●1937年 7月■日
今日、トムとやっと会うことができた!
朝からそわそわして、何度も鏡で顔を確認した。顔の吹き出物はすっかり治り、元の自分に戻っているけど青白く、わずかばかり頬がこけてしまっていた。手足も完治しているから心配はされないと思うけど、「磔の呪い」の後遺症で、いまだに心臓が急に痛くなる。トムとの面会中に、何事も起きなければいいけど……という不安も募り、ベッドに腰かけては立ち上がって病室を歩き回り、また座るのを繰り返していた。
トムが来たのは、11時過ぎ。
ナティに連れられて、彼は病室に現れる。トムの顔は記憶にある物より、ずっと青ざめていて強張っていた。一回り痩せてしまったようにすら見える。膝がかくかく震え、怯えているように思えた。
「トム……」
私が声をかける前に、トムは駆けだしていた。右手にヴァイオリンのケースを抱えていたのに、それをあっさり手放して、まっすぐ私の胸に飛び込んできたのだ。
「アイリス!」
トムは泣きながら叫んでた。胸に顔を埋め、幼子のように泣きじゃくっている。
私はトムの小さな額にキスを落とすと、両手で強く抱きしめた。もう二度と会うことができないと覚悟していたこと、嫌われてしまったのではないかという恐れていた分の反動は凄まじく、例えようのないくらいの喜びが胸の内に渦巻いていた。
「ごめんなさい、トム。帰ってくるのが遅れてしまって」
「謝るのは僕の方だ! 僕、アイリスに酷いことしてた。もう……二度と謝れないかと思ってた」
「気にしてないわ」
黒い艶やかな髪を優しく撫でながら言うと、トムの顔をもっとよく見ようとして身体を離した。
「こうして、また会えたのだもの」
トムの黒い目は涙で濡れている。
それでも、顔じゅうから歓喜の色が溢れ出ていた。
「……僕も会いたかったよ」
トムは私の肩に頬を乗せる。
私はトムの頭を何度も何度も撫でながら、うんうんと頷いていた。
「アイリス……トム……よかったね」
ナティの感極まった声で顔を上げれば、彼女も涙ぐんでいた。病室の扉の前にたたずみ、ハンカチで目元を拭っている。
「ナティ、いろいろとありがとう」
「友だちを助けるのは当然だもの」
ナティが微笑むと、トムが鼻をすすりながらこう少し興奮気味に言った。
「アイリス! ナティも魔法使いだったんだ!」
「まあ、本当に!?」
私が目を丸くしてみせると、ナティは肩をすくめた。
「隠しきるつもりだったんだけど、そうも言ってられなかったから」
彼女はそう言いながら、一枚の紙きれを取り出した。
「それ……私がフランクに預けた手紙ね!」
「正解!」
ナティはぽんっと手を叩き、見舞い用の椅子に座った。トムもそれを見て、ちょこんと私の隣に腰を降ろす。ぴったり身体を寄せてきたので、私は彼の肩に手を回した。ちょっと前までの彼なら嫌がったかもしれないけど、特に抵抗することもない。それだけ、私のことを心配していたのだということがひしひしと伝わってくる。
……やっぱり、トムも私を大切に想ってくれていたのだ。反抗的な態度をとられたからって、彼の想いを疑った自分が恥ずかしい……。つい涙が零れそうになるので、必死に我慢した。このことは、トムに内緒にしておこう。
「アイリス、僕たち大変だったんだよ!」
さて、トムは何があったのか口早に語ってくれた。
私が誘拐されたと知られるまで、そこまで時間はかからなかったらしい。
まず、モーリスが「アイリスが待ち合わせの時間になっても現れない」とすぐに気づき、警察に相談を持ちかけたそうだ。すると間もなく「浮浪者のような男が若い女性にナイフを突きつけていた」という証言が上がってきたらしく、誘拐事件だと発覚したらしい。しかしながら、誘拐の現場は何人もに目撃されているにも拘らず、そこから先の足取りが一向につかめない。そりゃそうだろう「姿くらまし」で誘拐されたのだから……。
故に、警察は見当違いの捜査を続けていたという。
「次の日の朝、ナティに電報が届いたんだ。ナティはそれを読んで、とても驚いてた。それから、僕にこう言ったんだ。『トム、私は君に隠していたことがあるんだ』って。それから『私は、君と同じ魔法使いなんだよ』って続けたんだ」
トムはナティの声を真似しながら言った。
