104年後からの今   作:requesting anonymity

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29.程遠い安泰

 その2人が最初に来店したのは、丁度D.A.が結成されたのと同じ頃だった。

「来たぜー先生」「ようペニー。お邪魔するぜ」

 フレッドとジョージの2人は今とその次が空きコマなのを利用して隠し通路からハニーデュークス経由でホグズミードに、そしてこの妙な看板を掲げたよく解らない店へとやってきたのだった。

 

「いらっしゃいませミスター・ウィーズリー&ミスター・ウィーズリー。ペニーはお2人をこの店  にお迎えできて嬉しいです。ですがお2人は『特別なお客様』ですから、奥にご案内するようにとペニーは仰せつかっております。さあ、こちらに!」

 

 その屋敷しもべ妖精は、店に客が来たのが嬉しくてたまらないといった様子で、溢れるような笑顔を湛えてフレッドとジョージを店の奥へと先導する。

「ところでさペニー、この店の看板。あれおかしくないか?なんかすげー読み辛かったんだけど」

「おや。そうですか?ペニーには何の事なのかよく解りません」

 この店のオーナーから「お客様がこの話をしたらすっとぼけてね」と頼まれているその屋敷しもべは説明したいのをグッと我慢してウィーズリーの双子に訊く。

「………この店の看板は、なんと読めましたか?」

「ヴェスターズ・アンド・ヴェナム」「スティッチズ・アンド・ドラウツだったろ何言ってんだよジョージ」「はぁ?どこ見てたんだよ『クラッドウェル・アンド・ブリュースター』だったろ?」「「は?」」「何言ってんだジョージ」「何言ってんだフレッド」

 

 フレッドとジョージは、そも看板なんてかかってなかったような気すらしてきて首を傾げた。

 

「――おや、どうなさいました?」

ペニーはクスクス笑いながら訊ねた。

 

「「ここって空き家じゃなかったか??」」

 

 ウィーズリーの双子にそう確認されても、ペニーはただクスクスと笑うばかりだった。

「さあ、どうでしょう。ペニーにはよく解りません……さて、この中にどうぞ」

「『この中』に?………隠し通路でもあるのか??」

 フレッドとジョージのどちらかが訊き、ペニーは答えた。

「この店の『警備主任』と『オーナー』が。お二人とぜひ遊びたいと仰っているのです」

 さして特徴も無い革張りの、ウチにもたくさんありそうなでっかいトランクケースだとフレッドとジョージは思ったが、蓋を押し上げ中を覗いて、2人は一気に笑顔になった。

 

「『警備主任』と『オーナー』のどちらかの元へ辿り着くより先に『今すぐここから出してくれ』という気持ちになられた場合は、ペニーをお呼びください。では、ごゆっくり!」

 

 フレッドとジョージはそのトランクケースの中にあった梯子を降り、すぐに杖を取り出した。

「警備主任」というのがどういうモノなのか、2人はなんとなく想像ができていた。

 先生が時々口にする「もう1人の家族」。それは如何な存在なのか。いや「存在」ではないのではなかろうかと。2人は周囲を見回しながら、想像が確信に変わるのを感じていた。

 

 そして。

 

「コンフリンゴ!!」「まーたマネキンか、ステューピファイ!」「……マネキンが失神したぜ」

 またしても一瞬暗くなったと思ったらまるで別の部屋になった周囲の風景に驚きながら、2人は迫り来るマネキンの群れを薙ぎ倒していく。呼んだ覚えのない侵入者を相手する時とは違い、今回のように「お客様と遊ぶ」時は、この「遊び場」にはキチンと「正規の攻略ルート」があった。

「お前さんたち2人には期待できるって私は思ってたんだ!たまに居るんだお前らみたいなのが!『私達』と波長の合う人間ってやつがさ!」

 やたらテンションの高いその声の主が何なのか、フレッドとジョージはとっくに理解していた。

「『検知不可能拡大呪文』か?」「それか『コイツ』がやってんのか?」「両方かもな」「ピーブズにもこういうこと、アイツがやろうと思ったらできるのか?」「ホグワーツの創設者様方ともなれば、ピーブズがあんまり好き勝手できねえように魔法で制限するくらいできるんじゃないか?」「つまり城に『こういう真似』できねえようにする保護魔法が?」「無くはないだろジョージ?」

