104年後からの今 作:requesting anonymity
夜。ベッドの中で微睡みながら、ブレーズ・ザビニはあのセバスチャン・サロウとかいう魔法使いの言葉を思い起こしていた。
「『コイツだけは絶対に討ち果たさなきゃいけない』って敵には、それがどんなに危険で強大でも、皆で頑張ればきっと勝てる。あのバカ、どう考えたってアイツ1人の功績なのに、ルックウッドの事もランロクの事も『皆で頑張ったお蔭』って言うんだよね……。けどね、きみたちの力と結束が本当に問われるのは、本当に難しいのは、『大切な人を止めてあげなきゃいけない時』だ。ギャングのボスとかテロリストとか、大量殺人犯とか。そういうのと戦うのはさ、作戦目標自体はシンプルなもんだ。だろ?だってブッ殺せばいいんだから。けどねえ」
その魔法使いの、遥か遠くを見るような不思議な表情が、ザビニの脳裏に焼き付いていた。
「きみたちの友人や、家族がさ。明らかに道を踏み外して、破滅に向かって突き進んでる時。それをきみたちが止めたい時。本当に自分の全てを総動員して、魔法も知識も経験も人脈もそれ以外の能力も全部使う事になるのは、そういう時だ。そしてこういう時って『アイツが原因だ!アイツを排除すればいいんだ!』って安易な考えは、だいたい最悪の結果を齎す。誰かを救おうとする時は、誰かを斃そうとする時よりも遥かに、慎重に動かなきゃいけない。……さて、ちょっと僕の昔の記憶を見てもらおうかな………ちょうどここにはあの時の『憂いの篩』もまだあるみたいだし」
その記憶の中に居た「スリザリンの5年生」の表情が、ザビニの脳裏に焼き付いていた。
彼が今想定しているのは、自分の身に降りかかり得る「最悪の厄介事」。あまり積極的に友人を増やそうとする方ではないザビニの数少ない、どころか彼らだけだとすら言える2人の対等な友人。父親が死喰い人であるドラコ・マルフォイとセオドール・ノットに関する事だった。
単に「闇の帝王が声高に唱える主義主張の賛同者」であるに留まっている自分の母親とは違って、彼らの父たちは闇の帝王に、もうずっとお仕えしている。
闇の帝王は、残酷なお方だ。目を瞠る働きをした者を称賛する事もあるとは聞くが、その逆は。
(ノットとマルフォイのお父上が、大きな失敗をした時。闇の帝王の計画を大なり小なり狂わせるほどの失敗を、闇の帝王の数年分の行動を無駄に終わらせる原因となった時。つまりダンブルドアの老いぼれジジイとあの先生が、死喰い人の企みを阻止した時。その時は、もしかすると)
不安に駆られたザビニは布団を払い除けて起き上がり、同じ寝室でドラコ・マルフォイとセオドール・ノットが確かに各々のベッドで眠っている事を、わざわざ枕元まで行って確認した。
2人がそこに確かにまだ居る事を、ザビニは確かめずにはいられなかった。
「お前ら、まさか失態を演じた父親の身代わりとか見せしめになんて、されないよな」
ザビニは誰かに「ありえない」と断言してほしかったが、いま起きているのは自分だけだった。
「これぜんぶたべていいのかぁ……」
背後からクラッブの寝言が聞こえてきて、ザビニは思わず笑ってしまった。
「……全く。クラッブ、ゴイル。お前ら2人はそればっかりだな?」
ゴイルが「フガゴッ?!」と妙ないびきをかいた時、ザビニはそういやこいつらの父親も死喰い人で闇の帝王にお仕えしてるよなと思い出したが、それでもこいつらは「父親の身代わり」どころか闇の帝王に謁見する事すら無いのではなかろうかと、ザビニはなんとなくそんな気がしていた。
「そうであってくれよ。……頼むから」
誰に頼んでいるのか、ザビニは自分でもよく判らなかった。
一方同じ頃。グリフィンドールの女子寝室でも、ハーマイオニーがまだ起きていた。
「1890年のゴブリンの反乱って、なんでこんなに資料が歯抜けばっかりなのかしら……」
宿題でもなく試験範囲でもない自主学習に、ハーマイオニーは今日も本来なら睡眠をとっている筈の時間を注ぎ込んでいた。
