104年後からの今   作:requesting anonymity

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11.魔法生物飼育学

「で?何が見えるご予定だったんですか、『先生』?」

やたら大きく育ったかぼちゃ畑で、気まぐれにポーズを変えるカカシの上に止まった大きなカラスが見守る小屋の近く。禁じられた森の傍で魔法生物飼育学の授業をグリフィンドールの奴らと共に受けているドラコがわざとらしい口調で訊くが、それはハグリッドにとって想定内も想定内、むしろ誰かがその質問をしてくれなければ困るとすら考えていた問いかけだった。

「そうか、お前さんには見えねぇかマルフォイ……そんなら全員に訊こう。今マルフォイが訊いたのと同じ疑問を抱えてる奴はどれくらい居る?つまり、『今日の授業で取り扱う生物はどこだ?』と思ってるのはこん中のどんくらいだ?正直に手ぇ挙げてくれ」

ルビウス・ハグリッド「先生」のその質問に、グリフィンドールとスリザリンの5年生たちの殆どが手を挙げた。手を挙げていないのはハリーとネビル。そして。

「……おい、何が見えてるって言うんだ」

ドラコは、信じられないと言いたそうな表情で同じスリザリン寮で同じ純血家系出身の友人、セオドール・ノットを見ていた。

「見えとるのは3人か。まあ、そんなもんだろうと思っとった。じゃあ次の質問だ。なんで見える奴と見えねえ奴が居る?今日の授業で話す生き物は何だ?」

ハグリッドの問いかけに、いつもどおり誰よりも早くハーマイオニーの手が挙がる。しかし、ハグリッドが指名したのは少し遅れて手を挙げた別の生徒だった。

 

「言ってみろ、ノット」

「……セストラル。アブラクサンとかグラニアンとかと同じ有翼馬の一種で、……そうか、見えない奴が殆どなのか。どう表現するか……骨と皮だけの馬。黒に近い紫色をしてて、蝙蝠とかドラゴンみたいな翼がある。コイツを見られるのは『死を見た者』だけだ。誰かが死ぬ所を、単にその場に居合わせるだけじゃなく誰かの最期の瞬間を直接目撃した奴だけに、この生き物は見える」

ハグリッドは、その回答を褒めてから説明を始めた。

「そうだ。合っとるぞノット。スリザリンに3点!セストラルは肉食で、信頼してもらう事さえできれば頼もしい味方になる……なんてったって、すんばらしい速さで飛べるからな。まあ俺を乗っけて飛ぶのはちょいと無理があるが。それで、もうひとつコイツらには、お前さん達に知っといてもらいたい事がある……誰か、オーグリーっちゅう生き物について説明できるやつは居るか?」

ハグリッドはまた誰よりも早く手を挙げたハーマイオニーを、今度は指名した。

 

「オーグリーはアイルランド原産の、現地の古い伝承では不死鳥と関連付けて語られる事もある悲しげな声で啼く魔法の鳥です。この声が嘗ては不幸の前兆だと考えられていましたが、今では単に『これから雨が降る』と察して啼いているだけで、不幸を呼ぶなどと言った風評は根拠の無い迷信だと判明しています。この迷信が払拭された直後は気象予報をしてくれる事を期待して多くの魔法使いが飼育を試みましたが、雨が長期に渡って降り続けるとオーグリーもその間中ずっと啼き続けるので、すぐにこの流行は沈静化しました。もちろん迷信のせいではなく、単に煩いからです」

 

ハーマイオニーのその説明を聞いて、「グリフィンドールに3点」と嬉しそうに笑うハグリッドの言いたい事が察せた同じグリフィンドールの女子生徒ラベンダー・ブラウンが声を上げた。

「トレローニー先生が、セストラルは死を呼ぶ生き物だから近寄っちゃいけないって……」

「俺が言いたいのはまさにそれだ。オーグリーが不幸を呼ぶなんて話は、もう信じてる奴は居ねえ。もちろんガリバー・ポークビーの辛抱強い研究のお蔭だ。けんどセストラルは、まだ迷信に囚われとる。ええか?『死を見て受け入れた人間にだけ姿が見える』それだけだ。死を呼ぶなんて事は無ぇし、不吉な生き物でもねえ。気高くて穏やかな生き物なんだ。これだけは覚えといてくれ」

そしてハグリッドがニヤリと笑い、カカシの上のカラスが一声啼いた。

 

「絶対に動くなよ、マルフォイ。間違っても追い払おうとか侮辱してやろうなんて考えるな。ヒッポグリフと同じくらいには気難しい奴らだからな」

 

すぐ隣のノットが思いっきり眉間にシワを寄せて不快そうな顔をしながらそう言ってきた事で状況を理解したドラコのみならず、クラッブとゴイルも硬直した。

姿は見えないが鼻息が顔にかかるのは感じたドラコも、久しぶりに実物をこんなに近くで目にしてセストラルが相変わらず気味の悪い姿だと再確認したノットも全く同じ顰めっ面で耐えている。

 

そこに。

 

「エヘン、エヘン」

 

その咳払いが聞こえてきた瞬間、ドラコの眉間のシワが一層深くなったのをハリーは確かに見た。

「ホグワーツの教員の査察が、わたくしの職務ですので。今、宜しいですか?」

本心を言えば全く宜しくないハグリッドだったが、向こうには魔法大臣直々の権限がある事を思い起こして自分を律する。しかしそんな内心の我慢は、ハリー達から見れば、表情に全部出ていた。

