104年後からの今   作:requesting anonymity

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13.面談

クィディッチ競技場からどうにかこうにか逃げてきたハリーたちグリフィンドールクィディッチチームとその練習を見物していた数人の生徒たちは、マクゴナガル先生に訊く。

「ディメンターたちは、これ、何がどうしたんですか?」

「わかりません。わたくしにも。………無力化されたらしいという事しか。ですが皆さん。相手は吸魂鬼です。万が一という事がありますから、さあ早く城の中へ」

みんながマクゴナガルに急かされてホグワーツ城の中へ入ったところで、デニス・クリービーがふと抱いた疑問を投げかける。

 

「ねえ、あんなにたくさんの吸魂鬼を、ホグワーツまで連れてきちゃって良いの?それに動かなくなっちゃったけど、あの。吸魂鬼ってどこだっけ、魔法使いの監獄の看守なんだよね?」

「ええそうです。ミスター・クリービー、よく覚えていましたね。吸魂鬼は北海の中央にある監獄『アズカバン』で看守を務めています。しかし任務に忠実というわけではありません。単に『餌が供給されるから』そうしているに過ぎず、吸魂鬼は誰に対しても忠誠心など持たない闇のものです。そして、吸魂鬼が居なくなるのではないかという心配は、無用です―アナタはこれが何故なのか答えられますねミスター・ウィーズリー」

 

急に話を振られてびっくりしたロンは、しかしどうにかこうにかその知識を思い出した。

「それは、それはディメンターってのは、そもそもから生きてもいないし、だから死ぬこともない。ヤツらは絶望とか悲しみとか、そういうものが増えるのに合わせて………勝手に増える。で、一番たくさんいるのがアズカバンだって事を考えると、まあ居なくはならないと思う。だって、前にパパが言ってたけど、大昔にアズカバンが見つかった時の報告じゃディメンターは『調査隊が見つけた中で最もマシなもののひとつ』だったって。それってつまり、もっとゾッとしないものがあそこにはいくらでもあるんだろ?『絶望』ってやつがさ。だからディメンターが『足りなくなる』なんてこと起きないよ。それに、仮にそうなったって、誰が困るって言うんだ?あんなの世界中のどこにも居ないほうがいいに決まってる!」

マクゴナガル先生がそれに「わたくしもそう思います」と返し、ハリーが全身で同意を示す。

そして一行がホグワーツ城内、鐘楼棟1階ホールの「うっかりスカグルソープ卿」のひしゃげた鎧の傍を通り過ぎたちょうどその時。幾つもの足音が近づいて来たかと思うと向こうの扉が勢いよく開き、切羽詰まった声が響いた。

 

「アストリア!ああぁ良かった……心配したのよ!」

何人ものスリザリン生を引き連れているように見えるダフネ・グリーングラスがその実、友人たちの制止を無視して駆け出したが故にパーキンソンもマルフォイもノットもザビニも皆、全員で慌てて追いかけてきたのだろうという事が、マクゴナガルには察せた。

「皆さんもご無事で何よりです、ミスター・マルフォイ。先程まではどちらに?」

「ノットの奴が図書館に行くというので、じゃあついでに宿題を、と思いまして。移動していたらグリーングラスが『今窓の外にディメンターが見えた』と言って駆け出したので……」

そう答えながらもまだ息を整えきれていないドラコの背後では、クラッブとゴイルが膝に手を着いてゼエゼエ言っている。

 

「すっごくいっぱいのディメンターに囲まれちゃったけど、ハリーたちが助けてくれたのよ!」

姉に抱きしめられながら、アストリア・グリーングラスは興奮気味に言う。

「……じゃあ、本当なのかグリーングラス。ディメンターが城の外に居るってのは」

「自分の目で見てみればいいだろ、マルフォイ」

ロンが横から雑な言葉を投げたが、意外にもノットとザビニが反論も何もせずそれに従う。2人はハリーたちの背後の扉に杖を向けて、ほんの少しだけ開くとそこからそっと外を覗いた。