「何か、を。欲しがってたのよね?ランロクは。ゴブリンの反乱って須らくというか、だいたい『社会的地位の向上』が目的よね?けど、このランロクってゴブリンは、なんか………」
どっちかといえば「ヴォルデモート」に似てるんじゃないかと、ハーマイオニーはなんとなく思った。「ゴブリン族の解放」は、味方を増やすためだけの方便なのではないか、もしくは暴力行為を続ける内に手段と目的が逆転してしまったのではないか。そういう雰囲気が、マダム・ピンスに提供してもらえた幾つかの資料のひとつである、当時の「予言者」の記事からは感じられた。
「……まだ起きてたのハーマイオニー。肌が荒れちゃうわよ?」
ルームメイトで友人でもあるパーバティが眠そうな目をしてベッドに入り込んできたので、ハーマイオニーは少し端に寄ってスペースを空けた。
「ごめんなさいパーバティ。起こしちゃったかしら」
「ううん、私も起きてたよ。ラベンダーに借りたダルシベラ・フィルバートの詩集を読んでたの。ねえ見てこれ。この分厚さで、ひとつ残らず旦那さんに愛を囁く詩なのよ!ステキじゃない?」
「アナタたち2人とも、ホントにそういうの好きね」
ハーマイオニーがちょっと呆れている様子なのを見て取りつつ、パーバティはそんな事気にせずハーマイオニーが読んでいたものであろう「日刊予言者」と、他何冊かの古びた本、そしてそれらを紐解きながら何らか書き込んでいたらしいノートに目を向けた。
「アナタこそ、ホントにこういうの好きね?……今日のはなあに?いつの?」
「1890年よ。ランロクってゴブリンが反乱起こしてたみたいなんだけどね―」
パーバティは、その名前に聞き覚えがあった。
「それ、あの先生が5年生の時にやっつけたって言ってたやつじゃない?………何、どうしたの」
ベッドに並んで寝っ転がりながら、パーバティは突如微動だにしなくなったハーマイオニーの顔を覗き込み、眼前で手をひらひらと振ってみるなどする。そして、10秒後。
「………どおりでどこかで聞いたことがあるって思ったはずだわ。私、なんで忘れてたのかしら!んもう!!なんてバカなの!………先生、訊いたら詳しく話してくれるかしら……」
「大きな声出したらラベンダーたちが起きちゃうわよ?」
そして束の間クスクスと笑ったパーバティは、本題を切り出す。
「ハーマイオニーあなた、今の『んもう!』って言い方。ちょっとロンに似てたわ」
ハーマイオニーはパーバティの発言の意図を読み取って、ビクリと敏感に反応した。
「……ねえあなた。ロンの事好きなのよね?ていうかあなたたち、両想いよね?」
パーバティにそう指摘されて、ハーマイオニーは黙りこくったまま激しくジタバタした。
「なのに、あなたたち。2人共………何をしてるの??」
ハーマイオニーは、ジタバタするのをピタリと止めて静かになった。
「たぶんだけれど。あなたとロンがうじうじしてればしてるほど。迷惑を被るのはハリーよ?」
突っ伏していたハーマイオニーはぐしゃぐしゃの顔をやっと上げ、縋るようにパーバティを見た。
しかしパーバティは、容赦なく追撃をかける。
「ねえ。ラベンダーが最近、ロンの事を見る時どんな目をしてるか。気づいてるわよね?あの子はアナタみたいに尻込みしたりなんて、しないわよ?」
そして数秒の沈黙が流れ、パーバティは慌てた。
「ごめんなさい、言い過ぎたわね。ごめんなさい。ちょっとそんな顔しないでよ……」
「………ねえ。何か、パーバティあなたから、私に何かアドバイスとか………貰えたりとか……」
ハーマイオニーからのその請願を、パーバティは至極アッサリと斬って捨てる。
「ロン本人にハッキリ言えばいいじゃない。愛してるって」
そしてまた、パーバティは慌てた。
「ちょっとそんな顔することないじゃない……ごめんなさいそうよね無理よね……」
