トム・リドル育成計画!   作:寺町朱穂

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昨日は更新できず、申し訳ありませんでした。
とある登場人物の名前を間違えてしまったので、変更しております。(詳細は後書きにて)


〇1938年9月 新学期!

●1938年 9月1日

 

 無事、トムは旅立った。

 いやー、なんだろう。とても感慨深い……。

 

 私の貧相な語彙では表せないけど、ぼろぼろ泣いてしまった。 

 有名なホームの柱を通り抜けたときよりも、ホグワーツ特急を見たときよりも――トムが汽車に乗り込み、窓から身を乗り出して手を振った瞬間、私は胸が熱くなって、涙がこみあげてきてしまったのだ。

 

「アイリス?」

 

 トムが目を見開き、困惑しきった表情でこちらを見下ろしてくる。

 

「どうしたの?」

「……っ、トムはすっかり大きくなったなって思ったのよ」

 

 気を抜くと涙声になるのを堪え、必死に笑顔を作った。

 ついさっき、トムが列車の戸口の階段から重いトランクを押し上げようとして失敗し、手伝ってくれた上級生にお礼を言えたときから、ずっと泣きそうだった。

 

「トム」

 

 私はトムに手を伸ばす。トムの日焼けのない白い手を握りしめ、言葉を選びながら語りかけた。

 

「優しい心を忘れないでね。それから、健康には気をつけて。どんなに忙しくても、しっかり食べるのよ」

「アイリスは心配性だな。大丈夫だって」

 

 トムはいつもの調子で言った。

 

「ちゃんと手紙を送るからさ。それに――」

 

 トムは何かを言ったけど、甲高い汽笛の音でかき消されてしまう。それを合図に汽車が滑り出すように動き始める。私の手から抜けるようにトムの手が離され、少しずつ遠くへ行ってしまう。私はしばらく並走するように歩いていたけど、すぐに追いつけなくなって、代わりに手を思いっきり振った。

 

 なにも今生の別れというわけではないのに、高く挙げられた手を何度も何度も振った。

 トムの窓から身体を乗り出す姿は豆粒ぐらい小さくなり、ホグワーツ特急がカーブを曲がったところですっかり見えなくなってしまった。

 

「……行っちゃった」

 

 ……私にできることはここまで。

 月に一度、ヴァイオリンのレッスンで帰って来るとは言っても、学校生活のことにすべて口出しできないし、すぐ傍で見守ることもできない。

 

「……ん?」

 

 しばらく立ち尽くしていたら、誰かの視線を感じて振り返る。

 だけど、そこには煉瓦の壁があるばかり。プラットホームには見送りの保護者たちも少なくなっていて、ふくろうの不機嫌に鳴く声も子どもたちのおしゃべりの声も重たいトランクが擦れ合う音も聞こえず、とても静かになっていた。

 私はちょっと不気味になり、少し早足で歩き始める。それでも、視線は感じた。もう一度、振り返る。だけど、やっぱりそこには何もない。一瞬、そういえば魔法界には「透明マント」なる品物があったと思い出し、地面すれすれのところから足が見えないか注視したけど、やっぱりなにもない。本気で薄ら怖くなり、走って去ろうと思った、そのときだった。

 

「アイリス!」

 

 いきなり声をかけられ、びっくりして飛び上がってしまう。

 そこにいたのは、ナティだった。

 

「あぁ、ナティ。どうしてここに?」

「心配になったのよ。なかなか戻ってこないから」

 

 彼女の言葉で、そういえばキングズ・クロス駅まで一緒に来てたんだっけ……と思い出した。

 

「なにかあった?」

「……ううん、なんでもない」

 

 その頃には、変な視線は感じなくなっていた。

 やっぱり、気のせいだったのかもしれない。トムを見送って、感情がおかしくなっていたのだろう。ナティと久しぶりにランチをとり、昼間っからワインを開けてしまった。

 

「トム・マールヴォロ・リドルの新たな挑戦に乾杯!」

 

 ってね。

 

 

 

