104年後からの今 作:requesting anonymity
その日もまた、パーシー・ウィーズリーが一人暮らしをしているアパートの一室に帰り着く頃には既に日付が変わっていた。
「メリークリスマス……まあもう26日だけど」
扉を開けながら誰にともなく言ったパーシーは、足元に何か落ちている事に気づいた。
「―ん?誰から……ああビルか」
何も食べずに寝るのは明日も仕事だという点からマズいと言えるが、しかし今から料理をしようと思えるほどの体力は残っていないパーシーは、果たしてどうしたものかと考えながら玄関扉の郵便受けから差し込まれたと思しき封筒を拾い上げると宛名の筆跡をひと目見て、それが兄から送られてきた物だと気づく。「普通に切手を貼って宛名を書いてマグルの郵便制度を使う」という方法は、シンプルだが魔法族の目を盗むにはとても有効だった。
パーシーは読まずに破いて捨てる気にはどうしてもなれなかったので、安物のソファに腰を下ろすと特売品のワインと実家から持ってきたグラスを取り出し、その手紙を開く。
“もうすぐフクロウがそっちに着くと思う。これを書いてる今はまだクリスマスパーティの準備だって始まってないけど、今のお前がママのセーターをすんなり受け取るとは思えないからな。つまり、この手紙が届いた時、お前が今年のママからのセーターをちゃんと着てたなら、今から伝える事はまるっきり的外れで無意味だから、その時は暖炉の薪の足しにでもしてくれ”
ビルのやつ「内なる目」でも開眼したのかと驚きながら、パーシーは手紙を読み進めていく。
“お前が魔法省内での出世を目指して頑張ってるのが、父さんのためなのは解ってる”
パーシーは、グラスに注いだワインを呷った。
“お前が知りたいだろうと僕が思ってる事と、僕が伝えたい事だけを書く。まず、父さんは噛まれたところが未だわりと酷い事になってるが、それは見た目の話で本人は元気だし、聖マンゴの癒者は『すぐ綺麗に治る』って断言してくれたから心配しなくていい。それと、もうすぐフクロウが魔法省魔法法執行部内部監査局からお前への小包みを持ってくると思う。それはフレッドとジョージからだから、覚悟して開けろ。消失呪文は使うなよ。小包みが2個に増えるだけだからな”
「アイツら………」
そう呟いたパーシーは、またワインをグラスに注ぐ。
1人暮らしを始めて以降飲酒量が増えているのは家族に知られたくない種類の、あまり良くない変化だとパーシー当人も自覚していた。
“なあパース。お前本当は判ってるんだろ?僕らがハリーの味方をしないなんて事ありえないって”
そこから先を読む気が起きず手紙を放りだしたパーシーは、そのまま買い置きしていたパンを無感動に胃に入れると、そのままさっさとシャワーを浴びて着替え、あまり柔らかくないベッドに倒れ込む。そして気づいたら朝になっていたので、二日酔いで痛む頭を雑に魔法薬で回復させると、「食べた方が良い」という理性のみを原動力に朝食を用意し始める。
そしてパーシーは、窓の外からこちらを見ているフクロウと目が合った。
昨日手紙で読んだフレッドとジョージからのやつかと身構えたパーシーだったが、そのフクロウが運んできたのは小包みではなく1通の便箋だった。
「手紙か?ありがとな。……お前誰のフクロウなんだ?」
窓を開けて便箋を受け取り、常備している餌を与えて軽く撫でて癒やされてから出発を見送るまでを30秒足らずでこなしたパーシーが便箋を開くと、中から1枚の写真が出てくる。
その写真に目を奪われたパーシーは、まだフクロウが窓の外に居て、やってきた猫にちょっかいをかけられ始めているのにも気付かない。
「僕への………当てつけのつもりか……」
その写真を見て、怒りと嫉妬と安心が入り混じった自分でも種類の判らない感情が湧いてきたパーシーだったが、それは数秒で沈静化する。
去年ホグワーツで首席すら務めた優秀なパーシーは、すぐに気づいたからだ。
「………この写真マズいんじゃないか????」
