104年後からの今 作:requesting anonymity
「やあアルバス」
「おかえりなさいませ先輩。クリスマス休暇は、楽しまれましたかな」
ホグワーツの校長室でその部屋の主と和やかに談笑し始めたのは、レイブンクローのベストの上からハッフルパフのローブを羽織った1年生くらいに見える小さな女の子だった。
「アルバスお土産あげるよ。ほらこれジェイコブとクイニーのとこの」
パンが幾つも入った大きな紙袋をその女の子に渡されて、ダンブルドアは微笑む。
「あの2人は、お元気そうでしたかの」
「その袋の中に近況報告のお手紙が入ってるから、お返事書いてあげてね。……それでさ」
その女の子はパッとその表情を輝かせた。
「ねえアルバス思い浮かぶよね?『ジェイコブくんの一番下のお孫ちゃん』!思い浮かぶよね!」
「勿論。あの小さくて可愛らしい―」
「そう!そうなの!なのにねえ!僕ね、その子の結婚式に出席してきました!」
ダンブルドアの目は、大きく見開かれた。
「すーっごくカッコよくなってたし、お相手の子はもうめっちゃ美人だった!」
「……時の流れというものは、まったく。闇夜を飛ぶセストラルのようじゃ」
ダンブルドアが見つめる先は、己が生徒だった頃にホグワーツの校長を務めていた人物の肖像画。
「そうは思わんかの。フィニアス」
いったい何が気に入らないのか、今日もまた無視を決め込んでいるフィニアス・ナイジェラス・ブラックを眺めながら、ダンブルドアはクスクス笑い始めた。
「マリウスの事で、まだ腹を立てておるのかの」
「こやつは私から家族を奪ったのだ!」
「何回でも言いますけど、これに関しちゃ譲りませんよブラック校長!マリウスくんが望んだから僕は連れ出したんです!この事で僕を恨みたいんなら好きにすりゃいいですけど!結婚式にも来ないなんてちょっと薄情じゃありませんかね?僕ちゃんと肖像画用意したのに!」
あれから何十年と経っているのにも拘らず、未だこの話題で喧嘩ができるらしいその先輩とフィニアス・ナイジェラス・ブラックを見ながら、ダンブルドアは尚も楽しそうに笑っている。
「だいたいあれが家族に対する扱いですか!アレじゃオミニスのお父さんと何も変わりませんよ?ああ、お友達だったんでしたっけね!どーりで!」
「私の交友関係を貴様にとやかく言われる筋合いは無い!」
「ブラック校長のバカ!へそ曲がり!意地っ張り!巨乳好き!」
「4つ全て、むしろ先輩に当てはまるように思われますな」
「み゙ぇ??なんでブラック校長の味方するのさアルバス!」
頬を膨らませて抗議してきた121歳の先輩に、1年生にしか見えないその女の子に。ダンブルドアは楽しそうに微笑んだまま、質問で返答した。
「先輩がこの度アメリカに赴かれた理由には『職務』も含まれる筈でしたな?」
「むぇ?うん。オミニスの所の子を何匹か貰って、僕のトコの子をおんなじだけ置いてきたよ」
女の子はそう言いながらどこからともなくステッカーだらけの旅行カバンを取り出した。
〈ほら、出といで。皆を代表してアルバスに挨拶してくれるかい?〉
その女の子が蛇語でカバンの中に声をかけると、蛇語で返事が返ってきた。
〈イギリスってとこに着いたのか?〉
〈そうだよ。ここはホグワーツ。僕やオミニスが、それにアンとセバスチャンも。ここで学んだ〉
少しだけ開かれたカバンの隙間から這い出てきたのは、そこらに居る非魔法のそれと変わらないサイズの、「サーペン・ソーティア」で一般的に呼び出されるような、1m程の蛇。
その頭部に2本の角を、額にはワインのような紫がかった赤色の宝石を備えた、小さなホーンド・サーペントの幼生だった。
「この子は丁度ね、オミニスとアンの家でクリスマスパーティーの準備してる時に孵化したの。ホント皆で大慌てだったよ~。セバスチャンが、ああ曾曾孫ちゃんの方ね。すっごく手慣れててさ。まだ3歳なのにさ。もう『保護施設の職員』になり始めてるんだ」
