トム・リドル育成計画!   作:寺町朱穂

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〇1931年12月 クリスマスの足音

●1931年 12月1日

 

 もうすぐ、クリスマス。

 アドベントカレンダーの埃を払い、玄関口に設置することにした。

 トムは、アドベントカレンダーを知らなかったみたい。

 

「これはなに?」

 

 学校から帰ってくると、トムは怪訝そうな目でアドベントカレンダーを見ていた。

 

「今日からクリスマスまで、1つずつ窓をあけていくの」

 

 アドベントカレンダーの説明をすると、怪訝そうな目は一変し、興味深そうに黒い瞳を輝かせる。

 

「なにがはいってるの?」

「それは、毎日のお楽しみ」

 

 ちなみに、今年は小粒程のチョコレートを用意した。

 私の子どものときは、ちょっとした玩具や聖書の一節が書かれたカードとかだったし、いまでもそれが主流だけど、前世での主流は断然お菓子やお茶みたいな食べ物系。前世の私流クリスマスの過ごし方といえば、有名なチョコ店のアドベントカレンダーを買って帰り、仕事から帰ってから開けるのが楽しみだった。

 

 トムだって、小さな人形よりチョコレートがいいだろう。

 彼は大人びているところもあるが、けっこう甘いもの好き。毎日、魔法やヴァイオリンの練習に明け暮れているけど、おやつの時間には必ずリビングに顔を出す。

 

 いまだって、アドベントカレンダーを開けて、鈴みたいなチョコが転がり出てきたときは、嬉しそうに白い頬をほんのり赤らめていた。

 

「ふーん、チョコレートか」

 

 トムは興味なさそうなふりをしていたが、わずかに弾んだ声色まで隠しきれていない。たとえるなら、ぷいっと顔を背けながらも、尻尾の揺れは隠せない子犬のようだ。

 

 あー、かわいい……と思っていたら、私の顔が緩んでいたせいで、トムにバレてしまったらしい。トムは自分の失態に気づいたのか、すぐに表情を引き締め、ぽいっとチョコを口に放り込んでしまった。

 

「あじはまあまあだね。あしたもきたいしてる」

 

 トムはそう言い残すと、自分の部屋にあがった。

 

 

 トム、本当にかわいいい……。

 クリスマス当日、どんな反応をしてくれるのか楽しみである。

 

 

 

 クリスマスも楽しみだけど、トムの誕生日が迫っている。

 

 クリスマスのプレゼントは頑張って考えたけど、誕生日プレゼントはなかなか難しい……。クリスマスと誕生日を一緒にやってしまうのもありかもしれないが、それだと味気ないし寂しいことこの上ない。

 それに、問題はサンタクロースのプレゼントだ! こちらもまったく思いつかないのだ。

 

 実のところ、今日は夕食のとき、トムに尋ねた。単刀直入に欲しいものを聞き出そうとしたのだが、これがなかなかうまくいかない。

 

「もうじき、クリスマスだけど……」

 

 サンタさんに欲しいものある? と続ける前に、トムに遮られてしまった。

 

「サンタなんていないんだから、むりしなくていいよ」

 

 トムは夕食を頬張りながら、ちょっと淡々とした口調で言った。

 

「孤児院の院長先生がサンタだったからね。それに、本当にほしいものなんてもってきてくれなかったし」

 

 トム曰く、サンタが用意してくれるのは、お菓子の詰め合わせだったらしい。

 こんな夢のない4歳児がいるのだろうか……いや、あと数日で5歳児か。

 

「ヴァイオリン、かってもらったからそれでいい」

 

 たしかに、ヴァイオリンは痛い出費だった。

 子ども用のものとはいえ、ちゃんとしたものを購入したし、手入れ道具一式とかまで買ったら、かなりの値段になってしまった。私は覚悟していたけど、トムはそこまで高いとは思わなかったらしい。トムは値段を聞いて顔を強張らせ、

 

「ごめんなさい」

 

 と、口にした。

 

「すごく高い……」

「その分、頑張って練習すればいいよ」

 

 私はそう言いながら、笑って流した。

 

 ちなみに、トムはヴァイオリンの練習にかなりの熱を入れて取り組んでいる。

 練習曲として手始めに「きらきら星」を弾いているが、なかなかうまくいかず、クインシーに「下手だなー」と笑われたことがよっぽど悔しかったのだろう。魔法の自主トレの回数を減らすほどののめり込みようだ。

 最近の口癖は「孤児院にいたやつもできたし、アイリスだってひけるんだから、僕にできないはずがない!」というもの。

 

 なんというか、私が馬鹿にされているような気もするけど……熱心に1つのことに取り組めることは素晴らしいことなので、応援に徹することにする。

 

 

 

 とにかく! 