そこには自分の家族だけでなく、ハリーとハーマイオニーのみならず、ディーダラス・ディグルとマッド‐アイ・ムーディを始めとする「ダンブルドアの支持者たち」。更にそれに加えてキングズリー・シャックルボルトやニンファドーラ・トンクス、ドーリッシュなどの、ファッジ大臣から「ハリー・ポッターとダンブルドアの監視」を「本人に気づかれないように」と申し付けられている筈の闇祓いたちと、パーシーにはそれが誰なのかは判らないが恐らく闇祓いなのであろう面々。
そして何より、シリウス・ブラック。
「インセンディオ!!!」
全身から汗が噴き出るのを感じながらパーシーはその写真を燃やそうとしたものの、それには昨晩クリスマスパーティで気持ちよくお酒も入って浮かれまくった優秀な闇祓いたちが寄ってたかってありったけの保護呪文を施していたので、当然。単なるインセンディオでは焦げもしない。
「ウィリアム!お前がついていながらなんでこんな、クソッ!……ッバカどもめ!」
大慌てで杖を振って玄関に施錠し、窓の外に誰か居たら忘却呪文も考慮に入れなければと焦りながら確認したパーシーの目に入ったのは、自分の焦燥とは対照的な光景だった。
前足を伸ばして触れようとする猫を、まだ居たらしい先程のフクロウが最小限の羽撃きで躱しているのを、パーシーはたっぷり10秒間。呆気にとられて眺めてしまった。
「………こんなところで何をなさっているんですか、マクゴナガル先生」
パーシーがそう声をかけた途端、ずっと夢中でフクロウを追いかけ回していた猫はパーシーが見慣れたホグワーツの変身術教授の姿に戻って、落ち着き払った様子で挨拶した。
「おやミスター・ウィーズリー。……おはようございます。お久しぶりですね?」
「無理ですよマクゴナガル先生。何をなさってるんですか一体」
今の今まで焦っていたのが嘘のように冷静になったパーシーは、じっとりとした視線をマクゴナガル先生に向ける。それは彼がフレッドとジョージによく向けるのと同じ視線だった。
「広くないですけど中へどうぞ。……本当に何をなさってたんですか?」
同じことを3回訊かれてとうとう観念したマクゴナガルは、玄関に回って部屋の中に入り、勧められるがままソファに座ってから口を開いた。
「動物もどきは、動物に変身している間。多少思考が『シンプルになる』のです」
「それは関係ないですよね?」
パーシー・ウィーズリーは、賢かった。
「……見なかったことにしてくださいますか?」
「勿論です。マクゴナガル先生」
笑ってしまいそうになった自分を意外に思いながらそう保証した直後、パーシーはこの思いがけない訪問が天の助け、いやダンブルドアの助けだという事に気づいた。
実際にダンブルドアが気を回してくれたのかは大いに怪しいが、誰かにこの事で感謝するならそれはダンブルドアだろうと、パーシーはなんとなく思った。
「マクゴナガル先生。僕の所にたった今家族から届いた写真があるんですけど―」
パーシーが糞爆弾でもくらったような表情をして持ってきたその写真を、ひと目見て。マクゴナガル先生の眉間には深い深いシワが寄った。
「わたくしは、個人的な理由でこちらに来る用事があり、そう言えばこの近くにアナタが住んでいた筈だと思い出して、こっそり様子を見に伺ったのですが……そうして正解だったようですね」
マクゴナガルはパーシーを見て、厳しい表情のまま言う。
「それをこちらに渡してくださいますか、パーシー・ウィーズリー」
こっそり様子を見に来たにしては随分楽しそうにフクロウとじゃれてたな、とパーシーは思った。
それから数日経って1月になると、新年とともにホグワーツでの学業も再開される。新年とはいえ新年度はマグルの学校と同じく9月1日からなので学年は変わっていないハリーたちは、約2週間ぶりのホグワーツ城に辿り着くと真っ先に、グリフィンドールの談話室に向かった。
「あ、ハリー。ロンとハーマイオニーも。プレゼントありがとね」
途中の廊下でそう声をかけてきたルーナ・ラブグッドの左肩の上から、1匹のボウトラックルがハリーたち3人に手を振っている。
