レンガの壁をすり抜けると、そこには白煙のホームが広がっていた。
紅色の特急が吐き出す煙のせいで、周囲がやや霞んでいるのである。煙の隙間から、眩しいくらい紅色の車体が見え隠れしていた。
「ホグワーツ特急……」
フェンリールは汽車を見つめ、小さく呟いていた。
今日は9月1日――義兄を見送るため、母と一緒にキングズ・クロス駅を訪れていた。すでに義姉のラシェルはマグルのホームから旅立ったあとなので、この場にはいない。それでも、このホームには新入生を含む生徒全員と見送りの保護者が集っている。出発まで20分はあるというのに、すでに人で溢れかえっていた。
「フェンリール、はぐれないようにね」
アイリスがぎゅっと手を握ってくる。
フェンリールは大袈裟にため息をついた。
「……あのさ、母さん。オレ、大丈夫だって」
「私が不安なのよ」
そう言われてしまうと、フェンリールは従うしかない。抗議を示すように、わざとぷいっと顔を背けた。
とはいえ、「本当に嫌か」と聞かれると首を縦に振れない。自分のものより大きな手に包まれる温かさは、不思議と心地が良いものなのだ。ましてや、いま周囲は白煙に覆われ、自分が手を繋いでいることを視認できる者はおらず、自分の知人もほぼ皆無。ならば、手を繋ぐことに躊躇う必要性はなかった。
「トム? トムはどこ?」
「ここだよ、アイリス」
トムが数歩先を歩きながら、ひらひらと手を振った。
他の生徒はトランクやらフクロウの籠やらを詰め込んだカートを重そうに押しているが、トムだけは旅行鞄ひとつだけ。そのなかに、すべての物が詰まっている。おかげさまで、ラシェルを送りに行った時も、マグルたちからじろじろと不審な目で見られることはなかった。
「僕、別に見送りなんていらないのにさ」
「トムは最後でしょ。だからこそ、見送りたいの」
「ふーん……」
トムは素っ気なく返していた。
一方、フェンリールは嬉しさで胸がいっぱいになっていた。
(『トムは』ってことは、母さん……やっぱり、オレもホグワーツに行けるって思っているんだ!)
にんまりと口角が緩むのが抑えきれず、フェンリールは必死に奥歯を強く噛み締めた。
実のところ、ホグワーツ特急の見送りは嫌いだった。
アイリスは「フェンリールもホグワーツへ入学できる」と信じて疑っていなかったが、フェンリール的には「ほぼ不可能だ」と諦めていた。自分は狼人間。魔法界で最も嫌われる存在である。月に一度、狼になるというだけで、同じ魔法族として扱われない。いくら魔法が使えても、ホグワーツに入学できるはずがないのだ。
しかし、事態は大きく動いた。
トムが開発した「脱狼薬」をちゃんと服用すれば、比較的理性を保った無害な狼でいられる。あとは満月のたびに隔離さえしてもらえれば、人を傷つける心配がないのだ。無論、世間一般の狼人間に対する偏見は消えない。だが、あの薬は現状を脱却する大きな一歩であることに違いなかった。
(ニュートも『これなら、いくつか措置をとるだけで入学は可能だろう』って言ってたしさ。数年後、オレはここに新入生としていられるかもしれないんだ……!)
