104年後からの今 作:requesting anonymity
クィディッチシーズン中止の急報を受けて憤懣遣る方無いホグワーツの生徒たちは皆、次々と怒りのままに羽ペンを走らせフクロウ小屋へと向かった。
ハリーはシリウスに手紙を書いたし、ロンはパパとママに、ハーマイオニーも珍しく不満を書きなぐった手紙を親に送った。ドラコも、ノットもパンジー・パーキンソンも親に手紙で不満を訴えたし、他の多くの生徒達もそうだった。
しかし、フレッドとジョージだけは違った。
「なあ、それ誰宛の手紙なんだ?親じゃないんだろ?」
リー・ジョーダンが訊ねる。
「場外乱闘には場外乱闘で」「盤外戦術には盤外戦術で返すのが礼儀ってもんだ」「だから俺たち、一番この話を耳に入れちゃいけない奴に手紙を書いたんだ」「ブチ切れるぜ、アイツ」
ジョージが示したその羊皮紙の隅に書かれた宛名を読んで、リー・ジョーダンはニヤリと笑う。
「……やっぱり、お前ら天才だ」
生徒の中ではこの双子だけが既に、寮対抗クィディッチ再開に向けた作戦を開始していた。
フレッドとジョージが送ったそれほど長くもない一通の手紙は「あの先生」の行動と合わさって、あっという間に大きな波風を巻き起こす。
フレッドとジョージの作戦通りに、リー・ジョーダンが予想した通りに、その男は憤慨していた。
「おい、どうした。その手紙に何が書いてあるんだ」
ホグワーツから遠く離れたとあるクィディッチ競技場、その選手控室で、体格の良い男がチームメイトに訊く。思わず訊かずには居られないほど、その表情は怒りに満ちていた。
「……ホグワーツの後輩からだ。魔法省から来た役人が、観客席に居た自分が怪我しそうになったからって理由で、一方的に今年の寮対抗クィディッチを中止にしたらしい」
その言葉を聞いた体格の良い男の反応は、極めてシンプルだった。
「殺そう」
体格の良い友人の物騒な提案に、フレッドとジョージからの手紙を読み終えたオリバー・ウッドは表情で同意を示す。そして彼らの怒りは、そこに居た他のチームメイトたちのみならず、一軍選手たちやチームのスタッフ、経営陣にすらも瞬く間に伝播していく。なにせ、みんなクィディッチがこの世の何より好きなのだ。彼らにしてみれば、ホグワーツの生徒たちからクィディッチを奪うという事は、全ての未来を奪ってしまう事に等しかった。
「ホグワーツの寮対抗リーグが1年行われないだけで、一体何人の将来有望な生徒たちが『箒から降りてしまう』ことか。イギリスのクィディッチ業界が受ける将来的な損失は計り知れん」
パドルミア・ユナイテッド2軍コーチのその言葉は、業界全体の意見を代弁するものだった。
そしてその日の練習を終えたウッドが即パドルミア・ユナイテッドのオーナーと共に煙突飛行ネットワークで向かったのはロンドンの中心部。そこは国際クィディッチ協会にも加盟している組織、全英クィディッチ競技者組合の本部だった。
「おや、アナタはオリバー・ウッドね?」
オフィスの奥に鎮座するその魔女は、不死鳥とワタリガラスにアーモンドを給餌していた。
「僕のために時間を作っていただいたこと感謝します、レイエス会長」
「話は聞いてるわ。これはあくまでも提案なんだけど―」
オリバー・ウッドも、その隣のパドルミア・ユナイテッドのオーナーも、そして翌日その話を各々のチームの経営陣から聞かされたクィディッチ選手たちも、二つ返事でその「提案」に同意した。
「全英クィディッチ競技者組合に加盟している全ての選手は、高等尋問官殿がホグワーツの寮対抗クィディッチ中止という愚かな考えを撤回なさるまでの間、ストライキを敢行する」
要求が速やかに飲まれなければ「思い知らせてやる」と、コーネリウス・ファッジ魔法大臣が受け取った吠えメールは言い放った。
イギリス中でクィディッチの公式試合が尽く中止になり、全てのチケットは払い戻される。そしてこのストライキは最悪の、若しくは最も効果的なタイミングで行われていた。
近日に開催されるはずだったパドルミア・ユナイテッドとトヨハシ・テングの国際親善試合もまた、パドルミア・ユナイテッドに所属する全ての選手がストライキに参加している以上試合が成立するわけもなく、1年近く準備に要した大プロジェクトにも拘らず、あえなく中止となったのだ。
もちろんこれにはトヨハシ・テングと日本魔法省から口角泡を飛ばす勢いの抗議声明が出され、ホグワーツの中だけで収まるはずだったこの出来事は、1週間と経たずに国際問題にまで発展した。
要件が済んだオリバー・ウッドが去っていった後のオフィスでその魔女は、わりと重要な書類を嘴で細切りにし始めたワタリガラスを指先でグリグリと撫で回していた。
「アナタは本当に変わらないんだから」と懐かしそうに笑いながら。
一方、そんな目まぐるしい状況報告を「日刊予言者新聞」の一面大見出しという形で受け取ったハリーたちホグワーツ生はと言えば、他ならぬホグワーツの生徒である以上、そればかりに構っているわけにはいかなかった。
