104年後からの今   作:requesting anonymity

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8.the Ministry of Magic are Morons Group

スリザリンの談話室では、生徒たちが集まってひとつの相談をしていた。彼ら彼女らが思い起こすのは先日受けた「あの先生」の闇の魔術に対する防衛術の授業。あんな「2つ目の課題」を付け足されたのは自分たちスリザリンだけだということを、全員が早々に察していた。

 

「さて、優秀なスリザリンの諸君にひとつ質問をしよう。『現在の魔法省の基本方針に照らし合わせると、ホグワーツの”闇の魔術に対する防衛術”の教師が僕である事は、好ましいか否か?』」

授業が行われたそこはスリザリンの談話室。それも1年生から7年生までの全員が集まっていた。

「お、いいねミスター・セルウィン。言ってごらん?」

先生に指名されて、その7年生は口を開く。

 

「由々しき事態だ、と言える。魔法省の基本方針、つまり『闇の帝王は復活などしておらず、かの者が戻ってきたというダンブルドアの主張は魔法大臣を追い落とすための私設軍隊を準備するための理由づくり』だとする、えー……軽妙洒脱なご意見に即するならば、先生が闇の魔術に対する防衛術を教えている事は、魔法省にとって……というよりは魔法大臣閣下にとって、極めて不安を煽られる事態だろう。一刻も早く自分に忠実な教師に、つまりアンブリッジにすげ替えたいはずだ」

 

「その通り。現状を正しく理解できるというのは解決すべき問題に立ち向かうために必要不可欠な能力だ。そして君はそれをしっかりと備えているねミスター・セルウィン。スリザリンに5点。じゃあ次は、こう訊こうか。『かつて1歳のハリー・ポッターを殺しそこねた闇の帝王が、あれっきり金輪際戻ってこないと考えるのは妥当な判断か?』どう思う?今の魔法大臣閣下が主張してらっしゃるご意見は君たちに言わせれば『事実を正しく認識している』だろうか?」

 

手を上げたのは、ドラコ・マルフォイだった。

 

「魔法大臣閣下は………ファッジの奴は、臆病風に吹かれている。ポッターの奴と老いぼれダンブルドアと同じ意見を表明することになるのは正直不愉快極まりないが、こればっかりは…………『考え方の違い』とか『立場の違い』とか言ったものが介入する余地は無い。昼間は殆ど見えないからと言って『空に星なんて無い』などと主張する者が一笑に付されるのと同じように……。だってそうだろう?闇の帝王が真に『お隠れに』なられたのだとしたら、それこそポッターの奴がもっと大喜びしているはずだろう?つまり、僕の個人的な見解としては………闇の帝王は戻ってきた」

 

先生は、ドラコを褒める。父と母の事を隠して上手く言い逃れたその家族愛を。

「君は本当に賢い子だねドラコ。君の賢明さに5点だ。そしてスリザリンの皆、アンブリッジ先生がちょっと前に、『闇の魔術に対する防衛術』の授業を査察してらっしゃったね?君たちには説明しなくてもいいよね?僕が『不適格』って査定を下されること。僕だけは他の先生方とは違って、最初から結論ありきで理由を探すための査察だったって事、さっきのミスター・セルウィンの解説で、もうわかってるよね?つまり僕は、もうすぐクビになる。そして、大人しく言う事を聞くつもりでいる。つまりアンブリッジ先生に『防衛術』の教師の座を明け渡す予定だ」

 

スリザリン生たちの表情が曇る。ドラコの眉間にはシワが寄り、パンジー・パーキンソンなど数名の生徒は「そんな!」と叫んだ。

「アンブリッジの授業だって?勘弁してよ!絶対つまんないよ!だってそういう顔をしてる!」

「理由になってないぞクラッブ……」

ノットが呆れ気味に言う。

 

「アンブリッジ先生がどういう授業をなさるかは、まあほっといてももうすぐ明らかになるわけだけど、ちょっと考えてみようか。アンブリッジ先生の授業ってのはつまり、魔法省の……もとい、魔法大臣閣下のお考えが如実に反映されたものになるだろうね?『ダンブルドアの私設軍隊を作らせないための』授業に。たぶん、そうだね………『実践』と名の付く事は一切無しだろう。だって生徒がダンブルドアの私設兵団に変わることを阻止しなきゃ。戦い方を教えるなんて以ての外だ」

