104年後からの今   作:requesting anonymity

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22.「笑って」

 今年もまた祖母オーガスタと2人だけのクリスマスを自宅で過ごすネビルは、しかし毎年この時だけは、祖母に何と言われても曲げられないものがあった。

 それに関してだけは、オーガスタはとっくの昔に根負けしていて、もうネビルに何も言わない。

「これはママに。これはパパに。メリークリスマス、2人とも」

 先日来たばかりの聖マンゴ魔法疾患傷害病院に、朝一番に1人で訪れたネビル・ロングボトムは、クリスマスには毎年こうして自分の小遣いで買ったプレゼントを両親に贈っているのだった。

 そしてネビルはこの為に普段から、小遣いの一部を少しずつ貯金し、積み立ててすらいるのだ。

 毎年贈る以上はベッドの周囲のスペースを占有しないように小さな物を、しかし2人が誤って飲み込んだりしないように小さすぎない物を。今年贈ったのは、持ち主の視線に反応して独りでに鳴り始めたり止まったりする魔法のかかった2つの、それぞれ別の曲のオルゴールだった。

「ありがとう。ママ」

 そして虚ろな目の母アリスから手渡されたキャンディの包み紙を暫く見つめた後でポケットにしまったネビルは、父と母にキスしてからもう一度その2人の顔を見て、病棟をあとにした。

 フランクとアリス・ロングボトム夫妻のベッドの傍にはひとつずつカバンがあり、その中には2人の着替えなどの他に、ネビルが今まで贈り続けた様々なプレゼントが大切に保管されていた。

 

 かつて一度、ある癒者がその年のネビルから両親へのクリスマスプレゼントだった花瓶を落として割ってしまった際には、もう何も判らない筈のフランクとアリスがパニックを起こして、オーガスタ・ロングボトムが杖を振って花瓶を元通りにしても尚2人は落ちつかず、結局1日中狂乱し続けたのを、ネビルは今でもハッキリと覚えていた。

 それはネビルにとって、とても嬉しい思い出だった。

 

 そしてネビルにはまだまだたくさん、嬉しい思い出があった。

「今年も届いたよネビル。もう開けるかい?」

 帰宅したネビルをオーガスタと共に待ち受けていたのは、ホグワーツの友人たちから届いた山のような数のクリスマスプレゼント。

 入学当初は友達ができるかどうか以外にも色々不安だらけだったネビルにとって、ホグワーツに入学したその年のクリスマス休暇に同じグリフィンドールのルームメイトであるロンからプレゼントが届いたのは、まさかそんな事が起きるとは思っていなかったのもあって、とても幸せな思い出のひとつだった。その年はハリーからは何も無かったが、そも自分もハリーに何も贈っていなかったので、ネビルはそんな事全く気にならなかった。

「ハリーも、ロンも。ディーンもシェーマスも……みんな、喜んでくれてるかなあ」

 ネビルは自分に何が届いたかよりも、自分が贈った品の方が気になっていた。

 年を追う毎にプレゼントを贈りたい友人とプレゼントを贈ってくれる友人が増えているネビルにとって、自分が1年生の時「ホグワーツでできた友達にクリスマスプレゼントを贈ろう」と最初に決心してから誰に何を贈るか決めるのに丸1年悩み続けてしまったという事実は、自分が老いて死ぬまで決して誰にも話さないと固く決めている、ネビルの抱える一番恥ずかしい秘密なのだった。

 

 しかしネビルには1人だけ、何を贈ったら喜んでくれるのか一切悩まずに済む友人が居た。

 

 ハーマイオニーである。

 

「それ、誰からだ?」

 グリモールド・プレイス12番地では、ハリーたちのみならず不死鳥の騎士団の面々までもが、まだ日も高い内から各々のクリスマスプレゼント開封の儀を執り行っていた。

「ネビルからよ、ロン。毎年魔法植物に関する本を贈ってくれるの。それも必ず、私が1度も読んだ事が、それどころか見かけた事すら無いものをね。………ネビルったら。どこで買ってるのかは教えてくれないのよ………『贈るものが無くなったら困っちゃう』って」

 