「ねえ、ウェアウルフの行動規範って、意味を成さなかったんだよね?なんでだっけ?」
誰にともなく発されたハリーの質問に、セオドール・ノットが答える。
「1637年当時は、今よりも更に更に狼人間の社会的立場は酷いものだった。そして狼人間の行動規範は、そこに更に規制と制限を加えるものだ。つまり狼人間たちは、誰もその行動規範に署名しようとしなかった。草案の段階で想定できただろうに……なんであんなもの施行したのやら」
ノットの説明でルーピン先生の事を思い起こし、それで納得したハリーは再び羽ペンを走らせる。天文学の教室に続く階段の傍にある共同スペースで、最近スリザリンとも歩み寄ろうとし始めているハリーたちは、宿題をやっつけるべく奮闘していた。
「ねえ、カッパってアジアのどこに棲んでるんだっけ?ベトナム?」
「ニホンよアストリア」
ハーマイオニーは読んでいる本から顔も上げないまま助け舟を出す。
「ニホンか……アジアの国って全部おんなじに見えるのよね………人もモノも……」
3年生からの選択科目の内、アストリア・グリーングラスは魔法生物飼育学と占い学を受講していた。そしてそのどちらもがアストリアにとって、極めて楽しく、極めて難解であった。
「ねえねえノット。ねー、ノットぉ」
「なんだどうしたグリーングラス」
「サムライってホントに居るのかな」
「居たとして魔法生物飼育学では取り扱わないだろうな。……お前さては集中力が限界か?」
ノットのその言葉にビクリと反応して「そ、そんなことないわ!」と言うアストリアが飽きてしまっている事は、ロンの目にすら明らかだった。
「ねえねえハーマイオニーのそれはなあに?」
「『数占い』よアストリア」
ハーマイオニーのその言葉に、ノットの足元で床に寝そべってダラダラと緩慢に宿題をしていたダフネ・グリーングラスが勢いよく顔を上げる。
「グレンジャーあなた数占いなんて取ってるの??!」
「そうだけど、いけないかしら?」
ちょっとムッとしたハーマイオニーだったが、ダフネ・グリーングラスの言いたい事は、ハーマイオニーの理解とは違った。
「私ザビニの数占いの宿題ちょっと見せてもらっただけで頭爆発するかと思ったのに!」
「そんなに難しいの?」とアストリア・グリーングラスが姉に訊く。
「あなたもグレンジャーに見せてもらえば判るわアストリア………」
「僕もハリーも、ハーマイオニーの宿題をちょっと1問解かせて貰った事あるけどさ。マジさっぱりだったぜ。何を訊かれてんのかもわかんないんだからな」
こんなもの受講する奴はどうかしてるとでも言いたげな表情をしているロンの隣、ハーマイオニーは長ったらしい羊皮紙から顔を上げて、アストリアに「どうぞ?」と示す。
それっきり、アストリア・グリーングラスは動作を停止した。
身を乗り出してその羊皮紙に目をやったミリセント・ブルストロードもまた、数秒硬直する。
「……グレンジャー、これ。これまさか全部ヘブライ語??」
「そうよ。今回はゲマトリアも含む内容の宿題だから、ベクトル先生がお書きになられたテキストを数字に変換して、そこから自分なりの結論を出して、それをレポートにまとめるんだけど……」
私絶対どこか間違えてるのにそれがどこなのか判らないのよ!と俄に荒れ始めたハーマイオニーを余所に、アストリアはまだその羊皮紙を見つめたままだった。
「アストリア、わかる?」
ダフネ・グリーングラスがクスクス笑いながら妹に話しかける。
「………これは数字の3で、こっちは7だわ!それでこれはきっと鳥の足跡!」
それだけ判ったらしいアストリア・グリーングラスが得意げにそう宣言した時、ハリー・ポッターから可能な限りの距離を取った隅の隅で宿題に取り組んでいたドラコが少しだけ笑顔になった事に、ダフネ・グリーングラスは気づいた。
そしてその時、唐突に。ハーマイオニー・グレンジャーは切り込む。
「ねえ、セオドール・ノット。スリザリン生に前から訊きたかった事があるんだけれど―」
「……なんだ」
どういう分野の質問をされるのかをだいたい察したノットは、覚悟を決めるのに数秒を要した。
「―私みたいな穢れた血がホグワーツでアナタたちと同じ授業を受ける事、どう思ってるの?」
心臓に針を刺されたような気分のノットが思わず周囲の友人たちに目をやると、ダフネ・グリーングラスは目を逸らし、ザビニは読んでいる本で顔を隠した。そして隅に居るドラコ・マルフォイはと言えば、無視を決め込んでクラッブとゴイルの宿題を手伝っている。
「ハーマイオニー、キミってやつは………」
それしか言えないらしいロンだけでなく、周囲で思い思いに過ごしていた他の生徒たちも同じように衝撃を受けている様子で、ただ1人キョトンとしていたデニス・クリービーにアーニー・マクミランとネビルがとてもとても言いづらそうにしながら小声で説明しているのをハリーは見た。
「……あくまでも僕の個人的な意見であって、スリザリンの総意ではないって事をわかってくれ」
