104年後からの今   作:requesting anonymity

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28.ザビニのアイデア

アストリア・グリーングラスはアンブリッジの手元のティーカップと、その中の紅茶を怯え気味の目で観察していた。そこに投入された、およそ溶け切るとは思えない量の角砂糖を。

アストリア・グリーングラスは恐怖に慄いていた。

(あんなの飲んだらカラダがお砂糖になっちゃうわ!それにきっと――)

この自分の目の前にある紅茶にも、きっととんでもない量の砂糖が溶けているのだろうと、アストリアはそう思い込んでいた。

アンブリッジが紅茶を一口飲んだ事で、アストリアはますます恐怖した。

 

(この人きっと人間じゃないわ!!カラダを流れてるのも血じゃなくてお砂糖なのよ!)

 

アストリアの中ではもう、アンブリッジは「イジワルそうな先生」から「角砂糖のオバケ」へと認識が変わっていた。

「ミス・グリーングラス。あなたに幾つか訊きたい事があるのだけれど」

(角砂糖のオバケが喋ったわ!どうしましょうあたし食べられちゃうのかしら!!それともあたしの事もお砂糖のオバケにするつもりなのかしら!………きっとそうだわ!仲間が欲しいのよ!!)

アンブリッジの授業を受けた事も、廊下で他の生徒を注意しているところを見かけた事も、束の間アストリアの脳裏から消えていた。

 

一方アンブリッジの方はといえば、最初に捕まえたのがよりにもよってこのアストリア・グリーングラスである事を、少々歯痒く思っていた。

他の寮の生徒たちやハリー・ポッター当人なら色々気兼ねなく尋問の手段を試せるが、この生徒が相手ではそうも行かない。なにせ、スリザリン寮所属で古い純血の家柄である。

(誘導尋問とかで事足りそうだから、そこはまあそれで良しとするべきね)

実のところ、アンブリッジは魔法省の純血主義者たちの多くからすらも嫌われているのだが、それは高級官僚や古株たちに酒の席で媚を売ろうとする度に、持ち前の酒の弱さから毎回あっという間に泥酔してしまい、それによって普段取り繕っていた化けの皮が剥がれ、ありのままの過激な思想と性根を大発表してしまうのが原因なので、本人は今日までそんな事、まさか魔法省の主立った純血主義者たちに嫌われているなどとは、夢にも思っていない。

 

つまりアストリアに勧めた紅茶には何の魔法薬も入っておらず、どころかアストリア・グリーングラスの好みが判らない以上、茶葉も所持しているものの中から慎重に吟味した上でいつもより丁寧に淹れ、下手に砂糖など入れて口に合わなかったらマズいだろうと、ジャムやら輪切りのレモンやらも一応準備するなどかなり気を遣った一杯なのだが、そんな事知らないアストリア本人は、とんでもない量の砂糖が溶けているから飲むと全身がお砂糖になっちゃうと本気で思い込んでいた。

 

「………いいかしら、ミス・グリーングラス?」

「はぃ!!」

 

慌てて返事をしたアストリアはアンブリッジ先生の身体の端が、具体的には指先とかがちょっと崩れて砂糖に戻ってたりしないかと観察しているが、アンブリッジは当然そんな事には気付かない。

「あなたは最近、何らかの、そうね。生徒同士の自主学習会のようなものについて、何か噂を聞いたり、現場を見たりした事はある?あったら教えてほしいわ」

「ありません先生!」

たとえ仮にアンブリッジがここまで何も情報を掴んでいなかったとしても、アストリアのこの慌てようを見れば「この生徒はまさにそういう会合に参加している」とは察せただろうと言えるほどの下手な嘘だったが、アンブリッジはわざわざそれを追求したりはしない。

 

ホッグス・ヘッドでの最初の会合の情報をウィリー・ウィダーシンから受け取って以来、ポッターたち3人とそのお仲間の足取りを推測し、それを元にホグワーツ城内を駆けずり回って調査し、何人もの生徒が8階で、奇妙にも同じ日の同じ時間帯に姿を消している事を突き止めた。

