104年後からの今   作:requesting anonymity

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9.内通者たち

参加者たちから少々の不興を買った「まずは武装解除呪文から」というハリーの判断はしかし、いざ実際に「D.A.」を始めてみれば、結果的には英断だった。

 

「エクスペリアームズ!」

 

フリットウィックもマクゴナガルも授業中ほとんど口癖かのように繰り返す「発音は正確に」が決して大げさではなく重大な忠告だという事をその身で証明したネビルが自分で自分の武装を解除して吹っ飛ぶのを、周囲でペアになって練習していた皆と、当のネビルとペアを組んでいたので思いがけずその光景を特等席で見物できてしまったアーニー・マクミランが目を丸くして見ている。

しかし、ネビルはめげない。

「ネビル、エクスペリアーム『ス』だ。僕もその間違い、去年練習中にやった」

ハリーのアドバイスを脳内で反芻しながら、ネビルは杖を拾って立ち上がる。

武装解除呪文に苦戦しているのはネビルだけではなく、「必要の部屋」に集った皆の何割かは、未だペアを組んだ相手の武装を解除できずにいる。

 

一方。

 

「「エクスペリアームス!」」

 

向かい合ってお互いに杖を向けているフレッドとジョージが同時に叫び、2人の手から杖が飛ぶ。そして宙を舞ったお互いの杖を交換する形でキャッチしたフレッドとジョージに、周囲の何人かが拍手を贈っている。2人がわざと示し合わせてそんな高度な曲芸じみた事をやっているのがハリーにはすぐ察せた。そして示し合わせると言っても言葉を交わしたわけではなく、ただお互いの目を見るだけで「相談」を済ませてしまえるのがこの2人だった。

ハリーは「双子ってそういうもんなのかな?」と思いながら、D.A.に参加しているもう一組の双子を、自分と同学年のその2人を見る。

 

「……いやいやいや。あの、あそこまでは無理よ?フレッドとジョージがすごいだけよ?」

ハリーの視線に気づいたパドマ・パチルが言い、パーバティが頷く。そして、その隣では。

 

「エクスペリアームス!」

 

交代で練習するのではなく「隙を見つけた方が相手の武装解除を試みる」という実戦式の練習をしているハーマイオニーとロンは、今のところハーマイオニーが勝ち越していた。

楽しそうなハーマイオニーに勝ち誇られて悔しそうなロンもまた、楽しそうに笑ってもいた。

頼むからそのまま仲良くやっててくれと親友2人に祈りながら、ハリーは必要の部屋を歩き回る。

 

「エクスペリアームス」

 

ただ1人のスリザリンからの参加者アストリア・グリーングラスがペアを組むルーナ・ラブグッドの手から杖を飛ばしたが、真上に飛んだそれをルーナが見事にキャッチしてしまった事で、2人して「今のは成功と言って良いのか」を判断しかねて首を傾げている。

 

「エクスペリアームス!」

 

D.A.参加者最年少の2人、デニス・クリービーとナイジェル・ウォルパートはしっかりと訓練についてきており、それは2人の学年を考えれば驚異的ですらあると、ハリーは自分が2年生だった頃に満足に使えた呪文が一体どれだけあったかを思い返しながら、見事にデニスの手から杖を飛ばしたナイジェルを褒める。

「良いよナイジェル、その調子だ!デニスも吹っ飛ばされてから起き上がるまでが早かったね!それはすごく大切な事だよ、その意気だ!」

そう言いながらハリーは、自分が「闇の魔術に対する防衛術」の、一番好きな先生の真似をしている事に気づいた―なぜなら今の自分の発言をその先生に当てはめても全く違和感が無かったから。そしてジャスティンがテリー・ブート相手に武装解除呪文を成功させ、手から杖を飛ばされたテリーが歓声を上げてジャスティンを讃えるのを見ながら、ハリーは気づく。

ハリーが一番好きな「防衛術」の先生、2年前に教鞭を執っていたルーピン先生が生徒にアドバイスする時の言葉選びが、今年の「防衛術」の先生、ダンブルドアの学生時代の先輩だというあのおかしな先生がよく使う言い回しにすごく似ているという事に。

(……どっちがどっちの真似してるんだろう?)