興奮気味にクリスマス休暇の思い出を語るその女の子の足首から、ホーンド・サーペントの幼生はスルスルとその女の子の身体を登っていく。
スカートの中へと消えていったそのホーンド・サーペントは、すぐに女の子が着ているホグワーツの制服の襟首から顔を覗かせ、スルリと這い出て女の子の首に緩く巻き付いた。
〈おれも、あんなに大きくなれるのか?〉
〈エリエザーに会ったんだね?うん。なれるよエリエザーとかミラベルみたいに、おっきくてキレイでカッコよくなれる。きみがきみであり続ければね〉
その小さなホーンド・サーペントは、新しい飼い主に促されて、正面の魔法使いを見た。
〈はじめまして。儂はアルバス・ダンブルドアじゃ。このホグワーツの、校長をしております〉
〈話せるのか〉
〈ええ。若い頃に、良い教師に巡り会いましてな。苦労しましたが、それでもどうにか〉
〈おれが見たことある絵のダンブルドアと、全然違うんだな〉
〈オミニス先輩がお持ちの肖像画は、11歳の儂ですからのう。もう100と4年も前になりますな〉
〈じゃ、おじいさんなのか。そうだろ?ニンゲンだったらもうおじいさんだ〉
〈いかにも。この通り、見る影もなく老いぼれてしまいました〉
そこでダンブルドアは、どこでもない空中をぼんやりと眺めた。
「老いぼれることすらできんかった者の、なんと数多いことか……儂は運が良かった」
「ぼく老いぼれないもんね!!!」
ダンブルドアの発言の趣旨を理解しているのかいないのか、その女の子は自慢げに胸を張った。
「先輩はそうですな」ダンブルドアはまた笑顔になって言う。「その体質が幸か不幸かは、先輩ご本人の捉え方次第ですな?」
「そりゃま、『あ、これ僕さては皆と一緒にヨボヨボにはなれないな?』って最初に気づいた時は結構ショックだったけどさ。でも思い通りに動けないよりは動けた方がいいし、何よりこの方が若い子と仲良くなりやすいし!」
教師にあるまじき発言を口走ったその女の子は、急に静かになって壁に並んだ肖像画を見つめる。
「それに、まだ動けるって事はつまり。まだやるべきことが残ってるって事だ。そうですよね、フィッツジェラルド先生」
数百年前にホグワーツの校長を務めていたその魔女の肖像画は、教え子を見つめている。
「アナタがそう考えているのなら、私たちはアナタの力になります。あの頃も、今も。いつでも」
それを聞いてニイッと笑った女の子は、何やらガサゴソとポケットを探り始めた。
〈ねえあれドコ入れたっけ……〉
〈おれが知るわけないだろ〉
そして捜索に数分を要したその女の子が取り出したのは、数点の絵画だった。
「これ差し入れです。皆さんでどうぞ。……もう『健康』なんて、気にならないですもんね?」
果物満載のかごとワインボトルの静物画、『漏れ鍋』の店内らしき風景画。何らかの祝祭なのだろう飾り立てられた街中。そして『ホッグズ・ヘッド』だとすぐにわかる、騒がしい酒場の絵。
それらを一目見るなり歓声を上げて自分の額縁から『ホッグズ・ヘッド』の絵の中へと移動してバーテンに注文をし始めたアーマンド・ディペットを、フィリダ・スポアの肖像画が睨んでいた。
「私たちが生きていないからといって『お行儀よくしなくてよい』とはなりませんよアーマンド。私たちはホグワーツの校長だったのですから、それにふさわしい振る舞いというものを―」
「スパゲッティもくれ!!」
アーマンド・ディペットには、聞こえていないようだった。
「ロンあなた、もうちょっとよく噛んでから食べなきゃダメよ」
午前の授業を終えて大広間で昼食を摂っているハリーたちの向かいでは、ネビルとパーバティが顔を寄せ合ってひとつの「日刊予言者」を読み込んでいる。
「何か面白い事書いてある?」
ハリーはその紙面を朝すでにザックリと読み終えていたが、2人と話したかったので声をかけた。それに、自分が見落とした記事を2人が見つけているかもしれないという期待も少しあった。
「シリウス・ブラックがヒマラヤの山奥で目撃されたって」