「この子、ロルフって名前にしたんだ」
そう言ってスキップしながら去っていったルーナの背中を、ハーマイオニーが見ている。
「ルーナって、なんでいつもあんな楽しげでいられるの?コツとかあるのかしら……」
ハーマイオニーが己の宿題の出来栄えについて言っていると察しているロンとハリーは、ハーマイオニーの発言に深くは突っ込まない。そんな事をしたらハーマイオニーが一気にヒステリックになるだけでなく、自分たちの宿題の内容についてもあれこれ口うるさく言い始めると、2人共今までの経験からよく理解していたからだ。
「おはよう、レディ」
グリフィンドール談話室への扉を守る「太った婦人」に挨拶したハリーは、どう考えたって合言葉は変わっている事、そして自分はそれを知らない事に気づいた。
「あれ、3人とも何して……ああ。合言葉な」
ハリーたち3人を見て「そういや休暇中こいつらホグワーツに居なかったな」と気付いたその生徒はハリーとロンのルームメイト。
「おはようシェーマス。クリスマスプレゼントありがとう」
「そりゃこっちこそだよ。……ああ合言葉な、クリスマスイブに変わったんだ」
そう言ったシェーマス・フィネガンは太った婦人に「ボーブル」と伝えて、ハリーたち3人の先頭に立って談話室の中へと歩いていく。
そこには、ハリーたちが他のどこより先にグリフィンドールの談話室へと来た理由である友人が、暖炉の傍のソファに座ってのんびりと読書していた。
「あ、ハリー!それにロンとハーマイオニーも!プレゼントありがとう!」
足音に反応したネビルは本から顔を上げ、足元でガチガチと歯を鳴らしている鉢植えに何やら餌らしきものをあげてからハリーたちの方へと歩いてくる。
「ねえ3人とも。……こないだの『予言者』読んだ?」
ネビルの方からその話をしてくれたのは、ハリーたちにとって幸いだった。
「……なあネビル。この際だから訊くけどさ―」
シェーマスは、その「日刊予言者新聞」を広げながら、さっきネビルに訊こうとしてやめた質問を今度こそ訊いた。
「―お前の親の仇、どれだ?」
「アズカバンから集団脱走」という大見出しが目を惹く一面をめくると、その紙面には脱獄囚の顔写真と名前が全員分掲載されていた。
「僕その時1歳だったから、ばあちゃんが言ってた事しか知らないよ?」
ネビルはそう前置きしてから、紙面の写真を1人ひとり指し示す。
「まずこの『ロドルファス・レストレンジ』と『ラバスタン・レストレンジ』。この2人は兄弟なんだってさ。で、ロドルファスの奥さんの『ベラトリックス・レストレンジ』。あとは去年ハリーとダンブルドアがやっつけてくれたからここには載ってないクラウチジュニアの4人だよ」
ハーマイオニーがネビルにハグしても、ロンはハーマイオニーと同じ表情をしていた。
「僕、大丈夫だよ。だって僕、頑張るもの」
ハリーもロンもハーマイオニーもシェーマスも、話は聞こえつつも輪に入っていくのを躊躇っている他のグリフィンドール生たちもネビルにどんな言葉をかけたらいいのか解らなくなっている中。
その2人は、いつも通りにやってきた。
「「よーうお前ら元気か?」」
どやどやと賑やかに入って来たフレッドとジョージは、何やら準備しながら捲し立てる。
「今日からまたホグワーツが始まる!」「午後から早速授業が始まる!」「それってつまりアンブリッジの授業をまた受けなきゃいけないって事だぜ?」「俺たちはそんなの耐えられない」
そのカラフルな箱の縦3段になった引き出しの、左右に分かれる真ん中の段をスライドさせて展開すると、2人はグリフィンドールの談話室中に呼びかけた。
「俺たちの新商品」「『ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ』の新商品」
「「ズル休みスナックボックス!!」」
「そのうち値段を決めなきゃならないが、こっちの―」双子のどちらかがそう言ったのを合図に、フレッドとジョージのすぐ後ろに居たリー・ジョーダンがもう1箱、カラーリングの違う箱を持ってきて同じように展開し始める。