先生のその言葉にある程度の根拠があると察したスリザリン生たちは、それが未来を正しく言い当てていると理解して辟易する。―そんなのビンズのほうがまだマシだ。

「そこで、君たちに2つ宿題だ。期間は『闇の魔術に対する防衛術』の教師がアンブリッジ先生に変わった瞬間から。ひとつは『ホグワーツ内のどこかに居る僕を見つける事』。そう。教師の座は渡すけど、ホグワーツから退去するつもりは無いんだよね。僕は君たちに混じって授業も受けるし、大広間で食事もする。廊下ですれ違うこともあるだろう。そんなふうに誰かに紛れてる僕を見つけて声をかけてね。見事に見つけられたらまあ、ちょっとしたご褒美をあげるよ。そしてこれは他の3寮の子たちにも同じ課題を出してる。つまり寮対抗ってわけだ。スリザリンの優秀さと結束を僕に見せてね?もちろん1回見つけたらそれで『はいおしまい』じゃあ、ないよ」

で、だ。とスッと真顔になった先生は、談話室のスリザリン生たち1人ひとりを見つめる。

 

「もうひとつの課題は『アンブリッジ先生と協力して、僕をホグワーツから追放しよう』コレを成し遂げられたらスリザリンに200点あげよう。頑張ってね?」

 

大いに動揺するスリザリン生たちを眺めながら、その先生は楽しそうに笑っていた。

 

その時の動揺をまだ身中に抱えたまま、スリザリン生たちはあの時の授業が行われたのと同じ談話室で、誰からとも無く各々あの時と同じ位置に座って話し合っていた。

「どっちの課題を優先して取り組むのか」を。

 

「見つけなきゃ、追い出すも何も無いだろ?」

ゴイルが大前提を指摘し、隣のクラッブが頷く。

「先生は僕らが自分をホグワーツから追い出す事を望んでるのか?」

混乱気味に言ったクラッブに、ダフネ・グリーングラスが解説する。

「どっちか選べ、って言ってるのよ先生は。『先生か、アンブリッジか』」

「両取りできないわけでもないぞ、先生の2つの課題は。つまりクラッブが言った通り、見つけ出さなきゃ追い出すも何も無いんだからな。そして先生の事だから、ホグワーツの『先生しか知らない場所』にずっと引き籠もってるなんてつまらん真似はしないだろう。見つけろって言ったからには、見つけられる場所に居ると考えるべきだ。グリフィンドールの奴らや、ハッフルパフやレイブンクローの奴らより先に見つけて、アンブリッジにチクって追放する。これで両取りだ」

 

そう言ったノットも、それに同意したザビニも、頭の中では同じ事を考えていた。同じ寮に組分けされただけあって、他の3寮がそうであるようにスリザリンの生徒たちにも、スリザリン生共通の性質というものがあった。行動方針を定める際にスリザリン生がよくやる発想。これが仮にグリフィンドールなら「どれが1番心躍るか」もしくは「どう動くのが『正しい』か」で決め、その道の険しさなどは一切考慮しないだろう。レイブンクローならば知的好奇心に従い、より学びの多い方を選ぶだろう。つまり個人的な研究を優先するべきだと判断して先生の課題を一切無視するという可能性もあるかもしれない。そしてハッフルパフの生徒たちは、単にあの先生とアンブリッジのどっちが人として好ましいかで決めるだろう。しかし、スリザリン生の考え方は違った。

 

「あの先生を『ホグワーツから追放』なんて、可能か?眼の前に現れるまであのダンブルドアが侵入に気づきもしなかったんだぞ?そんな奴をどうやって追い出すってんだ?」

 

伝統的にスリザリン生はこういう時、それぞれの行動目標の「実現可能性」で考えるのだ。

つまり「1番成功確率が高いのはどれか?」が主な判断材料であり、グリフィンドールが重要視する騎士道精神も、そして「成し遂げた際に何を得られるのか」もあまり重要視されない。これは保守的で自己保身的とも言えるが、目先の利益に釣られない賢さを備えているとも言えた。