 そう言いながら早速その本に目を通し始めたハーマイオニーの横で、ハリーが1枚の羊皮紙に釘付けになっている事に、最初に気づいたのはシリウスだった。

「誰からだい、ハリー?」

「先生から。これが先生から僕へのクリスマスプレゼント……」

 まさかあの先生に限って羊皮紙1枚だけなんて事は、と思いながらも、シリウスはハリーの隣に来て一緒にその羊皮紙を覗き込む。そしてシリウスもまた、その羊皮紙に見入ってしまう。

 

 それは家祖「スティンチコームのリンフレッド」から「ハリー・ポッター」に至るまで1人残らず網羅された、ポッター家の家系図だった。

「すごい………こんな人数が………こんな人数なのに、ほとんどみんなポッターだ……」

「親戚というのはそういうものだよ、ハリー」

 それには、魔法省のどこかしらの機関のものなのであろう、ハリーが見たことも無い印章まで捺されている。どこのものなのかはサッパリだが、恐らくはこの印章によって、この1枚の羊皮紙に記された内容の正確性が保証されているのだろうと、ハリーは推測した。

 

「……ちょっと来てくれるかい、ハリー。見せたいものがある。尤も、私はあまり見たくないが」

 そう言ったシリウスに連れられた立ち上がったハリーの後ろから、ロンとハーマイオニーも着いていく。そしてシリウスが案内したのは、壁にかかった1枚の大きなタペストリーの前。

「我が家の家系図だ」

 そう言ったシリウスがなぜ不愉快そうな表情をしているのか、最初に気づいたのはロンだった。

 

「これだから純血主義者ってやつは………」

 

 ロンはあっという間に、シリウスと同じ表情になる。

「なあに2人とも。どうしたの?」

 それが何であれ、ハーマイオニーだけがピンと来ないというのはハリーたち3人にとって、かなり珍しい事態と言えた。

「………これは我が家の家系図だ。ブラック家の家系図。……まず、これが判るかな?我がブラック家の家訓だ。『Toujours Pur』英訳すると『純血よ永遠なれ』だ」

 そう言ったシリウス・ブラックの顔には、こんな言葉口にするのも不愉快だと書いてあった。

「幻覚を見るのは得意でも、現実を直視するのは苦手と見えるな」

「純血なんて既に無いんだから、そりゃつまりある意味では永遠なんじゃないか?」

 いつの間にやら傍に居たフレッドとジョージがそう言って、吐きそうな表情を作っている。

 

「えーーっと、ここだ。2人とも見てほら。『セドレラ・ブラック』。僕らのばあちゃん」

 ロンがハリーとハーマイオニーに指し示したのは、その家系図の一角にある黒い焦げ跡だった。

「『純血』とかいうよくわからない謎の概念に拘ってる奴らは、よくやるんだなコレを」

 フレッドとジョージのどちらかがそう言って、鼻で嗤う。

「その通り」とシリウスが肯定したのと同時に、ハーマイオニーは理解した。

 

「つまり『ブラック家に相応しくない人物』と看做されると、家系図から抹消される?」

「そうだよハーマイオニー。かくいう私もほら、この通り」

 

 シリウスは家系図の端のほうにある自分の名前が嘗て記されていた焦げ跡を指し示しながら、むしろ誇らし気に胸を張ってみせていた。

 そしてシリウスは焦げ跡ではない1人の簡単な肖像画と、その下の名前を指し示す。

「まずはこれが、『フィニアス・ナイジェラス・ブラック』。私のひいひいおじい様で、100年ほど前に……ちょうどあの先生やダンブルドアが生徒だった頃に、ホグワーツの校長をしていた。歴代で最も不人気な校長という名声を確固たるものとしているが、個人的にはあまり驚かない」

