104年後からの今 作:requesting anonymity
できれば鉢合わせなどしたくない相手と不意に出くわすというのは、避けようとして避けられる種類の不幸ではない。しかもそれが行動の予測が困難な相手なら、尚更。
しかし同時に、その人物と遭遇するというのは、今の彼らに課せられた職責でもあった。
「あらま。」
敏速に杖を構えて臨戦態勢に入った3人の闇祓いの正面で、スリザリンのベストの上からドラゴン皮のコートを羽織り、左右でレンズの色が違う珍妙なゴーグルを額にかけたその魔法使いは、あたかも男の子が2段のアイスを落としてしまうのを目撃したかのような気軽さで驚いてみせた。
「まー。こういう事もあるかぁー。久しぶりだねえガッちゃん」
「お久しぶり、です………」
ここ数日同じ班で警邏している2人の同僚は目の前のこの人物を知らない以上、自分が2人を守らなければと決意している主任闇祓いガウェイン・ロバーズは、杖を構えつつも、何もしない。
ホグワーツの廊下で呪詛を撃ち合うのはダンブルドアもマクゴナガルも、他の先生方も嫌がるだろうと、彼は確信していた。
なにせ、こうしている今も続々と。生徒が集まってきている。
人だかりを目に留めた他の闇祓いも、集まってきている。
「おやあ?なんだいガッちゃん。やんないのかい?」
どう行動するのが法的に正しいのかを必死で思案しているガウェイン・ロバーズを楽しそうに煽ってくるその魔法使いは、杖を取り出そうともせず気楽に佇んでいた。
「生徒に、被害を出すわけには、いきませんから……」
「出せると思っているのかい?」
ガウェイン・ロバーズは、自分の右隣の闇祓いが唾を飲み込んだ音が聞こえたような気がした。
「…………抵抗しないでいただけると、こちらとしてはすごく助かるんですが」
「やだよそれじゃつまんないもん。僕はきみたちで遊びたいの」
目の前の人物が誰で、どういう人で、如何な役職に就いているのかを知っているからこそ、ガウェイン・ロバーズは天を仰いで叫びたい気分だった。
一方で、その光景を遠巻きに見守っている生徒たちの後方、ネビル・ロングボトムのすぐ隣に居るドーリッシュは、念の為にポケットの中で杖に手をかけつつ、ロバーズの奴に今度酒でも奢ってやろうと決意していた。自分があの人と鉢合わせしなくて本当によかったと安堵しながら。
「ステューピファイ!!」
杖も取り出さずにいきなり突進してきたその魔法使いに、1人の闇祓いが思わず失神呪文を放ってしまう。それはヒョイと躱した魔法使いの頬を掠めてその背後の人だかりへと飛んでいき、まっすぐにハリー・ポッターへと迫った。
「プロテゴ!」
少々驚きつつも反射的に杖を振って失神呪文を防いでみせたハリーに、一瞬だけ皆の注目が集まる。しかしハリー自身は、先生が捕まってしまわないかという事だけが気になっていた。
「フリペン――」
的を逸れて飛んできた失神呪文を防ぐのに一瞬だけ意識を奪われたハリーが視線を戻すと、それを放った若い闇祓いの魔女は先生に腕を後ろへねじり上げられ、うつ伏せに押し倒されていた。
「こらこら危ないだろう。ハリーが防いでなかったらきみ、懲戒免職だったかもねえ?」
床に倒した若い闇祓いの魔女の腕を左手で締め上げつつ自分の左膝も乗せ、全身の体重を全部かけてその若い闇祓いの魔女を制圧しているその先生に、2人の闇祓いが杖を突きつけていた。
しかし、尚もその先生は余裕綽々といった雰囲気の笑顔を崩さない。
僕が誰かに失神させられたりしたらどうなるかをガッちゃんまだちゃんと覚えててくれたんだね、ちゃんと後輩にも教えてあげたんだねガッちゃん良い子だねぇと、内心嬉しく思いながら。
「動くな、って言いたいなら、もう1歩か2歩離れるべきだったね」