 

「先生の発言を思い出そう。『ホグワーツから退去するつもりは無い』って、ハッキリ言ってたよな?それはつまり、魔法省から正式にそう勧告されても、って事だよな?」

ブレーズ・ザビニが皆が薄々思っていた事を言語化した。

そして、満場一致の結論が導き出される。

 

「探そう。先生を。他の寮の奴らより先に。他の寮の奴らより多く。根気よく、何度でもだ」

「じゃあまずは……お前は本当にお前本人か?ザビニ」

ノットの発言で一瞬不快そうな表情をしたブレーズ・ザビニは、しかしすぐにその意図を察した。

「確かにそこから始めるべきだな………ポリジュース薬ぐらい持ってるだろうし。よし、ノット。質問をしてくれ。俺本人しか答えようが無いやつを」

そしてノットがザビニに「父親の職業」を訊いたのを皮切りに、他の皆も近くに居る友人が本当に本人なのかを確かめ始めた。まず「レベリオ」、次に質問といった具合に。

 

「父の職業?どの父親の事だ?俺の父親は何人も居て、みんな既に死んでる。その度に俺の母は多額の遺産を相続した。その中のどれかが俺の生物学的な父親だろうが、あまり興味は無い。だから『父親の職業』は、俺にとって答えの無い質問だ」

ザビニのその回答で本人だと判断したノットは、自分にも質問をしろとザビニに促す。

「スペシアリス・レベリオ!……まあやってみる価値はあった。だろう?で、ノット………お前が今1番興味を持ってる魔法は?前に話してくれたよな?」

「時間逆転魔法。つまり『逆転時計(タイムターナー)』だ」

 

そしてさらに一週間後。ホグワーツの生徒たちは皆が初めての「アンブリッジ先生の授業」を経験し終えて、そのただでさえ低かった期待と予想をさらに下回るつまらなさに早くも辟易していた。

「レタス喰い虫とホークランプってさ、魔法省の分類だと☓ひとつだけって区分だよね」

ロンの言葉にハーマイオニーが「そうよ?」と返す。

「☓ひとつってさ、確か評価は『つまらない』だよな。じゃあアンブリッジも☓ひとつか?」

「レタス喰い虫とホークランプも、アンブリッジの授業を受けたら退屈すると思うよ」

ハリーとロンのあんまりな言いようを、ハーマイオニーは咎めようとしなかった。

「おんなじ内容を取り扱っても、マクゴナガル先生なら100倍楽しませてくれるわ!」

ハーマイオニーのその言葉はグリフィンドールの、どころかスリザリンまで含めたすべてのホグワーツ生の総意を代弁するものだった。

 

一方、今日もまた魔法薬学の授業に行く覚悟を決めるのに手間取ったネビルは、大階段の適切なタイミングをはかり損ねて、意図していない廊下に来てしまった。

「おやロングボトム。こんな所で何をやってるんだ?まさか5年生にもなって道に迷ったのか?」

正面から歩いてきてニヤニヤと嗤いながらそう言ったのは、ドラコ・マルフォイだった。

「大階段を上手く通り損ねたんだ」

その返答にドラコも、その左右のクラッブとゴイルも笑った。

どうしたもんかと苦悩しているネビルと、どうしてやろうかと考えているドラコたちの傍を、1人のレイブンクロー生が通り過ぎる。そしてそのレイブンクロー生が大階段の方に消えて行ってから、ドラコとネビルは同時に気づいた。

 

「今のレイブンクローの太っちょ、胸のバッジが『編入生』だったよね!」

「声をかけなきゃ見つけたことにならない!追いかけるぞ!」

 

お互いの邪魔をする時間も惜しいドラコとネビルは並んで駆け出し、クラッブとゴイルは慌てて後を追う。ちょうど階段を登り終えるところだったそのレイブンクロー生の背中を見つけて、4人はさらに後を追った。そしてたどり着いたのは、レイブンクロー塔の最上階。鷲の像が守る壁の前。