 シリウスは次に、その斜め下の名前を示す。

「フィニアス・ナイジェラス・ブラックの、3番目の息子の、4人目の娘。『ドリア・ブラック』の。夫の名前を見てほしい。なんと書いてあるか、判るね?」

 そこに記されていた「チャールズ・ポッター」という名前をハリーは驚きと共に見つめていた。

「まず、この家系図に『ブラック家の人間の配偶者』として名前が載っているという事は、純血の家だという事だ。そして、少なくとも大っぴらには純血主義に対して否定的な態度を示していなかったという事だ。しかしきみのひいお爺さん『ヘンリー・ポッター』は、1920年頃だったか。ウィゼンガモットでマグルを声高に擁護して以降『血を裏切る者』と看做されるようになった。つまりそれまではきみのポッター家は『純血家系』だと、きみのご先祖がそれを美徳としていたかは別にして、少なくとも周囲からはそう見られていた。魔法界に古くからある由緒正しい家だと」

 

「その事でポッターの奴は……ややこしいか。ヘンリー先輩の血筋は『ウィーズリーと同列』になった。当の本人は『望むところだ』とかなんとか言ってたがな」

 ハリーたちの背後、タペストリーの対面の壁からそう言ったのはシリウスの曽祖父、シリウス・ブラック2世だった。今までずっと自分と同じ名前のひ孫に冷淡だったその人物は、先日弟の肖像画が戻ってきた事をきっかけに、劇的に態度を軟化させていたのだった。

「つまりね。そのチャールズ・ポッターは、ヘンリー先輩の血筋じゃない筈なんだ。でもポッター家ではある。『純血』って『同じファミリーネームなだけで何の関係もない他の家』が無いってのも、みんなが考える純血の条件ではあるからさ。どういう関係なのかなって」

 シリウス・ブラック2世が描かれているのと同じ額縁の中に現れてそう言ったのはその弟。先日戻ってきたフィニアス・ブラックの肖像画だった。

 

「僕、縁を切られてたからよく知らないし、兄さんも父さんも教えてくれないんだよね」

だから僕も僕の事は教えてやらないんだと言いながら、フィニアス・ブラックの肖像画は隣の兄を見つめていたずらっぽい笑顔を浮かべている。

「僕だってそんなのいちいち覚えちゃいない。シグナス本人に訊けばいいだろう」

 我が家を勘当された人間で、最愛の弟。しかもその勘当される以前の、間違いなく家族だった時代の似姿。シリウス・ブラック2世は他のブラック家の肖像画の面々と同じように、フィニアスに厳しくするべきなのか優しくして良いのかを未だ決めかねているらしかった。

 

 そしてハリーは漸く、手元の羊皮紙を紐解き始める。

 

「………えーーーーーっと、……あ。あった。『チャールズ・ポッター』」

 

 ハリーがそう声を上げた事で、皆の視線が集まる。

「僕。の父さん『ジェームズ』の父さん『フリーモント』、の父さん『ヘンリー』の、従兄弟」

 結構歳が離れているみたいだと言いながらその家系図に見入っていたハリーはやがて、それまで空想すらしていなかったとんでもない事実に気づいた。

「ねえ、どうしよう」

「どうしたのハリー?」

 ハーマイオニーはキョトンとした表情でハリーを見ている。

「僕、アメリカに親戚が居るみたい」

「気にする事ないよ。会いたくなったら会ってみればいいし、忘れたきゃ忘れてもいい」

 はたして嬉しいのかすらよく判らなかったハリーに、ロンが真っ先にそう言った。

 

「そういうものかな」

「そんなもんだぜ、ハリー。親戚って1人見たら30人は居るからな」

「関わり合う機会がない親戚まで気にしてたらマジでキリがないぜ」

 

 フレッドとジョージにそう言われたことで気持ちをブラック家の家系図とシリウスに戻せたハリーはしかしそのせいで、そのポッター家の家系図の「アメリカ」と注釈された親戚たちの1人「エイブラハム・ポッター」にさらなる重大な注釈が書き込まれているのに気づかなかった。

「アメリカ合衆国最初の闇祓い12人の内のひとり」という文章に。

 

「アメリカに親戚が居るんなら、ダーズリーじゃなくてそっちが良かったなぁ……」

 言っても仕方のない事を呟いたハリーに、ロンが言う。

「ダーズリーよりマシだって保証は無いだろ?『居る』って事以外なんにもわかんないんだからさ。それにアメリカで生まれ育ってたら、ハーマイオニーに宿題助けて貰えないぜ」