そう考えると、周囲を覆いつくす白煙さえ輝いて見えてきた。
友だちと再会する生徒たちの賑やかな声も、期待に胸を膨らませる希望に満ちた顔も、なにもかもがキラキラとしたものに思えてくるのだ。
そのなかでも、最も注目を浴びているのは――まぎれもない義兄だった。
友だちにあっという間に囲まれ、汽車のなかからも外からも、ずいぶんと多くの顔がトムを振り向くように見ている。
トムは友だちとの会話を楽しんでいるようだったが、ふと思い出したようにこちらへ戻ってくる。
「それじゃあ、アイリス。行ってくるよ」
「身体に気を付けてね。どんなに忙しくても、しっかり食べて、ちゃんと7時間から8時間は寝るのよ。それから――」
「アイリスは心配性だな」
トムは呆れたように笑っていた。そのままの表情で、こちらを見下ろしてくる。
「フェンリール。アイリスを頼んだぞ」
「わかってるって、アニキ」
そう返すと、トムは軽く頭をなでてきた。
「オレ、ガキじゃねぇんだけど」
義兄に頼られるのは嬉しいが、これはこれで恥ずかしい。フェンリールが少し頬を赤らめながら言うと、トムはきょとんとした顔をした。フェンリールに乗せていた右手を宙に浮かし、まじまじと見つめている。その反応を見るに、どうやら無意識による行動だったようだ。
「母さんの真似かー?」
そうやって揶揄すれば、トムは苦笑いを浮かべた。
「……まだ、ホグワーツに入学してないだろ?」
「そーゆーことにしておくぜ」
フェンリールがにやついたが、トムはそれ以上何も言わなかった。視線をわずかに上げ、アイリスの方を見つめた。
「アイリス、クリスマス休暇には帰って来るよ」
「いってらっしゃい」
アイリスはトムを抱きしめる。彼女の左手はフェンリールを握っているので、右手だけ背中に回していた。それでも、精いっぱい力強く抱きしめていた。
一方、トムは「はいはい」と抱きしめ返すと、そそくさと離れてしまった。
「あのさ、クリスマスには帰るんだから。大袈裟なんだよ」
トムはそう言いながら、汽車に飛び乗ってしまう。こちらに手を振る姿が見えたのも束の間、たちまち通路の方へと消えてしまった。
「……私、子離れができてないのかしら」
アイリスが少し寂しそうに呟いたので、フェンリールはますます笑みを深めた。
「けっ、アニキも正直になればいいのにさ。母さん、アニキの耳、真っ赤だったぜ? 普段はクールに振舞ってるけど、実は照れくさ――……」
「フェンリール!」
瞬間、トムの声が耳元で響き、フェンリールは飛び跳ねた。自身の頭一つ分離れたところに、赤い紙が浮かんでいたのだ。
「なっ!? って、吼えメール!?」
「声の調整ができる吼えメールだよ。よからぬことを話している予感がしたからね。く・れ・ぐ・れも、自分の言動には慎重に」
吼えメールは宣言通り、声の量を一気に落とした。それでも、吼えメール越しにトムの静かな怒りが伝わってくる。
「いいかい?」
「……わーったよ、いや、わかりました」
フェンリールがそう返すと、吠えメールは役目を終えたように塵になって消えた。
(……いや、吼えメールって言ってたけど、本当にそうだったのか、あれ!?)
フェンリールは背筋が寒くなった。
あまり詳しくないが、吼えメールとは事前に声を吹き込む仕組みだったはずだ。しかし、いまのは会話が成立していた。遠くからこちらを見て、その場で声を届けていたかのように思えてならない。
アイリスも同意見らしいが、彼女は感心したように目を丸くしている。
「遠隔操作かしら……トム、凄いわね」
「凄いっつーか、天才だろ……」
さて、天才学生は最後に一度――少し離れた車窓から顔を出した。しかし、すぐに車内に顔を引っ込めてしまう。
「いたわ、あそこね!」
アイリスはフェンリールを連れて、車窓の下まで行った。
ちょうど汽車が動き出し、ゆっくりと進み始める。
「いってらっしゃい! トム、気を付けてね!」
アイリスは右手を思いっきり振った。
多くの生徒たちが車窓から身を乗り出すなか、トムだけは顔を出さない。それでも、トムがこちらを気にしていることだけは伝わってくる。
アイリスはいつまでも手を振っていた。
汽車が角を曲がり、蒸気の最後の名残が秋の空に消えても、いつまでも、いつまでも。
「行こうぜ、母さん」
「……そうね」
フェンリールが促し、ようやく帰路に着けた。
「母さん、夕食はどうする?」
「そうね……お肉が少しあまってるから、ちょっと贅沢にミートパイを作ろうかしら。ミートパイ、好きでしょ?」
「ああ!」
フェンリールは大きく頷いた。
(そうだ。これで、また2人っきりだ!)