キングズリーは嘘の報告をするのを楽しみ始めているのではないかと、ハリーは思った。
「魔法省はそれを信じてるのか?いくらなんでもあんな場所に潜伏なんてできやしないだろう」
ブレーズ・ザビニとセオドール・ノットも、スリザリンのテーブルで同じく「日刊予言者」に目を通しながら同じ議題を話し合っていた。
「そうなのか?」
クラッブと一緒になってもりもりとチキンを喰らっていたゴイルが2人に訊く。
「暑いのか?」
「寒いんだよ」ザビニは呆れながら説明した。「それもとんでもなくな。ブラックの奴がどれほどの魔法使いだろうが、あんな場所に潜伏するなんて選択を本当にしたなら、見つかるのは死体か凍死寸前の浮浪者のどっちかだろうよ……第一、そもそも居るわけないだろう」
「じゃあ、魔法省の奴ら、嘘の情報を掴まされてるのか?気づいてないのか?」
クラッブの質問に視線を合わせようとしないまま返答したのは、ドラコだった。
「嘘だと気づいていても、探さないわけにはいかないんだろう。12人のマグルを殺した凶悪な脱獄犯だと自分たちで指名手配したんだからな……」
「何か知ってるみたいな口ぶりじゃないか。お父上が何か仰ってたのか?」
ザビニが面白がって質問を投げた。
「知ってたとして、僕がここで言うわけないだろう。ブラックの秘密は闇の帝王の秘密だ」
「話すとお前たちを危険に晒すことになる」などと言える程の素直さは、ドラコにはなかった。
シリウス・ブラックが実は無実で、闇の帝王の忠実な部下なのはピーター・ペティグリューの方だということも、そのペティグリューが今、闇の帝王と共にマルフォイの邸宅に居る事もセオドール・ノットは死喰い人である父親から聞いて知っていたが、それは己の内に秘めたままで居るほうがホグワーツでの生活が平穏無事に進むだろうと、そう判断して黙っているのだった。
「お前らと友達になれて。僕は幸運だな、マルフォイ」
「……どうしたノットなんだ急に気色悪い」
「………ふふふ。お前は本当に優しいやつだなマルフォイ」
「なんだ誰に何を盛られたノット」
急に慈母のような微笑みを湛えだしたノットに、ドラコもザビニも困惑しきっていた。
「良かったな、マルフォイ。僕もお前も、本当に……恵まれてる」
「おいノット本当にどうした。悩みがあるなら聴くぞ?」
困惑が心配に変わりつつあるドラコに微笑みながら、ノットはシリウス・ブラックとピーター・ペティグリューの真実も、闇の帝王がマルフォイ邸に居る事も自分とマルフォイの父が未だ死喰い人である事も、あの先生とダンブルドアは把握しているのだろうと予測していた。
あの先生はともかく、老いぼれダンブルドアの事は未だにどう頑張っても好きにはなれないが、しかし、だからといってダンブルドアの能力まで軽んじるほどノットは愚かではなかった。
バレていないわけがないと、ノットは確信していた。
闇の帝王の御力と、それに対する先生やダンブルドアの警戒。僕やマルフォイがまだホグワーツの生徒である事実。一度己の教え子だと定義した相手への、忽せにできない愛情。慈悲。
様々なものが積み重なった結果、自分たちはまだこうして大広間でチキンやフルーツを喰らっていられるのだろうと、苦手な食材をあえて食べようと試みながらノットは考えを巡らせていた。
「退学にする材料くらい、とっくに揃っているだろうに」
遠い目をしてそう呟いたセオドール・ノットを、唐突に激しい痛みが襲った。
「~ッッ!!!何するんだクラッブ!!」
「あたまおかしくなったのかと思って………」
ノットの右頬を全力で抓ったクラッブの目は、ドラコの顔に浮かんでいるものと同じ、友人の精神状態を危惧する憂慮の念に満ち満ちていた。
それから少しして、各々の午後の授業が行われるホグワーツ城の各所へと生徒たちが移動を開始した矢先、城の棟と棟を繋ぐ城壁の上。屋外の渡り廊下でその事件は起こった。
「エヘン、エヘン」
