104年後からの今 作:requesting anonymity
最初にその「今年の先生」の授業を受けたのはグリフィンドールの7年生たちだった。
「「おはようございます、先生」」
ピッタリ声が揃っているフレッドとジョージに続いてリー・ジョーダンやアンジェリーナ・ジョンソンが次々に「闇の魔術に対する防衛術」の教室に入ってきて、その「先生」に挨拶する。そして皆が薄々思っていた不安を最初にその先生の前で口にしたのは、アリシア・スピネットだった。
「先生、私達。その、教科書が………」
内容を読む限り明らかに魔法省の指定であるその教科書は、どう考えてもこの今年の闇の魔術に対する防衛術の授業をドローレス・アンブリッジが受け持つ事を意図したものだと思われ、これをこのまま持ってくるべきか、はたまた別の教科書が何か必要なのかと、みんな悩んでいたのだ。
「教科書ぉー?そうだねぇー。じゃあみんな!今持ってる『教科書』何がある?」
そう言われたみんなは思い思いに持参してきた、要るかも知れないと思った教科書や今日の授業で必要な別の科目の教科書、そしてお気に入りの本などを戸惑いつつも取り出す。
そして下された決定に、グリフィンドールの7年生たちは度肝を抜かれた。
「んーー……、じゃあ今日はそれ使おう。フレッド、ああ違うよ君はジョージだろう?フレッドはそっち。その制服の襟の裏に隠しているもの、出して」
フレッドとジョージはここでやっと、この人があのダンブルドアの「学生時代の先輩」だという話が本当なのだと悟った。それは、他のグリフィンドールの7年生たちも同じだった。
「……はい。先生」
その「商品開発研究メモ」を先生に取り上げられながら「俺たちの夢はここで砕かれるのか」とすら連想した双子だったが、その先生の反応は予想と違った。
「………グリフィンドールに20点」
そう言った先生がフレッドとジョージの商品研究メモを読みながら楽しそうに笑い始めたのを、フレッドもジョージも他のみんなも呆気にとられて眺めていた。
「君たちは本当にすごいね。まるでギャレスみたいだ……ありがとね。これは返すよ。それに他の先生達にも内緒にしとくさ。まあでもたぶんアルバスは既に知ってるだろうけど」
そして、そのスリザリンの制服にドラゴン皮のマントの青年は双子に問う。
「フレッド、ジョージ。君たちが新しい商品を考える時、『次これ作ろう!』って思いついた後。そのアイデアを形にするのにどんな知識が必要になるかな?ホグワーツで習う科目で言うと?」
ウィーズリーの双子はお互いの顔を見て数秒考えてから、答え始めた。
「「全部」」
「まず最初に『同じことやろうとしてミスって死んだ奴が居ないか』を調べる」「これはだいたいいつも魔法史の教科書とか他いくつかの古い記録をひっくり返す事になる」「同じ轍を踏むのはごめんだからな」「ここでだいたい面白くなっちゃって横道にそれるんだけどな」「で魔法薬学の知識はもちろんだし、どんな材料が必要かって考えるのには薬草学と魔法生物の知識が欠かせない」「当然バレたらマズいんだから、こっそりやる」「ここで防衛術の実技が活きてくるわけ」「あと実際に望みの物ができるまでには1回や2回の失敗じゃ利かない」「どう捨てるのが適切かわかんねえゴミが山程できるってわけ」「だから、マジで一昨年の変身術の授業で苦労した甲斐があった」「『消失呪文』はめちゃ便利だ」
1つの文章を2人で喋ったフレッドとジョージを、その青年は手を叩いて褒めた。
「君たちは正しい。フレッド、ジョージ。君たちは正しい」
青年はそう言ってグリフィンドールにさらに5点与えた後で、またひとつ質問を投げる。