<追記>

 家に帰ってきてから、エンラクが落ちつかなかった。

 私がいるのに、トムが帰ってこないのが不思議だったのだろう。しっぽをぺたんと垂らし、玄関の前に陣取っていた。今朝まで、トムの新しいフクロウ――ウタに向かってきゃんきゃん吼えて威嚇していたとは思えないほどの元気のなさには心配になったけど、トムが帰ってこないことを理解したのだろう。珍しく私の足元に寄り添い、じっとしていた。

 

 エンラクも何か感じているのかもしれない……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●1938年 9月▲日 <手紙>

(無地の便箋、日記に挟んである)

 トム・リドルからアイリス・リドル宛て

 

 

 アイリスへ。

 一週間経ったけど、それなりに元気にやってるよ。

 

 僕の選ばれたスリザリン寮は、学校の地下にあるんだ。だけど、安心して欲しい。別に暗くてじめじめしていて息苦しい場所なんかじゃない。行き方も面白くて、地下通路の壁に向かって合言葉を唱えると、蛇の扉が現れるんだ。その扉を抜けて、中に入ってみたら、まるで水族館のような部屋が広がっている。談話室の壁一面が水槽のようになっていて、不思議な感じがする。そりゃ、太陽の光は見えないけど、窓の外に大イカや魚がゆったりと泳いでいる姿を見ると、とても心が落ち着くよ。

 合言葉が「高貴」っていうのは、ちょっと鼻につくけどさ。

 

 

 寮監のスラグホーン教授は、とても理解のある人だよ。

 最初の授業――魔法薬学といって、不思議な薬を作る授業――が終わってから、「トム・リドル。君は残るように」って言われたときは驚いたけどね。まず、彼は今日の魔法薬の調合(おできを治す薬)が完璧だったって絶賛したあと、わくわくした様子でこう言ったんだ。

 

「君はディペット校長から特例で月に1度、ロンドンへ行ける許可がおりていると聞いている。3年生のマルフォイ君も君の腕前を絶賛していてね……ぜひ、今日の放課後に一曲弾いてくれないかい?」

「いまでも構いませんよ」

 

 僕はそう言って、ヴァイオリンを呼び寄せたんだ。つい癖で杖を使わずに。その瞬間、スラグホーン教授は小さな目を輝かせて、教室中に響き渡る声で叫んだんだ。

 

「君は呼び寄せ呪文ができるのかい!? しかも、杖なしの無言で!? いったい、誰に習ったんだ!?」

 

 どうやら、呼び寄せ呪文は4年生になってから習うんだって。でもさ、僕は子どものときから出来たよ? それも、独学でね。そんなに難しいことなのかな?

 

 そのあと、ヴァイオリンを弾いた。

 スラグホーン教授は魔法の力を借りずに演奏していたことが不思議でしかたなかったらしい。マルフォイ先輩からも聞いたけど、魔法界では一人の演奏家が何種類もの楽器を同時に弾くことが一般的みたいで、ひとつの楽器しか弾かないことは稀らしい。教授も「ヴァイオリンだけで、これほどまでに魅力的な音色を奏でられるとは!!」って感動していたよ。

 

「トム、私の主催する『スラグ・クラブ』に顔を出してみないかい?」

 

 帰り際、スラグホーン教授が誘ってきた。

 断るのも悪いから、今度、一度だけ行ってみることにする。

 

 『スラグ・クラブ』っていうのは、スラグホーン教授のお気に入りが集まったパーティなんだってさ。マルフォイ先輩は、僕が誘われたことを知って凄く喜んでいたよ。

 

「君が選ばれるのは当然さ」

 

 ってさ。

 

 あとは、他にも「杖十字会」っていう決闘クラブにも誘われた。こっちは、ほとんど拉致同然だったけどね。大広間で夕食を取ろうとしたらさ、グリフィンドール寮の上級生がいきなり来たんだ。アイリス、覚えている? 僕たちが「闇の魔術に対する防衛術」の授業を見学したとき、「まね妖怪」を一撃で倒した人だよ。アラスター・ムーディって名前らしいんだけど、その人が僕の襟をつかんで有無を言わさず強引に連れ出したんだ。逃げようとしたけど、この人意外と腕力が強くて抜け出せなかった。杖なしの魔法で抵抗しても良かったけど、入学して一週間もしないうちにトラブル起こしたくないから我慢したよ。

 

「キャスパー、こいつだ! 去年、授業を見学に来た新入生だ!!」

 