トムとラシェルには悪いが、いまだけはアイリスを独占できる。
もちろん、アイリスは三人の子どもたちに同等の愛情を注いでくれているし、それに不満はない。それでも、彼らがいない大部分の期間、フェンリールはアイリスを独占できる分、休暇中は物足りなさを感じていたのだ。
「なあ、母さん――っ!?」
フェンリールが握られた手をぶんぶん振りながら、ちょっとした我がままを言おうかなーと思ったときのことだった。首の後ろに刺すような視線を感じたのである。弾かれたように振り返ると、一人の男がこちらを睨んでいた。帽子を深く被っているが、殺気を隠すことができていない。おまけに、手には杖が握りしめられていた。
(ヤバい! あいつ、ヤバい!)
フェンリールは即座に警戒心を上げ、義母に危険を促そうとした。
ところが、こちらが口を開く前に、アイリスはこんなことを言った。
「せっかくだから、ちょっと街を散策してから帰りましょ!」
彼女はそう言うと、ぐいっと手を引っ張って走り出したのである。
「っ、ま、待ってよ、母さん! いまは、そんなことしてる場合じゃ……っ!」
「せっかくのロンドンだもの。ちょっと散策しても良いはずよ」
アイリスは聞く耳も持たず、ぐいぐいっと引っ張るように走っていた。人混みに突っ込み、軽やかに踊るように走っていく。散策というわりには周りの店を見て回ることもなく、人の波に逆らうことを楽しんでいるようだった。いつのまにか、フェンリールは自分がどこを走っているのか分からなくなっていた。
「あ……れ?」
そして気が付くと、自宅の前に立っていた。
「さあ、なかに入りましょ。鍵は……あった!」
アイリスは楽しそうに鍵を取り出すと、悠々とした足取りで中へと入っていく。
まだ手を繋いだままなので、フェンリールも連られて家に入った。玄関が閉まる前、フェンリールは後ろを振り返る。通りには殺風景すぎるほど誰もおらず、例の男の姿も見当たらなかった。
「……変な奴がいたこと、気づいてたんじゃねぇの?」
フェンリールは彼女から手を離すと、訝しそうに見上げた。
「母さん、散策なんて嘘だろ。あいつ、まこうとしたんじゃねぇの?」
アイリスは能天気そうに鍵をくるくる回しながら、いつもと変わらぬ明るい声を出した。
「そう? 全然わからなかったわ」
「マジかよ……」
フェンリールはうげっとあからさまに嫌そうな顔をした。
「いつも思うけど、母さんって本当に楽観的だよなー。そんなんでさ、よく生きてこられたよな。ちょっと尊敬するぜ」
「ちょっと、皮肉はやめてよ。私、それなりに警戒心は強いのよ」
「……」
今度こそ、フェンリールは黙り込んだ。
警戒心を高め、じろじろと義母を睨みつける。
さすがに、アイリスもフェンリールの様子の変化に気づいたのだろう。ちょっと戸惑ったような目線を向けてくる。
「どうしたの?」
「……あんた、何者だ?」
フェンリールは腰を落としながら、ゆっくりと義母から後ずさる。
「何者って……私は、アイリス。あなたのお母さんよ?」
「オレの母さんはさ、皮肉には『お褒めの言葉として受け取っておくわ』って返すんだよ」
フェンリールは指摘した。
男から逃げるときもそうだ。あれは、間違いなく撒こうとしての行動だった。自分の知るアイリスも同じような行動をとっただろうが、あんなに軽やかに逃げられるはずがない。楽観的なのはそうだが、恐怖心を完全に殺せるような人ではなかった。
「母さんをどこへやった?」
「……それを言うなら『いつ、入れ替わった?』でしょ?」
アイリスは鍵をくるくる回しながら、にたっと笑った。
「ッ、てめぇ!」
疑念が完全に確信へと変わり、フェンリールは飛びかかろうとした。
しかし、彼の爪はアイリスには届かなかった。
「