パーバティともラベンダーとも、他2人のルームメイトともハーマイオニーはホグワーツ入学以来今までずっとあまり親しくはしていなかったが、今年から。主にはD.A.をきっかけに、新たに友情を育みつつあった。パーバティとは特に気の置けない間柄を築けたハーマイオニーだったが、ラベンダーとは、興味と好奇心の向かう先や性格などの違いが目に付くからなのか、もしくはそれなのにも拘らず好きな男の子だけが被ってしまったからか、今ひとつ「友人」と表現できるほどの関係性を構築できていない。そしてそれを傍で見続けているパーバティは、もどかしいやら面白いやら、とにかくこの2人のルームメイトのお蔭で退屈とは程遠い学校生活を送ることができていた。
「ハーマイオニー、あなたって」
「………なあに」
「見てて飽きないわ」
「………褒め言葉だと思う事にするわ」
2人はその後も遅くまで話し込み、結局そのまま同じベッドで寝たのだった。
「あら?随分仲良しねハーマイオニー」
「お゙はよ゙うラベンダー………ねえ゙動けないんだけれど助けてくれないかしら……」
翌朝目を醒ましたハーマイオニーは自分の胴体にしがみついたまま寝息を立てているパーバティを見て、昨晩あのままいつの間にやら眠ってしまったらしいと思い至った。
「ねえパーバティ?起きてくれないかしら?動けないんだけれど……?ねえー……?」
自分が果たしてもう何分こうしているのか、ハーマイオニーには知る術は無かった。
「ねえラベンダー見てないで助けてほしいんだけれど」
「パーバティって寝顔かわいいわよね」
まだ時間に余裕はたっぷりあるんだから別にいいじゃないと、ラベンダーは1人だけ朝の身支度を進めながら時折ハーマイオニーとパーバティの方を見て、その度にクスクス笑っていた。
「あれ………?なんでハーマイオニーがわたしのベッドにいるの……?」
「おはようパーバティ。けどここは私のベッドよ。昨日の夜あなたが入ってきたのよ」
パーバティがぼんやりと目を開けた頃には、ラベンダーは朝の身支度を完璧に終えていた。
パーバティは未だ半分眠っているような表情のまま、ぼんやりとハーマイオニーを見ている。
「ハーマイオニーあなた。ちゃんと、いいにおいするのね……?」
「なんだと思ってたのよ私の事」
「本棚の…………すきまとかに……すんでそうだなって……痛い痛い痛いいたい」
ハーマイオニーに両手で頬を抓られて、パーバティは漸く目を醒ました。
「おはようハーマイオニー。………えっなんで私のベッドに居るの??」
「おはようパーバティ。あなたホントに朝弱いのね?」
すっとぼけた会話劇を繰り広げている2人に、ラベンダーがクスクス笑いながら声をかける。
「ほらパーバティ。いい加減にハーマイオニーを離してあげなさいよ」
「えっ、あっ。あ、ホントねごめんなさい」
ずっと自分がハーマイオニーに抱きついていた事に指摘されて始めて気づいたらしいパーバティがベッドから降りた事で、ハーマイオニーはやっと自由に身動きできるようになった。
「ねえハーマイオニー。前からお願いしたかった事があるんだけど」
「なあにラベンダー」
「………髪の毛整えさせてくれないかしら」
片方の手に櫛と「スリークイージーの直毛薬」を、もう片方の手に杖を握ったラベンダーに詰め寄られて、ハーマイオニーにはその提案を拒否するという選択肢は無かった。
「ねえハーマイオニー、モヒカンとか興味ない?」
「私が監督生だって事を思い出させてさしあげるべきかしらパーバティ?」
「ゴメンナサイ」
自分で杖を振って出現させた椅子に腰掛けてパーバティとラベンダーの2人がかりで髪をイジられているハーマイオニーは、ふと先日のクリスマス休暇の事を思い出した。
「ねえパーバティ。そこの『スリークイージー』の缶、ちょっと見せてほしいんだけど」
「はい。……どうしたの?あなたも持ってるでしょコレ?」
「ハリーがね。あの先生からのクリスマスプレゼントで『ポッター家の家系図』を貰ったのよ。それでね、そこに書いてあったらしいんだけど……あ、あったわ。ほらこれ」
ハーマイオニーが指し示したその缶の側面、そこに印字されていた「Fleamont Potter」という文字列を、パーバティとラベンダーは目を丸くして見つめていた。
「ハリーのお爺さんだそうよ」
ハーマイオニーの端的な説明で、ラベンダーとパーバティはより一層目を丸くした。