「なんだぁ授業中に。長くかかるか?」

「いえいえ、質問をいくつかするだけですわ。後は授業を見させていただければ結構」

それでも充分すぎるほどに不快だとしっかり顔に出ているハグリッドを、ハーマイオニーが心配しているのがハリーにも、ロンにも解った。

グリフィンドール生たちのみならず、ダフネ・グリーングラスを始めとする一部のスリザリン生も同じ事を思っていた―下手な事言うなよハグリッド。

 

「ではまず、お名前をお伺いします」

「ルビウス・ハグリッドだ」

「ホグワーツの卒業生ですか?」

「卒業は……してねぇ。3年生の時に退学になった」

「魔法省に残っている記録によれば、退学処分になる際『杖を折られた』筈では?退学になったのに教職に就けているのですか?……なぜ?」

ハリーもロンもハーマイオニーも、2年生の終わり頃や3年生の始めに「その話」を聞いたネビルを始めとする他のグリフィンドール生たちも、内心の怒りが表情に出ないようにするのに必死だった。ハグリッドの退学処分は完全な冤罪だったと、既に証明されているのに。

そしてドラコ以外のスリザリン生の一部は、全く別方向から憤っていた。

(ファッジはまさか未だにハグリッドの奴が『秘密の部屋』を開けたなんて与太を信じてるのか?『スリザリンの後継者』??このウスノロが?『スリザリンの怪物』が『アクロマンチュラ』?)

そんな見解はスリザリン寮に対する侮辱に等しいというのが、ザビニの率直な意見だった。

 

「ダンブルドアのお蔭だ。お優しいお人だ」

 

しかしそんなグリフィンドールとスリザリンの5年生たちの心の内に気づいているのかいないのか、ドローレス・アンブリッジはいつもどおりの貼り付けたような笑顔と心のこもっていない丁寧な言葉遣いで決まった質問をし続ける。

「ご両親は魔法使いですか?」

「いんや。親父だけだ」

そこで、ハグリッドの正面に立つアンブリッジのすぐ後ろに座っているパンジー・パーキンソンは、自分の隣の友人ミリセント・ブルストロードとその横のグリフィンドール生ディーン・トーマスが揃ってとんでもない表情になったのを見て、原因を察してアンブリッジの手元のボードに目を凝らす。そこには「半巨人:ヒトに準ずる知能を持つ生物」と記入されていた。

その事はグリフィンドールとスリザリンそれぞれに耳打ちのリレーで波のように伝えられ、すぐにハリーたちのところまで届けられる。

 

そしてハリーは、かつてフィレンツェとベインがなぜあれほどまでに「ヒトに準ずる知能を持つ」という表現に不快感を示していたのかを、初めて心の底から理解できた。

 

「魔法生物飼育学の教師をしているのは、いつから?」

「3年前。こいつらが2年生になった年からだ。ケトルバーンの爺さんが引退したんでな」

アンブリッジが手元のボードに「経験に乏しい」と書き加えるのをディーンは確かに見た。

「あなたはダンブルドアとハリー・ポッターの『例のあの人が戻ってきた』という主張をどの程度信用していますか?または疑っていますか?」

「信じるも何もねぇ!本当の話だ!!誰がダンブルドアとハリーの言葉を疑うもんか!」

ハグリッドが大きな声を出し、アンブリッジはほんの一瞬不快そうな顔になる。

「…………結構です」

アンブリッジの質問はそれで終わり、授業を最後まで見届ける事すらなく、その「高等尋問官」は足早にその場を立ち去った。それが査察の結果が最初から決まっているからではなく、ハグリッドを視界に入れるのも不愉快だからだと、ハーマイオニーとザビニだけが鋭敏に察していた。

 

「やぁーっと帰ったわあの女……」

 

パンジー・パーキンソンが心底不快そうに呟き、ハグリッドが笑顔になる。

「さあお前さんら!あんなの気にするだけ損だ!そんな事よりどうだ―」

グラブリープランク先生なら授業で生徒にこんな事は絶対にさせなかったんだろうなと思ったハーマイオニーの周囲の生徒が何人も、ある者は好奇心に満ちた目で、ある者は恐る恐る勇気を出して手を挙げる。仮にハグリッドが教職を追われたらこんな機会はもう巡ってこないと、グリフィンドールとスリザリンの5年生たちは理解していた。

そしてハグリッドは手を挙げていた生徒の中から、最も嫌そうな顔をしていた奴と、最もおっかなびっくりだった子と、最もセストラルたちに集られている生徒を指名した。

 

「よーし。そんじゃまずノット、そんでラベンダー。それとネビル。前に出て来い。セストラルに乗って、城をぐるっと回って戻ってくる。一番速かった奴にはちょっとした賞品をやろう」

 

ハグリッドがハリーロンハーマイオニーの誰も指名しないというのはそこそこ珍しい事態だとその場の全員が思っていたものの、これがダンブルドアなら深いお考えが何かおありなのだろうが、他ならぬハグリッドの行いである以上なんとなく選んだだけなのだと、皆が良く理解していた。

そして当のハリーはそんな事は全く考えもせずに、子供なのだろう小さな個体を含む6頭のセストラルに集られているせいでその場から動けず困り果てているネビルを笑いながら見物していた。