 鐘楼塔に着いたとき、僕はやっと解放された。

 鐘楼塔のホールには、何人かの生徒がまばらにいて、互いに雑談したり、決闘みたいなことをしたりしていた。

 

「キャスパー、こいつは見どころがある。俺には分かる!」

「アラスター、いきなりは困る。今日執り行う決闘の組み合わせは既に決まっているんだ」

 

 ムーディ先輩が話しかけたのは、スリザリンの7年生で主席のキャスパー・クラウチ先輩だった。厳めしい顔つきの人で、学生なのに役人みたいな風格がある人。少しでもズルした人を見つけると、同じスリザリン生でも躊躇なく減点するような先輩だ。もっとも、許嫁で同い年のカリス・ブラック先輩にはデレデレなんだ。まえに夜中にトイレで起きたときに見たんだけど、深夜の談話室のソファーで膝枕してもらっていたよ。

 

 ただ……僕がムーディ先輩に拉致されたとき、カリス・ブラック先輩は不在だったから、通常運転の厳ついクラウチ先輩だった。羽ペンで対戦表が書かれたノートをとんとんと叩きながら、彼は呆れたように大きくため息をついてたよ。

 

「アラスター……リドルを無理やり連れてきたな。いかに我がクラブの決闘チャンピオンとはいえど、規律は守ってもらいたい。グリフィンドールから減点するぞ」

「いいから、とにかく戦わせてみろ。そうだな……セプティマスはどうだ?」

「……ついに狂ったか? リドルは新入生だぞ? 3年生は駄目だ。せめて、同じ学年の……スクリムジョールにしとけ」

 

 クラウチ先輩が言ったけど、ムーディ先輩は大口をあけて笑った。

 

「スクリムジョールは無理だ! 相手にもならん!」

「ちょっと待ってください!」

 

 だけど、それに怒ったのはスクリムジョールだ。……ダイアゴン横丁に行ったとき、ちょっとだけ話しただろ? あのとき、洋裁店で会った気の合わない奴のことだ。こいつは望み通りグリフィンドールに組み分けされて、僕を目の敵にしてくる。このときも、雄叫びを上げながら猛突進してきた。

 

「こいつはマグルで育ったんですよ? いかに才能があったとしても、僕の方が勝つに決まってる!」

「スクリムジョール……そこまで言うなら、やってみろ」

 

 結果?

 僕の完勝さ。スクリムジョールが魔法を唱える前に、手で払いのけてやった。本当は魔法の一つ唱えたら良かったのだろうけど、まだ戦闘向きの魔法は一切習ってなかったから……そうするしかなかったんだ。スクリムジョールもクラウチ先輩も周りにいた生徒たちも何が起きたのか分からず、ぽかんとしていたよ。そのなかで、ムーディ先輩だけが狂ったように笑っていた。

 

「キャスパー、見たか!? あれは『デパルソ』だ! 無言呪文だぞ! しかも、杖なしで!! これは鍛えれば、一流の闇祓いになる!! グリンデルバルドすら軽く倒せるかもしれん!! ああ、スリザリンなのが惜しい! グリフィンドール生なら毎日鍛えてやったものを……!!」

 

 僕、このときほどスリザリンで良かったと思ったことはなかったよ。

 グリフィンドールは暑苦しい連中の集まりなのかもしれない。もちろん、それなりに仲良くやるから安心して。問題は起こさないようにするから。

 

 他には……友だちはいないけど、2人の同級生と一緒に行動している。

 

 アルファード・ブラックは気さくな奴で、1つ1つの身振りが大げさだ。

 一つ上の姉の前では借りてきた猫のようにおとなしいけど、僕たち1年生だけになると一変して明るくなる。なんの用もなくても、とにかく話しかけてきて鬱陶しい。こいつが無理やり「一緒に行動しよう!」と誘ってくるから、僕は一人にならずにすんでいる。でも、かなり五月蠅い。

 アントニン・ドロホフはアルファード・ブラックとは真逆。

 なにも話さない。というか、こいつの声を聞いたことがない。とにかく無口で押し黙っている。杖で魔法を唱えるときも、僕には聞こえないくらい小さな声なんだ。だけど、こいつは杖を振る速度がとにかく速い。僕を除けば、間違いなく一番だ。ドロホフこそ「杖十字会」にぴったりだ。そうだ! 今度こいつを一緒に連れて行こう。ドロホフがムーディ先輩の気を引けば、僕が杖十字会を抜けられて、ヴァイオリンを練習する時間を少し取り戻せるかもしれない!