「あっそれは困るな。じゃあダメだ………でも、つまり何?ダーズリーが一番妥当な選択なの?」

 そんなのあんまりだと思ったハリーのやり場のない怒りはヴォルデモートに向かいそうになる。 

 が、しかしその前に。

 

「ハーマイオニーいつもありがとう」

「どういたしまして」

 

 急に感謝を伝えたくなったハリーに頭を下げられて、ハーマイオニーはクスクス笑っていた。

「ん?」

 ハリーが手に持っているその家系図を覗き込んでいるロンは、ハリーがその「アメリカの親戚」に引き取られてそこで育つという「もしも」に、かなり無理があるという事実に気づいた。

「おいハリー。『エイブラハム・ポッター』ってこれ、17世紀の人間じゃないか!そんな昔にもう『遠い親戚』なんだったら、今じゃもう赤の他人だよ!きみこの人たちを家族だって思える?」

 あくまでも一般論という視点から行われたその指摘はしかしその「アメリカ在住の遠い親戚」に、当時1歳だったハリーが預けられなかった理由だった。

 

「その家をハリーが家族だと認識できるか」と「その一家がハリーの事を血縁だと思えるか」は、ハリーを守る保護魔法が十全に機能するために必要不可欠な要素なのである。

 ダーズリー一家はハリーにとって好ましくないながらも「世話になっている親戚」などという表現はいくらなんでも恩知らずだろうとも思えるので、つまり適切な表現は誠に遺憾ながら「家族」なのだろうと、ハリーは何度考察しても同じ結論に至っている。一方ダーズリー一家にとってハリーは「ペチュニアの妹の子」であり、いみじくもハリーが「ダーズリー」に抱いている思いと同じく「歓迎する気にはなれないが、だからといって事実を否定する事もできない」、つまるところ「不愉快だが間違いなく血縁」という見解になる。

 

 自分に他の選択肢は無かったのだと改めて確認したことで、ハリーは過去よりも現在が、ひいては未来の方が大事で自分はそっちに意識を向けるべきだと決心した。

 父さんと母さんは過去にしか居ないが、その2人とて、息子である自分が過去ばかりに囚われる事は望まないだろうとハリーは確信していた。

 

 そしてシリウスがまた、皆の視線を家系図へと引き戻す。

「ほらハリー、これも見てくれ。『カリドーラ・ブラック』。その夫は―」

「『ハーファング・ロングボトム』。……まあぼんやりとは知ってたけど、改めて具体的にお出しされると結構ビックリするな」

 フレッドとジョージのどちらかがそう言いつつ、双子の相方と一緒に気楽な様子で笑っている。

「魔法界でも、『旧家』って、ホントに皆親戚なのね。……ハプスブルグみたい」

 端的に感想を述べたハーマイオニーは、シリウスどころか周囲の全てのブラック家の肖像画がひとつ残らず、自分を真っ直ぐに見つめている事に気づいた。

 皆が皆、同じことを考えている。フレッドとジョージも、同じことを考えている。

 

「あの一族」の事を。

 

「そうだ。ハーマイオニー。全くその通り。……しかし、何事にも例外はある―」

「 シ リ ウ ス ・ ブ ラ ッ ク ! ! ! ! 」

 

 その瞬間に屋敷中を揺らすほどのとんでもない声量で怒鳴り込んできたのは、耳まで真っ赤になって目に涙を溜めたニンファドーラ・トンクスだった。

「おや、これはこれは。どうしましたお嬢さん?」

「ヴーーー!!!!」

 全て察していながらすっとぼけるシリウスに、トンクスは杖を向けて唸り声を浴びせる。

「ヴー……!!」

 一瞬だけ縋るような視線をハーマイオニーに向けたトンクスに、シリウスは悪びれもせず言う。

「何か言いたいことがあるならヒトの言葉でお願いしますよ、かわいいニンファドーラお嬢さん?」

 

「 シ リ ウ ス の ス ケ ベ ! ! ! 」

 

 それだけ言ったトンクスがルーピンに無事保護されて嵐のように去っていった後で、スケベ呼ばわりは心外だったらしいシリウスは少し面食らいながらも、その表情は満足げだった。それは自分たちの新商品をロンで試した時のフレッドとジョージと同じ顔であるように、ハリーには思えた。