そう言うが早いか、その先生は片方の闇祓いが杖を自分に突きつけているその手首を掴み、自分に杖を突きつけているもう1人であるガウェイン・ロバーズの顔を力ずくで狙わせ、その闇祓いが動揺した瞬間、その先生はずっと自分の下敷きにしていた若い闇祓いの魔女の上から退いた。
そして自由になったと思ったその若い闇祓いの魔女が立ち上がろうと試みた事で、ガウェイン・ロバーズは手首を掴まれている同僚と隔てられるようにして押しのけられた。
「よいしょ」
捕まえた闇祓いの腕を背中側へねじり上げ身体を盾に使うような素振りを見せつつ、その先生はすぐその闇祓いの男性をガウェイン・ロバーズと若い闇祓いの魔女の方へと強く突き飛ばした。
「「インペディメンタ!!」」
こちらに強く突き飛ばされきて体勢を崩したその闇祓いを避けながら、ガウェイン・ロバーズと若い闇祓いの魔女は2人同時にそう唱えたものの、その呪詛もヒョイと躱されて廊下の向こうの方まで飛んで行って天井に当たり、ただ火花だけを散らした。
「じゃ、ガッちゃんまた遊ぼうね! あ、そうだ。それとハリー! ハリー・ポッター!! 盾の呪文がとっても正確で素早かった! だからグリフィンドールに1点あげよう!」
そう言い残して平然と生徒たちの人だかりの向こうへと消えていったその魔法使いを、その場に居た闇祓いたちは誰も追いかけようとしなかった。
「ハリー・ポッター」
ガウェイン・ロバーズは、自分がまずやるべき事を既に見定めていた。
「はい。あの、なんでしょう」
「ウチの若い者が迷惑をかけた。怪我はしてないか」
「あの、僕、大丈夫です」
ハリーは、ただただ困惑している。
「そうか。……すまなかった」
「あの、その。……大変そうですね?」
生徒に同情されてしまっては、闇祓いたちの立場は無かった。
ガウェイン・ロバーズはくるりと振り向き、後輩でもあり部下でもあるその闇祓いを見据える。
「……どこを反省すべきか、判ってるな」
「はい」
「ミスター・ポッターが防御できたからいいものの。他の生徒に命中してたらどうするつもりだったんだ。あの状況は、生徒全員が人質に取られているに等しいと、判らないきみではないだろう。それに、万が一あの人が失神していたら、それこそどうするつもりだったんだ」
ガウェイン・ロバーズが思い起こしているのは、3年の研修を終えて闇祓いとして正式に配属されたばかりの頃に、初めて現場に出た時に見た光景。
厄介な呪詛を浴びて動けなくなった自分。それによってその場を離れるわけにはいかなくなった「その人」。こりゃ仕方ないねと言いながらその人が取り出した旅行カバンの中から現れたマンティコアの群れ。成すすべなく蹂躙される闇の魔法使いたちと、飛び散るごろつきたち。
起き上がれない自分の身体の上に止まった不死鳥が涙を滴らせるのを見ながら聞いた、「僕がもし呪いとか貰って動けなくなったらすぐに『みんな』を呼んでね、ってコイツに頼んであるんだ」という「その人」の言葉を、ガウェイン・ロバーズは昨日の事のように思い出せた。
「きみにも、あの人の事は教えただろう」
「はい」
若い闇祓いの女は、返す言葉も無い様子でしょげかえっている。
「今日中に報告書を書き給え。ダンブルドアには私から謝っておく」
「すいません」
「私に謝ってなんになる。生徒に謝りなさい。きみは、手配犯の。狙ったとおりに動いたんだ」
「面目ないです………」
ガウェイン・ロバーズとその後輩2人のみならず、その場に居た闇祓いたちが1人残らず気を重くしている一方、ハリーを含むその光景を目撃していた生徒たちは、先生が闇祓い3人を杖どころか魔法も全く使わず手玉に取ったのを見てしまった事で少々興奮気味だった。
「先生すごかったね!」
「すごくはやかったわ!何したのか全然わかんなかった!」