「この中で『サチャリッサ・タグウッド』という魔女が何をしたのか説明できる人はいるかい?」
アンジェリーナ・ジョンソンもケイティ・ベルも、ものすごい勢いで女子全員の手が挙がった。
その熱意にちょっとびっくりしながらも、青年はアンジェリーナを指名する。
「サチャリッサ・タグウッドは美容薬に関する先進的で革新的な数々の発明で知られている魔女で、『腫れ草』の膿から『おできを治す薬』を発明した人でもあります。この『おできを治す薬』は今ではヨーロッパ中の魔法使いが、魔法学校に入学して最初の『魔法薬学』の授業で作る魔法薬としてよく知られています。それに髪のお手入れとか、服装の選び方とかに関する本も数多く書いていて、そのいくつもの功績によりカエルチョコレートのカードにもなっています。彼女のお墓に刻まれている文言が、彼女が何を成したのかを示しています―『彼女は世界をより美しくした』」
「だってさ、サッちゃん。合ってるかい?」
青年が唐突に背後を振り返って、その壁にかかった肖像画の中のハッフルパフの女子生徒に声をかけたのが何故なのか、グリフィンドールの7年生たちは一瞬理解できなかった。
「昔の話よ」
「まさか、学生時代のサチャリッサ・タグウッド?!」「学生時代の肖像画なんて初めて見たわ」
一気にきゃあきゃあと騒がしくなった女の子たちを、男子たちが戸惑いつつ眺めている。
「………そんなにかよ?アンジェリーナ」と訊いたリー・ジョーダンは女子たちの囂々たる非難を浴びてしまい目を白黒させている。
「サッちゃんも、新しい魔法薬作る時ってさ。魔法薬学の知識以外も要ったよね?」
青年の質問に、額縁の中の学生時代のサチャリッサは落ち着いた口調で答える。
「そうね。さっきその子達が言ったとおり、必要ない知識を挙げたほうが早いでしょうね」
でも何より必要なのはギャレスだけど、と付け足したサチャリッサに、リー・ジョーダンが訊く。
「ギャレスって誰?」
なぜ額縁の中のサチャリッサ・タグウッドが自分たちに微笑みかけているのか、なぜ目の前の先生がクスクス笑い始めたのか。フレッドとジョージには全く解らなかった。
「ギャレスは私の一番の研究仲間で、世間で私の発明だとされている美容薬とかの色々、半分くらいはギャレスが作った物よ。どれだけ説得しても『これは君の研究だ』って言い張るのよアイツ」
懐かしそうに微笑むサチャリッサに、ドラゴン皮のマントの青年も言う。
「君の名前も載せるべきだって皆で言ったのにねえ。いつも同じセリフで躱されたよね」
そしてフレッドとジョージのように、サチャリッサとその青年の声がピッタリと揃う。
「「そんな事より僕の新作を飲んでみてくれないかい」」
ドラゴン皮のマントをスリザリンの制服の上から羽織っている派手なメガネの青年、ダンブルドアの学生時代の先輩だというその今年の「闇の魔術に対する防衛術」の先生は、ポケットから大きな旅行カバンを取り出して開くと、その中から1冊の年季の入ったヨレヨレの手帳を取り出した。
「フレッド、ジョージ。これは僕から君たちへのプレゼントだ。本来もっと早く君たちに渡すべきだった物。正当な所有権が君たちにある物」
フレッドは戸惑いつつもそのヨレヨレの分厚い手帳を受け取り、ジョージと共にその最初のページを開く。そこにはその手帳が誰の持ち物だったのかが、しっかりと記載されていた。
「「『ギャレス・ウィーズリーの研究日記 No.2468』………マジかよ」」
もう何冊か僕持ってるから後で君たちの寝室に送っとくね、と言ってから、その青年はやっと、自分の授業でどんな事をするのかという、皆が一番気になっていた事を語り始める。
