トム・リドル育成計画!   作:寺町朱穂

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〇1944年1月 不死鳥の騎士団

●1944年 1月〇日

 

 トムとラシェルが寮へ戻ったので、久しぶりにダンブルドアと話した。

 両面鏡をのぞくと、ゴブレットを手にしたダンブルドアの姿が映し出されていた。

 

『まずはトムの17歳の誕生日、おめでとう』

「ありがとうございます……でも、まだ実感は湧きませんわ」

 

 私は思わず苦笑いをしてしまった。

 成人の年齢を迎えたからといって、その日から劇的に何か変わるわけではない。ただ、息を吸うように魔法を自在に使うものだから、ちょっとだけハラハラした。「ご近所の方が窓からのぞいていたらどうするの?」って。そしたら、トムは「家の敷地内に入った時点で気づく魔法をかけてるから大丈夫」と平然と言い放ったのである。まったく、いつのまに魔法をかけたのだか……。

 

「学校でのトムは変わりありません?」

『なにもかも良好だ』

 

 ダンブルドアは片目を閉じてウィンクをしてくれた。

 

「それは良かったです」

 

 私はほっと胸をなでおろした。

 最近、トムは部屋で誰かと熱心に話し込んでいるようだったから、ちょっと心配していたのだ。なにか企んでいるのではないか、と。でも、ダンブルドアが言うのだから杞憂だったに違いない。

 

『友達関係でも学業でも怪しいところは何一つ見当たらない。ただ、進路については悩んでいるようだ。音楽を極めるか、魔法生物の研究者になるのか、魔法薬の道に進むのかをね』

「魔法薬ですか?」

 

 魔法薬はいまいちピンと来なかった。

 かつて手紙でレイブンクロー生のベルヴィと魔法薬の研究をしているという旨を読んだ気がする。先日の誕生会でもスラグホーンと魔法薬の論文について話を交わしていた。

 

「トムがそこまで魔法薬の研究に熱心になるとは思わなくて」

『……義理の弟を治したいのだろう』

 

 ダンブルドアはしばし黙ったあと、柔らかい口調で言った。

 

『狼人間を治そうとする取り組みは、何百年も前から行われてきた。主に、狼人間の家族がね。しかし、いずれも成功しなかった。魔法族は往々にして狼人間を隠そうとする。狼人間になった者を隠しながら研究を行うのは、至難の業だ』

「……トムなら成功させそうですね」

『成功するとも』

 

 ダンブルドアは断言した。

 

『私の見立てでは、あと1年もすれば完成する。完全に治療するのではなく、狼として暴れまわる本能を抑制する薬になるのだろう。もっとも、トムがそれで満足するとは思わないがね』

「……同感です」

 

 私が頷くと、ダンブルドアはますます笑みを深めた。

 

『君の息子は50年を飛び越える。本来であれば1993年の少し前に完成されるであろう薬を世に生み出そうとしているのだ。魔法薬学界が囲おうとするのは火を見るより明らかだ』

「でも、私は……トムにはトムの好きな道に進んで欲しいです」

 

 せいぜい注文を付けるのであれば、就職先が原作通りのボージン・アンド・バークスでないことを祈るくらい。ノクターン横丁の店に就職するなんて、考えただけでも卒倒してしまう。私自身が足を踏み入れたことはないけれど、魔法界の闇で溢れる通りに身を沈めるようなことは絶対に起きて欲しくない。

 それから、トムの進路を語る上で外せないのは「蛇の王」だ。

 ダンブルドアは「蛇の王」へと通じる道を整備しているように思える。魔法界の頂点として君臨することを視野に入れるのだとすれば、ダンブルドアは間違いなく魔法省を薦めると思えてならない。だから、私はちょっと鎌をかけるつもりでこう言った。

 

「トムが魔法省に就職するつもりはなさそうですね」

『スラグホーン先生は熱心に勧誘しているがね。魔法省執行部に良いコネがある――君は未来の魔法省大臣になれる、と』

「その光景が目に浮かぶようです。先生は魔法省に進んで欲しいと考えておられるのですか?」

『まさか。私がトム自身も選びたくないであろう道を応援することはしないよ』

「……ですよね」

 