 ああでもないこうでもないと相談し続けながら、2人はどんどん先へ進んでいく。

 

 まあ「先」といってもはたして西に進んでいるのか東に進んでいるのか直進しているのか、はたまた同じところをグルグル回らされているのかはフレッドとジョージにはまるで検討もつかないのだが、それでも2人の主観としては、もう幾つもの部屋を通って結構な距離を進んでいた。

 

 そしてまた、奥に唯一見えていた扉が開く。

 そこはちょうどホグワーツの、皆で食事をし、折々の校長の挨拶を聴く大広間のような空間だった。ただ、部屋の奥側に明かりは一切なく、ただ何やら家財道具らしきものが天井近くまで積み上げられているらしい事だけが、暗がりに目を凝らせば辛うじて察せられた。

 

 だが、それより何より、目の前に。

 

「おやあ、思ったより早かったね?ようこそ私の遊び場へ。もしくは私の家へ。私の友達の家へ。もしくは私と私の友達の家、私と私の友達と私の友達の家とも言える。好きなの選んでくれ!」

 

 胡乱な言動。常に気分が高揚しているかのような表情と振る舞い。ゴーストのように現実感の薄い、それでいてゴーストとは比ぶべくもなくハッキリとしたその全身。自分たちの前方に浮いている「それ」が何なのか、フレッドとジョージには一目で理解できた。

 フレッドとジョージと「それ」が。同時に笑顔になった。

 

「「お前とは友達になれそうだ!!」」

「私もそう思っていたところさ!!」

 

 腰掛けた椅子ごと宙に浮かんでいたそのポルターガイストは、椅子から立ち上がって一礼する。

 

「ごきげんよう。私はファスティディオ。ここに棲んでる。『警備主任』って肩書きも貰ってる」

「俺はフレッド」「俺はジョージ」「「よろしくファスティディオ」」

 

 大広間の奥の暗がりに実はあったらしい幾つもの扉が一斉に開き、ぞろぞろと何十体ものマネキンが歩み出てくるのと同時に、隅に転がっていた大量のタンスやら椅子やらが幾つか独りでに浮き上がって集まり、概ね人の形に見えなくもない形状に組み上がった。

「さっき、私のマネキンと何度も何度も戦って、『マネキンに失神呪文が効くのか』って疑問に思ったろう?効いてないさ。『人だったら今のでアウトだな』って私が思ったら操作を切ってる。それだけ。あくまでも遊びだからね。侵入者相手にやる時はもっとつまんない戦法を採るんだ」

 ポルターガイストのファスティディオは、頭を下にして宙を漂いながら、そのまま手に持ったティーカップに紅茶を注ぐ。どうやら紅茶自体は一切操っていないらしく、ファスティディオが紅茶をこぼさないように細心の注意を払っているのがその目にありありと表れていた。

 

「――私たちをもっともっと楽しませてくれよ~?」

 

 ファスティディオはそう言いながら、逆さまに浮いたまま器用に紅茶を飲んでいる。

 この大部屋の奥の端、暗がりの中の壁際に積み上がった家財道具の山脈の一角から、1羽のワタリガラスがじっとこちらを見ている事に、フレッドもジョージも気づいていた。

 

「なんだ、1体しか来ないの――」

 

 フレッドは続きを言えなかった。

 

「はっや!!嘘だろ!!」「デパルソ!!」

 ジョージの呪詛を、そのマネキンは最小限の動きで躱した。

 マネキンの鋭いパンチを躱し、呪詛を躱され、蹴りを防ぐ。いつの間にやらノシノシと前進してきていた概ね人の形に組み上がった家具の塊が右拳もしくはタンスを振り下ろしてきてフレッドとジョージは同時に大きく跳び退いて避け、すかさず無言で杖を振って爆破を浴びせよろめかせる。