アイリスが宣言すると、フェンリールの身体は宙で停止した。前へ進もうにも手は宙をかくばかりで、足をばたつかせても地面につくこともできない。
「なっ……!?」
「確かに、私はアイリスではないわ。遠い未来から、運命を変えるために来た――いまは、それで十分でしょう」
「それなら、母さんはどうしたんだよ!? どこへやった!?」
フェンリールは噛みつくように叫んだ。
すると、彼女は鍵を弄ぶのを止めた。
「アイリスは眠っているわ。私のなかで。……貴方も気づいたのでしょ? だって、アイリスはずっと貴方と手を繋いでいた。人の身体ごと入れ替わる隙なんてなかった、って」
フェンリールは頭のなかが真っ白になりかけていた。
意味がまったく分からない。
それでも、いま目の前にいるのは正真正銘アイリス・リドルであって、そうではないということだけは理解できた。彼女が言う通り、家を出たときから、フェンリールはずっと手を繋いでいた。その時点で何者かと入れ替わっていたのであれば、トムが勘づくはずである。そうなると、彼女の中身だけが、途中で入れ替わっていたと推測がついた。恐らく、例の殺気を放った男が近づいたときに――と、そこまで考えたとき、嫌な予感が胸を過った。
「服従の呪文ではないわよ」
けれども、それを口にする前に、彼女はさらっと否定する。
「アイリスのなかに眠っていた、もう一人の人格。そう言った方が分かりやすいかもね。一つの肉体のなかに並列して存在している……例えるなら、普段の彼女が『表のアイリス』で、私は『闇のアイリス』ってところかしら」
「……ますます意味わかんねぇよ。つーか、表の反対は裏だろうが」
「分からなくて結構」
彼女はそう言い切ると、冷たい目でフェンリールを見据えた。
「それより、『アイリス・リドル』の寿命は、残りわずかだってことはご存じ?」
「はっ? なにを……」
「彼女、最近変だったでしょ? いつにも増して疲れていたり、幻聴を聞いていたり……覚えがないとは言わせないわ」
フェンリールは否定しようとしたが、何も言い返せなかった。
最近のアイリスは、確かに様子がおかしかった。
朝、起きてくる時間が少し遅かったり、日中も酷く疲れたような顔をしている姿が見られた。目の下にクマができて、トムに「アイリス、ちゃんと寝た?」と心配されるような日もあった。空襲に対するストレスだろうと思っていたが、そうではなかったのかもしれない。
「母さんが……死ぬってこと?」
「私が一時的に余命を伸ばしているの。私が出てこないことが一番良いのだけど、そんな悠長なことを言ってられる状況ではなくてね」
彼女は一度、ため息をついた。やれやれと首を振り、すうっと腕を持ち上げた。
「そこで、お前に命じる。『運命の日』を探せ」
細い指先は、まっすぐフェンリールを差している。
「運命の日?」
フェンリールは聞き返した。
「なんだよ、それ」
「アイリスが書いている日記があるわ。そのなかから『運命の日』を探すのよ。そうすれば、アイリスを救う一手になるわ――たぶんね」
「はぁ!? たぶんってなんだよ!? もっと確実な方法を――っ!?」
「
彼女は指をひょいっと下に向ける。フェンリールの身体は呼応すように、床に叩きつけられた。
「ッ、てめ……」
「コッツウォルズの家に帰ったら、すぐに探すこと。日記はアイリスの部屋にあるわ」
「……だったら、お前が探せばいいじゃん」
フェンリールは痛みにうめきながら、忌々しそうに彼女を見上げた。
「私は何度も入れ替われない。時間がないの」
彼女はそう言うと、わざとらしいほど大きな欠伸をした。
「トム・リドルには、このことを話さないこと。彼に知られたが最後、事態がややこしくなるから絶対に言わないように」
以上、と彼女は宣言すると同時に、ふらりと座り込んだ。
それと同時に、フェンリールの身体を縛っていた魔法も解ける。