手紙でルーピン先生に訊いてみようかと一瞬思ったハリーは、すぐに「野暮かな」と思い直す。

 

一方同時刻。当のそのリーマス・ルーピンは、ダンブルドア直々の頼みで少々危ない橋を渡り、どうにかグリモールド・プレイスに1週間ぶりに帰り着いたばかりだった。

 

「ホグズミード村にある『叫びの屋敷』の通称の元となった『叫び声』の実際の出処は何だ!」

「学生時代の私だ。満月の夜にあの屋敷に閉じこもっていた。誰のことも襲わずに済むように」

 

杖を突きつけて問いただしたマッド‐アイ・ムーディにルーピンが落ち着いた声で即答すると、ルーピンが何をしていたのかを知っているマッド‐アイが、今度は穏やかな口調で質問した。

「……ふん。どうだったんだ?首尾は。まあ想像はつくが」

「お察しの通り、あんまりよくないね。グレイバックの奴に同調する声が強いんだ」

予想通りとは言え深刻な表情になる2人に、シリウス・ブラックが横から言う。

「生きて帰って来た上、情報を持って帰って来た。これが戦果でないなら何だ。だろう?」

「ありがとうシリウス。じゃあ早速その『情報』を、詳しく共有しようか」

 

「ニンファドーラ!会議だ、降りてこい!」とマッド‐アイが怒鳴り、2階から「ニンファドーラって呼ばないで!」と怒鳴り返す声が響いてくる。が、それに続くドタバタと騒がしい物音の正体をすぐ察して、マッド‐アイは嘆息する。

 

「あの馬鹿娘、まただらしない格好で寛いでおったな!全く」

「父親みたいな事言うね、マッド‐アイ」

ルーピンが笑い、それにつられてシリウスも笑い、マッド‐アイは「フン!」と憤る。それがまた父親のようで、シリウスは益々笑った。

「ご、ごめんなさい!おまたせ!」

数分後、ドタバタと騒がしく降りてきたトンクスにシリウスがソファを勧め、勧められるがままルーピンの隣に座ったトンクスを見てルーピンが「さあ、お互いの報告をしようか」と言ったのを合図に、その「不死鳥の騎士団不定期報告会」は幕を開ける。

 

「で、グレイバックの奴はその、他の狼人間に何を言ってる?」

シリウスが皆を代表して訊ね、ルーピンが答える。

「『いつものやつ』以外だと、『闘って勝ち取れ』ってさ。『権利を』じゃないよ。『獲物を』」

「……つくづく文明社会が肌に合わないらしいな。で、賛同者が多いと?」

うんざりしたような様子でシリウスが訊く。

「あんまりこんな事言いたくないけど。魔法族が人狼症感染者をどのように扱ってきたか知ってるだろうシリウス?狼人間でない魔法族を『自分たちとは別の生き物』だと考えてる奴も多いんだ」

どこか寂しそうにそんな話をするルーピンを、ニンファドーラ・トンクスがじっと見つめている。

 

「………あ、貴方は人間だよリーマス!それもとびきり良い人間!!」

言葉が口から出てから「表現が不適切だったのではないか」と悩み始めたらしいトンクスに、リーマス・ルーピンは嬉しそうに微笑む。

 

「ありがとう、ニンファドーラ」

「……!!………ニンファドーラって呼ばないで……」

 

自分などにそれを言う時とはトンクスの口調が少し違う事に、マッド‐アイは敏感に気づいた。

「で、君の方はどうなんだいシリウス?そのなんというか『追われ具合』は?」

先程とは逆にルーピンがシリウスに訊く。

「魔法省の、私を逮捕せんとする活動の責任者であるキングズリー・シャックルボルト氏が仰るには、私が現在チベットに居るという確かな証拠を掴んだそうで、これは『劇的な進展』だそうだ」

冗談めかしてそう言ったシリウスに、トンクスとルーピンが笑わされる。

「今度キングズリーに会ったらお礼言わなきゃね、シリウス?」

「一番良い茶菓子を出すともさ。トンクス」

 

「シャックルボルト家の人間に、仕事ができん奴などおらん。ウィーズリー家の人間が1人残らず赤毛であるのと同じくだ。『1人残らず有能』それがシャックルボルトという家だ」