まず、ポッターもそれに同調しているお仲間たちも皆、クィディッチに熱を上げている。つまり、会合にすべての寮の生徒が参加している以上、各寮のクィディッチチームの練習時間が会合と被らないように調節する事は自ずと想像がつくので、それにあてはまるタイミングでだけ、ウィリー・ウィダーシンの報告にあった生徒たちの中から誰かしらを、尾行すればいいのである。

唯一のスリザリンからの参加者アストリア・グリーングラスはスリザリンのクィディッチチームには入っていないが毎回欠かさず練習を見学しているので、ポッターたちの馬鹿馬鹿しいお人好しさを考えれば、スリザリンのクィディッチチームが練習をする時間も避けて会合は行われるだろう、というのがアンブリッジの予測だった。そしてその予測は、見事に的中している。

 

そこにあるのであろう「隠し部屋」のようなものの中へと踏み込むことは未だできていないが、生徒が入っていった扉に自分も入ろうとしたら目の前で単なる石壁に戻ったという経験をした以上、あそこが会合の場所で、あそこに隠し部屋がある事はもはや明白だった。

 

会合参加者の証言は欲しいし、中で何をしているのかの情報が得られれば決定的だが、それは別に今この尋問からでなくともいいのだ。

なにせスネイプに提供させた真実薬のたっぷり入った瓶が幾つもあるのだから。

 

「本当に知らないのね?ポッターたちが何かしてるとか、噂でも聞いたことがない?」

「なっ、な。無いわ!」

 

仮に、本当に何も事情を把握していないのなら「噂は聞いた事がある」と答える筈の質問である。D.A.は、「ポッターたちが何やらやってるらしい」という非常にぼんやりとした形ではあるが、噂になっているのだから。何も知らないならこのぼんやりした噂の事を答える筈で、躍起になって否定するのは何か関係を持っている人間のすることだった。

(本当に嘘が下手ね、この子は。気の毒だけど魔法省じゃ出世できないタイプだわ)

第一、アンブリッジが最初にした質問で訊いた「生徒同士の自主学習会」にしたって、言葉通りに受け取ればそんなもの、常にホグワーツの至る所で行われている日常の光景である。

アンブリッジは一言も「実践的な秘密の戦闘訓練」等とは言っていないのだから。

 

それでもアストリアは、そんな事には全く気付かないまま、頑張って嘘をついて大好きなみんなとの秘密を守らなきゃと、全神経を注ぎ込んで努力していた。

 

アンブリッジはまた自分のティーカップに2杯めの紅茶を注ぎ、そこに積み上がるほど角砂糖を投入する。そしてそれを見ていたアストリアの目がとうとう潤み始めた。

 

「あらあら。何も怖がる事は無いのよ。私はただ質問をしているだけ」

 

まさかアストリアが怖がっている原因が砂糖の量だとは、アンブリッジは露ほども思っていない。

その後も紅茶を何杯もおかわりし続けその度に角砂糖を大量消費するアンブリッジに怯え続けたアストリアは、15分ほど質問を投げかけられ続けた後で、最後の「新しいお友達はできた?」という質問にすら「いいえ1人も!」と嘘を返してから、逃げるようにその場を後にしたのだった。

 

そして廊下で鉢合わせして今日もまた条件反射で売り言葉に買い言葉の応酬をしていたその2寮の生徒たちのところに、こちらを見つけるなりわんわん泣き出したアストリアが駆けてきた。

 

「わぁぁぁぁぁあああ!!!ドラコぉー!!!」

 

飛びついてきたアストリアに、ドラコは目を白黒させながら「どうしたんだ」と訊く。

「アンブリッジ先生に捕まっちゃったの!それでねあたしね、うぇ」

言い切る前にまた泣き出したアストリアを、マルフォイは頑張って慰めようとする。

「泣いてちゃわかんないぜアストリア」「何があったのか教えてくれるか?」

フレッドとジョージがいつものままの柔らかい笑顔でそう問いかけた事で、アストリアは10秒ほどかかって、頑張って泣き止んだ。

 