 

「…………!!」

「アンブリッジは、よっぽど先生を捕まえたいらしいな」

無言のまま眉間にシワを寄せたノットとは対照的に、ザビニは少し面白そうにしていた。

そして再び扉は閉められ、ザビニがスリザリンの友人たちに「山程居る」と伝える。

 

「おいポッター」

「なに、ノット」

「……ありがとう」

 

聞き間違いなのではないかとすら思っているハリーたちをよそに、スリザリン生たちは去っていった。去り際に振り向いて「ありがとハリー!それにみんなも!またね!」と言いながらブンブン手を振るアストリアと、ハリーたちに深々と頭を下げるその姉ダフネを見ながらも、まだハリーもロンもハーマイオニーも呆気に取られていた。

「アイツら、何か変なもんでも食べたのか?」「明日は大雨だぜ、こりゃ」

フレッドとジョージがそう言ったのを聞いて、ハリーは思い出した。

 

「そうだ、マクゴナガル先生!さっき、フレッドとジョージが守護霊呪文!一発で成功させたんです!僕、なんにもしないより良いだろうって思って皆に、咄嗟に教えたんですやり方。そしたらフレッドとジョージは―1回で!」

マクゴナガルは、目を丸くしている。

「それは、本当なのですか。嘗てわたくしは守護霊呪文を習得するのに散々苦労しました。何ヶ月も。校長先生でさえ大変な苦労をなさって身につけたと聞いています。守護霊呪文は、誰しもがそうしてやっとの思いで身につけるもので、全くできなくても何も恥ではない呪文です。それを―」

そこでフレッドとジョージは、お互い微笑みを交わした。いつも通りに、至って気軽に。

 

「「エクスペクト・パトローナム!!」」

 

2人の杖の先からそれぞれ出現した青白く光る霧のようなものが2羽のカササギを象って羽撃き飛んでいくのを、ミネルバ・マクゴナガルは半ば呆然として目で追った。

「フレッド・ウィーズリー。そしてジョージ・ウィーズリー。今この場でアナタたちに得点をあげると、わたくしは、恥ずかしながら公正公平な判断を下せる自信がありません。ですのでこの事は、フリットウィック先生にお伝えして、彼の呪文学教授としてのご判断に任せようと思います」

2人それぞれ500点ずつと口走りそうになったマクゴナガルは、必死に己を律していた。

 

「僕、守護霊呪文覚えるのすっごく苦労したんだ。今だって、絶対成功するってわけじゃない」

「フレッド、ジョージ。アナタたちって……」

ハリーもハーマイオニーも身の安全が確保された事で冷静さを取り戻して、一旦脇へ置いていた驚きがまたぶり返してきていた。

 

一方、全く行動しないまま何やら徐々に力無く高度を落とし始めた吸魂鬼たちを、地上から見上げている人物が居た。普段こういう場合に駆り出される管理人アーガス・フィルチはスクイブであり、吸魂鬼を見る事ができない。つまり、彼以外の誰かが「これ」を、どうやら無力化されたらしい夥しい数の吸魂鬼の群れを、片付けなければならない。

 

「棒かなんかで思いっきり叩いてやったら飛んでってくれんもんか……」

 

守護霊呪文を使う事ができないハグリッドは、そう呟いてから、とりあえずダンブルドア先生様のご判断を仰ごうと思い立って早足で校長室へと向かう。

同じ頃、その校長室にはセブルス・スネイプともう1人の先生が戻ってきていた。

「やあアルバス。吸魂鬼はもう心配いらないよー」

「ありがとうございます。先輩」

「生徒たちは皆、無事に城の中に避難しました。ポッターたちはちょうど競技場でクィディッチの練習をしていたので少々危なかったようですが、被害を受けた生徒はいません」

「ご苦労じゃった、セブルス」

校長に軽く頭を下げてから、授業があると言ってセブルス・スネイプが立ち去ろうとした瞬間、マクゴナガル先生が校長室へとやってきた。

「ご苦労じゃった、ミネルバ」

「……どしたのミネルバくん。………すっごい嬉しそうだけど」

普段からグリフィンドールとスリザリンの寮監として互いに対抗意識を燃やしているセブルス・スネイプは察していた。「聴いてくださいアルバス!」と喜色満面のマクゴナガルを見ながら。