「もちろんよ」
ついに考えが纏まったらしいセオドール・ノットに、その場の全員の注目が集まる。
そして生徒たちは誰も意識を向けていないが、皆が居るその共用スペースの傍、天文台へ続く階段の上から降りてこようとしていたスネイプと、呪文学の教室から出ようとしていたフリットウィックもその会話に聞き耳を立てていた。
「まず、僕は純血だ。これは事実だ。父も母も、祖母も祖父も全員純血だ。そしてグレンジャー。お前は父も母も魔法族ではない。これも事実だ―」
ロンが今にも殴りかかりかねない顔をしている事に気づいたハリーは制止しようとするが、ロンはどうにか心情を行動に反映しないという難行に成功していた。
「―けど、それだけだ。そしてグレンジャー、これらの事と同じく、お前が僕らの学年で最も優秀な生徒だというのもまた、事実だ。純血であるノット家に生まれた事は僕の誇りだが、全ての科目の成績でお前に、いくつかは並びこそすれども勝ててはいない。自分たちは純血だから優秀なのだと、純血魔法族はそうでない有象無象より魔法力が強いのだと信じている親戚も多いが、マリウス・ブラックを初めとした何人もの『間違いなく純血』のスクイブの存在がこれを否定している。僕個人としては『純血だから優秀だ』ではなく『純血なのだから優秀たれ』としたいところだ……純血である者はそれだけでそうでない者より優秀だと信じるのは、ただ怠惰と衰退を助長するだけだ。そして、重ねて言うが、少なくとも今はまだ、僕よりお前の方が優秀だ、グレンジャー。事実は事実。………それ以上でも以下でもなく、目を背ける事は己の為にならない」
ハーマイオニー・グレンジャーだけでなく、ジャスティン・フィンチ=フレッチリーも、コリンとデニスのクリービー兄弟も、ノットを真っ直ぐ見つめている。
「そして『穢れた血』という言葉は、言うまでもなく、使うべきではない」
最後にハッキリとそう宣言したノットに、ハーマイオニーはニッコリ微笑む。
「もしよければ、お友達になってくれるかしら?セオドール・ノット。少なくとも数占いの宿題については、受講している全員で協力するぐらいでやっと妥当な難易度だって私、思うのだけれど」
「大賛成だ!」
ノットよりも早く、ブレーズ・ザビニが大声を出した。
「なあ、『純血ならそうでない奴より優秀だ』って信じてるやつなんて、本当に居るのか?」
クラッブが、ドラコに訊く。
「居るが。それがどうした?」
「………おれもゴイルも純血なのに?」
キョトンとした表情で見つめられたドラコと、そのやりとりが聞こえてしまったハリーたちは同時に吹き出すように笑った。
「……お前もゴイルも、時々は優秀だぞ。今とかな」
ドラコにそう返されても、クラッブとゴイルは何の事やらわかっていないらしかった。
そして、アストリア・グリーングラスに見つめられている事にハーマイオニーは気付く。
「なあに?アストリア」
「ごめんなさい!」
いきなりそう言って深く頭を下げたアストリアを見下ろしながら、ハーマイオニーは戸惑っている。それはハリーもロンも同じで、このスリザリンの3年生は今までハーマイオニーに謝罪しなければならない事など何ひとつしていないと、ハリーもロンも思っていた。
「あの、何の話?何についてかしら?」
ガバっと顔を上げたアストリアは、ハーマイオニーの手を両手で握る。
「だってハーマイオニー、あなた何年か前に『穢れた血』って呼ばれたんでしょ?それできっとその事を、まだスリザリンの誰も謝ってないんでしょう?だからごめんなさい!あの、あのね?まずそこから始めなきゃ、って急に思っちゃったの!」
言葉というものは時には刃物よりも危険に、そして磔の呪文よりも痛烈になるのだと、アストリア以外のスリザリン生たちの表情を見ていたハリーは思った。
変わらずこちらに背中を向けたままのドラコをちらっと見たハーマイオニーは、自分を真っ直ぐ見つめているアストリアに「良いのよ。私もうその事気にしてないから」と優しく言う。
そして全てを聞いていた2人のホグワーツ教授たちはと言えば、フィリウス・フリットウィックは呪文学の教室から出るのをやめて嬉しそうな笑顔で自分のオフィスに戻り、セブルス・スネイプは「何も聞かれていない」と生徒たちに思わせる事ができるだけの時間を空けてから階段を降り、足早にその場を横切ったのだった。
「ほらノット。それにザビニ。ジャスティンも他の皆も一緒にやりましょうよ。『数占い』」
誰も全く横槍を入れられない、その授業を取っていない生徒たちからすれば完全に意味不明な「数占い」のおそらくは高度なのであろう宿題についての共同作業が始まった事で、ハリーはハーマイオニーに断りを入れて、ロンと共にその場から離れる。そしてスッと透明マントで全身を隠すと、前回の授業終わりにハグリッドが口を滑らせた内容について調べに向かった。
(いない間何してたのか訊いたら、連れて帰ってきた、ってハグリッドは言ってた。何を?)