 戦闘に参加するマネキンは1体また1体と増え、バラバラに破壊されて動かなくなったマネキンの数もどんどん増えていく。そして絶え間なく戦い続けながら、フレッドとジョージの表情からはみるみる余裕が無くなっていく。ただ、笑顔は消えなかった。

 むしろ余裕が無くなれば無くなるほど、釣り上がるような笑顔が抑え込めないのを感じていた。

 

 キツイ。横っ腹が痛い。腕が疲れてきた。なのに敵が減らない。

「ディフィンド!――なあジョージ」「なんだフレッド……インペディメンタ!!」

 ほんの一瞬だけ、フレッドとジョージはお互い見つめ合った。

 

「楽しいな」「ああ」

 

 そして、そのまま十数分ほどが過ぎた頃。

 

「はいそこまで。よく頑張ったねえ2人とも」

 

 マネキンを8割方倒し、なんか家具が積み上がってできた大きなバケモノも破壊して、疲労困憊の中で気力を振り絞り2人がかりでどうにかもう1体マネキンを制圧したところで、膝に手をついて肩で息をしてギリギリまだ立っているフレッドとジョージの目の前に飛来したワタリガラスは、ホグワーツの1年生くらいに見える少女の姿になって、拍手しながら笑顔でそう言った。

「ところで2人とも、ホグワーツの7年目を最後までやるつもりがないって聞いたけど、本当かい」

 やっぱその話がしたくて呼んだのかと、フレッドとジョージは思った。

「ああ、俺たち決めたんだ」「俺たちに必要なのはホグワーツでの残りの授業じゃない」「少しでも早く店を始める事なんだって」「いくら先生に説得されたって、もう散々悩んで決めた後だぜ」

 その「少女」は、フレッドとジョージの考えを、否定しなかった。

「ん。それはそれで良いんだよ。良いんだけどさ。N.E.W.T.は受けなよ?」

「なんでだよ?」「あんなの俺たちにゃ何の意味も――」

 

「楽しいよ?」

 

 その「少女」の言葉は、フレッドとジョージが予想もしていなかったものだった。

「N.E.W.T.試験はちょー難しくてちょー楽しいよ?それにさ、僕、試験受けたの100年以上前なのにさ、同級生と未だに『あの試験』の話で盛り上がれるんだ。だから、僕は君たちに、あの一生に一度しか無いクソ難しい試験を受ける機会を、脳みそ焦げる楽しさを、逃してほしくない」

 フレッドとジョージは、お互いの顔を見て無言のまま相談し始める。

「まあ、どーしてもヤだっていうなら無理強いはしないよ?でもね、僕はあれ、楽しかったの」

 

 そして次に「少女」の口から発された言葉を、フレッドとジョージは全く理解できなかった。

 

「さ。向こうの部屋で一緒にスター・ウォーズのビデオとか観ない?」

 

 数日後、フレッドとジョージは再び、今度は親友のリー・ジョーダンも連れてその店を訪れた。

 そしてまた、今度はリーも含めた3人でファスティディオと「遊び」、3人揃ってヘトヘトになってから先生の元へとたどり着き、皆で「エピソード5」を観た。

 

 その次に先生の店を訪ねた時は、リーに追加してアンジェリーナも連れてきた。

 また4人で無限に続く気すらする地下室を彷徨い、ファスティディオのマネキンの群れと戦って、アンジェリーナがシャワーを浴びるのを待ってから、皆で「エピソード6」を観た。

 アンジェリーナは「エピソード4」と「エピソード5」を観てないんだからあんまり楽しくないんじゃないかとフレッドとジョージは思ったが、それは杞憂だった。

 