「ミス・ジョンソンたちグリフィンドールのクィディッチチームは競技場で練習をしていた最中に吸魂鬼の群れに目をつけられたのですがポッターを中心に素早く防御陣形を取ったようで」

 

―ああ、自分は今から自慢話を聞かされるのだ、と。

 

「ポッターは即座に守護霊呪文を唱えたようで、私の守護霊が到着した時には既に練習を見学していた生徒たちも含めて全員で固まって身を守っていたらしいのですが聞いて下さいアルバス―」

とめどなく喋り続けるマクゴナガルに、ダンブルドアもその隣の先生も気圧されていた。

「聞いておる。聞いておるともミネルバ……」

「―あの2人がポッターに守護霊呪文の唱え方を訊ねたらしいのです。そしてポッターは教えた」

急に普段の喋り方に戻ったマクゴナガルは、また嬉しそうに微笑む。

「フレッドとジョージが1度で成功させたのです!あの子たちの守護霊はカササギです!!」

 

ダンブルドアも、スネイプも、そしてもうひとりの先生も、開いた口が塞がらなかった。

 

「あの双子は、いつでも、心地よい驚きを齎してくれる」

 

ダンブルドアがそう呟くのを聞きながら、スネイプはただただ驚いていた。あのいつも厄介なウィーズリーの双子に才能が無いとは思っていなかったが、まさかここまでとは。

「いったいいくつ点数をあげれば良いのかをフィリウスに訊いて来なければいけませんので私はこれで。ああアーサーとモリーにも手紙で知らせてあげなければ!」

マクゴナガルが嵐のように喋り切ってパタパタと校長室から去っていった後で、その青年はスネイプとダンブルドアの顔を交互に見る。

 

「……ねえ、ミネルバくんって生徒の前以外だとわりかしあんな感じだったりするの?」

「かつて、チャーリー・ウィーズリーがグリフィンドールクィディッチチームのキャプテンだった頃に、1度だけ見た事がありますな」

「……我がスリザリンに1320‐0で勝利した時ですな」

「えっなにそれは」

 

スネイプがその「最悪のシーズン」の思い出話を仕方なく語っている頃、呪文学の教室の奥にある自分のオフィスに居たフィリウス・フリットウィックは、柄にもなく大喜びしている同僚の息継ぎすらない早口の自慢話を聴き終えて「今度の授業の最初に、あの2人にそれぞれ60点ずつ与える事としましょう」とどうにか返答をした。

そしてマクゴナガルはそのまま真っすぐ教職員棟にある自分の私室へと向かい、モリーとアーサーに、そして自身の2人の弟ロバートとマルコムにまで久し振りに手紙を書いたのだった。

 

一方。校長室ではその青年のふとした発言から、思わぬ事実が発覚していた。

「……それは、本当ですかな。先輩」

「うん。僕見てきたもん。そんで聞いたよ。なんか危ない感じの女の子が『ベラトリックス』って呼ばれてた―見てもらったほうが早いな」

そう言った青年は自分のこめかみに片手の人差し指を当て、頭の中からドロリとした銀色のものを引き出し指先でくるくる回して2つの小さな雫を作ると、それをダンブルドアとスネイプの顔へとそれぞれ飛ばした。

避けようと思えば簡単に避けられるゆっくりとした速度で宙を進むそれを示して、青年は言う。

「どっちかの目で受け止めて。それで『憂いの篩』とおんなじ事になるから」

「相変わらず器用ですな、先輩は」

ダンブルドアの目に、その滴がかかり、広がる。

 

