨みつけている。

そしてドラコ・マルフォイの脳裏では「痛快だ、ざまあみろ老いぼれダンブルドアめ」という歓びの気持ちと「誰だあの言語道断の不届き者は」という憤りの気持ちがせめぎ合っていた。

 

やがて、その中年の魔女は喋り始める。

 

「魔法省は、ホグワーツでの教育が適切に行われているのかを監査する必要があると結論づけました。そこでわたくし、ドローレス・アンブリッジが今年度『ホグワーツ高等尋問官』の職に魔法大臣閣下直々に任ぜられ、この学校で行われている日々の授業が魔法省の定めるカリキュラムに即しているか、不適切な指導が行われていないかを監査するために派遣されました―」

 

ハリーは、自分の両隣のロンとハーマイオニーも、ネビルもディーンも皆とんでもない形相でそのアンブリッジという名前らしい中年の魔女を睨みつけている事と、おそらく自分も今みんなと同じ表情なのだろうという事に気づいた。

「だあれあの女?校長先生のお話を遮るなんて!」

ハーマイオニーが憤る。

「あいつ、ウィゼンガモットで見た。ファッジのすぐ隣に座ってた」

ハリーがそう言うと、シェーマス・フィネガンが「腹心を送り込んで来たってか」と言ってウェッと舌を出してみせた。

「あいつガマガエルみたいな顔してない?」

そう言ったロンもまた、一瞬でそのアンブリッジの事が大嫌いになったらしかった。

 

「―ホグワーツの校長が当該教職に就くにふさわしい人物を見つけられなかった場合、魔法省が然るべき人物を指名します。そして今年は闇の魔術に対する防衛術の新しい先生がまだ見つかっていないとの事ですので、このわたくしが―」

アンブリッジの発言は、そこで遮られた。

 

「ダンブルドア校長!先生方!ウィーズリーの奴がまた盗みに入っておりました!!」

 

大広間の扉が勢い良く開かれ、ホグワーツ城の管理人アーガス・フィルチがトロールの首でも取ったようかのように鼻息荒く連行してきたグリフィンドールの制服を着た生徒の顔を見て、ロンが目を丸くしている。

 

「ジョージ?!……いや、フレッド?どっちだ?」

「どっちだって同じよ!だって―」

 

ハーマイオニーが自分たちグリフィンドールのテーブルの端の方を見る。

グリフィンドールの誰もが同じ事を思った―グリフィンドールのテーブルの方を見て確認した他の寮の生徒も、スリザリンの面々すらも同じ事を思った―アイツはフレッドでもジョージでもない。

勢い良く入室してきた当のアーガス・フィルチも、大広間を見渡して即、硬直する。

フィルチの目には、グリフィンドールのテーブルの一番向こうに座っているフレッドとジョージの驚愕に満ちた顔が映っていた。そしてフィルチは自分が連行してきたフレッドとジョージのどちらか―だと思っていたこの正体不明の侵入者を見る。

 

「はあ?!誰だよアイツ!!」「俺たちここに居るぜ!!?」

 

当のフレッドとジョージは、大広間の誰より驚いていた。

「違うんだよ~。ミセス・ノリスと遊びたかっただけなんだよ~。なんにも盗ってないよ~」

情けない声色でそう言った謎の侵入者はフィルチに捕まったままその外見を大きく変えていく。それがポリジュース薬の効果が切れた時の反応である事に、ハリーは気づいた。

そして、その「ウィーズリーの双子のどちらか」の外見の変化が落ち着く。

そこに立っていたのは1人の上品そうな佇まいの老人。それがかのゲラート・グリンデルバルドの現在の姿だという事に、ダンブルドアだけが気づいていた。

 

「ぶひゅふへへへ………」

 

その「グリンデルバルド」はなんとも品のない笑い方をしたかと思うとするりとフィルチの拘束から逃れてスタスタと大広間を、その場の全員の注目を集めながら歩いていく。

「今のって『ポリジュース薬の効果切れ』だよな?誰だよあの爺さん?」

ロンもハリーと同じように混乱しているらしい。そしてそれはネビルもハーマイオニーも皆、どころか先生方ですら同じであるらしかった。フィルチに至っては大広間から出ていくでもなくその不審人物を追うでもなく、ただ立ち尽くしている。

 

「あなたは誰なのですか?どうやってホグワーツに侵入したのですか?」

その場の全員を代表するかのようにそう訊いたマクゴナガル先生の隣のダンブルドアが、その老人に杖を向けていた。

 