「……どうしよう。全然知らなかった……ハリーにお礼言わなきゃ」
そう口走ったラベンダーに、ハーマイオニーは落ち着き払った様子で言う。
「戸惑わせるだけだと思うわよ?ハリーは今まで自分に祖父が居た事すら知らなかったんだから」
そしてまた誰も発言しない時間が何分か流れ、無抵抗でラベンダーに髪を整えられているハーマイオニーの正面に回って、パーバティはその顔をまじまじと見つめた。
「なあに?」
「まさかとは思うけどハーマイオニーあなた、自分の事。可愛くないなんて思ってないわよね?」
ハーマイオニーの眉間に、ギュウッと深いシワが刻まれた。
「アナタとパドマが男子たちから『学年一の美少女姉妹』って呼ばれてるの知ってて言ってる?」
厭味かコイツとすら思っているハーマイオニーを余所に、パーバティはピタリと動きを止めた。
パーバティが硬直した事に、ハーマイオニーだけでなくラベンダーも驚いた。
2人の目の前で、パーバティの顔はどんどん赤くなっていく。
「知らなかったの??!!!」
ラベンダーが思わず驚きの声を上げ、ハーマイオニーもラベンダーと同じ表情をしていた。
「わっ、私そんな……そりゃあ、自信が無いってわけじゃあないけれど……まさかそんな……」
何やら早口になり始めたパーバティを、2人のルームメイトが見つめていた。
女の子たちがそんなかしましい朝を過ごしている一方で、ハリーは胃にズシンと来るような気の重さと戦いながら朝の身支度をこなしていた。
「おはようハリー。……どうしたの?」
「おはようネビル。昨日夕方に、校長室に呼ばれてね―」
閉心術の個人授業を受けるのは問題では無かった。教えてもらう相手が問題だった。
「これから暫く、スネイプから閉心術の個人授業を受けるんだ。ダンブルドアにそう言われた」
「ハリー………あの、僕。その、応援してるからね」
2年前ルーピン先生の授業でボガートと相対した時と同じ表情になったネビルを見て、ハリーは少しだけ元気が出た。
「でもなんでスネイプなの?ダンブルドアとかあの先生とか、マクゴナガルとかじゃだめなの?」
心配そうな表情になったネビルにそう訊かれて、ハリーは昨日の夕方のやりとりを思い起こす。
その時ダンブルドアの膝に座っていた「あの先生」が言っていた、講師がスネイプでなければならない理由に納得させられてしまったからこそ、ハリーは気が重いのだった。
「だってハリー、セブルスくんの事キライだろう?だからさ。だって考えてみなよハリー。きみがロンやハーマイオニーを相手に『閉心術』を。使わなきゃいけない時が来るって思うかい?そんな日は永久に来ないだろう?閉心術が必要になるのはいつだって、『敵』を目の前にしてる時だ。だからきみにこれを教えるのはセブルスくん、じゃないやスネイプ先生じゃなきゃダメなんだよ。だってハリー、きみが閉心術を誰に対して使うかって、ヴォルデモート卿に対してなんだから。『怒り』とか『憎しみ』とかそういうものを煽られながら、それでも心をからっぽにするって事をヴォルデモート卿相手に成功させなきゃいけないんだから。だからハリー、きみがこれを練習するのにスネイプ先生以上の適役が居るかい?……それともアンブリッジ先生のほうが良いかい?」
すぐ隣で自分と同じくらい嫌そうな顔をしているスネイプを見たのが、ハリーがその提案を受け入れる決定打となった。スネイプが嫌がるのなら頑張れるかもしれないと、ハリーは思っていた。
しかしその軽率な自信も、いざ実際に練習し始めるとすぐに雲散霧消した。
「レジリメンス!!」
アッサリと開帳されたハリーのここ最近の記憶を心底不快そうな表情で観させられているスネイプも、一番見られたくない相手に記憶を覗かれたハリーと同じくらい苛立ちを募らせていた。
午前の授業と昼食の間の空き時間にスネイプのオフィスで行われている初めての閉心術の個人授業は、今のところ何の成果も上げていなかった。
「努力をしていないなポッター。心を空にする必要があると説明された筈だ。闇の帝王の開心術は吾輩如きの比ではないぞ……それとも、闇の帝王に心を明け渡したいのかね?」