それはヴォルデモート卿にとって、仮に全く上手く行かなかったとしても特にこれといって問題は無い、あくまでも「試し」の謀略だった。

「……どうだ、そろそろ載ってるかベラトリックス?」

「自分で読みゃいいだろドロホフ。魔法省の奴らが実際にはどのくらいやれるもんなのかを確かめてやろうと思ってたんだが……どこまで肝が小さいんだいあの男」

マルフォイ家の邸宅、その一角にある部屋で、アントニン・ドロホフとベラトリックス・レストレンジが何やら話していた。

「再び御身に仕えさせていただける喜びを噛み締めております、我が君」

「俺様は忠誠には褒美で報いるのだ、ドロホフ」

部屋の奥の暗がりから、不気味な声が響く。

「しかし、俺様はそれほど丁寧には、他の虜囚共の記憶を弄っておらぬ……アズカバンの外壁に開けた穴も単に直しただけで、保護呪文までは修復しておらぬ……極めて乱雑に隠蔽工作をしたのだ。よほどの愚か者でも無い限りいい加減に気づいて良い頃だ………そこらの奴らならともかく魔法大臣閣下その人ともなれば、すぐに魔法法執行部から報告が上がるだろうに………まさかヤックスリーめに上げさせた『脱獄の形跡有り』という報告を受け取って尚ひた隠そうとするとは」

ヴォルデモート卿はせせら笑い、ドロホフとレストレンジもそれに追従した。

「ともすれば俺様は魔法省を、過大評価していたやもしれん」

そこで雲間から部屋に眩い日光が差し込み、それを嫌がったドロホフが窓をカーテンで覆った。

 

「……由々しき事態ですな」

「そうなの?」

 

昨今の世情に疎いのか単に忘れているだけなのか、その青年はピンときていないようだった。

「ドロホフとレストレンジは2人とも、アズカバンに収監されているはずの人間だ。奴らがマルフォイ邸に居るならそれ即ち、他の『過去アズカバン送りになった死喰い人』もあらかた脱獄していると考えるべきだ…………魔法省に知らせるべきではありませんか校長?」

「………ああぁ、なーるほどねぇ……そっかそっか。でもそれじゃダメだよ。コーネリウスくんには既に報告が上がっているだろうから。知ってて知らない振りしてるんだよあの子。怖いから。だから僕が部下に手紙書いて『アズカバンで集団脱獄』って噂流させるよ。『ウチの部署』で噂になってるって事になれば魔法省の誰も無視できないから。それと―」

「騎士団のメンバーにも知らせねばならん……フィニアス」

そのダンブルドアが学生だった頃にホグワーツの校長を務めていた老人の肖像画は、言われるまでもなくグリモールド・プレイス12番地にある己の肖像画へと既に向かっていた。

「セブルス、すまんが先生方全員に、知らせに行ってくれるかの」

言われて即校長室から出て行くスネイプの背を見送りながら、その先生は己の不死鳥に一通の分厚い封筒を託していた。

「さあ。これをダイアゴン横丁にある『日刊予言者新聞』の本社の、バーナバス・カフ編集長のオフィスに。置いてくるんじゃなくて君が彼本人に直接渡してね。いいかい?」

その不死鳥もまた、速やかに任務を遂行するべく炎とともに「姿くらまし」する。

 

そして、もう1羽の不死鳥フォークスと、ダンブルドアとその青年だけがその場に残る。

「ま、遅かれ早かれ起きることが実はもう起きてたってだけだね」

「由々しき事態ですが、かといって慌てても何にもならんのもまた世の理ですな」

2人の間に、束の間の沈黙が漂った。

 

「コーラとか飲むかい?アルバス」

「いただきましょう、先輩」

 