ハリーが一番見たくない人影が、なんならヴォルデモートを勘定に含めてもなお一番見たくないと言える人影が、何やら書類をチラチラと確認しながら1人の教師の行く手を塞いでいた。
「あなたは、残念ながら。魔法省がホグワーツの教師に求める水準を、満たしていません」
ショックを受けた様子のシビル・トレローニーは、「あたくしは―」と何か言いかけるが、アンブリッジはそれを聞こうとしない。
「査定は既に済みました。魔法省は結論を出しました。私が今からそれを告げます。ホグワーツ魔法魔術学校占い学教授シビル・パトリシア・トレローニー。残念ながら……あなたはクビです」
トレローニーがまた何か言いかけるが、アンブリッジは遮った。
「ホグワーツの教師を解任する権限は、任命する権限とともに魔法大臣が持っています。かつては校長の権限より優先されるものではありませんでしたが、今は違います。魔法省教育令23号により、ホグワーツ高等尋問官であるわたくしが、校長ではなくこのわたくしが、その権限を持っています。つまり、ご理解いただけていないようですからもう一度言いますが、あなたはクビです」
ワッと泣き出したトレローニーの声を聞きつけてやってきたのは、普段シビル・トレローニーの教師としての能力に、延いては予見者としての能力に疑問符を提示しているマクゴナガルだった。
「これは何の騒ぎですか!」
それが質問ではなく単に憤りをぶつけただけの発言だと、その場に居合わせた皆が理解していた。
「査察の結果をお告げしていただけです。トレローニー先生にはお辞めいただきます」
「何の権限があってそんなマネを!」
「魔法省教育令第23号に基づく魔法大臣閣下直々の権限です」
皆に紛れて遠巻きにその光景を見つめながら、アンブリッジが口を開く度に向こうに居るマルフォイの眉間のシワが深くなっている事に、ハリーは気付いた。
ドラコも、ノットもザビニも、そしてハーマイオニーも理解していた。今この場で正しいのはアンブリッジであり、何の法的根拠も無く難癖をつけているのはマクゴナガルの方なのだと。それが理解できてしまっているからこその不快感と、呪詛のひとつでもぶつけてやりたいという衝動。その場にいる生徒たちの内の何人もが、それらを抑え込むべく必死に己と戦っていた。
「シビル・トレローニー。あなたはもうホグワーツの教師ではありません。ですので今すぐに、城から退去していただきます」
「いっ、嫌です!ここはあたくしの家なのです!!」
トレローニーは、そう叫ぶので精一杯だった。
「お連れしなさい」
アンブリッジにそう指示された2人の闇祓いの顔には、特にアンブリッジの左に控える若い魔女の顔には「嫌だ」と思いっきり書いてあったが、一方でアンブリッジの右に控えているドーリッシュは、貧乏くじを引いたなと心中で嘆きつつも、仕事だからしかたないと素早く割り切っていた。
「嫌です!」「そんな事をする権限はアナタにありません!」
トレローニーとマクゴナガルが叫び、騒ぎを聞きつけて他の闇祓いたちも続々と集まってくる。
誰かが杖を構えてもおかしくない状況だと、ロンは焦った。
アンブリッジが杖に手をかけている事に、ハリーは気付いていた。
「その必要は無い。シビル」
その場の全員が、生徒も闇祓いもトレローニーとマクゴナガルもアンブリッジも皆、一斉に声のした方を見た。そして闇祓いの若い魔女とドーリッシュは思った。ああ助かった、と。
何故か頭のてっぺんにワタリガラスを乗っけたダンブルドアが、いつの間にやらそこに居た。
「シビル・トレローニーは魔法省教育令第23号に基づくわたくしの権限によって罷免されました。なのでホグワーツから退去していただきます。この事に関して何かご意見がおあり?」
アンブリッジの口調からは、自分のほうが立場が上なのだという驕りがビカビカと発散されていた。そしてそのドギツいピンク色が目の奥にキたのか、シェーマスがウェッと吐く真似をした。