「アイリスは、ナティが魔法使いだって気づいてたの?」
「薄々ね。でも、確証がなかったから話さなかったのよ。だって、聞けないでしょ? 『ねぇ、ナティ! あなたって本当は魔法使いでしょ。ポケットに魔法の杖を隠し持っているんじゃないかしら?』って」
私がおどけた調子で言えば、トムもナティもくすくすと笑った。
ナティはひとしきり笑い終えると、不思議そうな顔で尋ねてくるのだった。
「でも、どうして私が魔法使いだって分かったの?」
「最初にリトル・ハングルトン村に行ったときよ」
少し考えたけど、これが一番伝えることができる内容だった。
だって、他のポイントは私が前世の知識を持っているが故に勘づいたことだから……。
「私とトムがモーフィンの小屋に行くとき、こっそり見守ってくれたのよね? だから、あなたはすぐにフランクさんの家を訪ねてくれることができた」
「ふーん。つまり、私が魔法を使って、遠くから小屋の様子を覗き見していたんじゃないかって考えたってこと?」
「変身の魔法かなって思ったのよ。だって……窓の外にガゼルがいたんだもの。ここがアフリカなら問題ないけど、イギリスにガゼルは生息してないわ」
「あー、そこで気づかれたかー。意外とバレないんだけどなー」
ナティはそう言うと、その場でガゼルに変身してくれた。原作でも「マクゴナガル先生が猫に変身すると生徒たちから拍手が沸き起こった」みたいな記述があったけど、その気持ちが理解できる。私とトムは目を輝かせながら夢中で手を叩いていた。ナティの身体が美しいガゼルに一瞬で変わりゆくなんて、実際に目にしても信じられない! CGとか特撮を疑ってしまう。
さすが、魔法だ……!!
「それ、どうやったらできる?」
トムが尋ねると、ナティは人間に戻りながら笑っていた。
「マンドレイクの葉を1カ月口に含むの。他にも手順がたくさん。正しい方法を守らないと、不完全な変身のまま元に戻らなくなっちゃう。だから、トムにはまだまだ早いよ」
「動物になりたいわけじゃないさ! ただ気になっただけ」
トムは口を尖らせていた。
「それで、そのあとは?」
「動物もどき」の習得方法も気になるけど、何が起きたのか知りたかった。
「すぐにリトル・ハングルトン村に行ったわ。『姿くらまし』って魔法があるんだ。トムが『瞬間移動』って呼んでいる魔法のことだよ」
「トムも一緒に?」
「最初だけね。でも、すぐにロンドンに戻したわ。モーフィン・ゴーントは魔法界の基準でも危険な人だから、いきなり乗り込むのは逆に命が危ないと感じたの。魔法省に通報したり、蛇語が使える知り合いに立ち合いを頼んだり……踏み込むのが遅れて、ごめんなさい」
「助けを呼んでくれただけでもありがたいわ」
本当、ナティが魔法使いで助かった……。
でも、気になる点が一つあった。
「蛇語が使える知り合いって、目の不自由な魔法使いのこと?」
モーフィンと不快そうに話していた男を思い出した。
「オミニスは同級生なの。彼もサラザール・スリザリンの末裔だけど、いまは絶縁してフェルドクロフト村で暮らしてる。……つまり、トムの遠縁の親戚ってことになるのかな」
「親戚か……あまり会いたくない」
ナティの話を聞き、トムは苦々しく呟いていた。まあ、これまでトムが出会った親戚にロクな人はいないのだから、苦言を零すのは仕方ないのかもしれなかった。
「でも、オミニスさんは私のことを守ってくれたわ。もう一人の魔法使いさんも」
いつか、しっかりお礼を言える日が来ることを願うばかりだ。
だけどそのことを口に出す前に、ぐうっとトムのお腹が鳴った。途端、トムは頬を真っ赤に染めると、私からぱっと離れて俯いてしまう。離れたといっても、拳二つ分ほどの距離だけどね。そんなトムを見て、ナティが真っ先に大声で笑った。
「トムの食欲がようやく戻ったようだね! せっかくだし、喫茶室に行こう。ここの1つ上の階にあるんだ」
「でも、私……ここから一人で出るのを禁止されてるの」
「あたしが付き添うから大丈夫。でも、どうしても不安なら許可をとって来るわ」
結果、すんなりと許可がとれ、私は一週間ぶりに外へ出ることができた。