「っ、おい! まだ、聞きてぇことは残ってるんだ!? 起きろよ!」
フェンリールは彼女の肩をつかみ、ぶんぶんと揺する。数秒ほど乱雑に揺すれば、彼女は青い目を億劫そうに開けた。
「ん……フェンリール……? どうしたの?」
「あ? ……母さん?」
ぼんやりとこちらを見上げる目は、自分のよく知るアイリスの眼差しだった。
「あれ? 私……いつのまに家に帰って……?」
「……疲れてるんだろ? 帰ってきたら、すぐに寝ちまったんだ」
「……ごめんなさいね、少し休ませてもらうわ」
アイリスは戸惑いながらも、そう言って笑った。
フェンリールは笑えなかった。アイリスの目の奥には疲労の色が強く滲んでいた。動きも緩やかで、背中から気怠さを感じさせる。
(……あいつの正体はわかんねぇけど、母さんの寿命が短いってのは本当なのかもしれない)
フェンリールは拳を強く握りしめた。
その後、アイリスの様子に変化はなかった。
なるべく母から目を逸らさないように心がけていたが、いつも通りの彼女だった。その分、彼女が昔よりも動作が鈍り、疲れやすくなっているところまで目に入ってしまう。
(運命の日記とやらを探してみるか)
フェンリールがそう考えるまでに、そう時間はかからなかった。
(だいたい日記を探すだけだろ。んなもの、ガキの遊びより簡単だっての)
実際、アイリスの部屋には簡単に入れた。
アイリスが配給を取りに行っている間、容易に部屋へ侵入することができた。アイリスの部屋には物が少なく、棚も必要最低限しかない。棚を順番に開けていけば、大量にノートが入っている個所を見つけることができた。確かに冊数は多いが、そこから運命の一冊とやらを見つけるのは想像よりも容易に思えた。少なくとも、あと数回繰り返せば、全部読むことは可能だろう。
「さてと、なんて書いてあるのかな」
母の日記を盗み見ている背徳感と好奇心に押され、フェンリールは一番古い日記をめくってみた。
「『1915nen 5gatu Tanpure ni nikki wo moratta!』」
声に出してみて、フェンリールは固まった。
英語で表記されていると思ったら、まるで意味の分からない文字が連なっていたのだ。唯一理解できるのは、11915や5という数字しかない。
「な、なんで、暗号で書いてあるんだよ!?」
フェンリールは苦悩の叫びをあげながら、他のページもめくってみる。
しかし、どれもこれも似たようなものだった。
「Zense demo kaitetasi,wasurenaiyouni kaiteokou……駄目だ、まったくわかんねぇよ! アニキに聞くしか……」
日記を放り出すように倒れ、義兄へ助けを求めようとする。しかし、例の女が言っていたことも気がかりだった。
(母さんが日記を暗号で書いてるってことを知ってたんだ。解読するには、時間がかかる。だから、短時間の入れ替わりだと解決できねぇって……で、そいつが、アニキに知らせるなって言うんだ。きっと、知らせたらマズイ事情ってのがあるんだろう)
フェンリールは天井を睨みながら思案する。
そうは言っても、自分はたいして頭が良くはない。暗号を解いている間に、アイリスが寿命を終えてしまう可能性だってある。だが、学校の友だちはそこまで頭が良いともいえない。マグルなこともあり、協力を仰ぐこともできないだろう。
そこまで思考を巡らせたとき、まっさきに浮かんだのは一人の少女の顔だった。
「……ミネルバ……!
フェンリールは跳ね起きた。
自分より頭の良い人物は、彼女しか思いつかない。そうと決まれば、彼女に手紙を書くまでだ。手紙のやりとりはいつものことなので、アイリスに不審に思われることはないだろう。
フェンリールは日記を大事に抱えると、自分の部屋へ駆け込むのだった。
次回更新は二週間後の6月21日(日)を予定しております。