「いいかい、皆。フレッドとジョージが言ってくれたように、アイデアを形にしたい時、自分の夢を現実にしようとする時には、本当にいろんな知識と技術が必要になる。『こんなの何に使うんだよ』って思いながら眠気と戦いつつ身につけた知識がある日いきなり必要になる。そしてこれは、自分の身を守ろうとする場合も同じ。友達を助ける時も同じ。だからね、僕の授業では………もちろんいくつかは新しい知識や呪文なんかも覚えてもらう事になるだろうけど、そんなのよりも大事なことを……君たちがいま既に持ってる知識と技術を、どんなふうに使うかって事を訓練しよう」
イマイチ話を理解しかねているグリフィンドールの7年生たちに、その青年はカバンの中に入るように促す。「勝手に教室を広げたらたぶんアルバスに怒られちゃうからね」等と笑いながら。
「いろんな教科書を見せてくれてありがとね!ほら、本をしまって!自分の荷物全部持って、1人ずつこの中に入ってね!」
そして最後の1人までカバンの中に入ると、教室に生徒の忘れ物が無い事を確認した青年はどこへともなく呼びかける。
「じゃ、ドビー。お願いしていいかい?」
「もちろんです」
そこに現れた屋敷しもべ妖精に後を任せると、青年はサチャリッサの肖像画を壁から取り外して自分もカバンの中へと入っていった。
「………ハグリッドが見たら飛び跳ねて喜ぶぜ」
それが、第一印象だった。
目が合ってしまった立派なヒッポグリフにフレッドとジョージがお辞儀をしている横で、アリシア・スピネットがディリコールの群れに集られている。
「ねえ、あれもしかしてさ」友人に袖を引っ張られて、リー・ジョーダンはそっちを見る。
アンティポディアン・オパールアイ種の真っ白なドラゴンがぐっすりと眠っているその背の上に腰を降ろした屋敷しもべ妖精が次々と食べ零すポップコーンに、小鳥が集まっていた。
「アンティポディアン・オパールアイは一番温厚な種だ、って言ってもなあ」
「ああ。思ってたよりとんでもないな。今年の先生は」
暖かな陽光に照らされた草原の只中で、動物たちや向こうの森や遠くの山々、そして小川の傍に立つ立派な一軒家を眺めているグリフィンドールの7年生たちの背後から、その青年は呼びかける。
「僕の秘密基地にようこそ。―やあアーサー。君のご飯の時間はもうちょっと先だよ?」
寄ってきたエルンペントの大きな角を撫でながらそう言った青年の足元から這い寄ってきた1匹の小さな蛇がそのまま青年の体を登り、その首に緩く巻き付いて眠り始めた。
「魔法省のカリキュラムでも、確か7年生には、それらがどういうものなのかは教えて良いんだったよね。……『許されざる呪文3つ』言えるかい?」
「クルーシオ、『磔の呪文』です。とんでもない苦痛『だけ』を与える」
ヒッポグリフを間近で観察しながら、フレッドとジョージのどちらかが言った。
「インペリオ、『服従の呪文』。無理矢理従わせる」
双子のもう片方が続いて言う。
「……アバダ・ケダブラ。『死の呪い』。これを喰らって生き延びた奴は、1人しか居ない」
「そいつは今魔法史の教室で授業を受け、ああいや失敬。ぐっすり眠ってる」
2人で全て答えてしまったフレッドとジョージに、ドラゴン皮のマントを羽織った青年は追加で5点与えた後その暖かな草原で動物たちと触れ合っているグリフィンドールの7年生たちに言う。