 

 問題はプレゼントだ!

 自分の子ども時代を思い出して、サンタのプレゼントを考えてみたのだけど、どう考えてもトムに合わない。

 ママ友たちにも尋ねてみたけど、こっちも役に立ったとは言い難い。「うちの子には~」と勧められたのは、ぬいぐるみとか絵本とかおもちゃとかで、トムが喜ぶとは到底思えないものばかり。

 そもそも、トムが世間一般的な5歳児未満から外れすぎていて、普通なら理解したり納得したりできるアドバイスが雑誌の星座占い最下位アドバイス並みに頼りにならない……。

 

 

 いや、雑誌の星座占いほどあてにならないものもないか。

 

 いっそのこと、新しい服を買ってあげるのはどうだろう? ちょっと高めの余所行きの服を用意するとか……だけど、彼が服を喜ぶとは思えない。うーん、悩む。

 

 

 こうして日記に書きだしてみたら、なにか良い案が見つかると思ったが、そうそう上手くいくものでもないものだ。

 

 

 あーでも、思い出したら腹が立ってきた!

 

 私の年齢が若いって言うのもあるんだろうけど、ママ友たちがアドバイスをくれるとき、必ず「若いから常識が足りない」「クリスマスのプレゼントも分からないの?」って枕詞をつけてくる。影で「水商売をしてる」「トムは不義の子」って言う人も相変わらず多い。

 

 

 トムは孤児院から引き取った養子だって何度も説明したんだけどな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

●1931年 12月×日

 

 

 今日は、土曜日。

 トムと一緒にバラマーケットへ出かけた。

 

 思い起こせば、ゆっくりとした外出は久しぶり。

 学校や習い事の送り迎えはしているけど、ここのところ挿絵の仕事やクリスマスカードのイラストの仕事が立て込んでいたので、なかなかトムと一緒に長く過ごす時間を確保することが難しかったのである。

 

 

「ヴァイオリンの練習、とちゅうなんだけどな」

 

 トムは、やや不満そうに口を尖らせた。

 

「でも、やくそくだからついていってやるよ」

 

 文句を言いながらも、トムの右手はいつものように私の左手を握っていた。

 そういえば、トムを引き取ったあの日から、こうして道を歩くときは手をつないでくれる。学校の周りでは、恥ずかしいのか嫌がった素振りを見せるけど……なんだか、嬉しい。

 

 いつか、もっと大きくなったら……きっぱり断られるんだろうな。

 まあ、大きくなっても手をつないで歩いてほしいとか言われたら、それはそれで気持ち悪いので、そのときは、時期が来たと納得し、親離れできるように覚悟しておこう。

 

 

「ねぇ、アイリス」

 

 ロンドン橋を渡っていると、トムが話しかけてきた。

 

「ナーサリーライムに、はしがおちる歌があるけど、ほんとうにこわれたことがあるの?」

「えっと、ヘンリー二世の頃だから……何百年も昔ね。でも、いまのロンドン橋は新しいから簡単には壊れないわ」

 

 新しいといっても、100年くらいは経っている気がする。

 というか、この時代に産まれるまで、タワーブリッジの方をロンドン橋だと誤解していたので、なんだか本物のロンドン橋を通るとき恥ずかしい。そんな誤解をしてたロンドンっ子は、私以外いないだろう。

 

「じゃあ、マイ・フェア・レディのレディが、はしの下にうめられているってはなしは?」

「どこでそんな話を聞いたの?」

「孤児院にいたとき」

 

 トムは最初からこっちの真相を聞きたかったのかもしれない。

 

「ホラーな話もあるけど、たぶん違うと思う」

「しんじつは?」

「わからない。当時の王妃様って話が有名だけど……人柱が埋められたってナンセンス。三国志の時代じゃあるまいしね」

「さんごくし……?」

「中国の昔話」

「ここはイングランドだよ。チャイニーズじゃない」

 