そしてそんな光景を、「なんで自分がこんな事を」とお互いに思っているその2人を見ながらケラケラ笑ってもりもりお菓子を食べている青年が、そこには居た。
「才能無いねえ、ハリー?」
その青年は至って気楽な佇まいで、自分で用意した椅子に座ってその練習風景を見物していた。
「けど才能無いのに上手くやんなきゃいけないって事も人生にはある。きみは今それだよハリー」
ハリーはこの時、初めて、その先生の言動に苛立っていた。しかしそれはすぐに感謝へと変わる。
その先生が具体的なアドバイスをくれた事によって。
「……強いて他の何かに例えるなら、守護霊呪文を使う時の感覚に近いかな。ただ、守護霊呪文が『幸せな思い出』っていう『ひとつのもの』で心の中をいっぱいにしなきゃいけないのに対して、閉心術は『ゼロ』だ。『なにも』で心の中をいっぱいにする。……わかる?」
ハリーはそんな事言われてもよく解らなかったが、今してもらったものより解りやすい説明がもらえる事は無いのだとその先生とスネイプの表情から察して、自分なりの努力を始めた。
「セブルスくん、10秒ぐらい待ってあげて。きみだってハリーの思い出なんか見たくないでしょ」
スネイプは渋々、ゆっくりと心の中で10数えた上で「いくぞ」と合図もしてから、別に自分は呪文を唱えなくても使える開心術を、わざわざくっきりハッキリ大きな声で唱えるのだった。
しかしまたしてもスネイプは、ポッター小僧の思い出なんぞを見るハメになった。
先程より僅かに靄がかかっていたような気がしないでもなかったが、それでも充分不快だった。
「この程度ではとても進歩したとは言えんぞポッター………もう一度だ。目の前の人間に対する怒りや憎しみは閉心術を使う上で邪魔にしかならん。排除するのだ……さあ。レジリメンス!!」
「じゃ、その調子で頑張ってねー。僕ルーナにブラッシングしてもらう約束してるから。2人とも、くれぐれもケンカとかしちゃダメだよ?」
お菓子を食べ終わったその先生がワタリガラスの姿になって飛んでいってしまった事で、ハリーは閉心術の習得がますます遠のいていったような気がした。
魔法薬学教授のオフィスを飛び出したワタリガラスは、特にどこでとも待ち合わせをしていなかったルーナを探して城を飛び回る。
そして中庭に降り立ったワタリガラスは、傍のベンチに居た女の子たちに見つかった。
「「「あ、先生」」」
「おや、髪の毛のアレンジがステキだねえハーマイオニー。とてもよく似合っているよ」
ハーマイオニーがギュッと苦々し気な表情を作った事で、その先生は首を傾げて笑った。
「なんだいハーマイオニー。何があったの?」
「先生が今くれた言葉を、欲しい人から貰えなかったのよ」
ラベンダーはそう説明しつつ、ちょっと愉快だとでも言いたそうにクスクス笑っていた。
「今朝、談話室でね。ハリーはちゃんと『それ、凄くいいよ』って言ってくれたんだけど」
「ロンったら『変なもんでも食べたのかハーマイオニー?』って」
ラベンダーとパーバティの説明を聞いても、その先生は楽しそうに微笑んだままだった。
「男の子ってのは、そういうもんなのさ」先生は、あの年の自分と同じ年齢の女の子3人に言う。「きみたちが気づいてほしいポイントにまーーーーったく気づかなかったり、どころか欲しい言葉と真逆のセリフを投げてきたり……」
そう言いながらその先生は、事も無げにハーマイオニーの髪を1本引き抜き、それをいつの間にやらその手に持っていた豪華なデザインのガラス瓶に投入した。
何かの魔法薬だという事だけは察せたラベンダーとパーバティを余所に、ハーマイオニーはそれが何なのかを一目で見抜いた。
「先生、それ、そのボトル。レミーマルタンの『ルイ13世』?それとんでもない値段が―」
「あ、そっち?そうだよハーマイオニー。これ毎年ウィンストンくんの孫のウィンストンくんがくれるんだ。ウィンストンくんが、最期の最期に家族に僕の話をしたみたいでね……」