「ノット。……顔見てりゃわかるがお前さん、セストラルが好きじゃないな?授業に積極的に参加してくれるのは大歓迎だが、なんで立候補する気になったんだ?」

ハグリッドのその質問は、ドラコとザビニも気になっていた事だった。

 

「仰るとおり、僕はセストラルという生き物があまり……いえ、かなり好きではありません。しかし、例えばこれがアクロマンチュラなら、別に嫌いなままでも不都合は無いでしょう。僕は飼いたいとは思わないし、将来仕事の都合で頻繁に触れ合う事になるとも考え難い―」

そこでロンの眉間にギュッとシワが寄り、それを見たハーマイオニーがクスクス笑い始める。

「―しかしセストラルは違う。魔法省が運用する馬車を牽いているし、ホグワーツでも利用されている。魔法界においてセストラルは、野生種よりもむしろそのような『職務に就いている』個体を見る事の方が多い。僕はノット家の跡取りだ。僕はセストラルが大嫌いだ。それも死がどうのこうのじゃなく、単に見た目が好きになれないんだ。どうしても『気味が悪い』と、そう思ってしまう。これは克服する必要がある。そして今、その大チャンスだと、そう思っただけです」

 

「スリザリンに10点!ひいひいお祖父様はきっときみを誇りに思うだろう!」

 

そう叫んだのは、ハグリッドではなかった。

いつの間にやらハグリッドの隣に立っていたそのハッフルパフの制服を着た7年生くらいに見える女生徒が誰なのか、真っ先に理解したのはスリザリン生たちだった。

「先生!?いつから居たんです??」

ブルストロードが驚きをそのまま言葉にした横で、ディーンが目を丸くしている。

「やあみんな。どうだい魔法生物学じゃないや魔法生物飼育学は」

そしてその「先生」は、また気軽にとんでもない提案をした。

 

「ね、ルビウスくんも乗って飛んでみようよ」

「俺が??無理ですだ先生。セストラルが潰れっちまう!」

「セストラルなら、そうだろうね」

 

そう言った「先生」がどこからともなく旅行カバンを取り出すのを、誰も止められなかった。

「おいでーイメルダー。ちょっと運動しようよー」

ドラコが息を呑み、ハーマイオニーが短い悲鳴を上げる。

 

「ヘブリディアンブラックか!随分でっけえ奴だなぁ!」

 

旅行カバンの中からのしのしと現れた黒紫色のドラゴンは、ハリーが去年相対した凶暴なハンガリー・ホーンテイルより明らかに大きかった。

「どうだい、めっちゃかわいいだろうイメルダは!」

 

グリフィンドールとスリザリンの5年生たちが皆呼吸すら満足にできない中、ハグリッドの目は今までにハリーが見たこともないほど輝いていた。

「ねえイメルダ、このルビウスくんを乗っけてあげてくれるかい?」

これと比べればハグリッドすら小柄に見えるそのドラゴンの立派な角をペチペチ叩きながら気楽な様子で話しかけるその先生を、ハグリッドすらもが驚きをもって見つめている。

そしてそのヘブリディアンブラックは地面に臥して可能な限り姿勢を低くし、7年生の女生徒にしか見えない先生は指先をくるりと振ってそのドラゴンの背に鞍を出現させる。

 

「さあノット、それにラベンダーとネビル。君たちも準備はいいかい?」

 

3人共、そう言われてやっと、自分たちが今から何をするところだったのかを思い出した。

「せ、先生、その……コツとかは……」

目の前の醜怪な生物を受け入れようと努力しているのが表情に出ているノットが訊く。

「信頼してあげる事さね。恐れも、遠慮も。伝わってしまうんだから」

ハグリッドの小屋から出てくるなりそう言ったのは、皆が「もうホグワーツを去ってしまった」と思い込んでいた人物だった。

「グラブリープランク先生!」

パーバティ・パチルが歓迎を表情で示す。

「あ。やあウィルヘルミーナくん。きみもサンダーバードとか乗ってみるかい?」

「校長先生から『お話』があるそうだよ、先生」

「ヒェー………ミラレテタカァ……まあいいや!僕悪いことしてないもんね!」

すぐ萎れてすぐ復活したその先生を見ている内に、ザビニは笑い始めていた。

そしてハーマイオニーとドラコは全く同時に、考えてみれば当然のことに思い至った。つまりグラブリープランク先生も、魔法生物の事が大好きなのだ。そしてドラゴンとセストラルの競争というのは、控え目に言ってもそうそう見られるものではない。

 

「せっかくですから、参考記録も必要でしょうね?ハリー・ポッター、箒を」

「はい???」

 

危ないからやめさせるなどという選択を、グラブリープランク先生がするわけがないのだ。

授業でポッターが皆の注目を集める役回りに抜擢されたのに不快感を抱かないというのは、ドラコにとってかなり珍しい事態だった。―気味の悪い生き物3頭とやたらでかいドラゴンと並んで飛びたいとは、ドラコは露ほども思わなかったから。

ドラコの目にはむしろ、ポッターの奴が貧乏籤を引いたように映っていた。

「アクシオ!」

意を決したハリーがファイアボルトを呼び寄せ、跨る。その横ではノットたち3人も覚悟を決める作業を進めていた。

「ねえねえ、ねえ!私どこに乗ればいいの???」

ノットとネビルとは違ってセストラルが見えないラベンダーは、勢いに任せて「やりたい」と自分から手を挙げたものの、大混乱していた。なにせ直ぐ傍に居るらしいセストラルが何で機嫌を損ねるのか知らない以上、手探りで場所を確かめるのすら憚られるのだ。