言うが早いか丸テーブルと3脚の椅子が出現し、テーブルの上にお菓子が満載されていく。

そして最後に「コカ・コーラ」と「ペプシ」の瓶が幾つか宙に浮いて並んだ。

「ねえ、今ってさ。もしかしてチャンスじゃない?」

青年はペプシを魔法も道具も使わず素手で開栓しながら言う。

「何の話ですかな、先輩」

そう問い返しながらも、ダンブルドアは早速マフィンに手を伸ばしている。

「ディーク!今ちょっと良いかい!」

説明もせずに行動開始する青年を眺めながら、ダンブルドアは3個目のマフィンを頬張る。

「ディークに何か御用でしょうか?」

名前を呼ばれた途端に現れた屋敷しもべ妖精に、青年は指示を始める。

「えーっと、まずは……誰が良いかな。ねえアルバス、誰が良いと思う?」

「ドーリッシュなどは、如何でしょうか。ジョン・ドーリッシュ。優秀で職務に忠実な男です」

「じゃあそうしよ。ドーリッシュくんを、今からここに連れてきて。他の誰にもバレないように」

「かしこまりました」と言って再び姿を消した屋敷しもべ妖精と入れ替わりに、そのポルターガイストは壁をすり抜けて校長室に侵入して来た。

 

「今、俺様を呼んだろ?兄弟。……おやこれはこれはダンブルドア校長先生様」

「おや、お元気そうで何よりじゃ。ピーブズ殿?」

「お蔭様でもうすっかり良くなりましたよ校長先生!」

 

ポルターガイスト相手に冗談を返したダンブルドアを見て、青年は笑う。

ピーブズがダンブルドアに対していつも敬意を持って接するのは、ダンブルドアならば自分をホグワーツから追い出す事すら可能なのではと恐れている事の他にもうひとつ。

「ピーブズさ、割とアルバスの事好きだよね」

「そりゃ校長先生様は粋だからな!」

いつも飛んでくる上品な冗談がとても楽しいからでもあるのだろうと、青年は思っていた。なにせピーブズはアルバスが1年生だった「あの頃」既に、他の生徒に対して見せるのとは少し違う態度でちっちゃかったアルバスに接していたから。

 

「呼ぼうと思ってたよピーブズ。……ちょっとドローレスくんで遊んでてほしいんだけど」

「おお安い御用だぜーぇ!」

「はいこれフレッドとジョージの新作。まだ試作段階だから『死なない奴』か『死んでもいい奴』に試してほしいんだってさ」

その色とりどりで禍々しい花火の詰め合わせを受け取って、ポルターガイストはスゥーっと溶けるように姿を消した。

「しょーぅがねぇーなぁ俺様がガマガエルをとびっきりカラフルにしてやるよぉー!」

という楽しそうな言葉を残して。

 

一方、闇祓いたちはどうやら無力化されたらしい吸魂鬼たちと状況が飲み込めないのか吸魂鬼相手に大声で発破をかけているアンブリッジ上級次官を尻目に、件の「凶悪犯」を発見し逮捕するべく数人ずつに別れてホグワーツ領内を警邏し始めていた。

 

「2人と一緒の組でホントに良かった………ちょっと気楽……」

「凶悪犯がホグワーツに居座っているという緊急事態にあってその態度は何だねトンクス」

「えっ、あっ。ご、すいませんシャックルボルトさん……」

そういえば普段のキングズリーはこういう感じだったと、トンクスは思い出して合わせる。

「ディセンディウム」

そんな2人と共に来た4階の廊下で「隻眼の魔女」像に合言葉を唱え隠し通路を出現させたドーリッシュはその奥を除き、更に呪文を唱える。

「ホメナム・レベリオ……生徒が1人、ハニーデュークスに行こうとしているようだ」

「生徒は別に良いんじゃないの?生徒に変装してるんなら別だけど……」

 

しばらくその隠し通路の奥へと杖を向けていたドーリッシュは、やがて「変装ではない。生徒だ」と結論を出してもう一度隻眼の魔女像を杖で叩き、隠し通路への入口を閉じる。

 

その直後、パチンバチンという大きな音が響いた。

 

「ん?あれドーリッシュは?」

「たった今屋敷しもべに拐われた」

 

トンクスとキングズリーは、暫し無言のまま視線を交わす。

「……ドーリッシュは隠し通路の中を調査しに行った」

「ちょっと長くかかるかも」

そういう事にしておこうと素早く口裏を合わせた2人は、何食わぬ顔で見回りを続けるのだった。

 