 遊びに行く度に先生はいろんな話をしてくれたし、授業もしてくれた。

 特に1年生だった頃のダンブルドアの話は、どれだけ聴いても飽きなかった。

「アルバスって野菜全部苦手でねぇ。でも背高くなりたいからって頑張って食べてたんだよ。その頑張って食べてる時の顔が可愛くって可愛くって………」

「結果伸びたんだから良いじゃないですか先輩。僕の努力は実を結びました」

 その「1年生の頃のダンブルドア」の肖像画が至る所に飾られているのも2人の目を惹いたし、他のありとあらゆる所にあるたくさんの肖像画もほとんどが「同級生」とか「友人」だと聞いて、その中に自分たちでも名前を知っている魔法使いや魔女、中にはカエルチョコレートのカードで見た気がする名前すら幾つかあって、フレッドとジョージもリーもアンジェリーナも目を輝かせた。

「ヘスパー・スターキー?月の満ち欠けが魔法薬作りに与える影響を解明したっていう、あの?」

「そうなのよ!あたしすごいわよね!」

 レイブンクローの制服を着たその女の子の肖像画は、そう言って嬉しそうに胸を張った。

 

 そして先生は、耳を疑うような話もした。「今年」の「これから」の事を。

 フレッドとジョージもリー・ジョーダンもアンジェリーナも信じたくなかったが、同時に、恐らく本当に起こる事なのだと、心の何処かで確信してもいた。

 ダンブルドアがホグワーツから居なくなって、アンブリッジが残るのだと。

 

 そして今、フレッドとジョージは「必要の部屋」でハリーの話を聴きながら、「あれは今日だ」と確信していた。今日。今。これから。ダンブルドアはホグワーツから居なくなるのだと。

 

 俺たちのせいで。D.A.のせいで。

 

「なあ、それ。アイツらを本当に信用するつもりなのか?」

「アイツらがアンブリッジの事を愛してるって、そう思うのかよスミス。尊敬してるって?」

 ザカリアス・スミスはロンに一言で納得させられた。

「いいかい」ハリーは言葉を続ける。「僕はD.A.で、教えられるだけの事を教えた。教え足りないけど、君たちみんな想像以上にできるようになった。大成功だ。けどアンブリッジは僕らに、着実に近づいてきてる。決定的な証拠を得るためならなんだってするだろう。それこそ『磔』でも」

 ハリーの説明を聴きながら、フレッドとジョージは先生がしてくれた話を思い出していた。

 

 コーネリウス・ファッジ魔法大臣が、ヴォルデモート卿が復活したなんて嘘っぱちだと本気で信じ込んでいる事。しかし心の底では事実を正しく認識してもいて、要するに怯えているという事。

 そしてダンブルドアが魔法大臣の座を狙って自分を追い落とすために私設兵団を組織しているとファッジは考えていて、その証拠を見つけるために、つまりダンブルドアをホグワーツから追い出すためにアンブリッジを送り込んできたという事。

 アンブリッジは揉み消せるなら違法行為もやるし、だいたいは揉み消せてしまうという事。

 魔法大臣の権力が「法的にも」先生には及ばないという事。

 そして、ダンブルドアがホグワーツを去るのは、あくまで一時的な措置に過ぎないという事。

 

 フレッドとジョージがそこまで考えた時「忍びの地図」を凝視していたハーマイオニーが叫ぶ。

 

「来たわ、逃げて!!」

「「ボンバーダ・マキシマ!!」」

 

 ザビニとノットの声だと、ハリーにはすぐに判った。

 その瞬間、轟音とともに破壊されて大きな穴が開いたのとは逆側の壁に扉が出現し、D.A.のメンバーはそこに殺到する。

 ルーナがザビニに「呼び寄せ」られて捕まり、ネビルがマルフォイに「足掬いの呪い」で捕獲され、チョウがグリーングラスに縛り上げられ、ロンがノットに、ハーマイオニーはパンジーが杖の先から飛ばしてきた縄を盾の呪文で防いだその一瞬後にブルストロードの「足縛り」を浴びた。

「大臣閣下が懸念されていた通りだったと、そういうわけですね?」

 そしてハリーはアンブリッジに捕まったが、他は全員逃げおおせた。

「まずは、素晴らしい働きでした。とても有用な情報提供でしたし、的確な行動でした。ですのでスリザリンに40点差し上げます。どちらに味方するべきかをきちんと理解していて嬉しいです」

 