顔だけ見覚えがあるレイブンクローとハッフルパフの1年生2人がきゃいきゃいと話しているのを聞きながら、ハリーは「闇祓いって大変なんだな」と、単なる憧れだけだった「将来の夢」の厳しい現実の一端を見た事で、「でも僕はなりたいんだ」と、決意を新たにしていた。
あの先生は、たまたま、「行動の結果だけを見れば」魔法界の平和と発展に貢献しているだけで、間違いなく秩序を乱す側の人間ではあるのだと、ハリーは最近気づいていた。
なにせあの先生、どうやら法律をなんとも思っていない。
つまり闇祓いを目指す以上、将来的には自分があの先生を御さなければいけないのだ、と気づいたハリーは「そんな事は不可能なのでは」と不安に駆られたが、すぐに「ダンブルドアも別にあの先生を制御はできてないよな」と思い至り、いくらか気が楽になったのだった。
一方、1階の廊下でそんな騒動が起きていた頃。
「あなたが描いたのってこれね? デイビス」
スリザリンの女子寝室で、ダフネ・グリーングラスがベッドの傍の荷物の奥底から1冊の本を取り出しているのを、トレイシー・デイビスとそのルームメイトたちは取り乱さないように気を強く保ちながら、しかし成すすべなく、ただ見守っていた。
グリーングラスがページをめくる度に自分の心臓が削られているような気がして、トレイシー・デイビスもルームメイトたちも胸を抑えて苦悶していた。
「……ねえデイビス?よく描けてると思うし、上手だと思うけれど。マルフォイとノットはこういう関係にはならないんじゃない? だって2人とも、恋愛対象は女の子でしょう?」
「オ゙オ゙オ゙オ゙ーーーーー………!!」
声にならない声を上げて慟哭する事しかできないトレイシー・デイビスと一緒に、同好の士であるルームメイトたちも吸魂鬼のキスを言い渡されたかのように嘆き苦しみ呻いていた。
「…………男の人の、『モノ』って。こんなのだったかしら? お父様のしか見たことが無、いえ、前に事故でノットのを見た事はあるけれど――でもこう、なんか、違う気がするんだけれど」
「「オ゙オ゙ー……!!」」
グリーングラスのこの指摘で、トレイシー・デイビスとその右隣にへたり込んでいたルームメイトの1人が比較的短い断末魔の悲鳴を上げて撃沈した。
「あ。でもあの、本当によく描けてると思うわよ?」
慮って発されたそのフォローも、確実に彼女らの心を抉った。
「こっちはなあに?」
グリーングラスが次に興味を持ったその本が「どれ」なのかに気づいて、トレイシー・デイビスは天を仰いだ。わたしはいまからしぬんだ。
「まあ! これポッターとマルフォイじゃない! これも2人がおんなじベッドで寝てるのね」
そして、そこでやっと。ダフネ・グリーングラスは気づいた。
「………どうしたのデイビス?」
「ころしてください」
新しく友人になった同じスリザリンの女の子とそのルームメイトたちが何故泣いているのかが解らずに、グリーングラスはひたすら戸惑うのだった。
「なんでも言う事聞きますから………どうか……どうかご内密に……」
トレイシー・デイビスにそう懇願されて、グリーングラスは少し困ったような顔になった。
「『なんでも言う事聞く』けれど『この事は内緒にしといてほしい』って矛盾していないかしら?だって私が『この本をノットに見せなさい』って言ったらアナタどうするのよ?」
「しにます」
トレイシー・デイビスが平伏したまま即答し、グリーングラスは慌てた。
そしてデイビスが「みんなごめんね」と目で訴えつつグリーングラスと一緒に部屋から出ていった後で、残された彼女らは数分もがき苦しんでから、妄想癖に突き動かされてムクリと復活した。
「……ねえ。グリーングラスの奴、さっきちらっと」