 

 

 

 以上が、この一週間の学校生活。

 とても充実した学校生活を送っていることが、しっかり伝わったと思う。もちろん、ヴァイオリンの練習や普段の予習復習も疎かにしていないから安心して欲しい。

 特に、ヴァイオリンの練習はスラグホーン教授が特別に空き教室を手配してくれている。寮の部屋だと集中できないからね。かなりの頻度で上級生が聴きに来るし……。

 

 アイリスは大丈夫? うっかりして怪我とかしてない? なにかあったら、すぐに連絡して!

 エンラクにもよろしく。

 

 

 トム・マールヴォロ・リドル。

 

 

P.S.

 

 これが、ウタの記念すべき初の郵便配達だよ。

 返事の手紙は、ウタの足に巻きつけて。きっと、それで届くはずだ。

 

 朝食の時間が終わる頃、大広間には大量のフクロウが群れを成して押し寄せるから大変だよ。それまでに食事を終わらせないといけない。だって、フクロウたちが落し物をしてくるからね。

 

 

 

 

 

 

●1938年 9月×日

 

 トムからの手紙が届いた!

 朝、食事の支度をしているとき、こんこんっと窓を叩く音がしたので目を向けると、窓の向こうにフクロウのウタがいたのだ。窓を開けると、ぴょんっと窓枠に乗って部屋に入ってくる。とりあえず、スコットランドからの長旅で疲れているだろうからコップに水を用意してあげれば、とても美味しそうに飲んでいた。

 

 手紙を読む限り、充実した学校生活を送れているようでなによりだ。なんだか知っている名前がちらほら書かれていて、やっぱりハリポタの世界!! って興奮してしまった。

 

 早く返事を書いてあげなくっちゃ!!

 そう思って便箋を取り出したとき、ラジオから不穏なニュースが流れてくる。ドイツがチェコスロヴァキアへ進軍するという噂は元から流れていたけど、首相が問題解決のために渡独したとのことだった。

 

 もしかして、これが噂のミュンヘン協定……?

 だとしたら、そろそろ本格的に第二次世界大戦が始まる……?

 

 

 私も……そろそろ、本格的に心づもりをしないといけない。ロンドンが空襲される事実は知っているから、大事な荷物だけでも疎開させるか貸金庫に預ける計画を立てなくちゃ。

 それから、裏手の庭に防空壕を掘った方がいいのかな? さすがに、それは気が早過ぎる? うーん、でも早いに越したことはないし……。

 

 ああ、でも……トムがホグワーツに行って良かった。ホグワーツなら安全だし、空襲の心配もないだろう。空襲の時期が夏休みに被ったら……そのときは、ヘレンおばあちゃんの家へ行ってもらうとしよう。

 

 他に、私にできることはないかな……?

 

 なにも思いつかない。

 とにかく、いまはお金を稼ごう。

 トムも新学期を頑張っているんだ。私だって、ばしばし頑張って仕事するぞー!!

 

 

 

 

 

 





ホグワーツ在籍生徒をまとめてみました。
出生年齢が明らかになっていない登場人物につきましては、作者の独断と偏見による年齢操作を行っております。
現時点における登場人物のみですが、よろしければ参考までにお読みください!

<蛇寮>
1年生
トム・リドル、アルファード・ブラック、アントニン・ドロホフ、(他一名)
3年生
アブラクサス・マルフォイ
7年生
カリス・ブラック、キャスパー・クラウチ

<獅子寮>
1年生
ルーファス・スクリムジョール
3年生
セプティマス・ウィーズリー
4年生
アラスター・ムーディ

<鷲寮>
5年生
鷹のような目をした少女

(初投稿時、カリス・ブラックと結婚するクラウチ氏がキャスパー・クラウチではなく、バーテミウス・クラウチ・シニアと勘違いしてしまいました。本当に申し訳ありません。現在は変更してあります。今後、気をつけようと思います)


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