 マルフォイの得意げな顔を見ると、ハリーは無条件で怒りが湧いてきた。

「ミスター・ザビニから情報提供を受けた時点でご連絡いたしましたから、既にホグワーツに魔法大臣閣下がご到着なさっているでしょう。ホグワーツ領の境界線の一歩外までは『姿現し』で飛んでこられるわけですからね。では、校長室に行きましょうか。ダンブルドアを逮捕しなければ」

 明らかに声を弾ませたアンブリッジは、ハリーとザビニが予想していた通り、捕まえそこねた他のD.A.メンバーの事など、どうでもいいらしかった。

 

 校長室の前には、コーネリウス・ファッジ魔法大臣とキングズリー・シャックルボルト、そしてジョン・ドーリッシュとハリーが名前を知らない2名の闇祓いの男性が居た。

「………残念だよ、ミスター・ポッター」

 キングズリーが何についてそう言っているのか、フレッドとジョージなら判っただろう。

 しかしハリーは未だ、ダンブルドアとあの先生ならみすみすアンブリッジに捕まったりしないと、そう楽観的に考えていた。ともすればまた上手いこと言い逃れてくれるのではと。

 

 一方、逃げおおせたフレッドとジョージら他のD.A.メンバーは、アストリアに案内されて「闇の魔術に対する防衛術」の教室がある棟へと向かっていた。

「ハリーたち大丈夫かしら……」

 アストリアが心配そうに呟く。

「アンブリッジ先生に何か、酷い事とかされてないといいんだけれど………お砂糖いっぱいの紅茶飲まされたりとか、してないわよね……」

 ハリーたちがお砂糖のオバケに変えられちゃったら嫌だと、アストリアは本気で心配していた。

 

「さて。何か弁明はあるかねダンブルドア」

 校長室では、闇祓いたちとアンブリッジを従えたファッジ大臣が、ダンブルドアに迫っていた。

「お主がどのように理解しておるのかを説明してもらえねば弁明も否定も肯定もしようが無いと、そうは思わんかの、コーネリウス」

 コーネリウス・ファッジはダンブルドアのその発言でちょっと不快そうな顔をしたが、D.A.なる秘密の会合をしていたポッターたちを捕まえたスリザリン生を連れて校長室に今踏み込んだばかりで、確かに自分は何も説明をしていないと思い出して、渋々ながら口を開いた。

「お前は、ダンブルドア。お前はこの私を魔法大臣の座から追い落とすために、そのための、恐らくは武力にものを言わせるための、尖兵をこのホグワーツで育てようとしておった。例の、あの人が復活したなどという妄言を隠れ蓑にな。そして今――」

 

「『ダンブルドア軍団』じゃ」

 

 ダンブルドアがいきなり何を言ったのか、ハリーにもファッジにも、一瞬判らなかった。

「聞き及んでおろうのコーネリウス。『ダンブルドア軍団』じゃ。『ポッター軍団』ではない」

 ハリーより早く、ファッジは理解した。

「認めるのかね?お前がやらせた事だと?」

 ハリーが何か叫ぼうとしたのを察知して、アンブリッジが黙らせた。

「認めるとも。しかしミスター・ポッターは、この儂に頼まれるままに『授業』をしたと思うておる。『生徒』は『校長』に従わねばならぬという、彼の持つ道徳に従ってじゃ。つまりミスター・ポッターは、自分が行っていたのが儂に忠実な兵隊を作る行為じゃとは思うておらんかった」

「つまり、『罪は自分だけにある』と、そう言いたいわけか?」

「まっことそのとおりじゃ。儂がやらせた事で、ミスター・ポッターは従っただけじゃ。つまり、ほかの生徒も言わずもがなじゃ」

「――良かろう。では」

 

「エヘン、エヘン」

 