狭い廊下には蝋燭の詰まったクリスタルの玉が巨大なシャボン玉のように天井に浮かんでいて、トムも私も夢中になって眺めたのもつかの間、すぐに声をかけられた。
「ご婦人! ご婦人! その頬のぶつぶつ、龍痘の初期症状ですぞ!」
声をかけてきたのは、肖像画だった。階段の両脇には古びた癒者たちの肖像画がかけられていて、とにかく話しかけてくる。物珍しかったのは最初だけで、奇妙な病状の診断を下したり、おかしな治療法を述べるものだから、だんだん気味が悪くなってきた。
「龍痘は危険です! ちゃんと治療しないと取り返しのつかないことになりますぞ!」
「これはニキビよ!」
あまりにもしつこく話しかけてくるので、私は言い返してしまった。
ナティも不可思議な診断を下されていたが、彼女は慣れているのか「はいはい」と躱していた。
一方、トムはといえば肖像画に向かって逆に話しかけていた。
「あなたはどうして話せる? 頭がないのにどこで思考してるんだ?」
「ふざけた子どもだ! 私の脳みそはここにある!!」
肖像画は自身の頭をこんこんと指で叩くが、トムは納得がいかないらしい。
「ここ? ただの平面じゃないか。絵の具で描いただけの存在にまっとうな思考が宿るなんて、どう考えてもおかしい。ちゃんとした診断が出せるとは思えないね」
トムのことだから動く肖像画に感極まるのかと思ったけど、そうではなかったようだ。肖像画の仕組みを分析し、なぜ思考を持っているのか真剣に考え込んでいる。
「魔法をかけたから、自分で考えて動くんじゃない?」
「それはそうだろうけどさ、なんだか腑に落ちないや」
トムは首を傾げながら、喫茶室に入った。
私たちがテーブルを囲み、和やかに談笑を始めようとした頃、一人の魔女が話しかけてきたのだ。
「坊や、楽器を持っているのかい?」
腰の曲がった老婆だった。
「私は音楽が好きでねぇ……一曲、弾いてくれないかい?」
トムは請われるがまま、ヴァイオリンを取り出した。もちろん、そのフロアの責任者に許可を貰って。
曲名は「アメイジング・グレイス」。
一音、たった一音奏でただけで、喫茶室に集った人たちの目がトムに釘付けになった。肖像画たちも動きを止め、忙しなく歩いていた癒者ですら足を止める。誰も声を発しなかった。ヴァイオリンを弾くことを頼んだ老婆ですら、あんぐりと口を開けている。
耳を傾けるだけで心洗われ、繊細で優雅な音色に癒されていく……。
ああ、やっぱり、トムは天才だ。
「……これでよろしいでしょうか、マダム?」
最後の一音が虚空へ消え、トムが声を発したとき、喫茶室は割れんばかりの喝采で包まれた。気がつけば、喫茶室にかけられた肖像画にははちきれんばかりの人物が詰めかけ、歓喜の声を上げている。
「君、素晴らしい腕前だね」
喫茶室に集まった観客のなかでも、一人の少年が特に興奮していた。
トムより少し年上だろう。いかにも上品な服を纏い、長く艶やかな銀髪が特徴的だった。顔を輝かせながら、ちょっとばかし気取った足取りで歩み寄ってくる。
「実に感動したよ」
「ありがとう。でも、まだまださ」
「謙遜しなくていい。本当に凄かったよ。僕の家に仕える屋敷しもべ妖精も楽器の心得があるけど、君の足元にも及ばない。父や祖父も君ほどの演奏家に会ったことはないはずだ」
そう言うと、彼はトムに手を差しだしてきた。
「僕はアブラクサス。アブラクサス・マルフォイだ。君の名前は?」
「トム・リドル。トムのスペルはTHOMさ」
トムが手を握り返すと、アブラクサスはやや怪訝そうに眉を寄せた。
「リドル……リドル……聞いたことのない家名だな。まさかとは思うけど、マグル生まれかい?」
「母が魔法使いだ」
「半純血か……」
アブラクサスは少しばかり残念そうに目を伏せたが、それは本当に一瞬だけ。すぐに先ほどまでの晴れ晴れとした表情に戻った。
「今度、僕の家で弾いてくれないかい? 両親にもぜひ聞かせたいんだ」
「都合がつけばね。僕は多忙なんだ」
「奇遇だね。僕もそれなりに忙しい。今日は祖父の見舞いで、寮監から特別に許可を貰って――」
彼が言葉を続けようとしたが、それを遮るように咳払いが割り込んでくる。それも、すぐ足元からだ。私たちが目を落とせば、そこには耳の長い小柄な生き物が佇んでいた。
そう、屋敷しもべ妖精!!