「ホグワーツの教職員を罷免する権限は、確かにアンブリッジ先生、あなたが持っておられる。しかしのぅ。儂の記憶が確かならば、城に訪れてくださった客人を歓迎するのかそれとも追い返すのかを決める権限は、校長であるこの儂が未だ保有しておる。違いましたかの?」
一気に嫌悪の色に覆われたアンブリッジの表情が、ダンブルドアの発言の正しさを証明していた。
「シビル・トレローニーを、お連れしますか。アンブリッジ上級次官」
ドーリッシュがそう確認をとってくれた事に、若い闇祓いの魔女は内心で感謝していた。アンブリッジが己の遥か上の役職で、今は直接の上司でもある以上ハッキリと命令を撤回してもらわなければこの場は収まらないが、このキッツいファッションセンスのオバサンとはできれば会話をしたくない。それがこの若い闇祓いの魔女の率直な想いだった。
「……結構です」
吐き捨てるようにそう言って足早にその場を去っていったアンブリッジの背中にフレッドとジョージが思いっきり中指を立てても、マクゴナガルは一切咎めようとしなかった。
「申し訳ありません、トレローニー先生。マクゴナガル先生。ダンブルドア先生」
そう言って頭を下げた若い闇祓いの魔女をダンブルドアが「きみが謝る必要は何も無い」と優しい口調で諭している一方、マクゴナガルはトレローニーを慰めながら城の中へと戻っていった。
そしてドーリッシュが既にその場に居ない事に気づいて数秒ウロウロと困り果ててから慌て気味に去っていった若い闇祓いの魔女を見届けて、やっとハリーたち生徒は大きく息を吐き出した。
そして終始ダンブルドアの頭のてっぺんで休んでいたワタリガラスは、するりと1年生くらいの女の子の姿に戻った。
周囲のあちこちから驚きの声が上がる中、その女の子は事も無げに言う。
「やー、危ない危ない。殺すとこだったや。アルバスが対応してくれて良かった」
「くれぐれもホグワーツで殺人は控えてくだされ、先輩」
それが誰なのかに気付いた闇祓いたちの数人が杖を構えたが、すぐに生徒を巻き込む危険性と、そもそもダンブルドアと2人まとめて相手にするのは絶対に不可能だと思い至ってすぐ杖をしまう。
「そういや僕いま手配犯だったか。まいいやシビルくんと一緒にお茶しようよアルバス」
「ホグワーツに居てもいいと、改めて伝えて差し上げるべきでしょうな」
並んで城の中へと去っていったその2人を、闇祓いたちは誰も追いかけられなかった。
「ふたつハッキリした事があるわ」
廊下を歩きながら、ハーマイオニーが言う。
「ひとつは、アンブリッジは法を武器にしてくるからこそ法的根拠には逆らえないって事。もうひとつは、アンブリッジでもマクゴナガル先生の授業に文句はつけられなかったって事」
確かにもしマクゴナガルも「不適格」と判断されていたならアンブリッジがあの場でそう告げないわけがないと、ハリーはハーマイオニーの言葉を聞いて初めて思った。
「僕らやきみが思ってるのと同じくらいには、マクゴナガルもあのガマガエルが嫌いらしいな」
ロンがそう言うと、パーバティとパドマが「当然よ」と声を揃えた。
「だれがあんな女を好ましく思うのよ」「スリザリンの奴らの顔、見たでしょ?」
「「みんな眉間に、こーんな深いシワ!」」
その喋り方がちょっとフレッドとジョージに似ていて、ハリーはクスリと笑った。
「闇祓いのひとたちも、アンブリッジの事嫌いなのかな」ネビルがいつものぼんやりとした口調で言う。「アンブリッジの命令きくの、嫌で嫌で仕方ないって感じだった」
「そりゃそうだろ。あんなのが上司じゃ、楽しく仕事するなんて無理な話だぜ」
「ま、僕だったら正直、やる気は湧かないな」
ロンとジャスティン・フィンチ=フレッチリーがネビルの意見に賛同し、この話題はいつも通りに「アンブリッジほんと嫌い」という見解が共通している事を相互に確認して終わったのだった。
「占い学、どうなるのかしら」
ラベンダー・ブラウンは不安げだった。
「私達この後すぐ占い学の授業なのに……」
占い学の授業が行われる北塔の最上部にある教室では、ダンブルドアらが正にその話をしていた。