「―『試作品の試験運用』に。リーとか俺たちと一緒に参加してくれるヤツにはタダだ」
そう言ったフレッドの隣で、ジョージはパッキリと2色に別れた飴らしきものの片側を齧った。
「わーお。」
ぶっ倒れた兄を見ながらロンはあんまり驚いていない様子だったが、それはロンだけだった。
「このとおり。で、こっち側を食べる……まあこの『気絶キャンディ』の場合は誰かに食べさせてもらう必要がある……もしくはちょっとコツが要るが、丸ごと口に含んで半分だけ飲み込むって事を試してもいい……とにかく、片方を食べると発症。もう片方を食べると―」
ジョージ・ウィーズリーはスッと立ち上がり、談話室の皆に拍手を求める。
「すごい!サボり放題だ!最高だ!」と、拍手喝采の中から誰かが言った。
そしてフレッドと共に皆の拍手を浴びながら、ジョージは小声でネビルに話しかける。
「お前だけで頑張るんじゃないぜ、ネビル。俺たちみんなで頑張るんだ。わかってるだろ?」
「うん。……うん。ありがとうジョージ」
「気にすんな。でも残念、俺はジョー……、俺はジョージだな。そうだ仰る通りだ。……??」
慣れてるのとは違う展開に対応しそこねたジョージが首を捻っている中、グリフィンドールの皆がその「ズル休みスナックボックス」に殺到していた。
「完成したのか?」と訊く弟に、フレッドは言う。
「まあある程度はな。俺たちで試して、リーにも試してもらって、待てよ、そういやお前でも試したな?まあそれで、幾つかは売れる完成度になった。けど幾つかはまだ、問題が残ってる」
ロンにフレッドが差し出したのは、ディーン・トーマスがジョーダンから受け取ったのと同じ飴。
「これなー。『ゲーゲー・トローチ』。こっち食べると吐く。で反対側の紫の方を食べると治る。んだけど。一応ちゃんと望んだ通りの効果が出るんだが」
何か問題があるの、とハリーが訊くと、双子とリー・ジョーダンが同時に答えた。
「「「吐き過ぎるんだよ」」」
「マジで干からびるまで絶え間なくゲロ吐き続けるもんだから、治る方を喰う暇が無いんだ」
「いやー、ありゃ大変だった」
「俺たちの魔法史のエッセイがゲロまみれになってな。『テルジオ』と『スコージファイ』したら書いてた内容も全部消えちまって。結局1から書き直したぜ☆」
それを笑い話にしてしまえるのと、それで実際にいま皆を笑わせている事が、ネビルがこの2人を尊敬している理由だった。
「ところでお嬢さん」
1人だけどんどん眉間にシワが寄っていたハーマイオニーにも、フレッドとジョージは悪びれる様子もなく話しかける。
「私、監督生だから、アナタたちの、それを。『注意』しなきゃいけないんだけど???」
「まあまあ。こいつについてアドバイスが貰えればなって期待してるんだが」
「なあに?これ」
「『鼻血ヌルヌル・ヌガー』商品の説明はいいよな?で、問題は―」
双子のもう片方が説明を引き継いで「『腫れ物』って関係無ぇ症状が出る上、こーれが治らない」と端的に説明すると、ハーマイオニーは知的好奇心を刺激されたらしかった。
「『おできを治す薬』とか、その材料の『腫れ草』はもう試したのよね?」
「もちろん。残念ながらうんともすんとも、なんとも」
そうして監督生としての責務より己の興味を優先してしまったハーマイオニーが双子と一緒になってああでもないこうでもないと相談し始めた頃。
クリスマス休暇の間もずっと居た数人の闇祓いに、大勢の闇祓いたちが元通りに合流していた。
「あ。サヴェージ。退院おめでとう……ヤックスリーは?」
「私より酷い状態だったようで。もう暫く退院できないそうです」
気軽に挨拶したニンファドーラ・トンクスは、廊下の向こうからやってきた薬草学教授でハッフルパフの寮監を務める、かつての恩師でもあるスプラウト先生に声をかけられた。
「あ。スプラウト先生。おはようございます」
「おはよう、ミス・トンクス。―悪いけど、ミス・トンクスを少々お借りしても構いませんか?」