 

「もう一歩右だ、ブラウン。そのまま右手を真横にゆっくり伸ばす―そこが左後足の付け根だ」

ノットが助け舟を出したのを、グリフィンドールの皆が驚きに満ちた表情で眺めている。

そして自分はさっさとセストラルに跨ったノットの横で、ネビルはネビルで大混乱だった。

「僕は、僕はどうすればいいの????」

6頭に囲まれ擦り寄られているネビルは、どのセストラルに乗ればいいのかも判断できずにいた。

「随分好かれたねえネビル」

その先生のみならず、グラブリープランク先生までも笑っている。

「お前さんが優しいやつだって、その子たちにも伝わったんだよロングボトム」

ハーマイオニーもロンも、セストラルがどんな姿なのかは想像するしかなかったが、ネビルが顔をベロベロ舐め回されているらしい事だけはその表情と挙動から察せた。

 

そこで急に、7年生の女生徒にしか見えない先生が大きな声を出してネビルに駆け寄る。

 

「あー!ダメ!ダメだよグレース!ネビルは人間だからきみのお婿さんにはなれないの!」

「なに??僕なにをされようとしてたの先生???」

 

自分の傍に寄ってきていたセストラルの内、最も激しく顔を舐めてきていた1頭が速やかに旅行カバンの中に収容されていくのを見てネビルはより一層混乱を深める。一方、何が起きていたのかをその先生の発言から概ね察せてしまったザビニはニヤニヤ笑いが止まらなくなっていた。

「グレースはね、ちょっときみの事が大好き過ぎちゃったんだよネビル。気にしないで」

そして寄ってきていた中で最も控え目だった1頭をネビルは自分で選び、乗っかる。

「おいロングボトム、なんでソイツを選んだのか訊いてもいいか?」

早くもセストラルを乗りこなし始めているノットが興味深げに訊く。

「なんか、僕と、似てるような気がして……」

うまく言葉にできないネビルをよそに、一を聞いて十を知る理解力のノットは、ロングボトムの今の発言には自分が学び取るべき何かがあると察して考えを巡らせる。

「なあマルフォイ、俺は思うんだがロングボトムの奴、実はそんなにバカじゃないな?」

小声でそう言ったザビニと同じく、積極的になりさえすればネビルは自分たちの中でもむしろかなり優秀な方なのだと、ネビルと同じグリフィンドールの5年生たちは最近気づき始めていた。

 

「さ、コイツが先導してくれるから、その後ろを飛んでね―心配しなくても、全速力で飛んだってコイツには絶対追いつけないから思いっきり飛んでいいよ」

自分たちの飼い主が何を言ったのかちゃんと理解できている3頭のセストラルと大きなドラゴンは、あっさりと闘争心を煽られる。

一方「コイツって誰だよ」と思っているドラコの視界の中央で、その先生が前方に差し出した片手の先が光り輝いて炎に包まれた。

 

そこに現れた不死鳥はハリーの目には、今の状況と自分の役割を理解しているように見えた。

 

「ねえハーマイオニー、不死鳥って、どこまで賢いのかな」

「とっても。少なくとも、私達よりは賢いと思うわ」

 

まだ目から歓喜の光を発散しているハグリッドを乗せたヘブリディアンブラックのイメルダと、ノットとラベンダーとネビルをそれぞれ乗せた3頭のセストラルが横一列に並ぶ。

「ノットが跨ってる子の名前はノクチュア。ラベンダーのがミリアムでネビルのはトブズだよ」

先生の紹介を聴いて、3人が3人とも「よろしく」と自分のセストラルに挨拶した。

そしてファイアボルトに跨ったハリーがドラゴンとセストラルたちの間に入り、準備は完了した。

 

「さあ、ハリーのファイアボルトと、セストラルとヘブリディアンブラック。一番速いのは?」

「くれぐれも賭けたりするんじゃないよ。予測するだけだ。いいね?」

楽しそうに笑いながら他のセストラルたちのブラッシングを始めた先生に続いて、すぐ隣でそれを手伝っているグラブリープランク先生がそう言ったが、言われるまでもなく、生徒たちは思い思いの予想を口にし始めていた。

「ファイアボルトって、時速150マイルって宣伝してるよな?」

「そのくらいは出てるはずだ。試合中毎回嫌ってほど見てるからわかる」

ザビニとドラコは、現状最速の最高級競技用箒「ファイアボルト」の公称速度である時速240キロが誇大広告ではないという事をまず確認していた。

「魔法省はセストラルを、馬車を牽かせるのに使ってるわ。省のお偉方とか、逆に重罪人とかを運ぶために。どっちにしろ厳重な警備とセットで、警備担当の闇祓いはだいたい箒に乗ってる。つまり少なくとも、セストラルが箒に比べて遅すぎるなんて事はないはず」