「『磔』はどれだけやっても怪我を負わないし、絶対に死なない。これがこの魔法の悪質な点だ。そして使う側にとっては便利な点でもある。ん?なんだいミス・スピネット。取り繕っても仕方ないさ、事実だからね。許されざる呪文が法律で禁止されているのはその危険性や悪辣さだけでなく『使い勝手の良さ』も大きいんだ。君たちだってたぶんやろうと思えば………とにかく、それってつまり『対策』が必要だろう?さあ次の問題だ。君たちめがけて『アバダ・ケダブラ』が飛んできたとしよう。どうやって自分の身を守る?」
何言ってんだよ先生、とリー・ジョーダンが声を上げる。
「『アバダ・ケダブラ』に反対呪文は無い。知ってるだろ?」
「そうだね。ミスター・ジョーダン。……けどそれは、『死んだものは生き返らない』という魔法の基本的な法則に言及しているに過ぎない。まあ、この法則にだって例外はあるけど」
じゃあ、見本見せようか。とその青年は言い、杖を取り出した。
「みんな、万が一があっちゃいけないからね。もう少し離れてくれるかい?そうだ―」
そして青年は向こうの森から大きめの石を呼び寄せると、それを自分の頭上、みんなが見やすい高い位置に浮遊させる。そして。
「アバダ・ケダブラ!」
緑の閃光がその大きめの石を直撃し、派手に焦げ跡を残す様を、フレッドもジョージも他のみんなも、息を呑んで見つめていた。
「さあ、ミスター・ジョーダン?『アバダ・ケダブラ』が唱えられたのに君がまだ生きてるのは何故だい?僕が言いたい事、わかるよね?」
「そりゃ、当たってないから………何を当たり前の事…………あ、そうか」
リー・ジョーダンも、みんなも気づいた。
「そう。アバダ・ケダブラから身を守る方法。誰にでもできる一番簡単な方法。『当たるな』。『アバ―』って聞こえたら、いや杖の先が自分に向いたら一目散に、だ。逃げる先も大事だよ」
青年は宙に浮いている大きめの石を、そこに残る焦げ跡を指し示す。
「見えるかい?人に当たったら死ぬ呪文なのに、石ころ1つ破壊できない……まあこれは僕の魔法力があんまり強くないからってのもあるけどさ。それこそあのトムくん、つまり『例のあの人』はこの呪文の余波だけでポッター家を全焼させちゃったんだし、こんな石くらい粉砕されるだろう。けどそれでも、物陰に隠れるのは有効な防御手段だ。『物陰』を作り出してもいい。つまり何か盾にできるものを操って自分の前に出す。これはアルバスがよくやる方法。で、もうひとつが―」
そして青年は、またフレッドとジョージを指名した。
「2人とも、僕を挟むようにして左右に立ってくれるかい?そう。あ、もうちょっと離れてね……そうそのくらい………さ、フレッド、ジョージ。僕の頭を杖で狙って。ほらいいから早く。そう。いいよ。僕が合図したら、そうだね何にしようか……フレッドは『ボービリアス』ジョージは『ヴェーミリアス』だ」
フレッドとジョージは言われたとおり先生の頭を左右から狙い、何年か前フリットウィックの授業で習ったその呪文の唱え方を思い出す。
「いいかい?いくよ………3.……2.……今!!」
合図を出した一瞬後に素早くしゃがんだ青年の頭上で、フレッドが放った赤い閃光とジョージが放った白い閃光が正面衝突し、空中でせめぎ合う。
「いいよジョージ、フレッドもそのまま!お互いを狙い続けて!魔法で押し合って!いいかいみんな、見えてるね?攻撃呪文で攻撃呪文を防ぐ!まあこれは防御しようとしたって場合より、単に『相手と攻撃のタイミングが被った』ってだけの事のほうが多いけど………とにかく、いいかい?アバダ・ケダブラ相手にも、これができる。目に見えて光線が飛ぶ種類の呪文ならなんでもいい。後は単なる押し合いだ。魔法力の多寡とか色々な要素も絡むけど、まあ取り敢えず即死は免れる」