「………言ってたわね」
「ノットの、そのあの『それ』を、見ちゃった事があるって」
「どういう状況だったのかしらね」
「ホグワーツかしら、それともご自宅かしら……ホントに見ちゃった『だけ』なのかしら」
そしてもぞもぞと這い寄って相談していた彼女らは、誰からともなく各々のベッドへ散らばる。
「あたし次それで描くわ」
「私も」
トレイシー・デイビスと寝室を共有する彼女らは、節操が無かった。
デイビスとグリーングラスが友人になってしまった以上グリーングラス当人に自分たちがこれから描こうとしているものが発見されないわけがないと彼女らも重々承知していたが、それでも、迸る創作意欲と湧き続ける妄想の泉に飲まれている彼女らには「描かない」という発想は無かった。
「うふふふふ……」
「グフッ、うふふふふ……」
ノットやマルフォイ、それにポッターにも。もしバレたらそりゃもう大変だろうなとは思いつつ、今日もまた彼女らは不健全な妄想を羊皮紙の上に具現化するべく羽ペンを走らせ始めた。
そして寝室を後にしたトレイシー・デイビスは、グリーングラスの2歩後ろを歩いていた。
「ねえグリーングラスあの、私の事……もしあれだったら………」
「なあに? 私あなたの事、けっこう好きよ?」
軽蔑されたのではと危惧していたトレイシー・デイビスは、またしても自分の思考回路の不健全さを自覚させられて、胸を針で刺されたような鋭い苦しみを味わうのだった。
ダフネ・グリーングラスの暖かな笑顔を呆然と眺めながら、トレイシー・デイビスは「日光で焼き殺される吸血鬼ってこんな気分なのかな」などとぼんやり考えていた。
「あ。ねえノット、変身術の宿題、練習したいんだけど付き合ってくれないかしら」
「構わんが、グリーングラスお前魔法史も手つかずじゃあなかったか?」
グリーングラスとノットが談話室の隅に移動して杖を取り出したのを見て、いつもそうしているように2人から数歩離れてその光景を観察しようと思っていたトレイシー・デイビスに、グリーングラスとノットが声をかけた。
「お前はいいのかデイビス?」
「ヒェッノ゙ッドぐん名前覚え゙てくれてっ」
「一緒にやりましょうよデイビス」
少々挙動不審になりながらも杖を取り出して2人の傍まで行く事に成功したトレイシー・デイビスは、目の前の同級生の男子を、高貴な家柄だしそれになんかこうキラキラしてて話しかけるなんてそんなとんでもないお許しください旦那様わたくしなんぞは蔭の隅に棲む薄汚ぇ蛆虫でごぜえやす、へへ、へへへへへ――と、自分とは住む世界が違うと思っていたセオドール・ノットを、普段自分がルームメイトたちと一緒になってどんな目で見ているのかを、ふと。思い出してしまった。
「ああ、あのノットくんあの、あのいつも、いつもご、ごめんね…………」
「何がだ。僕はきみに何か不快な事をされた覚えは無いが。………何かあるのか?」
「いえ何なになになに何も、何も無いですハイ………わすわ忘れてください……」
両手をわさわさと激しく動かして身体を後ろに逸らしつつ、視線を遮ろうと顔を覆ったトレイシー・デイビスを、ダフネ・グリーングラスはクスクス笑いの発作に襲われながら見つめていた。
新しく友人になった普段物静かなこの女の子が何を考えているのか、グリーングラスには手に取るようにわかっていた。
(そうよねー、キレイな顔してるものノット。そんなに見つめられたらビックリするわよね)
「……変身術の宿題をやるんじゃないのか」
目を合わせてくれないデイビスと何やらクスクス笑い続けているグリーングラスを見ながら、ノットはひたすらに困惑するのだった。
「我らの聞き間違いだな?ダンブルドア。お前が我らにそんな事を、ヒトに隷属せよなどという不快な物言いをする筈が無い」