「あたしね。あのね。さっきね。早くまた練習がしたいなって思ってね、いつものお部屋の前に居たの。それでね。あたしぼーっと壁を見てたからね、アンブリッジ先生が来てるのに気づかなかったの。それでね『訊きたい事があるからちょっと一緒に来て』って言われてね。でもあたし、なんにも言ってないのよ!アンブリッジ先生にいっぱい質問されたけど、あたし嘘ついたんだもの!」

 

山ほど言質を取られたんだろうなとフレッドもジョージもドラコも察したが、口には出さない。

 

「身体はなんともないか?アンブリッジに何かされなかったか?」

 

ドラコがそう訊くと、アストリアはまた泣きそうになりながらも、ギリギリで耐えた。

「あっ、あたし、紅茶を勧められたわ。だけど飲まなかったの………だって。だってアンブリッジ先生、紅茶にこーーーーんなにお砂糖を入れるのよ!あんなの人間の飲み物じゃないわ!!」

 

フレッドとジョージ、そしてドラコは、同時に気づいた。

 

「「「………お前まさか。それが怖かったのか?」」」

「だって、だって!あんなの飲んだら身体がお砂糖になってお砂糖のオバケになっちゃうもの!!あんまり甘いものばっかり食べてる悪い子はそうなるって、おねえちゃんが言ってたもの!!」

 

かつて野菜も食べさせようと、そして寝る前にお菓子を食べるという駄目な習慣を止めさせるべくダフネ・グリーングラスが咄嗟についた嘘を、アストリアは未だに信じていたのだった。

 

フレッドとジョージ、そして珍しい事にドラコまでも、お互いの顔を見て笑ってしまった。

 

しかし彼ら3人はすぐに、これはわりと由々しき事態だと思い直す。

「なあマルフォイ坊っちゃんよ」フレッドとジョージのどちらかが言う。「お前ら、やってるよな?秘密の実践訓練ってやつをさ」

「何の事だかわからないな」

「まあまあ。で、たぶんあの随分聡明でいらっしゃるアンブリッジ先生様は、証拠が欲しいんだよな?決定的なやつが。……つまりだ」

「『お前ら』今すぐこの情報を、仲間に教えてやるべきじゃないか?」

 

ドラコは数秒間思いっきり不愉快そうな顔をした後で、やっと口を開いた。

「白々しいぞウィーズリー。そっちがやってる事をこっちが知らないとでも思ってるのか。それに何もそんなに警戒してくださらなくとも、いくらお前らの事がキライだからって、それであの女の味方をするなんて事に耐えられるほど僕は我慢強くないんでね。…………父上が手紙で教えてくださったんだ。アイツは、あのアンブリッジは、父上の魔法省のご友人方からの評判もとんでもなく悪いんだ……そんな奴の味方なんて、頼まれたって嫌だね」

 

フレッドとジョージは、それを聞いて驚いたようだった。

「は?」「マジかよそれ」「正直俺たち、お前の親父とかと気が合いそうな奴だなって思ってたんだぜ?」「なんでだ?」「紅茶に砂糖を入れすぎるからか?」

ドラコは、クィディッチリーグ中止に関する不平不満を書き連ねた手紙に対する父上からの返事に書いてあった内容を思い起こしてその質問に答えた。

 

「魔法省のお偉方との食事会ってのは、もしそんな機会があれば、気合い入れるだろう?」

 

「そりゃまあな」「今後に繋がるかもだしな」「俺たちに良い印象持って貰えれば儲けモンだな」と、フレッドとジョージが答えた。

「そうだ。普通そうだ。そんな場は実質『公の場』だ。………そんな場で。それも『魔法生物規制管理部部長』の前で。全てのマーピープルはタグ付けして魔法省が管理するべきだなんて口走る奴と。友好関係を結ぶ事で何か利益が得られると思うか?こっちまで舌禍の迷惑を被るだけだ」

 

フレッドとジョージは、顔を見合わせた。

 

「「アンニャロそんな事言ったのか?」」

 

「父上がその耳でお聞きになった言葉だそうだ。思うのは良い。個人の自由だ。それは問題じゃないが………魔法生物規制管理部部長の前で。ホグワーツの生徒だった時代にマーミッシュ語を習得して、そのまま今の今までずっとマーピープル共の研究を生きがいにしてきた人間の前でよりにもよってそんな事を言うマヌケに、味方するなんて僕はごめんだ。絶対に損しかないね!」