そう言ったのはシリウス・ブラックの曽曽祖父。「史上最も不人気なホグワーツ校長」ことフィニアス・ナイジェラス・ブラックの肖像画だった。

「まあ、言ってしまえばこの私の追跡に関しては、一切仕事をしていないわけだからな。どころか大いに妨害工作をしている。なのに職務怠慢を全く悟らせず、他の仕事も完璧以上にこなすというのはまあ、なかなかできる事じゃない。そこはひいひいお祖父様と意見の一致を見られるね」

普段毛嫌いすらしているフィニアス・ナイジェラスに珍しく同意したシリウスはそのまま、今は比較的機嫌が良いらしい曽曽祖父に訊く。

 

「ホグワーツの現状について、もしよろしければ我らにお教えいただけますか?」

恭しいのかよそよそしいのか判断に困る、わざとらしい慇懃な口調でそう言った曾曾孫に、しかしフィニアス・ナイジェラスは機嫌を損ねる事もなく情報を開示した。

「ドローレス・アンブリッジは『防衛術』の教師の座こそ取り戻したものの、ホグワーツの掌握には程遠いと言って良い。『日刊予言者』にも書いてあるとおり、『あの愚か者』は未だホグワーツに居座っている………あんな思い上がった小娘如きに、あの愚か者が追い出せるものか」

 

「そういえば、お前さんが校長をしていた時の生徒だったな。先生も、ダンブルドアも」

「ダンブルドア!あれは優秀だった!この上なく優秀だった!しかも品行方正だった!」

それに比べてあの愚か者と来たら、と何やらブツブツ憤り始めた曽曽祖父からシリウスは視線を逸らして話題を変える。

「で、例のあの人は今、何をしてる?何か、ちょっとでも情報は無いのか?」

「無い。が、推測する事はできる。自分が復活したのだから、次に何を取り戻したいか……」

マッド‐アイがそこまで言ったところで、トンクスは理解する。

「昔の部下、か。………アズカバンを?」

「吸魂鬼ってのはそもそもが闇の魔術の産物―だという見方が主流―だからね」

1度ホグワーツで闇の魔術に対する防衛術の教師を務めたからなのか、「アズカバンを作った闇の魔法使いエクリジスがそこで吸魂鬼も創り出した」という説が、あくまでも「有力な仮説の1つ」止まりで「確固たる証拠は無い」という事をこんな時でも無視できないらしいルーピンの生真面目さが、マッド‐アイには可笑しかった。

 

「なんだいマッド‐アイ」

「……いやスマン。お前は有能だなルーピン」

ルーピンが褒められると自分まで嬉しくなるのは何故なのか、トンクスにはまだわからなかった。

「……と言っても、予測できたからどうなるものでもないな」

「ファッジの奴め。あの男は魔法史に名を残すだろうよ!」

シリウスが言い、マッド‐アイが憤る中。トンクスは未だにルーピンをじっと見つめていた。

 

その頃ホグワーツの知る人ぞ知る「必要の部屋」では、劇的な瞬間が訪れていた。

 

「エクスペリアームス!」

 

ネビルがハリーの手から杖を飛ばしたのを、他ならぬネビル自身が誰よりも驚いて眺めている。

「やった、ネビル!やったじゃないか!」

ジャスティンが言い、パーバティとパドマのパチル姉妹を始めとした皆がネビルの周りに寄って来るのを、ハリーは杖を拾いながら喜びと共に見ていた。

 

そして実質的に第一回の「D.A.」の会合を終えた皆が必要の部屋から外の様子を伺いつつ出ていき、その場にハリーとチョウ・チャンだけが残った頃。必要の部屋から出てきたばかりのその女子生徒に、背後から声がかかった。

 

「やあマリエッタ。今ちょっといいかい?」

そう声をかけてきたレイブンクローの男子がD.A.のメンバ-ではない事に、マリエッタ・エッジコムはすぐに気づいた。そして、それが誰なのかという事にも。

 

「先生!」

「お静かに~」

 