 

「いやー。実にからかい甲斐のあるお嬢さんだ」

「……トンクスに何を贈ったの、シリウス」

 

 ハーマイオニーは、じっとりとシリウスを睨んでいる。

「レコードだよ。単なるレコード。ただ、世界に1枚しか無い貴重なものではある。お酒は愉しむもので溺れるものではない、という、私からのささやかな忠告が込められている」

 今トンクスを連れ戻しに来たリーマスが一瞬だけ自分を見たその視線から「後で話がある」というメッセージをしっかり受け取っていながらも、それでもシリウスは楽しそうだった。

 その説明ではハーマイオニーにはよく判らなかったが、何か悪質なイタズラをしたのだろうという事だけは察せて、後でトンクスの様子を見に行くべきかとハーマイオニーは思案していた。

 

「そういやお前ら。一応もっかい訊くけどさ」「宿題終わったのか?」

 フレッドとジョージに確かめられてもハリーたちは、3人とも堂々と返答する事ができた。

「もちろん。『消失呪文』とかいくつかは、まだ練習し足りないけど」

 そう答えたロンの横で頷きつつも、ハリーは今日初めて知った事実の内ひとつを、大事に心の中へとしまい込んでいた。

 

「……親戚だったんだね、シリウス。僕、全然知らなかった」

「このタペストリーを見て嬉しい気持ちが湧いてくる日が来るとは、昔の私は思いもしなかった。きみとジェームズのお蔭だよ、ハリー」

 

 伝えたかった想いがちゃんと伝わったと知って、シリウスは嬉しそうに微笑んでいた。

 

 一方、とんだ辱めを受けたと思っているトンクスは、まだルーピンにお世話されていた。

「……ほらトンクス、皆が見ているだろう?」

 据わった目をしているトンクスは、レコードに針を落とす。

 

“やだ! ニ ン フ ァ ド ー ラ っ て 呼 ん で ! ! ”

 

 もう5分以上、トンクスはそのレコードのそこだけを繰り返し再生し続けていた。

「トンクス………」

 ビルとチャーリーのウィーズリー兄弟、そしてドーリッシュとマッド‐アイは、ルーピンがどうするべきなのか図りかねて大いに困っているのを、軽食などつまみながら楽しく見物している。

「……大変そうだな?」

「きみ、他人事だと思って………!」

 ルーピンはほとんど呻き声のような返答をドーリッシュに投げかけた。

 

“ ―だ! ニ ン フ ァ ド ー ラ っ て 呼 ん で ! ! ”

“ ニ ン フ ァ ド ー ラ っ て 呼 ん で ! ! ”

 

 何度も何度もそのレコードの同じ部分を再生し続けながら、トンクスはルーピンを睨んでいる。

「トンクスあいつ、シラフだよな?」

「ああ。一滴も飲んどらん」

 ドーリッシュとマッド‐アイはそう言いながら、ビルが差し出した百味ビーンズを箱からひとつとって口に投げ込んだ。

 そしてルーピンは、うっすら察してはいたトンクスの望みを、直視する心の準備ができた。

 

「頼むから落ち着いて。………ニンファドーラ。」

「………んゅWa~nmn(ЙЙ%Д°Э####!!!」

 

 爆ぜてしまったトンクスは、謎の鳴き声を発してリビングから逃げ出していった。

「僕はいったいどうすれば良かったんだ……」

 途方に暮れているルーピンに、ビル・ウィーズリーは言う。

「とりあえず追いかけてあげるべきなんじゃない?」

 その一言で当面の方針が決まったらしいルーピンがトンクスの後を追ってリビングから出ていった後で、百味ビーンズを飲み込めずにいたドーリッシュとマッド‐アイが同時に声を上げた。

 

「「糖蜜ヌガー味だ」」

 

 いくらなんでも甘ったる過ぎると言いながら、2人はレモネードをおかわりする。

 トンクスが荒れた時は対応をルーピンに任せてしまおうという雑な暗黙の了解が、不死鳥の騎士団の一部のメンバーの間に最近、形成されつつあった。

「それ」を察している者も、全く察していない者もそこには居る。ただ全員に共通しているのは「仲良きことは美しきかな」という極めて一般的な見解ともうひとつ。

「あんな状態の年頃の娘っ子の相手をするなんて面倒だから嫌だ」という思いである。

 ニンファドーラ・トンクスが優秀な闇祓いだという事と同じくらい、彼女が22歳のうら若き乙女だというのもまた、疑いようのない事実だった。

 