サヴェージに断りを入れてからトンクスを連れ出したスプラウト先生は「野菜も食べているか」など世間話をしながらスタスタと校長室に向かう。
自分を先導するスプラウト先生はいつも通りの穏やかな雰囲気だったが、トンクスは生徒だった頃の数多い経験から「お説教だ」と察していた。自分は今、校長室へと「連行」されているのだと。
「フィフィ・フィズビー」
入口を守るガーゴイル像に合言葉を告げたスプラウト先生に促されて、トンクスは校長室へと入っていく。処刑台まで自分で歩いてく死刑囚ってこんな気分なのかなあ、等と考えながら。
「来ましたね。ミス・トンクス」
そこに居たのは一目で激怒しているとわかる目をしたマクゴナガル先生と、いつも通りの穏やかな佇まいのダンブルドアと、そのペットの不死鳥フォークスと並んで止まり木で休んでいるワタリガラス。そして、2人揃って死にそうな表情をしているドーリッシュとキングズリーだった。
「この写真に見覚えがありますね」
何故それを持っているのかマクゴナガル先生に訊ねる事は、トンクスにはできなかった。
「あなた達がついていながら!一体何を考えていたのですか!!!!」
トンクスとドーリッシュとキングズリーが同時に、ビクリと怯む。マクゴナガル先生に一喝されただけで3人共あっという間に、心がホグワーツの生徒だった頃のそれへと戻っていた。
「全員を危険に晒す行いだとわからなかったのですか!!!」
写真に写っていた中の、ウィーズリー一家以外の大人たちほぼ全員に吠えメールを既に送ったマクゴナガルは、ハリーたち3人とジニー・ウィーズリー、そしてフレッドとジョージは軽い忠告だけで済ませようと、そしてモリーとアーサーを叱るのは酷だろうとも考えていた。勿論2人にも手紙は送ったが、それは吠えメールでなく、文面の大半が励まして寄り添う内容の物だった。
つまり今回最も反省しなければならないのは、この3人を始めとする「騎士団」の面々だと。
「考えなしにも限度があります!!あなた達はそれでも闇祓いですか!!!!」
トンクスもドーリッシュもキングズリーも、返す言葉も無かった。
真摯に反省し自罰的な思考を巡らせているのが表情に出ているキングズリーとドーリッシュの隣で、トンクスは泣きそうな顔になっている。
「皆、わかっておる。ミネルバ。自分たちの行いの愚かさも、決して実行するべきアイデアではなかった事も。そしてミネルバ。わかっておるのじゃろう?なぜこのような事をしたのかを」
ダンブルドアはそれだけ言うと、止まり木の傍まで行ってワタリガラスを構い始めた。
「……あなた達が、パーシー・ウィーズリーを慮るのは、素晴らしい事です」
マクゴナガルは、苦々し気な表情で言う。
「ですがその想いの表現方法を、もう少しよく考えるべきでした。丁度偶然にわたくしが訪ねていなければ、パーシー・ウィーズリーがこの写真を処分してくれる前に、見られるべきでない人物の手に渡った可能性は充分にあります。どころかパーシー・ウィーズリーに届く前に第三者に奪い去られる可能性もあったのです。そんな事ぐらい、あなた達3人共もう、よくわかっていますね」
3人の優秀な闇祓いたちは揃って肩を竦めて俯いたまま、何も言えずにいる。
「ミスター・ドーリッシュ。ミスター・シャックルボルト。ミス・トンクス。あなた達はわたくし達の自慢です。あなた達の教師であれた事がわたくし達の誇りなのです。………ですからミス・トンクス。スプラウト先生を失望させるような真似は、二度としないと信じています」
マクゴナガル先生は、キングズリーとドーリッシュの方を向く。
「あなた達2人も。わたくしやフリットウィック先生を失望させないでくださいね」
「「はい。マクゴナガル先生」」
心の底まで萎れきった3人の闇祓いたちは、そうしてやっと解放されて職務に戻っていった。3人が3人共、5時間くらい経ったような気がしていた。
「………あなた達はよくわかっているでしょうから、私は何も言いません。ですが―」