 全員が、声のした方を見た。アンブリッジもそちらを見た。

 いつの間にやらそこに居たもう1人のアンブリッジが、激怒していると誰にでも判る貼り付けたような笑顔をして、立っていた。

「ダンブルドアを遂に追い詰めたと聞いて来てみれば。その不届き者は一体誰です??」

 元から居た方のアンブリッジを指して、そのアンブリッジは言った。

「アナタこそ一体誰………まさか。ダンブルドアを助けに来たとそういうわけですか!」

「何をわけのわからない事を。誰の許可があって私になりすましているのですか。不愉快です!」

 そして、ファッジとドーリッシュが、それぞれ近い方のアンブリッジに杖を向けた。

 

「「スペシアリス・レベリオ!!」」

 

 何事も、起こらない。2人のアンブリッジは相変わらず、お互いを睨みつけ罵り合っている。

「ぉお前たちは後だっ!」

 業を煮やしたファッジがそう宣言し、無理やり注意を再びダンブルドアに向けた。

「「この不届き者をさっさと逮捕してください!!」」

 2人のアンブリッジは全く同じ声と見た目をして、お互いを指差してそう叫ぶ。

 ファッジは露骨にイライラし始めていたが、それでも引き連れてきた闇祓いに命令した。

 

「ダンブルドアを逮捕しろ」

 

 相手が相手なので杖を構えたまま油断なくジリジリと少しずつ接近していくドーリッシュとキングズリーとガウェイン・ロバーズ、そして他ならぬコーネリウス・ファッジが眼前まで迫ったところで、ダンブルドアは相も変わらぬ柔和な微笑みのまま、口を開いた。

「………誤解が、あるようじゃの?コーネリウス」

「何を今更。無実だとでも言うつもりか?」

「お主はどうも、儂が『神妙にする』と。大人しく逮捕されると。そう思うておるようじゃ」

 自分に近い方のアンブリッジだけがファッジ大臣と同じ表情で驚愕したのを、キングズリー・シャックルボルトは見逃さなかった。

「そして儂は、なぜかお2人いらっしゃるアンブリッジ先生の、どちらが本物で、どちらがアンブリッジ先生になりすました別人なのかを見分ける方法に、心当たりがある――」

 

 言い終わるより先にダンブルドアは目にも止まらぬ速さで杖を振り、闇祓い3人もファッジ大臣も、アンブリッジも吹き飛ばされた。

 捕まっているハリーたちと捕まえているドラコたちが呆気にとられている中、後から現れた方のアンブリッジだけが杖も取り出さないまま平然とその場に立っている。この先生はいつ来たんだろうかと考えているハリーもドラコも、今このアンブリッジに変身している魔法使いが、闇祓いに紛れてファッジやキングズリーと一緒に堂々と校長室に入ってきたなどとは全く気付いていない。

 

「お見事です。先輩」

「お別れの挨拶とかいいのかいアルバス?みんな心配してるよ?」

 

 その「アンブリッジ先生」は、ケラケラ笑いながらダンブルドアに言った。

「そうですな、まず、皆。儂の事は心配せんでよい。久々の休暇を楽しんでくるからの。お主らの事も心配せんでよい。後の事はこの先輩と、マクゴナガル先生とスネイプ先生に任せてある」

そこで、3人の闇祓いたちが呻きながら起き上がってきた。

 

「悪かったの。儂はアズカバンに入れられたくはないのでな。……まあ脱獄はできるじゃろうが。お主らも、せっかくホグワーツにおるのじゃから。生徒たちを助けてあげてくれるかの」

 

 ドーリッシュとロバーズとキングズリーが何を答えるより先に、ダンブルドアはどこからともなく飛来した不死鳥のフォークスの力を借りて、目も眩むほどの炎に包まれたかと思えば次の瞬間にはフォークス諸共どこへともなく「姿くらまし」した。

 

 そして「アンブリッジ先生」は、グリフィンドールの制服を着た青年に姿を変えていく。

「で、ガッちゃんキングくんドリくん。僕の事逮捕するかい?……僕まだ遊び足りないから、正直『逮捕する』って言ってほしいんだけど」

「いいえ……ファッジ大臣とアンブリッジ上級次官を、医務室にお運びします」

 キングズリー・シャックルボルトはファッジ大臣を肩に担ぎ、ドーリッシュとロバーズはアンブリッジに杖を向けて浮遊させ、2人がかりで輸送し始めた。

 