「レベリオ」

 

老いたゲラート・グリンデルバルドはその外見をまたしても変化させていき、服装も染み渡るように少しずつ変わっていく。

そして姿を現したのは、スリザリンの制服の上から高そうなドラゴン皮のマントを羽織った、ホグワーツを卒業したばかりの年齢に見えるスタイルのいい女性だった。常軌を逸したデザインのメガネをかけているという事を別にすれば、なかなかに魅力的な美人だとハリーは思った。

 

「いらっしゃるような気がしておりました、先輩」

「やあアルバス。ねえこれ食べていい?」

 

いつの間にかその手に持っていたボトルから直にワインを飲みつつ校長用の皿の食事を校長本人の目の前でつまみ食いし始めたその女性を、なぜ当のダンブルドアがこんなにも嬉しそうに見つめているのかを理解できたのは、皆の頭上に浮かんでいるピーブズとゴーストたちだけだった。

そしてその女性はくるりと振り返ると、大広間に呼びかける。

「ねえ、マルフォイくんって居るー?どこー?スリザリンー?」

 

ドラコ・マルフォイのそんな顔を見るのは、ハリーにとって初めてだった。

 

「ぼっ、僕だが、何だ!」

「コレきみんとこのワイン!超おいしい!!」

 

大混乱をどうにか心の中だけに押し留めたらしいドラコは「……そりゃどうも!」とだけ返した。

「マルフォイの奴に同情する日が来るなんて、昨日の僕に言ったって絶対信じないぜ」

ロンがハリーにそう言って嗤う。

 

「あなたは誰です!」

 

アンブリッジがついに爆発したが、その女性は一切気にせずダンブルドアの食事を勝手に食べ続け、持参したらしいボトルからワインを直接グビグビ飲んでいる。

「ぶあー!あ、久しぶりだねえルビウスくん!」

ハグリッドはこんな奴に会った覚えは無かったが、いつか会っていた気もして記憶を辿り始める。

マクゴナガルを始めとするホグワーツの教職員たちはダンブルドアが親しげに「先輩」と呼んだという一点のみでもう警戒を解いていたが、アンブリッジはそうではなかった。

 

「あなたは誰かと訊いているんです!質問に答えなさい!」

「誰って今年の『闇の魔術に対する防衛術』の先生だけど」

 

そこで、ずっと楽しそうに笑っていたダンブルドア校長が口を開く。

 

「先輩を、お雇いした覚えが、ありませんな?」

「そりゃまだ雇われてないからね。魔法省で友達に『高等尋問官』の話聞いたから僕も行くべきだなって思ったんだ。………ねえアルバス、僕を雇ってくれるかい?」

 

アルバスにこれ言うの何回目かもうわかんないけど、と言ったその女性がダンブルドアの夕食をついに完食してしまったのを見てマクゴナガルが屋敷しもべ妖精ドビーを呼び出し、ドビーは「すぐに代わりの食事をお持ちします」と言って姿を消す。

 

「先輩はもう既に、ご職業を3つほどお持ちだと存じ上げております」

ダンブルドアは、クスクス笑っている。

「実質2つだよー。闇祓い局にはもう80年くらい出勤してないしさ」

そしてダンブルドアは、ざわざわと騒がしくなっていた生徒たちを片手を挙げて静まらせると、大広間全体に呼びかける。

 

「皆に、今年の………『闇の魔術に対する防衛術』の、新しい先生を紹介せねばの……。この先生はわしの古い友人での。『闇の魔術に対する防衛術』の先生には正にぴったりじゃ……」

ダンブルドアがその女性について説明してくれるのを、全ての教職員と生徒が待っていた。

「今からもう100と4年も前になるかの。当時ホグワーツに入学したばかりじゃったわしは、杖と魔法を使い如何に己の身を守るのかという事を、他でもない、その年ホグワーツの7年生じゃったこの先輩から学んだ。……そうじゃ。この人は、わしの学生時代の先輩じゃ」

 

ドラコはグリフィンドールの奴らが揃いも揃って間抜けにもポカンと口を開けたまま硬直しているのを見て、自分もそうなってやしないかと慌てて口を閉じる。

 

「そしてこちらのアンブリッジ先生は聞いての通り、ホグワーツ高等尋問官として魔法省から赴任なさった。皆、くれぐれも失礼の無いように。じゃがまあ、とりあえずは夕食を楽しもうかの?」