「でも、ファイアボルトに乗ってるのはハリーよ?乗り手の技量も無関係じゃないはずよ」

パーバティとハーマイオニーも意見を交換している。

「乗り手の技量の話をするなら、ハグリッドも無視できないぜ?なにせ箒じゃなくてドラゴンに乗ってんだ。ハグリッドより上手くやれる奴、居るか?」

シェーマスの意見にも一理あると、グリフィンドールの面々は思っていた。

「去年の三校対抗試合の最初さ、あのハンガリーホーンテイルはファイアボルトに乗ったハリーに翻弄されてたけどさ、スピードじゃ別に、ハリーはぶっちぎっちゃいなかったよな?」

ロンは自分が過去見たものから判断材料を手繰り寄せようとしているらしい。

 

一方、競争をする当人たちはといえば、嬉しさで頭がいっぱいのハグリッドを別にすればハリーを含む4人とも、これが競争である以上負けるつもりなどさらさらなく、特に唯一のスリザリン生セオドール・ノットは、グリフィンドールの奴らなんぞに負けるわけにはいかんと決意していた。

「先生、セストラルたちは、今から何をするのかわかってるんですか?」

パーバティ・パチルのその質問に答えたのは、グラブリープランク先生だった。

 

「いいかい、ミス・パチル。魔法生物ってのはね、私らが思ってるよりずっと賢いんだ。それを私らが汲み取ってやれる事が少ないだけで、いつもちゃんとわかってるしちゃんと考えてるんだよ」

セストラルの子供に丁寧にブラッシングしているもう1人の先生も、振り向きもせずそれに続く。

「きみは経験してるだろう、ハリー?ダドリーくんやバーノンさん、それにペチュニアくんと一緒に行った動物園で、魔法生物ですらないただの蛇が、きみにお礼を言っただろう?どうだい?きみがパーセルマウスだったからその影響であの蛇が言葉を話せたんだと、そう思うかい?」

 

ファイアボルトに跨ったままスタートの合図を待っているハリーはそう言われて初めて気づいた。

確かにあの蛇は、仮に僕が蛇語なんて全く理解できなかったとしても、そうとは知らずに僕にお礼を言ったのだろうと。単にそれを僕が理解できていたかどうかが変わるだけで。

11歳の時に聴いたその「ありがとよ」という声を、ハリーは今でもはっきりと思い出せた。

そしてハーマイオニーが急に思い至ったその可能性を、その先生は肯定する。

 

「そうさ。動物ってみんな、僕らが思ってるよりずっとずっと賢いんだよ。だから信頼して、尊重してあげれば、素晴らしい相棒になってくれる―僕が皆にいつもどれだけ助けられてるか」

頭の上に乗った不死鳥に翼でバシバシ叩かれながらそう言った先生の言葉がまるっきりデタラメではないと感じながらも、その場のグリフィンドールとスリザリンの5年生たちの多くは未だ、その見解に諸手を挙げて賛同できるほどには魔法生物に親しめていなかった。

 

しかしそれでも、理解しようと努力はしていた。

 

「頼むぞ、ノクチュア。少なくともロングボトムの奴には勝ちたい」

「随分弱気だなノット!」

聞こえていたらしいザビニが背後から野次を投げかける。

「精一杯やってる!」

ノットはそう言い返すだけで限界で、上手い皮肉は何も思い浮かばなかった。それどころかロングボトムやブラウンを妨害するなどというラフプレーを試みる余裕は全く無いと早々に自己分析を終えて、こっそり取り出しておこうかと悩んでいた杖を元通りにしまい込む。

そんな逡巡を背中から全て読み取って、ザビニもドラコも「観客」の立場を大いに楽しんでいた。

 

「じゃあみんな、いいね?」

 

その発言が自分たちではなく3頭のセストラルと1頭のドラゴンに向けられたものである事に、自分が乗せてもらっているセストラルの一挙手一投足に見入っているネビルとヘブリディアンブラック種の勇壮なドラゴンの背に乗って歓喜の渦の中にあるハグリッド以外の皆が気づいていた。

 

一方、ホグワーツ城内ではフリットウィックが、マクゴナガルが、スプラウトが、そしてビンズまでもが各々の授業中に突如「こんなに天気が良い日は外に出るべき」と言い出した事に、その後ろに続いて城から出てきた生徒たちは大いに困惑していた。

「ん?お前らもかルーナ?」「なんで急に?」

「そうだよフレッド。それにジョージ。フリットウィック先生が外に行こうって」

「……ん??おいおいマジかよ、あれスネイプじゃないか。アイツまで???」

リー・ジョーダンが困惑する中、気難しい魔法薬学教授セブルス・スネイプもまた、スリザリンとグリフィンドールの3年生達を連れて城から出てきた。

「……なんだろうあれ。スネイプ先生、あれ、なんですか?」

そこに、ぼんやり光る白い霧の塊のようなものが宙を漂い近づいてきているのを見つけたグリフィンドールのロミルダ・ベインに訊かれて初めて、スネイプはそれに気づいたようだった。

「ふむ。守護霊呪文のようだが……随分不出来に見えるな。あるいはわざとそうしているのか」

そう言ったスネイプ先生がいつもよりほんの少し機嫌が良いらしい事に、アストリア・グリーングラスだけが気づいていた。

 

「それじゃあ3.……2.……1.……始め!!」

 

それは、セストラルに跨る3人にとっても、「参考記録」なる役割を与えられたハリーにとっても、そして他のセストラルたちに囲まれてそれを見守る他の皆にとっても、劇的な経験だった。

 

「「「ぅわぁ!!」」」

 