一方。

 

「おやおやおやおやそれじゃあお前たちが、私から大事な家族を取り上げようとしてるのか?」

 

ホグズミードにある「かの凶悪犯」の自宅兼店舗に、店主と屋敷しもべ以外に住人は居ないという事前情報だったその建物に踏み込んだサヴェージとヤックスリーは、全く予想だにしていなかった脅威に行く手を阻まれていた。

ドラゴンでも暴れたのかと思うほどの荒れ様だった店内の奥にあった、地下へ降りる開けっ放しの隠し通路に、踏み込んだのが間違いだった。

 

「ヤックスリー!応援を呼ぶべきです!!」

「それじゃお前は自分がどっちから来たのか覚えてるのかサヴェージ!」

 

また部屋が丸ごと90°回転して壁が床に、床が壁に壁が天井へと変化していくのを見ながら、闇祓いでありながら死喰い人でもある闇の帝王の下僕ヤックスリーが呻く。

「なんだ、亡者か……?」

ヤックスリーがそう呟いた途端、何度目かわからない声が響く。

「凝り固まった考えってのはそこまで視野を狭めるんだねぇー!」

そして、通路の向こうからぞろぞろ現れたそれが何なのか、サヴェージは漸く気づいた。

「亡者じゃない!マネキンだ!」

そう言いつつ「木製なんだから火が効くのでは」と考えたサヴェージは無言で杖を振るい迫りくるマネキンの群れを爆破するが、マネキンたちは小魚の群れのように統率された動きでそれを躱す。

「言っとくがウチにあるマネキンは、お前らが捕まえようとしてる奴の練習相手を100年以上ずっと務めてる歴戦のマネキンだからな~?!簡単な相手じゃないぞ?」

隙あらば煽り文句を投げかけてくるその声に、優秀な闇祓い2人は着実に集中力を削られていた。

 

そしてホグズミードの一角でサヴェージとヤックスリーが窮地に陥っているのと同じ頃、ドーリッシュも同じように窮地に陥っていた。

 

「お、久しぶり……です。ダンブルドア……」

「ディークはミスター・ドーリッシュをお連れしました」

「ありがとねディーク~」

 

ホグワーツの校長室で、歴戦の闇祓いジョン・ドーリッシュは戦慄していた。正面にはアルバス・ダンブルドア。その隣には自分たちが逮捕するべき「ダンブルドアの先輩だという凶悪犯」当人。

「きみがジョンくんだね?どうぞどうぞ座って座って。一緒にお菓子食べながらお話しよ!」

百味ビーンズを深皿に移した後の空き箱をムシャムシャ食べながらそう言った派手なメガネの青年とダンブルドアを交互に見ながら、ドーリッシュは両手で構えていた杖を下ろした。

 

「今から何の話を持ちかけられるのか。わかっておるの?ドーリッシュ」

「ねえねえアルバス。この状況じゃジョンくん『断る』って言えないんじゃない?」

 

お菓子をもりもり食べながら気軽な様子で話す2人と共にテーブルを囲まされて、ドーリッシュは生きた心地がしなかった。なにせ、単に実力だけで言うなら自分は、この2人のどちらかが指先をくるりと回しただけで死ぬより酷い状態に陥る事すら充分に有り得るのだ。そしてダンブルドアは決してそんな事はしない人だが、もう片方の「この青年」は果たしてどうなのか判らない。

「ねえねえジョンくん今すぐ死ぬのとこのまま闇祓い続けてヴォルデモートの良いように動かされるのとナイショでアルバスの味方になるのだったらどれがいい?」

答えをひとつ間違えるだけで殺されると、ジョン・ドーリッシュは確信する。

しかし、ダンブルドアはあくまでも普段通りだった。

「先輩、知っておりますかな。かつてこのミスター・ドーリッシュはN.E.W.T.試験において全ての教科で最高評価の『優』を獲得した数少ない生徒の1人なのです」

「ええ、ホントに?ヘクターでも1つか2つは『良』が混じってたのに?!すごいねえきみ!」

青年がそう言いながら、自分たちが座っているのと同じ椅子をもうひとつ用意してそれをずっと立ったままその場で待機していた屋敷しもべ妖精に「ごめんごめん」と言いながら勧めるのを、ドーリッシュは見ていた。