「ウィンストンくんの孫のウィンストンくん」というキーワードだけでハーマイオニーは、先生が誰の話をしているのかを理解して目を丸くした。
「先生、ウィンストン・チャーチルと知り合いだったの??」
「そ。ウィンストンくんは僕にできた初めての人間の友達。同い年なんだ。僕が5年生でホグワーツに入学する前の年、僕がまだロンドンの下水道に住んでた頃に道端で会って仲良くなったの」
先生のその発言には気になるところが幾つもあったが、先生がボトルの中身を飲み干した事で、話題はまたハーマイオニーへと移っていく。
「「ポリジュース薬!」」
ラベンダーとパーバティが同時に言い、先生は「正解!」と手を叩いて褒めた。
「この瓶キレイだから薬瓶に使ってるの。そんな事よりほら、見てごらんよハーマイオニー」
ハーマイオニーとそっくり同じ外見になった先生は、明らかにハーマイオニーのそれではない、人懐っこい笑顔でハーマイオニーを照らす。
「きみはこんなにステキなんだから、自信持って堂々としてればいいのさ。女の子が美人がどうかはそれで決まるんだって、むかーしサチャリッサが言ってたよ」
そう言った先生は再びワタリガラスの姿になって、3人の前から飛び立っていった。
「ワタリガラスってあんなに羽毛がクシャクシャにうねってるものだったかしら……ポリジュース薬で私になってたから?…………私、髪、普段。……あんなに??」
「アナタの髪は、いつもは『あんなに』よ。ハーマイオニー」
ラベンダーからそう宣告されたハーマイオニーは縋るような目をして、新しく友人になった2人のルームメイトを見つめた。
「ロンもハリーも。たぶん私の事、女の子だとも思ってないわ。だってロンったら去年―」
ロンが昨年ダンスのパートナー探しにさんざん苦労した挙げ句に「そう言えばきみは女の子だ!」と口走った事を、ハーマイオニーは未だ根に持っていた。
「それは、対等な友人関係を築けてるって事で、素晴らしいんじゃないの?」
パーバティにそうフォローされても、ハーマイオニーの表情は変わらない。
「そう表現すれば、多少は聞こえはよくなるかもしれないけれど………」
そしてハーマイオニーは、遠からず恋敵になると予感している相手に、思いの丈をぶちまけた。
「そういう意味じゃあ私、もしかすると心の何処かでアナタに憧れてるのかもしれないのよラベンダー。だって、アナタ。すごく女の子なんだもの!!私だってもうちょっとぐらい………」
どう返答するべきなのかを判断しかねているラベンダーと、この子ったら泣くんじゃないかしらという勢いで溜まりに溜まった心の底のドロドロしたものを吐き出し始めたハーマイオニーを見ながら、パーバティはロンってホントにそういうとこ無神経よねと思ったのを皮切りに、シェーマスやディーンやハリーにネビルなどなど、その場に居ない男子たちをチクチクと責め始めていた。
「ねえグレンジャー。そういう話は談話室か寝室でするべきじゃないの?丸聞こえよ?」
そう言いながら寄ってきたダフネ・グリーングラスが話に加わった事で、話題はグリフィンドール寮外へと範囲が拡張され、同級生という枠にすらとどまらない、「男の子」という極めて広範な主題を取り扱う、被告人不在の欠席裁判へと変貌していった。
「ザビニは?彼、少なくとも顔は良いわよね?」
「論外よ。だってザビニ、誰に対してもまず『値踏み』から入るんだもの。マルフォイとノットはよく友達をやれてるもんだと思うわ。ポッターはどうなのグレンジャー?」
「ハリーをそういう対象として見た事は無いわ。たぶん向こうからしても同じよ。そして、私とハリーにとってはそれが一番良いの」
ダフネ・グリーングラスは、ラベンダーとハーマイオニーを交互に見つめて、とうとう言った。
「………ウィーズリーなんかのどこが良いの??」
投下された爆弾はラベンダーとハーマイオニーを燃え上がらせ、やたら早口になった2人がグリーングラスに詰め寄るのを見ながら、パーバティは暫く静かにしていようと決心したのだった。
一方、その時。校長室では、その部屋の主が1人の魔法使いと面会していた。
「やあ。ダンブルドアくん」