「なにやらすごい声が響いてきたが。どうしたのかな?」

 

 リビングに姿を現すなり平然とそう言い放ったシリウスを、一緒にリビングにやって来たハーマイオニーが、ハリーとロンの隣から睨みつけていた。

 

 そしてその日の夜。いよいよクリスマスのパーティを始めようという頃になって、ハリーたち3人とその家族、及び不死鳥の騎士団の主な面々が一同に会しているグリモールド・プレイス12番地では、少し困った事態が発生していた。

 

「あんのクソバカ………」

 

 ロンが頭を抱えて唸り声を上げ、フレッドとジョージを始めとした他のウィーズリーの兄妹たちも一様に同じ表情をしている。

「え、何?どうしたの?」

 予てから「ある」と確信していた書斎の場所をシリウスに教えてもらって今まで入り浸っていたハーマイオニーは皆の顔色を見て、何かマズい事が起きたのだと察した。

「親愛なるパーシー・イグネイシャス・ウィーズリー氏は、俺たちのママが贈ったクリスマスのセーターを、受け取らないと決定なさったのです」

 2人並んでソファに座っているフレッドとジョージのどちらかから、よそよそしい口調を作っての説明を受けて、ハーマイオニーもウィーズリーの兄妹たちと同じ表情になった。

「あのバカヤロ。送り返して来やがったんだよ……ほら皆!もう1回ママを慰めに行くぞ」

 長男ビル・ウィーズリーの号令で、兄妹たちは一斉に立ち上がる。その後ろにはハリーとハーマイオニー、そしてマンダンガス・フレッチャーとマッド‐アイも続いた。

 

 キッチンでは、パーシーから送り返されてきたセーターを抱きしめたまま動かなくなってしまったモリー・ウィーズリーに代わって、グレンジャー夫妻とキングズリー・シャックルボルトが手分けして料理を続けていた。

 そんな中で「最初に口を開く」という困難で重大な役目を買って出たのは自他共に認める薄汚い小悪党、盗人とすら呼ばれる事もある前科者のマンダンガス・フレッチャーだった。

「………パーシー坊っちゃんは、賢い選択をしたとは言えねえな」

 マンダンガスは、彼としては珍しく。ダンブルドアと話す時と同じくらい言葉を選んでいた。

 

 しかし。

 

「パーシーは賢い子です!!!!」

 

 今のウィーズリーおばさんの心をこれ以上痛めてしまわずに話しかけるというのは、それこそダンブルドアくらいにしか不可能な芸当だと言えた。

「みんなそれは判ってるよモリー。大丈夫だよ。あの子は賢い子だ」

 そう言ったアーサーに続いて、フレッドとジョージがママに話しかける。

「そうだよママ」「パースはあんなんだけど、結構賢い奴さ」

「「ま、僕らの次くらいにね!」」

 フレッドとジョージの言わんとしている事を、チャーリーが引き継ぐ。

「パーシーだって、そのうち目が覚めるよ。大丈夫。こんな事はほんのひと時だけだ。今だけだ」

「僕ら家族だよママ!永遠に仲違いなんて、やろうとしたってできるもんか!」

「ロニー坊やの言う通りだぜママ」と、再び双子が言う。

「俺たちと縁を切ろうったってそうはいかない」「なにせ俺たちは家族だ」「パースの奴、今度会ったら―」「抱きしめて頬擦りしてやる」「俺たち2人がかりでな!」

 そしてジニーはと言えばロンの隣で、「パーシーめ!今度会ったらやっつけてやる!」と、ハリーが見たことも無いほど怖い顔で息巻いている。

 

 そんなロンと兄妹たちを見ながら「僕の母さんとペチュニアおばさんみたいな例もある」とハリーは思い至ってしまったが、よりによって今それを口に出して言うほど大マヌケではなかった。

 