「行き止まりか?」というゴイルに、ドラコとネビルが「違う」と返した。

「レイブンクローの談話室の入り口だよ。アンソニーが言ってた話だと……」

「この鷲の像が出す『質問』に答えられなきゃ入れない。逆に質問にさえ答えられれば、レイブンクロー生でなくとも入れる。お前が知ってるとは意外だなロングボトム」

ドラコの解説を肯定するかのように、鷲の像は喋り始める。

 

「コブラユリの花に最も多い色は?」

ドラコが眉根を寄せて考え始めるが、ネビルは即答した。

「花なんか咲かないよ。だってそこにはヘビの頭が生えてるんだから」

 

「その通り」とだけ言って道を開けた鷲の像を尻目にレイブンクローの談話室へと入った4人は、予想できた事実に直面する―そこにいるのは当然皆レイブンクロー生であり、その中から1人、既に太っちょではないであろう「レイブンクロー生」を見つけるという難題を提示されている事に。

 

「コブラユリって、つまり、花があるべきところにコブラが咲いてるのか?」

「そうだよ。世話する時は噛まれるから、ドラゴン皮の手袋が必須なんだ」

「じゃあそれに名前つけた奴はどこを見て『ユリ』だって判断したんだ?」

気持ちが横道に逸れ始めたらしい間抜け3人を内心で戦力外認定したドラコは辺りを見回す。判別不可能な変装はしていないはずで、絶対に全ての生徒がそれと見分けられる要素を残しているはずだと、ドラコは理解していた。

 

「やあネビル。こんなところに何しに………何の用だマルフォイ」

 

ロングボトムと自分とで露骨に態度が違うアンソニー・ゴールドスタインの質問に、ドラコは答えるわけにはいかなかった。「あの先生を見かけて追いかけたらここに着いた」なんて正直に言おうものなら「初発見」という手柄をみすみすレイブンクローに掠め取られかねないのだから。

 

「先生がレイブンクローの生徒になってるのを見かけたから追いかけたらここに着いたんだよ」

 

アッサリ言ってしまったネビルをドラコが睨む。しかし途端にざわつき始めたレイブンクローの談話室で、ネビルは何やら難しい表情をしていた。そして数秒遅れてドラコもその違和感に気づく―ゴールドスタインの奴は、こんな黒々とした髪だったか?

 

「ねえアンソニー、魔法生物学者のニュート・スキャマンダーの、奥さんはなんて名前だったっけ?前話してくれたよね、遠いけど一応親戚だって」

「ポーペンティナさんでしょ?それがどうしたんだい?」

ドラコは内心で「まあ知ってるかそのくらい………」と質問を推敲する。

 

「アンソニー・ゴールドスタイン。お前がレイブンクローの談話室に初めて足を踏み入れた時、入り口の鷲の像はお前になんと質問した?」

 

数秒沈黙したアンソニーは、「ぶひゅふへへへへ……」と品のない笑い方をし始めた。

「ネビルとドラコに5点ずつあげるよ。よく見破ったねえ」

「アンソニーはブロンドだよ先生。それにこの時間は授業受けてる。何のかは知らないけど」

「……意外と抜けてるな先生。ゴールドスタインがホグワーツに足を踏み入れた最初の日に談話室入り口の鷲の像がなんて質問したかなんて、ゴールドスタインの友人でもない僕が知るわけ無いんだから適当に誤魔化せばいいだろうに」

目から鱗が落ちたらしいアンソニー・ゴールドスタインに変身していた先生は「スリザリンにもう2点」と宣言すると、ネビルとドラコに言う。

 

「ところで君たち授業は良いのかい?」

 

あ゙っ、と悲痛な声を上げたネビルとドラコ、そしてクラッブとゴイルは大急ぎで踵を返し、魔法薬学の教室へと走っていく。その背中を眺めながら、ポリジュース薬の効果が切れた先生はアンソニー・ゴールドスタインとは似ても似つかぬ別人に戻った。

「レイブンクローの5年生は授業中。ここに居るのは今が空きコマの6年生と7年生だけ。ミスター・ゴールドスタインのご友人がもし居たら一発で気づけたかもね?」

唖然としているレイブンクロー生たちにそう言った先生は、スタスタと談話室を後にした。

 