同じ頃、禁じられた森の奥深くでは、アルバス・ダンブルドアがケンタウルスたちに包囲されていた。マゴリアンは怪訝そうな顔でダンブルドアを睨み、ベインに至っては弓に手をかけてすらいるが、それでもこれは彼らの性質からすれば、考えられない程に穏便な対応だった。
「仰る通り、それは聞き間違いじゃの。ベイン。儂は、どうか助けてほしいと頼みに来たのじゃ」
ダンブルドアは、あくまでも物腰柔らかだった。
「同じことだろう。我らにお前の下につけと言いたいのだ」
「違う。同じことではない。儂は、友の手を借りたいと言うておる。雇用という形式が受け入れがたいなら、望む形にする。じゃからの。ベイン。儂には、儂には他にアテが無いのじゃ……」
ベインは蹄を鳴らした。
「我らの智慧をお前たちが盗み取る手助けをしろと我らに頼むとは!なんと破廉恥な真似を!」
それでも、ダンブルドアは穏やかな佇まいを崩さなかった。
「希望する生徒たちに、占い学の授業を提供する責任が、儂にはある」
「だから我らにお前の下につけと?」
「違う。それは違う。友として、助けを乞うておる」
「ヒトの友など居ない!!」
遂に声を荒らげたベインに反論の声を上げたのは、ダンブルドアではなかった。
「それは違う、ベイン」
ダンブルドアを囲むケンタウルスたちの輪の、最も外側に居たフィレンツェが、言葉を選んでいるかのように難しい表情をしながらベインを見ていた。
「ハグリッドは我らの友だ。困った奴だが、友だ。それにこのダンブルドアも、間違いなく友だ。我らに確かな敬意を払ってくれるヒトも居る。そういう者となら、我らは友になれるのだ」
「自分が何を言っているのか判っているのか」
「お前こそ、自分が何を言っているのか判っているのか、ベイン。恩を忘れるなど……我らが秘して守護しているスニジェットたちは、かつてホグワーツの生徒から託された数羽の雛に連なる系譜なのだと、お前が私に教えたのだぞベイン」
ケンタウルスたちは蹄を鳴らして動き回り、彼らが形作る輪はダンブルドアを囲むものからダンブルドアとフィレンツェを囲むものへと布陣を変えていく。
そしてベインの怒りがフィレンツェに向かう事をダンブルドアが危惧した、その時。
ホグワーツ城の方向から、1羽のワタリガラスが飛来した。
「やあベイン。それにロナンとマゴリアンとフィレンツェと、ごめん。あとは名前わかんないや」
そのワタリガラスはケンタウルスたちがダンブルドアとフィレンツェを取り囲んでいる輪の中、ベインの眼前へと降り立つと、スルリとドラゴン皮のコートを着た青年に変身してそう言った。
「……何をしに来た。大事な後輩を我らから助けに来たのか?」
「きみたちと遊びたいから来たんだよベイン。ドランとエレクにもよく遊んでもらったし」
「先輩は、あの方々に。いつもいつもご迷惑をおかけしておったと、記憶しています」
ダンブルドアに訂正されても、その青年はケラケラと楽しそうに笑うばかりだった。
「エレクはいっつも追いかけっこに付き合ってくれたんだよね!」
自分たちの父祖とこの困った人間との認識の相違に気づいたらしいマゴリアンが鼻を鳴らした。
「ねえねえ僕ねえきみたちともチェスとかしたいんだけど」
「先輩、今は大事な話をしておりますので……」
本当に自分を助けに来たのではないと、ダンブルドアは既に察していた。この先輩は、本当にただケンタウルスたちと遊びたくなったから気まぐれに森へ来ただけなのだと。
「退け。我らはダンブルドアと話をしている」
「ずるい! 僕もアルバスとお話したい!」
現れて数十秒で見違えるほど場をかき乱して見せたその青年の真意がどこにあるのか、ベインもフィレンツェも測りかねていた。
本当は何をしに来たのだ? まさか交渉決裂を察したのか?