「ねえママ。それとフレッド、ジョージ……それに皆も」

 長男のビルが口を開いた。

「今日、今から。騎士団の皆さんも一緒にさ。みんなで思いっきり楽しいパーティをして、それを写真に撮ってパースの奴に送りつけてやるのはどうだろう。あいつは昔っから『いつも冷静』だって自分では思ってるけど、実は全然そんな事ない。熱くなりやすいタイプだし、ママの事もパパの事も、ついでに言えば僕の事も、チャーリーの事もフレッドとジョージの事もロンの事もジニーの事も。この世の何より大好きだ。だからアイツに、見せつけてやろうよ。『待ってるぞ!』って」

 

「「乗った」」

 

 誰より先にそう言ったフレッドとジョージに続いて、その場の皆がビルの提案に賛同した。

 

 そして。

 

「………そうね。」

 

 まだ涙声のモリー・ウィーズリーは家族に励まされて、漸く顔を上げた。

「ねえモリー、僕も提案があるんだけど」

 そのウィーズリーおじさんの顔はほんの少しだけ、普段と比べて特にフレッドとジョージに似ているように、ハリーには見えた。

「セーターの編み方教えてくれないかな。僕も編みたいんだ。それでパーシーに贈る。あの子が贈り返してくる度に、倍の数を編んで贈ろう」

 

「そうね……」

 

 モリーは、周囲を囲む家族を見て言う。

 

「……あの子が当分帰ってこないと言うなら、帰りたくさせるまでです!!」

 涙を拭って声高に宣言したモリー・ウィーズリーは、ハリーが見慣れた『母親』の顔に戻る。

「みんな手伝ってくれるかしら?あの子の一番の大好物を作りますからね!!!」

 

――それはハリーにとって、今までで最高のクリスマスだった。

 

「あ、こらフレッド!僕が取ろうとしてたのに!」

「何回間違えたら気が済むんだいロニー坊や。俺は、ジョージ。」

「そんで俺がフォーレッジで、こっちは俺たち3人の中で一番遅く生まれたフレッドだ」

「フレッドはお前で俺ぁマンダンガスだよバカタレ」

 フレッドとジョージの強い勧めによって2人の間に座っているマンダンガス・フレッチャーは、幾つもテーブルをくっつけて並べたごちそうの群れとそれを囲む面々の中心近くに居させられているせいで、結果としてブラック家代々の金品をくすねる隙を完全に見失っていた。

 そしてすぐにマンダンガスは、束の間、自分の頭の中から「金品を見繕う」という大事な目的が消えていったが、そんな事には全く気づかなかった。

 

「なあダング」双子のどちらかが、マンダンガスに話しかける。

「今、クィディッチの公式試合がイギリス中で止まってるけどさ」「そのへんは、最近どうだ?」

「『あがったり』だ。あんのクソババア、ワケの判んねえ真似しやがって………」

 パドルミア・ユナイテッドやホリヘッド・ハーピーズの公式グッズの「双子呪文」で雑に増やした海賊版を試合会場で勝手に売ったりもしているマンダンガスにとって、それは死活問題だった。

 

「ねえハーマイオニー、これ食べてみてこれ」

 ジニーとハーマイオニーとトンクスはフレッドとジョージがマンダンガスと話し込んでいる位置から少し離れた辺りで、3人仲良く並んでお喋りしつつごちそうに手を伸ばしている。

「ウィーズリーおばさん、ホントに料理上手よね」

 そう言ったのと同時に自分の対面に座っている母親と目が合ってしまったハーマイオニーは途端に慌てたが、グレンジャー夫人は「そうねえ」と言いながら楽しそうに微笑んでいた。

「ウィリアムくん、これはなにかな?」

「あー、それはハグリッドから今朝届いたやつで―」

 どうも本人にそんなつもりは無いらしいが恐ろしく硬い「ハグリッドのロックケーキ」の異常性に、妻の隣に座っているハーマイオニーのお父さんは、それを手に取った瞬間に気づいた。

 

「あ、この人あの時の僕より賢い」と、ロンとハリーは思った。

 