 

フレッドとジョージがそれを聞いてウェッと舌を出し、ドラコは表情で「同感だ」と表明した。

何に不快感を催したのかはお互い微妙に、それでいて大きく異なっているのはフレッドとジョージもドラコも理解していたが、今は「アイツは嫌いだ」という共通認識のほうが重要だった。

「父上が仰るにはアンブリッジは、他にも似たような失言を幾つもしてるそうだが……さてグリーングラス、お前の姉がきっと心配してるぞ。歩けるか?」

「………あるけるわ」

「俺たちも行こう。最近ロニー坊やもハーマイオニーも、お前らと一緒に宿題やったりしてるみたいだからな。………今もそうなんだろ?」

「ああ。4階にある空き教室で、数占いやら呪文学やら魔法史やらだ」

そして、ドラコは気づいた。

 

「……クラッブとゴイルをノットの奴に任せたままだな」

 

そういえばお前独りだな今と、フレッドとジョージも言われて初めて気づいた。

 

「どこに行ってたのよアストリ……どうしたの」

「あのねあたしアンブリッジ先生にね、お砂糖のオバケにされちゃいそうになったの!」

 

その空き教室に集まっている生徒たちの中に姉の姿を見つけるやいなや飛びついたアストリアに姉のダフネ・グリーングラスが訊いたが、ダフネはアストリア本人の口から返ってきた妙な答えに眉を顰めて、ドラコに「どういう事?」と怪訝そうな視線を投げかけた。

 

そしてドラコとフレッドとジョージが事情を説明し、その場に居た全員の顔が一気に険しくなる。

 

「『真実薬』よ。絶対にその紅茶に入っていたはずだわ!」

 

ハーマイオニーは大いに憤りつつも分析と推理を進めていた。

「なんだそりゃ?」

ロンが、その場に居る生徒たちの大半が抱いていた疑問を、皆の代わりに訊いた。

「ベリタセラム。飲むと嘘が言えなくなる薬よ。無色透明無味無臭で、普通は何か食べ物なり飲み物なりに混ぜて使う、つまりバレないように飲ませるの」

そして、ハリーたちが普段グリフィンドールの談話室で集まって話している時には決して起きない事が起こる。ハーマイオニーの解説に付け加える情報を持っている者がいたのだ。

「魔法法執行部の連中はよく尋問に使うらしいが、真実薬には弱点もある。つまり、『当人は真実だと思い込んでいるが実際には正しくない情報』を、真実薬は排除できない。それに、閉心術に熟達している奴は薬効に抵抗する事もできる」

 

そんなザビニの解説に、パンジー・パーキンソンが疑問を投げかける。

 

「なあに?それってつまり、危ないの?危なくないの?」

 

「自分たちが使用される側だとすると危険だ。しかし自分たちが誰かに使う側だとするとイマイチ信用できない。効かない奴が稀とは言え居る上、そういう輩が効いてないのに効いてるフリしてる場合、見分けるのが困難だからな……まあそもそも真実薬に抵抗できる奴なんてそうそう居るもんじゃないから俺たちは気にしなくていいが、魔法省はそうは行かん。なので真実薬を用いて引き出された証言は、ウィゼンガモットにおいて証拠として採用されない」

「――だがそもそも、ホグワーツじゃあ生徒に真実薬を使うのは禁止だろう」

ノットが最後に根本的な事を付け加えたが、ロンが「そんなの気にする奴かよ」と雑に反論した。

 

「ウィーズリーの言う通りだと思うわ。アンブリッジは生徒に使うでしょうよ」

ダフネ・グリーングラスが、不快だとでも言いたげにそう吐き捨てた。

「お前らにもか?」フレッドとジョージのどちらかが言う。「お前ら、というかお前らのご家族様に。アンブリッジの奴は覚えを良くしときたいんじゃないのか?それにアイツ自身だって、一応はスリザリンのOGだろ?帰属意識ってやつが、多少なりともあるんじゃないのか?」