 

そう言われてもまだ騒然としている教職員と生徒たちは、食事に手をつけるのも忘れていた。

「背伸びたねえミネルバくん!」

ミネルバ・マクゴナガルはそこでようやく、自分は学生時代にこの人物と会った事があると気づいた。嘗てのレイブンクローの女子が、ハッフルパフの男子が、スリザリンの太っちょが、この人物が今しているのと同じド派手なメガネを身に着けていた事を思い出したから。

妙な流行だと当時は思っていたが、違うと今気づいた。アレらは全てこの人だったのだ。

 

「ダンブルドアの『先輩』だって?!そんなババアにはとても見えないぜ?」

「ダンブルドアが1年生の時に7年生って事は、今121歳って事になるわ?!」

魔法族としては別にありえない年齢ではないが、ティーンエイジャーにすら見えるその外見がロンとハーマイオニーを混乱させていた。

「ポリジュース薬でも使ってるのか」というロンの推測にネビルが「なんでわざわざ?」と返す。

「待って、あの人たった今ダンブルドアに『レベリオ』をされたばかりよ?つまりそれって―」

ハーマイオニーは、自分が辿り着いた結論が自分で信じられないらしい。

 

「―あれが、なんの魔法もかかってない、あの人本来の姿って事になるわ!」

 

「そうでなきゃ、ダンブルドアにも解除できない変身魔法を使ってるって事になる」

ハリーは今の今までロンとハーマイオニーに打ち明けるかどうか悩み続けていた、ウィゼンガモットで話しかけてきた青年の事を説明し始める。

 

「は?じゃあハリー、君はその若い男の人と、あの女が同一人物だって思ってるのか?」

話を聞き終えたロンが思わず訊き返す。

「僕だって自分で言ってて意味分かんないよ!でもあんなメガネしてる人が2人も居ると思う?」

ハリーとロンのやり取りに「居るわよもうひとり」と口を挟んだのはハーマイオニーだった。

「ルーナよ。あの額に上げてる方のメガネ、去年ルーナがかけてた『クィブラー』の付録だもの」

「あんな雑誌読んでる奴なんかそれこそそんなに何人も居てたまるもんか………」

ルーナには申し訳無いがロンのその発言も一理あると、ハリーは思ってしまった。

 

「思い出した!!」とハグリッドが大きな声を出した事で、大広間中の視線が集まる。

「俺が森番になったばっかの頃!1回だけ俺んとこ来たスリザリンのチビすけ!」

「そうだよー。久しぶりだねえルビウスくん。相変わらずおっきいねえ!」

そう言った「ダンブルドアの先輩」が、いつの間にか爽やかな青年になっている事にハリーは気づいた。しかしその目鼻立ちはウィゼンガモットで話しかけてきたあの青年ともまた異なっていた。

 

「また変わったぞ?ほんとになんなんだよあの人!」

「ダンブルドアが誰かを『先輩』なんて呼ぶの、初めて見た……」

ロンとネビルは困惑を深め、2人共全く同じ表情をしていた。

 

ここに居るのが仮にコーネリウス・ファッジ魔法大臣の前任者ミリセント・バグノールドだったなら、若しくはウィゼンガモット最高齢のグリセルダ・マーチバンクスだったなら。目の前のこの不審者が誰なのかを正しく認識する事ができただろう。

この不審者が勝手に指輪に改造して身につけているバッジが如何な職業の人間が身につける物なのかを、一目で認識できただろう。しかし、ドローレス・アンブリッジにそんな知識は無かった。なにせこの不審者が最後に魔法省に出勤したのは80年近く前の事で、その時アンブリッジは生まれてもいなかったのだから。

 

「おーいピーブズー!久しぶりだねえピーブズ!!ねえ3階の廊下水浸しにして遊ぼ!!」

「いいぜぇ兄弟!!」

「待ちなさい!!」

 

アンブリッジの制止を一切無視して、その青年は風のように大広間から去っていった。

 

そして大広間から飛び出したその青年とピーブズは、背後で扉が閉まる音がしたと同時に静かになって、お互いの顔を見て笑い合う。

 

「久しぶりだなぁ兄弟!俺様の顔を見たくなったか??」

「そうさ。君の力も必要なんだよピーブズ。君にとってもホグワーツは『我が家』だろう?」

ピーブズはニッコリと笑い、すぐに不機嫌そうな顔に変わる。

「で、誰だよあのピンクババア」

「君はドローレスくんの学生時代だって知ってる筈だけど。覚えてないか」

「ホグワーツの生徒に喋るガマガエルが紛れてたらいくら俺様でも覚えてるって!」

じゃあ学生時代は目立たない子だったのかな、と呟いて、青年はピーブズに状況を説明する。

 