「お久しぶりです。サロウ先輩」
その魔法使いのみならず、未だお元気でいらっしゃる、あの頃7年生だった先輩たちが未だに自分の事を「アルバス」や「ダンブルドアくん」と、学生時代と同じ呼び方で呼んで、学生時代と変わらずに後輩扱いしてくれるのは、ダンブルドアにとって救いだった。
「僕らの代わりにアイツの相手してくれてる事、感謝するよ」
「先輩を長々とお借りしてしまっている事、誠に申し訳なく思っております」
「ほらこれ。アンとオミニスから。きみによろしくって」
アメリカのマグルのお菓子がパンパンに詰まった大きな袋と「コワルスキー」のパンの紙袋を受け取りながら、ダンブルドアはその魔法使いをじっくりと見つめた。
「あ。いっけね」
一瞬遅れて、セバスチャン・サロウは失言に気づいた。
「やはり。クリスマス休暇の間こちらに来ていたオミニス先輩は、ご本人ではなかったのですな」
「………えー。えー………ノーコメント」
「あれは、どなただったのですかな?オミニス先輩の御子息のどなたかですかな?」
違うと判っていて訊いていると、セバスチャンは察せていた。
「あーいやぁそうだねそうかもしれないねじゃ僕はホグズミードのアイツの店に戻るよまたね!」
逃げるように校長室から去っていったセバスチャン・サロウが居なくなったあとで、ダンブルドアは傍らの止まり木に佇んでいるフォークスに視線を向けながら、静かに呟いた。
「先輩は、やはり。恐ろしいお人じゃ。お主のような者には、特にじゃ」
ダンブルドアはフォークスの瞳を通じてその人物と会話ができると信じているかのようだった。
―そう思うじゃろう。ゲラート。
心の中でそう思い浮かべるに留めたダンブルドアは、立ち上がろうとした拍子にワイングラスを落として割ってしまった。
「おお、いかんいかん」
スルッと指先を回してそれをすぐに修復して丸テーブルの上へと戻したダンブルドアは、壁にかかっている歴代校長の肖像画の1人と目が合った。
「たとえ修復できても、一度それを破壊したという事実は消えんぞ、ミスター・ダンブルドア」
「………それは、わかっているつもりです。ブラック校長」
「ワイングラスならともかく、友人や恋人との関係は、修復なぞせんほうが良いという事もある。利口なお前はそんな事、言われんでも判っておるだろうな?」
「わかって……わかっています。校長先生」
ダンブルドアは無意識の内に、束の間、ホグワーツの生徒だった頃の喋り方に戻っていた。
「でも先輩は、壊れたものを。なんであれ、直そうとなさるんです。いいって言ってるのに」
「そういう奴だ、あの愚か者は。傍迷惑な輩だ」
フィニアス・ナイジェラス・ブラックは、額縁の中からダンブルドアを見下ろしている。
「あやつが何かをすると決めた時。お前には拒否する権利は無いし止める方法も無い。忘れたわけではないだろうな。ミスター・ダンブルドア?お前に許されているのは心の準備をする事だけだ」
この、自分が生徒だった頃に校長を務めていた偏屈な老人が何を言いたいのか、ダンブルドアは重々承知していた。しかし心の準備の方は、いつまで経ってもできる気がしなかった。
一体、今更。どんな顔をして会えばいいと言うのだろうか。
何を話せと言うのだろうか。
会ってどうしろと言うのだろうか。
「また会う」という事をアバーフォースにどう説明しろと言うのだろうか。
ダンブルドアには、その答えが全くわからなかった。
ただ、いつなのかは判らないが、いつか。再会させられるという事だけが、確信できていた。
ドラコらスリザリン生の部屋分けは私の純然たる妄想ですが
ハーマイオニーとラベンダーとパーバティがルームメイトなのは公式設定です。
ただ、あと2人居るハーマイオニーのルームメイトは一切詳細不明です。
映画ハリー・ポッターで私が一番好きなセリフは「アズカバンの囚人」での
ハーマイオニーの「私の髪、後ろから見ると、あんな……?」で
原作ハリー・ポッターで一番好きな文章は「謎のプリンス」の
「ロンは燻製鰊の大きな一切れで咽せた」です。
対戦よろしくお願いします。