ケラケラと笑ったその青年は、マリエッタの手を引いてスタスタと城内を進み、闇の魔術に対する防衛術の教室がある棟の1階の隅の、壁の前で立ち止まる。

「デパルソ」

青年のその呪文を合図に壁の一部が扉に変わるのを、マリエッタは呆気に取られて眺めていた。

「何、この部屋……」

「『ヘロディアナの間』。床も壁も見ての通り、ここは部屋まるごとパズルなんだ。デパルソとアクシオを使ってね………そして、君が今証明したとおりこの部屋はほとんど誰にも知られてないから、内緒話するのにも最適なんだよねー……アクシオ!」

部屋を構成する幾つもの大きな立方体を次々動かして部屋の奥へと進みながら、その青年は訊く。

 

「アンブリッジ先生にD.A.の事を伝えようか、迷ってるね?」

 

親友であるチョウ・チャンを含めた誰にも言っていない事をなぜこの先生が把握しているのか、マリエッタには全くわからなかった。

「煙突飛行ネットワーク管理局で働いてらっしゃるミセス・エッジコムの立場が、自分がアンブリッジ先生に敵対する側の秘密組織に属していることで、危うくなるのではないか。と、そう心配しているね?そんな君に、ほらプレゼント。お母様からだよ」

マリエッタの秘密の悩みを見透かしているらしいその青年は、極めて乱雑にそれに対処した。

その赤い便箋が何なのか、マリエッタは一瞬理解できなかった。

 

「マリエッタ」

 

吠えメールからこんなに優しい声が響くのを、その青年は初めて聞いた。

「ねえマリエッタ。私の事を心配してくれるのは嬉しいけれど、ねえ。いい?よく聴いて」

そしてマリエッタの母親の声は、吠えメールによくある「お説教」の声色に変わる。

 

「お友達を裏切るような子に、育てた覚えはありません!」

 

大切な友人と大切な母親の間で、時間をかけて結論を出そうと思い悩んでいたマリエッタにとって、それは暴力と言っていいものだった。なにより母親の言葉が今までと真逆になっていた事は衝撃だった。アンブリッジのご機嫌を損ねるなと、父共々口を酸っぱくして言ってきていたのに。

しかし、青年はそのことも、自分の今回の行いがマリエッタを酷く傷つけている事も理解した上で、いつも通り気楽に笑う。

「約束しよう。きみのお母様の事は、僕が守るよ。………ああ、説得力無いよね」

マリエッタの目を見てその警戒心を読み取った青年は、ひとつ自分の秘密を打ち明ける。

「僕は、一応まだ魔法省の職員だ。闇祓い局本部には80年くらい出勤してないけどね。でだ。僕が闇祓いをクビにならないのにはちゃんと理由がある……僕がアンブリッジ先生の事を、なんとも思っていないのにも理由がある。僕の職業は3つ。1つはホグズミードのお店。もう1つは闇祓い……これは今言った通りもうほぼ『籍がまだあるだけ』だけど……で、もう1つはね―」

一応これが証拠なんだけど、と言ってその見たこと無い紋章の指輪を見せてくれた先生の言葉が、マリエッタは信じられなかった。

 

「先生それ、本当?そんな職業、本当にあるの?」

「そりゃあるよ!いや僕も実際なるまで全然聞いたこと無かったけどさ!」

 

先生の言葉が嘘ではないとわかっているからこそ、マリエッタはそれが信じられない。言われてみれば当然存在する肩書き。なのに、そんな座に就いている人物の話など一切聞いたことが無かった。私の母親は魔法省で働いているのに。

「この肩書きと僕を結びつけられるのは、今知ったきみと、昨日知ったきみのお母様を別にすると、アルバスと、ミネルバくんと……後は僕の学生時代か、僕が魔法省にちゃんと出勤してた頃のどっちかを知ってる人たちだけだね。ないしょだよ?」

「闇祓いの奴らは、全員『噂で』知ってるらしいぜぇ?」

壁をすり抜けて現れたピーブズが空中でぐるぐる回りながら言う。

 

「あ、やっぱりそうなのかい?」

「そりゃー自分の同僚なんだから見たことある顔ばっかりのはずの『闇祓い登録簿』に全然知らねー奴が混ざってたら『誰だコイツ』ってなるだろ?で、そういう疑問を解消するには、上司か古株に訊くわけだ。で訊かれた方は言う。『ああ、噂じゃなんでもあのダンブルドアの―』ってな」