何をしてたのかは言えないと両手で口を抑えていたハグリッドの表情を思い起こしながら、ハリーは城から出るために階段を降りる。今までどこで何をしていたのかは全く判らなかったが、何を連れてきたにしろ、ハグリッドがそれを隠す場所などひとつしかないとハリーは思っていた。
「やあハリー。どこ行くの?」
ハリーとロンの心臓は、口から跳び出た。
ごまかしても無駄だと思ったハリーは、透明マントを被ったまま返事をする。
「や、やあルーナ。どうして解ったの?」
「そのマント1回洗濯した方が良いと思うな」
実際、タンスの隅みたいな匂いが最近気になり始めていたハリーとロンが何かいい呪文は無いのかハーマイオニーに訊こうと決心しているのを余所に、ルーナは透明マントの中に入ってくる。
「どこ行くのか知らないけど、ついてっていい?」
戸惑いながら頷いたハリーは、そのまま城を出て森へと向かった。
「ハグリッドが連れて帰ってきたって言うなら、大きくて危ない生き物なんじゃないかな」
2人から事情を聞いたルーナがそう言った時、ロンは気付いた。
「フレッドとジョージの声だ。あの2人、こんなとこで何やってんだ??」
その方向に、3人は身を寄せ合って進んでいく。
そして誰からともなく、3人は透明マントを脱いだ。
そんなもので姿を隠しているのが、馬鹿らしくなる光景だった。
「そうだ。そのまましっかり持ってろグロウピー」「握り潰すなよ!」
双子の片方が巨人の持っている花火に着火し、そこから放たれた音と火花を浴びながら、その巨人が目を丸くしている。フレッドとジョージの隣にはハグリッドも居て、嬉しそうに笑っている。
「何を、何をしてるの3人共……」
「お。やあハリー。それにルーナも」「おやロナルドくん。ご機嫌麗しゅう」
フレッドとジョージは、既にその巨人と友情を育みつつあるらしかった。
暫し呆気に取られていたハリーとロンは、そこに居るもう1人がハグリッドの身体で隠れている事に気付かなかった。
「ダンブルドア先生!」
ロンにそう呼ばれた白く長い髭と髪の魔法使いに、ルーナが問いかける。
「……なんでダンブルドアの格好してるの、先生?」
ニヤリと笑った「ダンブルドア先生」は、ルーナに言う。
「レイブンクローに5点。……どうしてわかったのか教えてくれるかい、ルーナ」
「だって、笑い方がダンブルドアじゃなくて、先生だったもん」
「……きみは、物事が本当によく見えてるね。ルーナ」
まだ呆気に取られていたハリーは、やっと我に返ってその先生とハグリッドに訊く。
「ねえ、それ。誰!」
「俺の弟だ。グロウプ。コイツが自分の事を呼ぶ時、そんなふうに聞こえるからな」
申し訳なさそうに、言いづらそうにハグリッドが白状する。
「巨人をホグワーツに連れ込むなんて!」
ヒステリックにそう叫んだロンに反論したのは、フレッドとジョージだった。
「こいつ、そんなに凶暴じゃないぜ」「そりゃ凶暴じゃなくたって巨人は巨人だけど」「単に好奇心旺盛なだけだ」「こいつが邪悪で危険だってんならあのガマガエルなんか―おっと失敬」
ハグリッドもダンブルドアの姿をしているこの人物も先生なのだと思い起こして、双子はそこで口を噤む。しかし口を噤んだからこそ、どんな事を言おうとしたのかは誰にも明らかだった。
「説明責任ってやつがきみにはあるって事、わかってるだろう。ルビウスくん?」
ダンブルドアの姿をしたその先生に促されて、ハグリッドは口を開いた。
「俺の母親は、フリドウルファって名前なんだ」
フレッドとジョージは、いつも通りに微笑んでいる。
「………俺の母親は、巨人だ」
ハリーは「だろうね」と言いそうになったのをギリギリで堪えた。
「そんで、巨人の女にとって、子供ってのはデカけりゃデカいほどいいんだ。だから俺の母親は俺と、俺の親父を捨てた。俺が、巨人からしてみればチビだったからだ。で、俺は去年からダンブルドア先生様に頼まれて………巨人のコロニーに行ってた。何してたのかは訊かねぇでくれ。そんで、こいつを見つけた。……かわいそうに、こんなにちっちぇもんで、群れの奴らにひどい目に遭わされとった。俺ぁ、こいつを放っておけんかった……ダンブルドアは偉大なお人だ」
「アルバスが、いつまででもホグワーツに居ていいって言ってくれたんだよね」
「「えぇ゙っ?!!」」
ハリーとロンが同時に大きな声を出すと、その先生はクスクス笑った。
「アルバスが優しい子なのは言うまでもないけど―」
その先生の発言の続きを引き取ったのは、ルーナだった。
「先生がもう居るんだもん。今更巨人がひとりふたり増えたって、何も変わんないと思うな」
言われてみればそれもそうかと、ハリーとロンは一瞬納得しそうになった。
「グロウプくん超かわいいもんね!僕がお世話するから心配要らないよ!それに―」
その先生は、急にグルリと後ろに振り向く。
「―そんな警戒しなくても、すぐ森から別のところへ移すよ、ベイン」
ケンタウルスたちに取り囲まれていた事に、ハリーはそこでやっと気づいた。
「何なら今から。……一緒に来るかい?さあグロウプくん!ちょっと移動するよ!」