「坊ちゃま、そろそろお時間になられます」
「もうそんな時間か……続きはふくろうで連絡するよ」
アブラクサスはそれだけ言うと、しもべ妖精と共に去って行った。
マルフォイということは、ルシウス・マルフォイのお父さんに当たるのだろうか? つまり、ドラコ・マルフォイの祖父ということ? さっきのしもべ妖精はドビーの同僚になるのかな? もしかして、ドビーのお父さんだったのかも。そもそも、しもべ妖精の平均寿命を知らないからなんともいえないけど……。
他に印象的だったのは、アブラクサスが去ってからのこと。
トムが他の魔法使いたちの賛辞を浴びながら、病室に戻って来たとき――彼はこんな言葉を呟いたのだった。
「音楽は魔法使いにも伝わるんだな」
自身のヴァイオリンを撫でながら、どこか感慨深そうに言葉を漏らした。
そろそろ、トムの進路選択のときが迫っている。
ナティが魔法使いだと判明した以上、ホグワーツの入学事情に切り込むのはいましかない。退院したら、すぐにでも相談を持ちかけなければ……!!
●1937年 7月 ×日
今日の午後に退院。
でも、忘れないうちに書いておく。
今朝方、日が昇る前……。
私は人の気配で目が覚めた。だいたい朝までぐっすり眠る質なので、途中で起きるなんて珍しかった。ぼんやりと目を開ければ、どこかで見たことのあるような人影があった。昨日、ナティが座っていた来客用の椅子に座り、こちらを見下ろしている。
「あなたは……」
ぼんやりとした目をこすり、人影をじっと見つめる。
寝ぼけた頭がその人物の名前を口にしようとして、慌てふためいて飛び起きた。
「あ、あ、あなたは、何者です?」
「夜分遅くに失礼、リドル夫人。この時間しか空いてなくてね。起きてくれて助かった」
その人は口元に微笑を携え、申し訳なさそうに口にした。
「驚かせてすまない。見知らぬ男性が部屋にいたら恐怖を抱くのは当然だ」
私が驚いたのは「男性がいたから」ではなく、もっと別のこと。
だって、その人は――
「私の名前はアルバス・ダンブルドア。ホグワーツという学校で教鞭をとっている」
「ダンブルドア教授……? 学校の先生が、こんな時間にどのようなご用件でしょう?」
私は、ダンブルドアの胸元あたりを見ながら尋ねた。
失礼だとも感じたけど、どうしても青い眼を覗き込む気にはなれなかった。だいたい、今回の場合はダンブルドアの方が礼儀を欠いている。一番鶏が鳴く前に訪ねて来ること自体が非常識だ。でも、この時間しか空いてなかったってことは……それだけ、グリンデルバルドとの戦いが切羽詰まっているのだろうか?
いや、そうだとしても、どうして人目を避けるような時間に? どうしても、自分の頭では理解ができない。
そんなことを考えていると、ダンブルドアは柔らかい声色でこう言った。
「トム・リドルの将来について詳しく話をしたい」
「……トムは王立音楽院を受験する準備を進めています。ホグワーツという学校は……魔法を学ぶ学校なのでしょうか?」
「いかにも」
ダンブルドアが頷いた。
「トムは産まれたときから、その名前が入学簿に刻まれている」
「初耳ですわ。では、音楽院を諦めろと?」
ナティと相談する予定だったことを口にしながら、私は混乱を極めていた。
「そうは言ってない。ただ……私としては、トム・リドルがホグワーツで学ぶことを勧めたい。彼自身の身を守るためにも」
ダンブルドアはそう告げると、小さな本を取り出した。どこかのページを探すようにめくり出したので、私はわずかに目線を上げ、本のタイトルを確認しようとした。だけど、タイトルがはっきり見える前に、ダンブルドアはとあるページを見せてきた。
私はページに目を落とし、愕然としてしまった。
《新大陸の摩天楼が大いなる悲しみによって破壊された年、最後の月が死ぬとき、偉大なる蛇の王が父親に祝福されることなく誕生する。王は世界を改革する力を持つことになるであろう。ただし、■の■を失った場合、黒き眼は涙で曇る。蛇の王は闇の帝王となり、世界をさらなる混沌へと叩き落すことになるであろう。最後の月が死ぬときだ。王は霧の街で産声を上げるであろう……》
「これは……なにかの予言でしょうか?」
私は、そう返すのがやっとだった。
「カッサンドラ・トレローニという高名な予見者が、晩年に残したものだ。記録によれば、夕食の最中、突然『世界の因果が乱された!』と叫びだし、このような予言を伝えたとされている」
ダンブルドアは静かに語った。
「蛇の王とはトムのことですか? ここに書かれているのは、トムのことなのですか!?」
私は荒い呼吸交じりの震える声で尋ねていた。
こんな予言を知らない。このような予言があったなら、絶対に原作で言及されているはずだ。トレローニの祖先が闇の帝王の誕生を予見していたなんて話題に触れないはずがない!