グリフィンドールの7年生たちは、自分たちの中心的存在であるその燃えるような赤毛の双子が真正面から呪詛で押し合う様、その空中でぶつかりせめぎ合う白と赤の閃光から目が離せずにいる。
「「先生僕らいつまでこれやってりゃいいの?」」
双子にそう訊かれたドラゴン皮のマントの青年は、ニッコリと笑う。
「押し勝ったほうに1シックルあげるよ」
呪文の押し合いを続けるフレッドとジョージの顔から、同時に表情が消えた。
「いいかいみんな、フレッドとジョージもそのまま聞いてね。僕の担当教科は闇の魔術に対する防衛術だ!闇の魔法使い、それこそあの『ヴォルデモート卿』なんて名乗っちゃってる友達居なさそうな奴から自分や大切な仲間の命を守らなきゃいけない時に、どんな手段を採ったって僕は咎めない!それはこの授業でも同じ!……ほらフレッドもジョージも!杖を持って呪文を唱えるのは片手で足りるだろう!空いた手でも攻撃するんだ!相手の注意を逸らしてやれ!ポケットの中や折りたたんだズボンの裾の中に色々隠してるだろう!そうすることで自分や友人を守れるなら砂でもなんでもかけてやるんだ!闇の魔術に対する防衛術の実技に、礼儀作法なんて無いんだ!」
今まで考えた事も無かった指摘に、フレッドもジョージも他のグリフィンドールの7年生たちも目を丸くして驚いていた。言われてみれば、この青年にしか見えない先生の言う通りだった。
「ホントに君たちそっくりだねえ。5年生のあの双子の女の子たちにもコレやってみてもらおうかな………じゃあ、レッスン2だ。フレッドとジョージはそのまま頑張って。勝った方には追加でもう1シックルあげる。で、ミス・ジョンソンはフレッドの隣に立って。ああ違う違う。そっちはジョージだよ。確かに僕さっきフレッドに『ボービリアス』、つまり白い火花の呪文を唱えるように言ったけど、この子たち逆に唱えてるからね。白い光線がジョージ。赤がフレッド。でミスター・ジョーダン、ジョージの隣に」
丁度2人の中間地点で拮抗したままどちらの有利にも傾かないフレッドとジョージの呪文の押し合いを見て楽しそうに笑う青年は、他のグリフィンドールの7年生たちも次々指名して適当にそれぞれ双子のどちらかの側へと振り分けると、皆にも杖を構えさせる。
「さあ、ミス・ジョンソンと同じ側に居るみんなはフレッドを、ミスター・ジョーダンと同じ側のみんなはジョージを援護しよう。同じ呪文で押し合いに参加してもいいし、相手側の邪魔をしたっていい。僕の先生の教えを君たちにもあげるよ……『決闘に勝る訓練は無い』。さあ、始め!」
そう宣告した青年は、フレッドの側が3人ほど少ない事もちゃんと解った上でやっていた。
双方数人ずつの援護を得ているフレッドとジョージの呪文での押し合いは、1対1から5対4に変化している。その周囲ではいくつもの呪文が飛び交い、ある者は相手側を攻撃し、またある者は味方に飛んだ呪詛を妨害するべく「盾の呪文」を飛ばしたり、単に突き飛ばしたりして庇っている。
「「クッソ……いい加減諦めたらどうだ!」」
「「そっちこそ!!」」
罵倒までピッタリ揃ったフレッドとジョージに周囲の生徒が笑わされている。
「あっぶね、フリペンド!くぁー、まあ防がれるよな正面からじゃ」
リー・ジョーダンはアリシア・スピネットが飛ばした呪詛を躱して即反撃したものの、盾の呪文で防がれた上、さも勝ち誇ったような余裕綽々の笑みを向けられてしまい歯噛みしている。
「アンジェリーナ!アンジェリーナ、これ!これに火点けてくれ!」
ジョージ達の側に押され始めているフレッドがそう言いながら示した、杖を構えていない方の手に持つ爆竹のようなそれの正体を一目で察したジョージは、自分の側の友人たちに指示を飛ばす。