「………あの女スリザリンだったのか……不愉快だな……」

「まあウチでしょうよ。あんなのがハッフルパフに入れると思う?」

眉間にシワを寄せて何やら呟き始めたノットに、ミリセント・ブルストロードが気軽に言った。

 

「フレッド、ジョージ。お前らなんでそんな事知ってんだ?」

ロンの質問に、双子は同じ顔でニヤリと笑った。

「俺たちはここのところ、毎週末欠かさずホグズミードに行ってるのさ」

ロンはそんな事言われてもなんのこっちゃ判らなかったが、フレッドとジョージは得意げだった。

「スリザリン出身なんだからスリザリン生に対しては優しいとか、だからスリザリン生はアンブリッジを好ましく思ってるだろうなんて、考えてるならお笑いだぞ」

ノットが不快そうにしながら言う。

「あの女。少なくともホグワーツに対して愛着なんか、全く感じてないんだろうよ………奴の学生時代は、よほど面白みのない、惨めな7年間だったんだろう。ホグワーツそのものへの嫌悪が態度に滲み出てる。僕は仮にあんな奴に贔屓してもらったってちっとも嬉しくないね」

 

そしていつものように、アンブリッジの不快さについての悪口合戦という、ダンブルドアが嫌がりそうな話題へと会話が逸れていってから数分後。

 

ずっと姉の膝の上で抱きしめられたまま静かだったアストリアが、ようやく顔を上げた。

 

「ねえハリー」

 

アストリアは、すごく不安そうにハリーを見ている。

 

「D.A.なくならないわよね。私D.A.好きなの。だってスリザリン以外のお友達がこんなにいっぱいできたんだもの。それに呪文の練習、あんまりうまくいかない呪文もたくさんあるけど、とっても楽しいのよ。それが、それなのに。無くなっちゃったら、いやよ……」

ハリーもずっと、その事を考え続けていた。 

「D.A.は………たぶん遠からず、アンブリッジに見つかる。というか、とっくに見つかってる。マリエッタがあの先生から訊いたらしいけど、そも最初の会合を間者に聞かれてたって言うし。アンブリッジが今やってるのは決定的な証拠を掴む作業だろう。そしてアイツは、そのために手段を選ばない。これは、D.A.の皆に危険が及ぶって事を意味してる。……僕はアイツが、僕らに対する尋問に、『磔』を使う事を最後の最後まで我慢していられるなんて、思わない」

そしてハリーは、すごく言いづらい事を皆に言う決意が固まった。

 

「D.A.はなくならない。僕らはずっと仲間だから。けど、D.A.の会合は……そのうちできなくなる。アンブリッジに捜査を、というかそれに伴う危険行為を止めさせる方法はひとつだ」

「だめよハリー、そんな、そんなの!」

ハリーが何を決めたのかを察したハーマイオニーが叫んだ。

 

「証拠を掴ませて、僕がわざとアンブリッジに捕まる。それでD.A.の事を、暴かせる」

「随分英雄的な発想で大いに感心するがね。アイツはお前1人捕まえてそれで満足するのか?現場を抑えたってそこに居たのがお前1人だけじゃ、『会合』の証拠にはならんだろう」

 

ノットの指摘はもっともだったが、ハリーはそれについても考えていた。

「皆が大慌てで撤収していく背中を見せればいい。どうせ最初の会合を見られてるんだから、誰がD.A.のメンバーなのかは把握されてるだろうから」

「でも、そんな、なんで……皆で頑張って隠し通せばいいじゃない!」

アストリアはほとんど悲鳴のような声色でそう訴えた。

「………だめだ。それはだめだ」

そう言ったのは、ハーマイオニーとザビニとノットと一緒に数占いの課題をやっつけようとそこに来ていたジャスティン・フィンチ=フレッチリーだった。

「もしいつまでも決定的な証拠を掴めなければ、ハリーが言った通り、アンブリッジの捜査手法はどんどん過激になっていくだろう。アイツが違法行為を控えるなんて、僕も思わない。魔法大臣閣下直々の権限にものを言わせて、ついでにこっちがまだ学生なのにも付け込んで、なんだってしてくるはずだ。それこそ『磔』だって使うかもしれない。僕らが互いを守るのに、他の方法は無い」