「……教室に居るだけなら、別に文句言われる筋合いは無いんじゃないの?」
教室内をウロウロと歩き回りながら、1年生にしか見えない女の子が言う。
「無理だと思いますわ。アナタならともかく、シビルはアンブリッジをあしらえる程元気溌剌ではありませんわ。シビルには休息が必要です」
トレローニーの隣にピッタリと寄り添っているマクゴナガルが意見を述べた。
「じゃあ、今日はとりあえず僕がやるよ。シビルくんはゆっくり休んでね。誰もきみをここから追い出したりしないから。……いやまあドローレスくんはするんだけど、ミネルバくんもアルバスも、他の先生たちも皆きみの味方だからね。きみは、城に、居ていい」
「あたくしは、教職員棟の、あたくしの寝室に居る事にしますわ……」
それだけ言ったトレローニーは、壁をすり抜けて現れた「灰色のレディ」に付き添われて、トボトボと占い学の教室から退出していった。
「ところでミネルバくんさ。こんなタイミングで訊くことじゃない気もするけど―」
その女の子は、マクゴナガルを真っ直ぐに見つめる。
「シビルくんの事、どう思ってる?あの子の『能力』について」
「………自分が『予見者』だと、『内なる目』とやらを備えていると、思い込んでいるのでは」
女の子は、ダンブルドアの方を一瞬だけ見てすぐマクゴナガルに視線を戻した。
「それがねえ」その女の子はマクゴナガルにニンマリと笑いかける。「あの子は本物の『予見者』なのさ。ただ、その能力を制御しきれていない。だから見たい時に見たいものを見られるわけじゃあない。そして、あの子はあの子の『内なる目』が運命を見ている間の事を、全く覚えていない。だから傍目には『予見者だと思いこんでいる』と見えるわけだ。なにせ本人の占い学に関する見解はその殆どが、全くもって……いや、今日ばっかりはこの先を言うべきじゃないね」
そこで口を噤んだ女の子に代わって、マクゴナガルの心中に湧いた「では何故ずっと占い学の教師として雇い続けているのか」という疑問に、それを察したダンブルドアが答える。
「トムに関する予言について、儂はどこまで話したかの、ミネルバ」
たったそれだけで、マクゴナガルは全てを理解した。
「では、シビルはこの城から出たら―」
「トムくんの『お友達』に拷問されて死ぬ。その通りだよミネルバくん。だからシビルくんをこの城から出すわけにはいかないんだ。もしあの子が外出を望む事があれば、きみと少なくともアルバスか僕か誰かもう1人くらいは、護衛として付いて行くべきだろうね。それに―」
その女の子は、ダンブルドアに向き直った。
「思い出してみなよ、アルバス。シビルくんがした予言。『本物』以外の予言も、あの子の捉え方が間違ってただけで、あの子が『見た』もの自体は、一度だってハズレていないだろう?」
「先輩は、儂の占い学の成績を覚えていて、その質問をしておるのでしょうな?儂は先輩やトレローニー先生などとは違って、『内なる目』は持ち合わせておらんのです」
「など」に含んだもう1人が誰なのか、その「先輩」には手に取るように解った。
しかしマクゴナガルは、今の会話の全く別の部分が気になっていた。
「………あなたも『予見者』なのですか?」
「オナイ先生に、僕がホグワーツの生徒だった頃の占い学の先生にそう言われたの。あとカッサンドラくんとかラッカム先生にも、ペンブロークさんにもゲラートくんにも言われた。ホグワーツの5年生の頃からね、時々夢で見るんだよ。知るはずの無い事とか、『あ、このままだとこれが現実になるんだな』って光景とかをね。ソロモンおじさんをセバスチャンが殺しちゃう寸前で止められたのも、リタ・レストレンジをギリギリ助けられたのも前の日に夢で見たからだし、昔見た中で『もうすぐなのかな』って思ってる夢もまだ幾つかある。ホグワーツが戦場になってる夢とかね」
「未来を夢で垣間見る」というのが「予見者」が持つ能力の一形態だという知識は持っていても、マクゴナガルにはその発言が事実に基づいているのかは、全く判断ができなかった。