これをきっかけに、レイブンクローの生徒たちもその「先生探し」に熱を上げ始め寮対抗の点取り合戦が白熱し始めたのだが、それと同時に生徒たちはアンブリッジの授業が自分たちにとってただつまらないだけでなく「極めて不都合」であることも認識し始めていた。

 

「なあ、今ってどこが1番だっけ?」「先生を見つけた数」

その日のすべての授業が終わったグリフィンドールの談話室で、フレッドとジョージが誰にとも無く訊く。するとその答えはハーマイオニーから返ってきた。

 

「グリフィンドール2回。ハッフルパフ2回。レイブンクロー2回。スリザリン2回。噂話を総合するとこうなるわ。つまり横並びね、そして、最後に目撃されたのは4日前。ミセス・ノリスに赤ちゃん言葉で話しかけてるスネイプとして目撃されたっきり、どこに居るのかわからない」

「アレまだ夢に出てくるんだよ」とアンジェリーナが言い、フレッドとジョージが笑った。

 

「先生探すのは楽しいし、色々学びもあるけどさ、だからこそ実感するよな」

皆が思っていた事を、ロンはハッキリと言葉にする。

「アンブリッジの授業。ダメだろアレ。『O.W.L.』の範囲を僕らがちゃんと履修できてるかどうかも怪しいぜ。あれならギルデロイ・ロックハートの方がまだマシだよ。このままだと来年には僕ら、まるまる1年分の遅れをどうにかしなきゃいけなくなるぜ」

「ロニー坊やもたまにはマトモな事を言うな」とフレッドが言う。

「俺たちだってたぶん『N.E.W.T.』の範囲をロクにカバーできてないぜ。俺たち2人はともかく、みんなはそれじゃあ困っちまうよな?」

アリシア・スピネットもリー・ジョーダンも頷く。

アンブリッジの授業をクソつまらないと感じているのが自分たちだけではないのだとわかったのは、皆にとって少しだけ救いだった。

そして数日後、ハーマイオニーはとうとう1つの結論に達した。

 

「ねえ2人とも、ちょっと提案があるんだけど。いいかしら?」

 

「「なんだいハーマイオニー」」

ハリーとロンが全く同じ表情で同じ返事をしたのがちょっと可笑しかったハーマイオニーは笑いを堪えるのに数秒要しながらも、その「提案」を口にする。

「もう自分たちでやりましょうよ。『防衛術』。アンブリッジが、というか魔法省が私達に魔法を使わせないって言うなら、自分たちでやりましょうよ。アンブリッジの担当教科が『数占い』とかだったらこうはいかないけど、幸い『防衛術』よ。『防衛術』なら私達、素晴らしい先生を2人も知ってるじゃない。1人は今どこに居るかわからないけど、もう1人の居場所ならわかる」

 

「………それ最高だよハーマイオニー!まさに名案だ」

なんかテンション上がり始めたロンを横目に、ハリーは全くピンときていなかった。

もうひとりって誰のことだろう?

そしてロンとハーマイオニーに見つめられている事に気づいて、ハリーはやっと理解した。

 

「僕が?」

 

「そうよハリー。あなたよ。去年、あなただけが『服従の呪文』に抵抗することに成功した。あなただけが、守護霊を呼び出せる。あなただけが、ヴォルデモートと対峙した経験がある。ハリー。あなたが『ハリー・ポッター』だから言ってるんじゃないわ。実績があるから言ってるのよ」

その後ハーマイオニーに淡々と理詰めで説得されたハリーは退路を塞がれ、仕方なく「教師役」をやることに同意したのだった。

「じゃあ他の皆にも声をかけなきゃ。アンブリッジの授業がつまんなさすぎて困ってるのは僕ら3人だけじゃない。5年生だけでもないし、それにグリフィンドールだけでもない。だろう?」

ロンの発言にハーマイオニーも同意し、呼びかけるのに数日使って、今週末にホグズミードで話し合おうという事でその場はまとまった。

 