「でもダンブルドアがそうはさせないよ!それにあの先生だって居るんだ――」

ロンが言うが、それにハリーが反論する。

 

「ダンブルドアとあの先生は、アンブリッジの一番のストレスの種だよ。特に先生。あの2人が居るからこそ、アンブリッジの遣り口は、誰に阻まれたって断固として過激になっていくだろう」

 

そして、口を開いたブレーズ・ザビニは、ハリーの目をまっすぐに見ていた。

 

「ポッター。提案があるんだが――」

 

その話し合いに、皆が集まっているその空き教室の壁の中に潜んだピーブズがじっと聞き耳を立てていた事に、ハリーたちは最後まで全く気が付かなかった。

 

「――と。俺様が聞いた限りじゃそういう話だ」

 

ピーブズの報告を、ダンブルドアはいつも通りの穏やかな居住まいで聞いている。貴重そうな品がそこら中に置かれたホグワーツの校長室で、その2人は今日もまた、わりと重要な内容の相談を気軽にお菓子など食べながら、まったりと話し合っていた。

「いよいよだねえアルバス?」

「いよいよですな、先輩」

目の前の2人が何の話をしているのか、傍に控えているマクゴナガルとスネイプも察していた。

 

ダンブルドアがホグワーツから「とんずらする」時が、迫っているのだと。

 

「ところでセブルスくんさ」

その青年は、スネイプとマクゴナガルにも椅子とお菓子を勧めながら、気軽に訊く。

「ホントにドローレスくんに真実薬を渡したのかい?」

「ええ。吾輩の部屋にいきなり来て『魔法大臣閣下直々の権限』がどうとか止めどなく喋り続けまして。迷惑極まるので望みの品を差し上げた次第です。それらしく見える瓶に詰めた単なる水を」

マクゴナガルがそれを聞いて「あなたは賢い子ですセブルス!!」と口走った事でスネイプの眉間に深いシワが刻まれた。

「真実薬は透明だし匂いも味も無いもんねぇ。適当な偽物作るのすごく簡単なんだよね。だって中身なんでも良いんだもん。………魔法法執行部は昔っからそれの摘発に苦労させられてるよねー」

青年がどこか楽しげにそう言いながら百味ビーンズの箱に手を伸ばした。

「むぇー……夏の足の裏味だ。もいっこ食べよ」

キュッとした渋い顔のまま再び手を伸ばした青年を眺めながら、ダンブルドアが口を開いた。

 

「ミネルバ。セブルス。お主らならもう察しておると思うが儂は、もうすぐホグワーツから………まあ一時的にじゃと思うが、居なくなる。その間くれぐれも――」

ダンブルドアは、マクゴナガルとスネイプを順番に見つめた。

 

「――この先輩をしっかりと見張っておいてほしいのじゃ」

 

てっきり「生徒たちを頼む」と言われると思っていた2人は唖然としているが、ダンブルドアの表情は至って真剣そのものだった。

「儂が留守の間、先輩にはこの校長室を預かってもらう。校長代理ではなく、校長室の留守居役としての。何故ならここには、先輩の良いお目付け役が何人もおるからのぅ……のうフィニアス」

そしてまた渋い顔をしていたその青年に、フィニアス・ナイジェラス・ブラックの肖像画が訊く。

 

「不快な味でも引き当てたかね?」

「爆発スナップ味です………おいしくない……」

「……食べ物ではないと何度も言っているのに、あなたはどうしても口に含んでしまうのよね」

 

マダム・フィッツジェラルドの肖像画がそう言って笑った。

「こちらのフィニアスは、先輩と儂が生徒だった頃のホグワーツの校長じゃ。じゃから儂や先輩にとっては、正直なところ。未だに『ホグワーツの校長』という単語から連想するのはこのフィニアスじゃ。この認識は恐らくこのまま死ぬまで変わらんじゃろう。そして、こちらのフィッツジェラルド先生は、先輩が生徒だった頃からのご友人だそうじゃ。つまり2人とも、先輩の事を良く知っておるし、先輩に、ある程度じゃが、言う事を聞かせられる」