「阻止しなきゃダメだ!」
「エバネスコ!」
しかしフレッドはひょいとその手を動かして「消失呪文」の的を外させた。
「インセンディオ」
そっと唱えられたアンジェリーナの呪文によってその「試作品」の導火線に火が点けられ、フレッドはジョージにニヤリと微笑んでからそれを放り投げた。
「ジョージ!ジョージ何だよこれ!」
「俺たちの新作!『ウィーズリーの暴れバンバン花火』!」
縦横無尽に飛び回って盛大に火花を撒き散らかし始めたその爆竹のような何かから身を守りながらたまらず叫んだ男子生徒に、ジョージが説明した。
「解ってるだろフレッド?こいつは俺だって持ってる……やれ、皆!」
フレッドとジョージが自分たちの発明品を自分たち以外で最初に試してもらう相手、大親友のリー・ジョーダンがいつの間にか配布していたその爆竹のようなもの「ウィーズリーの暴れバンバン花火」を、何人もの生徒たちが一斉にフレッドたちの側へと投擲した。
フレッドとジョージが気づいたのは、数秒後だった。その花火はいくつもの魔法がかけられている自信作だとは言えあくまでも花火は花火であり、イタズラ用具としては「投げたらさっさと退散して安全圏から混乱を眺める」という想定の品、つまりこの大混戦の中で敵方だけを狙いすまして攻撃してくれるような機能は無いという事に。
「あー、なんだ、改良が必要みたいだなフレッド?」「らしいなジョージ」
2チームに分かれての決闘どころではなくなった友人たちの阿鼻叫喚の只中で、フレッドとジョージは尚も呪文の押し合いを続けながらお互いを見て笑う。
「笑ってる場合じゃないでしょ?ステューピファイ!!」
「あ、ダメだアンジェリーナ!!」
リー・ジョーダンが制止したが、遅かった。
「「プロテゴ!!」」
ずっと本気で続けていた呪文の押し合いを同時に止めて叫んだフレッドとジョージの盾の呪文が、鼻先で起きた大爆発からアンジェリーナ・ジョンソンの身を守った。
「はいそこまで。皆お疲れ様」
さらっと杖を一振りして全ての花火を鎮火させた青年は、いつの間にやらブルーベリーが山盛り入った深皿を持っていた。
「大丈夫かいミス・ジョンソン?」
まだ放心しているアンジェリーナ・ジョンソンに青年が問うが、アンジェリーナはただゆっくりと頭を動かして「大丈夫です」と示すのが精一杯らしかった。
「失神呪文をぶつけると爆発する仕掛けなんだねえ」
そう言って楽しそうにケラケラ笑っている青年の頭部が突如発火した事で、グリフィンドールの7年生たちは声を上げて驚く。
そして現れた不死鳥を見て、グリフィンドールの7年生たちは更に一層驚くのだった。
「先生、それ、ソイツ。ダンブルドア校長のフォークス……じゃあ、ないんだよな?」
「そうだよジョージ。コイツは僕の不死鳥。名前は内緒。ほら、お前のごはん。食べるだろう?」
ブルーベリー山盛りの深皿の縁に飛び移って食事を始めた不死鳥を、乗っている皿ごと両手で持ち運ぶ青年は、生徒たちにもついてくるように促す。
「あっちに家が一軒あるだろう?まだ時間はあるからあの中で、お茶とお菓子をごちそうするよ。校長先生がホグワーツの1年生だった頃の話とか興味ある?ペニー!きみも一緒にどうだい!」
向こうの方で眠っているアンティポディアン・オパールアイ種の純白のドラゴンの背の上で小鳥に囲まれて日向ぼっこしていたその屋敷しもべ妖精は呼びかけに応じ、「姿くらまし」でパッと青年の隣まで移動してくる。
「紹介するよみんな。彼女はペニー。僕の家族」
せかせかと歩いているその屋敷しもべ妖精はピタリと立ち止まってみんなに丁寧に挨拶した。