「おそらくは」
ダンブルドアは辛そうに答えた。
「この予言に当てはまるのは、1926年12月31日に産まれた子どもだ。そのなかで、蛇を象徴とするサラザール・スリザリンの血を引き、父を知らずに生を受けた赤子は……あなたの息子だけだろう」
「そんな……っ!?」
目の前が真っ暗になりそうだった。
私がやってきたことは全部無駄だったのだろうか? トムがヴォルデモートになってしまうことが予言されていたとすると、その運命は変えることができない。絶望が波寄せてきたが、ひとつ疑問が残った。
「ここの……空欄は?」
「失伝した箇所だ。つまり、本来この箇所に当てはまるなにかを失わなければ、あなたの息子が道を踏み外すことはない」
「私はどうしたらよいのでしょう!? あなたなら、なにが当てはまるのか予想できるはずですよね!?」
私は希望に縋りつくように叫んでいた。
目を見るな、と自分に言い聞かせていたことも忘れて……しかし、ダンブルドアは私を見つめたまま、首を横に振った。
「だが、確かに言えるのは……いまのトム・リドルが道を踏み外すとは考えられない。つまり、このまま成長すれば、悪の道に染まることはないだろう」
「それなら――」
「しかし、誰もが同じ考えだとは限らない」
ダンブルドアが遮った。
「予言を知る者のなかには、トム・リドルを危険視する者もいる。また、トムを利用しようと企む者も少なくない。故に、これまで私の知人が密かに君たちを見守っていた」
ダンブルドアは何人かの名前を口にした。
そのなかにはナティの名前はもちろん、マーチバンクスさんもいて驚きを隠せない。そういえば、マーチバンクスさんが家を借りに来たのは、トムを引き取ると決めた直後だった……。あのときはトムの養育費のため、いろいろとお金を工面しないといけないことに必死で、空いている部屋への入居者が決まってラッキー程度にしか考えてなかったけど……マーチバンクスさんが「あなたの養子に会いたい」とずっと主張していたのは、トムを見張るためだったのかもしれない。
「……なぜ、それを……いま、私に?」
いつのまにか、鳥肌が立っていた。
私は腕をさすりながら、ダンブルドアに聞いた。
「私が、魔法界のことを知ったから?」
「それは――……」
ダンブルドアはなにか言いかけたが、すぐに口を閉ざした。なにか確認するように扉に目を向け、口元に微笑を浮かべる。
「すまない、時間のようだ。私と話したことは誰にも言わないように」
ダンブルドアはそう言うと、帽子を被りながら立ち上がる。
私はそんな彼の上着の裾を咄嗟につかんで引き留めた。
「待ってください! 私、もっと聞きたいことが……!」
「リドル夫人、これを」
ダンブルドアは一枚のカードを渡して来た。
私は目を丸くする。カードに記されていたのは、ロンドンのとある住所と一人の名前――私もよく知っている名前が綴られていた。
「『ニュート・スキャマンダー』……!?」
「私の友人の家だ。明日、トムを連れて訪ねるといい。お茶をご馳走してくれることだろう」
ダンブルドアはそう言うと、その場で姿を消した。彼が消えるのと同時に、病室の扉が開く。私はダンブルドアから貰ったカードをベッドのシーツに隠し、寝たふりをした。薄目を開けて誰が入って来たのか確かめると、この部屋を担当する癒者だった。癒者は不審そうに周囲を見渡すと、部屋の外へ出て行った。扉の向こうには他にも人がいたらしく、その人に向かってこんなことを話していた。
「誰もいなかったよ。声が聞こえた気がしたんだけどな……寝言だろうさ」
私は監視されてる?
違う、私も監視されているのか。
アルバス・ダンブルドアの来訪。
原作には存在しない予言。
トムの将来とトムをよく思わない魔法使いの存在……。
駄目、頭がこんがらがる。
とにかく、私がすることはこれまでと変わらない。難しいことはできないけど、私の出来る範囲の最善を選んで進むだけだ。
まずは、ニュート・スキャマンダーとの出会いを楽しみにすることにしよう。
映画でも、ニュートはかなり好きな登場人物だった。ファンタビ2を見る限り、彼の家には魔法動物たちがたくさんいる。トムが摩訶不思議な魔法生物たちにどんな反応をするのか、いまからとても楽しみ!
ニフラーに会えるといいな!