「どうやら、このままかぶりつくべきではないらしいね、このケーキは」

「ハグリッドはホグワーツの森番なんですけど、その、なんというか。とっても健康なんです」

「半巨人」という表現を避けようと言葉を選んだ結果何も伝わっていないビルを見ながらフレッドとジョージが笑っているが、グレンジャーさんは「それは素晴らしいね?」と言うだけだった。

 そしてハーマイオニーは、諦めて父親に説明する。

「ハグリッドのお母さんは巨人だったの。単に背が高い人って意味じゃ、ないわよ。で、巨人って『闇の生き物』だと思われているから―」

「……ああ。大きな声で自慢できるような話ではない、と」

 もう言葉を選んでも仕方がないと判断したビルも、ハーマイオニーに続く。

「恥ずかしながら我らが魔法界にも、了見の狭い奴ってのは居るんです。『本人』より『血統』で人を量るような人たちが…………ハグリッドはイイヤツなのに」

 

「困った奴なのも事実だがな」と端の席から幾つもの大皿越しに言ったのは、学生時代からハグリッドを知るマッド‐アイ・ムーディだった。

「アクシオ!……このロックケーキもそうだ。アイツはあんなナリして気が小さいし、しょっちゅう小物を壊しちまう癖して自分の頑強さに鈍感なんだ。つまりアイツは時々、『周りの奴らは自分より脆い』って事が頭からすっぽ抜ける。……だからグリフォンやドラゴンも『危ない奴なんかじゃねえ!』って言うんだ。全く……だとしても寝室で孵化させるのは間違っとるだろうが」

 何十年も前の思い出に今更文句を言いながら、マッド‐アイは手元に呼び寄せたロックケーキを掌に乗せて、ゆっくりハッキリと呪文を唱えた。

 

「レダクト。……コイツをそのままバリバリ喰っちまえるのはハグリッドの奴本人と、あとはあの先生だけだ。儂らはいっつもこうやって、砕いてから欠片を口の中で転がして食べる」

 この方法を最初に思いついたのはダンブルドアだと言いながらマッド‐アイがその硬い硬いロックケーキを食べ進めるのを、グレンジャー夫妻を除くその場の皆が呆気にとられて見つめていた。

 

 そして料理が半分ほど食べられたところで、マンダンガスが「その役」を仰せつかった。

 

「もうちょっとお互いに寄ってくれ!」

 大きなカメラを両手で抱えて、マンダンガス・フレッチャーが皆に促す。

「ディーダラス、それとデラクール嬢ちゃん!顔が完全に料理で隠れちまってる。ズレてくれ」

 マンダンガスはファインダー越しに全体を見るのに数秒使ってから「よし」と呟いた。

 

「じゃあお前ら、思いっきり笑うんだ。いいな?3、2、1………今!」

 

 カメラから放たれた光が一瞬だけ、皆の楽しげな笑顔を眩く照らした。

「次はお前も写れよダング。俺が撮るからさ」

 フレッドとジョージのどちらかがそう言って立ち上がり、入れ替わりにマンダンガスが座る。

 

 その写真をパーシー・ウィーズリーに贈るというのはつまりとんでもない機密漏洩の危険を孕む愚かな行為だとマッド‐アイとキングズリーが気づいたのは次の日の朝。既に写真を送ってしまった後になってからの事だった。

 

 




チャールズ・ポッター、ハーファング・ロングボトム

 ブラック家の家系図に載っている、恐らくはハリーとネビルの先祖か
 もしくはその親族。それ以外の事は公式では不明。


エイブラハム・ポッター
 
 17世紀にアメリカ合衆国魔法議会、略称「MACUSA」が発足したばかりの頃に
 初めて採用、育成された12人の「アメリカ最初の闇祓い」の内の1人。
 「アメリカ最初の闇祓い」で「12人」なのでそれはもうめっちゃ苦労した事が
 現代までアメリカ魔法界に広く伝わっており、アメリカでは彼ら12人の子孫は
 今でも特別な尊敬を集めている。
 ハリーとは「遠い親戚」という以外の事は公式では不明。

なのでハリーの「アメリカ在住の遠い親戚」は、公式情報を元に考えると
「もしかしたらまだ誰かご存命かもしれない」ぐらいの感じ。

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