「別にさ、アルバス。城の中でやんなくたっていいよね?占い学」
「もちろんです先輩。ホグワーツでは、授業をどこで行うかを決定する権利は、それぞれの科目の教師が持っておりますので。占い学も例外ではありません」
ベインもフィレンツェも、他のケンタウルスたちも知らなかった。「話を勝手に先へ進める」という分野において、この青年に敵う者など居ないという事を。
「城に来るのはあんまり気が進まないでしょ?」
まるで意見を聞く気があるかのように、その青年はベインを見た。
「当たり前だ。だがそもそも――」
「でも生徒が森に入るのも嫌だよね?」
「当たり前だ。だがそもそも――」
「じゃあ城と森の間でー、あ! グロウプくんが居るあの洞窟はどうだい?あそこなら広ぉーいし、きみたちのすみかでもないし、それに夜ならちゃんと星空が投影されてるよ!」
ベインはもう決定されてしまったのだと察して、その青年を睨んだ。
「何がおかしい!」
穏やかにこっちを見つめていたフィレンツェの視線に気づいて、ベインが怒鳴る。
「いやすまん。我らの父祖も、こんなふうに振り回されていたのだろうかと思ってな」
「ベインはエレクに似てるよ。そんでフィレンツェはドランに似てる……エレクもきみと同じくらいカッコよかったよ、ベイン」
ベインは弓を引き絞って青年に向けたが、それでも青年は楽しそうだった。
「あ、追いかけっこして遊ぶのかい? いいよぉ遊ぼうベイン!」
ベインの眉間にさらに深いシワが寄り、フィレンツェはとうとうクツクツと笑い始めた。ダンブルドアが改めて見てみればロナンもマゴリアンも、どうやら笑いを堪えてる様子だった。
ただ、その青年の足元に矢を放って即また弓に矢をつがえたベインだけが、暴れ出したいのを必死で堪えている。そんな自分たちの長を見るケンタウルスたちは皆一様に同じ感想を抱いていた。
(まさか、ベインの奴が。ここまで良いように振り回されるところが見られるとはな)
普段は勇壮で堂々としているベインのそんな姿が、彼らには密かに興味深いのだった。
そしてベインは、フン! と鼻を鳴らす。
「城には行かん。あの巨人が居る洞窟にもだ。場所は我らが指定する。いいな」
「もちろんじゃ。ベイン。……感謝する。……この恩は忘れぬ」
ダンブルドアの言葉に返事すらせず駆け足で森の奥へと消えていったベインとその後に続くケンタウルスたちを見送るダンブルドアと青年に、最後尾のケンタウルスが振り返って声をかけた。
「ずいぶん強引な交渉もあったものだな?」
「……すまん。先輩が無礼を働いてしもうた」
「責めたいのではない。大きな声では言えないが……ベインのあの顔ときたら! ……お前は、面白い奴だな。在りし日のドランとエレクの気持ちが、少し判るような気がするよ」
「そう? ありがとね。………ごめん。君の名前わかんない……」
申し訳無さそうに見つめてきた青年に、そのケンタウルスは笑顔を返した。
「当然だ。私はお前に自分の名前を伝えていないのだから」
「あ、そっかぁ……お名前訊いてもいいですか」
「トルヴスだ。あなたの名前も聞かせてくれるか?」
嬉しそうに自分の名前を伝えたその青年が去っていくトルヴスの背に向かっていつまでもぶんぶん手を振り続けるのを、ダンブルドアはその顔に穏やかな微笑みを湛えて見つめていた。
「そういやアルバスさ」ケンタウルスの姿が見えなくなった後で、その青年はダンブルドアに向き直った。「D.A.の事は知ってるよね? あの子たちホッグズ・ヘッドで集まってたんだから」