セストラルに跨った3人が、同時に同じ声を上げる。

一斉に翼を広げて飛び立った4頭の魔法生物は初速こそハリーのファイアボルトに及ばないものの、数秒で軽々と追い付き、競り合い始める。そしてそれを先導する不死鳥は、時折煽るように急接近したり「姿くらまし」で一気に距離を稼いだりしながら、優雅に飛行を楽しんでいた。

 

「はっや!!マジかよ!」

 

シェーマス・フィネガンの叫びは、そこに居る5年生たち全員の気持ちを代弁していた。

「おいおい、もう豆粒みたいにしか見えなくなったぞ……」

「ノット、生きてるかな」

驚く事しかできないらしいクラッブの横で縁起でもない事を口走ったゴイルを、ドラコが睨む。

「こりゃいくらハリーでも、厳しいかもな?」

そう言ったディーンの、普段なら他のグリフィンドール生から非難囂々であろうその意見に、ハッキリと異を唱える者は居ない。セストラルもドラゴンも、まさかこれほどまでに速いとはグリフィンドールとスリザリンの5年生たちはそれまで、誰も思っていなかった。

 

「わあああー!!わーー!!」

 

振り落とされないようにするので精一杯なラベンダー・ブラウンの少し前を飛んでいるネビルは、どうやら全てをセストラルに任せきっているらしく、景色など眺めながら呑気に笑っている。

「あ!スプラウト先生だ!僕らのこと見えるかなぁ」

競争しているということを覚えているかどうか怪しいロングボトムの態度とは裏腹に、それを乗せているセストラルの方はどうも闘争心に満ちているらしいとノットは冷静に分析しつつ、背後から着実に距離を詰めてきているポッターに追いつかれないコース取りを考える。

 

そして。

 

「うわはははははははは!!!!はーー、ははは!!こりゃあいい!!こりゃーいい!!!」

 

セストラルに負けない速度ながら最後尾を飛んでいるそのドラゴンの背の上でハグリッドは、3年生の頃、ダンブルドア先生様に初めてフォークスを見せてもらった時と同じ顔をしていた。

「おいおいおいおい、火ぃ吹こうとしてないかアイツ!!」

最初に気づいたノットが指示するまでもなく、セストラルのノクチュアは素早く上昇し射線から外れる。そして他2頭のセストラルも左右に別れて身を躱し、そこでやっと背後を見て状況を理解したハリーがギリギリ右に逸れた直後、恐ろしい勢いの炎が噴射された。

「えー!ちょっとハグリッド!!」

悲鳴を上げたラベンダーはその直後、自分を乗せてくれているセストラルのミリアムが全く慌てていない事に気づいた。

「ねえトブズ、もしかしてこのくらいいつもの事なの?いつもこんな風に競争してるの?」

ネビルは、そのセストラルが今の質問に対して肯定を返してくれているような気がした。

 

「さーあそろそろ来るよ!みんな空を見よう!!」

ぼんやり広がった守護霊呪文から聞こえた大きな声に、先生方に連れ出されて集った皆が従う。

 

「うわははははーー!……ははははー………!!!」

 

フレッドとジョージが見たのは、明らかに普通より体格の良いヘブリディアンブラック種のドラゴンが時折派手に火を吹きながら空を征くその背の上で大喜びしているハグリッドだった。

 

「……夢か?」「だな」

 

それに追いすがる3頭のセストラルにそれぞれ誰が乗っているのかを誰よりも早く見て取ったのは、ドラゴン皮の手袋を両手に装着したままのスプラウト先生だった。

「おやネビル。楽しそうだね!」

とんでもない速度で空を飛ぶお気に入りの生徒に手を振り返した薬草学教授から少し離れた位置で、スネイプの隣に立っていたアストリア・グリーングラスはその人物を見つける。

「あー、あれハリーじゃない?1人だけ箒に乗ってるの!」

「それと競っているのはミスター・ノットか………おっとその位置取りは良くないぞポッター」

スネイプがそう呟いた直後、先頭を飛ぶ不死鳥は急に方向転換する。

 

「え、うわ!」

 

ファイアボルトの性能のお蔭でそれほどにはカーブで膨らんだコースを飛ばずに済んだものの、それでも反応が遅れたハリーは少し離されてしまった。

 

「あ、ナイジェルとデニスだ。おーい!」

天文台の棟のてっぺんでシニストラ先生と共にこちらを見ているグリフィンドールの2年生達へ呑気に手を振るネビルをよそに、それを乗っけているセストラルのトブズはラベンダーが必死になってしがみついているセストラルのミリアムとデッドヒートを繰り広げている。

 

「ねえ、あれネビルじゃないかい?」「ほんとだ!それにハリーも!おーい!!」

「呼びかけたって聞こえやしませんよ」

興奮気味の2年生達に当然の事を指摘するシニストラ先生は「昼間でも見える星があるのです」と言って急に彼らを教室から連れ出したその張本人である。

「ねえシニストラ先生ネビルたちはなんで空を飛べてたの??何かに乗ってたの?」

「ああ、皆さんは2年生ですから『セストラル』以前に、魔法生物飼育学自体来年からでしたね」

それに続く天文学教授オーロラ・シニストラの説明に、マグル生まれのグリフィンドールの2年生デニス・クリービーとその友人ナイジェル・ウォルパートは揃って目を輝かせる。

 

「もう追いついて来たか、流石に巧いなポッターの奴は」

 