 やはり、考え過ぎだったかもしれない。

 私がくすっと微笑むと、ダンブルドアは小さく頷いた。彼はゴブレットを傍のテーブルに置き、静かに指を組む。そして、ゆっくりと口を開いた。

 

『アイリス、君の体調はどうだい?』

「すごぶる良好ですわ――……あ、でも、最近……ちょっと寝つきが悪いですね」

 

 誤魔化そうとしたけど、ダンブルドアの青い目を見ていると本音が零れてしまう。正確に表現するなら、黙ってようとか誤魔化そうとかする心が、ほぼ即決で白旗を挙げた。勝ち目はない、と。

 

「悪夢を見るんです。でも、目が覚めたときは何も覚えていない。それの繰り返しなんです」

 

 あまりにも続くものだから、夢日記よろしく、目が覚めてすぐに覚えていることを書き起こしておこう――としたのだけど、目を開けた瞬間に忘れてしまう。残滓のように「怖かった」や「寂しい」といった感情が残っているだけで、こんなことが何日も続くものだから、嫌気がさし始めていた。

 ダンブルドアはそこまで聞くと、ふむっと考え込むように口を閉ざした。だいたい2、3分ほど黙ったあと、ダンブルドアはぽつりと呟いた。

 

『……時間か』

「え?」

『覚えていない悪夢が続くのは、魔法界でも珍しい。君が口にするということは、マグルでもありえないことなのだろう?』

 

 ダンブルドアは静かに言葉を続けた。私が頷いたのを見ると、納得したように微笑む。

 

『……さて、そろそろ前回の続きから話してもらうとしよう。ハリーが魔法省を訪れるところからだったと思うが」

「え、ええ」

 

 ダンブルドアに勧められるがまま、私は原作についての話を語ることにする。

 確か、ダンブルドアに話したのは、第五巻「不死鳥の騎士団」の冒頭部分までだ。ハリーが吸魂鬼に襲われ、守護霊の呪文を使って窮地を脱するが、それは何者かによって仕掛けられた罠であり、危うく退学の危機に陥ることになる。いろいろあって、ハリーは不死鳥の騎士団本部に匿われ、出廷する日の朝を迎えた――ところまで、話し終えていた。

 ダンブルドアはシリウスの実家であるブラック家のタウンハウスが悲惨な有様になってしまったことに、胸を痛めているようだった。ハリーたちが掃除しているシーンは辛そうに眉を寄せながら聞いていた。

 

『シリウスの気持ちは理解できるが、もったいない。歴史的価値がある品も多いだろうに』

 

 銀の食器や眠気を誘うオルゴール、誰も開けられなかったロケットが捨てられていく様子を聞いたときは、そのような感想を零していた。

 

 さて、今日はマグルの交通機関を使って魔法省へ。

 魔法省についてみると、尋問の時間が変更され、場所も大法廷になっていた。この変更にダンブルドアが驚くかな、とちらっと顔色を窺ってみるが、彼の顔色はまったく変わっていなかった。

 

「驚かないのですね」

『ファッジ大臣の人間性を考えると、考えられる手だろう。だが、彼一人の決断ではない。誰か唆した人間がいるはずだ』

 

 ダンブルドアはそう言うと、少し考えてから口を開いた。

 

『ファッジ以外、魔法省の人間は誰がいるんだい?』

「えっと……描写されてた限りでは、大臣の下級補佐官になったパーシーと……ピンクの服を着た上級補佐官の魔女、執行部部長のアメリア・ボーンズですね」

『では、黒幕は上級補佐官の魔女だ』

「根拠は?」

 

 ダンブルドアがあまりにも即答したものだから、つい聞き返してしまった。

 

『パーシー・ウィーズリーは大臣に賛同し、大臣の意向に沿った意見を言うだろうが、大法廷を使うなんて真似を思いつくには十年足りない。ボーンズ家の魔女ならハッフルパフ出身だろう。アーサー・ウィーズリーが“人柄も良く公正な魔女”と評するのであれば、大臣を唆すような真似はしない』

「……」

 

 私は無言になってしまった。

 まだ、法廷で起きたことを語っていない。そこを話せば、アメリア・ボーンズの公正さが判明するのだが、それを話す前に見破られてしまったのだ。

 