「ええ。アバーフォースから聞いておりますし、ハリー・ポッターとその友人たちがそれについて話しているのが、漏れ聞こえてきた事も何度かあります」
青年は、ニヤリと笑った。
「『ダンブルドア軍団』だってさ」
「いやはや、なんとも。………こそばゆいですな……」
一瞬だけ不思議な表情になったダンブルドアは、露骨に話題を変えにかかる。
「ところで先輩は、今日はこれからどうなさるご予定ですかな?」
「今からは、アラゴグの健康診断しに行って、それからホッグズ・ヘッドに行くんだ。セバスチャンと待ち合わせしてるの。一緒にアバーフォースくんのおヒゲ引っ張って遊ぶんだよ」
「……勘弁してやってくだされ」
そんな約束をした覚えはないと抗議する弟の顔と、それを見て笑うサロウ先輩の顔が、ダンブルドアの脳裏にハッキリと浮かんだ。
「それとアルバス、スリザリンの子たちもD.A.と似たような事してるの、言ってあったっけ?」
「セブルスから薄っすらとは伺っておりますが。先輩の口からは初耳ですな」
「それでさ。D.A.とそのスリザリンの子たちの集まりにさ。1人だけ。両方に参加してる生徒が居るんだよ………僕の言いたい事、わかるよね?」
ダンブルドアは、目を丸くした。
「そ。ハリーたち3人が中心の活動に、スリザリンの子が参加してるの。これ嬉しいよね!」
「良い傾向です。………とても、良い傾向です……」
ダンブルドアは、自分がホグワーツの1年生だった頃を思い起こしてそう言った。
「それで、先輩。その生徒は、どの生徒なのですかな」
「3年生のアストリア・グリーングラス。あの子すっごく良い子だねぇ。賢くて決断力もあるし、いつもよく考えてから行動してるし、けど本当に大事な時にはすぐに身体が動くし、よく気遣いができるし、他人を思いやれるし、それにすっごく友達想いで………まさにスリザリンだ」
青年のその言葉でダンブルドアは少し、寂しそうな目になった。
「スリザリン寮を、そのように見る者が。とても少なくなってしまいました」
「また増えるさ。だってあの子たちは皆いい子だから。……それに、ホントのスリザリンはどんななのかって事を、僕もアルバスも、ちゃんと覚えてる」
しかし、そのアストリア・グリーングラスは、危機に陥っていた。
「あ、あの。あたしに何か。用事、ですか………?」
震えそうな身体を頑張って抑えているアストリアは、心のなかで自分を責めていた。次のD.A.の集まりは何日も先なのに、終わったらすぐに「必要の部屋」を離れなきゃいけないのに、なんで扉が消えた壁の前でぼーっと突っ立ってたりしたのかしら、と。
「いえ。そんなに長くはかからないわ。ただ、幾つか質問に答えてくれればいいの」
その魔女が手元のティーカップに、積み上がる程に砂糖を次々と投入しているのを、アストリアは恐怖に駆られながら見つめていた。
「……紅茶はいかが?」
ドローレス・アンブリッジは、ポッターたちが「どこでやっているのか」の確証を得るべく、そして可能なら現行犯でその場を押さえるべく、独りで着実に捜査を進めていたのだった。
主任闇祓い(Lead Auror)
ハリー・ポッター:魔法同盟 という、かつて存在したゲームにのみ
登場した概念。なので公式設定と言って良いのかは大いに怪しい。
けど別に不自然でも突飛でもないと思うので私の妄想の中にはある。
英国魔法省魔法法執行部闇祓い局に所属する闇祓いたちの中でも
優秀で実績ある一部の人員にのみ与えられる称号。
「今回の件の調査責任者」とか「私達の班のリーダー」とか
そのくらいの意味合い。そのくらいの権限と責任。
私の妄想の中では、キングズリーとガウェイン・ロバーズなど数人がこの役職。