ハグリッドを背に乗せていることなど全く関係ない様子のドラゴンに追い付くべく頑張っているセストラルの背の上で、ノットは既に『ファイアボルトよりセストラルの方が速いらしい』ということに気づいていた。―しかし、だからこそ。

(憎たらしいが、ポッターの奴の才能は本物だな……)

やっと離したと思ったら次の瞬間アッサリ追いついてくるハリーの技術には、スリザリン生のノットが未だ備える認識の偏った色眼鏡越しですら、目を瞠るものがあった。

 

「なあ、僕はもしかして、お前の足を引っ張ってるか……?」

 

ノクチュアという名前だというそのセストラルの嘶きは、ノットには激励のように聞こえた。

 

一方で。

 

「お前さんイメルダって名前なんだってな!ええ名前だ!それにずいぶん速く飛べるんだなぁ!お前さんほど速えぇヘブリディアンブラックなんざ俺ぁ見たことねぇぞ!」

そのドラゴンは嬉しそうなハグリッドを背に乗せたまま、その人並み外れて力強い手が自分の背中をバンバン叩くのも気にせずに、軽々と空を駆け不死鳥を追う。

 

「だからその子はイメルダって名前なのさ、ルビウスくん」

 

パンジー・パーキンソンが1頭のセストラルにブラッシングを試みるのを見守りながら、その先生は100年以上前の学生時代を思い起こして静かに呟いた。

そして、セストラルを見る事ができないにも拘らず果敢に志願した者たちがあらかたセストラルのブラッシング体験を終えた頃。

「セストラルが気難しいんですか?それともマルフォイが気難しい奴だってバレてるんですか?」

遠慮無しのザビニが投げかけた質問に、グラブリープランク先生が「さあねえ」と言って笑う中、1人だけ明らかにセストラルから邪険にされたドラコはかなり不機嫌になりつつあった。

今日もまたプライドに傷がついたらしい繊細な友人の背中を見ながら愉快そうに笑い続けるザビニにつられて笑ってしまったクラッブとゴイルを、ドラコが無言で睨む。

そしてそんな男子たちを遠目に見物するのがスリザリンの5年生の女子たちにとって、刻一刻とO.W.L.試験が迫り授業の内容も日々難化していく中での、いつもの心の清涼剤だった。

 

「ねえ、スリザリンの男子っていつもあんななの?」

それまで「自分たちにいつも嫌味を言ってくる奴ら」としか認識していなかったパーバティ・パチルにとって、そんな「嫌味な奴ら」の普段の姿になど、興味を持つのも初めてだった。

 

「そうよ?いいでしょ。見てて飽きないわよ」

 

ダフネ・グリーングラスのその意見に頷けるようになったというのは、パーバティ・パチル自身もまだ自覚していない、大きくて小さな一歩だった。

「戻ってきた!」

真っ先にそう叫んだのは、ずっと空を見上げていたロンだった。

そして先頭を飛ぶ不死鳥は翼を大きく広げて炎と共に姿を消し、いつの間にやらまたも別人の外見になっていたその青年の頭の上に「姿現し」する。

 

「先頭はやっぱりイメルダだったね。で、それと競ってるのはノクチュアだ。トブズとミリアムもまだ勝てるよ!ほら頑張って!」

「この距離でセストラルの見分けがつくんですか先生」

「ん?だって顔が全然違うだろう?」

そもそもセストラルを見ることができないのを別にしても、それは自分にはまださっぱり理解できない境地だと、ハーマイオニーは思った。

 

「お、ノットのやつ頑張ってるじゃないか!……すごい顔になってるなアイツ」

「頑張ってるのはノットを乗せてるセストラルの方なんじゃないか?」

ザビニと機嫌が治ったらしいドラコが、遠くからとんでもない速度で飛来する友人を見ている。

「ラベンダー!頑張って!もうちょっとよ!」

「あ、ハリーが追いついてきたわ。抜かれちゃダメよブラウン!」

女の子たちは一丸となってラベンダー・ブラウンを応援している。

「ネビルはあれどっち向いてんだ??」

「ミスター・ロングボトムを乗っけてるセストラルの方はやる気いっぱいなんだけどねぇ」

シェーマスとグラブリープランク先生が言ったとおり、ハグリッドが乗るドラゴンとノットの少し後ろでラベンダーと競っているネビルは、1人だけ進行方向を見ていなかった。

 

「あのデカブツを乗っけてこの速度とは、恐れ入ったね」

 

いつもならくれぐれも先生方に聞こえないように気をつけていただろうドラコの率直な感想を、咎める者は誰も居ない。

「おい、これマズくないか」

「だいじょーぶだいじょーぶ。ちょっと下がっててねー」

一切速度を落とさず突っ込んでくるドラゴンと、それを追い抜かそうと頑張っているセストラルに、その先生は慌てず騒がず杖を向けた。

 

「アレスト・モメンタム!」

 

殆どの呪文が禄に効かない筈のドラゴンを、その先生はアッサリと急減速させる。

「ほぼ同時だったかな?どうだい、どっちの勝ちだい?」

問いかけられたそのドラゴンは嬉しそうに吼え猛り、セストラルは臥せて「負けました」と示す。

「優しいねえノクチュアは。ホントはちょっとだけ勝ってただろう?」

小さな声で青年にそう囁かれたそのセストラルが喜んでいるように、ノットには見えた。

「はいセオドール・ノットくん『ちょっとした賞品』」

「なんですこのちっちゃい宝石。……まあいただきますが」

「1週間以内にこれが何か解ったら20点あげるよ」

ノットはその碧色の宝石がそこそこ高価な物なのだろうとは察して、大事にしまい込む。

 