 トムがちょっと怒ったように言い終える頃、ロンドン橋を渡り終えた。がたんごとん、と列車が陸橋の上を通る音が聞こえてくる。

 

「すごい!」

 

 トムの口から感嘆の息がこぼれた。

 私は毎年、クリスマスシーズンのバラマーケットには足を運んでいるから、今年も綺麗に装飾されているなー程度にしか思わなかったけど、トムは違うみたい。ヒイラギや鈴、リボンなどクリスマスの装飾が施されたアーケードを目を輝かせて眺めている。

 

「クリスマスマーケットははじめて?」

「こんなきれいなとこ、つれてきてもらったことないよ」

 

 トムはリースに飾られた大きな鈴が揺れる様を見ながら、どこか興奮した口調で話してくれた。

 

「クリスマスに教会につれていってもらったことはあったけどね。きほん、かんづめなんだ。外はあぶないからって、ステキなりゆうでね」

「まあ、たしかにこの時期は危ないからね……」

 

 私は苦笑いで返すしかなかった。

 

「人も多いし、スリも多いから……手、絶対に放さないでね」

 

 景気が悪いけど、バラマーケットは賑わっていた。

 さすがは、ロンドン最古にして最大の食料品マーケット! 毎回思うけど、品ぞろえが桁違い! イギリスどころかヨーロッパ各地から食料品が集まっているので、よりどりみどり!

 

 

 これで、日本のもちっとしたお米と醤油、味噌があれば完璧なんだけどなー!

 白米とみそ汁が食べたい……。っく、いつか第二次世界大戦が終わったら、絶対に日本へ行ってやる! それまで、生き延びてやるぞー!! 

 

 

 

 それにしても、イギリスは意外と魚が豊富だ。

 サーモンは絶対に売っているし、ウニや牡蛎も売ってる。……正直、牡蛎は怖くて買えないのだが、サーモンはあってよかった。ウナギだって売っていた。……ウナギのゼリー寄せは食べられたものじゃないから絶対に買わないけど。ウナギ単体を買おうかなって考えたこともあったけど、かば焼きのタレなんて売ってないし作り方を知らないので、泣く泣く我慢している。そもそも、ウナギは骨が多くてさばけない。

 

 

 うう……醤油やタレも恋しい……。

 

 

 とにかく! ここでは、クリスマスに必要な食材を買いこんだ。

 大荷物になったけど、これは覚悟してたから仕方ない。ここのチキンは美味しいのだ。クリスマスなので多くの人は七面鳥を買うし、昔ながらの鴨を選ぶ人もいるけど、やっぱり、私はクリスマスのメインディッシュはチキンが一番だと思う。

 

「チキン?」

 

 トムはやや怪訝そうな顔をしたけど、「うちはこれなの」と押し通した。

 

「七面鳥がよかった?」

「そういうわけじゃないけど……アイリスって、本当にかわってるね」

「お褒めの言葉、ありがとう」

 

 七面鳥ではないけど、チキンも一羽で買った。

 まあ、たぶん食べきれるだろう。トムもいるし……。

 

 

 

 途中から、トムはいくつか荷物を持ってくれた。

 

「アイリスにばかりもたせるわけにいかない」

 

 だって。

 お手伝いしてくれたから、トムに欲しいものはある?って聞いたけど、ないって首を振られてしまった。だから、好きなカップケーキを1つ買ってあげることにした。トムはアイシングやチョコレートがたっぷりかかったケーキを選ぶと、近くの柱に寄りかかりながらぱくぱくと食べていた。

 私はといえば、モルトワインを購入。

 冬といえば、やっぱりモルトワインだ。身体の芯から温まる感じがたまらない……!

 モルトワインをちびちび飲んでいたら、トムも欲しそうな顔をしていたので、「これは大人の飲み物」と笑いとばした。

 

「大人になったら、一緒に飲もうね」

 

 トムは、ややあってから頷いた。

 

 

 

 トムは、どんな大人になるんだろう?

 

 

 願わくば、ヴォルデモートになりませんように。

 闇の魔法を扱う店に就職していませんように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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