「さ、君たちももう行きなさい。心配しなくても、ドローレスくんがD.A.についてこれ以上追求する事は無いよ。だってアルバスをホグワーツから追い出せたんだからね。念願叶ったわけだ」

 

 ほら行った行ったと急かす先生に背中を押されて、まだ呆気にとられていたハリーたちとドラコたちは、半ば追い出されるような形で校長室を後にした。

 

 そして翌日。アンブリッジが校長に就任すると朝食中の大広間で一方的に宣言したすこし後。

「やっと来たか。全員居るな?アンブリッジの奴は思った通り、俺たちスリザリン生の事を味方だと思い込んでる。俺たちは皆、よく吐き気に耐えた」

 そう言ったブレーズ・ザビニは、ハリーたちを見つめている。

「『地下聖堂』へようこそD.A.の諸君。アストリアは昨日きちんとお前らに、ここに来る道筋を教えておいてくれたんだな。――ところで、お前らちゃんと2、3人ずつ隙を見て入ってきたんだろうな?あの『入口』に列を作ったりしてないだろうな?ここも一応『秘密の部屋』なんだぞ?」

 

「心配しなくたって、誰にも見られてないぜザビニ」

 リー・ジョーダンが言った。

「D.A.は明るみに出て、ダンブルドアが放逐された。これによってアンブリッジとファッジの当初の目論見は達成された。つまり、これでもう『僕ら』はバレる心配をしなくてよくなった。自分の望み通りの結末に導いて終わった事件を、もう一度捜査し直そうなんて奴は居ないからな」

 ノットの発言に、その場の皆が頷いた。

 ダンブルドアが素直にホグワーツから去ったのは完全に想定外だったが、それでもこれがザビニがハリーに提案した作戦だった。そして、それは概ね上手くいった。

 つまり「俺たちがお前らを捕まえてアンブリッジに突き出すから、ほとぼりが冷めたら俺たちがやってる秘密の訓練にお前らも合流しろ」というわけである。

 

 これにはアストリア・グリーングラスが予てからスリザリンの皆にもD.A.の皆にも何度と無く訴えていた「みんなで一緒にやりましょうよ!」という意見が大いに反映されていた。

 

 そしてダンブルドアがホグワーツから居なくなった事で、いみじくもアンブリッジは満足しただろう。あの先生がまだ居る以上「安泰」には程遠いだろうがそれでも大望を遂げた筈で、そのための手段だった「D.A.に関する追求」は、とりあえず止むだろう、とそんな事を考えながらダンブルドアを心配しているハーマイオニーや、罪悪感に苛まれているハリーの耳に、その声は届いた。

 

「ねえみんな!紹介するわね、これが私のお姉ちゃん!すっごく美人でしょう!!!」

 

 ダンブルドアはすごいんだから心配なんか要らないしハリーとザビニの作戦が成功したんだからD.A.の事ももう心配しなくていいと無邪気に信じているアストリアは、いよいよ「みんなで」一緒に呪文の練習ができるのだという喜びでいっぱいだった。

 

 アストリアがこんなに喜んでるんだからとりあえずいいかと、ハリーたちは思うことにした。

 しかしそれでも、ダンブルドアが今ホグワーツに居ないという事実は、変わらなかった。

 

 




スペシアリス・レベリオ(化けの皮剥がれよ)
  恐らくは対象に施された魔法などを暴く呪文。なのだが原作(呪いの子を含む)において何度も行使されているのにも関わらず、それら全ての場面で何ひとつ暴かなかったし特に何の効果も無かった、という惨憺たる戦績を誇る呪文。

「ヴェスターズ・アンド・ヴェナム」「クラッドウェル・アンド・ブリュースター」
「スティッチズ・アンド・ドラウツ」
  ホグワーツ・レガシーで主人公が入手するホグズミードの店に付けられる名前の候補。
  ゲーム内ではどれかひとつを選ぶ。
  私の妄想の中のレガ主は選びきれなくて看板と店の外観に魔法をかけた。

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