そしてその週末。ホッグズ・ヘッド。

「君たち『数人』って言ってなかった?」

どう数えても30人は居る店内を見て、ハリーが小声で言う。

 

「………集まってもらっといて悪いけど、一応これは言っとかなきゃな」と、ロンが口を開く。

「もしこの中に、『日刊予言者』が記事にしてる話題についてハリーに質問したいからって理由でここに来てる奴が居るなら、悪いけど帰ってくれ。ハリーは、『その質問』に、答えない」

ロンのその発言を受けてちょっと感動しているハリーの視界から10人ほどがそそくさと消えて行ったが、それでも結構な人数が店内に残った。

「ちょっとまった、お前。………誰だ?」

ロンが大勢の中からその女子生徒だけを見咎めたのは、スリザリンの制服を着ているところを見たことがあると気づいたからだった。

 

「私アストリア・グリーングラス。3年生よ。……もしかしてスリザリンの参加は厳禁だった?」

 

「構わないよ」と即答したのはハリーだった。他ならぬハリーがそう言った事で、異論は誰からも出なくなる。そして、ハーマイオニーが口を開く。

「じゃあ、いいかしら?皆に集まって貰ったのは、『防衛術』の実技を、自分たちで自主学習する事を目的として会合を開きたいから。教師役はこちらの彼。ハリー・ポッター。参加を希望する皆に同意してもらいたいのは、『ハリーが教える』って点と、『他言無用』って点。あと一応言っとくけど、アンブリッジにバレたらたぶんあの女、怒るわよ」

 

皆が納得を態度で示し、話は「集まりの名前」に移る。

「『魔法省は皆間抜け』略してMMMってのはどうだ?」

「あんたたちのお父さんは、間抜けじゃないと思うな」

ルーナ・ラブグッドのその返しに、フレッドとジョージは唸った。

「防衛術自習クラブ………いやもうちょっと捻りたいな」

ジャスティンが自分の意見を自分で却下し、皆もそう言われると「捻った名前」にしたくなる。

「とりあえず、パッと聞いて会合の意図がわかるような名前じゃあない方がいいと思うわ。相談してるのを誰かに聞かれてもいいように」

ハーマイオニーのその発言に皆が同意する。

 

「防衛協会。略してDAはどう?」

チョウ・チャンが言い、ジニーが「ダンブルドア軍団」も略せばDAだと指摘した事で、集まりの名前は満場一致で決定した。名前を聞いただけでは会合の意図が分からず、それでいて会合の意図を如実に示してもいる名前。ピッタリだと、スリザリン故にダンブルドアをあんまり尊敬していないアストリア・グリーングラスすらもが思った。

 

「じゃあ、これに署名してくれるかしら?誰がメンバーなのかをハッキリさせる必要があるから。そしてこれに署名するってことは『ハリーを指導役として認める』って事で『他言無用』に同意したって事にもなるから、そのつもりで居てね」

そう言いながらハーマイオニーは、サラサラと自分の名前をその名簿に書き入れる。

皆が自分の前に一列に並んで次々に、それもかなり嬉しそうにその名簿に名前を書き連ねていくのを、ハリーは衝撃を受けながら眺めていた。

 

「じゃ、最初の議題は決まりだな」と署名を終えたフレッドとジョージの片方が言う。

「『次回以降どこに集まるのか』。まだいい場所見つけてないんだろ?」

ハリーたち3人が頷く。

「アンブリッジが知らない場所で、戸締まりできなきゃダメだな」「中の物音が外に丸聞こえってのも困る」「全員入って肩と肩がぶつかるってのもちょっと不便だな?」「でも、俺たちはラッキーだ」「なにせ俺たちが居るのはホグワーツだ」「誰も知らない部屋がいくらでもある」

フレッドとジョージのその発言は、皆も納得できるものだった。そして抱き始めていた不安を払拭してくれるものでもあった。

なにしろ、自分たちはホグワーツの生徒なのだ。ホグワーツ城の住人なのだ。あの城の全容など、創設者たちですら誰も完璧には知らないだろう。それはつまりフレッドとジョージが指摘した通り、「ふさわしい部屋」が必ずあるという事なのだから。