「おかえりハリー!」

「ただいまハーマイオニー」

ハリーにとって、負けたのに全く悔しくないというのは初めての経験だった。そんな些末な事よりも遥かに大きな思いがハリーの中で渦巻いていた。

 

「魔法生物って、ほんとに凄いんですね。先生。僕、追い付くので精一杯でした」

「そうさ!みんな凄いんだよ。周りが思ってるよりずっとね」

 

「わー、わー……!私ほとんどなんにもできなかった!けど―」

着陸したセストラルから降りるなり女の子たちに取り囲まれたラベンダーは、真っ先に駆け寄ってきた親友の目を見つめ返す。

「どうだった、ラベンダー」

「すごく楽しかったわ、パーバティ!」

 

そして、ハッと我に返ったネビルが慌てた様子で口を開く。

 

「先生、僕途中でアンブリッジ先生と目が合っちゃった!」

 

それを聞いたその青年の行動は速かった。

「ディーク、グラブリープランク先生を校長室にお送りして。それとお前はイメルダと一緒にカバンの中に入ってて。ルビウスくん、きみの授業に横入りしてホントにごめんね!続けてて!」

現れた屋敷しもべ妖精は魔法生物飼育学臨時教諭の手をとって「姿くらまし」し、まだ感動で何も耳に入らないらしいハグリッドの目の前で、そのドラゴンの頭の上に飛来した不死鳥が翼を広げ、ドラゴン諸共炎に包まれて姿を消す。

ハリーたちグリフィンドール生はハグリッドを庇うようにその周囲に集まり、スリザリン生たちは案の定やってきたその全身ピンクの中年の魔女を睨みつけたいのを我慢していた。

 

「一体、何を!やっているのです!」

「あ、やあドローレスくん。どしたの血相変えて」

 

怒髪天を衝く様相のアンブリッジの顔には、いつもの貼り付けたような厭らしい笑みが無い。

「そこの半巨人がドラゴンに乗って飛んでいたのです!!私は見ましたよ!」

「何いってんの?ドラゴンなんてどこに居るのさ?ドローレスくんほんとに大丈夫?」

「誤魔化しても無駄です!引き渡しなさい!」

「はー、魔法大臣付上級次官ともなるとドラゴンを1人でどうにかできるんだ。すごいねえ!」

ハリーたちグリフィンドール生も、ドラコやノットを始めとするスリザリンの面々も、笑いを堪えるので必死だった。

「第一、あなたは闇の魔術に対する防衛術の教職を解かれたでしょう!なぜまだ居るのです!!」

「仰るとおり、僕はもう『防衛術』の教師じゃない。つまり担当する教科を持ってない単なるホグワーツの先生って事になるね。今後とも☆よっろしくぅ!!」

そのあまりにもあまりな屁理屈を聞いてザビニが吹き出しそうになっている一方、それを言った先生がアンブリッジに対して両手でピースしながらウインクまで決めるのを目撃してしまったハーマイオニーは目が点になっている。

 

「あなたは、私が、誰だか解っているのですか!」

「え?うん。知ってるよ?エレン・クラックネルさんとオーフォード・アンブリッジくんの娘さんでしょ?弟くんとはもう連絡取ってないんだっけ?まあ色々あるよね人生って」

 

アンブリッジの顔から完全に表情が消えるのを見て、それが「最も触れられたくない話」なのだということを、ハリーとドラコは察せてしまった。

 

「………結構です。あなたがそういう態度なら、私も対応の仕方を考えなければいけません」

 

それだけ言って去っていったアンブリッジが一体何をするつもりなのかハリーたちは戦々恐々としていたが、当の先生はと言えば、普段どおりの気軽な笑顔のままだった。

「んもー。気難しいねえドローレスくんは」

そして、魔法大臣付上級次官にしてホグワーツ高等尋問官であるドローレス・アンブリッジは、今までのキャリアで果たしてここまでのものを経験したかというほどの焼け爛れるような怒りの中で、ひとつ確信した事があった。

 

あの不快な不審人物には法や権威などいくつ並べてもダメで、ただ実力行使以外無いのだと。

 

 





次はこういう場面が書きたいな(その1)
でその次こうなって(その2)
で最後こういう展開(その3)になるところまでで1話かな

と思っていた内の(その1)がなんかめっちゃ膨らんで
それだけで1話埋まったのが今回の話ですね

不思議。

Q.エレン・クラックネルとオーフォード・アンブリッジって誰だよ
A.公式設定にある「ドローレス・アンブリッジの両親」。母エレンはマグルで、父オーフォードは魔法ビル管理部勤務の魔法省職員。弟はスクイブ。スクイブが生まれたのは母親のせいだと考えたオーフォードとドローレスは母エレン及びスクイブの弟と縁を切り、ドローレスは出世と縁遠い地味な部署に居た父親のことも軽蔑していた。

ドローレス・アンブリッジ≒ヴォルデモート卿
 愛というものが「元から無かった」トム・リドルに対して
「自分で全部捨てた」のがドローレス・アンブリッジという生き物だと
 個人的には思っている。母親には愛されてたんだろうに。

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