面白がって有る事無い事吹き込む「後輩たち」の姿を思い浮かべて、青年は笑う。

「ねえマリエッタ。もう一度言うよ。君のお母様は、心配いらない。まあ配属部署が変わる可能性はあるけど、魔法省から追い出されるとかやってもいない罪で裁かれるとかそういう事にはならない。僕がそうはさせないから。だからねえ、マリエッタ。厳しい事を言うようだけど、もし君が、それでもアンブリッジ先生の味方をするというなら、僕は君の事も排除しなきゃいけなくなる」

そんなのは嫌だからねと言った青年が、まるで命乞いをするかのような表情で自分を見ているのが何故なのかはマリエッタにはわからなかった。

 

「まあ、君が言わなくても、誰も情報を漏らさなくても。そもそも既にバレてるんだけどね」

 

青年のその言葉に、マリエッタは耳を疑った。

「ホッグズ・ヘッドには他の客も居ただろう?あの中にアンブリッジとの取引に応じた犯罪者が、つまり『今回は大目に見てやるからその代わりこっちの言う通り働け』って言われた奴が居て、君たちの話し合いを聞いてたのさ。まあもう絞りカスにしてやったから心配いらないけど」

さらりと恐ろしい事を言った青年は、マリエッタを問いただす。

 

「ミス・エッジコム。質問だ。君は実際のところ、ハリーと魔法省のどっちを信じている?」

「………魔法省です。D.A.なんて、くだらないお遊びだと思う」

それを聞いても、青年は笑う。

 

「その意見は矛盾しているよミス・エッジコム。それじゃ点はあげられない。魔法省の公式見解を信じていると言うのなら、ハリーのD.A.は決してお遊びなどではなく、ファッジ大臣の立場を危うくするべく行われている危険な武装組織だと判断すべきだろう?なのにそれを君、『お遊び』?君は、魔法省の公式見解こそが事実を正しく語っていると、本当に思っているのかい?そちらの側に居なければ家族の立場が危うくなるから同意を表明しているだけなんじゃないかい?」

 

「そうすることの、何がいけないんですか。親が魔法省で働いてるんです。アンブリッジ先生やファッジを怒らせたら私達家族は路頭に迷うんです」

「責めないさ。家族想いなのは素晴らしい事だ。けど、わかってるんだろう?」

どちらに賛同するかと訊かれれば魔法省と答えるマリエッタも、魔法大臣の「ダンブルドアが自分の立場を脅かすために例のあの人復活をでっち上げてホグワーツで私兵を組織している」という主張までは、手放しで迎合できなかった。

「セドリックが、1人で勝手に死んだって?『不幸な事故』?……よくもまあ」

憤る青年に、マリエッタは言う。

 

「わかってます。事実を正しく捉えているのはポッターの方だろうって。けど、信じたくないんです。例のあの人が復活したなんて言葉に耳を貸したくないんです、だって怖いから!」

「ヴォルデモート卿は別に、復活したって信じて貰わなきゃ復活できないわけじゃないよ。信じようが信じまいが、彼は元気にやってる。今朝覗いてきた」

マリエッタは殆ど叫ぶようにしてその言葉に反論する。

 

「だからって、それと正面から向き合える人間ばっかりじゃないんです。私は先生みたいに強くない……ダンブルドアがそんなくだらない真似しない事くらいわかってる。例のあの人が本当に復活したんだって事もわかってる。わかってるけど………だからって『武装解除呪文』とかをちょっと練習したくらいで、それで、それで何ができるの?だって、相手は『例のあの人』なのよ?それで私は、まだ15歳なのよ?私は『ハリー・ポッター』にはなれない!」

 

「君の意見には一理あるし、そう思ってるのは君だけじゃない、どころかハリーたちみたいに立ち向かおうって思える人の方が圧倒的少数派なんだろうけど、それでも、いいかい?」