「ペニーと言います。ペニーは皆様にお会いできて嬉しいです」
「「「「「こんにちはペニー」」」」」
もうひとり家族は居るんだけど今はホグズミードで留守番してるんだよね、と青年が言ったので、旦那さんか奥さんが居るのかな、それとも子供が居るのか等とフレッドもジョージも他のみんなも想像を膨らませていたが、誰一人として正解にたどり着けた者は居なかった。
「あ、いらっしゃいませ。先輩の生徒なんですよね?」
「そうだよアルバス。ほらみんな適当に座って!ソファの数は足りてるはずだから」
その肖像画だらけの広々としたリビングで紅茶やお菓子を楽しみながら聴く「ダンブルドアがホグワーツの1年生だった頃の話」に、グリフィンドールの7年生たちはあっという間に夢中になった。
「ほんとに?ほんとにあなたが1年生の時のダンブルドア先生??」
「そうですよ。僕がアルバス・ダンブルドアです………そう見えませんか?」
「俺たちが『ダンブルドア』って言われたらみんな、長い真っ白な髪と髭の、背の高い爺さんしか想像できないんだぜ、『校長先生』?」
「で、そっちの肖像画が―」
「そうだよ。僕がギャレス・ウィーズリー。よろしくねフレッド。それにジョージも」
「あんたら一族って、ほんとにいつだってウィーズリーなんだね」
「そりゃそうだろアンジェリーナ………何言ってんだ」
「だって、だってさ!」
まあ気持ちはわかるぜ、とアンジェリーナ・ジョンソンを擁護したのは、他でもないフレッドとジョージだった。2人はそのグリフィンドールの制服を着た燃えるような赤毛の男子生徒の肖像画から目を離せないまま、言葉が湧き出るかのように喋り始める。
「アンタの研究日記を貰ったんだ」「まだチラッとしか読んでないけど」「アンタ天才だ。間違いなく天才だ」「なのに名前聞いたこと無かった。全然だぜ?」「それでよかったのか?」
「「いくらでも有名になれただろ??」」
額縁の中のギャレス・ウィーズリーは、静かに微笑んでいる。
「コイツやサチャリッサと同じこと訊くんだねえ、君たち。そりゃ学生時代は、僕の名前を魔法薬学史に残すんだ!とか躍起になったりもしたけど、でも気づいたんだ。僕だって君たちと同じだ。『名声』とか『名誉』なんて気にしてる時間で、次作るものをより面白くできるかもしれない。だったらそんなつまんない事気にしてる時間がもったいない、だろう?いいもの作ればサチャリッサがそれに需要があるかどうか判断してくれる。そしたらお金ができて、サチャリッサの研究を手伝ったり自分の研究に没頭したりできる。こんなに楽しいことってないよ。だってさ。僕が作った薬で、僕の友達やその子どもたちが思いっきり笑ってくれるんだよ?他に何が要るっての?」
やっぱ私「ウィーズリー」が大好きだ、とアンジェリーナが小さい声で呟いたのが、アリシア・スピネットにだけは聞こえていた。
【アンティポディアン・オパールアイ種】
「アンティポディアン」は「対蹠地(地球の反対側)」の事で
イギリスに於いてはオーストラリア及びニュージーランドを指す言葉。
なので公式日本語訳では「オーストラリア・ニュージーランド・オパールアイ種」となっている。語呂が悪い!(厄介オタク)
※以下公式設定
最も温厚な種類のドラゴンで、空腹でないかぎり殺生をしない。
吐く炎は真紅。真っ白な体とオパールのように様々な色に見える目が特徴
領地を求めてニュージーランドからオーストラリアに移動する事がある
あっちとこっちの話は並行して投稿すると言ったな?アレぁ嘘だ。
これ以降気まぐれを起こさない限り「かわりばんこ」に投稿される