「……つまりは、消去法で上級補佐官だと?」

『君が言い淀んだことも理由の一つだよ。パーシーの名前を口にしたあと、少し間を置いただろう?』

「思い出している途中でしたの、私にとっては何十年も前に読んだ物語ですから」

 

 思わず誤魔化してしまった。

 アンブリッジの名前を伝えても良かったのだが、この時点でハリーは知らないので迷ってしまったのである。

 

『…………では、次の展開を教えてもらおうか』

 

 ダンブルドアはたっぷり間を取ったあと、次を急かしてきた。

 彼が間を取ると、なにか企んでいるみたいで怖い。だけど、怖がっていても仕方ないので、従順に続きの展開を話すことにした。

 

「ハリーが大法廷の被告人席に座り、心細く思っていますと、ダンブルドアが弁護人として現れました。なんでも、ダンブルドアは法廷と時間が変わった手紙を受け取る二時間前には魔法省に着いていたそうです――となるのですが、そういうことってあるのでしょうか?」

『あるだろうな。私ならそうする』

 

 ダンブルドアは面白そうに教えてくれた。

 

『ファッジが打つ手くらい簡単に想像できる。恐らく、次に打つ手は……いや、止めておこう。アイリス、続きを』

「……では、お話ししますね」

 

 なんだろう……。

 ほとんど服の色とファッジの側近という立場しか明かしていないのに、アンブリッジの性格の悪さと他多数がバレている気がする。

 ダンブルドアは終始真剣に耳を傾けていたが、最後の最後――大法廷のほとんど多数の魔法使いがハリーの無罪に賛成した場面を伝えたとき、心から嬉しそうに破顔していた。

 

『……まだ、そこまで腐っていないということか。それは安心した』

「貴方を信じたのでは?」

 

 ダンブルドアは微笑んだまま答えなかった。

 

 それから、ホグワーツに着くまでの話をした。

 映画ではシリウスが不死鳥の騎士団結成時の写真を見せる。似た場面は原作でもあり、こちらはムーディが写真を見せるのだが、ハリーの反応は映画と原作で異なっている。映画より原作の方がショックを受けているのだ。なにせ、写真で微笑んでいる人の大半は――ハリーの両親を含め、ヴォルデモートに殺されているのだから。

 

「……この世界では、彼らが殺されることがないことを祈るばかりです」

『私も同じように思うよ。不死鳥の騎士団が存在しない世界であると願いたい』

 

 不死鳥の騎士団とは、ヴォルデモートに対抗するために作り出した組織だ。

 当然、ヴォルデモートがいなければ存在しない。結成する意義がない。

 

「ネーミングはかっこいいと思いますけどね」

 

 第五巻の題名を初めて聞いたとき、名前のカッコよさに心惹かれたものだ。

 

「そういえば、アルバス。貴方は不死鳥を飼っているのですか?」

『いや。まだ飼ってない』

「……そうですか」

 

 ここで、おやっと思った。

 トムの杖の芯に使われているのは不死鳥の尾羽。それも、ダンブルドアのフォークスの尾羽だったと記憶している。でも、ダンブルドアはまだ不死鳥を飼育していない。

 

 これは、原作と矛盾している。

 では、何故……?

 結局、このことについては謎のままだ。

 両面鏡を机にしまってからしばらく考えたけど、理由が思いつかない。思いきって、ダンブルドアに聞いてみればよかったと今更ながら後悔をする。

 

 まあ、いい。

 次に話すときに聞けばいいや。

 

 

 

●1944年 1月△日

 

 トムから手紙が届いた。

 なんでも、新しい魔法生物を飼ったので、名前を考えるのを手伝って欲しいとのこと。

 その魔法生物とは、不死鳥!

 ご丁寧に写真まで同封してくれていた。白鳥大の大きめな鳥で尾が孔雀みたいに長く、セピア色の写真越しにも美しいことが伝わってきた。雄大な羽を広げ、狭い写真のなかを飛び回っている。

 

 美しい。

 美しいのだけど……いやいやいや!? どういう経緯で捕まえたの!?

 

 トム、そこのところは省かないで!!

 

 

 

 

 

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