その青年は、もう一度マリエッタ・エッジコムの目を見つめる。

「来るものは来るんだ。それに立ち向かうには、もしくは身を守るには、『来る』って事から目を背けちゃいけない。目を背ける人が多ければ多いほど、ヴォルデモート卿にとって都合が良い。言ってしまえば魔法大臣閣下の今の行いは、ヴォルデモート卿が人々を殺すのを助けるものだ。つまり魔法大臣閣下の意見に同調する者は、すなわちヴォルデモート卿を応援しているに等しい」

 

「そんな、そんな言い方しなくても良いじゃないですか!私はただ―」

マリエッタは既に泣いているが、青年は一切慰めない。

 

「君がどう思おうが、ヴォルデモート卿に利する結果になってるのは同じだよ。ただ、君はあの可哀想なコーネリウスくんとは違って、ちゃんと思い悩めるだけの勇気がある。チョウ・チャンは君の事を信じているよ、マリエッタ・エッジコム。……ピーブズ、マリエッタを出口に案内して」

 

本来部屋に広がるパズルを解かなければ先へ進めないヘロディアナの間で、ピーブズはマリエッタを抱えあげるとすべてのパズルを無視して飛んでいく。そしていくつかの扉を通った先は、入ってきたのと同じ「防衛術」の教室がある棟の1階の端、その何も無いように見える壁の前だった。

 

「随分脅かされたな?」

ポルターガイストのピーブズはマリエッタを床に降ろして、愉快そうに言う。

「……正しいのは先生の方。そしてポッター達の方。わかってる。けど、私は……わかってなかった。気づいてなかった。アンブリッジ先生に話すって事は、チョウを裏切るって事だって」

まだ苦悩しているマリエッタは、しばらく唸った後で気づく。

「アンブリッジ先生が既にご存知だって事、皆に教えてあげなきゃ!先生の言う通り『来るものは来る』のよ!だったらせめて、迫ってるって事は知ってなきゃだめよ!」

 

大急ぎでレイブンクローの談話室に戻ってきたマリエッタを迎えたのは、親友のチョウ・チャンだった。チョウはマリエッタの顔を見るなり、心配そうな表情になる。

「……マリエッタ、何があったの?大丈夫?」

その優しい気遣いが、今のマリエッタにはまるで痛みのように感じられた。

しかし伝えなければいけない情報があると、マリエッタは勇気を振り絞る。

 

「ねえ、アンブリッジ先生はD.A.の事を知ってるわ。あの時ホッグズ・ヘッドに居た前科者の1人が魔法省と取引してたらしいの」

小声で言ったマリエッタを、チョウは信じた。

「じゃあ、みんなに忠告しなきゃ………ねえルーナ、今良いかしら!」

 

そしてほどなく、その情報は何人かのD.A.メンバーを経由してハリー達の耳にも入る。

「つまり、バレてるけど証拠は掴まれてない、ってことか?」

1人残らずハリーに味方しているがゆえにD.A.の事を隠す必要が無いグリフィンドールの談話室では、堂々と会合が行われていた。

「まあ、『前科者とこっそり司法取引して情報を取りに行かせました』なんて言えないよな」

ロンが言い、その言葉にフレッドとジョージが続く。

「じゃあ、証拠を掴みに来るよな」「規則を作ろう!高等尋問官様の許可していないクラブ活動は禁止だ!」「ありそうだけど、知ったこっちゃないな?」「『規則違反』で捕まえられるぜ?」

ハリーはそれを聞きながら、1つだけ決めた事があった。

 

「D.A.は続ける。だって今の僕らにはどう考えたって『実践訓練』が必要だ。けど、アンブリッジの事も、今以上に警戒しなきゃ………『追加で何かが必要になったら、それをハッキリと具体的に思い浮かべる事』って、ディークが言ってたよね。僕らに必要なのが単なる空き教室じゃなくて、『アンブリッジから隠れられる秘密の安全な練習場所』だって、部屋はわかってくれてるのかな」

「とりあえず廊下とか見張られてるんだろうな」とこの時のハリーは、まだぼんやり考えていた。

 