校長室の入口で待っていたスプラウト先生がそう言い終わるより先に、先程1人だけマクゴナガル先生の問いかけに返答する勇気を捻出できなかったトンクスが、スプラウト先生に抱きつく。
普段なら「仕事中だぞ」と嗜めるべき先輩闇祓い2人は、今そんな事を言える立場ではない。
そしてスプラウト先生はそのまま暫くの間、黙って教え子に抱きつかれ続けたのだった。
「あなたは私の自慢です。応援してますよ」
スプラウト先生にそう言われて、トンクスは泣きそうなのをギリギリ堪えていた。
そして、その写真に写っている「ウィーズリーでない大人たち」の中で唯一マクゴナガルが適切な宛先どころか現在地も名前も知らないために吠えメールを送れなかったその魔法使い、「オミニス・サロウ」はハリー・ポッターがホグワーツに戻った事で晴れて任務完了となり、自分で自分を軟禁していた元の住処に帰っていった。
ホグワーツ城をひと目見てから。
「お疲れ様、『オミニス』。手伝ってくれてありがとね」
「お前は約束を守ってくれた。『ホグワーツ内に入れと命令しない』そして『ダンブルドアと会わせない』。条件が守られなければ途中でも放棄して帰るつもりだった」
その魔法使いは「オミニス・サロウ」の容姿と振る舞いのまま、発言だけが元の本人に戻っている。それでも立ち姿や目の動きまで完璧にオミニスだったので、ハッフルパフの制服を着た1年生の女の子にしか見えない魔法使いは内心、大いに感嘆していた。
「そういえばさ、もしかしてホグワーツ見るの、初めて?」
「いや、昔1度来た事がある。アルバスの奴が学んだ学校というのが気になってな」
「オミニス・サロウ」は懐かしそうに言う。
「でも、中に入った事は無いんだね?」
「それは赦されない」
頑固だねぇと苦笑したハッフルパフの1年生の女の子は、外見年齢に見合わない不思議な迫力のある笑顔になって、真っ直ぐに「オミニス・サロウ」を見据える。
「そういうところがアルバスそっくりだよ、ホントに」
「褒め言葉と受け取っておこう」
どんな文脈であれ、どんな意図で発された言葉であれ、「アルバス・ダンブルドアに似ている」というのはその人物にとって、いつだって最も嬉しい褒め言葉だった。
だからこそ心に深く刺さって痛みを与える言葉でもあると、その「ハッフルパフの女の子」は判った上でわざと言っていた。
「これを返却しておかなければな。私の言う事を聞かないのを差し引いても、妙な杖だった」
そう言いながら「オミニス・サロウ」が手渡してきた杖を、ハッフルパフの女の子は飛来した不死鳥に持たせて「届けてあげて」とだけ伝えて送り出すと、「オミニス」に向き直った。
「きみも、約束を守ってくれた。この杖で誰かを攻撃しなかった」
「オミニス・サロウ」は不思議な表情になって、ホグワーツ城を見つめている。それが校長室を見つめているのだとハッフルパフの女の子は察したが、指摘はしなかった。
「そう言えば、興味本位で訊くんだけどさ」と、その小さなハッフルパフの女の子は、全く違う話題を取り上げ始める。
「ここは『ホグワーツ城内』ではないけど『ホグワーツ領内』ではあって、つまり保護魔法の守備範囲内なんだけどさ。で、アルバスはできるんだけど、きみは―」
質問を最後まで聞きもせずに、その「オミニス・サロウ」は「姿くらまし」する。
「おおーー。流石だねえ!また今度お菓子とか持ってくよ、『オミニス』」
そして城を望む湖の畔に1人残されたその「女の子」は、どこへともなく声をかける。
「僕はそれできないんで………ディークー!連れてってー……!」
「はい。ディークがお手伝いします」
現れた屋敷しもべ妖精の手を借りて、その「女の子」も「姿くらまし」した。
「ほらハリー。僕が言った通りだったろ?」
そして今、ハリーたち3人はネビルの提案で「必要の部屋」に来ている。