 

「あの、校長先生?生徒たちをアンブリッジ、先生から。守らなければならないのでは?その事に関してはいいのですか?」

「………その事に関しては、儂は心配しておらん。お主らもおるし、ポモーナもフィリウスも、他の皆もおる。それになによりこの先輩がおるのじゃからの。儂がおらんようになれば、アンブリッジ先生はコーネリウスから与えられた権限を用いて、ホグワーツを支配しようとするじゃろう。そして、少なくとも制度上は、それを成し遂げるじゃろう。しかしそれは部分的なものに留まる。ホグワーツを真に治める事はできぬじゃろう………城が、それを拒む」

 

ダンブルドアは、確信を持っていた。

 

「ハリーの推測は正しいじゃろう。アンブリッジ先生はハリーたちの『D.A.』の――」

「『ダンブルドア軍団』ね」

ダンブルドアがその名称を恥ずかしがっているのを解っていて、青年はわざとそう訂正した。

「『D.A.』の。……ダンブルドア軍団の、活動内容に関する決定的な証拠を押さえるために、このまま何も無ければ、その捜査手法はどんどん過激になっていくじゃろう。そしてその過程でなんらか法に抵触する行いがあったとしても、コーネリウスはそれを罪には問わんように計らうじゃろう。まさに、ハリーの懸念通りじゃ。そしてミスター・ザビニのアイデアは、まさに名案と言える」

そしてダンブルドアの発言を、青年がまた百味ビーンズに手を伸ばしながら引き継ぐ。

 

「ミネルバくんもセブルスくんもさ。知ってるだろう?グリフィンドールとスリザリンの子たち、ちょっとだけど歩み寄り始めてるんだよ。面白い事にドローレスくんのお蔭でね。それにあの子たち、すっごく賢いねえ。自分たちが置かれた状況も、それに対してどうするのがいいかって事も、いま大事なのは何かって事も。全部正しく判断できてるよ……君たち本当に優秀な先生だねぇ」

 

それはアナタの教育の成果でしょうと、マクゴナガルとスネイプは思った。

 

「ハリーの言う通りだ。危ない手段で目的を達成しようと企んでる人にそれを止めさせる一番の方法は、目的を達成させてあげる事だ。手段によらず、一足飛びに最終目標だけをね」

「儂は生徒たちの安全を確保するためになら、喜んで無様に尻尾を巻いて逃げ出しましょうぞ」

「もし逃げ切れなかったら僕が助けてあげるよアルバス」

 

どこまでも楽しそうに、お菓子を次々食べながらそう話す2人を見ているとマクゴナガルもスネイプも、その雰囲気に釣られて「なんか大丈夫かも」という楽観的な気分が湧いてくるのだった。

 

 





スネイプがアンブリッジに提供した真実薬が偽物なのは公式設定。
アンブリッジが「マーピープルにタグ付けて管理しよう」って言ったのも公式設定。
ただし公式設定では酒の席での失言ではなく、マジでやろうとした。
※マーピープルを集合させる段階で頓挫したそうな。そりゃそう。

アンブリッジが酒に弱いのも、そのせいで媚を売ろうとした高官(純血主義)の前で
化けの皮が剥がれて、純血主義者すらドン引かせる過激思想をぶちまけちゃって
一部の純血主義者からすら疎まれてるのも公式設定。シェリー酒1杯で泥酔するそうな。

※アンブリッジが紅茶に入れる砂糖の量は原作ではティースプーン3杯
 映画ではティースプーン「山盛り」3杯ですが
 この話というか私の妄想の中ではもっと「おい正気か」ってくらい入れます。

真実薬に閉心術で対抗できるのも、証拠として採用されないのも公式設定。
閉心術の熟練者でなくとも、とんでもねー妄想を信じ込んじゃってるやべーやつとか
シンプルに勘違いをしている奴に対しても真実薬は無力。
「炎のゴブレット」でクラウチジュニアに効いたのは、直前のダンブルドアの呪文で
クラウチジュニアが吹っ飛ばされてノックアウトしてたから(原作者曰く)

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