自分の発言の意味するところを大袈裟な身振りでグロウプに示したその先生は、スタスタと木々をかき分けて歩き出し、ついて行った方が良いのだと理解したグロウプがそれに続く。そしてハリーたちの後ろから、ケンタウルスたちも警戒心を隠そうともしないままついて来ている。
そして辿り着いたその場所は、別に何があるわけでもない森の一角。
「森の外に連れ出すと、お前は言わなかったか?」
「………もしかしてドランとエレクは君たちに何ひとつ言い伝えなかったのかい?」
その先生は楽しそうに笑い、ハグリッドもハリーも、ロンも戸惑っている。何やらざわざわと相談し始めたケンタウルスたちを、グロウプが不思議そうに見下ろしている。
「先生。ここに何があるの?」
そう訊いたハリーのすぐ傍で、ルーナは何も無いように見える方向を凝視していた。
「何か見えるかい、ルーナ」
その先生は、仄かな期待を込めて訊く。
「ここだけ苔も汚れも無くて、湿ってもないから。見えない何かがあるんじゃないかって思って」
「あ゙っ……」
嘗ての学生時代、6年生の時に自分が施した隠蔽の不備を指摘されて、その先生は呻いた。
「なんにも気付いてない事にしといてくれないかいルーナ……」
「いいよ」
ルーナは面白そうにクスクス笑いながらも、その懇願を受け入れた。
「さ、みんな注目!ベインもマゴリアンも他の皆もよく見ててね!」
「ここが何だってんだよ、先生」
ロンの質問に、その先生は一言で答えた。
「……『イントラムロス』」
すぐ傍の斜面が煙のように消え、その下に隠されていた岩壁が大きく渦巻くような形で崩れる。そしてルーナが見つめていた石畳には、植物に覆われつつある古そうな水盆が現れた。
「わお」「これ、ずっとここにあったのか?!」
驚いているのはフレッドとジョージだけではなく、ケンタウルスたちすらも目を丸くしていた。
そこに開いた通路が何らかの魔法によって形作られている事は、誰の目にも明らかだった。
「僕がホグワーツの学生だった頃、ここは既に『大昔に作られて忘れ去られた設備』だったんだけど……ところでルビウスくん」
急に話を振られたハグリッドは、戸惑いつつも返事をする。
「なんだ、先生」
「きみ、『姿くらまし』とか、誰かに連れられる形での『付き添い姿くらまし』、できる?」
「いんや。俺ぁ姿くらましの練習をしたことも無ぇし、やりかたも聞いた話でしか知らねぇ。当然資格も持ってねえ。だからできねえ。それに俺の身体は『付き添い姿くらまし』も弾いちまう。だから俺を『姿くらまし』でどっかに連れていけるのは、ダンブルドアだけだ。ダンブルドアだけは俺を連れて『姿くらまし』できる。けども、どうやってなさるのかは俺にゃ見当もつかねぇ」
「そう。アルバスにできるなら大丈夫だね。……ねえ、そうだろう?」
どこからともなく飛来した不死鳥を、グロウプは見つめている。
「ルビウスくんとグロウプくんにはこの通路、ちょっと狭いからね。運んであげてくれるかい?」
不死鳥は巨人の肩にとまり、翼を広げる。
眩い炎に包まれて姿を消した弟が今の今まで居た場所を見つめているハグリッドの眼の前の空中が火を吹き、不死鳥だけがその場に戻って来る。
「さあルビウスくん。行ってらっしゃい」
その不死鳥は空中で羽撃き続け、ハグリッドを見つめている。
大きく息を吸い込み、吐き出したハグリッドが伸ばした手が不死鳥の足に触れた瞬間、再び炎が煌めいたかと思えば、次の瞬間にはその大きな身体の森番は忽然と姿を消していた。
「……じゃあ僕らも行こうか」
その先生がそう言い終えるより早く、岩壁に開いた渦巻く穴の中へと入っていったフレッドとジョージの後ろに、ルーナが続く。そしてハリーとロンもその中へと姿を消した後で、その先生はクルリと振り返ってケンタウルスたちに問いかけた。
「ここのこと、一応誰にも話さないでほしいんだけど。まあお願いするまでもないよね?」
「我らがこの森について、ヒトに教える事など無い」
「だよねぇ。信頼してるよベイン。……この奥も、見ていくかい?」
ケンタウルスは沈黙し、1分近くを考慮に使ってから返答する。
「……この奥に何があるのかを、群れの誰も知らないというのは問題だろう。嘗て知っていた者が居たというなら尚更だ。我らの群れから失われた知識があるという事なのだから」
そしてその先生は、ベインが群れの皆と会話を終えるのを待ってから、その岩壁に開いた渦巻くような入口へと歩を進めた。
「やあ、待たせてごめんね。……他の皆は奥に行っちゃったんだね、ロン?」
「そうだよ先生。僕とハリーが入った時、向こうにフレッドの背中が見えたんだ。……まあジョージの背中だった可能性もあるけど」
「で、追っかけてったのね。まあここ別に危険じゃないから大丈夫だよ。蜘蛛は山程居るけど」
「ぇ゙!!!!」
一気に蒼い顔になったロンを見下ろしていたベインはすぐに視線をその先生に向ける。
「ハグリッドの蜘蛛と同じやつか?」
「んん。アクロマンチュラじゃないよ。もっと弱くてトゲトゲしてる。僕が学生の頃は森のそこかしこに居たんだけど、まあアラゴグとモサグの子どもたちとの生存競争に負けたんだろうねぇ」