 

「それならそれこそ『秘密の部屋』は?あそこならハリーが居なきゃ入れないし」

「ロンあなた、あそこに入り浸りたい?」

「ああ………そりゃちょっとテンション上がらないな確かに……」

「図書館の暖炉の奥に隠し部屋があるよな?」

「あそこは確かにやたら広くてなんか色々設備も揃ってるけど、ピンスの奴に全員が1度たりとも見つからないなんて無理な話だぜ」

「なあグリーングラス。スリザリン生しか知らない部屋とか無いのか?」

「スリザリン生が皆知ってちゃマズいんじゃないの?」

アストリア・グリーングラスは楽しそうにクスクス笑っている。

「そういや、ここには全部の寮の生徒が居るんだから、クィディッチの練習と日程が被っちゃ困るよな。それも全部の寮の日程を避けなきゃいけない………つまり、それをどう連絡し合うんだ?」

 

結局、連絡手段についてはハーマイオニーから「考えてあるけど準備がいるから待って」という説明があり、会合場所については各々探すという事でその「DA」の初会合は解散となった。

 

そして数日後。「見つけたよ!」と声をかけてきたネビルに連れられて、ハリーたち3人とフレッドとジョージは、8階の廊下に来ていた。

「ここがなんだってんだ、ネビル?」とロンが怪訝そうな顔で言う。

「僕、皆の役に立ちたくて、でもそんな隠し部屋なんて地下の温室ぐらいしか知らないから………スプラウト先生が教えてくれた、悪魔の罠がみっちり蔓延ってる隠し温室。あそこは悪魔の罠だらけだからダメだな、けど皆の役に立ちたい。皆で集まれる安全で広い場所を、って考えてたんだ」

ネビルがそう言いながらウロウロしているその壁にじんわりと染み渡るようにして扉が現れるのを、ハリーもロンもハーマイオニーも呆気に取られて見ていた。

 

「ネビルあなたつまり、『必要の部屋』を見つけたの??すごいじゃない!」

 

その部屋に一歩足を踏み入れて、ハリーもロンも「ここだ」と確信した。

「『必要の部屋』?そういう名前なのハーマイオニー?」

「そう。または『あったりなかったり部屋』殆どの生徒は、それってつまり私もだけど、噂でしか知らない。『本当に必要な時だけ現れて、そこにはその人が必要としているものが揃っている』って。正確な場所なんて知ってる人が他にもし居るとしても、ダンブルドアくらいじゃないかしら」

「つまりここは今『俺たちのための部屋』になってるって事だよな?」「決闘にどうやって勝つかがこんな具体的に書いてある本読んだことないぜ!」

フレッドとジョージは早くも部屋を漁って高揚している。

 

「なあネビル、ここに決めていいと思うけどさ。この部屋。どうやれば扉が出てくるんだ?」

「たぶん『何が必要なのかをハッキリ思い浮かべる』のと『何回もあの壁の前をウロウロする』のが大事なんだと思う。1回往復するだけじゃ出てこなかったから」

 

その瞬間、パチン!と大きな音が鳴った。

「それでは、皆様は必要の部屋を見つけたのですね!」

「ドビー?ここに何しに………それにそっちは……ごめんね、僕、君の名前知らない」

「こちらはドビーの友人です。ホグワーツの屋敷しもべの中で一番この部屋に詳しいのです!」

その年老いた屋敷しもべは、深々とハリーたちに頭を下げた。

 

「お話するのは初めてですね、ハリー・ポッター。ディークは今日のこの日を嬉しく思います」

 

この屋敷しもべは信頼していい相手だと、ハリーの心の中の何かが告げていた。

 

 





屋敷しもべの寿命について
 平均寿命は200年。(公式設定)
 クリーチャーは666歳で亡くなった。(公式設定)
 つまりホグワーツ・レガシーに登場した屋敷しもべ妖精が
 ハリーたちの時代にまだホグワーツで勤務していても
 なにもおかしくはないのだ
 
※コブラユリは公式設定にちゃんと存在しますが、
 魔法植物なのか魔法動物なのかは不明です。


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