しかし、嘘を言っているようには思えなかったし、「予見者だと保証した者たち」として上がった名前が全て魔法史に名を残す「本物の予見者」なのは確かな事実だった。
「儂は、占い学がよくわからぬ」ダンブルドアは言う。「しかし、先輩が『夢で見た』と言って遠い未来や近い未来の話をした後で、それが結局まるで見当外れだったという経験は、したことが無いのじゃ。そういう時はいつも、そのものズバリな場面に出くわすか、『いま危ういところで回避できたのだ』と確信させられるような場面に遭遇するかのどちらかだけじゃった」
「僕も占い学よくわかんない」と、その女の子も言う。「でも成績は良かった。実技だけね!」
「占い学に限らず、先輩はいつも『座学』と『理論』に。苦戦しておられましたのう」
ダンブルドアがそう言うと、その女の子は「みゃはははは!!」と楽しそうに笑った。
「さて、そろそろ生徒が授業を受けに来る頃ですな?」
「わたくしは変身術の教室に行かなければ―」
「ドビー、ミネルバくんを変身術の教室に送ってあげて」
「勿論です。ドビーが直ぐにお送りします」
バチンと音を立てて現れた屋敷しもべ妖精は、マクゴナガルの手を取ってすぐまた消える。
「アルバスは居てね。僕さすがに占い学の授業はちょっと自信ないから」
「それは儂とて同じ事です、先輩」
「………さみしいから居てほしい」
「それなら儂はここにおります」
ダンブルドアがクスクス笑いながら部屋の奥に自分用の椅子を出現させた直後、ラベンダーやパーバティを始めとする5年生の占い学受講者たちが教室に入ってきた。
「先生!」
急に声を弾ませたパーバティを、パドマとラベンダーがニヤニヤしながら見つめている。
「まず、トレローニー先生は城に居る。出ていかないし、追い出させない。逢いたかったら誰か先生に許可証貰って教職員棟に行ってね。今日はとりあえず僕が占い学の授業をするけど、今後どうなるかはまだ決めてない。……アルバス代わりの先生誰かアテある?」
「……このあと、森に行ってみるつもりです。先輩」
「そ。じゃあ………」
その女の子は今日の授業で何をやるかを決めたらしく、一呼吸置いてからまた話し始めた。
〈ちょっと手伝ってくれるかい?〉
〈なんだ、なにかくれるのか〉
その女の子が着ている制服の襟首からスルリと現れた角のある蛇の額に宝石が煌めいているのを見て、数人の生徒が息を飲んだ。
「先生、それまさか……」
「ふふん。そうだよダフネ。この子はホーンド・サーペント」
得意げな笑顔を見せたその「先生」の首の周りに、その角と宝石を備えた蛇はマフラーのように緩く巻き付いてキョロキョロと周囲を見回し始めた。
「いいかい、『予見者』たる本物の『内なる目』を持っているのは、何もヒトだけじゃない。この中で誰か『イゾルト・セイア』って魔女の事を僕の代わりに説明してくれる子は居るかい?」
そして今日も生徒たちは、その先生の授業に惹き込まれていく。しかし今回ばかりは楽しい雰囲気と同じくらい、「トレローニー先生大丈夫かしら」という憐憫もまた教室中に漂い続けていた。
マリウス・ブラック
フィニアス・ナイジェラス・ブラックの孫(三男の子)。
シリウス・ブラックの大叔父(母の父の兄弟)。
スクイブだった為に家系図から抹消されている。
レガ主は放っとけないだろうなって思った。
フィリダ・スポア
かつて(15世紀)ホグワーツの校長だった魔女。
薬草学の教科書「薬草ときのこ1000種」の著者でもある。
Q.なんでレガ主が「予見者」なんです?
A.だってゲームでレガ主を操ってる私たちはハリポタを知ってるしググれるから。
「あ、ウィーズリーって事は悪いやつじゃないな」とか
「あ、ここ映画で見た!!」とか「あコレ原作にあったな」とか思ったでしょ。
ゲーム内じゃレガ主はホグワーツにあの年に初めて足を踏み入れたのに。
それを世界観設定に落とし込むとこうなると思ったんですね。