 

「のう。ドーリッシュ。このわしに、そしてハリー・ポッターに、手を貸してくれんかの」

「………手を貸すという言葉の意味するところは?」

 

そして数分後、ホグワーツ城内の廊下を歩いていたトンクスとキングズリーの耳に再びバチンという音が響き、屋敷しもべとそれに連れられたドーリッシュが戻って来る。

「お前ら今までよくもヌケヌケと………」

「きみもこれからはそうするんだぞドーリッシュ」

じっとりと睨みつけてくるドーリッシュを見ながら、キングズリーはドーリッシュが今までどこで何をしていたのかもどんなやり取りがあったのかも全て察して平然とそう返した。

 

「失礼します」

「えぇ?!」

 

またバチンと音を立てて姿を消した屋敷しもべに、既に仲間なのだから勧誘などする必要が無いはずのトンクスが拐われていったのを見て、キングズリーとドーリッシュは首を傾げる。

「……まあトイレにでも行ったのだろう」

「生理現象だからな。仕方無い」

キングズリーは先程トンクスとそうしたように、ドーリッシュともすぐに口裏を合わせた。

 

「えっえっどこなのここ。ねえアナタどこなのここ」

「ディークはそれを誰にも教えてはいけない事になっています」

「おやこんにちはディーク。ペニーはアナタに会えて嬉しく思います」

「こんにちはペニー。ディークも嬉しいです」

 

どこなのかは判らないが窓が1つも無いあたり地下階ではあるらしいその広くて天井の高い廊下で、積み上がったマネキンの山が通路の一角を封鎖しているのをぼんやり眺めながら、トンクスは「警戒を解くべきではない」という冷静な判断と「さては今から『噂の先生』に会えるのでは」という心躍る期待の間で揺れていた。

 

そして彼女の前に、それは現れた。

 

「おや、それじゃあお前さんが今からこの私と遊んでくれるのかい?」

 

トンクスは眼の前に浮かんでいるその男がゴーストにしてはハッキリしている事と、何よりその言動と表情から正体を察する。―ここまでテンションの高い「ゴーストらしきもの」といえば即ち。

「……あんた、ポルターガイストか」

「ああ、名乗っていなかったね!私はお察しの通りポルターガイストだ。ずっとここに住んでる。このペニーと、我が最高の遊び相手と3人仲良くね」

そのポルターガイストは空中でくるりと一回転すると、恭しく一礼した。

 

「こんにちは。私はファスティディオ。そしてこっちが―」

ポルターガイストがそう名乗った瞬間にそのポルターガイストのすぐ横、トンクスの眼の前の空中が眩く輝いて火を吹き、不死鳥と共にその青年が姿を現す。

「やあやあ。君がトンクスくんだね。はじめまして!……ねえ、もし良かったらなんだけどさ―」

その青年は、ぐいっとトンクスに顔を寄せると、お互いの鼻が触れそうな距離で続きを口にする。

 

「―お尻触っていい?」

 

トンクスは反射的に、全力の平手打ちを見舞った。

 

 




 
ジョン・ドーリッシュ
 N.E.W.T.試験で全教科最高評価を取ったという優秀な闇祓い。
 善良で職務に忠実な人物なのにもかかわらず、原作本編では
 驚くほどの巡り合わせの悪さにより終始ハリー達の敵で、
 最終的にネビルのばあちゃんを捕縛しに行って返り討ちに遭った
 という話がネビルの口から語られてそれっきりというミスター不遇。
 ファーストネームすら原作者がファンとのやり取りの中で後から決めた。
 
 前から「悪い奴じゃないんだろうな」って思ってたんだよね

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