アクロマンチュラがあんなに増えたらまあ他の蜘蛛は勝てないよねと言いながら、その先生はケラケラと楽しそうに笑っている。
「ヴー…!!!」
どうやら件の蜘蛛が壁を這い回っているのを目撃してしまったらしいロンが嘶く。
「さ、追いつかなきゃ。行くよ2人とも」
スタスタ歩き始めたその先生を追うケンタウルスのベインがゆったりとした足取りでも充分速いのに対して、ロンはかなり忙しない速歩きになっていた。5年生としてはかなり背が高い方で、それに伴って足も長いロンだったが、それでもケンタウルスが相手では比較にもならず、時折白く光って高速で飛んでいく先生に対しても速度では大きく遅れを取っていた。
「ところどころに、魔法の器具らしきものがあるな」
「ホントはアレが、今通ったみたいな扉を開ける仕掛けなんだよね」
その先生とケンタウルスはいくつかの会話をしながら、どんどん奥へと進んでいく。
ロンは今や、息を切らして走っていた。
「アラーニア・エグズメイ!!」
また壁を這っていたネビルくらいある蜘蛛を、ロンは叫ぶように唱えた呪文で追い払う。
「多分このへんまでが『森の地下』だと思ってるんだけど……合ってるかい?」
「大きく間違ってはいない」
そう返答しながら歩みを止めたベインは、内心かなり驚いていた。
壁面を蜘蛛の巣と卵嚢が覆い、天井があるはずの高さには青空。そして足元はと言えば花畑。奇妙なまでに穏やかな蜘蛛たちがなぜ襲いかかって来ないのかと周辺を見てみれば、フウーパーの群れがそこかしこで歌っている。
そこにもまた、先生のカバンの中と同じように「検知不可能拡大呪文」が施されているのだろうと察したロンはそれに続いてすぐに気づく。
つまりここにも、うんざりするほど魔法生物がいるのだろうと。
「ハリー、ルーナ!」
まだ見ぬ魑魅魍魎よりも先に友人が目についた事で、ロンはホッと胸を撫で下ろす。
「その木がどうかしたのか?」
ハリーとルーナは、その蜘蛛だらけの花畑の中央に生えている木を眺めていた。木の周囲には蜘蛛が一匹もおらず、そこに近付こうとした蜘蛛が居ても、一定の距離まで来ると引き返していく。
「アラーニア・エグズメイ?」
ルーナが訊くと、その先生は「正解!」と得意げに言う。
「他にもいくつか保護呪文が施してあるから、その子たちは安全に過ごせる」
「その子たち?」
首を傾げたロンに、ハリーとルーナが答えを示す。
「この子たちだよ、ロン」
そう言ったルーナの肩にも頭の上にも、二足歩行するナナフシのような、動く枝とでも表現するべき生き物が何匹も乗っかっていた。
腕らしきものをゆらゆら振っているその生き物が友好を示してくれているらしいと理解して軽率に手を伸ばしたロンに対して、ハリーは決して近づきすぎないように気をつけている。ハグリッドが授業で言っていた事と、ニュート・スキャマンダーが本に書いていた事の両方を覚えていたから。
「その子たちは動物の目玉をくり抜くのがすごく上手なんだよね!」
バネ仕掛けかのような敏速さで腕を引っ込めたロンが、ルーナを見つめる。ルーナに乗っかっている10匹以上のボウトラックルはどれも、そんな凶暴なやつには見えなかった。
「せ、先生。ルーナは……」
心配そうに訊くハリーの横で同じ表情をしているロンをよそに、ボウトラックルたちに纏わりつかれているルーナは至っていつも通りだった。
「懐かれたねぇルーナ」
腕を広げてくるくる回るルーナの身体の上を、ボウトラックルが指先から反対側の手の指先へと渡る。ルーナに悪意が無い事が伝わっているのだろうかと、ハリーは想像した。
「俺たちには近寄らせてもくれないんだぜ、ソイツら!」「蜘蛛と同列だぜ俺たち!」
フレッドとジョージの声は、頭上から聞こえてきた。
「ほらセバスチャンもアンもそろそろ降りといで!もう充分遊んだでしょ!」
フレッドとジョージをそれぞれ背中に乗せた2頭のグリフィンが降臨するのを、間の抜けた表情をしたままのロンが見ていた。
双子を背中に乗せたまま、そのグリフィンはのしのしと並んで歩き、その先生の左右に並ぶ。
「あの入口さ、なんにも事情を知らない子が、見つける可能性があるんだよ。だって僕はあの入口を開ける合言葉をジャックドウに教えてもらったんだから。リチャード・ジャックドウ。『首無し狩りクラブ』のメンバー。ゴーストの口を封じるなんてできないし、彼、結構お喋りだ。だからここにも魔法をかけたんだ。うっかり迷い込んだ誰かが、ここで満足してくれるように。今までのはこの空間を隠すための仕掛けでこれ以上は何も無いって思ってもらうために」
そう言いながら、その先生は卵嚢まみれの岩壁に杖を向ける。
「ここを通る条件は2つ。ひとつは合言葉。もうひとつも合言葉。あと他にも、合言葉」
「合言葉ばっかりじゃないかよ先生」
ロンが笑う。
「入ってほしくないやつがこれ以上先に進めないように。そう考えるとこうなったんだよね」
その先生の背後、ロンとハリーの視界の中央に炎を伴って現れたのは、不死鳥とマンティコア。
それがすぐ歌い始めた事で「マンティコアが歌うのは獲物を喰らう前」という、以前ハーマイオニーが言っていた知識を思い起こしたロンは大いに肝を冷やしたが、それは杞憂だった。