「どうもね、魔法大臣のコーネリウスくんは、可哀想なトムくんが戻ってきたって事から、目を背ける事にしたみたいなんだよね。で『例のあの人が帰還したなんてのは嘘っぱち!』って主張し続けている内に、自分自身までそれを信じちゃった。だからコーネリウスくんにとってアルバスとハリーくんが警戒を促しているのは全部『まやかし』で、自分を魔法大臣の座から引きずり下ろす為の陰謀なんだよ。で、ハリーくんをどうにかしたかったけどできなかったから、報復も兼ねてホグワーツに人を送り込んできた」

 

「………魔法大臣閣下におかれましては、気晴らしに旅行でも行ったらどうだ?」

「僕もそう思うよピーブズ」

ピーブズの端的な感想に青年は同調し、2人は廊下を進む。そしてピーブズが、また質問をした。

「で。今度はなんでまた戻ってくる気になったんだ?」

「『ホグワーツでは助けを求める者には必ずそれが与えられる』。僕は、アルバスを助けに来た」

あの校長先生様に助けなんか要るか?とピーブズがさらに訊くが、青年はさらりと返答する。

 

「要るさ。これから数年は特にね」

 

その日、夕食が終わって大広間を後にした生徒たちの多くがその2人の「新しい先生」について親族に手紙を送ってアンブリッジについてはどれほど無礼な真似をやらかしたのかを仔細に報告し、もう1人の先生については何か知らないかと訊ねた。

 

ハリーもシリウスに手紙を送ったし、ロンもパパとママに手紙を書いた。ネビルもばあちゃんに手紙を書いたしハーマイオニーはトンクスに手紙を書いた。そしてドラコもまた父上に、みんなが各々の親族に送ったのと同じような報告と質問の手紙を送った。

 

そして、次の日の朝。

手紙を返してきた中でその人物の事を最も詳しく知っていたのは、ネビルのばあちゃんだった。

グリフィンドールの談話室で、みんなが顔を突き合わせてその手紙を見ている。

 

「『頻繁に見た目が変わるのはそういう体質』『本人にも制御不能』それにばあちゃんとマクゴナガル先生がホグワーツに通ってた頃にも何回か城に紛れ込んでた………って」

まだ困惑しているネビルがその手紙をもう一度読んでいる。

「『まあ原理はよくわからないが事実としてそういう人』……説明になってないわよ」

ハーマイオニーも混乱している様子だった。

 

しかしハリーは、シリウスからの返事にあった端的な説明を信じることに決めていた。

 

“その人の授業は最高だよ。ハリー ”

 

同じ頃、アンブリッジの為にあてがわれた部屋を、その「ダンブルドアの先輩」が訪れていた。

「何です。なんの用です?わたくしに何か御用がおあり?」

貼り付けたような笑顔から不快感が滲んでいるアンブリッジに、青年はニッコリと笑いかける。

「ん、いや訊きたい事があってさ」と言ったその青年は次の瞬間、まるで今朝の天気の話でもするかのような気軽さで、ドローレス・アンブリッジの最大のコンプレックスを踏み抜いた。

 

「弟くんはお元気?」

 

アンブリッジの顔から、表情が消えた。

なぜこの不審者がそれを知っているのかは、「わしの学生時代の先輩」だというダンブルドアの説明を嘘っぱちだと決めつけていたアンブリッジには皆目わからなかった。

しかし、15歳の時に両親が離婚して以来会っていない弟に、あの忌まわしいスクイブの弟に、この不審者がどういう意図で言及したのかはハッキリと理解できた。

 

それは、明確な宣戦布告だった。

 





マルフォイ家はワイン製造の会社を持ってる(公式設定)
おそらく、ワイン製造の会社「も」持ってるという表現が正しいって気がする。

かつて某所の某スレに似たようなものを投げていましたが
また書きたくなったんで書くことにします。
同じ人間が同じ原作を取り扱っているので、ホグレガ本編から2年後を取り扱っているほうの話の展開も反映されています。分けて妄想膨らますのは無理なんじゃ。
ですがこっちだけを読んでも楽しいように気をつけます。

向こうとこっちの話の投稿は並行されます。
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