一方、スリザリンの談話室に戻ってきたアストリア・グリーングラスは、新しくできた友人たちとの秘密を守ろうと頑張っていた。

「で、本当はどこに行ってたのアストリア?」

「………言えない」

うまい言い訳も嘘も思いつかずパンジー・パーキンソンから視線を反らしたアストリアは、姉と目が合ってしまい狼狽える。姉というものは妹である自分の秘密は何でもお見通しなのだと、アストリアはまだ無邪気に信じていた。

そしてダフネ・グリーングラスは1人だけ、パーキンソンともマルフォイとも違う訊き方をした。

 

「ねえアストリア。お姉ちゃんに2つだけ教えてくれる?」

 

アストリアは誤魔化しきれないと理解して、泣きそうな表情になる。

しかし、姉の質問はアストリアの予想とは全く違った。

 

「楽しかった?」

「へ?……うん。すっごく楽しいの」

「新しいお友達が出来たのね?」

「そうよ。他の寮の子とあんなにお話できたの初めて」

「……それならいいのよ。良かったわねぇ……ねえマルフォイ、それにザビニもノットもパンジーも。この子に新しい友達ができたのよ?それも他の寮の子。それって素晴らしい事でしょ?」

 

それは「妹の好きなようにやらせてあげて」という、普段あまり主張をしないダフネ・グリーングラスが珍しく発した、強いメッセージだった。

「………仰るとおり。正しいのはお前だグリーングラス。……これ以上は何も訊かん」

ザビニが真っ先にそう言った事で、スリザリン寮の面々は意見の一致を見る。

 

「で、まあそれは良いとしてだ。噂が真実ならポッター達が何やら企んでるらしいが……」

マルフォイがそう切り出した事で、アストリアはドキリとした。

「流れてきている噂が真実だとするならば………こんな事を言うのは癪だが、良いアイデアだ。どう考えたってアンブリッジの授業は僕らが受けるには不適切だ。アンブリッジに同調すればそりゃあ、ポッターやグリフィンドールの憎たらしい奴らに、スカッとする目に遭わせてやれるだろう。けど僕は、やっと結論を出せた。つまり『だからってアンブリッジの味方をするなんて嫌だ』」

何が言いたいんだ、とザビニが既に察せている事をわざわざニヤニヤしながら訊く。

「実践訓練が明らかに足りていないのは、僕らも同じだろう」

「じゃあどうする?ポッターに『僕も仲間に入れてくれ』って今から頭下げるか?」

ノットも面白そうにニヤニヤしている。それはマルフォイの苦悩と利発さ、そして合理的判断を感情が邪魔している繊細な内心まですべて理解しているからこそだった。

 

「ポッターに教えを請うくらいなら落第してやる!」

 

とんでもない事を断固とした口調で言い切ったマルフォイを、スリザリンの皆が面白い見世物を見る時の目で楽しそうに囲んでいた。

「難儀な奴だなお前も。で、どうしたいんだ?」

楽しそうに笑いながら、ノットが訊く。

「僕たちも、自主学習をするべきだ。『呪文』の『実践』をな。O.W.L.が控えてるんだ。アンブリッジの奴がどう思おうが知った事か………」

そして、スリザリンの面々もまた、少し前にハリー達が直面したのと同じ事で悩み始める。

 

「問題は場所だな……あのアンブリッジの事だ。遠からず確実に『集会禁止』って規則でも追加することだろうさ。どうもポッター達の集まりについて何か掴んでるらしいからな。『魔法大臣閣下の高尚なお考え』に則るなら、断固阻止したいだろう。つまり僕らも、バレちゃいけないわけだ」

ノットのその意見には皆同意したが、「ではどこがいいか」と言われると困るのだった。

 

しかし、談話室の隅、湖の水中が見える窓際に居た1人の生徒が声を上げる。

「僕、良い場所を知ってるよ。全員で行くと目立つから……ドラコ着いてきて」

そう言ったソイツがスリザリンの生徒ではない事に、皆は漸く気づいた。

 

「さあ、『地下聖堂』に案内しようか」

 

ドラコは柄にもなく、ワクワクしていた。

 

 





フェンリール・グレイバックのいつもの主張とは
「狼人間には他の人間を噛む権利があり、人狼症を広めることは使命である」
というものです。(公式設定)

「秘密の部屋だってんならもうちょっと静かに開いてくれよ」
って入るたびに思ってました地下聖堂。

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