「これ、ホグワーツの校歌だね」
最初にそれに気づいたルーナはいつの間にやら、肩やら頭やらに乗っけていたボウトラックルたちのほとんどを元居た木に戻したらしかった。
「そうだよ。この先に進むための合言葉はホグワーツの校歌。ただしヒトが英語で歌うんじゃダメ。マーミッシュ語かゴブリディグック語。そしてマンティコアと不死鳥も歌ってる事―」
急にぐるりと振り返ったその先生に見つめられたハリーは驚いて身を竦めた。
「―ねえハリー、きみも歌おう。歌えるだろうホグワーツの校歌。……蛇語で」
ハリーはそれまでそんな事、やろうと思った事すら無かった。
そして歌い始めた先生の声に釣られたロンとフレッドとジョージに続いて、ルーナも楽しげに歌い始める。それを聞きながらケンタウルスのベインを見つめていたハリーは、あんまり考えすぎないほうが上手くできるのではないかという結論に達する。やがてハリーが歌い始めたのと同時にその先生がゴブリディグック語から蛇語に切り替えた事に、ハリーだけが気付かなかった。
卵嚢だらけの岩壁が徐々に透き通って行くのを見つめながら、その先生は言う。
「蛇語が闇の魔術と密接に結びついてるんじゃない。闇の魔術と密接に結びついてるのは蛇語でも蛇でもなくて、サラザール・スリザリン個人だ。セバスチャンは未だに1単語すら蛇語を上手く発音できないし、オミニスは誰より優しい。……それにアルバスだって蛇語喋れるし」
〈蛇語は蛇語。単なる言語。勉強して身につければ蛇たちともっと仲良くなれる。それだけだ〉
急に蛇語でそう締めくくった先生の発言を、ハリーが翻訳して皆に伝える。
「先生もパーセルマウスなの?!」
「おいおいマジか弟よ」「何を聞いてたんだいロニー坊や」
ロンの素っ頓狂な発言に、フレッドとジョージが呆れている。
「そうだとも、そうではないとも言えるね。パーセルマウスってのは蛇語話者の事だけど、一般的にはゴーント家の人たちみたいな『生まれつきそれを扱えた』者の事のみを指す場合が多い。つまり僕とかアルバスみたいに蛇語を『頑張って勉強して覚えた』奴を完全に同列に扱っていいのかという議題は言語学者たちの間でもまだ結論が出ていない。勉強して習得したんじゃないパーセルマウスは『蛇語が自然に聞き取れるからそれが蛇語だと気付かない』って事があるらしいけど、僕それは経験したこと無いし……あるんだよね、ハリー?」
そう訊ねられたハリーが思い起こしたのはホグワーツに入学する直前の事、ダーズリー一家と行った動物園。あの時ガラスを消してしまった自分に話しかけてきたボアコンストリクターが喋ったのが英語ではなく蛇語だったとハリーが気づいたのは、賢者の石の一件が全て片付いた後の、医務室で微睡んでいる最中の事だったのだ。
「はい。あります。今聞こえてるのは蛇語だ、って気づくのにちょっと時間がかかる事」
「そういうもんなのか?」「俺達には空気漏れにしか聞こえないぜ?」
フレッドとジョージに問われ、ハリーは頷く。ハリーとて蛇語を空気漏れの音みたいだとは思っているが、ハリーに言わせればなんというか、それとこれとは別の話なのだ。
「もう通れるのだろう?」
「アッ。そうだね行こうか。待たせてごめんねぇベイン」
蜘蛛の巣と卵嚢にびっしりと覆われた壁を通り抜けるという難業に際して覚悟を決めるのに数分を要したロンは、フレッドとジョージに突き飛ばされてその壁を通過した。
そこも、一面の花畑だった。広い広い青空、向こうには断崖絶壁と、一本の橋。その向こう岸には森と草原、その向こうには山脈。それらが魔法で形作られているのは明らかだったが、どこまでが魔法で作られた「実際にそこにあるもの」で、どれが「見た目だけ」なのか、ロンにはサッパリ区別がつかなかった。あの山のてっぺんまで行けるのか、それとも洞窟の岩壁を魔法でそう見せているだけなのか。しかしそんな疑問はすぐに、ロンの脳の深いどこかへと追いやられて薄まる。
「ハグリッド!」
ヘブリディアン・ブラック種の巨大なドラゴンとレスリングに興じている弟を、そのホグワーツの森番は囃し立てながら大喜びしていた。
「イメルダ?」
それが自分が競争したドラゴンだと、ハリーは気付く。
「やあグロウプくん。どうだいここは」
その「小柄な」巨人の表情が何を意味しているのか、ロンにすらありありと理解できた。
「カバンの中と洞窟じゃ、元々の広さが全然違う。だからここは僕のカバンの中よりずっと広い。カバンの中とかホグズミードにある僕の店の地下に居る子たちを思いっきり運動させたい時はここに連れてくるんだ。マンドちゃんじゃないやアーマンド・ディペット先生はここの事知らないけど、アルバスは知ってる。あとブラック校長も知ってる。で、あっちに小屋があるの見えるかい?あそこを後できみの小屋と魔法で繋げとくから、いつでもすぐ来られるよルビウスくん」
「なんて礼を言ったらいいのか、俺にはちょうどいい言葉が無ぇ……」
「気に入ったんだなグロウピー?」「良かったなハグリッド」