「D.A.」の会合日時を決めるのに考慮しなければいけない事柄は数多いが、今日は正午まで何も無いのだ。つまり、いつもなら時間が被らないように配慮する「クィディッチの練習」も無いし、皆自動的に「予定が空いている」つまり「D.A.の会合ができる」のではないかと、ネビルが言い出したのだ。それを聞いてハリーもロンもハーマイオニーも、「D.A.をやりたい」と思った。
そして。
「やあハリー。皆おんなじ事考えてたみたいだね」
「ハリー、ロンもハーマイオニーもネビルも!おはよう!クリスマスはどうだった?」
そう声をかけてきたルーナとアストリアを始めとして、ハーマイオニーが招集をかけるまでもなく、そこには「D.A.」のメンバーが勢揃いしていた。
皆が何を練習したいのか、ハリーは言われるまでもなく理解していた。
「『守護霊呪文』やろうか?」
部屋中に歓声が響き、皆一斉に杖を取り出す。
しかしルーナだけは、部屋の隅にひっそりと置いてあった止まり木へと向かった。
「そのカラス。お前の新しいペットなのか?ルーナ」
ロンが訊くが、ルーナは「違うよ。私のペットはロルフだもン」としか言わない。
そしてハーマイオニーは、漸く。予てからの「宿題」の答えに確信が持てた。
ハーマイオニーはつかつかと止まり木まで歩いていき、ルーナが抱きかかえたそのワタリガラスをまじまじと見る。橙と緑の派手な目をしたそのワタリガラスを。
「やっぱり、先生は。『動物もどき』だったんですね」
「正解!ちゃんと登録もしてあるんだよ!」
ルーナの腕の中からスルリと抜け出したワタリガラスが20代前半くらいの背の高いブロンドの青年になってそう言うと、「必要の部屋」は驚きと歓声に包まれる。
「『ホメナム・レベリオ』。ヒト、現れよ。この呪文は、『変身している動物もどき』には効果を発揮しないんですね?だからあの時、今年の最初の防衛術の授業で私のホメナム・レベリオから、先生は逃れることができたんですね?」
「そう。ハーマイオニーに10点あげるよ。普通『ホメナム・レベリオ』は、変身してる動物もどきに反応してくれない。ヒトじゃなくなってるわけだからね。まあアルバスとかは別かもだけど」
先生がそう言うのを聞きながら、「ダンブルドアなら単なるレベリオでイギリス中の動物もどきを見つけ出せたりしそうだな」と、ロンは呑気な事を考えていた。
しかしハーマイオニーが気になったのは、ルーナの事だった。
「ルーナ、あなた。………いつから気づいてたの?」
「ルーナには今年の最初の『魔法生物飼育学』の授業でバレたよ。それも一発でね。カボチャ畑に居る他のカラスたちと一緒にルビウスくんの授業を見物してたら、ルーナがいきなりこっち来てね。僕を捕まえて『何してるの先生?』って。僕、心臓止まるかと思った」
そう言った青年に「あの時なんで気付いたのか教えてくれるかい?」と訊かれて、ルーナは事も無げにサラリと答える。
「だって先生って、ワタリガラスになってても笑い方がそのまんまなんだもン。あんな啼き方するワタリガラスは居ないと思うな」
目から鱗が落ちた先生が「レイブンクローに5点」と呟いたのを見ながら、ハーマイオニーは開いた口が塞がらなくなっていた。ルーナってもしかして私が思っているよりもまだずっとずっと賢いんじゃないかしらと、ハーマイオニーはまたしても思わされていた。
ホメナム・レベリオでは変身してる動物もどきを検出できない
というのは私の妄想で、公式に明言されてる事ではありません。
Q.なんで動物もどき?
A.だってもし仮に「ホグワーツ・レガシー」にコンテンツとして実装されてたら
皆なったでしょ動物もどき。だからです。レガ主は絶対になりたがるから。
Q.なんでワタリガラス?
A.「強大な戦闘力を持たない生き物」「魔法生物でない」
「原作本編に登場する動物もどきと被らない生き物」
「原作本編に登場する生き物」「ロンドンに縁のある生き物」
「話を作る上での利便性」「雑食」
とか考えてったらたどり着いたのがワタリガラスでした。
個人的にはピッタリだと思ってるけど、解釈違いだ!って人はごめんなさい。
※レガ主が動物もどきになった経緯は私が書いてるもう片方の話でやりました