壁を通り抜けてすぐ周辺を見回りに行っていたケンタウルスのベインが戻ってきてその先生に訊ねた内容は、双子が耳を疑うものだった。
「かつて我らにスニジェットを託したホグワーツの生徒というのは、お前だな」
「……そうだよ。それは僕とポピーちゃんの事だね。あの時のスニジェットは」
「心配は要らないとも」
「かつてこの森に蔓延っていた密猟者共を掃討したホグワーツ生というのも、お前だな」
「そうだよ。卒業するちょっと前に『やり残した事あるよな』って思ってね」
「何度咎めても下着姿で森を駆け回っていたかわいそうなホグワーツ生というのも、お前だな」
「シリマセンヨォ、ソンナコ。ダレデスカァソレ」
「お前だな?」
「…………ソウデス……」
そのやり取りが聞こえていたらしいフレッドとジョージが呆れている。
「なあ、先生。今日の『日刊予言者』の事なんだけど。どこまで先生の仕業なの?」
ロンの質問に、その先生は隠そうともせず答えた。
「全英クィディッチ競技者組合の会長が同級生なの。で、マホウトコロの友達にもお願いして、思いっきり激怒してもらった。イメルダはともかくニホンのみんなには今度なんか埋め合わせしなきゃな……共同で大会とかどうだろうな……」
そこまで言って、その先生はフレッドとジョージを見る。
「でも、僕よりフレッドとジョージが引き起こした事だよ。これは。だってウッドくんがめちゃくちゃ怒ってたからこそイメルダは動いたんだ。君たちだろう?彼に手紙で状況を知らせたのは」
フレッドとジョージの得意げな笑顔から、ハリーもロンも目が離せなかった。
「ところでルビウスくん、きみの母親が巨人だって事も今日の『日刊予言者』に載ってたんだけど、気付いた?……あ、やっぱり気付いてなかったかい?」
その先生の言葉で、ハグリッドは今の今までの笑顔が嘘のように動揺し始める。
「ああごめんごめん。落ち着いてルビウスくん。たぶん『クィディッチの公式試合が全部中止』ってニュースに追いやられたからだと思うけど、ものすごい端っこにちっちゃく載ってただけだから。第一きみだけじゃなくて、ハリーもロンもその表情から察するに、この話を今初めて聞いたんだろう?それはつまりこの事についてホグワーツで誰一人噂してないって事だ。だから大丈夫だよルビウスくん。だって、きみには友達がいっぱい居るだろう?それに第一、アルバスが居る」
「……ダンブルドア………」
その名前はハグリッドにとって、ほとんど祈りの言葉にも等しいものだった。
「さて、ベイン。グロウプくんがここに居続ける事を許してくれるかい?」
「……構わない。ここは我らの森ではないのだから」
ベインの答えを受けて、その先生はハグリッドに言う。
「さあルビウスくん。きみに会いたいって子を連れてきてるんだ」
その時、向こうの森の中から大きな影が勢いよく飛び出して、自分たちの方へと一目散に駆けてくるのがハリーには見えた。またマンティコアかエルンペントかと思ったハリーと、防衛本能に突き動かされて杖を構えたロンをよそに、いち早くその正体に気づいたのはハグリッドだった。
そしてハグリッドは、一気に笑顔になって駆け出す。
「フラッフィー!!!」
巨大極まるその犬は、3つの頭を全部使ってハグリッドの顔をベロベロ舐め回している。
「大きくなったなあフラッフィー!!元気にしてたんだな!!」
4年前「あるべきところに帰された」筈のその三頭犬がなぜここに居るのかなど、ハグリッドにとってはどうでもいい事だった―今、眼の前に居てくれているのだから。
「フラッフィーのあるべきところは、ルビウスくんの傍だろう?」
ダンブルドアの容姿のままでそう言いながらゆったりと笑っているその先生の服の裾を、ルーナがそっと引っ張る。
「ん?どうしたんだいルーナ」
「ボウトラックル。この子だけ木に戻ろうとしないんだ。どうしたらいいかな」
「……きみはどうしたいんだい、ルーナ?」
ルーナは数秒考えてから、質問の内容を変える。
「連れてってもいい?」
「勿論。だってソイツが君と居る事を選んだんだから……世話の仕方を教えてあげるよ」
ルーナに寄り添っているそのボウトラックルと、ハグリッドにのしかかって全身で愛情を示す三頭犬を交互に見ていたケンタウルスのベインは、その先生に向き直る。
「勝手な奴だな、お前は」
「そうさ。だってそのために僕はホグワーツに戻ってきたんだから」
その先生とベインが互いの言葉をどう受け取ったのか、ハリーには想像する事しかできなかった。
全英クィディッチ競技者組合
公式設定には陰も形も無く、かつ私の妄想の中にはハッキリと存在する
いくつかの組織の内のひとつ。クィディッチ選手の権利を守る。
現役のクィディッチ選手のほとんどが加盟し、引退した嘗ての名選手が
運営に携わる。スローガンは「スニジェットを守ったように選手も守ろう」
重ねて言うが、この組織の存在自体が私の妄想。
ハグリッドが姿くらましできないというのも、巨人の血を引いている事からくる
魔法耐性が「付き添い姿くらまし」にも適用されるというのも私の妄想で
勿論ダンブルドアだけはハグリッドを連れて姿くらましできるというのも妄想。